クリスマス~ツリーでShall We Dance?

    作者:飛翔優

     暖かく、朧げに、色鮮やかに輝く街の想い。艶やかに景色を彩る新葉を、純白ふわもこの雪を照らし、真っ赤な林檎やカラフルなお菓子、可愛らしい星々を煌めかせる。
     サンタを夢見る子供たち、包装を願う大人たち、快く引き受ける店主たちに、寄り添い景色を眺めるカップルたち……クリスマスを前にして、個性豊かに飾られた商店街を歩く人々の足取りは軽い。寒々しい風の吹き荒ぶ冬なのに、幸と暖に満ちていた。
     倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)もまたその一人。弾んだ調子で登場し、くるりと皆に向き直る。
    「もうすぐクリスマスですね。皆さん、予定は決まりましたか?」
     クリスマス、大本であるできごとはさておいて、現代においては概ね子供が祝福される吉日。あるいは、恋人たちが愛を確かめ合う情熱の日。
    「武蔵坂学園では、学園クリスマス会が開かれるのですよねー」
     様々な催し物が用意され、各々全力で楽しむことのできるイベント、武蔵坂学園クリスマス会。
     メイン会場は、クリスマスツリーと化した伝説の木の前。十メートル弱ほどの大樹に見守られながら、優しい時を過ごすのだ。
    「このメイン会場でも色々なイベントがあります。特に、夕方にはダンスパーティーが開かれるそうで……」

     様々な演奏に彩られ催される、ペアを組んでの社交ダンス。
     二人で一つの時間を共有するひと時は、絆を深めるにも新たな絆を結ぶにも相応しい時間となるだろう。
     さあ、恋人同士誘い合おう。軽やかな音色に抱かれて、情熱のダンスを描き出そう。
     手を取り熱を伝え合い、視線だけで合図を送り、軽やかにステップを踏んでいく。時に失敗をフォローし合い、心と心を重ねていく。……ダンスが終わっても、情熱が二人の心を昂らせてくれるように……。
     また、友人同士絆を深めるのもいいだろう。
     何も、共同作業はカップルだけの専売特許ではない。時に相手を変え、時に共に手を取り合い過ごす時間は、友情を深めるにも良い一時となるはずだ。
     あるいはそう、新たな絆を探しに行こう!
     ソロで参加している未来の絆を探り当て、声掛け一緒に踊ろうか。
     初対面の緊張も、知らない相手が故の気恥ずかしさも、クリスマスの熱が和らげてくれるはず。ダンスパーティーの高なる想いが、不必要なものなど全て忘れさせてくれるはず。
     
     皆、巨大クリスマスツリーに見守られ時を過ごす。絆を深め続けていく。
     そんな、恋人たちの憩いの場。新たな出会いを求める時間。ダンスパーティーは、そんな甘く、熱く、優しい時間……。
    「時間帯は夕方、場所は巨大クリスマスツリーの前。衣装の持ち合わせがない方も、武蔵坂学園から貸し出されるので大丈夫。参加されたい方々は、是非集まって下さいね……と、そうでした」
     にっこり笑顔で締めくくろうとした葉月が、忘れていたという風に手を叩く。
    「後、会場を彩る楽器演奏を行なって下さる方々も募集しています。いなければ録音……となりますが、やっぱり生音は違いますしから」
     これで全て……と、葉月は改めて居住まいを正していく。
    「それでは皆さん、当日は精一杯楽しみましょう。かけがえのないひと時になるように、忘れられない日になるように……ね?」
     ……十二月二十四日、クリスマスイブ。幸と暖に満ちるよう、全ての人々の祝福を……。


    ■リプレイ

     クリスマスイブも半ばを過ぎた夕暮れ時。武蔵坂学園の各所に散りばめられたイルミネーションが、その綺羅びやかさを増していく。
     例えば木に吊るされた様々なぬいぐるみ。艶やかな緑と白の上、風に吹かれて踊っていた。
     大きめのモミの木で、煌めくピンクと落ち着いた白雪に抱かれ戯れる黒猫に白ウサギ、わんこに亀。
     全て、メイン会場のツリーに負けずとも劣らぬ芸術たち。
     ならば、想い出もより輝かん! と、大樹の袂には生徒たちが集っていた。
     主演奏、風舞・氷香。バイオリンを肩に載せ、静かに弓を構えていく。合図と共に引き寄せて、軽やかなる音色を響かせた。
     それは、ワルツ。ダンスのための。最初の切っ掛けを作るための。
     半ばにて、響くは綿津海・珊瑚の歌声。
     リズムに従い朗々と、ソプラノの音色を響かせる。かと思えばテノールパートに切り替えて、常に詩を絶やさない。
     様々な曲を用意した。尽きることはないだろう。
     今、ここに、夕暮れのダンスパーティーが開幕する。

    ●宴は祝福とともに開幕した
     テストで勉強を教えてもらった汚名返上! と、髪を括って燕尾服でビシッと決めた志那都・達人は、レイン・シタイヤマと合流した。
     彼女は深い赤色の、ワンピースタイプのドレス。髪も、いつもと違って解いている。
     普段の凛とした雰囲気とは対照的で、とても良く似合っていた。
     一拍の間を置いた後、レインもまた同様に返答する。
    「それじゃお手をどうぞ、お嬢さん?」
    「お嬢さん、か……レイン、で構わないのだがね?」
     冗談めいたやり取りの後、レインは差し出された手を取った。
     世界に、二人の風をもたらすために……。

    「その……、あまりにも美しいので……」
     ワインレッドのドレス。毛先を巻いたポニーテールなどでおめかしした鳳珠・澪架の出で立ちを、セティアート・アシュレインは賞賛した。
     お返しに白い軍服姿も似合っている、と褒めたなら、その来歴が語られる。
     驚きはしたものの、変わらない。彼は、彼だから。
     静かな息を吐いた後、セティアートは彼女の手を優しく取る。完璧にリードする。
     躓いてしまっても抱きとめた。
    「……裾が長いと慣れないな……」
     澪架が頬を赤らめ、照れ笑い。
     鼓動が大きく高鳴った。
     されど悟られぬよう微笑み返し、蝶と死神の舞踏を描いていく……。

     刀称・隼鷹の出で立ちは、タキシードにロングコート。
     慣れないドレスに全力おめかししてきたサリィ・ラッシュは眉を潜めるも、まぁいいやと諦めた。
     そんな反応を見た後に、隼鷹はコサージュを取り出していく。
    「ほら、これだろ?」
    「まぁすてき! どうして私の好きな花がわかったの?」
     答、事前に言っておいたから。
     困ったように肩を落とす隼鷹。
     サリィはいたずらっぽく微笑んだ。
    「はいはい、おど」
    「そういうのも、たまにはいいんじゃねぇか? 似合ってると思うぜ」
     流れるまま誘おうとした矢先、姿を褒められ頬染める。
     構わず隼鷹は手を取って、踊ろうと彼女を促した。

     互いに、正装もダンスも未経験。
     ダンス会場で出会った二人は、互いの姿を前に固まった。
     山崎・余市は深紅のドレス。腰のおっきなリボンが特徴的。
     杞楊・蓮璽 はタキシード。着慣れない、と言っていたけれど……。
    「凄い、すっごく似合ってるよっ!」
    「余市さんこそ……綺麗です。本当に……あ」
     暫く見惚れていたけれど、蓮璽ははっとなり居住まいを正していく。
     微笑む彼女の腕を取り、今度こそ勇気を出して。
    「さあ、踊りましょう?」
    「はいっ!」
     新たな音が紡がれる。今宵は余市の願うがまま。
     これから先もずっと! パートナーとして!
     二人の時間が、今……!

     折角のダンス、たまにはまともな格好を。
     全ては天堂・鋼のため。山岡・鷹秋は、燕尾服でびしっと決めた。
    「……何か、違う人みたい」
    「かははっ! 鋼はいつもの可愛らしさに磨きがかかってるぜ?」
     鋼はドレス。大好きな人と踊るための。
     正面から褒められて、そっと頬を赤らめる。
     熱が冷めないままに、ダンスの時が開幕した。
     鷹秋の動きに淀みはない。
     導かれるがままに心を委ね、鋼は楽しく舞い踊る。
    「鷹秋、あのね……」
     顔と顔が近づいた時、歌声に混じり、囁いた。
    「大好き」
     大切な想いを届けるため。
     伝わったことは、赤らむ頬が教えてくれた。

     故郷でも毎年踊っていたけれど、学園でもなんて夢のよう。
     黒のレースで飾られた薄桃色のドレスを着て、エルディアス・ディーティアムはユッカ・ヒベルティアに問いかけた。
    「似合っているかしら……?」
    「とってもよく似合っています、その淡い桃色。またひとつ、エルディアスさんの一面を見ることができました、ふふ」
     冷静な言葉とは裏腹に、大人っぽい彼女に鼓動は高鳴る。
     エルディアスもまた、普段とは違うタキシード姿に頬を染めた。
     そんな二人が、静かに舞を紡ぎだす。少しだけぎこちなく、昔を思い出しながら。
     今年最後の素敵な時間。委ねる内、緊張も何処かへ飛び立った。

     ダンスは初めて、気合を入れて。
     慣れない衣装に少し頬を熱くしている雨音・ユイが、似合っているかと問いかけた。
    「……うん、よく似合ってる。可愛いよ、ユーちゃん」
     柏木・耀亮は、見惚れていたのを悟られぬよう微笑んだ。
    「よーちゃん先輩もとっても素敵ですよ」
     にっこり笑顔で返答したユイを見て、更に頬を赤らめる。
     だから、悟られぬよう跪き、恭しく手を伸ばした。
    「踊ってくれる? ボクのお姫様。今日を最高のクリスマスにしようよ!」
    「……喜んで」
     ドキドキしながら手をとって、二人のダンスが描かれる。
     パーティーが終わる、その時まで……。

    ●出会いを求め高鳴る心
     新谷・赤兎と香月・杏が、ダンス会場を前に意気込んでいた。
    「此処が乙女の勝負どころ……!」
    「周りがらぶらぶだから当てられますねー。今頃別所でいい感じになっている方々もいますしねー」
    「しかし、今日だけは負けるわけにはいかないのですっ」
    「赤兎先輩、私たちもここで頑張りましょうね!」
     いつかは素敵な王子様が迎えに来てくれるはずだけど、中々来ないから自分から探しに行く。そんなガッツで参加した赤兎に、グリーンのパニエ付きドレスでおめかしした杏。暫しの後、声をかける男性が現れた。
    「こんにちは、もし良ければ僕と踊っていただけませんか?」
     名を本田・優太朗。どちらと? と問われれば、順番に両方と、と返していく。
    「……」
    「……」
     二人は顔を見あわして、牽制しあう。どちらが先に踊るのかと……。
    「なら、自分とも踊っていただけますか?」
     不穏な空気が流れる前に、村井・昌利がやって来た。
     話し合った結果、各々交代で踊る事となる。
     まずはダンスは苦手という赤兎を、昌利がフォローする形。
     運動神経の賜物か、傍から見れば淀みはない。
    「ダンスの足の動きって参考になりますね」
    「参考にって、何の?」
     ふとした呟きには答えがないまま、交代の時間がやって来た。
    「よろしくおねがいしますね」
    「こちらこそ」
     調子よくリズムを切り替えて、杏とも舞踏を描いて行こう!

     のんびり女性を探していた夕凪・千歳は、背後から声をかけられ振り向いた。
    「そこのお兄さん、あたしと一曲踊ってくれないかい?」
     声の主は胡麻本・愛。赤のパンプスがよく似合う。
    「ええ、こちらこそ。……僕と踊ってくれませんか?」
    「喜んで」
     自然と手を取り、踊りだす。緊張か、技術か、ぎこちないものではあるけれど。
     リズムが乱れ、愛がバランスを崩してしまったけれど。
    「危ない!」
     千歳が引き寄せ、下敷きに。
     慌てて愛は身を案ずる。けれど千歳は微笑んだ。怪我をしなくてよかったと。
     さあ、改めて手を取り合おう。
     今度は名を名乗りあい、楽しい時間を続けていこう!

     赤いバラをあしらった、黒を基調としたドレス。優雅に歩を進めていた葵璃・夢乃は、落ち着かない様子の日笠・桐哉を発見した。
    「Hey、そこの彼女! 一緒に踊らない? ……なんつって」
     誘う方法を知らぬのだろう。格好も、少々場違いなもの。
     あるいは、だからこそ誘うには調度良い。今の寂しい時間が埋まるなら……。
    「そこのお兄さん、あたしと一曲踊ってくれないかい?」
     ……声をかけられ、桐哉は振り向く。
     頬を染めて問いかける。
    「オレでいいの? 本気で?」
    「もちろん。貴方じゃなきゃだめなの」
     妖艶に微笑む女に、たじろぐ少年。何処か凸凹、でも激しい、そんな舞踏が始まった。

     音楽に連れられ見に来てみたら、気後れするほど綺麗な景色。埜々下・千結はパーティー会場を前にして、気後れした様子で佇んでいた。
     そんな彼女に、篤木・優也もまた恐る恐るといった調子で声をかける。
    「あ、あの」
    「へっ!?」
     ビクリと肩を震わせたけど、逃げることはしない。そんな千結に、優也は精一杯手を伸ばす。
    「恐縮ですが、一緒に踊っていただけませんか?」
    「えっじ、自分でいいんですか!?」
     問いにより、双方から溢れるは未熟さと予防線。互いに初心者だと気づき、笑い合う。
     未熟な二人、失敗しても仕方ない。臆せず、今を楽しもう!

     ソロでオープニングを飾れるほど、カップルたちはやわではなかった。
     けれど後には引かず、相手を探し始めた黒夷・黒。出会ったのは柳生・矩子。
    「そこの御嬢さん、オレと一曲どうでしょう?」
    「え……」
     声をかけられた矩子は、一拍の時を置いて顔を上げていく。
     少々恥ずかしそうに手を差し出してくれている黒の姿がそこにはあった。
    「……喜んで、だったでござるか」
     精一杯の知識を動員し誘いに応えていく。
     日舞しかできないけれど……との前置きしたなら、優雅に踊れるようリードすると誓ってくれた。
     軽やかなるリズムの下、静かな舞踏が刻まれる……。 

     高橋・雛子が一人で居たのを見たが、元気に会場を駆け巡っている様は寂しいとは少し違う。何より今は倉科・葉月と踊っていた。
     だから声をかけずにいたけれど、気づけば目の前にやって来ていて……。
    「ねね、よかったらわたしと一緒に踊らない?」
    「え、ええと……」
     想定外の事態に、紅羽・流希は言いよどむ。けれどすぐに立ち直り、恭しく一礼した。
    「せっかくのクリスマス、ですしね。……喜んで」
    「うん!」
     楽しまなければ勿体無いと雛子が描く舞はバラバラで、概ねリズムにしか乗っていない。
     けれど楽しいことに違いはなく。流希が笑顔を絶やすこともない。
     ダンスの輪の中、楽しい時間。もう、一人ぼっちの者はいない。

    ●情熱が空を染めていく
     ダンスは苦手な皇樹・桜のために、ひとつ、ひとつ、導くようにワルツを教えていく皇樹・桜夜。互いが纏う純白と漆黒の振袖は、同じ場所で舞踏する者たちにまた別の印象を与えていただろう。
     本人たちは露知らず、少しずつスムーズになって来た舞踏を楽しんでいるけれど……。
     ……桜が桜夜の足を引っ張らないよう、普段よりも丁寧に。ただ、ニコニコ笑いながら教えを受け、今を楽しんでいるように。
     桜夜は桜が少しずつ上達していく様子を慈しみ、導いて……時にさりげないフォローを入れているように。
     暖かな時が、二人の間には流れていた。

     クリスマスでいっぱい食べた帰り道。楽しい音楽に誘われてやって来たミルミ・エリンブルグと出雲・陽菜。みんな仲良くダンスを踊っている光景に、体がうきうき疼いてくる。
     ミルミがぼーっと眺めていた陽菜の手をとって、明るい笑顔で問いかけた。
    「Shall We Dance?」
    「? ……うん!」
     楽しそうだから頷いて、ミルミに引かれるままに踊りだす。
     二人のダンスは見よう見まね。だから、ミルミは陽菜が踊りやすいよう意識して。躓くこともあるけれど、互いに支えあって乗り切った。
     そんな、少女たちの優しい時間。カップルに負けないくらいに幸せだ!

     七罪・樒が寒いだろう? と贈ってくれたショールと共に、真っ赤な空の下彼だけを見つめて。黒条・灯音は、鼓動高鳴る時を過ごしている。
     リードされるがままステップを踏み、舞踏が続いていく中、顔が近づく度に鼓動が高なった。
     一方、樒は熱は保ったまま、けれど思考が乱れることはない。優雅に、華麗に、強引にならないよう注意をはらい、灯音を導いていた。
     やがて、視線を合わせたまま、ゆっくりを足を運んでいく。
     青い瞳に引き寄せられていくように、抱き寄せて、そっと優しいくちづけを。
     近くにある微笑みが、二人が幸せである証。これからも、ずっと……。

     素敵なツリーの袂にて、大事な人との一時を。
     ダンスの経験などあまりない東郷・氷室。全くない水留・茜。王子様とお姫様の舞踏はぎこちなく、何処か危なっかしい。
     王子様が頑張ってエスコートしたからか、お姫様がとても楽しく感じていたからか、幸せに満ちていた。危なげなく、一つの曲が終幕した。
     幕間の静寂に、茜が頬染め微笑みかける。
    「氷室さん、茜の傍にずっといてくださいね。沢山想い出作っていきましょうね」
     問いかけに応えるため、氷室は耳元に口を寄せていく。
    「言われなくても」
     囁きに、お姫様の頬が赤くなる。
     幸せが、色鮮やかに咲き誇る。

     社交ダンスなんて見よう見まね。せめてリードさせることがないように、全力を尽くしていた笙野・響。
     しかし流石に限度がある。フィオナ・ドミネーターも頑張っているけれど、うまく形にはなっていない。
     フィオナの足がもつれて、姿勢を崩す。
     倒れないよう思わず響に抱きついた。
     鼓動が直接伝わってくる。真っ赤になった顔同士、じーっと見つめ合ってしまう。
    「ご、ごごごごご、ごめんね!?」
     慌てて響きが姿勢を正したなら、フィオナが少しだけ寂しげに微笑んだ。
    「ごめんなさい、大丈夫ですのっ」
     腕に残る温もりを逃さぬよう、そっと瞳を瞑り……。

     海賊が声をかけたのは、モスグリーンのドレスに身を包んだ貴族のお嬢様。
    「お嬢さん、身分違いは承知の上ですがこの海賊風情と一曲踊っていただけますか?」
    「……ふふっ、喜んで」
     源・頼仁に誘われ、藤井・花火は踊りだす。
     経験はないから見よう見まね、自分たちだけの踊りを描いていく。
     頼仁が一生懸命になりすぎている様を見たならば、口の端を両手で上に押して笑顔を作った。
    「楽しんでやらないと、勿体無いよー」
    「……ああ、そうだな」
     不思議と肩の力が抜けていく。
     努力も実を結び始めていく。
     おてんばなお嬢様に導かれ、海賊もまた笑い出す。

     ダンスはダンスでも社交ダンス。しかもペア。椎葉・武流は肩を落とす。
    「……誤解されたら困るのはお前だからな」
    「えと、ごめん。でも、略してダンパだから間違ってないよね? うん、あたし悪くないよね?」
     美波・奏音は一瞬反省する様子を見せたものの、すぐにいつもの笑顔に戻っていた。
    「……ったく」
     参加した以上は楽しまなければ勿体無い!
     得意なダンスはストリート系。そんな二人が描くのも、やはり派手でクールなストリートダンス。とことんリズムに乗って行く。
     違うけれど、楽しい時間。毛色の違う彩りがまた、刻まれた。

     着慣れないドレスに動揺する綾川・結衣。
     可愛らしさが愛おしく、綺麗な格好に見惚れながら、志藤・勇は彼女の手を取りエスコート。
     ぎこちない結衣が調子を取り戻せるよう、優しいステップを踏んでいく。少しずつ難度を上げていく。
     硬さが取れてきた時に、結衣が裾を踏んでしまう。
     踏ん張ることもできず、勢い余って勇を押し倒した。
    「あ……」
    「あはは、楽しいですね……って、わわっ! 結衣先輩……近い、です」
     真っ赤に染まり、けれど動けぬ勇。
    「す、すまん! 大丈夫か!?」
     結衣が我に返り、身を離す。
     離れても熱は冷めやらない。
     それは、きっと……。

     きざったらしい王子様に誘われて、喜んでと堪えたお姫様。
     薄マゼンダのドレスに身を包む駿河・香は、淀みない舞踏に小さな驚きを口にする。
    「ヴァルくんが踊れるのは、意外」
    「だろうな」
     着慣れぬダークのタキシードを纏うシュヴァルツ・リヒテンシュタインは、笑いながら言葉を重ねた。
    「……綺麗だぜ、香」
    「……」
     香は合わせた手をぎゅっと握る。小さな声音で紡いでいく。
    「でも、嬉しい」
    「嬉しい」
     言葉が、重なった。
     驚く香を、シュバルツが優しく抱きしめた。
     お姫様は動けない。恥ずかしいけれど、動けない。
     想いが上手く結べなくて……。

    ●煌めくツリーに想いを集め
     相手を決めず、リズムに合わせて交代を。
     黒いスーツに赤い蝶ネクタイ。南風・光貴は、慣れない服装にギクシャクしながらも、久遠寺・せららの手をとった。
     経験は体育のフォークダンスくらい。ターコイズのドレスを纏うセララは不安をいだいたまま、人の多さに圧倒されるがままにビクビクと。しかし、踊るうちに硬さも取れ、笑顔が浮かんできた。
     そして交代、釣鐘・まりが光貴の下へ。
     リズムに慣れるよう、リードできるよう悪戦苦闘していた光貴は、スノーホワイトのふんわりドレスを纏うまりを前に、ふと言葉を漏らしていく。
    「まりも素敵だね。いつもより、輝いているみたいだ」
    「……よかった」
     普段とは違う格好は緊張し、綺麗で可愛い服を着れるのは凄く嬉しい。そんな喜びは子供っぽい? いいえそんな事はないのだと、自然と頬が緩んでいく。
     そして、再び交代を。
     タキシードにシルクハットを合わせたリヒト・シュテルンヒンメルがまりの手を取って、優雅な舞踏を導いていく。
    「その調子です」
    「うんっ」
     もう、始まった時のような硬さはない。
     緩やかに、妙なる舞が描かれる。
     鮮やかな夕焼け空の下、きらきら輝く笑顔に溢れる場所で。
     それは、素敵なクリスマス。出会えた奇跡に、祝福を。

     白い息を吐きながら、最後に八十神・シジマが合流した。
    「ふぃー。やっぱり冷え込むでー」
    「うん、みんな普段とは一転した格好でかっこいいね」
     セクシーめのドレスを着こなして、皇・なのはは仲間たちの姿を褒めていく。経験があるのは私だけだから頑張らないとと、まずはシジマの手を取っていく。
     一方、潦・耀夜じゃとりあえず踊ってみようと、潦・とものの背丈に合わせて身をかがめた。
     男性役としてリードしたけれど、とものは踊りなんてまるでしらない。精一杯手を伸ばして踊るけど、ステップは時に足を踏む。
     徐々に瞳を濡らし、ぐずりだす。
    「仕方がない。疲れるけど、痛いよりはましねっ」
     耀夜はとものを抱きかかえ、改めて舞踏を刻み出す。
     温もりを感じているうちに、とものの機嫌も良くなった。
     あまり長くはもたないから、脇に退いてお菓子でも食べて休憩しよう。
    「美味しい? とものっ」
    「んっ。……お母様、亜門のあれはブシドー?」
     キラキラなお目めが見る先には、扇子を取り出し舞う九曜・亜門。
    「って、亜門くん、それは社交ダンスじゃないよ!」
    「おっ、そんなら……」
     なのはとは対照的に、シジマが亜門の横に並んでいく。
     並び立つ様子に当てられたか、徐々に動きもオーバーになる。
    「……女形の化粧と装束なら様になったかもしれんな……」
    「ま、いいんやない? 楽しければ」
     静かな呟きを拾い上げ、シジマは笑いなのはを手招いた。
     ……さあ。改めて、西洋の舞踏も刻んでいこう。
     メリークリスマス。それは、みんなで楽しむ一時なのだから……。

     クリスマスなんざ……と言っていた榎本・泰三には、是非にでも楽しんでもらいたい。
     紅林・美波は緊張を隠したままシエル・ランスターに目配せし、気軽に泰三の手をとった。
     実践は、予習とは中々違うもの。
     初心者が相手ではなおさらだ。
     それでも余裕を持ってリードして、きりよくシエルにバトンタッチ。
     シエルの手も取り改めて、泰三は二人を意識した。
     元より苦手な女性。今は近い、近すぎる。何か柔らかい匂いもする気がした。
     顔が熱いのがわかる。
     今すぐにでも……。
    「……エノモト、緊張してる?」
    「……ああ」
    「……大丈夫、わたしもダンス初めてだから」
     シエルは優しく手を引いて、見よう見まねで踊りだす。
     手本は勿論、美波である。
    「……一緒にがんばろうね」
    「……おう」
     純真無垢には叶わない。
     為すがままになっている泰三を眺め、美波は静かに微笑んだ。終わったら、楽しめましたか? と聞いてみよう。

     友人のために演奏を。
     布都・迦月は目が覚めるような春のピアノを、高坂・由良と月原・煌介に、そして舞踏する者たち全てに贈っていく。
     風の様に軽やかに、由良を静かにイメージしながら。時折二人へ目を向けて、思わず口を出したくなる一瞬も。
     けれど、どちらも楽しそう。思わず口元をほころばせ、迦月は更に想いを込め始める。
     そんな彼に見守られ、由良は煌介を引っ張り回す勢いで踊っていた。
     ちゃんとついて来てと言わんばかりに。一生懸命ついてきてくれるから、時にはわざと読めない動きをして。
     もっと高く、誰よりも綺麗に跳んでみせるから……だから、見ていて欲しい。
     純粋な好意。遠慮のない二人。ついていくだけでヘトヘトでも、煌介は諦めない。
     音が乗るごとに慣れ、肩を貸せば由良は飛ぶ。
     彼とのほうが似あいと思うけど、瞳が合えば譲れない。
     無表情でも瞳に優しい光満ち、二人が笑い合う様子も愛おしく。
     ただ、出会いに感謝。
     結ばれし絆に、祝福を。

     小鳥遊・葵にワンピースを渡されて、タキシードを着てきた陰条路・朔之助は突っ込んだ。
    「用意良すぎるだろ!」
    「何故持ってる……」
     千喜良・史明のツッコミに対する言い訳は、従姉妹のものだと……ともあれ、朔之助は着替えることに。
     しかし、サイズが合わずぶかぶかだ。誰も口にはしなかったけれど。
    「じゃあ、踊る?」
     そんなこんなで、史明が朔之助の手を取り踊りだす。
    「あ、僕足踏むから」
    「知ってる」
     嫌そうに眉をひそめ、史明はお返しとばかりに笑い返した。
    「随分楽しそうで僕も嬉しいよ」
     ……それから暫くの後、葵を輪の中へと引っ張った。
     彼は慌てながらも朔之助を導いていく。
    「あおちゃんうまいな!」
     リードをよいしょされ、まんざらでもない様子。
     だからだろう、朔之助の企みにハマったのは。
    「ほら、お前らも行ってこい」
     背中を押された葵と史明。男二人、向かい合う。
     無理だ、嫌だという言の葉が、喧騒に紛れ空へと消えた。

     紅一点、木通・心葉の提案で、円を組んでのダンスが開幕。
     時折列を切り替え、手を取り合い、舞踏の並に混じっていく。曲の合間に合流し、ペアを入れ替える。
     もっとも、倉科・慎吾朗は性別などは気にせずに、どんどん他人も巻き込んだ。
     ダンスはあまりわかっていないけど、相手さえ見つかれば大丈夫。友達が増えればいいのだと、次々手すきの人を誘っていく。
     大塚・雅也は主に女性、知らなくても構わずに。
     誘う際は落ち着いて。恥ずかしさが勝るからか舞踏はぎこちなく、躓いてしまった一幕も。
    「す、すまない」
    「大丈夫ですよ。それより、ほら!」
     今の相手、葉月に導かれて元通り。再び、音楽に身を委ねていく。
     一方、ムウ・ヴェステルンボルグは心葉をエスコート。失礼がないよう丁寧に、心弾ませている彼女を導きゆく。
     少しだけリズムが狂い、足を踏まれてしまう一幕も。
    「ご、ごめんなさい」
    「いや、大丈夫」
     微笑み首を振り、さらなる舞踏を刻んでいく。
     徐々に熱も高鳴りて、行きも乱れ始めてきた。
    「そろそろ……」
     休憩しようと周囲を見回せば、大きな円。
     雅也、そして慎吾朗が誘うがままに広がって、いつしか皆を巻き込んでいたらしい。
     ……そう。彼らを中心に、また新たな舞踏会が開かれた。
     ムウは、そして心葉も少しだけ気合を入れて、更に楽しもうと踊りだす。

    ●夕焼けが雪空に変わっても
     互いに衣装を選びあい、お揃いの髪留めを身に着けて。
     赤いドレスを纏うシェリー・ゲーンズボロ、黒のタキシードを着る御手洗・七狼は、どこか慣れないながらも流麗な舞踏を重ねていた。
     経験で劣る七狼が、少し調子を上げた時、シェリーの動きを阻害してしまう。
     ぼんやりと足運びに身を委ねていたシェリーは堪えきれずに倒れこむ。
     勿論、手を伸ばして抱きとめた。彼女が怪我をしないよう。
    「スマナイ、大丈夫か?」
    「ありがとう、大丈夫」
    「……良かった」
     高鳴る鼓動も楽しいもの。
     二人は舞踏を再会する。
     終の礼は淑やかに。
     お疲れ様と、ありがとう。

     初めてのヒールの靴。爪先が痛むけど、子供だと思われたくなくて身につけた。
     そんな篁・小夜が愛おしく、碓氷・一詩は傷まないよう背を抱いて、雪踏むように柔らかなステップを踏んでいく。
    「寒いね、って、言ったんだ」
     吐息が伝わるほど近づいた時、一詩がそっと囁いた。
     小夜は言葉なく、羽織っていたショールを彼の肩へ。
    「……」
     見つめ合うままに手を伸ばし、密やかな吐息を辿り口付けを。
     一度目はそっと、二度目は強く。夜明けを恐れるように何度でも。
     受け入れることしかできない唇が、口づけの間に動き出す。
     縋るように、求めるように、一詩からも……。

     ただより価値のあるものはない。
     レンタルなドレスで胸を張る始劔・鏡花を、桐生・総一郎は賞賛。流れるままに腰を抱き寄せて、慣れたステップで舞踏を開始した。
     時折手を引いたりターンをさせたり。
     何処で覚えたのやら、と鏡花が感じたテクニック。楽しいことに違いはなく、細かいことなど気にならなくなった。
     楽しそうに笑う鏡花が愛おしい。優しい瞳で見つめた総一郎は、最後のターンを決めて、引き寄せて、頬にそっと口づけを。
    「……続きは帰ってから、な?」
    「ずるい……」
     言葉とは裏腹に、鏡花はベッタリ体を寄せていく。
     幸せを沢山感じたいから……。

    「さあ、踊りますよ。今日の私は白雪姫です。十二時の鐘がなるまで踊りは止めません……あれ、これは赤い靴でしたっけ? でも、良いんです、問題なしですっ」
     クリスマス、いつも孤児院の皆と騒いでいた。……一人だと寂しく、悲しいもの。
     六乃宮・静香は応じてくれた一之瀬・梓に、精一杯の笑顔を送る。
    「ああ。細かいことは気にしないほうが勝ち。ギリギリまで踊り倒そう」
     大騒ぎした日の締めくくり。静香と共に、梓は不慣れながらも軽やかなステップを踏み始める。
     鐘が鳴り終わるその時まで。
     抱いた想いは永遠に。
     消えぬ舞踏の旋律を、その胸に……。

     伝説の樹の下、真っ赤なドレスに身を包んだお姫様四季・暦の下に、やって来た王子様の名は九条・已鶴。
     細い肩にそっと触れ温もりを分け合ったなら、自然と溢れる笑みが心を満たした。
     恭しく舞踏に誘えば、優雅な一礼にて今宵の契は交わされた。
     始まりの音が流れれば、ぎこちないながらも開幕する。収まらないドキドキに身を委ね、暦は全てを任せていく。
     転ばぬよう離れぬよう、引き寄せた体。純粋な瞳に当てられて、己鶴は囁いた。
     はにかみながら、答えは帰る。
     二人は同じ想いを抱く。
     今日という特別な日。Merry Christmasの言霊が、その証……。

     幼い花澤・千佳のエスコート。サンタ帽子の王子様は、シャンパンゴールドのワンピースドレスのお姫様を舞踏に誘う。
     リードする心意気には誰にも負けない。元気な彼女にリードされ、雲母・凪も想いを全て受け止める。
     夕空が、音楽が、皆がとっても綺麗で暖かい。
     笑い声も繋いだ手から伝わる心音もひとつにして、更に足取りは弾んでいく。
     きらきらに輝く凪姫様、魔法をかけたのは千佳王子。
     両手いっぱいの大好きを、抱えきれないくらいの大好きを。
     どうか、これからも仲良しで。想いが零れぬよう、一緒に抱えていくことができるよう、更にリズムを弾けさせ……。

     燕尾服の上着を借りた仮初の王子様。淡桃色のドレスを着たお姫様の手を引いて、御伽噺の世界へと誘った。
     全ての人が笑い合う、音楽と舞踏に満ちた世界。
     星野・奈津は臆することなく桜月・花音を導いて、笑顔の輪に加わった。
     ちょっと躓いたって、音楽に紛れてごまかせばいい。
     ぎこちなくなってしまっても、奈津の支えがあるから怖くない。
     触れる温もりが、花音を安心させている。いつか、手放さないといけないなら、今だけはせめて……。
     ……これからも手放したくない手を握り返し、奈津はさらなるステップを踏んでいく。今日は、星が瞬くまで踊り続けよう。

     久々の舞踏は、愛しい人とともに。
     シャルトリア・アルフィエルはラシェリール・ハプスリンゲンに誘われて、舞踏会に参加した。
     純白のドレスに身を包み、頬染めながら手をとった。
     慣れた調子で導きながら、ラシェリールは照れ隠しに彼女を褒める。
     互いに頬を染めながら、緩やかなステップでツリーの前に。
    「こうして今という瞬間をシャルと過ごせてとても嬉しく思う。お前に愛される俺は本当に幸せだな。……これからもよろしく」
    「メリークリスマス、ラシェル。これからも一緒にいようね」
     耳元で囁きあい、契を交わす。
     愛しい彼の頬にはやさしいキスを。
     温もりを契の証として、二人は新たな舞踏を刻んでいく……。

     ……ダンスパーティーは続いていく。
     茜が陰り、空が閉ざされてしまっても。
     彼らの想いが付きぬなら。共に在ることを望むなら。
     ……あるいは、そう。
     雪が降る。聖夜から穢れを祓うため。新たな夜へと進むため。
     だから、これで終わりにしよう。最後の曲を奏でよう。
     黙したまま、ただダンスのためだけに演奏してきた氷香が静かな調べを紡いでいく。
    「それじゃ、最後の曲……行きます!」
     明るい声音で気合を入れ、珊瑚は歌声を響かせた。
     余韻を残し、曲は終わる。ダンスパーティーもまた、幕を――。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月24日
    難度:簡単
    参加:86人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 22/キャラが大事にされていた 4
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