利害と友情のエンタングルメント

    作者:旅望かなた

     一日一度の告白なんて、生温い方だった。
     何人かと付き合ってみたけど、みんな食事は高級レストラン、お茶はホテルのティーラウンジ、プレゼントはブランドバッグ。それも全部、彼女達からの要求。
     なのに一見可愛らしい女の子が集まって来るし、それでなくても羨望、嫉妬、疎外、反対にごますり、腰巾着、お世辞。
     金持ちなのは自分じゃなくて親だ。
     名家なのは自分のおかげじゃなくて偶然だ。
     顔がいいのは自分で選んだんじゃなくて親のおかげだ。
     ――誰も本当の俺を見ない。
     
     潜り込んだソウルボードの中で、魂を書き換える。
    『金持ちに興味はない』
    『血筋に興味はない』
    『イケメンに興味はない』
     ――これで彼女も、俺に振り向いてもくれなくなるんだろうか。
     ソウルボードの中、自嘲的に少年は笑う。
     
    「友達が、欲しいだけなんだけど、な」
     
    「イケメンはかっこいーですが、イケメンなだけでお付き合いするのはよくないと思います!」
     嵯峨・伊智子(高校生エクスブレイン・dn0063)がぺちんと教卓を叩く。
    「つかさー、実際金持ちだからって高級レストラン連れてってもらうとか、自分が惚れたのにないよねー。むしろこっちから手作りクッキーとか作ってってあげるのがスジ的な? ……ま、この人って自分への好意が、自分自身じゃなくて血筋とかお金とかに向いてるのわかってるから、バカじゃないし性格悪くないと思うんだよね闇堕ち寸前だけど」
     大事なことをさらっと最後に言う伊智子。
    「この人三条・貴文って言うんだけど、シャドウの力を使ってソウルボードに入れるんだけど意識はまだ自分のなんだよね。でもさ、このままじゃそのうちダークネスになっちゃう」
     だから、彼が灼滅者なら救出を。
     彼が完全なダークネスとなるなら、その前に灼滅を。
    「貴文は、学校まで自家用車でお迎えが来るみたいなマジいいとこのお坊ちゃんだし、接触するなら学校が一番いいんじゃないかな。サイキックアブソーバーもそう言ってたし?」
     よっこいしょ、と伊智子は教卓の下から段ボールをひっぱり出す。
    「とりあえず制服用意したし、サイズもいろいろあるから必要だったら使ってちょ。貴文の学校は高校で、結構いいとこの学校だからセキュリティは高めだけど、制服さえ着てればだいたいはスルーだし」
     まぁどうしても高校生の範疇に入らない年齢でも、屋上から侵入するとか手段はいろいろある。
    「貴文は一日一人くらいの割合で、さっき言ったみたいにクラスメイトの精神を書き換えてるんだよね。ソウルボードでの戦いに持ち込めるのは、その時だけかな」
     彼の能力は、シャドウハンターと同じ。
     ソウルボードの中では、貴文は夢の配下を連れている。――同じ年頃の、少年少女だ。彼を崇拝することも、敵意を向けることもない者達だ。
    「ソウルボードの外で戦うなら、貴文一人が相手だけどめっちゃ強くなるから。……でも、貴文の心に響く説得ができたら、力は抑えられるかもしんない」
     貴文が灼滅者として目覚めたら、学園に誘ってみるのもいいだろう。
    「うちらだったらお金持ちかどうかなんて気にしないよね! ……とにかく、貴文が完全なダークネスになっちゃわないように。お願いします」
     ぺこりと頭を下げて、伊智子は灼滅者達を送り出した。


    参加者
    因幡・雪之丞(リンクス・d00328)
    シェミア・アトック(悪夢の刈り手・d01536)
    リュシアン・ヴォーコルベイユ(橄欖のリュンヌ・d02752)
    室本・香乃果(ネモフィラの憧憬・d03135)
    九十九・緒々子(回山倒海の見習いヒーロー・d06988)
    惟住・多季(花環クロマティック・d07127)
    リヒト・シュテルンヒンメル(星空のミンストレル・d07590)
    イリヤ・ミハイロフ(ホロードヌィルナー・d07788)

    ■リプレイ

    「三条のクラスってどこかな?」
     やや長めの黒髪をゆらりと揺らして尋ねたイリヤ・ミハイロフ(ホロードヌィルナー・d07788)に、きゃ、と小さく声を上げてから一年B組です、と告げる。
     すらりとした長身の彼が、学校中でハイスペック男子と持ちきりの彼の名前を口にする。それはすぐに校内を広まり、噂を呼んだ。
     移動を始める貴文を追って、イリヤはメールを飛ばす。同行する仲間達も後を追う。
     少し離れたところで、リュシアン・ヴォーコルベイユ(橄欖のリュンヌ・d02752)はつまらなそうな顔で溜息を吐いた。己と同じような不器用さを持つ貴文に対し、思うのは反感なのか同感なのか。
    「貴文さんってどんな人?」
     何だか凄い人だって聞いたの、と転校生を装って、室本・香乃果(ネモフィラの憧憬・d03135)が尋ねる。
     けれどエクスブレインに聞いた通りの家柄・財産・容姿の話ばかりで、一番顔とお金に拘っていたのは彼自身ではないかと思っていた香乃果は考えを改めざるを得ない。
    (「周りの人間はこの人を何だと思ってるんでしょう。ただのアクセサリーとしか見てない人間ばっかですか」)
     九十九・緒々子(回山倒海の見習いヒーロー・d06988)も別の場所で貴文について尋ね、その答えに憤慨していた。
     彼女達は貴文を褒め称えるか、「話したことがないから」と肩をすくめるか、もしくは眉をひそめて「あいつ? やめとけよ」と言うか。
     それって、なんだかやるせないです。そう、緒々子は心の中で呟く。
     それでも。
     それしか女の子達が語れないのは、彼が心を閉ざし交流を拒んでいるからではないかと、香乃果は考える。
    「友達、ね……わたしには、必要ないけど……」
     エイティーンを使って入り込んだシェミア・アトック(悪夢の刈り手・d01536)が、静かにそれを眺めながらやや離れて呟く。
     己もシャドウと化した過去を持ち、今は自身をシャドウにした者を追う彼女にとって、友という存在は今は遠いものだ。
    「恋愛で頭一杯なんですかね? 彼に振り向かない女子もいると思うんですけど」
     離れた場所で、惟住・多季(花環クロマティック・d07127)が首を傾げる。
     校内の展示の中にあった、様々な熟語を書いた習字から、三条・貴文の作品に気付く。『性相近也 習相遠也』と書いた文字は整いつつも細く、どこか神経質さを感じさせる。
     その時、ポケットで震える携帯電話。イリヤからのメールを確認した多季は、貴文の尾行班をさらに追うように移動する。
     リヒト・シュテルンヒンメル(星空のミンストレル・d07590)が、イリヤから受け取った校内図で貴文の行き先を確かめる。
    「……屋上、ですね」
     そう小さく呟いてから、リヒトはどこか悲しげに目を細めて。
    「貴文さん自身も、自分の魅力に気づいていないみたいですね……」
     こくり、とイリヤと因幡・雪之丞(リンクス・d00328)が頷く。ふ、と雪之丞は頬に笑顔を浮かべて。
    「沈んで落ち込んでるヤツを助けるなら、笑っていくのが筋だよな」
     人の心に手を入れるやり方には素直に怒りを感じるけれど、そうせざるを得なかったことはわかるし同情の気持ちが強い。
     でも、同じ目線まで降りて話をするのは、彼の為にならないだろうから。
    (「年上相手に上から目線でわりーけどさ、落ちてるとこから引っ張り上げて隣に立たせようってんだから仕方ない!」)
     そう、心の中で思った瞬間。
     屋上の扉を開いた貴文が、くるりと灼滅者達に振り向いた。

    「さぁ、茶番はもういいよね。始めようか」
     そう言って、貴文は昏い笑みを浮かべる。

     気付かれたのは、必然であっただろう。
     尾行にしても情報収集にしても、目立ち過ぎた。自分を追う者の存在に、貴文が『普通に』気付いてもおかしくないほどに。
     ゆっくりと、貴文はフェンスに背を預ける。もはやソウルボードへの侵入は不可能と、イリヤは一般人を近づけぬ殺気を放つ。
    「ヒーロー、推参!」
    「鳴り響け、俺のハートッ!」
     緒々子が、雪之丞が、続けて灼滅者達が次々にカードに封印した力を解き放つ。
    「まずは名乗らせてもらうぜ。俺の名前は因幡雪之丞。三条貴文、アンタを救いに来た」
     それでも、雪之丞は希望を捨てない。大胆不敵な自信満々の笑顔を、捨てることはない。
    「俺はアンタの財布にも親にも興味はねぇよ! そんなもんはどーでもいい!」
     ガンナイフを手に、雪之丞は飛びかかる。刃を突き刺したまま放たれる弾丸と共に、貴文の心にも届けと。
    「そのかわり、アンタ自身には興味があるぜ」
    「だったら、見つけ出してみなよ。『貴文』自身を」
     面白い余興とでも言いたげに、貴文は――彼に宿るシャドウは、両腕を広げてみせる。
    「それじゃ、やろうか……」
     黒いウィッグをさらりと剥ぎ落とし、イリヤが解体ナイフを握り締める。
    「三条貴文……僕は『君』を見て話すよ」
     吸血鬼の魔力を霧と為し展開するイリヤの言葉に、貴文の顔が闇をまとって微笑む。
    「打ち勝てる、ものなら」
     次の瞬間、漆黒の弾丸が爆ぜた。
     小柄な体が吹き飛び転がる。かは、と血を吐きながら、シェミアはその胸にスートマークを具現化させ、回転の勢いを利用し立ち上がる。
     ――強い。
    「正直、シャドウだという以外であなたに関心はないんだけどね……私が何か言うのも筋違いだけど……少しは手伝ってあげようか……」
     強く、大鎌を握り直す。咎人の怨念を宿した、忌まわしき刃を。
    「金持ちやイケメンであることを過剰に意識しているのは、むしろ貴文さんの方じゃないですか?」
     直球の問いを投げかけながら、リヒトが霊犬のエアレーズングと共にシェミアへと癒しを送る。「そうかもしれないね」と、貴文は口の片端だけを引き上げてみせた。
     槍を螺旋の如く捻り、多季が強く突き込む。攻撃と共に力が高まり、次の攻撃に備えて多季はガトリングガンを突きつける。
    「あなたは、顔やお金は自分じゃないと言っているようだけど……それだってあなたの長所には違いないでしょう……?」
     シェミアが言いながら、一気に貴文の死角に入ろうとする。「動きが甘い、よ……!」と振るった大鎌は、確かに彼の腱を切り裂いた。
    「それに、相手の精神を書き換えて貴方に見向きもしなくなったのなら、貴方は顔とお金以外には何も無い人間なの……?」
    「だから、堕ちたんだよ」
     嘲るように、貴文の唇が歪む。
     それは、灼滅者に向けたものだったのか。それとも、貴文の心の弱さを笑ったものだったのだろうか。
    「隠すなよ! 教えてくれよ!」
     お前の事が知りたい、と雪之丞は叫ぶ。影を刃とし闇を貫きながら、叫ぶ。
     リュシアンが眉を寄せながら、熱を奪う呪文を唱えた。地道に、BSを重ねていく。
     ぎり、と緒々子が奥歯を噛み締めた。オーラを癒しの力に変え、シェミアへと送る。
    (「なに悲劇の主人公ぶって勝手に諦めて……バカなんですか?」)
     口に出したい言葉を、緒々子は必死に飲み込む。
     もどかしいのだ。周囲からの心無い視線によって、己の心まで腐りかけている貴文が。
    (「泥まみれになるほど目標持って必死に走ってりゃ、その姿を見て支えてくれる人がいつしか出来たりするモンなんですよ。そういうことちゃんとやりました?」)
     影業が、バトルオーラが、心の声を体現するかのように蠢く。高速演算を開始した香乃果が、デッドブラスターを解き放つ。同じ、心の闇に由来する力。
    「貴文さんは真面目ですね」
     その代わりに口を開いたのは、七つに分裂させたリングスラッシャーを操るリヒト。
    「誰かに本当の自分を見てもらいたいなら、『相手を一人の人間として見る』と書き換えればいいのに……そうしないのは、『本心から自分を認めてほしい』と思っているからなんでしょうね」
     今の状況を変えたいのに、誰かに傷ついて欲しくないから、自分を嫌うように書き換えていたのだろうと。そう、闇を光輪で穿ちながら呼び掛ければ、貴文の顔はくすりと皮肉げに微笑んだ。
    「思いつかなかっただけなんだけどね」
     貴文の心を折るように、己に全てを明け渡すように、棘のある言葉を吐くのはダークネスの意識なのだろうか。それとも。
    「本当に、見た目と違って呆れるくらいに不器用で、悲しいくらいに優しくて。でも、それが貴文さんの魅力だと、僕は思いますよ?」
    「同意しよう」
     口元を歪めたまま、貴文が頷く。
    「特に、不器用だって所はね」
     再び、漆黒の弾丸がシェミアを撃つ。それが爆ぜようとした瞬間、滑るように多季の体が飛び込んだ。獣の槍とガトリングガンを交差させ、闇に侵されながら必死にそれを受け止める。
    「同じイケメンのお金持ちでも、それが暴力振るう人だったら女子は当然三条さんの方に行きますよ。優しいもの。それってお金も何も無くなっても、三条さんに残るものですよね」
     おや、と楽しそうに貴文の目が見張られる。そのまま炎の弾丸を連射する多季の懐にゆるりと入ると、影を宿した拳を軽く突き出した。
     それだけで、多季の体が吹き飛ぶと同時に、突如現れた恐怖――トラウマに頬が引きつる。それでも仲間を信じ、多季はその槍に紅蓮をまとわせた。
    「それ以外の所でも自分を見て欲しいのなら、文字通り頑張って、新しい魅力を身に着けるんですよ。鍛えてマッチョになるとかギター一本で路上ライブするとか、好きなことに邁進してみたら?」
    「――やってみたら? 『貴文』」
     そう、呼びかけるように貴文は口を開いた。
     否――ダークネスが、身体を共有する『貴文』に呼びかけたのだ。
    「全ての人が外見や家柄だけで相手を判断するとは思えないの。今までそういう人達と出会えなかったのは、貴文さん自身が『みんなそうだ』と決めつけ、心を閉ざしていたからじゃないかな……」
     香乃果の言葉に、薄笑いを浮かべていた貴文の顔が、ふっと元に戻る。
     そして、苦しげに顔を歪め吐き出した。
    「――最初は、そんなもの抜きで友達になろうとした。自己紹介でも黙っていた。でも……自然に、知られて行ってしまうものだろう?」
     似合うから、好きだから身に着けるブランドものに、値段が見える。
     幼い頃からの習慣で疑問も持たなかった車での送迎に、家柄が見える。
    「だから、僕の個性はいつの間にか『属性』でしかなくなってた。自分を『モノ』としか見ない人を、友人として見られるか!?」
     悲痛な叫びに、けれど懸命に呼びかけるのはイリヤ。
    「云われなく妬まれ、利用されてさぞ理不尽だったろう。でも世界はそんな人間ばかりじゃない」
     足止めを重ねようと、死角を突き隙を突き、イリヤはナイフを自在に操り言葉を続ける。同じく死角から、雪之丞が闇の守りを切り裂いていく。
    「僕の知っている限り、例外なんてない」
     冷たく突き放す貴文に、香乃果が必死に叫ぶ。
    「それじゃ友達なんて出来ないよ。心は自分から開いていく物だから」
    「閉ざされた心を、自分で何度も開くのか。まるで僕の心は自動ドアだ」
     自嘲するように笑った貴文に、リュシアンがむっとしたように眉をひそめる。
    「誰かのせいにするのは簡単だけど、じゃあ君は、誰かに本当の自分を見せた事があるの?」
     鋼糸が音もなく巻き付き、何を、と言いかけた貴文の動きを縛る。
    「本音は誰にも言わなかったんでしょ。君自身がそんなだから、上っ面の人間しか寄って来ないのさ」
     ぴんと張っていた糸が、ふ、と緩んだ。
     次の瞬間、トラウマを宿した拳がリュシアンへとめり込む。けれど目の前に現れた恐怖にも怯えず、彼は続ける。
    「要らないモノは要らないって、はっきり言ってみたらどう? そうすると不思議とね、振り払っても突き放しても、めげない奴が出て来るんだ。そういうお節介焼きが、今の君には必要なんじゃない?」
     ま、僕はそんな面倒ゴメンだけど。
     そう言い放ち氷の魔法を放ちながら、優しい言葉を口に出来ぬ己を見つめ、リュシアンは貴文のもどかしさに共感する。
     緒々子が、防護の符を必死に飛ばした。キュアとBS耐性の力を併せ持つそれが、トラウマを消し去る助けになるように。
    「私はイケメンにもお金持ちにも興味はないよ。でも、貴方の事は気になるの。同じようにソウルボードに入り込める者として、貴方はとても気がかりで、お友達になりたいって……そう思ったの」
     貴文が使うのと、同じ力。
     昏き心の闇の弾丸を、香乃果は必死に解き放つ。
    「イケメンとかお金持ちとかっていう生まれた時から自動で獲得してるステータスって、単なる武器やアクセだと思うんですよね。ただ凄く威力が強いから、どんな人が持ってもそれなりに強くなっちゃって、本当の力が分からない罠が在る」
     新しい所で一からスタートしてみるっていうのもアリじゃないですか、と多季は呼び掛けた。紅のオーラが槍を覆い、ダークネスの生命力を奪う。
    「本当に友が欲しいなら……本当の気持ちをぶつけることね……喧嘩でもしてみるといいよ……今、ここで……!」
     死の力を宿した断罪の刃が、跳び上がったシェミアの手で鋭く頭上から落ちる。
    (「そういうことやりもしないで友達欲しいってぬかしてたらアンタはマジでただのバカですよ。口空けて餌待ってるだけの家畜にも劣るですよ!」)
     心の中で思いっきり叫びながら、緒々子は防護符を投げトラウマを祓おうと試みる。
    「俺をアンタの最初の友達にしてくれよ!」
     必死に、雪之丞が叫んだ。
    「貴文、俺達と来いよ! 武蔵坂なら、金も親も関係ないお前だけの居場所がきっと見つかるぜ!」
     伸ばした手は――空を切った。
     トン、と貴文が屋上の床を蹴る。
     それに気づいたその時には、貴文の体はフェンスの上に乗っていた。
    「貴文……!」
    「いや。もう、違う」
     その声は、冷徹に宣言する。昏い笑みを、口元に浮かべて。
    「楽しい余興だったけれど、君達の力は届かなかった。――君達が弱いわけじゃない。ダークネスが、強いのさ」
     必死に緒々子が炎をまとった弾丸を放つ。リヒトがエアレーズングと共に光輪と六文銭を飛ばす。雪之丞が影を伸ばし、多季がガトリングの引き金を引き、リュシアンが糸を放ち、香乃果がバスタービームを解き放ち、シェミアがフェンスに足を掛けて黒死斬を届かせる。けれど、至らない。
     シャドウを倒すに、至らない。
     イリヤがやはりフェンスを掴んで必死に叫んだ。
    「シャドウの言葉を振り切れ、君の友はそいつの力なくとも外の世界に必ず存在する。僕らがそれを証明するよ」
     けれどそれに眉を寄せ、必死に言い返す貴文は、もういない。
    「なぁに、『貴文』は――『貴文』だった頃より、上手くやるさ」
     なんたって、『貴文』は金持ちのイケメンだから。
     飛び降りた彼の姿は、すぐに見えなくなった。
     授業中に眠る誰かのソウルボードにでも入ってしまえば、追う手段はない。
     リュシアンの拳が、床を叩く。
     午後の日差しが――心を灼くように、感じられた。

    作者:旅望かなた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:失敗…
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 8
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