浮かれるカップルを灼滅するだけの簡単なお仕事

    作者:高遠しゅん

     場所はとある繁華街の中にある憩いの場、小さな公園。
     師匠も走ると言われる、なんやかんやで忙しい十二月も半ばに差し掛かろうというのに、こんな現象が当たり前のように発生するのは何故なのだろう。
    「いやーんヒロシくんったら。こんな暗いところで……」
    「いいじゃないか、ほら。星がきれいだよ。まるで君の瞳のようだ」
    「ヒロシくん……」
    「カナコちゃん……」
     らぶらぶである。このあと、あまりお子様には見せたくない行動に移行する気満々の二人だったが、遮ったのは幾つかの声だった。
    『ねー見てぇ、あの二人ちょーウザぁーい。ここ、あたしとマーくんが先に取ってたのにぃ』
    『オレとミーちゃんのラブラブ(はーと)スペースを邪魔する奴は……』
    『ば・く・は・つ、しちゃえー☆』
     どかーん! と。
     ヒロシくんとカナコちゃんは、夜空のお星様となってこの世から消えてしまいました。


    「本格的に寒くなってきたな」
     薄暗い窓の外を見ながら、ニヒルな横顔で神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が言った。
     何か悪いものでも食べたのだろうか。
    「この前、駅前に出たんだが。あれは何なんだろうな、緑と赤と電飾の」
     灼滅者の一人が頷いた。あれは異教徒の祭だと。
    「白髭のじいさんに紅白の服着せて、寒空の下ケーキ売らせるなんて酷い虐待だと思わないか」
     灼滅者の一人が顔を背けた。
    「そして……そんな祭に魅了されたのか、カップルが浮かれはしゃいでるんだぜ」
     机に拳を打ち付ける灼滅者。その拳は微かに震えていた。
    「だが安心しろ。そんな都市伝説は、俺たち灼滅者がぶっ潰す!」
     ヤマトさん、いつ灼滅者になったんですか。
    「というわけで、ある公園でカップルがカップルに襲われる未来を予測した。行って粉微塵に粉砕してくるのが、俺たち灼滅者の宿命だ」
     だからいつ灼滅者になったんですかヤマトさん。

     出現条件は、指定された時間に男女が仲よさそうに公園にいればいい。
    「敵は見るからにチャラい男とミニスカサンタの女。それが3組いる。見た目どおりチャラくてウゼぇセリフと共に攻撃してくるが、ぶっちゃけ弱い」
     思いの丈を思う存分叫びながら、激しくぶちのめしてOKって事ですね。
    「だが奴らには厄介なBSがある。【トラウマ】が、全ての攻撃に付いてくる。心の傷をほじくり返す敵でもあるから用心しろ」
     泣いてもいい、怒っても八つ当たりしてもいい。相手は都市伝説だ。
    「世の中、リア充を爆発させたいって連中が多いようだな。その思いが、こんな悲劇を生むことになる……人間ってのは罪な存在だぜ」
     ヤマトは片手で髪をかき上げて溜息をついた。
    「俺の心は、いつでもお前達と共にある。頼んだぜ」
     あと付け足し。
    「3組の区別は、女を見ればわかる。巨・美・微とでもいえば」
     ……見てるところはちゃんと見てるんですねヤマトさん。


    参加者
    玖珂・双葉(黒紅吸鬼・d00845)
    風間・薫(似て非なる愚沌・d01068)
    霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)
    黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)
    シャルロッテ・モルゲンシュテルン(夜明けの旋律・d05090)
    滝摩・翔(中学生殺人鬼・d06109)
    イディオム・アランカリ(錆びた鎮魂歌・d08928)
    神堂・律(中学生ファイアブラッド・d09731)

    ■リプレイ

    ●リア充を出現させるための疑似リア充たち
     師走も半ばに差し掛かった、とある繁華街の公園。
     襟を合わせて小走りに通りすがる営業帰りのサラリーマンさんや、定時上がりのOLさんたちが時折通りすぎるが、寒風吹きさらしのベンチには誰も寄りつこうとはしなかった。
     真夏であれば涼しげに見える噴水の水柱も、今は憎らしいほど寒々しい。
    「もしかしなくても、これ貧乏くじってやつか?」
     噴水脇にある茂みに隠れている玖珂・双葉(黒紅吸鬼・d00845)は、テンション低く呟いた。水辺が地味に冷えを運んでくる。寒い。
    「『クリスマス』と『くるしみます』、響きが似てるよな」
     同じくテンション低く滝摩・翔(中学生殺人鬼・d06109)も、その隣で呟く。
     エクスブレインの招集に集まったのは男子5名、女子3名。
     目的であるウザい都市伝説を出現させるためには、カップルが必要だった。早い話が余った……否、二人は都市伝説出現に備え待機を申し出たのだった。
     噴水を眺めるように等間隔に設置された三つのベンチには、囮として六名の男女が見た目カップル風に振る舞っている。
     勿論演技だ。都市伝説はカップルに釣られて姿を現すのだから。
     大事なことなので二度言う。これは演技なのだ。
    「こんなモンしか用意できなくてすんません、先輩。あったかいうちにどーぞ」
     ベンチその1では、神堂・律(中学生ファイアブラッド・d09731)がシャルロッテ・モルゲンシュテルン(夜明けの旋律・d05090)と隣り合って座っていた。
    「いえいえ、二人で食べれば美味しいです。はい、はんぶんこ。ど~ぞです」
     ほのぼのと鯛焼きを分け合って食べる様子は、普通にカップルだ。どこかぎこちない様子もまた初々しく、お付き合いを始めて間もないイメージで。
     ぎり、と噴水近くで歯ぎしりする音が聞こえたのは気のせい。
     ベンチその2。
    「なんややけに寒もうなって来たな、うちの着物貸すからこれで暖まってや」
    「あ……ありがとう。缶コーヒーあるんだけど、どう?」
     風間・薫(似て非なる愚沌・d01068)が、着ていた羽織を黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)の肩にかけてやる。摩那はお礼にとあたたか~い缶コーヒーを手渡し。
     うん、普通のカップルです。たとえその後、摩那が激辛調味料について力説していても。薫はそのまま興味深そうに聞いている。
     ばき、と噴水を囲む茂みのあたりで枝が折れた音がした。きっと気のせいだ。
     そしてベンチその3。
    「個人的には特に、野郎の方は生まれたことを後悔するくらいのトラウマを植えつけたい、です……が」
    「そうね。女の子は斬影刃を使ってあげると、もっとサンタ服が可愛くなると思うの」
     霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)とイディオム・アランカリ(錆びた鎮魂歌・d08928)が、にこやかにリア充爆破サツバツトークを繰り広げている。
     時折刑一の視線が下方にブレたりするのは、イディオムに気を取られてしまうからだった。彼女は公園に入る前にしゃららーん☆とESPエイティーンを活性化させ、18歳の姿に変身していた。
     零れる柔らかい金髪、白い肌、魅惑のボディライン、だが中身は6歳の無邪気な微笑み。そんな彼女を隣にして、ぶれない男性がいるだろうか? いや、いない(たぶん)。
     がさっと音がして、噴水の茂みから震えるスケッチブックが上がった。蛍光塗料が垂れ落ちて血文字のように見えるのは、掲げる双葉の心の叫びか。
    『同士よ、目的を忘れたか!』
     刑一がハッとしたように、緩んでいた表情を引き締めた。
     ……そんなこんなで時計がエクスブレインの予測した時間を指した頃。
    『えぇーやだー? アタシたちの場所がなぁーい。ミーコどうしよぉー?』
    『バクハツさせればいーんじゃねぇ?』
     雑誌のモテ服特集記事から抜け出してきたようなチャラい男が、片腕にミニスカサンタの盛り巻き髪女を絡みつかせて現れた。きちんと三組。
     一番喜んだのは、寒さとぼっち感に震える待機班の二人だったかも知れない。

    ●トラウマたちの宴
     打合せ通り、灼滅者たちは素早く位置を取り都市伝説×三組を取り囲んだ。
    「異議あり!」
     真っ先に動いたのは摩那だった。
    「リア充がリア充を爆発するのは正しい姿ではないわ。非リア充こそがリア充を爆破するべきなのよ!」
     ごもっともです。と誰もが頷きたくなる正論を高らかに叫びながら、日本刀を鞘から抜き手近なチャラ男に斬りかかる。大上段から振り下ろされる斬撃は、ミニスカサンタ(微)を真っ二つにするかと思われた。
    『いやぁ~ん、タカシぃ、チハルこわ~い』
     イラッとする口調で隣の男を前に押しやるミニスカサンタ(微)。哀れ、男はざっくりばっさり切り裂かれた。
    「我こそはリア充爆破せし嫉妬の戦士。リア充ことごとく滅ぶべし!」
     こちらも宣言して、何か怪しげな秘密結社風の衣装をばさっと翻す刑一が放つはトラウナックル。影に包み込まれたチャラ男は、何やらへらっとした表情のまま倒れる。
    『手編みのセーターとか……ちょっと重くね?』
     何日もかけて一目一目、慣れない手つきで挑んだ手編みのセーター。なんか執念が入ってそうで、髪の毛編み込んであったりしそうで怖い、という類の贅沢な悩み。しかも目が揃っておらず、もそっとして人前で着るにも微妙なデザインな場合、どうしていいのか分からなくなるというリア充特有の贅沢さ。
    「トラウマすらリア充! 許すまじ!! デストローイ!!!」
     刑一は地団駄踏みながら、護符を投げつけざくざく塵になるまで切り刻む。
     チャラ男(連れは美)の攻撃を受けトラウマが発動した律は、目の前に幻を見ていた。
     街が華やぐクリスマス直前。まる一ヶ月かけて選んだクリスマスプレゼントを鞄に忍ばせ、呼び出されたいつもの場所に走る律。その目に映るのは、つきあい始めて間もない彼女の愛らしい姿。だが。
    『ごめんね、好きな人ができたの。これからはいいお友達でいましょう?』
     ある意味完全にフラれるより痛いこの言葉。手の中から滑り落ちるプレゼント……
    「き、消えろおおぉ!」
     裂帛の気合いで幻を消し去る。
    「見たか都市伝説……ってホントに見てないで!」
     気がつくと、目の前の都市伝説カップル(美)が、なんか可哀相なモノを見る目で見ていた。俺たち勝ち組じゃね? 的視線で。
    「俺はいつまでも過去に拘ってる男じゃねぇ!!」
    「取り乱しすぎや、少し落ち着きなはれ律はん!」
     とりあえず薫が暴れる律を羽交い締め。
     そんな灼滅者側のドタバタ中にも、べったべったいっちゃいっちゃしながら、思い出したようにトラウマ付きの攻撃を振りまく都市伝説カップル。
    「あかん、この甘ったるい感じ……吐きそうやわ」
     辟易ぎみに刀を抜き、瞬時に放った黒死斬はチャラ男(連れは巨)の腱を抉り取り、続けざまのティアーズリッパーがモテ服ごとチャラ男を引き裂いて塵にした。

    ●『男は全員同じに見えたんだ』某エクスブレイン談
     そんな中。
     シャルロッテは隅っこにうずくまり、地面にいじいじとのの字を描いていた。頭に響くのはかつて友人達に言われた言葉。
    『シャルちゃんってコイバナとか興味なさそうだよね』
    『一人でも楽しくやっていけそうに見えるよ』
     恋に恋するお年頃のシャルロッテには、地味に心に刺さる言葉だったのだ。
     もちろん今年のクリスマスの予定も無い。近所のケーキ屋に予約したホールケーキを取りに行くこと以外は。勿論自分用だ。
    「さ、寂しくなんてないんデスカラ……」
     ぽたりと落ちる雫は、きっと心の汗に違いない。
    「しっかりして、シャルロッテ!」
     イディオムの声にはっとして、都市伝説に向き直る。
    「人の幸せを喜べない方は、同士討ちがお似合いなのデス!」
     天上の歌姫もかくやという歌声が、公園に響きわたる。
    『あたしぃ、クリスマスには指輪が欲しいのぉ』
    『指輪よりホテルの豪華ディナーだろ?』
    『ちょっとぉ、アタシの彼いなくなっちゃったしぃ、取っちゃおうかなぁ』
     ……同士討ちまでも果てしなくうざったい。
    「ああ! 嫌なもの見せられたお返しだぜ!!」
     両手にガンナイフを構え、翔が叫ぶ。自らの心の深淵に潜む暗き想念、主にさっき無理矢理見せられたトラウマに対する恨みを凝縮し、漆黒の弾丸をがんがん男に撃ち込む。
    「俺は女顔じゃないし、女装だって似合わない。似合わないはずなんだ!!」
     今では何故そんな事になったかすら覚えていないが、以前面白半分に女装させられたとき。『似合うね』と、ひそかに気にしていた少女に言われてしまったあの時から、彼の中の何かが変わった……わけではないが。
    「トラウマじゃない、トラウマなんかじゃない!!」
     叫ぶ翔の隣では、ハイライトの消えた目の双葉がいた。
    「うぜぇ……見た目で灼滅したくなる、口調で灼滅したくなる……」
     主の負の感情を受けて、足元に落ちる影がうぞうぞとうごめいている。
    「まぁまとめてつぶせば関係ないよな、はは、ははは……」
     瞬間、迸る影がミニスカサンタ(巨)を縛り呑み込んだ。
    『いやぁ~ん、痛ぁ~い!』
    「だいたい他に見分ける方法無かったのかよ、エクスブレイン!」
     ぎりぎりじわじわ締め付けて霧散させる、暗い狂気に充ちたその様子はまるで……
    「こんな理由で闇堕ちしたら、どうやって助けに行けばいいの!」
     最後のミニスカサンタを消して、ふと我に返る双葉。
     イディオムからのジャッジメントレイ、癒しの力が心にしみじみしみわたる。
     さて、とイディオムは最後のチャラ男に向き直った。
     少女と大人の間、危うい境界にある魅惑のボディ。イディオム(中身は六歳)はゆっくりと眼鏡を外し、目を細めて言った。
    「あなたに選ばせてあげる。灼滅か、爆発か……」
     差し伸べるような指先に集まるのは、目映い裁きの光。
    「さあ……どっち?」
     限界まで膨れあがった光が、最後のチャラ男の胸を貫く。
    『……これは……これで……』
     最後の最後までうざくチャラかったチャラ男は、どこか満足そうな表情で光の中に消滅した。

    ●心痛めた戦士たち
    「御仏の名の下に、リア充は爆発すればいいのよ!」
    「もう爆発したで。しかし、えらく疲れる敵やったわ……」
     吠える摩那に、薫が缶おしるこを差し出しながら溜息をつく。甘くて温かいものは心を癒すから。
    「エクスブレインも大変だよな、この時期こんなのばっか見せられるんじゃ」
    「バレンタインとかもっと酷いんじゃないのか」
     いっそ普通に悪い都市伝説であれば、何のためらいも無く切り捨てて終われるのにと、双葉と翔も無駄に消耗した精神力を缶コーヒーで癒す。ああ温かい。
    「りっあじゅーばっくはつ、りっあじゅーばくはーつー♪」
     エイティーンを解き、普段通りの六歳の姿に戻ったイディオムは、即興でリア充爆発の歌を歌いながらのんびり歩いている。そのすぐ後ろを刑一が歩いているのは、夕暮れの一時、ほんの僅かなリア充体験を惜しんでいるからではない。偶然である。
     シャルロッテと律の傷は深かった。もちろん外傷ではなく、忘れようとしていた心の傷を無理矢理ほじくり返され目の前に突きつけられた反動だ。
    「負け惜しみじゃない……リア充は爆破すべきものなんだ……」
    「今年はどうなるのデショウね……」

     灼滅者達の活躍(ぎせい)によって、噴水公園の明るい未来は約束された。
     今年もつつがなくクリスマスは訪れ、リア充達はリアルを満喫しあう。
     灼滅者は少なくとも一組のリア充を救ったのだ。それでよしとしようではないか。
    「「「メリークルシミマス!」」」

    作者:高遠しゅん 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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