何もかもお前達が悪い

    ●都内某所
     何でもかんでも他人のせいにする泥棒集団がいた。
     彼らは『自分達が盗みをするのは、世の中が不況のせい。盗みをしなければ生きていけないような世界が悪い!』と考えており、自分達が盗みで捕まっても『私達は悪くない。悪いのは、不用心な、この一家。しかも、盗みを邪魔した挙句、警察を呼ぶとは……。この一家のせいで、私達の人生はめちゃくちゃだ。彼らにはこの責任を取るべき。いや、取らねばならない! 私達の貴重な人生を奪ったのだから!』と言った感じで開き直り、自分達が捕まるキッカケになった一家を訴えたりしていたようだ。
     その後も懲りる事無く犯行を繰り返し、噂となって広まっていき、都市伝説が生まれてしまったようである。

    「何だか似たような奴を……、見た事があるが、まあ……別人だろ」
     乾いた笑いを響かせながら、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明した。

     今回倒すべき相手は、ちょっと迷惑な都市伝説(中年女性)。
     おそらく、お前達が行く頃にもどこかの屋敷に忍び込み、『敷地内に罠が仕掛けられていたせいで怪我をした。慰謝料を払え!』と言った感じで騒ぎ立てている事だろう。
     しかも、まわりにはドーベルマンの群れ。
     このまま放っておけば、勝手に倒されてくれそうな気もするが、お前達と目が合った途端、『すぐに助けてくれなかった、お前達は冷酷人間。いますぐ地獄の業火で焼かれるべき』と言って感じで、騒ぎ立てるから鬱陶しい。
     そのうち、騒ぎを聞きつけた家主が怒鳴り散らしても、『私はコイツらに脅されただけ。悪いのは、コイツら。私の弱みに付け込んで……ううっ』と言う事になるから要注意。
     最悪の場合は家主がブチ切れて『構わん、殺ってしまえ!』と言う事になってしまう。
     ちなみに都市伝説は逃げ足だけはすばしっこく、関係のない人間を巻き込もうとするから、くれぐれも気を付けてくれ。


    参加者
    アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)
    藤堂・悠二郎(闇隠の朔月・d00377)
    成重・ゆかり(闇光の紡ぎ手・d00777)
    東風庵・夕香(黄昏トラグージ・d03092)
    名越・真一(千色の鎮魂歌・d08420)
    テン・カルガヤ(機槍マイスター・d10334)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)

    ■リプレイ

    ●迷惑な隣人
    「……こういう方がご近所に住んでいたら大変でしょうね」
     わめき立てる都市伝説を想像しつつ、ユニス・ブランシュール(白花・d00035)が苦笑いを浮かべて現場に向かう。
     都市伝説は世界が自分中心に回っていると思い込んでおり、何をしても許されると勝手に思い込んでいる。
     そのため、例え自分に非があったとしても、決してそれを認める事無く、すべての責任を他人に押しつけているようだ。
     これは都市伝説のモデルとなった女性の性格が反映されているためで、それが普通だと思っているため、その事を否定する相手の方が異常であると思ってしまうようである。
    「嘆かわしい事ですけど、たまにいらっしゃいますよね……、こんな人。あまりの我侭っぷりに、まともに取り合っていると、気力がかなり奪われてしまいそうですけど、ずっと話させていると、それはそれで面白いかも知れませんね」
     軽く冗談を言いながら、成重・ゆかり(闇光の紡ぎ手・d00777)がクスリと笑う。
     だが、そんな事をすれば状況的に考えて家主が最悪の行動に出てしまう可能性が高い。
    「何だか……、みんなが日常生活で抱いている不満が具現化したような都市伝説ですね……」
     苦笑いを浮かべながら、東風庵・夕香(黄昏トラグージ・d03092)が答えを返す。
     しかし、都市伝説が盗みを働いているのなら、放っておく事など出来ない。
    「都市伝説……というか、ただの迷惑なオバサンよね?」
     すっかり呆れた様子で、テン・カルガヤ(機槍マイスター・d10334)がツッコミを入れる。
     逆に都市伝説であると思わせる要素に乏しいため、言われなければ傍迷惑なオバサンとしか思えないだろう。
    「自分の非を認めぬ者か……、今回も迷惑な者じゃのぅ……」
     険しい表情を浮かべながら、アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)が口を開く。
     普段ならば、絶対に関わりたくない相手の類。
     迂闊に関われば、あれこれと難癖をつけられ、ストレスばかりが溜まってしまう地獄の日々。
     そんな未来を想像しただけでも、鳥肌が立ってしまう。
    「悪い意味でクレーマーの極致だよね。ここまで因縁を付けるなんて……」
     事前に渡された資料に目を通し、名越・真一(千色の鎮魂歌・d08420)が頭を抱える。
     これは間違いなく、クレーマー。
     しかも、悪質な類の最低最悪の存在。
     だが、ただのクレーマーであるならば、まだ対処のしようがあったのかも知れない。
     それが都市伝説となれば、被害者達も対応する事が出来ず、泣き寝入りをしてしまうケースも少なくはなかっただろう。
    「い、イロイロ覚悟がいるんだよ」
     色々な意味で身の危険を感じつつ、白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)が都市伝説の確認された屋敷を眺める。
     その途端、敷地内で飼われているドーベルマン達の鳴き声が響き、都市伝説と思しき女性の悲鳴が響いた。
    「このコソ泥がっ! いますぐ、ぶっ殺してやる!」
     殺気に満ちた表情を浮かべ、家主が都市伝説の胸倉を掴む。
    「ひいいいい、殺すだなんて物騒な。アタシはただ散歩でここを通っただけなのに!」
    「鉄条網が敷かれた2メートルの塀を乗り越え、散歩する婆がいるかアアア」
    「ここにいるだろうがああああああああああああああ」
     そこで都市伝説がブチ切れ。
     見事なまでの逆切れっぷりに、家主だけでなく、ドーマルマン達までドン引きである。
    「まったく面倒な……、困ったおばさんだ。お騒がせしてすみません。すぐに終わらせますから」
     申し訳なさそうにしながら、藤堂・悠二郎(闇隠の朔月・d00377)が殺界形成を使う。
    「その前にお前達は何者だっ!」
     家主の怒りがピークに達していた。
     まわりにいるドーベルマン達も、悠二郎達を威嚇するようにして唸り声を響かせている。
    「……警察です」
     プラチナチケットを使い、真一がコホンと咳をした。
    「だったら早くコイツを捕まえろ! このクズがっ!」
     それでも家主の怒りは収まらない。
     おそらく、怒りのぶつけどころが欲しいのだろう。
     後先考えずに暴言を吐き続けているため……、イラッとした。
    「やれやれ、こんな場所で喧嘩かい? アタシは帰らせてもらうよ」
     全く他人事と言った様子で、都市伝説がその場から去ろうとする。
    「申し訳ございませんが、これ以上あなたを野放しにする訳にはいきません」
     都市伝説の行く手を阻み、ユニスがスレイヤーカードを解除した。
    「野放しィ? 首輪でもつける気かい?」
     皮肉混じりに呟いた後、都市伝説がククスクス笑う。
    「おい、こら! いい加減にしろよ! ブチ殺すぞ、ゴルァ!」
     再び都市伝説の胸倉を掴み、家主がマシンガンの如く毒を吐く。
     それでも、都市伝説は怯む事無く、家主の感情を逆撫でするような言葉を吐き続けた。

    ●キレた家主
    「負の部分が具現化されているせいだと思いますが……。普段の生活の中でも、これだけ不満ばかりだと、楽しくなかったのでは?」
     ふたりの言い争いにウンザリしつつ、夕香が都市伝説に対して質問をする。
    「いや、毎日ハッピー薔薇色さ。お前達さえ邪魔をしなかったらね!」
     恨めしそうな表情を浮かべ、都市伝説が夕香達をジロリと睨む。
    「……まったく。逆恨みもいいところね。だからと言って下手に刺激をすれば、面倒な事になりそうだけど……」
     仲間達と連携を取って都市伝説を包囲しつつ、テンが警戒した様子で距離を縮めていく。
    「一体、さっきから何をチンタラやっている! どいつも使えん奴らだ。構わん、レミ、コゼット、ポルフィ、アン、コイツらを殺ってしまえ!」
     とうとう家主の怒りが爆発し、都市伝説がドーベルマン達を嗾けた。
    「やれやれ、どうしてそう言う考えになるのかのぅ」
     深い溜息を洩らしながら、アリシアがドーベルマン達に懐中電灯を当てる。
     その光にキャインと驚き、ドーベルマン達が一瞬怯む。
    「恨むのなら、あなた達のご主人様を恨んでください」
     すぐさま犬対策用のスプレーを構え、ユニスがドーベルマンにぶしゅっと吹きかけた。
     その一撃を食らったドーベルマン達が『キャイン、キャイン』と鳴き声を響かせ、敷地内を狂ったように跳ね回る。
    「やったね、あんた達! さあ、この勢いで、強欲おやじに天罰を与えてやるな!」
     ドサクサに紛れてユニス達の仲間に加わり、都市伝説が嗾けるようにして煽り始めた。
    「ごちゃごちゃうるさいぞ。お前を助ける義理はない。なんと言われようと倒させてもらうよ」
     都市伝説の言葉をバッサリと遮り、悠二郎(闇隠の朔月・d00377)がティアーズリッパーを放つ。
    「ちょっ、ちょい待ち! アタシを助けてくれるんじゃないのかい? アタシは何も悪い事をしていないのに!」
     信じられない様子で、都市伝説が唖然とする。
    「当たり前だろ。それに僕らがここに来たのは、キミを倒すためなんだから。その原因だってキミが悪さをする事になったからで、世の中を不安にしようとするキミが悪いんだ!」
     ドーベルマンに手加減攻撃をして気絶させ、真一が都市伝説にさらりと答えを返す。
     それでも、都市伝説は『アタシは何もしていない』と猛反論。
     おそらく、自分が罪を犯していると言う自覚がないのだろう。
    「だったら、早くコイツをぶち殺せ! 使えん屑が!」
     その間に割って入るようにして、家主が真一達を口汚く罵った。
    「それ以上、余計な事を言うと、誰も助けてくれませんよ。しばらく、眠っていてくださいね」
     素早く後ろに回り込み、ゆかりが首元に優しく噛み付いた。
     その味が思いのほか美味しかったため、名残惜しそうに口を離す。
     次の瞬間、家主がヘナヘナと崩れ落ち、眠るようにして意識を失った。
    「やっぱり、アタシの味方だったんだね。まあ、敵を欺くには、まず味方からっていうし、上出来だよっ!」
     満足した様子で、都市伝説がゆかりの肩を叩く。
     意地でも、ゆかり達を仲間にしたいのか、都市伝説も必死。
     隙あらば、家の住所から家族構成まで聞かれてしまいそうなほどの勢いである。
    「そこまでですっ! すべての責任を他に擦り付け、自らを省みぬその醜い心。この希望の戦士ピュア・ホワイトが改心させてあげますっ!」
     スレイヤーカードを開放して魔法少女の姿になり、ジュンがビシィッとボースを決めて言い放つ。
     その言葉を聞いた都市伝説は『アタシは何も悪い事をしていないのに……。これはきっと誰かの陰謀。アタシは被害者なの』と反論をした。

    ●アタシは被害者
    「何も悪い事をしていない、か。だったら、この屋敷にどうして忍び込んだ? 散歩と言う訳ではないだろ?」
     都市伝説に語りかけながら、テンが螺穿槍を繰り出していく。
    「だから言ったでしょ、散歩だって。塀を乗り越えたのは、入口の門が閉まっていたからよ。そもそも、こんな場所に家が建っているから悪いのよ。ここに家さえなければ、アタシが無実の罪で非難される心配だってなかったんだから」
     不機嫌な表情を浮かべ、都市伝説がブツブツと愚痴をこぼす。
     おそらく、どんな状況に陥っても、都市伝説が自らの非を認める事はないだろう。
     常に自分が被害者である事を強調し、『何も盗んでいないんだから、アタシは何も悪くない』と叫んでいる。
    「まあ、確かにここでは何も盗んでいないかも知れませんが……。この辺りで起こった盗難事件で、よく見かけられていますよね? それを裏付ける証拠だってあるんですよ?」
     攻撃を仕掛けるタイミングを窺いながら、ゆかりが都市伝説の顔色を窺った。
     実際には証拠などないのだが、都市伝説は明らかに動揺しており、青ざめた表情を浮かべている。
    「……あら? アタシったら、ウッカリしていたわ。早く帰ってお弁当の支度をしなくちゃ」
     ダラダラと汗を流しながら、都市伝説がサッと背を向けた。
     それと同時に都市伝説が猛ダッシュで逃げようとしたが、すぐさま夕香によって行く手を阻まれる。
    「逃がしません、覚悟してくださいっ」
     都市伝説の逃げ道を塞ぐようにして、夕香が仲間達と共にまわりを囲む。
    「な、何を言っているのよ。に、逃げる訳ないでしょ。よ、用事を思い出したから帰るだけ」
     しどろもどろになりながら、都市伝説が必死になって逃げ道を塞ぐ。
     だが、何処にも逃げ道はない。
    「諦めて改心してくださいっ!」
     都市伝説に狙いを定め、ジュンが制約の弾丸を撃ち込んだ。
     次の瞬間、都市伝説が攻撃を避けようとしたが、家主のどてっ腹に躓いて制約の弾丸が直撃。
     文句を言う事さえ出来ぬまま、その動きを封じ込められた。
    「これで、トドメだ!」
     都市伝説の胸倉を掴み、真一が地獄投げを炸裂させる。
     その一撃を喰らって都市伝説が断末魔を響かせ、弾け飛ぶようにして消滅した。
    「皆さん、お疲れ様でした。お怪我はありませんか?」
     都市伝説が消滅した事を確認し、ユニスが仲間達の無事を確認する。
     幸い仲間達に怪我はない。
     気絶している家主とドーベルマンも、そのうち目を覚ます事だろう。
    「こんな大人に……なるわけないか」
     深い溜息をつきながら、悠二郎が小さく首を横に振る。
     例え、どんな事があろうとも、こんな大人にはなりたくない。
     そう思えるような出来事であった。
    「とりあえず、これで静かに暮らせるといいのぅ」
     祈るような表情を浮かべ、アリシアが口を開く。
     都市伝説が消滅した事によって、日頃から嫌がらせを受けていた者達は、ようやく眠る事が出来るだろう。
     そう思うと何処か気持ちがホッとした。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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