別府の地獄に迫る炎

    作者:泰月

    ●炎の気配
    「みんな、別府温泉まで行って来て」
     教室に集まった灼滅者達を出迎えたのは、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)のそんな一言だった。
    「聞いてる人もいるかな。別府温泉の辺りでイフリートと思われる目撃情報が多発してるんだ」
     全身に灼熱の炎を纏う神話の存在、幻獣種、イフリート。
     破壊的な攻撃力と強い殺戮欲を持つ危険な存在。
    「でも、ちょっと困った事になっててね」
     難しい顔になって続けるまりん。
    「鶴見岳のマグマエネルギーを吸収した強い力を持つイフリートが復活しようとしているらしいの。その影響なのかはっきり判らないんだけど……サイキックアブソーバーで出現の予測は出来ても、予知が出現直前にならないと出来そうにないの」
     原因の真偽はともかく、これまでのダークネス事件と同じ様な予知が出来ないのは事実。
    「予知してから学園から向かったら、とても間に合わない。だから、みんなには別府温泉で待機してて欲しいんだよ」
     出現予測と目撃情報を合わせれば、敵が現れるおおよその地域はわかる。ならば、先んじて現地に灼滅者を派遣し迎撃可能な警戒体制を作れば良い、と言う事だ。

    「みんなに待機してて貰うのは、別府温泉のこの辺りだよ」
     と、まりんが黒板に貼った別府温泉マップの一点を指差す。
     そこは別府八湯が一つ鉄輪温泉。
    「現れるイフリートは1体。予知が出来ないから詳細はまだ不明なの。眷属は連れていないから、そこまで強力な個体じゃないと思うけど……」
     相手はダークネス。もし温泉街に入ってしまえば被害は免れない。
     予知がギリギリになると言う、これまでの事件とは異なる難しさのある任務だが、温泉街に被害を出さないためには、戦うしかない。
    「予知出来たら、すぐにみんなに電話で知らせるね」
     携帯電話を忘れちゃダメだよ、と付け加えるまりん。
    「でもね。良い事もあるんだよ」
     これまで難しい顔をしていたまりんが、普段と同じ笑顔を浮かべる。
    「イフリートがいつ出現するかまだ、判らないよ。着いたその日かもしれないし、数日後かもしれないの。だから、敵が現れるまでは温泉街で自由行動だよ! 温泉を堪能してても良いし、宿でごろごろしてても良いし、温泉街を観光してても良いし。食べる方だと、みんなに行って貰う鉄輪温泉は温泉の蒸気で調理する『地獄蒸し』が有名だね。うん、きっと退屈しないで済むはずだよ」
     旅行好きモード全開で一気にまくし立てるまりん。
     まりんの顔には、私も行ってみたい、とでっかく書いてあったとかなかったとか。
    「連絡は携帯電話でするから、遠出するとか、圏外になるような場所にいくとか、電源を切るとか、あと携帯で長話もしないでね。あ、携帯が防水じゃない人には、これ」
     言いながらまりんが掲げて見せたのは、携帯電話用防水ケース。各種取り揃えております。これで温泉の中でも安心。
    「それじゃあ、みんな行ってらっしゃい」
     いざ、湯煙と戦いの待つ地へ。


    参加者
    水月・鏡花(鏡写しの双月・d00750)
    結島・静菜(高校生神薙使い・d02781)
    九重・風貴(緋風の奏者・d02883)
    鷲之目・零(静かなる弾丸・d03570)
    三日尻・ローランド(王剣の鞘・d04391)
    二階堂・空(高校生シャドウハンター・d05690)
    神爪・九狼(不滅の灼光・d08763)
    有馬・由乃(歌詠・d09414)

    ■リプレイ

    ●地獄と温泉とプリン
     別府温泉。源泉数、湧出量ともに日本一を誇る温泉地である。数百にのぼる温泉を総称して別府八湯とも呼ばれる。
     その一つ、鉄輪温泉を守るべく訪れた八人の灼滅者達。とは言え、敵の出現がいつになるか判らないので。

     鉄輪温泉滞在一日目。
     周囲には浴衣姿で歩く人が少なくなく、湯煙と硫黄の独特の臭いが漂う。
    「温泉街に来たという感じがしますね」
     思わず口に出した結島・静菜(高校生神薙使い・d02781)でなくとも、同じ感想を抱く者は多いだろう。
     鉄輪温泉に着いた8人は、宿に荷物を置いてまず観光に出ていた。鉄輪温泉は、別府地獄めぐりの中心地でもある。地獄と名付けた源泉のうち、国の名勝に指定されているものが6つもこの地に集中している。海に似たコバルトブルーや緑白色の熱水をたたえた池など、見所たくさんだ。
    「直前まで予知できないなんて不思議よね。でもそのおかげで観光出来ると思えばいいのかしら?」
     これまでとは勝手の違う事態に水月・鏡花(鏡写しの双月・d00750)は首を傾げつつ歩く。とは言え、温泉は彼女の密かな趣味である。この役得に悪い気はしていない。
    「折角の機会ですし、楽しみたいです」
     旅行の経験自体が少ない有馬・由乃(歌詠・d09414)は、ぶらり再発見を使ったり旅行雑誌でこっそり下調べをして来た程度には、この機会を全力で楽しむつもりだ。
     静菜が持っている地図にも地獄以外にランキング情報を基に調べ上げたお土産屋さんが書き込まれているし、二階堂・空(高校生シャドウハンター・d05690)も、甘いもの好きなクラブの皆に、なにかお菓子系のお土産を買っていこうかと思案中。
    「戦いの前にはしゃげる程神経太くないんですが」
     と言っていた神爪・九狼(不滅の灼光・d08763)も、腹ごしらえくらいはしてもいいよな、と立ち寄った店で買った豚まんをぱくつきながら観光について回っていた。
     そして夜。空と九狼は静かに温泉を堪能していたのだが。
    「えくすかりばー、ここは公共の場だからそーゆー特殊ぷれいは2人きりの時にね?」
     他の客がいないのを良い事に、ナノナノと2人の世界に突入している三日尻・ローランド(王剣の鞘・d04391)の姿と。
    「野郎と裸の付き合いなんて何の為の温泉か!」
     温泉が男女別と言う現実に手ぬぐいをパーンと叩きつけ悔しがる九重・風貴(緋風の奏者・d02883)の姿があった。
     学生が泊まれる宿ですから。残念。
    「あー……生き返る。温泉って、日本の心だよね」
     温泉に浸かればすぐに、風貴の悔しさも湯に溶けていく。
     一方の女湯は実にまったり平穏な時間が流れていたと言う。
    「あの筐体は……。先に、部屋に戻っててください」
     昼間は言葉少なに皆に付き合う形で行動していた鷲之目・零(静かなる弾丸・d03570)だが、湯上りには1人宿のゲームコーナーに寄り道をする姿があった。
     こうして、程度の差はあれ、それぞれにこの骨休めの機会を満喫しながら夜は更けていく。

     鉄輪温泉滞在二日目。
     地獄蒸しとは、温泉の蒸気で食材を蒸す調理法である。まりんもお勧めの名物だ。好きな食材を持ち込んで調理出来る店もある。
    「魚介類と、デザートにプリンも良さそうね」
    「私もプリンと、あとお芋も食べたいです」
    「プリンいいな!」
     鏡花と由乃の会話に甘党の風貴が反応する場面もあり、賑やかに買い出しを済ませれば調理タイム。
     地獄釜と言う蒸気を利用した調理器具に食材を乗せてしばし待てば、ほっこり蒸し上がった魚介類にお芋や椎茸、ネギなどの野菜。プリンはデザートだからもうちょっと後で。
    「これは、お土産には持って帰れないかな」
     お土産のことを気にしつつ、美味しく堪能する静菜。
    「お芋、ほくほくです」
     由乃も自ら選んだ芋にご満悦。
    「ん。美味しいですね」
     零の表情は変わらないが、箸の進みの早さに感情が現れている。
    「地獄蒸しも、なかなかいけるわね」
     鏡花もこの味には満足がいったようだ。
    「じごくむしうめぇ」
     風貴は、頬いっぱいにしてもぐもぐ。
    「確かにうまいな」
     食べる勢いは、九狼も負けていない。ぱくぱく。
    「まりんが勧めるのもわかるな」
     空も2人ほどではないにせよ、良く食べている。
    「こうして作って食べるのも楽しいねえ」
     温泉と買い物を楽しむつもりでいたローランドも地獄蒸しを楽しんでいる。
     地獄蒸しに舌鼓を打ち、デザートのプリンも堪能し食欲が満たされれば、次は買い物である。
    「お土産にプリンは外せませんよね」
    「俺もプリン買ってくかな。クラブの皆に」
    「もうちょっと腹ごしらえするかな」
    「お土産、このデッキブラシにしよう」
     お土産や買い食い、思い思いに温泉街を巡ればいつしか日が暮れて。
     今日も彼らは温泉を堪能する。
    「ふぅ……今の季節は温泉が一番ね」
     鏡花は温泉を堪能しつつも、携帯をこまめにチェック。連絡がないのでまた谷間へしまう……て、どこに携帯入れてんですか。
    「寒さも本格化してますし、ゆっくり暖まりたいところです」
     零は肩までしっかりとお湯に浸かって温泉の暖かさを堪能。
    「でもあまり浸かっているとのぼせそうです……」
     由乃も同様に肩まで浸かって、ぽやん。
    「いざという時に動けないとダメですね。ほどほどに上がりましょう」
     女性陣が温泉から部屋に戻れば、既に男子達も部屋に戻っていた。
    「なぁ、明日はどうする?」
    「そうですね。もう一度地獄蒸し行きますか」
     すっかり羽を伸ばしきって、翌日の予定を相談する灼滅者達。こうして二日目の夜も更けて。
     翌朝、まだ日が昇ったばかりの頃、響く携帯電話の着信音。
    『朝早くからごめんね! イフリートが来るよ!』
     携帯電話の向こうから、危険を知らせるまりんの声が聞こえた。

    ●炎との邂逅
     まりんが告げた話をまとめれば、要点は次のようなものだった。
     敵の容姿は炎を纏った歪み捻れた2本角の獅子のような巨獣。
     イフリートは北西から鉄輪温泉を目指し南東へ移動を開始。灼滅者達が真っ直ぐ北西に向かえば、鉄輪温泉北西部にある名前もない小さな湖の近くで迎え撃てるだろう。
     これらの連絡を受けた灼滅者達は、まず現在地からの北西へのルート確認を確認した。
    「山越えだね」
     ローランドが持参したモバイルPCを見て呟く。画面に出た地図には静菜がスーパーGPSで現在地も表示させており、北西に向かうなら山林を真っ直ぐ突っ切るのが最短であるのは見て明らかだった。
     元より現場へ走って向かうつもりのメンバーも多く、彼らは宿を出てすぐにその本領を発揮することにした。
    「Macht des Urteils!」
    「今を春べと咲くやこの花」
     鏡花が高らかに解除コードを唱え、由乃は対称的に穏やかに唱える。2人に続き、それぞれの解除コードを唱えた灼滅者達は、北西へと走り出す。
     朝靄も消えやらぬ中、別府の山林を灼滅者達は急いで駆け抜ける。
     方位を確認しながら走り続けると、突如、木々が開けた場所に出た。
    「見つけた!」
     開けた視界の先に見えた、炎を纏った巨獣の姿に空が声を上げる。遠目にもわかる2本の角を持った、その姿形はまりんが電話で告げた姿形と酷似している。
    「間違いなさそうですね。丁度開けてますし、ここで迎え撃ちましょう」
     舗装された道ではないし傾斜もあるが、戦闘の邪魔になるほどではなく、開けていて広さもある。零が告げる通り、敢えて他の場所に誘導する必要はないだろう。
     仲間達が頷くのを確認した零の身体から殺気が放出され、鏡花のESPが戦場の音を遮断する。先に温泉街を抜けた所で風貴も殺気を放っており、一般人が近づく危険性はかなり減らせたと言える。
    「ほんっと、よく縁があるねぇ……ぶっ潰してやるよ」
     迫り来る自らのルーツの宿敵の姿と熱に、風貴は戦いへの意欲を昂ぶらせる。
    「サクッと仕掛けるか」
     九狼にとってもルーツの宿敵であるが、彼は戦いを目前に控えても余裕な態度を崩さない。
     2人の少し後ろ、中衛に立つ由乃は耳につけた天然石のピアスに触れる。彼女がいつも行っているおまじない。
    「向こうも気づいたみたいですね」
     最前に立つ静菜の言葉通り、僅かに進路を変えて灼滅者へ角を突き立てんばかりに直進してくるイフリートの姿。
     その殺戮欲を満たす相手に灼滅者達を選んだか。
     鉄輪温泉を守る戦いが、始まる。

    ●炎の末路
     敵はイフリート1体のみ。とは言え、その攻撃力に関しては侮れないどころの話ではない。戦いは決して楽なものではなかった。
    「グルルルルッ!」
     イフリートが唸りを上げ、赤熱する角を静菜へと叩き付ける。突き刺されることを防いでも、角の高熱が彼女の身体を焦がす。
    「くっ」
     この場で最も体力のある静菜であっても、軽視できないダメージをイフリートの一撃は叩き出し続けていた。1人が連続でダメージを受け続ければ、魂が肉体を凌駕する状況に追い込まれるのは時間の問題であっただろう。
    「おいでよ。遊んでやるよ」
    「先生、お願いします」
     風貴が挑発的な言動と共に左手に展開した盾で殴りつけ注意を引けば、零のお願い、を受けたビハインドの先生もイフリートの眼に出つつ攻撃し、敵の攻撃が一人に集中しないようにする。
    「えくすかりばー!」
     そして倒れさえしなければ、ローランドと俺様な彼の相棒のえくすかりばーが、イフリートの攻撃に晒される仲間達を癒しの力で支え続ける。
     倒れる者が出なければ、攻撃に専念出来る状態の仲間が必ずいる。手数では灼滅者達が圧倒的に有利であった。
    「Keil Eises――氷の楔よ、絶対零度の戒めを!」
     鏡花の手にする槍の穂先に冷気が集う。槍を一閃、撃ち出された鋭いつららがイフリートの身体の一部を氷に包む。
    「グルァッ!」
     纏う炎と対極と言える氷を受け、唸るイフリート。その唸りは苦悶の音ではない。イフリートの纏う炎の勢いが増し蝕みかけていた氷を燃やし尽くす。
    「回復するなら、それ以上に攻撃するだけだ」
     空が両手に銃を構えたまま、イフリートの足元に伸ばした影業で死角から斬りつける。
    「ま、そういうことだ……なっ」
     九狼が炎を纏わせた鎌を叩きつけ、更に蹴りで刃を叩き込む。由乃の神秘的な歌声は、イフリートの精神を僅かに揺らがせる。
     確かに楽な戦いではなかった。吐き出す炎はイフリートから離れて戦う者にも向けられる。
     それでも、徐々にだが確実に攻撃を重ね灼滅者達が押していく。
     実に緊迫した戦いが続く中、一人だけ何というか緩い人がいた。
    「ところで、キミ達は一体この別府に何をしに来たんだい?  温泉で湯治や異性のお風呂を覗きに来たわけじゃあるまい。いや、後半は否定しないよ……?」
     と、まるで世間話をするかのようなイイ笑顔でイフリートに尋ねたローランドだ。
     いや、敵の目的を探ろうという考えは問題のないものであるし、言いつつもガトリングガンの連射を叩き込んで攻撃もしているのだけど。
     風呂の覗きを否定しないなんて発言、戦闘中じゃなかったら女性陣からの視線が痛いことになっていたかもしれない。混浴を想定していた人ばかりではない。
    「グルル……ガァッ!」
     尋ねられたイフリートは唸りを上げたかと思えば、答えの代わりとばかりに吐き出した炎が灼滅者達を襲う。
     多くのイフリートと同様、この相手もまた、ただ暴虐を尽くすばかりで人の言葉に答える理性は既にない。
    「やっぱ、答える知能はないか。……はっ、相変わらず胸糞悪い化け物だ」
     右手で炎を振り払いつつ、左のサイキックソードで斬りつけながら風貴がひとりごちる。
     手がかりを掴めれば、と思っていたのは彼も同じだが、返答を期待できない相手なのは想定の範囲内。
    「問答の通じる相手ではないですね。押し切りましょう」
     由乃の足元から伸びた影が、一気に肥大してイフリートを飲み込む。獣の心に去来したトラウマはいつのものであったか。
    「Blitz des Urteils――裁きの雷で撃ち抜いてあげるわ!」
     裁きの雷、と鏡花が自ら称した通り、高純度まで圧縮された雷に似た輝きを放つ魔力は、槍から撃ち出され一条の矢となってイフリートを貫く。
    「目標照準内……発射します」
     続く零がライフルでイフリートを撃つ。彼女の攻撃は威力は高くはないがイフリートの力を的確に削いでいく。
    「させるかよ」
     踏み潰さんと振り上げた前足を、咄嗟に伸ばした空の影業が縛り止める。
     魔法光線の与える圧力で精細を欠いた動きであれば、相殺するのは難しい事ではない。
    「はぁっ!」
     相殺で生まれた隙にイフリートの喉元へと踏み込んだのは静菜。異形へと変じさせ巨大化した右腕で、燃えるたてがみを意に介さずに下から殴り上げる。
     鬼神の名を冠する一撃にイフリートの体が浮いた。敵の体勢が大きく揺らいだそこに飛び込んだのは、九狼。そのままイフリートの顎に手をかけ更に持ち上げる。
    「グルルルッ!」
     唸りを上げ、残る後ろ足で堪えようと足掻くイフリートを空の影が縛り、ローランドの放った彗星の如き矢が足を撃ち抜く。
    「ぶっ潰れろ!」
     更にイフリートが揺らいだタイミングを九狼は見逃さず、飛び上がった反動に全身で勢いを付けてイフリートを頭から地面に叩き付ける。その衝撃に捻れた赤い角が砕け散る。余裕を見せることを忘れた彼の表情は、冷酷なものになっていた。
    「終わりだ。……燃え尽きろ」
     横倒しになり剥き出しになったイフリートの首を、炎をまとった風貴のサイキックソードが貫き断ち斬る。
     喉を斬られ断末魔の声を上げることもなく炎の獣は静かに燃え尽きた。

    ●戦士達に休息を
    「これでおしまいかしら?」
     すぐに警戒を解かず、鏡花が周囲を見回すも、敵の気配はなく朝の静寂が戻り始めている。
    「任務成功、ですね」
     小さく呟いて、零が殲術道具をカードにしまう。
    「さて、一旦宿に戻るとして……どうしようか?」
     ローランドのどうしよう、とはもう一泊するかどうか、である。イフリート発見の報を受けた時に、まりんが言っていた。
    『もう一泊ならしてきても良いみたいだよ』
     と。追加のこの役得をどうするべきか。
    「泊まっちゃおうぜ」
     風貴はとても乗り気だ。
    「止まっちゃいますか?」
    「そうですね、折角ですし」
     顔を見合わせる静菜と由乃も同じく乗り気。2人が事前にチェックした場所はまだ残っていたりする。
    「ま、役得だな」
     空も一つ頷いて。
    「良いんじゃないでしょうか」
    「悪くはないですね」
     零と九狼もまんざらではない。
    「クラブの皆にお土産を買っていく時間はありそうね」
     くすりと笑みを浮かべた鏡花の言葉も反対するものではなく。
    「決まりだね。これでまたえくすかりばーと温泉に入れる」
    「え、またあの2人の空間するの?」
     登って来た道を、今度は急がずゆっくりと戻る。
     木々の向こうに、彼らが守り通した温泉街から立ち上る湯煙が見えた。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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