失いたくない僕らの最後の手段

    作者:篁みゆ


    「お前が悩んでるのは、お前の母ちゃんのせいだろ?」
     頬に絆創膏を貼った活発そうな少年が、ベッドの上に座るパジャマ姿の少年に語りかける。他にも部屋には四人ほどの少年がいたが、お見舞いという名目で来たからか静かにしていた。
    「お前の母ちゃんが夜な夜な出かけていくのは男と遊んでるからだ」
    「!」
    「お前にはショックなことかもしれないが認めなきゃならない。薄々気がついていただろ?」
     言われた少年は震えながら頷いて。
    「離婚して、お前の母ちゃんが出てく先は男のところだ。でも心配するな。俺が母ちゃんをずっとお前の側にいさせる方法を教えてやる」
     そう言って少年がランドセルから取り出したのは、キラリと輝く刃のナイフ。それをパジャマの少年の手に握らせて。
    「後ろから腰のあたりをぐさりとやれ。そのあと何度も何度も刺すんだ。殺してしまえば、お前の母ちゃんはお前から離れて行かない。ずっとお前のそばにいる」
    「殺して……」
     絆創膏の少年の言葉が呪文じみて響き、パジャマの少年は立ち上がり、母親のいるキッチンへと向かう――。

    「皆さん、ようこそいらっしゃいました」
     集まった灼滅者達を前にして、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は頭を下げた。
    「ソロモンの悪魔に力を与えられた幹部が事件を起こそうとしています。幹部の名は乾・八尋(いぬい・やひろ)、小学六年生です」
     姫子は語る。ダークネスはバベルの鎖による予知能力を有しているが、エクスブレインの予測に従えばその予知をかいくぐることができる、と。
     八尋は離婚により片親を失った者を集めてサークルを作り、親が離婚しそうで悩んでいる者達の相談にのるといった活動をしている。だが姫子が察知したケースでは、どうやらちょっと複雑なようだ。
    「八尋さんは、相談者の秋真(しゅうま)さんにナイフを渡し、秋真さんの手でお母さんを殺させようとしているようです」
     運よく察知できた事件の一つではある。ダークネスの行動を見過ごすわけにはいかない。
    「八尋さん及び強化された一般の人、これも小学生です。総勢五名は秋真さんの部屋にいます。秋真さんは体調が悪いといって学校を休んだため、五人がお見舞いに来た形になります」
     両親の離婚話を正式に聞いてショックを受けて学校を休んだ秋真だったが、母親は離婚できるということが嬉しいようで、それには気がついていない様子。台所で上機嫌でお茶を入れている所、ナイフを持った秋真に刺される。
    「皆さんの突入タイミングは、秋真さんが台所に入ろうとしている時です。八尋さんは二階の秋真さんの部屋で事が済むのを待っていて、強化一般人の二人が階段のあたりで様子をうかがっています」
     まず扉を開けると玄関の右側が二階へ通じる階段だ。ここで強化一般人二人が様子をうかがっている。玄関の左側は廊下になっていて、まっすぐ進めば突き当りが台所、左手がリビング、右手が洗面所や風呂場、トイレだ。
     姫子の示したタイミングならば、秋真の後ろ姿が台所の入り口に見えるという。
    「そのまま秋真さんを自由にしておけば、お母さんを刺してしまうでしょう。けれども階段のところで様子をうかがっている強化一般人が黙っているはずはありません」
     そして戦闘が始まれば、二階にいる八尋と残りの強化一般人二人も異常に気がつくだろう。
     秋真を止めるのに人数を割くか、八尋たちへの対応に全力を注ぐか、それは灼滅者達の判断に委ねられている。
    「八尋さんは灼滅するしか方法がありません。従っている四人の少年ですが……恐らく八尋さんに言われて従っているだけですので、KOすることで救うことが出来るでしょう」
     姫子はひとつ息をついて。
    「見た目は子供でも、ダークネスに力を与えられている幹部であることに変わりはありません。そして私達は彼らを倒さなくてはなりません。それが力を与えられた幹部レベルであっても。そのこと、お忘れなく」
     きっぱりと、告げた。


    参加者
    虹燕・ツバサ(プロミネンスカタストロフィ・d00240)
    荻原・克(デスパンチ・d00372)
    ポー・アリスランド(熊色の脳細胞・d00524)
    ナイト・リッター(ナイトナイトナイト・d00899)
    ニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)
    桐谷・要(観測者・d04199)
    鈴見・佳輔(小学生魔法使い・d06888)
    朱海・夜子(テルクシエペイア・d10418)

    ■リプレイ

    ●初戦
     タイミングが肝要だ。
     今回は少しでもタイミングがずれれば悲劇に片足を踏み入れてしまうことになり。集まった灼滅者達はそれをしっかりと肝に銘じていた。
     秋真の家の外からは勿論、中をうかがい知ることはできない。ゆえにエクスブレインの未来予測から外れないようにするのが絶対だった。
    「ウェイクアップ」
     虹燕・ツバサ(プロミネンスカタストロフィ・d00240)を始めとして、次々と解除コードを唱えていく。ナイト・リッター(ナイトナイトナイト・d00899)がドアノブに手をかけて振り向いた。
    「何としても凶行を止めてやろう。秋真にはまだ未来があるんだからな」
     一同が頷くのを確認して、ナイトは玄関を開ける。
     バンッ!
     玄関扉を開けてまず目に入ったのは、階段の中間で手すりから身を乗り出すように台所方面を伺っている手下達。小さい女の子と秋真と同じくらいの男の子だ。二人は突然開いた玄関扉にはっとしたように振り向いた。
     左手に目を向けると、パジャマを着た後ろ姿がふらふらと奥へと向かっているのが見えた。あれが秋真だろう。間もなく台所に到達してしまう!
     一瞬で現状を把握した殲滅者達。タイミングはバッチリだったようだ。事前に打ち合わせた通り、二手に分かれる。 朱海・夜子(テルクシエペイア・d10418)が素早くサウンドシャッターを使用し、戦場の音を隔離した。
    「おっと、ここは通さないぜ。親子の未来を邪魔する権利はお前らには無いからな」
     階段の登り口に回りこんだナイトはフッとキメ顔で宣言して、手にした盾で少年を殴りつける。同じく階段下からポー・アリスランド(熊色の脳細胞・d00524)は風の刃を造りだして少年を狙う。桐谷・要(観測者・d04199)が放つのは魔法弾。傷の深い少年を狙って。
     体内から噴出させた炎を武器に宿したツバサの重い一撃が少年をよろけさせる。初依頼で緊張気味の荻原・克(デスパンチ・d00372)は仲間達の様子を見て緊張が解きほぐれたのか、思い切りガトリングガンを放った。ビハインドのコーディくんがその後を追う。夜子は盾を広げて仲間達を守るようにと動いた。
    「八尋さんに伝えろ!」
     階段横の壁に寄りかかりながら少年が少女に叫んだ。だがそのままみすみすと行かせる灼滅者達ではない。
     少年のナイフを受けても動じずにナイトが盾を繰り出す。
    「行かせるわけにはいかないのだよ、君」
     ポーの風の刃が少女の足を切りつけた。

    ●救いの手
     階段班の六人が手下達を足止めしている間に、素早く廊下を走り抜けたニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)と鈴見・佳輔(小学生魔法使い・d06888)は秋真の後ろ姿を追って台所へと向かった。
    「そのナイフで、何をするつもりだ」
     ニコが問い、秋真の背後からナイフを持つ腕を掴む。
    「殺したらそれで終わり。頭を撫でも怒りもしないぞ」
    「え?」
     早口でまくし立てた佳輔が母親と秋真の間に滑りこむ。聞き覚えのない声に驚いた母親が声を上げて振り返る。母親の顔を見た秋真の瞳がキラリと光ったのを佳輔は見た。
    「お母さん……」
     ぽつり、呼んだ声と反対にナイフを持つ手にギリッと力がはいる。ニコは負けじと腕を掴む手に力を入れた。それでもナイフの切っ先が揺れる。執念なのか火事場の馬鹿力的なものなのか、揺れたナイフの先が佳輔に迫る。佳輔は咄嗟に自分の腕でその切っ先を受けた。
     鮮血がぽたり、床を汚す。
    「きゃぁぁぁっ!?」
     甲高い叫び声を上げ、母親がぺたりと座り込んだ。手にしていた缶が重力に従い、紅茶の茶葉が舞う。脱力して放心したような表情で母親が見つめるのは、子の持つ刃と鮮血。
    「あ……」
     当の秋真の口から、驚嘆の混じった声が漏れた。
    「鈴見!」
    「大丈夫だぜ、ニコ先輩」
     佳輔は顔色を変えずに刺された腕を捻るようにしてナイフを奪う。すでに秋真の手には力がほとんど入っていなかった。ナイフを奪われて、糸が切れたように彼はぺたりとその場に座り込んだ。その身を犠牲にしても、最後の手段として手加減を加えた攻撃に出てでも『子が親を刺す』という凶行を避けたかった二人は、小さく息をついた。
    「な……あ……」
     言葉にならぬ声を出した母親には、ニコと佳輔が防衛者だということが分かっただろう。だがそう認識するということは我が子が自分を刺そうとしたと認めること。母親の心中は信じられぬ思いで混乱に満ちているに違いない。
    「どうする? 行くか?」
     ニコの問いに佳輔は腕に刺さったナイフを抜き取りながら秋真を見下ろした。誤った人を刺してしまったからか初めて人を刺した感触に怯えているのか、秋真は萎縮した様子でカタカタと震えている。これなら再び凶行に及ぼうとすることは無さそうだ。佳輔はナイフをニコへと渡して頷く。
    「頼んだ」
     自らの横をすっとすり抜けて階段へ向かおうとする佳輔の肩をぽんと叩き、ニコは再び台所の入り口を封じるように立った。なるべく戦場を見せないようにという気遣いから出た行動だ。掴んでいた秋真の腕を離す。
    「何をどうすれば気持ちの整理がつくかはお前と母親とで決めることだ、お前の友人が決めることじゃない、勿論俺が決めることでもない」
     凄みのある口調で淡々と言葉を紡ぐニコに対して、秋真は怯えるようにしながら振り返った。
    「でも……八尋くんが……」
    「相手が誰であろうと、人を殺せば解決すると平然と言う奴が正気だと思うか?」
    「……」
     口をつぐんだ秋真に、八尋の危険性を示したニコの言葉は通じただろうか。
    「親子だろう、気持ちを伝えてちゃんと話しあえ。一方的に押し付けるのは論外だ」
     チラ、と母親にも視線を移してニコは言う。淡々とした言い方ではあるが、その内容は正論で、情にあふれたものだ。気まずそうに秋真は母親に視線を移す。
     何が起こっているのかわからない母親は腰を抜かしたまま、諭す者と諭される者を交互に見ていた。

    ●対戦
     少年が倒れた。階段から2、3段落ちたがその位ならあまり心配することはないだろう。克のガトリングガンが少女を撃ち続ける。大量の弾丸を吐き出すその振動が心地よくて、克の気分は徐々に高揚していく。コーディくんは命令通り霊撃で応戦だ。
     夜子の美しい歌声、旋律は賛美歌だ。ナイトの傷を癒す厳かなメロディ。
     少女のナイフから繰り出される毒が要を襲うのを、ナイトが華麗に庇った。
    「甘いぜ! 俺の目の前で仲間の女性を傷つけはさせない!」
     キラッとしたドヤ顔に少女が歯噛みする。ナイトはそのまま素早く階段を駆け上り、攻撃に転じた。
    「回復は僕に任せておきたまえ、各自役目を果たせば問題は無い」
     常に仲間達のダメージの深さに気を配るポーは、前衛を癒しの風で包んで。要の魔法弾が攻撃の手を緩めまいと少女を狙った。
     階段を跳ぶように駆け上がったツバサは大上段から巨大な刀を振り下ろす。小さな悲鳴を上げて少女が倒れた。
     と、ツバサの視界の端に動くものがあった。追って階段を上がりきってみればそれは別の少年の背中で。恐らく報告に戻ってこない手下の様子を見に来た別の手下だろう。部屋に駆け込んで叫ぶ声が聞こえる。
    「八尋さん! 二人共やられてるっ!」
    「なに!?」
     トストスと子供特有の軽い足音が聞こえる。その間に灼滅者達は少しずつ階段を上がり、階段の手すり側から飛び降りて台所へ向かうことができないようにと位置どる。丁度その時、佳輔が階段へと到着した。
    「何だお前ら!」
     駆けつけたのは二人の少年と、頬に絆創膏を貼った活発そうな少年。絆創膏の少年が八尋だろう。彼を庇うように手下二人が前へ出る。克はギッと八尋を睨みつけた。
     まずナイトが手下を殴りつける。続けてポーが清らかな風で傷を癒し、八尋を狙った要は心中で思う。
    (「難しい問題があったら、秋真先輩や乾先輩はどうするのかしら。問題を無くしてしまえば確かに前に進めるけど、そうして意味があるのかしら」)
     要とて気持ちがわからないわけではない。けれども彼女は明確な理由がない限り納得が行かないのだ。故に、思う。
    (「少なくとも、私はきちんと問題を解き明かしてから進みたいわね。前に進むからには、ちゃんとしたきっかけが欲しいし、それに問題を解くことで得るものもあるはずだから」)
     秋真はともかく八尋には、恐らく問うても説いても意味が無いのだろう。けれども要自身は明確な決意を持っている。
    「滅多刺しってそれじゃ傍に『いる』じゃなくて『ある』だろ……」
     呟いたのはツバサ。捻りを加えて突き出した槍で手下を穿つ。
    「ほっとけば勝手に壊れるからって今他人が壊していいもんじゃねぇんだよ」
     ツバサは知っている。親を殺した心の傷がどれほどであるか。だからこそ、子の異変に気づかぬ親よりも、親を殺せと唆す奴が許せないのだ。
    「……あのクソッタレが」
     唇をへの字にして八尋達を見る佳輔。全身からソロモンの悪魔のやり口への嫌悪がにじみ出ている。斧に宿る竜因子を解放してまずは守りを固める。
    (「子供を置いて出て行く先が男の人の所って、それが本当ならちょっと薄情じゃないですか」)
     克はニコが対応している台所の母親のことを思った。いくら家庭にそれぞれ事情があるとはいえ、あまりにも薄情すぎる。
    (「ダークネスなんかの好きにさせる理由にはなりませんけど」)
     ガトリングガンの連射に思いを乗せながら、克は手下を撃って。コーディくんがそれを追う。チラッと、夜子は八尋を見た。
    (「最早還れない少年は、偶然が救わなかった私の未来だったかもしれない。そう思うと……手を抜く訳には行かないね。ちゃんと、止めないと)
     自らの未来の姿だったかもしれない八尋への、使命感にも似た思いを抱きながら、夜子は自らを覆うバベルの鎖を瞳に集中させる。
    「貴様らァ! 俺の遊びを邪魔をするなっ!」
     八尋の叫びとともに、前衛を見えない攻撃が襲う。それは熱を奪い去るという恐ろしい攻撃。
    「……くッ、抜かった……幼いとは言えやはり幹部は侮れないね、君……」
     ポーの言葉に得意げな表情を見せるあたり、幹部とはいえ八尋もまだまだ子どもということか。手下二人が八尋に続いて攻撃を繰り出す。ジグザグの刃がツバサとナイトを斬りつけた。
    「まだまだ俺はいける! さぁ来い! 俺を倒せない様じゃ、お前らの企みは無に帰す定めだ!!」
     攻撃に転じたナイトは手下を思い切り殴りつける。ポーが清めの優しい風を招いた。要は八尋の足止めの為に再び弾丸を放った。
    「倶に天を戴かず、生かしてはおかねぇ」
     ツバサは先程の八尋の言葉に反応した。遊び? 家族を殺させることを楽しんでいる? たとえ挑発だとしてもそんな発言許せるはずがない。ツバサは武器を握りしめ、八尋へと斬りかかり、その身体を深く斬りつける。
     不機嫌顔の佳輔が放った魔法の矢は手下一人の腹に突き刺さり、その手下は力尽きたように倒れた。克は漆黒の弾丸を作り出し、対象をもう一人の手下に絞る。集まっていく自分の黒い想念は彼女をゾッとさせる。頭をひとつ振ったのは邪念を振り払うため。そして、弾丸を放つ。コーディくんは実直に命令に従っている。
    「穿って」
     夜子は狙いを絞り、意識を集中させる。そして詠唱圧縮された魔法の矢を八尋に向けて放った。

    ●結
     八尋のジグザグの刃がツバサを狙う。だが要の数度に渡る攻撃が効いているのか、八尋がふらりよろめいたことでその切っ先は逸れた。
     手下は夜霧を展開したが蓄積されたダメージは癒えきらず、ナイトの攻撃の元に足から崩れ落ちる。ポーの風は優しく仲間を包んで毒を癒し、要は幾度目かの弾丸を放つ。
     ツバサの重い一撃は容赦なく八尋を穿ち、佳輔の弾丸が同じく八尋を襲う。克のガトリングガンは爆炎の魔力を込めた弾丸を大量に放ち、夜子は逆に八尋から熱を奪う。
    「永遠の冬にお眠り」
    「ちくしょう……邪魔をするなぁぁぁぁぁっ!!」
     再びツバサに向かった八尋。だが攻撃を受けたツバサは怯まず、むしろ憎しみを込めた視線を隠さない。八尋は傍から見てもその傷は深いものだとわかる位、傷を重ねられている。
     ナイトの攻撃でふらつき、要の魔法弾で体勢を崩した八尋。ポーから回復を受けたツバサは刀を大上段に構え、跳ぶように一段踏み込むと、体勢を崩したままの八尋へと容赦なく、威力の増した攻撃を叩きこむ。
    「空駆けるは燕の如く……天地纏斬」
     ゆらりと宙を舞うようにして、ドサリ、八尋の身体は二階の廊下へと落ちた。
    「任務、完了」
     ツバサは刀で十字を切った。

    ●続く未来
     八尋が息絶えているのを確認して、佳輔は死因を誤魔化すために擬死化粧を施した。要が手早く倒れた観葉植物などを直しているのを夜子も手伝う。
    「終わったんだな?」
    「ああ」
     台所を訪れたツバサにニコが問うた。ニコの状況説明でどんな状況だったのかを把握したツバサは秋真の前に片膝をついて。
    「忘れるな、お前が人の敵になれば……」
    「ひっ……!」
     その瞳と言葉の冷たさに秋真が悲鳴を上げる。それに構わずにツバサは秋真の血を吸う。そして続けて怯える母親からも血を吸って、再び立ち上がった。
    「行動する前に話し合えっての。話しかけて聞こえない相手じゃねぇだろ」
     記憶が曖昧になっている二人を見下ろして。
    「どんなに思おうとも口にせねば伝わらぬ、だ」
     呆れたように呟いた。

    「少しはあの親子の間の絆を守れたかな」
    「秋真くんのお母さんは秋真くんともう一度、ちゃんと話をしてあげて欲しいです」
     玄関内でニコとツバサを待つ間、そちらに視線を向けてナイトと克が思いを口にする。
    「少年、君に必要なのはナイフではなく言葉さ、想いのこもった、な」
     秋真に思いが届けばいい。ナイトはしっかり視線を向けたまま告げて。
    「また一つ、事件が解決されたのだよ、君」
    「あとは秋真、君の頑張り次第だ、ファイト」
     台所から出てくるニコとツバサの姿を認めたポーは玄関扉を開け、玩具のパイプをふかして外へと歩みゆく。ナイトは最後に応援の言葉を述べ、それに続いた。

     これによって秋真の未来がどう変わるかはわからない。
     ただ、簡単に母親を殺すという手段には及ぶことはないだろう。
     灼滅者達は、静かにその場を後にした。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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