跋扈する馬刺し怪人~吾輩の顔をお食べよ!

    作者:猫乃ヤシキ

    ●『コンニャクって言ってますが、要するに馬刺しなんです。』
    「いらっしゃいませー、って、え?」
     店先に現れた客の姿を見て、正面玄関で開店準備をしていたアルバイト店員・マサヒコ(25)は怪訝な顔をした。
     だってそこにいたのは、客と言うか。
     ちょんちょん、と申し訳程度の手足の生えた、ピンク色したマーブル模様の壁だったからだ。
     ぶよぶよベロンとした壁の上の方に、ぶっとい眉毛と、そこだけ彫りの深いキリッとした目鼻口がついている。その姿は、ひとの大きさほどもある巨大なコンニャク、と表現しても差し支えないだろう。
     ピンク色のコンニャクを前にして、マサヒコが顔をひきつらせながらも、精一杯の営業スマイルをしてみせる。
    「すみません、当店では着ぐるみのお客様はちょっと……」
    「着ぐるみとは失礼な。吾輩は馬刺し怪人であるぞ」
     コンニャクが眉毛をぎゅっと引き寄せてシワをきざんで、鋭い眼光で店員をにらみつける。それから額(と思われるあたり)をべりっとはがすと、ベロベロしたカケラをマサヒコに押し付けた。
    「食え」
    「いや食えとか言われても。なんすかこれ?」
    「わからぬとは愚かなり……! 馬刺しである! 馬刺しこそ、世界を征服するにふさわしい存在!」
     コンニャクの短い腕がぐにゅんと伸びた。ドン引きしながら後ずさるマサヒコをつかまえて、ぐるぐると絡めとる。
    「え、なに? なんなの一体!? 助けて店長ー!」
     
    ●『グローバルと、ジャスティスだけが、とーもだちさー♪?』
    「熊本市内のファミレスに、ダークネスが現れる未来が予測されたから、倒しにいってほしいんだ。えーっと……こうまだらなピンク色した、四角い奴……コンニャクじゃなくて……」
     指先で細長い長方形を何度かかたどってから、エクスブレインの少年―神崎・ヤマトが、ぽんと手のひらを叩いた。
    「ああそうそう、馬刺し怪人!」
     察知したイメージ映像が先行して、どうにもコンニャクという認識が抜けないらしい。ぶよぶよんとした四角い形は、薄っぺらいコンニャク。でも一応、馬刺しのカタチなんだということをわかって頂きたい。
    「熊本と言えば馬刺しが有名な土地だそうだ。今回予知された馬刺し怪人は、遭遇した一般人に馬刺しを無理やり食わせようとする。そうやって自分の配下を増やし、馬刺しを広めるための勢力を増やす算段のようだ」
     要するに、コテコテのご当地怪人だ。
     ご当地怪人と言えば、大首領グローバルジャスティスを頂点に、なんやかんやで世界制服を企んでいる連中の1人である。
    「馬刺し怪人が使ってくるのは、馬刺しキック、馬刺しビーム、馬刺しダイナミック。ふざけた見た目だが、相手はいっぱしのダークネスだ。どれも攻撃の威力は高いから、防御は怠らないでほしい」
     ああ、そう、それから、とヤマトが付け加える。
    「怪人は、ニンニクを強化して配下にしたのを引き連れてる。数は全部で10体。こっちの単体での攻撃力はそれほど強くはないが……当たられるととにかくクサい。クサいとテンションが下がる。そんでもって、お前らのステータスはバッドになる」
     雑魚ながら、軽くみると厄介な相手だ。
     ちなみに、バッドステータスの種類はランダムである。
    「……っていうか、ニンニク? なんで?」
    「多分、馬刺しの薬味だからじゃないかな……」
     灼滅者からの問いかけに答えながら、げんなりした表情でヤマトが両手をあげた。
    「馬刺しとニンニク……聞くだけなら十分旨そうな取り合わせなんだけどな……。熊本で観光気分もいいが、相手は正真正銘のダークネス。気を付けて行ってきてくれ!」


    参加者
    池添・一馬(影を知る者・d00726)
    葛木・一(適応概念・d01791)
    行野・セイ(祈る鴉狐・d02746)
    六連星・ひなた(太陽の息吹・d03538)
    芦夜・碧(中学生殺人鬼・d04624)
    小清水・三珠(茨城沙悟浄・d06100)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    木下・里美(高校生魔法使い・d09849)

    ■リプレイ

    ●『熊本市街にて、観光気分なう。』
     真っ青に晴れた熊本市街の朝である。
     遠方に見えるのは、まばゆい朝日を受けてキラキラと輝く熊本城。白と黒のコントラストが、美しいたたずまいを見せている。
     その風景をバックにしつつ、修学旅行の自由行動よろしくゾロゾロと連れ立って歩いているのは、熊本に前日入りした八名の灼滅者たちだ。キョロキョロ辺りを見回して、観光客テイスト丸出しの一行に、道行くビジネスマンや学生が時折視線を投げて寄越す。
    「このへんでも、熊本城が見えるんだ。例のファミレスは、もうすぐそこだぜ」
    「へ~。ずいぶんと詳しいのね」
     先導して一行を案内する文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)に、六連星・ひなた(太陽の息吹・d03538)が感心して目をぱちくりさせた。
    「じいちゃん訪ねてよく来てるからな」
    「おかげで、熊本城で加藤清正公のパワーもチャージできたし。折角遠くまで来たんだし、しっかり堪能していかないとね☆」
    「このへんは詳しいんだ。観光案内なら任せとけ!」
    「べ、別に観光気分で前日入りしたわけじゃないんだぜ。ガイアチャージのため、仕方なく、だからなっ?」
     そびえる熊本城を眺めつつツンデレ気味に言ってのけるのは、馬を愛する男、池添・一馬(影を知る者・d00726)である。ガイアチャージのためという建前を掲げつつ、昨晩はしっかり熊本城のライトアップも観光してきたらしいので、その本音は推して知るべしである。
    「いや、それにしても太平燕は美味かったね」
     昨日の食事を思い出して、小清水・三珠(茨城沙悟浄・d06100)がにんまりとする。ちなみに太平燕とは、中華料理(なのに熊本以外ではほとんどお目にかかることのできない、ご当地フードという不思議)の一種である。
    「あら、馬刺しは食べなかったの?」
     小首を傾げる芦夜・碧(中学生殺人鬼・d04624)に、三珠が親指を立てた。
    「馬刺しは今日の楽しみにとってあるんだよ」
    「そうなのね。タテガミ、センポコ、カクマク、ふたえご、……」
    「桜納豆もなかなかでしたよ。食中毒恐いけど、生桜肉は美味でしたね」
     行野・セイ(祈る鴉狐・d02746)が、横からヒョイと口をはさむ。
    「そうね。でも、私のお薦めはやっぱり馬レバーの刺身ね!」
     とろけるような馬刺し三昧を思い出し、うっとりと両手を組む碧。
    「弟にも食べさせてあげたかったわぁ」
    「……やっぱり、ブラコンなのかしら……?」
     ヘブン状態の碧に対し、本人には聞こえないようにツッコミをいれたのは、木下・里美(高校生魔法使い・d09849)。碧の『おいしくなあれ』のおまじないのおかげもあり、昨晩はかなり旨い馬刺しにありつけたわけだが。それでもちょいちょい見え隠れするブラコン癖には、時折首をひねらずにはいられない。
     その里美の周りでちょろちょろとせわしなく走り回っているのは、葛木・一(適応概念・d01791)と、ポメラニアンそっくりな霊犬の鉄(くろがね)だ。
    「葛木君、あんまり車道の方に行くと危ないわよ。迷子にならないでね」
     里美が、自分よりずいぶんと年下の一の手をひいてやろうとすると、一はいたずらっぽく口をイーッとして見せる。
    「やめろよ、手とか繋がねぇし! 恥ずいじゃん!」

    ●『吾輩の顔をお食べ――その名は馬刺し怪人!』
     目的のファミレスが灼滅者たちの視界に入ってきた。店の前で店員が掃き掃除をしている。あれがヤマトに教えられたアルバイト店員・マサヒコ(25)だろう。
    「さて。そろそろ準備をしましょうか」
     セイが周囲の通行人に向かって、王者の風を放つ。
    「他の道を使うか、でなくとも去れ。ニンニクまみれになりたい?」
     一馬と三珠も、それに倣うように殺界形成を発動させる。二人の体からにじみだす恐ろしいまでの殺気が、朝の爽やかな往来の空気を凍らせた。押し殺すような威圧感に嫌気をさした通行人たちが回れ右をしながら、その場から逃げるように立ち去って行く。
    「最悪な朝にしてすみませんね。怪人と対面させる気ないので」
     ポケットからスレイヤーカードを取り出しながら、セイがつぶやく。その視線の先には、絡む予定だった店員に逃げられてしまったコンニャク風の――ピンク色マーブル、馬刺し怪人が立っていた。

    「生肉は食中毒が怖いよな。いや、もちろん信頼できる店の馬刺しは何の問題もないさ。が、あんたが大丈夫とは、なぁ?」
     体の前で両手を軽く広げながら、三珠がゆっくりと馬刺し怪人に近づいていく。
    「そうね、確かに馬刺しは美味しいわ。否定しない」
    「馬刺しは確かに美味いが、ニンニクは翌日まで臭うしなぁ。今日の所は高菜めしにしておくか」
     碧と直哉も、ジリジリと間合いを詰めてゆく。
    「なんだあ、こんにゃく? 馬刺しって言うくらいだから馬居るのかと思ったのになぁ」
    「熊本と言ったらお城とご当地キャラでしょう。仕方ないわ」
     がっくりと肩を落とす一に、大仰になぐさめてみせるのは里美である。
    「なんだと?」
     口々に繰り出される悪口に気づいたのか。灼滅者たちの姿を認めた馬刺し怪人は、ぶっとい眉毛をぎゅっと引き寄せて、彫りの深い顔にシワをきざんだ。店の扉にかけていた手を離し、ペタペタと道路の上を歩いて灼滅者たちに近寄ってくる。
     その足元には、小さな手足のついたニンニク(×10)を、ゾロゾロと引き連れている。
     怪人は鋭い眼光で灼滅者たちをにらみつけながら、自分の顔から引きはがしたベロベロしたカケラを差し出してきた。
    「食え」
    「だが断るっ!」
     一番にアスファルトを蹴って飛び出し、素早く抗雷撃を繰り出したのは一馬だった。
    「馬刺しなんて許さねーぜ、このコンニャク怪人め!」
    「ぬおっ!?」
     不意打ちを喰らって、怪人の巨体が大きくかしいだ。
     馬好きの一馬、仲間が食べている分には空気を読んで我慢していたが。どうやら、ここに来てその分の鬱憤が一気に爆発したようである。
    「邪魔なヤツから片付けちゃいましょ!」
     山吹色のドレスのフリルが、風圧に煽られてふわりと舞い上がる。
    「プリティーでキラキラな女の子ヒーローパワー、受けてみなさいっ」
     ひなたが腕を真上にかざす。周囲をふわふわと漂っていた光の輪が、虹色に煌めいたかと思うと、ニンニク目がけて勢いよく射出されていった。
    「氷漬けにしてあげましょうか?」
     続けて放たれるセイの妖冷弾の連撃が、ニンニクたちを次々に氷漬けにしてゆく。しかし、ガトリングガンの構えをといたすき、脇が空いた一瞬を狙って、一体がセイの懐めがけて飛び込んでくるのが見えた。
    (「避けきれないっ」)
     チッと小さく舌打ちしたセイの前に、影が立ちふさがった。ビハインドのナツが、間に割り込んでセイを守ったのだった。ターゲットを見失った敵は、弾かれるようにしてアスファルトの上に叩き付けられた。
    「感謝ですよ、ナツさん!」
    「やるじゃない、なかなか」
     メイド服のスカートのすそを翻しながら、碧が日本刀を構えなおす。
    「こっちも行くわよっ、鏖殺ッーー」
    「ーー領域ッ、ずばばーん!!」
     碧と一が同時に漆黒のオーラを解き放った。ドス黒い靄は前衛を覆い尽くし、敵をギリギリ縛り上げてゆく。
    「アォン!」
     主人の一撃をサポートしようと、鉄が敵めがけて駆けだした。振りかぶった斬魔刀の切っ先が、転がる一体を無残に断ち割ってゆく。
    「着ぐるみチャージ! クロネコレッド、見参!」
     直哉がスレイヤーカードを解除して、戦闘服に早変わりする。しかし直哉が黒猫の着ぐるみ姿に変身するやいなや、ニンニクたちが殺到する。
    「どけっ、文月!」
     逃げ切れず立ち往生する直哉の前に飛び込んだのは、ディフェンダーの三珠だ。次々にアタックをかましてくるニンニクの攻撃を前に、両腕をクロスさせて防御する。
    「うぉっ、臭っ!」
     しかしその臭いは強烈で、三珠が半ば涙目になりながらよろめいた。身体のダメージもさることながら、この異臭は耐え難いものがある。
    「大丈夫? 吹き抜ける風よ仲間を守りたまえ!」
     三珠が心に軽くトラウマを抱えそうになっているところに、癒しのオーラを振りまいたのは里美である。里美が腕を空にかかげると、キラキラと光る風が三珠の体を包む。清めの風が、ダメージを受けた傷跡を優しく包み込んだ。
     それを見届けて、里美が怪人をにらみあげる。
    「味に自信が無いからニンニクを使って誤魔化してるんでしょう。あんなゴムみたいな肉食べられないわよ!」
    「わ、吾輩の馬刺しを愚弄するとは許せん。貴様らには、死あるのみ!」
     激昂した馬刺し怪人が、憤怒の形相で灼滅者たちに飛びかかってきた。

    ●『ヒーローは君だ!』
    「行っけぇーっ☆」
     ひなたのマジックミサイルが、サンライトイエローの光を振りまきながら、馬刺し怪人の胴体にクリーンヒットする。
     嬉しそうにピョンピョン跳ねるひなたを尻目に、一がためいきをついた。
    「もっとかっこいいのとか、美味そうなのとかなんかなかったのかなー」
     配下たちは既に全滅。残すは馬刺し怪人だけだ。
     しかし、人をからかっているとしか思えない見た目だったとしても、相手は由緒正しくダークネス。灼滅者たちにも、体力の限界と疲労の色が見え始めている。
    「鉄、肉好きだけどアレはダークネスだから食べちゃダメだぞ?」
    「キャゥ?」
     見れば、相棒の方は尻尾を振ってよだれをたらしている。
    「鉄……あんなんでも肉なら良いのか」
     いやいやいや。ダメ、絶対。影業『忌避すべき狼』を構え直して、首を左右に振る一である。
    「うるさあい! この肉を食え、食って我が配下になれぇっ!」
     自分の体からはがした生肉を両手にぶらさげて怒鳴りながら、馬刺し怪人が目からビームを発射してくる。
    「馬刺しッ、ビームッ!」
     閃光がほとばしり、アスファルトの上を焦がしてゆく。軌道上に立っていた碧が、地面を横転しながらその光を避ける。じゅっ、と肉の焼ける音と鋭い痛みが、碧の頬を掠めて行った。
    「そうは言っても、生肉は怖いですよ。焼いてさしあげましょう」
     穏かなほほ笑みを見せるセイの瞳が、わずかに細められる。ガトリングガンの筒先が、怪人の眉間に狙いを定める。
    「ブレイジングバーストッ!」
     爆炎の魔力を込めた弾丸が、マグマのように噴出されてゆく。
    「おのれ、小癪なっ」
     再び目に力を溜めはじめた怪人の体を見て、里美が一馬に目配せを送った。
    「……行くわよ」
     わずかにうなずきあって確認すると、次の瞬間、里美の放つマジックミサイルが怪人の身体を貫いていた。ミサイルの衝撃に、怪人がビームを撃つ動きがわずかに止まる。
    「ナイス、攻撃ッ!」
     そこに生まれたわずかな隙を狙って、一馬が怪人の懐に飛び込んで行った。タックルされて傾いだぶよぶよの巨体を、一馬が上方に抱え上げる。
    「うぉっ!」
    「武者返し、ダイナミックッ!」
     巨体を、アスファルト目がけて勢いよく、投げるように叩き付けた。怪人が地面の上でもんどりうち、ごろんごろんと転げまわる。
     それを、クロネコレッドのもふもふした足が押さえつける。かと思うと、ぼんやりと遠くを見つめた直哉の独白タイムが始まった。
    「あれは忘れもしない三年前の夏。じいちゃんの使いで肉屋へ行った俺は、手にした馬刺しがカナダ産であった事に衝撃を受けて、ご当地ヒーローとして目覚めたんだ。あの頃は俺も若かった」
    「な、なに……?」
     やや、ぽかんとする怪人。
    「……しかし俺は気付いた、馬刺しは食文化だ!」
     きつくこぶしを握り締め、熱いまなざしで怪人を見つめる直哉。戦闘中ではあるが、完全に語りモードに入っている。
    「とろける脂と噛むほどに広がる旨味! 大事なのは産地ではなくその美味しさと適正価格と適正表示! これだけ地元で愛され続けている食材が他にあろうか」
    「そなた……もしや我が熊本の馬刺しを愛する同胞なのか……!?」
     怪人てば、身体のダメージとともに、心も少し弱ってきている気配だ。
     背景にギラギラした鱗粉のようなものをまき散らしながら、濃ゆい顔した怪人が、直哉を見つめて腕を差し伸べる。だが、その腕をパチン、と振り払うと直哉はキッと怪人をにらみつけた。
    「そんな馬刺しを悪事に利用するとは、許せん!」
    「文月が言う通り、馬刺しは熊本の食文化だ。大事なのは、ただこだわるだけじゃない。受け入れることだ」
     同調する三珠が、マテリアルロッドを身体の前でななめに構える。
    「押し付けることも、それを悪事に利用することも、俺は許さんぞっ!」
     そして、直哉と三珠、声をそろえて。
    「一文字グルグルビーム!」
    「辛子蓮根ビーム!」
    「ぎゃん!」
     不意打ちでWビームを喰らって、怪人が高速でアスファルトの上を転がって逃げてゆく。その転がる軌道を見極めながらひなたが大声を張り上げた。
    「今よっ!」
     その掛け声を合図に、ご当地ヒーローたちが息を合わせて強烈な蹴り技を繰り出した!
    「喰らいなさい、ご当地キーック!」
    「河童キック!」
    「いきなり団子キック!」
    「アップルパイ食べたかったぞキーック!」
    「ぐおおおおーーーっ!」
     ヒーローたちからのご当地キックの嵐が、馬刺し怪人の腹を突き破る。怪人の体がぶおん、と大きく揺れて地面に突っ伏した。怪人がぴくぴくと短い腕を伸ばしながら、なんとか逃げようと宙をつかむ。
    「こ、こんなところで終わるわけにはっ……!」
    「無駄よ」
     碧が日本刀を振り上げると、朝陽を受けた銀色の刃がまばゆく煌めいた。そのしなやかな四肢が一陣の黒い風と化し、縦横無尽に駆け抜けてゆく。
    「そう、それが貴方の終焉」
     ―――チン。
     日本刀を鞘に収める澄んだ音が響き、遅れて斬衝が走った。

     馬刺し怪人灼滅、完了。
     灼滅とともに怪人は爆散し、跡形もなく消えてしまった。
     静かになった往来には再び人が集まりはじめ、いつもどおりの朝の風景が戻ってきている。
    「困った敵でしたが……皆さんの好戦に、尊敬と感謝を」
     戦いを振り返ってセイが拍手するのに、ひなたがうなづきながら腕組みをした。
    「みんな、頑張ったよねー。でも朝から疲れちゃったよ」
     その横では三珠が自分の身体をクンクンと嗅いで、臭いを確かめている。里美のクリーニングのおかげで、ニンニク臭さはすっかり消えたようだ。
    「臭くなった体は綺麗になったけど。折角だし温泉でも行こうぜ?」
     ストレッチする一馬の提案に、一同から賛成の声があがる。
    「温泉入ってくなら温泉卵食べたい! んで、風呂上りに牛乳ね!」
    「そうね、悪くないわ」
    「よーし、観光案内なら俺に任せろ! みんな、ついて来ーいっ」
     そう言うと、直哉が意気揚々と大手を振って往来を歩きはじめた。
     まだまだ一行の観光は終わらない――平和な熊本の、ある朝の出来事である。

    作者:猫乃ヤシキ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 6
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