森の中に、兄妹だけが知っている秘密基地があった。
倒れかけた樹木を利用した小さな空間。
それは、家でも学校でも居場所のない幼い彼らが作りあげた、ささやかだが、かけがえのない場所だった。
だが、その秘密基地は今、見る影もなく破壊されている。
破壊の中心には、ひとりの少年がうずくまっていた。
「ううう……」
じっと自らを抱え、少年は何かに耐えるようにうめき声をあげる。その身体からは、ちらちらと炎が噴き出していた。
そうして、どれだけの時間が過ぎただろうか。
「……しゅうにいちゃん?」
不意にかけられた声に、少年が驚きと共に顔を上げる。視線の先で、ひとりの少女が秘密基地に足を踏み入れていた。
「やっぱりここにいた……どうしたの! 具合悪いの!?」
「来るなっ!」
駆け寄る少女を、少年が鋭く制止する。鬼気迫る表情に、少女は思わず足を止めた。
「……どうして来た?」
「だって、しゅうにいちゃん、何日も家に帰ってこないし、学校にも来ないし……」
おずおずと呟く少女に対し、少年は笑顔を向けた。苦しくても、いつもと同じ笑みを。
「僕はだいじょうぶだから、咲知は帰れ」
「でも……」
それでも、その場からじっと動こうとしない少女に、徐々に少年の苛立ちが募り始める。
「いいから、帰れ!」
「あうっ!」
突き飛ばされた少女が、勢いよく地面に叩き付けられる。思いもよらない力に驚くのも束の間、青ざめた少年が慌てて助け起こそうとして、
「ごめ――」
少女の鞄からこぼれた、それを見つけた。
地面に散らばったのは、ボロボロに破られた教科書や、心無い言葉で埋められたノート。引き裂かれた上履き。そういった、悪意が込められた品々だった。
それらが何を意味するのか、少年には聞くまでもなく理解できた。なぜなら、彼もかつて同じ経験をしていたから。
怒りと憎しみが、一瞬で少年の心を支配する。
次の瞬間、少年の全身から爆発するように炎が膨れ上がった。
「しゅう、にい、ちゃん……?」
少女の呆然とした呟きを、獣の咆哮がかき消す。
炎の中から現れたのは少年の姿ではなく、一匹の巨大な獣だった。
理性を失い、破壊と狂気に彩られた瞳が目の前の少女を捉える。そして――。
「みんな、イフリート事件に巻き込まれてる兄妹を助けてあげて!」
教室に飛び込むなり、切羽詰まった様子で須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は告げた。
「事件の中心にいるのは、五十風修くんっていう男の子。普通なら闇落ちしたダークネスは人としての意識が消えちゃうんだけど、修くんの場合、まだ自分の意識を保ってるんだ」
かろうじてだけど、とまりんは小さく付け加える。つまり、放っておくと完全なダークネスになってしまうということだ。
「それだけじゃなくて、イフリートになった修君は今まさに、妹の咲知ちゃんに手をかける寸前なんだ。だからみんなには、ふたりの救出をお願いするよ!」
ぎりぎりだが、今から急いで現場に向かえば、咲知が襲われる前に到着することが可能だとサイキックアブソーバーは示した。
現場は地方にある山中の森。子供の足で行ける距離なので、迷ったり見つからなかったりする、といったことはないとのこと。戦闘にも特に支障はない。
「方法はみんなに任せるけど、間に割って入ったり、攻撃して注意を逸らしたりして、なんとか咲知ちゃんを助けてあげて。その後は、修君との戦いになるよ」
闇落ちしかけた修との戦いは避けられない。そのため、彼が完全なダークネスとなる前に灼滅する必要がある。
だが、もし彼に灼滅者の素質があるのなら、灼滅者として生き残る可能性もあるだろう。
「もしかしたら、みんなが声をかけてあげることで、修君の心が反応をしてくれるかもしれないね。あと、危険だけど咲知ちゃんに声をかけてもらうっていう手もあるよ。でも、かなりショックを受けているはずだから、絶対に無理強いはダメだからね」
イフリートは角を持った巨大な獅子の姿をしているという。
「力やスピードはもちろん、ファイアブラッドと同じサイキックを使うから、特に気を付けて」
圧倒的な破壊力、そして獰猛な獣の力を持つイフリートは、灼滅者が数人がかりでようやく対処できるほどの強さだ。決して気の抜けない戦いになるだろう。加えて、救出すべき一般人もいる。
それでも、目の前の滅者達を信じ、まりんは力強く言った。
「大変だし、危険な依頼だってわかってるけど、みんなで力を合わせればきっと上手くいくよ! 頑張って!」
参加者 | |
---|---|
宮廻・絢矢(ポゼッション・d01017) |
白鐘・睡蓮(火之迦具土・d01628) |
篠原・朱梨(闇華・d01868) |
貳鬼・宿儺(双貌乃斬鬼・d02246) |
朧木・フィン(ヘリオスバレット・d02922) |
水無瀬・楸(黒の片翼・d05569) |
明鏡・止水(中学生シャドウハンター・d07017) |
津守・皓(スィニエーク・d08393) |
●炎の獣
イフリートが地を蹴った。
「あ……うあ……」
目の前の恐怖に、咲知がうめいた。炎を纏った巨体が、恐ろしい速度で咲知へと迫る。イフリートの口から、無数の鋭い牙がのぞいた。
次の瞬間、
「――はあっ!」
弾丸のように飛び込んできた白鐘・睡蓮(火之迦具土・d01628)が、イフリートを殴りつけた。その表情には、小さく歓喜の笑みが浮かんでいる。
「遂に……遂に出会えたなイフリート。私は恋焦がれていたぞ。お前達と言う存在に!」
予期せぬ衝撃と闖入者に、イフリートはわずかに逡巡した。
その一瞬を狙い澄まし、飛来したいくつもの銀閃がイフリートの身体を絡め取る。鋼糸による封縛糸だ。
「長く保たない。今のうちに!」
圧倒的な膂力に振り回されそうになりながら、津守・皓(スィニエーク・d08393)が叫ぶ。
鋼糸を振り払い、再びイフリートが視線を咲知に向けた。だが、死角からの斬撃がその動きを阻む。
「行かせないよ」
宮廻・絢矢(ポゼッション・d01017)がイフリートの注意を逸らした隙を突き、駆け寄った明鏡・止水(中学生シャドウハンター・d07017)が咲知を抱き上げた。
「無事かい?」
「ひぅっ、だ、誰……です、か?」
状況の変化についていけず、混乱した咲知が、腕から逃れようともがく。
そんな少女をイフリートから隠すように位置取りながら、朧木・フィン(ヘリオスバレット・d02922)が声をかけた。
「落ち着いて! 助けに来ましたの!」
「でも、しゅうにいちゃんが……」
「……大丈夫」
篠原・朱梨(闇華・d01868)が、咲知の手をそっと握ると、咲知は少しだけ落ち着きを取り戻してくれた。
少女を抱え直し、止水が駆け出す。
逃がすまいと、イフリートから炎が迸った。
『不退転――我が身一時、盾とせん』
瞬間、貳鬼・宿儺(双貌乃斬鬼・d02246)と水無瀬・楸(黒の片翼・d05569)が、身体を張って炎を止めた。
「止水ちゃん、その子お願いねー。掠り傷1つ負わせちゃ駄目だよ?」
ダメージを受けながらも、楸がいつもの調子で言う。頷いた止水は、咲知を連れて戦闘から離脱した。
「さあ、貴様の相手はこちらだ、イフリート!」
獲物を逃がした怒りのまま、獣は睡蓮へと襲いかかる。
全身の炎が、さらに激しく渦を巻いた。
●灼熱の戦場
戦闘から十分に離れたのを確認してから、止水はゆっくりと咲知を降ろした。
「あ、あの……」
咲知が止水を見上げる。先程に比べると、咲知の動揺や混乱は治まっているように見えた。しかし、彼女の疑問や感情が晴れたわけではない。
止水はしゃがんで目線を合わせる。
「ねえ、君の名前、教えてくれる?」
「え? あ、はい。咲知、です……」
「咲知ちゃん、よく聞いて。自分達は、君の兄貴を止めに来たんだ」
先ほどの恐怖を思い出したのか、咲知は身をすくませる。それから、恐る恐る口を開いた。
「あれは、やっぱりしゅうにいちゃんなんですか……?」
「そう、だね。彼は、色々なことに怒って、それで周りを壊すことしか考えられなくなったんだと思う」
「ウソです! しゅうにいちゃんはいつも私を守ってくれたもん! あんなことしない!」
じわりと、咲知の目に涙が浮かんだ。痛みに耐えるように、兄に突き飛ばされた肩を抱いている。
そんな彼女の頭を撫でてやりながら、
「兄貴は、優しかった?」
小さく、だがはっきりと咲知は頷く。
「でもね、誰にだって怒りを抑えられなくなることはあるんだ。我慢し続けていたら、なおさらね。そして怒ったのは、咲知ちゃんをいじめた奴らに対してだ」
びくりと、咲知の身体が震えた。それが自分の罪だとでも信じているかのように。
「決して、咲知ちゃんが悪いんじゃないよ。ただ、できることなら呼びかけてあげてほしい」
「なにを……ですか?」
「帰ってきてほしい、って。優しかった兄貴に、戻ってほしい、って」
その言葉に咲知は俯いて黙り込んだ。迷いからか、握りしめた両手が小刻みに揺れていた。
森の奥からイフリートの咆哮が響いてくる。戦闘は続いているのだろう。
どうする? と穏やかに問いかけ、止水はじっと答えを待ち続けた。
灼滅者とイフリートの戦闘は激化していた。
縦横無尽に繰り出される牙と爪、そして噴き出す炎の圧倒的な破壊力が、灼滅者達を押し込んでいく。
「ぐうっ!」
肩に感じた熱さと激痛に、睡蓮が表情を歪めた。突き出した睡蓮の槍を、イフリートは地を這うようにして避け、さらに反撃に転じたのだ。
続けざまに襲いかかろうとしたイフリートを、宿儺の黒死斬が危ういところで止めた。
「退――我が引き受ける。癒しの術を」
「……今いいとこなんだ、邪魔をするな」
どこか熱に浮かされたように睡蓮が言う。イフリートとの戦いが目的の睡蓮にとっては、この時間を無駄にはしたくないのだろう。
「憂――炎の業を負うか」
ぽつりとした呟きが睡蓮に届いたかどうかは「すぐに治すからねー」という楸の声に隠れてしまい、定かではない。そして、それを確かめている暇もなかった。
『ガアッ!』
イフリートが炎の奔流を撒き散らす。燃え盛る炎が、辺り一面を火の海に変えた。
その炎は、同時に、森にあった秘密基地の名残をも焼き払っていく。
だが、
「そうやって、全部全部壊すつもり?」
炎上する戦場を無理やり突っ切って、絢矢がナイフを閃かせた。変形した刃から、肉を裂く嫌な感触が返ってくる。
「全部壊せば君も消えてしまうよ。そうなれば、咲知ちゃんの居場所はどうなるの?」
不快だとでも言いたげに、イフリートが前足を薙いだ。
吹き飛ばされながら、それでも絢矢はイフリート、いや、修に向かって叫ぶ。居場所のない辛さを知ってる自分だからこそ、言える言葉を。
「これからはきっと、僕達が力になってあげられる。だから、闇になんて負けないで!」
「その通りですわ! アナタは兄、なんでしょ! あなたがいなくなったら、咲知さまは誰が守りますの!?」
しっかりしなさいと、フィンが炎を宿した弾丸を叩き込んだ。乱暴な口調だが、その分、むき出しの想いが伝わってくるようだった。
『――ガアアアアッ!』
斬撃と弾丸にイフリートが悲鳴をあげる。だがその雄叫びは、生まれた戸惑いを振り払うためだったのかもしれない。
その証拠に、全身から絶え間なく溢れていた炎が弱まっていた。
それを見て取り、朱梨が無防備ともいえる足取りで近づいていく。
「朱梨さま!」
フィンが叫ぶ。その声は朱梨の耳に届いていたが、足を止めようとはしなかった。
「ね、修くん、聞いて」
眼前の獲物に、イフリートが牙を剥く。
「くぅ……、お兄ちゃんって、妹にとってヒーローなんだよ。大好きで憧れで、大事な人なの。だから、咲知ちゃんはあなたを追って来たの」
迫る牙を影業で必死に押し留め、朱梨は真っ向からイフリートを見据える。
「あなたが咲知ちゃんを遠ざけようとした理由は何? 咲知ちゃんを守りたかったからでしょう?」
修と咲知、それに彼らを取り巻く詳しい事情を、朱梨は知らない。だけど、彼らの想いと行動の意味は、不思議と理解することができた。
なぜなら、誰かを一途に想うことは、朱梨だって負けないのだから。
「自分を強く持って、負けないで、その手を伸ばして──!」
『グ、ガアアアアアアッ――!』
イフリートが強引に首を振り回した。勢いのまま、朱梨は上空に投げ出される。
地面に叩き付けられそうになった彼女を、皓がすんでのところで受け止めた。
「っとと、少し無茶しすぎだ」
「ごめんなさい、でも……」
絶対に助けたいから、その言葉を最後まで言わせず、
「わかってる。……きっと、伝わっているはずだ」
戦いは続く。
灼滅者達が呼びかけ続けることで、イフリートの動きは徐々に精彩を欠いていった。
それでもイフリートは止まろうとしない。灼滅者達はサイキックと連携で対抗するも、疲労とダメージは徐々に積み重なっていった。
溢れた炎がイフリートの傷を癒し、再び灼滅者達に襲いかかる――
「しゅうにいちゃん!」
息を切らせた少女の叫びが聞こえてきたのは、その直後だった。
●護りたいもの
炎に巻かれそうになった咲知を、そばにいた止水が身を挺してかばう。
「ぐうっ」
咲知の悲鳴。直撃に膝を突くものの、咲知が無事と分かったことで、止水は普段の笑みを取り戻す。楸がいち早く駆けつけ、
「ったく、さっきの約束、破ったら許さないところだったぜ」
「すいません、でも、ちゃんと守りましたよ」
「わかってるよ、冗談だって」
止水の傷を癒してから、楸は咲知に向き直る。
「咲知ちゃん、修ちゃんに言いたいことあるんだよな?」
こくりと、咲知が頷く。
「よし、だったら手伝うよ。ここにいる全員で」
な? と呼びかける楸。会話が聞こえた灼滅者達から、次々と同意の声が上がった。
「わたくしが隙を作りますわ、その間に!」
フィンがバスターライフルを構える。動き回るイフリートを追いかけて、長大な銃身がゆらゆらと揺れた。
「絶対に、助けてみせますわ」
決して致命的なダメージを与えないように、そして咲知の声が届くように。
自分の力も、修の力も、大切なものを守るためにあるのだと信じて。
陽炎を裂き、一条の光がイフリートを貫いた。
「今ですわ!」
咲知が駆け出す。炎と熱気に何度も阻まれるも、止水と楸に優しく背中を押されながら、咲知は少しずつ前に進んだ。止水の言葉を、胸に抱きながら。
「しゅうにいちゃん、いつも助けてもらってばかりで、ごめんなさい!」
目の前に身を晒した少女に、理性を失ったはずの獣が、警戒するように唸り、後ずさる。
「わたし、強くなるから。しゅうにいちゃんを守れるくらい、強くなるから!」
内気な少女が、涙と共に声を張り上げた。
そして、
「だから、帰ってきて!」
『アアァァアア――』
悲鳴のような雄叫びをあげ、イフリートは錯乱したように炎を噴き出した。
「妹がこれだけ勇気を出してるのに、お兄ちゃんのお前が応えてやらないでどーするんだよ!」
楸が叫ぶ。咲知が仲間達によって後退するのを確認してから、制約の弾丸を撃ち込んだ。もう二度と、誰かが自分と同じ思いをするのは嫌だった。
魔法弾がイフリートの動きを縛る。
「機――幕引に問おう。坊よ。汝の渇望は何だ?」
動を止めたイフリートに、宿儺が深く踏み込んだ。
「……問――全てを焼けば満足か? 万象一切己が身諸共、灰燼と帰すが汝の渇望か? ……その渇望の、発端はさて何処に消えた?」
重く、まっすぐな問いかけを乗せ、宿儺が日本刀を一閃させた。
「そろそろ終わりにするか!」
よろけたイフリートに、間髪入れず、槍を構えた睡蓮が突撃する。反射的に身を沈め、反撃を試みるイフリート。
「それは、さっき見た!」
だが、十分に戦い、観察を続けてきた睡蓮には通じない。全身が悲鳴を上げるのも構わず、睡蓮は獣の如き動きで宙へと身を躍らせた。
頭上から放った炎の槍が、イフリートを貫く。
痛みに逆上したイフリートが炎をばら撒くも、既に勢いは失われていた。
「──おいで、藍影!」
朱梨が、藍影と名付けた影業を展開させる。
同時に、絢矢が両手で支えたガトリングガンを連射した。
「絶対に、助けてみせる」
ナイフを口に咥え、覚悟と決意を込めて、絢矢が両手でガトリングガンを連射する。
茨の蔦と弾丸の猛攻が、イフリートを押し潰す。そこに、
「――きみは、とても優しい子だ」
皓の鋼糸が、炎に煌いた。銀光が容赦なくイフリートを切り刻んでいく。
「今きみが闇と戦っているのは、誰の為? きみがそうまでして護りたいものは、何?」
苛烈な攻撃とは対照的に、皓は静かに言葉を紡んでいく。きっと、言葉を尽くせるのはこれが最後だと、どこかでわかっていたのかもしれない。少年を案じる皓の声は、どこか柔らかかった。
「きっときみ自身が、一番分かっているだろう」
イフリートの悲痛な叫びが、戦場全体に響き渡る。
それでも、ここで攻撃の手を緩めるわけにはいかなかった。たとえどんな結末になろうとも。
「その想いは、絶対になくしてはいけないよ」
静かに重ねた言葉と共に、皓は炎ごと獣の身体を断ち切った――。
伏したイフリートの身体が、ゆっくりと消滅していく。
最後に残ったのは、あどけない表情で眠る少年の姿だった。
●兄妹
目を覚ました修に、灼滅者達が事情を説明する。ダークネスのこと、自分達のこと、闇堕ちを経て灼滅者になったこと。
「ご迷惑をおかけしました」
一通りの話を聞いた修が、ひとりひとり丁寧に頭を下げていく。そして最後に、
「ごめんな、咲知……」
「しゅうにいちゃん!」
泣きじゃくった咲知が、修に抱きつく。修はどこか安心したように、妹を撫でてやった。
その光景を見ていたフィンが、ふいに顔を逸らしたことに楸は気付き、
「フィンちゃん、もしかして……」
「な、泣いてなんかいませんわっ!」
慌てたフィンが、ごまかすように「そ、そうですわっ!」と手を叩く。
「よかったら、その力鍛えるために学園に来るといいですわ! 強くあろうと思う方は大歓迎いたしますわよ」
「そうだね、学園なら寮もあるしさ。もちろん、咲知ちゃんも一緒に」
「居場所が無いのなら、新しく作ってしまえば良い。ぼくたちも手伝うよ」
止水と皓が笑顔で同意する。修は礼を言うものの、難しい顔をしていた。気持ちはともかく、すぐに判断できることではないのだろう。
「ま、慌てない慌てない。面倒な話はまた今度すればいいじゃん。はい、頑張った2人にご褒美」
楸が目線を合わせ、飴を渡してやる。宿儺も無表情で頷いた。
「……是――坊と嬢が生存したなれば、それで重畳」
「私も色々と学べたからな、礼を言っておこう。……妹を一人にするなよ」
小さく付け加えてから、睡蓮は背を向け、登ってきた山道を引き返す。
修と咲知を支えてやりながら、灼滅者達もそれに続いた。
「ね、修くん、咲ちゃん。約束して。今度、辛いことがあったら、お互いに相談するって」
帰り道で朱梨が言う。兄妹は、そうやって支え合っていくものなのだと、優しく、強く。
「じゃあ、僕とも約束しよう」
神妙に朱梨の話を聞いていた修の背中を、絢矢がばしっと叩いた。
「秘密基地、また新しく作ろうよ」
言われて初めて気付いたように、修がはっとし、それから嬉しそうに笑った。修が年相応の笑顔を見せたのは、その時が初めてだった。
「はい、必ず」
それから、たくさんことを話しながら、彼らは帰路に就いた。
大切な人の温もりを忘れなければ、彼らはこれからも大丈夫。
ひとりじゃないと知っていれば、辛い境遇にも、闇にだって、きっと負けない。
しっかりと手を繋いだ兄妹の姿が、灼滅者達にそう思わせてくれるのだった。
作者:宮田唯 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年12月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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