古き羽

    作者:邦見健吾

     放課後の廊下で二人の女子生徒が話していた。
    「知ってる? 扇風機の話」
    「知ってるよ。アレでしょ?」
     エアコンの導入に伴ってお払い箱になった扇風機が、生徒のいない内に学校を動き回っている。そんな噂がこの学校の生徒の間で広まっている。
    「それそれ」
    「想像したくないよね。暗くなった校舎に扇風機とか。シュールレアリズムってやつ?」
     長髪の女子生徒が呆れたように肩をすくめて見せた。対照的に、もう一人のショートカットの女子生徒は嬉々としている。
    「ねえ、ちょっと探してみない?」
    「え、ウソ。見つけたら切り刻まれるって話じゃ」
     長髪の生徒が、表情をこわばらせた。しかしショートの生徒はたたみかける。
    「大丈夫だって、それともコワイの? さっきシュールってバカにしてたくせに」
    「そ、そんなんじゃないけど……」
    「よし、それじゃ決まり」
     ショートの女の子は、ニッコリと笑った。

    「集まってくれてありがとう」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が口を開いた。
    「とある中学校で都市伝説が具現化する。そいつらを倒してほしい」
     元になったのは使われなくなった扇風機が人のいない校舎内を徘徊するという噂。ただ動き回るだけでなく、遭遇した者を切り刻んでしまうらしい。
    「ちょっと厄介なやつらだ」
     校舎は教室棟と特別教室棟の二つあり、それぞれ三階建て。都市伝説はまず四体現れ、校舎の階段や廊下を移動する。
    「先に校舎内を動く四体を倒してくれ。隠れてるわけじゃないから割と簡単に見つかるはずだ。ペアを作って探してもいいかもな」
     その四体を倒すと、教室棟三階の西側の部屋に明かりがつき、ボスが現れる。
    「そいつを倒せば終わりだ。あと、いくつか覚えておいてくれ」
     この都市伝説は鍵がかかって入れないところには現れず、また体育館やグラウンドなど校舎外に現れることもない。
     そして、これらは深夜二時を回ると出現するが、朝五時になると消失するので出現している間に倒さなくてはいけない。ちなみに深夜になれば塀を乗り越えて忍び込むのは容易なので、その辺はあまり考えなくてもいい。
    「こいつらの武器は当然風だ」
     校舎内を移動する四体はボディが白く、神薙刃に似た攻撃を使う。大きさは普通の扇風機だ。
     ボスの個体は他の四体より大きく、大の男ほどの背丈でボディは紺。いかにもポンコツと呼ぶにふさわしい古びた外見をしている。
    「ボスは風を飛ばして攻撃するだけじゃなく、風をまとっての回復と近くの複数の敵を羽で切りつける技も持っている。風の刃は白の四体より強力だ」
     相手を拘束するような攻撃はないが、時間には注意が必要だ。
    「ちなみに、ボスが出現するのは少子化の影響でクラスが減って空いた教室らしい」
     使われなくなったってところは共通しているな、とヤマトが遠くを見てぼやく。
    「それじゃ、頼んだぜ」
     ヤマトはサムズアップで灼滅者を送り出した。


    参加者
    平・等(渦巻き眼鏡のレッドキャバリア・d00650)
    日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)
    六六六式・美空(逸般人・d05343)
    東堂・イヅル(デッドリーウォーカー・d05675)
    月雲・螢(手料理で仲間を灼滅する眼鏡姉・d06312)
    巴津・飴莉愛(白鳩ちびーら・d06568)
    五百蔵・大和(蒼流大和・d10407)
    神園・和真(カゲホウシ・d11174)

    ■リプレイ

    ●チームA・教室棟
     灼滅者たちは、まず二手に分かれてそれぞれ教室棟と特別教室棟を探すことにした。
    「扇風機が襲ってくるなんて……思ってもみないな」
     懐中電灯をつけて点検する五百蔵・大和(蒼流大和・d10407)。
    「扇風機が……ぶ、不気味であります」
     その大和に体を寄せ、一人震える六六六式・美空(逸般人・d05343)。
    「人の恨みも怖いが、モノの恨みも怖いもんだね、くっくっく」
     不敵に笑み、傍らにナノナノの煎兵衛を従える平・等(渦巻き眼鏡のレッドキャバリア・d00650)。
    「それじゃ、行きましょうか」
     そして、静かに出発を促す月雲・螢(手料理で仲間を灼滅する眼鏡姉・d06312)の四人が教室棟の担当だ。
    「逸脱!」
    「忌わしき血よ、枯れ果てなさい……!」
     扇風機との遭遇に備えて、まずはスレイヤーカードから殲術道具を開放する。
     コツ、コツ。四人は耳を澄ませて扇風機の音を探るが、廊下に響くのは靴の音だけ。懐中電灯が突き当たりの壁を照らしても、そこには何もいない。一階にはいないようだ。
     二階に上がれば、ブゥーンという音がかすかに聞こえる。廊下の隅に近づくほど、そのモーターらしき音が大きくなってくる。懐中電灯の光が、再び壁を照らした。
    「……アレか?」
     目に飛んできた光景に、思わず仲間に同意を求める大和。
     そこにいたのは、背(?)を向けて宙を進む白い扇風機。ソレは突き当たりで180度反転し、こちらを向いて飛んできた。一瞬、にらみ合う灼滅者と扇風機。すると、扇風機はその場に着地して首振りを始めた。おそらくこれが彼らの戦闘態勢なのだろう。
     戦闘、開始。
     螢がエネルギーの壁で扇風機を殴りつけ、大和がサイキックソードで一閃。美空がハンマーで床を叩けば、衝撃波が扇風機を襲う。そして等の指輪から放たれた魔弾と、扇風機が起こした風の刃がぶつかりあって消えた。灼滅者が負った傷は煎兵衛が癒す。
     圧倒的な戦力差を覆せるはずもなく、白い扇風機は砕けて消えた。
    「さて、続きといこうか」
     小学生とは思えない口調で等が言い、灼滅者たちは三階に上った。直後、その目に映ったのは、音もなく床を滑る扇風機。しかも後ろ向き。もし彼が人間だったら、独特な後ろ歩きのパフォーマンスでもしているところだろうか。
    「……」
     四人の間に沈黙が広がった。扇風機は脇目(?)も振らず、廊下を行ったり来たりしている。
     ――ガチャリと、灼滅者が殲術道具を構えた。
    「こちらにいたのは二体だけのようね」
     三階の廊下を探し終わったところで、螢が確認する。
     見れば西側最奥の教室の電気はまだついていない。今は待ちの時間のようだ。

    ●チームB・特別教室棟
     特別教室棟の担当になったのは、日野森・翠(緩瀬の守り巫女・d03366)、東堂・イヅル(デッドリーウォーカー・d05675)、巴津・飴莉愛(白鳩ちびーら・d06568)、神園・和真(カゲホウシ・d11174)の四人。
    「夜の学校って不気味だよなぁ。お化けでも出てきそうだ……って、そのお化けを倒しに来たんだったな」
    「鳩が巻き込まれたら……き、強敵だよう」
     呟く和真に、扇風機の羽を想像しておびえる飴莉愛。
    「付喪神さんなのかな?」
    「家じゃ毎年お世話になってはいるが……」
     率直に疑問を口にする翠と、面倒くさそうなイヅル。四人の反応は様々だ。揃ってスレイヤーカードを取り出し、殲術兵器の封印を解く。季節外れの肝試しの始まりだ。
    「行くぞ!」
    「……あ、ああ、行くぞ!」
     本来のヒーローとしての口調を取り戻し、飴莉愛が先頭を行く。和真は飴莉愛の変化にとまどったものの、すぐに我に返って付いていった。
     モーター音を聞こうと耳を澄ましながら捜索し、一階には扇風機がいないことを確認して二階に上がる。
     四人が目にしたのは、コマのようにその場で高速回転する扇風機。確かに回ってはいるが、羽もモーターもへったくれもない、扇風機らしからぬスピン。気配に反応したか、扇風機は灼滅者たちを見つけ、回転を止めてその場に静止。首振り機能スタート。
    「扇風機って呼んでいいのか、これ……」
     イヅルが呆れて息を吐きつつ、先制攻撃。手の甲についた発生器から生み出したエネルギーの障壁を叩きつけた。
    「白鳩ビーム!」
    「切り裂け!」
     飴莉愛が光線を放てば、和真が死角から斬撃をみまう。扇風機は風の刃で反撃するが、すぐさま翠が護符を飛ばして傷を癒す。
    「来ます!」
     更なるモーター音を察知した翠が、仲間に注意を促す。廊下の奥から、二体目の扇風機が姿を現した。さながらヘリコプターのプロペラのように、羽を上に向けて飛行してきた。
    「……さっきよりは、扇風機らしいかな?」
     和真が顔を苦笑いしながら言った。ヘリコプター扇風機はもう一体の扇風機に並ぶと、器用に体勢を変えて静かに着地。そして首振りON。その首が向いた先は、翠。
    「おっと」
     翠への攻撃を、イヅルが間に入って防ぐ。
    「あ、ありがとうございます」
    「怪我させたらあいつがうるさ……友達を守るのは当然のことだ」
     礼を言う翠に対し、イヅルは出かかった本音をごまかした。
     二体に増えた扇風機にひるむことなく攻撃を続ける灼滅者たち。二体の扇風機たちを倒すのに、それほど時間はかからなかった。
    「向こうも終わったみたいだな」
     飴莉愛が教室棟の明かり確認してそう言うと、三人の灼滅者が頷いた。

    ●蒼き躰
     合流を果たした灼滅者たちは、素早く突入するべく前後の出入り口に分かれて待機する。
    「三、二、一……突撃であります!」
     美空の号令で灼滅者たちが突入し、手際よく、打ち合わせ通り陣形を組み立てた。前衛はイヅル、螢、飴莉愛、大和の四人。中衛は和真、等、煎兵衛の二人と一匹、後衛は翠と美空の二人で担う。
     対する扇風機は、いわゆる工業扇と呼ばれる型のもの。元々1m以上の高さだが、この都市伝説はさらに巨大化し、蒼き躰は天井に届こうかというほどの高さ。四枚ある羽の直径は50cmをゆうに超え、モーターは高速で回転して唸りを上げる。
    「ほらほら、私に攻撃してはいかが?」
     灼滅者たちは臆することなく、見事に先手を取った。敵の攻撃を引き付けようと、螢、イヅルのディフェンダー二人はシールドバッシュで攻撃。
    「鳩の豆鉄砲、お気に召したかな?」
     続く飴莉愛がジャッジメントレイを放った。ただ、やや大仰な口調に似合わずきょとんとした顔は、見る者の緊張感を削ぐかもしれない。
    「行くであります!」
     ロケットの勢いを利用し、後方から美空が突撃する。ハンマーが扇風機のボディを叩いた。
    「くっ」
     扇風機も黙ってはいない。風の刃がイヅルを襲った。しかし。
    「安心して戦っていただくのが、わたしの務めです!」
     翠が機敏に反応し、護符を投げた。煎兵衛も回復に回って戦線を維持する。
    「くっくっく、片づけてやるぜ」
    「食らえ、負と侵食の弾丸!」
     等のペトロカースによって扇風機の体の一部が石化し、和真と大和のデッドブラスターが扇風機のカバーをはじき飛ばした。
     次の瞬間、扇風機が大和たちの前に迫った。図体に似合わないその速さは、まるで瞬間移動のよう。ただでさえ大きい羽をさらに伸ばし、灼滅者たちを切り刻まんと高速回転させる。
    「お前の羽では俺の刃は斬れない!」
     大和は赤いサイキックソードを振り抜いて、凶悪な刃と化した羽をはじいた。
    「ふふ、そんな攻撃じゃ私は倒せないわよ」
     螢が唇を舐めるさまはどこか扇情的だ。イヅル、螢、飴莉愛らほかの前衛もうまく受け流し、幸運にも深手を負った者はいなかった。
    「旋風」
    「やらせないよ!」
     翠が撃ち出した風の刃と、和真が放った影が扇風機を呑み込んだ。
     扇風機は全身が細かい傷だらけで、廃品のような見た目になっている。灼滅者が有利に戦いを進めているように見えた。
    「何だ!?」
     その時、飴莉愛が驚きの声を上げた。扇風機の回転速度が急激に上がったのだ。羽が巻き起こした豪風が扇風機を包み込む。風の中から出てきた扇風機は、わずかに石になったり欠けているところを除けば、新品と見まがう状態だ。
    「こりゃあ、てこずりそうだな」
     イヅルの頬を、冷たい汗が伝った。

    ●お休みなさい
    「突貫します!」
    「ぶった斬るぜ」
     美空と等が獲物を振り上げ、敵を両断せんと肉薄する。しかし、扇風機は羽を逆回転させ、急後退で連撃をかわした。
     ブオォォン!
     扇風機の羽が、前衛の灼滅者たちを襲った。
    「まかせてください」
     翠が柔らかな風を吹かせ、その傷を癒す。戦闘が長引き、ほとんどの者が傷を負い、疲弊していた。扇風機の攻撃が分散していなければ、倒れる者がいてもおかしくなかっただろう。だが、扇風機も無傷ではない。風の力で回復しきれない傷が、その体に無数に刻まれている。
     灼滅者が攻めれば、扇風機が押し返す。一進一退の攻防が続いた。そして、先に音を上げたのは扇風機の方だった。
    「どうかしら?」
     螢のジグザグスラッシュが刺さると。
     ブゥゥ、ブン、ガガガ!
     駆動部が石と化して羽の回転が弱まり、ボディにひびが入る。
    「今だ!」
     勝機をものにするべく、大和が左袖から封印のかけられた杖を抜き出しながら突進した。杖を打ちすえれば、羽の一枚がパキリと割れた。
    「白鳩キック!」
     続いて、床を蹴って宙に上がった飴莉愛が強烈なとび蹴りを見舞う。またも羽がはじけて飛んでいく。
    「そろそろだね」
     和真が目にもとまらぬ速さで扇風機の下に潜り込み、ナイフでもう一枚刈り取る。
    「これで終わりだな」
     イヅルが繰り出す光の壁が扇風機を正面から叩き潰し、最後の羽が砕け散った。羽をなくした扇風機の回転が徐々に遅くなり、やがて完全に止まった。すぅっと輪郭が薄くなり、扇風機だったものが空気に溶けて消えていった。

     都市伝説が消滅したことで、ついていた教室の明かりが消えた。
    「ひゃっ!」
     美空が驚いて、短く悲鳴を上げる。
     懐中電灯を使って教室を一通り見回したが、特に見つかる物はなかった。
    「ま、変な噂がたたんよう、物は大事に使わんとな」
     等が眼鏡の位置を直しながら言うと。
    「今度の夏は、扇風機にも働いてもらおうかね」
     大和が手であおぐジェスチャーをしながら答えた。
    「少子化も影響しているのかしらね」
     この国の将来を少し懸念しつつ、螢は心の中で扇風機に感謝と労いを述べる。
    「それじゃあ帰りましょうか」
    「そうだな、眠いし」
     翠が笑顔で言うと、イヅルがあくび交じりに賛成した。時刻はまだ夜更け前。眠たがるのも無理はない。灼滅者が教室から出て行く。
    「ゆっくり眠りなよ」
     和真はあの扇風機がいた場所を見やりながらそっと言って、最後に教室を出た。
     そうして、灼滅者たちは夜の学校を後にした。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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