怪物装う、鬼

    作者:君島世界

    「武装強盗やんね? ひっさびさにテレビ見てて思いついたんだけどよお」
     廃ビルの一室、『事ム所』と書かれた木板を打ち付けた扉を、一人の羅刹が蹴り開けた。入りぎわのボスの一言に、居並ぶ手下の全員は一斉に立ち上がり、深々と腰を折る。
    「お疲れ様です!」
     三人全員の揃った挨拶に、羅刹は上座のソファーにどっかと腰を落とし、一応の会釈を返した。
    「オウ。じゃーケツ取るぞ。お前、一歩前に出ろ」
    「オス!」
     羅刹に指差された男が、足音を立てて言われたままの行動をとる。
    「俺たちはこれから武装強盗する。どう思う?」
    「オス、賛成です!」
    「オメエは軍人さんかっつの。……まあいいや、これで全会一致な」
    「オス、全会一致で武装強盗です!」
     またも、三人全員が同じ返答をした。挨拶はまだしも、こういう返答まで一字一句同じなのは気味が悪いと、羅刹は内心に思う。
    「じゃあその隣のお前、一歩前。武装強盗と俺たちを比べて、足りないものはなんだ? 俺たちは何を手に入れればいい?」
    「オス、武器と変装です!」
    「おお、冴えてるじゃねーかお前。武器持ってりゃそれでいいかと思ってたが、変装もありゃケレンミが増しておもしれえ」
     決まりだ、と羅刹は立ち上がった。三人の手下も、部屋を出ていく羅刹を追っていく。
    「変装を『貰いに』行くぞ。人数がちょいと足りねえが、装っておどかし歩くのはおもしれえぜ? 経験者が言うんだから間違いねえ――」
     
    「こんにちは、皆さん。そろそろ寒さが厳しくなってきましたね……。皆さんは『バベルの鎖』の力もあって、体調は崩れにくいはずですが、油断は厳禁ですよ」
     生地の厚い冬服を着込んだ五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、集まった灼滅者たちに暖かい微笑みを向けた。
    「さて、今回皆さんに向かっていただきたいのは、武装強盗をもくろむ羅刹と、その手下三名からなる一団の所です。通常の手段では、接近する前に察知されてしまいますので、これから私が説明する手順に従った行動をお願いします」
     羅刹とその手下は、パーティグッズのマスクをかぶった状態で街中の大通りに現れる。その中央付近で周囲を歩く一般人に手当たり次第襲いかかり始め、金品を強奪するだろう。使うサイキックは『神薙使い』ならびに『無敵斬艦刀』と同等の威力・効果を持っているため、十分な対策が必要だ。
     羅刹の予知を抜けて接近するには、現場となる中央地点にて『待ち伏せ』を行う他にない。事前に現場入りし、マスクの四人組がその場に通りかかるまで、隠れ続けていなくてはならないのだ。
     注意して欲しいのは、敵全員が頭をすっぽりと隠すマスクをかぶっているため、どれが羅刹でどれが手下なのかが、最初は『外見からは判断できない』ところだ。灼滅者たちとの戦闘になれば、全員が前衛クラッシャーのポジションとして動くので、手下と油断して羅刹の手痛い一撃をもろに食らうことのないようにするべきだ。
     ただ、彼らがマスクを被っているのは、『武装強盗団として動くという余興の為』であるので、そうも言ってられないほど状況が悪化すれば、羅刹はそのマスクを破棄するだろう。ある意味では、そこからが戦いの本番と言える。
    「クリスマスや年末を控え、パーティやプレゼントの準備をする人が、現場には大勢います。そんな人たちの小さな幸せを壊されないよう、この羅刹の灼滅を、どうかよろしくお願いいたしますね」


    参加者
    桜埜・由衣(桜幻ラプソディア・d00094)
    蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)
    草壁・那由他(小学生魔法使い・d00673)
    御神・白焔(黎明の残月・d03806)
    伊奈波・白兎(キャノンボールビューティー・d03856)
    渡橋・縁(かごめかごめ・d04576)
    神木城・エレナ(霊弓・d08419)
    高倉・光(羅刹の申し子・d11205)

    ■リプレイ

    ●夕刻の街道
     大通りに面したビルとビルとの間、雑多に散らかった路地裏で、御神・白焔(黎明の残月・d03806)はじっと息を殺し、気配を消し続けていた。こんな場所に目を向ける者もなく、白焔はその時を待ち続ける。
    「時間通りに、来るでしょうか」
     白焔よりさらに奥で、草壁・那由他(小学生魔法使い・d00673)は夕焼けを眺めながら言った。指定されていた時間は16時30分……ちょうど、日没と同じタイミングだ。
     ひとりごとのような那由他の疑問文に、白焔は言葉での答えを返さなかった。それを『疑うまでもない』を意味するものと理解し、白焔先輩はまじめなのですね、と那由他は内心に思う。
     と、白焔は額を動かして視線を外に向けた。釣られて見る那由他の視界に、通りを歩く仲間の姿が入る。
    「――こちらに視線を向けるな」
    「え? あ、はい。大丈夫です。時間までここにいますので、まあそう焦らずに」
     白焔の短い警告に、電話をするふりをして相槌を打つのは、桜埜・由衣(桜幻ラプソディア・d00094)だ。人ごみにまぎれることで隠れることを選択した者は、由衣の他にも二名いる。
     由衣は携帯電話をバッグにしまって、さりげなく仲間の姿を確認した。通りのこちら側、たい焼き屋の前で右往左往しているのは、渡橋・縁(かごめかごめ・d04576)だ。
    「たい焼き、屋さん、でも、時間……。どう、しよう」
     財布を開き、時計を確認し、迷うように視線を泳がせ……。縁は自然と言える態度で通りの左右を確認しているように見えるが、もしかしたら本気で迷っているのかもしれない。
     そんな縁とは対称的に、蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)は向こう側を早足で抜けていく。悠が人を待つ時間に散歩するという体で確認していたのは、周囲の道の構造と、導き出される逃走路だ。
    「さて、刻限まであと僅か――ですね」
     悠は腕時計を眺め、近くのビルに背中を預けて停止する。これ以上動き回る必要はなく、あとは敵を待つばかりということなのだろう。
     同じく周辺の確認を担当していたのは、ライドキャリバー『ベヒーモス』を駆る伊奈波・白兎(キャノンボールビューティー・d03856)だ。悠がいる側に停車し、風に流されていた髪を払って整えると、その場からもう一つの路地裏に話しかける。
    「来る方向、直接には見てないけど大体は見当ついたよ。多分あっち側から……すこし変な表情をしてる人が多くてねー」
    「了解しました。では、一般人の避難を開始しますね。少なくとも、これ以上増えないように」
     日陰の中から返答をしたのは、そこに隠れていた高倉・光(羅刹の申し子・d11205)だった。ESP『殺界形成』を広げる光の後ろには神木城・エレナ(霊弓・d08419)もおり、彼女は唸り始める霊犬『凍鈴』の鼻先を撫で、あやし続けている。
    「凍鈴が唸るなんて、珍しいわね。……ええ、この人たちの笑顔を守るためですもの。一緒に頑張りましょ」
     街は、冬の温かな寒さに包まれていた。暖色の夕日包まれた通りを歩く人々の表情は、こんな繁華街だからこそだろうが、凍えるだけのしかめ面ではない。
     誰も彼もが、行き先へ帰る場所へと一直線だ。だが、そんな急いた様子の人々の様子と空気が、ある瞬間に騒がしさへ侵食される。
     ――それは、道路の真ん中を歩いてやってきた。

    ●包囲街道
     鹿、馬、赤鬼、青鬼……。パーティマスクをつけた男達が、刃を削りだした鉄骨をそれぞれ手にし、センターライン上を一列に歩いていた。
     光の『殺界形成』は既に効力を発し、新しくこの周辺に入り込む自動車や一般人はいない。だが、脱出を終えていない者も数人見受けられる。
    「あ、来ちゃった、ね……。おばさん、また、今度」
     開きかけていた財布をしまい、縁は帽子を目深に被りなおした。同時に彼女が展開するのは『パニックテレパス』……、周囲の一般人を強制的にパニック状態にするESPだ。
     時を同じくして、エレナも『パニックテレパス』を発生させ、間髪いれず二人は大声を搾り出す。
    「危ない! 今すぐここから逃げて!」
     瞬く間に騒然となった大通りから、彼女たちを中心に一般人がクモの子を散らすように逃げ始めた。ある者は道を急に引き返し、ある者は店舗を飛び出し逃げていく。
     その様子を見て動きを止め、何事かとうかがう羅刹とその一行へ、灼滅者たちは一斉に駆け出し、包囲を完了させた。そのとまどいの隙をついて、ベヒーモスにまたがった白兎が颯爽と前に回る。
    「どーもー、街の不審者をぶっ殺し隊でーす! さってと、袋叩きにあってもらいますか!」
     陽気な名乗りとともに、白兎はアクセルをいきなり全開まで上げた。衝突回避のため左に移していた重心をカウンターで返し、同時に機銃のスイッチをオン、白兎が持つテクニックを全てつぎ込んだ最小回転の内側を、全周の弾丸で撃ち染める。
    「おまけっ!」
     スロットルを握っていた右手の位置を移し換え、同時に車体が進行方向に対し鈍角になるほど左後ろに引き込んだ。急速に回復したグリップが引き出すスピンの勢いを、白兎は腰を浮かせて指先の手裏剣に一点集中、その本命の一投は爆発をもって敵に大打撃を与えた。
    「……!」
     追撃に走ったのは白焔だ。正面に立つ青鬼マスクに向かって、白刃を手にまっすぐ背を伸ばして歩き出す――と。
     紅く、斬撃が走った。
     掛かる夕日と流れる影とを置き去りに、白焔は四肢の疾走を繰り出したのだ。ゆらりと、光陰の追いつきに白焔が姿勢を立て直すよりも遅く、青鬼マスクは苦悶の声を上げた。
     攻撃の流れはここで留まらない。ふと敵に背中を向けた白焔は、その正面にある街路灯を重力に逆らって走り上がり、頂点を蹴って大きく後方に跳ぶ。
     それは、視線を追いつかせようと振り向く青鬼マスクの前から、完全に抜け出す動きだ。虚を突かれた青鬼マスクの背を、切り上げがさらに深く裂いていく。
    「回復される前に、手下かどうか確定させないと……」
     そう言ってマテリアルロッドを構えたのは、離れた場所からその様子を見ていた那由他だ。今回の作戦は、まず手下を一人倒し、その時の反応から本命の羅刹を見破るというものだった。
     先ほどの悲鳴だけでは手下かどうかはまだ仮定しかできない。が、その傷は羅刹だとすれば少々深く入っているように思える。
     故に那由他は、魔力の矢を急速に圧し集めた。青鬼マスクに回復の隙を与えず、もしこの攻撃で倒れるようなことがあれば、それは手下として確定できる。
    「い、行きます……」
     開放され、いくつもの流星となって着弾した矢は、はたして青鬼マスクの体を地に押し倒し、その動きを止めさせた。自分の考えが間違いではなかったことに、那由他は小さく息をつく。
     しかし、手下が一人倒されただけでは、羅刹は気にもしないらしい。まだフォローは効くとでもいうのか、激昂しての指示出しも突出も、素振りすら見せなかった。
    「なら、さらに誘導をかけてやりましょう!」
     悠は伊達眼鏡のブリッジを押し上げ、言い放つ。
    「私たちは、どうやら今回の『獲物』を過大評価していたようですね。手下に紛れるなんて、ボスとしては腑抜けもいいところですから!」
     その挑発を目くらましに、悠は不可視の魔術を発動した。熱を奪われた赤鬼マスクの体は氷結をはじめ、結果として悠は、作戦を成功させる。
    「侮るな、小娘がああぁぁっ!」
     赤鬼マスク――羅刹は全身の氷を打ち払い、悠に向けて指を突きつけた。

    ●たそがれの悪鬼
    「あの小娘だ! テメエら、殺せ!」
    「オス! ゼンゴロシにします!」
     羅刹の指示を受け、残る手下が悠に殺到する。悠は一体の振り下ろしを体さばきでかわし、さらに襲い掛かる横薙ぎの一撃を、
    「使って、悠さん!」
     素手で――否、光が先を読んで送っていたリングスラッシャーで弾き返した。手の甲から腕までを電流のような痺れが走るが、負傷としては数えない程度のものだ。
    「ふふっ、おちょくられてムキになるだなんて、言われた通りの三下だなあ、お前!」
     光は己の仕事を誇るように両手を浅く広げ、周囲を旋回する光輪を分裂させていく。
    「あなたでは、……あなたごときでは、踏み台にもならねえですね」
     悠を襲った手下を捨て置き、集中攻撃の初手として、光は容赦のない射出を見せた。切り裂かれていく大気、その真空を追い、エレナの護符もまた羅刹に襲いかかる。
    「凍鈴は悠さんを援護して。私は、ちょっと本気で頑張るから」
     言ったエレナは護符揃えからさらに一摘みの符を引き破り、まとめて射線に乗せた。先だって光が羅刹の肌を裂いた箇所を狙うかのように、護符は吸着し威力を流し込む。
    「そんなマスクなど被って練り歩くなんて、愉快犯気取りだったのかしらね」
     一時の楽しみのために暴力を振るう者には、手加減など不要。その全神経を傾けて、エレナを始めとした総員が、敵の続く動きを探っていく。
    「…………しい」
     呟いたのは羅刹だ。同じ単語を繰り返し、しかし暗示をかけるよう徐々にボリュームを上げていき、くぐもった声を誰にでも届く脅し声へと変える。
    「うっとうしいっ! んっだテメーらぁ、邪魔立てするならもっと近くに来やがれ!? 殺すからよぉお!」
     空気が変わった。ふざけたマスクは被ったままだが、なお迫力に余りある羅刹の怒号と殺意とが、夜気を含んで黄昏に広がる。
     言葉と反して羅刹が自分から前に出た瞬間、アスファルトが花散らすかのように巻き上がった。見れば、羅刹が叩き付ける鉄骨がバターのように何度も地面を切り裂き、出口を求める力がクラックを断続的に爆裂させているのだ。
     つぶてと例えるにはあまりに大きな塊が、前線に立つ灼滅者たちに襲い掛かった。その惨状をメディックとして確認した縁だが、成すべきことの要点を思い返し、迷わず力を呼び出す。
    「ごめんなさい、少しだけ我慢をお願いします」
     縁が引き出した力は、癒しの浄風ではなく束縛の護符陣だった。仲間達が被ったダメージは確かに心配だが、爆発が無駄に大きく、羅刹の姿が見えなくなったことが気になる。
    「なら、通せんぼですね。……五星、結界符!」
     正五角形を描くように突き出された護符が、それぞれを端とする十の結界面を貼り合い、渦を巻いて拡大していく。回転する陣が、土煙の向こうでこちらに背を向けていた羅刹の体を絡め取った。
    「チッ、小癪者が!」
     離脱の姿勢を取ろうとしていた羅刹は、その機を失ったことを悟り立ち止まる。これに耐えて反撃を、と構えた羅刹の目に、由衣の姿が映りこんだ。
    「ここで逃がすようなことがあれば、どこかで誰かが傷つくかもしれない……!」
     最前列で攻撃を受け、痛みに体を震わせていた由衣が、しかし目に戦いの意思を込めて己を立て直す。群青色の夕空と同じ色をした由衣の影からは、到達へ向かう彼女の意識と連動した殲術道具、影業が音もなく浮かび上がる。
    「はい、我慢しますね、縁さん……。私の傷なんかよりも、追わなければならない者が、目の前にいるのです、から」
     一歩目、二歩目。由衣は動くまでもなく射程内にいるが、無意識のうちに踏む、その三歩目、四歩目――。
    「く、くそ……追いつかれ――、くそおおおぉぉぉーーーーーーっ!」
     ザギリ、と羅刹の足を貫き通した影が、その勢いのまま体を昇りあがり、絞り尽くした。

    ●日は暮れ、そして
     羅刹は倒れ、足先から解けるように灼滅されていく。ボスを失った手下たちはそれでも応戦するが、さしたる脅威とはならず順当に倒されていった。
     暴虐の限りを尽くし、思うままに暴れ回っていた羅刹も、今や指の一本も動かすことはできない。その体の横にしゃがみこんでいた光に、羅刹は虫の息で話しかけた。
    「よお。……マスク取れや、小僧」
     まさかを思い、光はその赤鬼マスクを引き剥がす。その下にあったのは、意外にも笑み顔を浮かべた、見知らぬ角持ちの青年だった。
    「お前も……お前らも、角、生やせや。楽しいぜ――保証する」
     羅刹は嫌らしく笑いを歪め、そのまま動かなくなった。
    「あなたに、怒りを感じてはいません。むしろ自制心を失い、獣同然に成り下がったことを哀れに思います」
     光が言う弔いを継いだのは、羅刹の灼滅を確定させた由衣だ。万感の思いを込め、すう、と深く息を吸う。
    「もうダークネスに消されてしまったのでしょうが、本来の貴方へ、言ってさしあげたいことがあります。
     さようなら。安らかにお眠りください――」
     言い切りを待たず、羅刹は夜の風に消えていった。吹き行く先を見れば、冬の星座が形を成している。
    「……すこし、疲れたわね。凍鈴もちょっとグロッキーみたい。大忙しだったから、無理もないけど」
     甘えるように膝元に寄る霊犬の頭に手を乗せ、エレナは遠くの空を見ていた。その聞いている相手を考えない言葉に、那由他は淡々と答える。
    「はい、今回はまた違ったタイプで強敵でしたね。あのマスクも――あ、風邪対策のものとは、種類が違うんですよね?」
     と、那由他の突拍子もない質問が、沈みそうになった雰囲気の中に唐突に現れた。そんな世間知らずに灼滅者たちは微笑んで、その場の後片付けを始める。
    「耕されたアスファルトは、私たちだけではどうにもならんか。始末は後々考えるとして――」
     白焔はそれ以上を語らず、道路上に倒れている三人のマスク男達をひょいと持ち上げる。灼滅者の腕力はそんな重量のある物体を軽々と支えるが、白焔の腕から一人を吊り出し、背負って向かう路地裏へ一歩先を進み始めたのは、悠だ。
    「いや、凄いことになってましたね。改めてダークネスの恐ろしさを、思い知りました」
     その横を、白兎がライドキャリバーを押し歩いている。はあ、と白兎はわざとらしいため息をついて、物憂げな表情を見せた。
    「そうね。あたし個人は脳筋ってかバカな子は嫌いじゃないけど、やりたい放題で面倒掛けてトンズラーってのは、ねえ?」
    「はい、そ、ですね……。必要のない、ことで、お邪魔された、から」
     言葉につかえながらも、縁は無人のたいやき屋のキッチンを見ながら、率直に意見を述べる。生焼けのままで放置された作りかけのたい焼きは、もしかしたら自分が口にするものになったかもしれないのだ。
    「だから、また、来ましょう。平和に、なった、この場所へ」
     と、完全な日没を向かえ、夜一色となったこの大通りで、日のある内には大して目立たなかった、割と大掛かりなイルミネーションが一斉に点灯と点滅を始めた。歩道脇に植わった背の高い街路樹には、一番上から地面すれすれまでに色とりどりの電球が結び付けられ、おそらくは住人が飾ったのだろう、入り口横の電気人形がにこやかに回転を始める。
     起こるはずだった惨劇を未然に食い止めた灼滅者は、人が戻り始めた大通りを、足並みを揃えて去っていった。

    作者:君島世界 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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