別府の街のエトランジェ

    作者:中川沙智

    ●見知らぬ炎の神獣様
    「イフリートが温泉に入ったら、お湯は沸騰するのかなそれとも蒸発するのかな……?」
     とりとめもない呟きを漏らす須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)の姿に、教室に集まった灼滅者たちの視線が集まる。やや間があって状況に気づいたらしく、まりんは動揺のあまり危うく何もないところでつまづきそうになった。が、どうにか踏みとどまる。
    「わ、ええと、そ、そうだ集まってくれてありがとう! あのね聞いてると思うけど、別府温泉近辺でイフリートが出現しているんだ。既に目撃情報は多数発生しているの」 
     鶴見岳のマグマエネルギーを吸収して、強大な力を持つイフリートが復活しようとしているらしい。そこまでは掴めている。
    「サイキックアブソーバーのおかげで、イフリートが出てくるっていう予測は出来てるんだけど……」
     額に人差し指をあてて、考え込むまりん。苦々しくもゆっくりと、言葉を繋げた。
    「ごめんね。強大なイフリートの力が影響しているせいなのか、事件直前まで予知が出来ないみたい」
     真面目な性格のまりんはこの事態に歯がゆさを感じているらしい。悔しそうに表情を曇らせる。
     直前までエクスブレインによる予知がかなわない、ということは事前情報に基づいた対処や準備が出来ないということだ。予知を待って現地へ移動するとなると手遅れになる。
     となると。
    「まずは別府温泉に向かって欲しいの。別府温泉のあたりで待機、イフリートが出現したらすぐに現場に向かって迎撃してもらうっていうのがベストかなって思うんだ」
     言い切ったまりんの声は力強い。説明を続けるうちに、灼滅者たちへの信頼を再認識したらしい。瞳に輝きが宿る。
     みんななら大丈夫。
     まりんの顔に、そう書いてある。
    「今回のイフリート自体はそんなに強い個体っていうわけじゃないみたい。眷属も連れてない、1体だけだよ。でも撃退に失敗したら別府の温泉街に被害が及んじゃう。だから温泉街にイフリートが到着する前にばーんと倒しちゃって!」
     そしてまりんがそっと差し出したのは携帯電話。
    「みんなには携帯に連絡入れるよ。今のうちに番号交換させてね」
     出現場所がわかり次第電話するよ、と手早く灼滅者たちとまりんは連絡先を交換する。
    「それで、ここからは少し楽しい話」
     深呼吸して、まりんは明るい笑顔を掲げた。
    「場所は勿論だけど、いつイフリートが出現するかもわからないんだ。到着後すぐ電話するかもしれないし、数日後かもしれない。時間の猶予があるかもっていうことで、逆転の発想をすればいいんだよ。私が連絡するまで別府温泉で遊んじゃってOKだよ!」
     日本屈指の温泉街。見どころも食べどころも満載だ。寒さも増してくる季節柄、温泉のあたたかさはまさに骨身にしみるに違いない。
     個人行動も団体行動も自由。ただ単独やグループで行動する場合、迅速に連絡が取り合えるよう打ち合わせをするのが望ましいだろう。集合に手間取りタイムロスが生じたとあっては、先回りして現地入りした意味がない
    「あ、その代わり遊びに夢中になって電話に気づかなかったーなんてことがないように気をつけてね! 圏外も電源オフも絶対ダメ、一番問題なのは携帯を携帯してないこと!」
     携帯電話は携帯するためにあるんだからね! と念押しして。
    「それじゃ行ってらっしゃい。色々面倒かけちゃうけど、どうかよろしくね!」
     まりんは灼滅者たちを送り出したのだった。


    参加者
    狐頭・迷子(迷い家の住人・d00442)
    大松・歩夏(影使い・d01405)
    迅・正流(黒影の剣士・d02428)
    長姫・麗羽(高校生シャドウハンター・d02536)
    嵯神・松庵(染めずの黒・d03055)
    八嶋・源一郎(春風駘蕩・d03269)
    凨之・蘇芳(忍びと信仰の融合・d08851)
    セシリア・スペンサー(ブレイクスルー・d10807)

    ■リプレイ

    ●湯の街
     多くの人で賑わう温泉の街、別府。
     街のそこそこで湯煙がのぼり、談笑が響く。
     到着が昨夜遅くだったこともあり、灼滅者たちはまず宿をとることにした。明朝、探索も兼ねて観光を開始する。8人揃っての散策だ。
    「ふふふっ、依頼で温泉街に来れるなんて最高じゃない!」
     駆け足で道をゆく中テンション高めに振り返り、セシリア・スペンサー(ブレイクスルー・d10807)は背伸びをする。たっぷり遊んで別府を楽しむという心意気の彼女は笑顔も晴れやかだ。
    「ああ、休みでもないのに勉強もせずに遊んでられるなんて……幸せー!」
     別府は初めてという大松・歩夏(影使い・d01405)も期待に表情を緩ませている。主目的は勿論イフリート退治とはいえ、少しくらいは羽を伸ばしたっていいはず。しかも学園公認とあっては解放感を感じるなという方が無理だろう。
     楽しげに観光パンフレットを広げる歩夏の手元を、おずおずと狐頭・迷子(迷い家の住人・d00442)が覗き込む。
    「……素敵な場所です。せっかく来たんだし楽しみたいですね……」
     ぽそり呟きながらも迷子は嬉しそう。女の子が3人揃えば何とやら、そこがいいあそこがいいと名産名所探しに余念がない。
    「こらこら、あくまで団体行動が基本だからな。はぐれるんじゃないぞ」
    「まあ、いつ現れるか分からぬ敵にピリピリしておっても仕方ないからのう」
     迷子になられてもかなわんと、男性陣からやや離れ気味になった女性陣を嵯神・松庵(染めずの黒・d03055)が手招きする。八嶋・源一郎(春風駘蕩・d03269)がそれとなくフォローを入れるが、扇で隠れた口元が緩んでいるところを見ると源一郎自身も気分が高揚しているに違いない。
     そういう松庵も着物に羽織姿――本人的には普段着のようだが――で、別府の街にしっくり馴染んでいる。まるで保護者だな、と凨之・蘇芳(忍びと信仰の融合・d08851)は思ったが、敢えて口には出さない。
     地元の職人とみられる男性と話していた長姫・麗羽(高校生シャドウハンター・d02536)が、一礼した後戻ってきた。どうでした、と尋ねる迅・正流(黒影の剣士・d02428)に、首を横に振ってみせる。
    「バベルの鎖の強い影響があるところ、つまり一般人に意識されていない場所から、イフリートの居場所を探れないかと思ったんだけど……」
     口振りからするに、成果は芳しくなかったようだ。バベルの鎖の影響があるということは、最近何か変化があってもなくても噂として伝播されないということ。同じように学園から派遣されている灼滅者たちも何組かいるため、今回標的とするイフリートの居場所を絞り込むことは難しいといえる。
     加えて仮にイフリートを事前に発見出来たとしても、エクスブレインの予知によってバベルの鎖の察知を掻い潜れない以上、どんな不測の事態に巻き込まれるかもわからない。
     そこまで思い至ってため息をつき、麗羽は自ら話題を変える。
    「その代わり地元の人が知る隠れた名店、みたいなところを教えてもらった。そっちはどうだろう」
    「はっ、そこはとても美味しいお店な気配がするわ!」
     どうやらセシリアの『ぶらり再発見』センサーに引っかかったらしい。なら食事はそこで、と歩を進める灼滅者たちは一軒の土産物屋に辿り着く。
     精緻な職人技が見事な竹細工、温泉成分が針状結晶化した湯の花と呼ばれる入浴剤。別府ならではの土産物が並ぶ中。
    「……これすっごく美味しい! すみませんこれください!」
     歩夏が選手宣誓の如く手を上げ、店内へ声を張り上げた。にこにこ顔でやってくる店員のおばちゃん、唖然とする仲間たち。
    「だってこれホント美味しいんだってば。試食あるよ」
     何時の間に食べた。とツッコミが入る前に差し出されたのは温泉プリン。温泉の蒸気で蒸し上げたプリンは舌触りも良く、別府のご当地スイーツとして数多くのショップやカフェで展開しているらしい。
    「確かに美味しいです……」
     きっと尻尾があったらぴこぴこと振ってそうな勢いで迷子も嬉しそうだ。何人かがその場で温泉プリンをお買い上げする中、正流は相棒へのお土産をと可愛らしいストラップを購入していた。
     何買ってんだーと皆を囃し立てていた蘇芳が、ふと目を眇める。
    「あ、ちょっとだけ離れるな。すぐ戻る」
     何かを見つけたのか、蘇芳が近くの店へ駆けだしていった。だから離れるなと、と呟きながら松庵はさりげなく携帯に視線を向けた。まりんからの連絡はまだ来ていない。
    (「さっさと来てくれれば心情的にも楽なのだがね」)
     頬を掻き、松庵は何処に潜むとも知れない炎獣に思いを馳せた。
     ほどなくしてそれぞれが買い物を終え、蘇芳も戻ったところで移動を再開。麗羽が教えてもらった店へ入ると、気の良さそうな店主と女将が迎えてくれた。
     趣があり落ち着いた居住まいながらも、清潔感のある和食店だ。かといって敷居も高すぎず、成程地元情報と『ぶらり再発見』のコンボは侮れない。
    「学生さんかい? 見たことのない制服だけど」
    「はい、オレたちは武蔵野……東京から来ました」
     麗羽が伝えると、女将が穏やかな笑みを浮かべる。
    「あらまあ。遠路はるばるいらっしゃい。いい街だろう、別府は。美味しいもの用意してあげるから待ってなさい」
    「あ、すいません! 持ち込みって出来ますか!?」
     突如前へ出た蘇芳に全員の視線が集まる。口元に人差し指を示す仕草、どうやら内緒ということらしい。手にした袋の中身を女将に見せ事情を説明すると、快く了承してもらえたようだ。
    「何をやっているんですか?」
    「ま、楽しみにしてろよ」
     正流の問いも蘇芳はのらりくらりと躱す。別府に来たらやりたいことがあったんだ、と悪戯めいた笑みを浮かべた。

    ●宵の報
     個室に通された灼滅者たちの前に並べられたのは、早めの昼食とするにはあまりに豪勢な食事の数々。
     名物とり天から始まり関鯵の活造り、豊後牛のステーキにふぐ鍋まで。
     しかもこれが学生料金ということで格安にしてもらえるというのだから素晴らしい。あたたかい心づくしに感極まっている者も多い。
    「ほう、これはなかなか……」
    「すごい贅沢~! 別府万歳!」
     源一郎は目を細めながら鯵の新鮮さに舌鼓を打つ。アメリカ出身のセシリアにとっては珍しい料理ばかりなのだろう、目を輝かせながらも箸は止まらない。
    「お待たせしました。持ち込みの品、出来ましたよ」
    「待ってました!」
     蘇芳が身を乗り出すと、女将は器の蓋を開けてみせた。途端に立ち上る、馨しい蒸気。鎮座する関鯖にどよめきが起こる。
     どこか誇らしげに蘇芳が解説する。
    「温泉の噴気を利用した地獄蒸しって料理法だ。秋鯖は逃しちまったが、冬鯖だって美味いだろ」
     鉄輪温泉を中心に広く伝わった、温泉地ならではの調理法。味付けは塩のみだが、殊更素材の良さを純粋に引き立たせる。
    「成程、先程女将にお願いしていたのはこのことでしたか」
     正流が得心して視線を向ければ、かぼす果汁かけとけよーと蘇芳ははぐらかして笑った。ムードメーカーに徹すると決めているらしい。
     素材の旨みが凝縮されているせいか舌に身体にじんわり染みて、皆の表情も綻んでいく。別府に来てよかった、とそれぞれがしみじみ噛み締める。
     皆にお茶を振舞っていた女将が、松庵を気遣うように微笑む。
    「本当はお酒も合うんですが……生徒さんの前ですしやめておきましょうか、先生? 引率お疲れさんです」
    「え」
     松庵が箸を取り落としそうになるが女将は気づかない。
    「え?」
     他の仲間たちが思わず吹き出すまで、あと5秒。
     
     昼食後は街の名所を見て歩く。イフリート出現に関する情報はやはり得られなかったが、慣れぬ街の道筋を把握出来たことは収穫と言えるだろう。
     何より、純粋に楽しい。硫黄の匂い、浴衣で道行く人の流れ、人々の暮らしに密着している温泉の息吹。
     そして歩いた後の温泉が極楽なのは世の常だ。
     日もとっぷりと暮れ、灼滅者たちは宿へ戻った。学園から斡旋されているらしい、こじんまりとした良い宿だ。
     ちなみに混浴ではありません。
    「あー……気持ちいいですねー……」
     露天風呂に肩まで浸かり、迷子は蕩けるように呟きを零した。湯煙と一緒に、夜空へふんわり流れていく。
     歩夏も自らの腕を指先で辿って、目を細める。
    「ねー! すごいよ、肌すべすべになる」
    「落ち着くわね~。日本の温泉も悪くないじゃないの」
     ゆったりとくつろぐセシリアの視線の先には、防水ケース入りの携帯電話とスレイヤーカード。どんな時でも出動できるようにという共通認識のもと、いつでも連絡は取れるようにしているのだ。
     それは男風呂でも同じこと。
    「目隠し外さないのか?」
    「ニット帽は脱いだから大丈夫」
    「いやそうじゃないし」
     若干漫才めいた蘇芳と麗羽の会話を背に、松庵は湯に浸かり天を仰ぐ。
    「ふぅ、五臓六腑に染み渡るねぇ」
     何をしているかと思えば、松庵は湯に浮かべた盆に徳利で冷たいお茶を飲んでいた。ならば先生と間違われるじゃろうて、と苦笑した源一郎は元来温泉が好きなため、存分に味わうべく湯に揺蕩っている。
    「眼鏡外さないのか?」
    「曇り止め付きですから大丈夫です」
    「……いやそうじゃないし……」
     正流と同じような会話を繰り返し、蘇芳が脱力した。その瞬間。
     携帯電話の着信音が高く鳴り響く。
     画面に表示されている名前は須藤まりん。言わずと知れたエクスブレイン。
     嫌な、予感がする。
     が、無視するわけにもいかない。松庵は通話ボタンを押した。
    「もしもし」
    『もしもし!? よかったすぐ繋がった! あのねイフリートが出現したの、急いで向かって!』
     視線を向け、頷く。それだけでその場にいる全員が理解した。麗羽が女子の携帯に電話し、状況を説明する。
     怒鳴られた。理不尽だ。
     手短に情報を確認すると、松庵は着信を切る。
    「イフリートは立石山の麓に現れ、観海寺温泉方面へ向かっているらしい。あとの話は向かいながら説明する。行くぞ!」
     湯冷めするじゃないかとか、くつろぎの時間だったのにとか。怒りに震えながら手早く温泉から上がる灼滅者たち。
    「温泉の邪魔をするなど無粋の極み、八つ裂きにしてやるでな……」
     低く呟いた源一郎の顔に蘇芳の背筋が凍る。
     いまだかつて見たことがないほど、マジだった。

    ●焔の獣
    「直進を許せば別府温泉街の中心部へ、か。野暮もいいとこじゃない」
    「ええ、こんなに楽しい街ををイフリートなんかには破壊させないわよ!」
     別府の街の良さを肌で知った後だからこそ、歩夏とセシリアは勢いに乗って夜の別府の街を駆ける。それは他の灼滅者たちも同じこと。
     街灯は殆ど消されていたが、それぞれが照明の準備や購入を怠らなかった。
     加えて昼間のうちに街を巡り地理をある程度把握していたことや、正流の旅行ガイドに地図が載っていたことが幸いした。
     走る足に迷いはない。着実に、迎撃準備を取ることに成功する。
    「イフリートが来るの結構早かったですね……」
     しょんぼりと肩を落とすのは迷子。彼女が用意した防寒具が功を奏し、湯冷めの心配もなさそうだ。
    「このあたりだな」
     立石山の麓、観海寺温泉方面。丁度開けている場所のため戦闘にも困らない。
     正流と源一郎が視線を交差させる。正流が全身から殺気を放つと、源一郎は戦場外への音を遮断する。
     この場で止めてみせる、決意と共に前を向けば、闇夜に燃える獣が姿を現した。
     かの炎獣は高く吼える。同時に地を蹴り、灼滅者たちに向かい奔る。
     機は、熟した。
    「灼甲……鎧鴉!」
     叫びと共に漆黒の剣を大きく振り翳す。鴉の意匠を持つ漆黒の全身鎧を身に纏った正流は、挨拶代りとばかりに超弩級の一撃を振り下ろす。
    「黒影騎士『鎧鴉』、見斬!」
     炎獣の肩を大きく抉るが、削りきるには至らない。
     まりんはイフリートの出現場所の他に、ある特徴を電話で知らせていた。天星弓の百億の星に似たサイキックを使用する、と。
     イフリートは一層高く吼える。灼滅者たちが身構えるや否や、天から炎の星が降る。隕石に似て、前衛陣を連続で撃ち砕く。
    「そう簡単に倒れさせはしないよ」
    「大丈夫かしら? 今回復してあげるわね」
     麗羽は前衛たちに力を与えるべく炎への加護をも与えるシールドを展開する。状況を見遣り、セシリアも松庵に治癒の力を宿したあたたかな光を齎す。
     体勢を整えた松庵は、バベルの鎖を集中させた瞳でイフリートを見据える。
    「さて、二度目のイフリート退治だ。油断せずに行こうか」
    「ああ。勿論!」
     一瞬にして抜刀した太刀筋は闇をも切り裂く。続いたのは細かく煌びやかな装飾が施された蘇芳の一太刀、中段の構えから真直ぐに振り下ろされた斬撃は残像すら残さない。加えて蘇芳の霊犬、天津が退魔の一閃、刀傷を重ねる。
     その直後、イフリートから噴き出したのは炎ではない、赤。
     灼滅者たちの強襲は止まらない。影の先端を鋭い刃に変え、縦横無尽に斬り裂いたのは源一郎だ。炎ごと鬣を斬り刻み、その傷痕に迷子は蓋をするように符を飛ばす。途端にイフリートの目が微睡み、動きが鈍る。
     迷子の霊犬・小梅の浄霊眼が歩夏を優しく癒す。それに勇気づけられ、歩夏は一足飛びでイフリートの懐に踏み込む。死角から脚の腱を断つと、自らの重さに耐えきれなくなったのか炎獣が膝をつく。
     決して今回のイフリートが弱いわけではない。だが周到な灼滅者たちの準備と戦略が、それを上回ったというだけ。
     まさしく怒涛。あるいは温泉の恨みか。どちらかは誰も知らない。
     残るのは勝負の天秤が灼滅者たちに傾いた、その事実のみ。
    「無双迅流真技! 天昇地雷光!」
     止めとなったのは開戦の合図となった正流の一撃。下段の構えから頭部へ向け、すべての力を籠めて斬り上げる。
     この地に在るべきではない炎の獣を、文字通り粉砕した。

    ●戦の後
     当初の目的は達成された。
     が、何となくやるせない気持ちであるのも事実。何せ温泉入浴を中断された挙句、思い切り汗をかいてしまったのだ。
    「無事終わったし、また温泉に入りたいわね~」
     セシリアがぽつりと呟いた。その発言に思い切り食いついたのは、女性陣。
    「私も賛成! そもそも今から学園に帰るなんて無理だし!」
    「わ、私も、どうせならもう少し楽しみたいです……!」
     歩夏は全力で、迷子は控えめに挙手をする。
    「討伐後のご褒美にこれくらい許されるだろ」
     蘇芳が笑う。男性陣も異議はなく、宿へと引き返す。
     麗羽はふと足を止め、振り返る。視線の先には立石山、そして鶴見岳。
    (「……何か、理由があると思うんだよね」)
     胸中に燻る、イフリートの背後の存在への懸念。暫し反芻していたが、麗羽は仲間たちの背を追った。
     まずは今ひととき守った平和を噛み締めよう。
     向かうのは別府の街。湯がひとを繋ぐ、あたたかい街。

    作者:中川沙智 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 10
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