●負の心解放する時
『……俺なんて、俺なんてもう生きていても仕方ないんだ……だからもう、俺の命なんて……』
とある自殺名所の一角で……何もかもに絶望した表情を浮かべている成年が一人。
樹にくくりつけた首に掛ける輪を手にし……そこに首を通そうとした所で。
「……待ちなさい!」
そこにやってきたのは、坊主頭の僧服に身を包んだお坊さん。
彼の身を羽交い締めにする様にして、その木の元から引き離すと。
『死ぬのにはまだ早すぎます。まだ貴方には未来があるではないですか!』
『五月蠅い五月蠅い……俺は、俺はもう、やっていけねぇ……』
ぐっと拳を握りしめ、涙を流す彼に対し……お坊さんは。
『そうですか……ならば、私が解決策を提示しましょう。そう……これを使うのです』
それで……お坊さんが差し出したのは、ナイフ。
『さぁ、これで……あなたの恨む相手に復讐するのです。復讐すれば、そのオモイは晴れて平和に生きられることでしょう?』
優しい温和な微笑みを浮かべるお坊さん。
言っている事が大きく間違っているのに対し……疑問を抱く事も無く、彼はナイフを握りしめるのであった。
「お、皆、集まったみたいだなそれじゃ早速だが説明始めさせて貰うぜ!」
神崎・ヤマトは、集まった皆を見渡すと共に説明を早速始める。
「今回俺が予測したのは、ソロモンの悪魔に連なるダークネスの気配を感知したんだ。それを倒してきて欲しいんだ!」
「勿論ダークネスは、バベルの鎖の力による予知があるが、俺の予測した未来に従えばその予知をかいくぐり、ダークネスに迫る事が出来る筈だ!」
「ダークネス自身は強力で危険な敵ではあるが、ダークネスを灼滅する事こそ灼滅者の使命……厳しい戦いになるかもしれないが、宜しく頼むな!」
そして続けてヤマトは、詳しい情報を説明する。
「まぁダークネスとは言ったが、皆が相手をする事になるのはダークネスではない。正式には強化された一般人達、と言ったところだ」
「とはいえ強化一般人の中にいる、彼らを先導する者は一般人と言えども強力な相手……武器はナイフという何の変哲も無いモノだが、その武器を鋭く皆の致命部へと狙い澄まして攻撃してくると思う」
「また、彼に気づかれずに仕掛けるのは中々むずかしいところなのだが……彼が説法をしている所に仕掛けるのがポイントになるだろう。その時を待ってお寺の傍らに待ち構える事で、きっと彼の虚を付けるはずだ!」
そして、最後にヤマトは。
「いいか? 一般人をこうして悪の道へと誘う、ソロモンの悪魔の使い……見逃すことは出来ないだろう。その為にも皆の力を貸してくれ、宜しく頼むぜ!」
と言って、皆を送り出したのである。
参加者 | |
---|---|
セリル・メルトース(ブリザードアクトレス・d00671) |
浦波・梗香(フクロウの目を持つ女・d00839) |
アンカー・バールフリット(ルーンマスター・d01153) |
星詠・雪風(姫蛍・d01172) |
逆霧・夜兎(深闇・d02876) |
メフィア・レインジア(ガールビハインドユー・d03433) |
碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041) |
弓塚・紫信(煌々星の魔法使い・d10845) |
●悪を説く者
とある自殺名所となってしまったお寺へと向かう灼滅者達。
並ぶ墓は何処か寂しげにたたずみ、そして空は空しく晴れ渡る。
「……復讐、か……」
一言、ぽつりと呟くセリル・メルトース(ブリザードアクトレス・d00671)。
復讐……恨みを持つ者に対し、仕返しをする事。
その心は人としては理解出来なくもない。
例えば自分の大事な人を殺されたりすれば……そう思う心を抱く事だってあるだろう。
「復讐……否定はしない。たとえばだが、私だって妹を殺されたら、相手のことは八つ裂きにしてでも恨みは晴れないだろうしな……」
「ええ。憎しみだけで相手を殺してしまう。それもまた……人間の持った業というものなのかもしれませんね……」
「そう。僕も否定も、肯定もしない。したければ好きにすれば良い。その結末を、彼は背負えるのだろうか? ……きっと、終えないだろう。そして自暴自棄に陥るのだろうね」
浦波・梗香(フクロウの目を持つ女・d00839)に、星詠・雪風(姫蛍・d01172)とセリルが悲しげに呟く一言。
それにアンカー・バールフリット(ルーンマスター・d01153)も。
「人には表と裏の顔があるもの。そして今回のお坊さんは、裏の心しかない……ソロモンの悪魔に囚われた男、という訳なのかもしれませんね」
「……ええ」
アンカーが雪風を励ますように微笑む。そして。
「しかし復讐を推奨する坊さんなんてとんでもねーなぁ……自殺しようとしている奴に説法するのはいいけど、復讐勧めるってのは、仏の考えとしては大きく間違ってるだろうに……」
「全くです。あの思想……完全に間違っているという訳ではないのでしょうけれど、極論に走ってしまわれたのですね……」
「全く坊主が外道な事をするよね破門だね、破戒だね。そんな悪い奴は懲らしめないとね♪」
逆霧・夜兎(深闇・d02876)が肩を竦めて溜息をつくと、ユニスと瑠璃もそんな言葉を加える。
そして碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041)と、弓塚・紫信(煌々星の魔法使い・d10845)も。
「ああ。説法が聞いて呆れる。死に急ぐ者を止めたとしても、それでは意味が無いだろうに」
「……人の心や業を良い方に導く存在である筈のお坊さんの姿を借り、人々の心の闇につけこみ、復讐心を煽るなんて、絶対許せません……」
と怒りを孕んだ声を。
……でも、それこそが彼、ソロモンの悪魔の狙う感情なのかもしれない。
だから。
「……ともかくその坊さんに、因果応報って事を説法してやらねーとな。口じゃなくて、実力行使だがな」
「ええ。起ころうとしている悲劇は食い止めなければならない。その為に、私達は此処に居る」
「そうだね……何も省みず、ただ刃を振るうというのならばそれは復讐でも何でもない。ただの悪夢、だから断ち切る」
夜兎、梗香、セリルがそれぞれ言葉を紡ぐと、クリス・ケイフォード(小学生エクソシスト・dn0013)とメフィア・レインジア(ガールビハインドユー・d03433)が。
「そうだね。それじゃあ行こうか……必ず、ここで復讐は食い止めないといけないからね」
「うん。それじゃ打ち合わせた通り、ボクを初めとしたお坊さんを抑える班と、彼が出現させる一般人に対峙する班に分かれるという事でいいよね?」
「ああ、OKだ」
梗香がこくりと頷き、他の仲間達も頷くと。
「それじゃみんな、周りには注意を払っていくよ。自殺志願者が現われる前にこっちがみつかったら、元も子も無いからね」
「そうですね……それじゃこちらに」
セリルに頷きながら、雪風に手を差し伸べるアンカー。
雪風はそんな彼にびくっ、として、オロオロとうろたえてしまうのであった。
●悪から解かれ
そして灼滅者達が、お寺の中に隠れて数時間。
すっかり時は丑三つ時……元々余り居たくない場所の雰囲気ではあるが、更に恐ろし気な雰囲気を醸し出す墓場の地。
そして……そこに人の影が現われる。
みると……何処か思い詰めた顔をした青年。
何もかもに絶望し、後先をも考えられないような、追い詰められた様な表情。
『……もう、だめだ……俺なんて、俺なんて…………』
そんな言葉を譫言のように呟きながら、青年は墓場の傍らにある樹の元へ。
その樹の幹に縄を結び、垂らした方にも輪を作る。
……首つり用の輪、それを見て、一度、二度躊躇するような動きを見せるものの。
『いいや……俺なんて、生きてても仕方ねえ……』
……と、絶望の心をはき出すと、背を伸ばし、その首輪に首を掛ける……。
『待ちなさい!』
そこに現われる……僧服に身を包んだ男。
これもまた、お坊さんにしては少し若い男……30代後半といったところ。
自殺志願者はその声に驚き……ぎりぎりの所で首を掛けずに踏みとどまる。
そしてお坊さんの方へと振り返り……安堵した様で、それでいて……残念そうな表情を浮かべる。
『……死に急ぐのは罪です。まだ早すぎます。貴方には未来がまだあるのではないですか?』
『……そんな事……無い』
『どうしてその様な悲しい事を言うのですか? 何か……思う所でもあるのですか?』
『……五月蠅い。五月蠅い……!』
お坊さんの言葉を聞きたくないかの様に身を震わせる……が、お坊さんの力は相当強い様で、ふりほどく事は出来ない。
そして、お坊さんは努めて優しい声で彼に。
『……何か怒りを覚えていますね? 何か……恨みがある人でも居るのですか? 裏切られた人でも居るのですか?』
『……』
『そうですか……わかりました。そんな貴方に最良の解決方法を、私は知っています』
『……何? 解決法……?』
『ええ……コレです。コレを使うのです……これで、あなたの恨みを抱いた相手に対し復讐するのです。復讐すれば、その思いはきっと晴れる。晴れれば平和に生きられるのでは無いですか?』
『……』
……そこに。
「……お坊さん。よく考えたね、死ぬ程困窮した人に、選択肢と力を与えることで、指向性を加え利用する。悪くない『悪い』手だよ」
「ええ……ですがありがたい説法の場は仏の教えを説く場です。復讐心を解く場では決してありません」
メフィアと紫信の二人が先ずは現われ、声を掛ける。
そんな二人の言葉に、邪魔が入った、とばかりに一瞬睨み付けるお坊さん。
でもすぐに、平静の表情になると。
『貴方たちは何ですか? 私は彼を救うが為にしているだけの事。復讐一つで彼が救われるのなら、安いものでしょう?』
「確かに彼の気は晴れるかも知れない。でも……相手はどうなの? きっとキミも、殺したことで一時は気が晴れるかも知れないけど……今後、その枷をずっと背負い続けられるの?」
「そうだ。復讐を否定はしない。しかしそのナイフで、相手の喉元をカッ裂いた所で、それが『勝った』事にはならないだろう? そんな事では永久に敗者の儘だ。それで良いのか?」
セリルも、梗香も言葉を加える。
……その自殺志願者の男は、言葉を紡げない。答えが……見つからない。
そんな彼に対し、お坊さんはその頭を軽く撫でながら。
『彼らの言葉を聞く必要はありません。教えに背く者は……敵なのです。今ここで、全てを倒せば良いのです』
と言うと、お坊さんは手を挙げる。
そうすると、お坊さんの後方から掛けて来た四人の男達が現われて……お坊さんを護るが如く前に立ちふさがる。
「……ならあえて、その失敗した手を証明してあげるよ」
「ええ。真白なる夢を、此処に」
「……Hope the Twinkle Stars……神のご加護が、ありますように……!」
「毘沙丸っ、ボクと一緒に戦ってっ!」
メフィアに頷き、セリル、紫信に雪風がそれぞれスレイヤーカードを解除すると共に、サーヴァントと共に戦闘態勢。
他の仲間らも解除し、戦闘態勢。
そして初手、お坊さんの元へと駆けるセリルとメフィア。
当然お坊さんに対しては、その周りの強化一般人達が立ち塞がろうとするが。
「おっと、大人しくして貰おうか!」
「まっとうな人の姿をかり、人間の心の隙間に入り込もうだなんて、許せません!! そこから動かないで居て貰いますよ!」
と、夜兎と紫信が五星結界符で先ずは敵を足留め。
一般人が動けなくなるのと同時に、その横から二人が突き抜けていって、お坊さんの元へ接近する。
そして接近すると共に、まずはフォースブレイクとトラウマナックルで殴りかかる。
そして瑠璃は、クリスに。
「一番厄介なのはお坊さんみたいだから、あいつから目を離しちゃダメだよ。いい、アイツの動きで妖しいのがあったらみんなに伝えてね。君の声で、みんなが動いてくれると思うから。一人じゃない、仲間と一緒、連携しなくちゃね☆」
といいながらセイクリッドクロスで武器封じをお坊さんに。
一方、周りの一般人達に対して。
「復讐をしたくなる気持ちは分かるのです……だけど、憎いから殺してしまえ、だと人としての貴方達も、また死ぬ事になるのですよ……」
「人を導く説法で殺人を唆すなど言語道断だ。弱り切った人間に何て事を吹き込んでくれるんだ全く……その腐れきった考え諸共、消し去ってくれる」
雪風、爾夜が声を上げると、クリス、梗香、そして玉兎、司、ヴァンらも一般人に向けて攻撃。
無論、相手は強化されているとはいえ一般人……下手に強力な攻撃を加えると死んでしまう可能性があるから、その体力の状況を見極めながら、状況によっては手加減攻撃を加える。
対し強化一般人は、反撃の猛攻を仕掛けてくるのだが。
「……」
黒いロングコートと、フードを被った男が、盾の如く攻撃を受け止める。
「あ、あの方の回復は私が。お坊さんの攻撃の回復をお願いします」
「判った。ナノナノ、回復してくれ!」
『ナノ!』
夜兎にこくりと頷いたナノナノ。
お坊さんは鋭く致命部を突いた攻撃を仕掛けてくるが、ナノナノがセリル、メフィアの二人の近くで回復を行う。
そして2ターン、3ターンと……セリルとメフィアがお坊さんからの攻撃を受け止める。
対し一般人は完全に集中させる琴は出来ないまでも、出来る限りフードの男が攻撃を受け止め、残る仲間達は攻撃に傾注する事でダメージの総量を増やして……一般人を一人、また一人と対応。
無論、一般人に対する攻撃は手加減攻撃……気絶に陥ったらば、次なる敵へとシフトしていく。
そして……六ターンの終わり。
「善なる者を救い給え」
と爾夜の一撃が致命傷を与え、その後の雪風の手加減攻撃によって最後の一般人が倒されると、残るは後一人……お坊さんのみ。
「……良し。後一人だ。もう手加減する必要は無いな」
「うん……そうだね」
爾夜に頷くクリス。
そして灼滅者達は完全な包囲網でお坊さんに対峙。
お坊さんは。
『くっ……罰当たりな! 私を殺すのは、罪深き事ですよ!!』
「……その言葉、そっくりそのまま、キミに返すよ。罰当たりなのは、お坊さんという立場を利用して人を欺し、復讐をそそのかすキミだってね」
メフィアの威声……周囲の仲間らも、その声に呼応する様に。
「全くだ。最近の仏の教えは随分と物騒だという事になるぜ?」
「そうだ。仏は復讐など、教えはしない筈だ……さぁ、覚悟して貰う。地形、気流、敵の動き……今だ!」
梗香が狙い抜いたバスタービームの一撃を撃ち抜く。
その一撃が、ナイフを吹き飛ばすと……。
「……因果応報、ってな。さぁ……これでトドメだ」
夜兎が斬影刃で……その身へ斬撃を喰らわし……断末魔の声を、墓場に響き渡らせるのであった。
●善の言葉
「……オヤスミ。悪夢は此処までだよ」
……消えゆくお坊さんに、そう言葉を投げかけるセリル。
そして復讐決行という事にはならず、気絶でその場に伸びている一般人達を眺めながら…。
「……お坊さん。あなたのミスは僕らのような奴らが君の邪魔をする場合、彼らに『生きる』チャンスを与えてしまうという事。キミの行動が彼らの死を覆した……良い悪魔の手先は、良いことはしないものなのさ」
とメフィアが……消えゆくお坊さんへと言い放つ。
……そして、その後暫し……。
手加減攻撃で、死には至らず生き延びた一般人達が目を覚ましていく。
そんな彼らは……まだ自分達のしてきた事を良く判って居ない。
彼らに櫺子が、まずは……プラチナチケットを使い、同じ悲しみを背負った仲間と思わせて声を掛ける。
そして、クリスも。
「……もう、大丈夫。キミ達はもう……復讐の心に苛まれ、人を殺すような事などしない筈。もう……大丈夫だよ……」
優しく、語りかけながら改心の光。
……そんな二人の行動に続けて、紫信、爾夜が。
「……貴方達は、あのお坊さんに欺されていただけです。でも……今、貴方たちに言いたい。人は傷ついて悲しみを知り、願望を見て、始めてだれかに優しく出来る……復讐に生きるよりも、その助かった命を自分自身と、貴方達が愛する人のために……生きて下さい」
「そうだ。復讐意外にも、道は必ずある筈だ。生きていく道がな」
……そんな言葉を投げかけて……彼らがどう思うかは、判らない。
この先もまた絶望し、復讐をしてしまうのかもしれない……それこそ、人の弱い心。
だからこそ、何度も、何度も……絶望し、復活し、強く生きていかなければならない。
「……今日の事は、気に病まないで。大丈夫……キミ達なら、絶対に強く生きていけるはず。僕は、そう信じるよ」
再度クリスは、彼らに声を掛けて……そして、傷ついたところを包帯などで応急処置をして。
「それじゃ……私達は帰るよ。皆も、心が落ち着いたら、気をつけて帰って下さいね」
アンカーがそう言い残し、灼滅者達は……お寺を後にしたのである。
作者:幾夜緋琉 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年12月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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