「やろうどもーゾンビ退治のお時間だー!」
「「「オウイエーイ!」」」
片足を椅子に乗っけてポーズを取る嵯峨・伊智子(高校生エクスブレイン・dn0063)。上がる歓声。
「別にホラーもスプラッタもグロくて嫌いだけど視ちゃったからにはイケイケで説明するぞー☆」
伊智子、高校一年生。
怖いものを予知しちゃったらちょっとテンション上げないとやってらんないお年頃。
「場所は景勝地のだいぶ昔に潰れたホテルだぞー! 調べたら露天風呂がいい感じでちょっとカレシと行きたかったあたしだが残念ながらカレシいないぞー!」
「おー!」
「二十二体のゾンビが四つの棟にばらけているぞー! 東西南北それぞれにオサレな名前が付いていたけど面倒だから方角で解説するぞー!」
「おー!」
「東に六体、西に四体、南に七体、北に五体! それぞれ二階建て客室十五室に適当にいるからサーチ・アンド・デストロイ!」
「おー!」
「時間をかけると物音聞いて合流するぞー! 棟同士はそこそこ離れてるから戦闘の音なら大丈夫だけど、超大きい声とか出したら聞こえて隣同士なら5分、向かい同士なら10分もあれば来れちゃうぞー!」
「おー!」
「同じ棟同士だと、どう頑張っても戦闘の音で集まってくると思うぞー! 背後注意だぞー!」
「おー!」
「なおゾンビ自ら救援を呼んだりはしないぞ知性ないからー!」
「おー!」
「ちなみに棟内のゾンビを全滅させたら、大きい音出してなければ休憩してから次に行けるぞー!」
「おー!」
「ゾンビーズはグーパンチで殴ってきて痛いだけだぞー! だがボスゾンビは南棟にいて、ロケットハンマーチックに巨大化した拳で殴って来るから注意が必要だぞー!」
「おー!」
「ちなみに一般人の心配はしばらくないぞー! でもそのうち取り壊し工事とかあるかもしれないからゾンビはやっぱり消毒だぞー頼んだぞー!」
「おー!」
説明を終えてやり切った顔でへばる伊智子に「お疲れ様!」「頑張った!」と声をかけてから、手を振る伊智子に見送られ――ゾンビとの、戦いが始まる。
参加者 | |
---|---|
風嶺・龍夜(闇守の影・d00517) |
リリー・スノウドロップ(ほわいとわふー・d00661) |
橘・清十郎(右手の錬金術師・d04169) |
紡木・疎水(小学生魔法使い・d04175) |
日下部・讃良(ピエリス・d07081) |
アリス・ドルネーズ(バトラー・d08341) |
折原・神音(中学生神薙使い・d09287) |
夏目・千世(飛べない奏鳥・d10811) |
前略。
「教室で何だかテンションの高い声を聞き、何となく一緒に声を上げてたら気づけばゾンビ退治の依頼に参加してました」
紡木・疎水(小学生魔法使い・d04175)曰くそーゆーことなのである。
「ゾンビの予知を見るとは嵯峨さんも大変ですね……」
折原・神音(中学生神薙使い・d09287)が割と真剣な顔で頷く。
結構ゾンビはグロいから予知する方もきっと大変であろう。
「見たくない物も見る事が多いのだから、エクスブレインも大変だな」
風嶺・龍夜(闇守の影・d00517)がうむと唸り、護陰の名を持つシールドと陰に潜む如き翳衣というオーラを見に纏う。
「その労に応える為にも確実に殲滅を果たして見せよう」
「嵯峨さんがこのように恥を捨てて鼓舞してくれるってことは、きっと強敵なのでしょう」
龍夜に続けてそう言って疎水はガッツポーズ。
無表情で。
「嵯峨さんの我々への信頼に応えるべく頑張ります、おー」
なんとなくちょっとズレているような気もするが気にしないでおこう。
「伊智子ちゃん、がんばったねー」
日下部・讃良(ピエリス・d07081)がうんうんと頷く。
「あとはささらたちに任せて! ここからは、灼滅者のお仕事なの」
そうみんなに言ってもらえれば彼女も感無量であろう。
「しっかりとゾンビを倒して、恐怖を取り除いてあげるとしましょうー」
「ゾンビですか……」
神音の言葉に、アリス・ドルネーズ(バトラー・d08341)が小さく呟いて。
「ゲームでもよく出ているポピュラーな敵ですね。大体出てくる時は圧倒的な数で圧倒してくるのですが、そういうわけではなさそうですし、其処まで警戒する必要はないでしょう」
鋼糸をきんと手の間で張り、肩をすくめる。
「知性、ないゾンビ……なんて恐ろしくない……でも……油断しないでおこう……」
ちょこんと左右で結んだ髪を揺らし、夏目・千世(飛べない奏鳥・d10811)が頷いて刀を握る。
「ええ、それにボスには少し気を付けた方がいいかもしれませんね」
うんうん、とアリスの言葉にリリー・スノウドロップ(ほわいとわふー・d00661)が首を縦に振って。
「汚物を消毒ですー……」
「わぉーん」
なんかすごい台詞を呟く。霊犬のストレルカが一緒に吠える。
「……といえばいいって聞きましたけど、騒音には注意ですね」
うん、伝聞だったか、良かった。
小学二年生の女の子が汚物は消毒って自分から言ってたらどうしようかと思った。
「――さて。こっちが東館だな」
数年以上前から閉鎖することもなく放置されていたWebページ(原色が多くて見づらい)から引っ張り出した見取り図を手に、橘・清十郎(右手の錬金術師・d04169)が看板を指さす。
『朝灼けのオーシャン』と書かれていて、一同は何だか微妙な気持ちになる。
「……海、見えないよね」
「山ですからね」
現実は非常である。
――ともあれ。
「ゾンビといえば! ささら、銃火器系の武器ははじめて。今日にそなえて、シューティングゲームでイメトレしてきたの」
わくわくしながら讃良がガンナイフの引き金をぴしぴし引いたり。
「ゾンビは消毒ですー」
「わおーん」
「……あ」
「……わふっ」
リリーとストレルカが可愛く言ってみたり慌てて口を塞いだりジャッジメントレイ飛ばしたり。
「うーん、見張りとはいえ戦わないのは少し罪悪感……」
神音がドアの外でちょっと所在無くうろうろしていたり。
するのだが。
「数で押してくるならまだしも、バラバラにバラけていては……一方的な虐殺となってしまう可能性も否定できませんね」
アリスの言う通り。
サウンドシャッターのおかげで超静かである。
「奥義の参、薙旋」
「アガー!」
龍夜のシールドが一気に光量を増し、首の筋肉を断たれ倒れゆくゾンビ。
「終わったぜー」
「あ、ありがとうお疲れ様。全然音聞こえなかったし、次から私も戦っていいよね?」
ドアから顔を出した清十郎に、神音がにこりとお願いするように手を合わせる。
――大抵の戦場から何かを追い払うESPは、大抵は対象が一般人である。
しかしサウンドシャッターは、その対象が音であるが故に、ダークネスや眷属にも戦場外であれば効果を発揮する。
すなわち。
「これってさ、無理ゲーってやつじゃない?」
「ゾンビがな」
「よーし、悪即斬!」
「ざーん……?」
「きゃうん!」
ええいお前等好き放題しやがって!
なんかもはや鬼が一方的有利なかくれんぼ状態である!
「音無しの構えを見よ!」
讃良がすすすすす、と摺り足で駆け抜けたり。
「これは音が出そうですね。隅っこに片付けますからちょっと待って下さい」
整理整頓好きの疎水が念のため廊下の掃除を始めたり。
「きゃうーん!」
「えーと、これで3? いや4匹目か」
挙句に清十郎が鯖味噌を囮にしてみんなでゾンビ数体まとめて薙ぎ払ったり。
ところで清十郎さんはもしかして一旦消えて現れるたびに別個体として計算しているのだろうか。
「ウガー!」
「アッー!」
「ギアー!」
「全く次から次へと本当に映画のようだな」
そう言いながら龍夜さんみんなが範囲で削ったのを片っ端から撃破しまくったというのに。
「……ゾンビ、ほんと、やかましい……」
千世が表情なく炎をまとった日本刀で切り捨て御免しながら、思いっきり眉を寄せる。
「いい加減その五月蠅い口を閉じろ、耳障りだ」
アリスが冷徹に告げて最後のゾンビに巻き付けた鋼糸を弾けば口どころか全身が砕け散り、消えて行く。
そんなわけで。
「アー……!」
「華麗にねらい撃つこのかんかく……。うーん、くせになりそう!」
「ガー……!」
「……みんな、無事……なのは、ありがたい……ゾンビ、片付けて……静かになる、し……」
北棟『北告げ星のカシオペア』を踏破し。
「はーい回復が欲しい人から並んでくださーい」
「別に使わなくても回復するけどやっぱり回復使い放題は気分がいいよねー」
もうここにいるの全部撃破したから大丈夫だよねって感じで休憩し。
「よーしよし鯖味噌、ちゃんとゾンビが近づくの教えてくれたなー」
「ストレルカもありがとうなのです。運悪く物音を鳴らしてしまうとお化けが出るって話を別の学園の人に聞いたことがありますから」
「わふ!」
「きゅん!」
曲がり角で霊犬達がゾンビに気付いてお手柄を立てたり。
「虚ろなる影に眠れ、ダークネスの眷属!」
「アッ……アァ……」
「お前たちに祈る神などいないのだろう。命乞いをする間もなく、殺してやる」
「ギャース!」
凄まじい勢いで西棟『星屑Sunset』のゾンビを狩りつくし。
そして――ついに、到達したのである。
強大なるボスゾンビが待つ、南棟『蒼空の木漏れ日エデン』に。
「わふーっ、突撃なのですよー」
「わぉーん!」
びしっとロッドとガンナイフをぶっ違いに構えるリリーの前に、ストレルカが躍り出て嬉しそうに吼える。
突然の大音量に次々に飛び出してくるゾンビに、竜巻が躍り六文銭が煌めいて。
「やっぱりささらのいちばんはコレだよね!」
ガンナイフを放り捨て、掌と拳を勢いよく打ち付けて、讃良が思いっきり気合を入れて。
隣を見ると、にかっと剥き出しの歯を剥くゾンビ。
「でもでも……わーん、ゾンビさわりたくないのー!」
ちょっと半泣きになりながら拳をぶち込む讃良。格闘家達の宿命である。
「っしゃ、片っ端からかかってきな!」
「わん! わわん!」
清十郎と鯖味噌も楽しそうに飛び出し、螺旋槍と斬魔刀を左右から突き立てる。
「我慢した分、全力でいきますよー!」
影業をその身に這わせ、無敵斬艦刀を鞘から引き抜きぶち下ろす。その勢いで神薙刃がゾンビの胸を思いっきり貫く。
「ですとろーい」
疎水が仲間達を護れる位置取りを確保しながら、輝ける十字を背後に召喚し、一気に力を解き放つ。
「皆さん色々溜まってたんですねぇ」
ゾンビに鋼糸を巻き付けながらそんな仲間達をのほほんと眺めていたアリスであったが。
――地響きの如く床が揺れる。一歩一歩に、これまでのゾンビとは明らかに違う重さが宿る。そして――現れたのは、2mを軽く超える巨体の上に、身体よりも大きいほどの異形化した腕を持つゾンビ。
「ふむ。ボスだけあってなかなか良い風格をしている。が、それだけだ」
ふ、と息を吐き――そしてアリスは胸を張り堂々と強敵に告げる。
「アリス・ドルネーズ。九条家執事兼九条家ゴミ処理係り」
そう、己の名を。執事としての誇りを。
……ってアリスさん結局ノリノリじゃないですか!
「……さあ、……死合おうか……」
千世が静かに言い放ち、刀に這わせるように炎を宿す。眉がきりりと寄せられ、怒りを表すかのように焔が燃える。
「魂砕業の伍、痕拳!」
龍夜がボスゾンビの懐に一気に突っ込み、己の影をまとわせた拳を引き――一気に、解き放つ!
がぁん、と金属と何かがぶつかり合うような音がした。
ロケット噴射かと思うような勢いで飛んできた肉の凶器が、疎水の小さな体を潰さんが如くに上から殴りつけたのだ。
さっと瞳にバベルの鎖が集まる。ディフェンダーである疎水にとって、己が攻撃を受ける事は望むところだ。――仲間達を、危険に晒さぬために。
「コンビネーション、見せてあげますよ!」
そしてボスゾンビの標的を移すべく襲い掛かる一つの影。巨大な斬艦刀が拳とぶつかり合った次の瞬間。
「油断大敵……影は常に狙っていますよ?」
影の刃がボスゾンビの背を穿ち、その胸から現れていた。
激昂して大きく横薙ぎに振るわれた拳を、神音は斬艦刀を軽く横に捻って受け止める。
「鬼の力、刻んであげましょう……!」
大きく異形化させた腕で――鈍い、打撲音。
しゅるり、と揺らいだ巨体に、くるりと鋼糸が巻き付いた。
「捕縛業の弐、搦糸」
全身に巻き付いた糸を、きゅ、と締め上げる。見えるか見えぬかの細き束縛に縛られ、ボスゾンビが叫びながら振るう拳は届かない。
リリーが伸ばした手から、癒しの光が舞い踊る。じっと視線を感じて思わず振り向いた疎水は、ストレルカの何か癒される眼差しに思わず表情は変えないもののほっこりした。
要するに浄霊眼なので体力も回復するしワンコは可愛いしいいものである。
そして対照的にもう一匹の霊犬である鯖味噌は、六文銭を乱射し刀を振り回して暴れまわっていた。
「いいぞ鯖味噌! もっとやっちまいな!」
楽しげに清十郎も声援を送る。槍の妖気を冷気の氷柱に変えた清十郎が、ぶんと槍を振りボスゾンビへと飛ばす。氷柱から広がる氷の上に、さらに讃良が抗雷撃を重ね――「あ、こおってるから手がよごれない!」とちょっと幸せそうに笑みを浮かべる。
「拳と拳、どちらが上か比べてみるか!?」
振り上げたボスゾンビの拳に、アリスが拳の一撃を重ねる。腐りかけとはいえそれ自体がハンマーと化した拳と、鋼鉄の如き硬度を誇る拳。
両方が弾かれて勢いよく床を転がる。四回転半でその勢いのまま立ち上がったアリスは、強敵上々と笑ってみせる。
やはり起き上がったゾンビには、すぐさま降り注ぐは裁きの光。味方には心強き癒しを与えるそれは、敵にとっては地獄の焔の如く感じられようか。
ドォン、と床を穿って与えた振動を、疎水はリリーを弾き飛ばすことで受け止める。さらに清十郎の前では、床に無敵斬艦刀を突き刺して振動を食い止めた神音が、ふっと笑って戦神を降臨させる。
疎水が己の傷にも構わず、プリズムの十字を呼んだ。放たれる光によって、実は陰で一生懸命戦っていた雑魚ゾンビ達が灼かれ、消えて行く。
「奥義裏の弐、闇刃」
死角に潜り込んだ龍夜が、素早く敵の守りを切り裂きそのまま距離を取る。振りかぶられた拳には、己の歩みを的確に操り間合いを崩して逸らさせる。
「ぬぅ、前衛というものはどうも慣れんな」
それでも幾分の傷を負った龍夜に、ちょこんとやってきたストレルカが視線を合わせた。
――癒される。
「ストレルカ、リリー、回復感謝する!」
霊犬とその主に礼を言い、すぐさま龍夜は鋼糸を手繰り寄せる。
ストレルカにいい子です、とにっこり笑ってから、リリーはゾンビーズを一気に竜巻で薙ぎ払った。宙を舞うゾンビの群れに、清十郎が虚の力によって無数の断頭台の刃を作り出し――ジ・エンド。
「黙れ、邪魔だ」
最後に一体だけ残った雑魚ゾンビは、アリスの糸に絡め捕られ軽く引くと同時に素早く斬り裂かれ消滅する。
「れっつ、ですとろーい!」
シャウトで一気に元気を回復した讃良が、思いっきりゾンビの巨体を掴んでぶん投げる。落ちざまに地面に叩きつけた拳を、疎水が思いっきり妖の槍で貫き、床に縫い付けた。
「さてぃすふぁくしょん」
抑揚のない疎水の言葉と共に、叫び声。氷が、巨大すぎる拳を覆っていく。
「神様が刻む風の刃、見切れますか?」
仮にも巫女なら無粋な戦いなどできぬと、あくまで優雅に。ふわりと舞った巫女服の袖から、風の刃が花弁の如く舞い踊る。
「奥義裏の伍、黒夢」
龍夜の纏っていた闇が、胸に凝るように集まる。それがトランプのスートを描き、力を一気に解放する――!
「奥義の参、薙旋」
急所を引き裂き死をもたらす一撃。龍夜はそれを、的確にボスゾンビの延髄を断ち切るように放つ。
魔術の雷が、マテリアルロッドに大きく宿る。トンと足を踏み出しリリーが思いっきり杖を振れば、一気に青白い閃光が飛び――轟音。
「っらぁっ!」
鯖味噌がその刃でボスゾンビの足を貫くと同時、清十郎が跳ぶ。氷をまとわせた槍を――脳天に力の限り突き刺す!
「少しおとなしくしていてくれ――トドメを、刺すからな」
アリスの指が鋼糸を素早く放つ。くるり、くるりと華麗に絡め取られたボスゾンビの体が、ハムの如く絞られ――そこに、千世がバトルオーラを集め一気に解き放った。
「あなた……うるさい。……さよなら……!!」
さらに日本刀を振りかざし、思いっきり炎を巻き上げ袈裟切りにする。
――そして、死してなお生を強制された者達は、全て安らかな眠りへと戻り。
廃墟は、静けさを取り戻した。
「……静かになったらちょっと怖くなってきたのです」
思わずリリーがストレルカを抱き締めて。
ある意味で――ホテルも、不自然な喧騒から解放され、一つの死を迎えたのかもしれない。
そして、ホテルは死すとも自然の営みたる温泉は――こんこんと、温かなお湯を湧かし続けていた。
「……極楽……気持ちい……」
「ふぅ、生き返るな」
屍臭を流し落とし、温泉のぬくもりによく映える冷たく清らかな空気を吸って。
勝利の余韻と温泉に酔いしれた灼滅者達は、武蔵坂学園へと戻って行くのであった。
作者:旅望かなた |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年12月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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