クリスマス~Ultimate Lovers~

    作者:東城エリ

     武蔵坂学園で行われるクリスマス。
     クリスマスと言えば、恋人達の姿が多く見られる時期でもある。
     12月になれば、足早にクリスマスソングが流れ、クリスマスツリーに飾られるオーナメントと色とりどりのイルミネーションは、恋人が居ない独り身の人にはちょっと辛く、何となくせかされる季節。
     会場が開場されるのは、ダンスパーティも終わった後の夕闇も近い空の時刻。
     天空は冬の星座で彩られ、地上はクリスマスツリーの天辺にある星が煌めく。
     野外会場の前方には舞台が設営され、催し物のタイトルが掲げられている。

    『クリスマスカップルコンテスト ベストカップルは誰!?』

     艶やかなピンクのハートや、金や銀のモールが、きらきらと輝く。
     メインとなるカップルを際立たせる様、舞台上は白で統一。
     舞台の向かいには、審査をする人達の席が幾つか。
     観覧者や参加者であるカップルが他の参加者を見られるように、テーブル席も用意され、チェアにはブランケットが置かれている。
     雰囲気がでるよう、テーブルには暖かみのあるキャンドルライトが揺れて、明るい舞台が際立つ。
     席の間には、寒さを感じさせないよう、銀色の輝きを放つヒーターも設置され、周囲を見渡せば、クリスマスツリーやイルミネーションが見えた。
     

    「皆さん、メリークリスマス」
     ぽんっとクラッカーを一発鳴らしたのは、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)。
    「恋人さん達、カップルコンテストに興味はありませんか?」
     姫子は、やわらかな笑みを浮かべ、少し首をかしげるように話しかける。
     オウム返しに返ってきた言葉に姫子は頷くと、説明を始めた。

     カップルコンテストは、エントリーしたカップルさんが順番に舞台へあがり、自分達が一番だと思う点をアピールし、全員が終わった後、審査員を務める先生たちや一般投票を集計して、優勝者を決定します。
     どのような所をアピールすればいいのかと思われますが、十人十色のカップルの姿があると思います。
     例えば、仲の良い睦まじい姿や、ボケ突っ込み的な姿、年齢差のあるカップル、言葉少なだけれど仲睦まじさを感じさせる姿。
     男性と女性のカップルが大多数ですが、武蔵坂学園は生徒数も大勢いらっしゃいますから、男性同士、女性同士といった方達もいらっしゃるでしょう。
     折角のクリスマス、皆さんに仲睦まじい姿を見せつけて見ませんか?
     ダンスパーティも終わった後ですから、きっと着飾った方達もいらっしゃるでしょう。
     気軽な気分で、参加されてはいかがですか。
    「私も皆さんの仲睦まじい姿、見てみたいです」
     そういって、姫子は誘ったのだった。


    ■リプレイ

    ●エントリー? エントリー!
     武蔵坂学園はクリスマス一色で、校舎の壁や普段は何の変哲もない木々もクリスマス仕様で、ファンシーだったりクリスマスツリーの様に衣替えをしている。
     そんな中、クリスマスカップルコンテストの受付コーナーには、参加しようと検討している生徒達が集まりつつあった。

    「カップルコンテスト…ね」
    「恋人たちの祭典だね」
    「競い合う物じゃないと思うけど、やるからには勝ちにいかないとね」
    「仲のいい所を見せればいいんだから、いつも通りで良い訳だ」
     フィリオルは、エリカの腰に腕をまわす。揃いの色彩を持つ美男美女。
    「そうね」
     エリカの長い金髪がふわりと揺れる。
     青い瞳は力強い光が宿り、自信に満ちている。
     自分達の愛の深さを見せるのに躊躇いはない。
    「さぁ、行くわよ、私の愛しのロミオと共に」
    「さて、行こうか。私の愛しいジュリエットと共に」
     2人の視線が絡んで、声が重なった。

    「カップルの規定に「姉弟は駄目」とは無かったわよね。大丈夫、血の繋がりが無ければOKって良くある設定よ」
     そう言いながら、碧がエントリー用紙にてきぱきと項目を埋めていく。
    「姉さん?」
     由布はトナカイの着ぐるみ、碧はミニスカサンタのコスチュームで、クリスマスらしい服装をしている。
    (「え、えーと…」)
     出るのかな、出るんだよね、と心の準備を整えつつ、由布は碧の服を少し摘む。
     とりあえず、碧に無茶ぶられてもきちんと言葉を返せる様に、シミュレーションをする事にしたのだった。

    「これで、お願いします!」
     光画部部長のまぐろは、せりあと共にエントリーを済ませる。
    「誰でエントリーしたんですか?」
     不思議そうに聞いてくるせりあにまぐろは、ふふっと笑う。
    「呼んであるから、順番に間に合うように到着すると思うわ」
    (「光画部にカップルなんていたんだ…」)
     せりあは初めて知る事実に、ほんの少し驚きつつ、まぐろのエントリーしたカップルを観客席で待ったのだった。
     現れた2人に驚くことになるのだが、それはもう少し後のことだった。

    ●舞台上のカップル達
     舞台が光に包まれ、観客席側がライトダウンされる。
     コンテストのルールを説明し終えると、司会役の人物はエントリー順に番号組を呼んだ。
    「それでは、1組目から!」
     マイク片手に、司会進行の生徒が舞台袖へと消える。
    「じゃ、行こうか」
    「ええ」
     頷き合い、フィリオルとエリカが歩き出す。
     イタリアはミラノ生まれのエリカが選んだのは、ロミオとジュリエットの時代設定に合わせたモダンな衣装。
     始まるのは、物語のように自分達が置かれていた状況の寸劇。
     魔女狩りの異端審問官と紅の魔女が出会い、恋に落ちて許されぬ恋と知りながら、それでも離れることなく共に未来を紡いでいく愛の物語。
     失った物は多けれど、腕の中にあるのは何事にも代え難い愛おしい人。
    「この命ある限り、貴方と共に…、永久に…」
    「誓うよ。オレはこの生涯を君に捧げる」
     フィリオルがエリカを抱きしめ、熱い眼差しで見つめ合う。
     エリカが瞼を閉じ、長い睫がかすかに揺れる。
     フィリオルはエリカの頤に指をあて、顔を傾けて情熱的な口吻をした。

    「それでは、2組目です!」
     トナカイの由布とミニスカサンタの碧が、手を繋いで舞台袖から出て来る。
    「え、えーっと。連れてこられました。その、はい」
     トナカイの着ぐるみの由布は、ミニスカサンタの碧の方を見る。
     舞台袖で、碧に姉さんではなく、碧さんって呼ぶように言われて、気をつけないとと思っている内に、話を振られた。
    「御飯は私が作って、朝も私が起こして…」
    「僕は朝が弱いので、起こしてくれるのは助かっています。ただ、寒い夜、僕を湯たんぽ代わりにするのは止めて頂きたく。偶に息苦しいです」
     うっかり姉さんと呼びそうになりつつ、碧の良い所を口にする。
    「こんな感じで、です」
     碧が由布にべったりと抱きつき、頬ずりをした。ひんやりとした肌が触れて、ほんのりと熱を持つ。
    「…片方がいなきゃ駄目ってカップルもあるでしょうけど、そんな感じね」
    「由布は私に生きる意味を、そして姉と呼んでくれるから、家族を失った私はまた、家族を得る事が出来た。だから、私はこの子を愛しているの」
     仲の良い姉弟に見えても仕方ないと思いつつ、本当のことは自分達が分かっていれば良いと思う。
    「あ、いや、大切な人、と言う意味では間違っていませんが」
     邪険にすることはせずに、碧を抱き留めて、
    「どーなんでしょうね。まだ恋愛とか良く分かりませんけど、彼女が大切なのは事実ですから、それでいいのかな、と」
     柔らかな笑顔を浮かべて、碧を見た。

    「3組目、お願いします!」
     ライドキャリバー乗りの白兎と黒咲のカップル。
    「黒ちゃんの良い所か~、何かあったかな…ん、取り敢えず黒ちゃんの聞いてからでも良いよね♪」
    (「えっちい事言ったら蹴り入れるけど…」)
     白兎がライドキャリバーに乗りつつ、黒咲の方を見やる。白兎はスピード狂で、滅多にブレーキを踏まないことからミスノーブレーキと言われているらしい。
    「わいらの仲良さを語ったら良えんやな」
     それなら任せてや、と自らデザインした服でコーディネイトした黒咲がちょっぴり遠くを見る眼差しで、語り始める。
    「そう…わいらの出会いは、さる街角の曲がり角。あれを一目惚れっていうんやろか…彼女とぶつかった時の衝撃は今でも忘れられへん…。少し幼さが残るベッピンさん、触ると気持ち良さそうなサラサラの銀髪、それがよう似合う白い肌……何より、胸がデカイ!!」
     そう、デカかったんや! と拳を握って力説すると、即座に蹴りが入った。
    「…痛い、痛い! いや、年頃の男の子には結構重要事項でしてー! え? 見た目だけか? いやいや、今、一目惚れの話やったから、中身も好きやで! 一寸意地悪やけど、そこもえぇ!」
     凄く良い、と実感を伴う声音だったせいか、白兎の蹴りが一段と鋭く食い込む。
    「いや、Mとかやのーてっ! 違うから!!」
     会場の観客から、そんな嘘つかなくて良いのよ、と生暖かい眼差しを向けられる。
    「ん~、良い所かぁ…。あ! バイクで引き摺ったらいい音がする!」
     こんな風にね♪
     白兎の言葉通り凄くいい音がした。
     轢かれ慣れている…?
    「ちょ、まだ将来の夢とか語ってへん! わーん!」
     わいの夢! まだやから! と言い募るも、ずりすりと白兎に引き摺られて行くのだった。

    「それでは、4組目です!」
     どうぞ、と舞台への道を手で示される。
     智慧は燕尾服に古くから愛用している相棒の様な存在のヴァイオリン、山女は水色と青を基調とした服装で、セーターやマフラーといった防寒アイテムとやや重装備だ。実は寒がりなのだ。そのせいで鼻がちょっと赤らんでいる。
     山女へと愛おしげな眼差しを向け、よく通声で語りかける。
    「どんな状況になっても、例え『修羅の道』でも付いてきて、無償の愛を私にくれる処」
    「私は地獄までついて行くと決めましたから、智慧さんの後をついて行くだけです」
     決めた事ですから、と中性的な顔立ちを向ける。山女の灰の瞳と銀の髪は冬の色で、透けるように美しい。
     智慧はハーレムを目指しているという考えの持ち主なので、それでもついてきてくれる山女はかなり貴重で理解ある人だと思う、と笑みを浮かべ語る。
    「喧嘩はしない。受け手になって、優しく答える所が自慢できる所です」
    「大好きです、ヤマメ」
     智慧は暖かな金の瞳と緑の髪で、山女を暖めるように抱きつく。
    「ひ、人前で何やってるんですか! 恥ずかしいですから!」
     山女は顔を赤らめ、慌てて智慧を見上げる。
    「聴いてください。贈ります。愛しいヤマメへ」
     智慧は自作の曲をヴァイオリンで奏で始めた。
     踊る光と名付けられた曲は、三部構成となっていて、遊楽で牧歌的なピッツィカート、雑踏では運命の様に激しく、愛しさはハーモニクスで表現して見せた。
     サプライズに山女は感動して、幸せな気持ちで耳を傾けたのだった。

    「5組目、お願いします!」
     音楽が舞台を満たし始める。
    「それでは行こうか。句穏」
    「一杯楽しもうね?」
     相棒でもあり、恋人でもある文織に句穏は潤んだ青の瞳を向ける。
     大切な文織と大切な思い出を作るため、精一杯楽しもう。
     そんな句穏の思いが伝わったのか、文織は微笑んで句穏に手を差し伸べる。
     まるでエスコートするよう。ほんの少し照れながらも、微笑みは絶やさない。
     2人は息のあった仕草で一礼をする。
     舞台から観客席を見た時、2人は手を振る姿に気付いて驚いた顔をした。
    「あかーん、あやーん、お幸せにー!」
     ラプラスと黒瑛はハートの形をした旗を振って、笑顔を向けた。
     朱緋と硯が拍手をする。
     やがて音楽に集中し始めた。
     舞台上には自分達2人きり。
     句穏は文織を見つめたまま手を取り指を絡ませる、。
     文織はゆっくりと句穏を抱き寄せ、腰へと手をまわし、静かにステップを踏み始める。
     ダンスは最初は緩やかなステップから、段々と激しいステップへと切り替わっていく。
    「文、愛してるよ」
    「私も愛しているよ」
     楽しくて自然に浮かぶ笑顔。直ぐ近くに愛おしい人の顔。
     舞台上にいるのは自分達と音楽。
    「踊っている、とずっとこうしていたくなる」
     文織は青の瞳を細めて見つめると、曲が終わりを告げる。
     その事を惜しむように、ゆっくりと唇を重ねて、抱きしめる。
     句穏の赤い髪と文織の銀の髪が混じり合い、美しい2つの流れを作った。

     一方、観客席にいる人々はというと。
     句穏と文織の応援にやってきた3組のカップル達。
    「私たちが応援にきたら、吃驚するんじゃないか?」
    「確かに驚くかもしれない。そういう顔が見られたら嬉しいが」
     灯音は手を振り、樒は手を挙げて見せた。
     舞台上の2人を見て、灯音は綺麗だなと思う。そして、2人の間にある暖かな雰囲気に自分の心も温まる気がする。
    「ああゆうのも悪くないな、来年は我らも舞台上にあがりたいものだ」
     灯音が樒の方を見て、にんまりと微笑む。
    「ふむ、中々上手くアピールしてるじゃないか。だが、来年は私たちが2人を越えている事を証明してみせよう」
     きっと自分達の方が良い線を行くだろうと思うのだ。
     不敵ささえ感じさせる樒の言葉に、灯音は笑いながら顔を近づけキスを落とした。
    「うん。でも今夜は2人に花をもたせてやろう?」
    「ああ」
     樒は灯音の甘い口づけを味わいながら、ひとつの決意を心に残した。

    「凄く雰囲気良いよね!」
     ラプラスは黒瑛の手を握って肩を寄せ合う。
    「そうだね」
     黒瑛は銀の瞳を細めて、ラプラスに甘い微笑みを向ける。
    「どさくさに紛れたりなんか、しなくてもいいんだよ?」
     黒瑛は指を絡めて手を握り返す。ラプラスは気付かれたと顔を赤く染めた。
    「うん」
     音楽が流れ、2人の踊りが始まり。優雅な世界へと連れて行ってくれた。
     踊りが終わると、黒瑛はラプラスだけに聞こえる声で囁く。
    「私たちも次に機会があったら、出てみるのもいいかな?」
     どうかな? と黒瑛は悪戯っぽい笑みを浮かべると、ラプラスの肩に手をまわして引き寄せる。
    「来年は黒姐と参加したいな」
     ラプラスは微笑むと、黒瑛の頬にキスをする。
    「じゃあ、来年は是非、ね」
     黒瑛はそう言って、キスを落とした。

    「文織さんと句穏さん、頑張って欲しいですね」
     朱緋は膝上にブランケットを掛け、硯の隣に座る。
     着物姿の朱緋は日常で身につけているので、季節は関係ない。
     文織を見やり、硯に向けて言葉を紡ぐ。
    「なあ 硯、私もあんな風になりたい」
     朱緋の言葉に硯は頷き、眩しそうに2人の様子を眺める。
    「確かに、あの2人の様になりたいですね…」
     硯は朱緋の手をそっと包み込む。
    「なりたい。じゃなく、なりましょう、朱緋」
     確りと朱緋の手を握り直し、舞台から視線を外すと、微笑んだ。
     ダンスを終えて、舞台から下りていく2人を温かい拍手で見送り、
    「コンテストが終わったら、2人で甘酒でも飲みにいこうか」
     クリスマスっぽくない誘いだとは分かってはいるのだが、これが自分の精一杯。
    「甘酒ですか、良いですね。是非、お団子もつけてね」
     飴や和菓子の好きな硯は、ちゃっかりと追加したのだった。

    「では、6組目の方!」
     長身の流と共にアイリスがエスコートされてくる。
    「え、えっと、私達はっ…」
     アイリスは自分の方から誘ったのだから、確りしないとと思うのだが、緊張して上手く舌がまわらない。
     流は、アイリスの腰に手を回して、囁きかける。
    「大丈夫だ、俺が傍にいる」
     縋るように見つめるアイリスの緑の瞳は少し潤んで見えた。
    「めんなさい、お願いしますなの…」
     流は、出会った時の事をアルバムを捲る様に話し始める。
    「アイリスが俺を想ってきた期間は、約8年に渡る。俺がこいつを想ってきた年数も長いものだった。その間色々あった。普段は明るいアイリスが涙する姿を、幾度も見た。元気付けようと笑みを向けてくるアイリスを幾度も見た。想う期間で優劣はつけられないだろう。それでも、俺達がこれまで積み重ねてきた想いは大きく、何よりも…本物だ。それは間違いなく、俺達が誇れるものだ」
     アイリスは流の顔を見上げ、今までのことを思い出す。
     幸せで楽しかった事。悲しくて胸が引き裂かれそうだった時。
     だけど、流がアイリスが泣いていた事を知っていたのだと思うと、胸が熱くなった。
    (「私の気持ち、ずっと大切にしてくれてたのね」)
     涙が零れそうになっているアイリスの目元を指で拭うと、微笑みかける。
    「好きだ。中々言葉にして言えず、すまない」
    「ううん、言葉はいいの。流様はいつも目と態度で語ってくれるもの。そんな流様のことが、私は世界中の誰よりも大好きなのっ!」
     笑顔を浮かべるアイリスが、流にはとても眩しく愛おしく映った。、

    「7番目の方、どうぞー!」
     初々しい雰囲気の2人が舞台へと進む。
     茉莉はスッキリとしたシルエットの純白のドレスに背中に小さな羽根、頭に環を着けて、天使のコスチューム。識は、赤と白のサンタイメージのタキシード。
     華やかな衣装とは裏腹に、茉莉は緊張と恥ずかしさでどこかぎこちない動きで舞台袖から出て行く。
     腕を組んでいる識は、そんな茉莉をフォローするように、そっと抱き留めて。
    「ひゃぅ…あ、ありがとうございます…」
     識が茉莉の手を取り、腰へと腕をまわし姿勢をホールドすると、踊り始める。
     手を繋ぐとき茉莉は一瞬躊躇したけれど、踊り始めると、緊張していた心も身体もほぐれて、見つめ合って2人だけの時間が流れている様に感じるほど。
     笑い合っていられる幸せ。
     2人はまだ恋人同士ではないので、識は茉莉にこの舞台上で告白をしたいと考えていた。
     ダンスを終えると、識は観客と茉莉と視線を巡らせる。
    「さて、それじゃダンスも終わったし、茉莉、聞いてほしいことがある」
    「は、はい」
     茉莉は胸をどきどきさせて識を見上げる。
    「その、以前一度告白した時、誰とも付き合えないって返事をもらって、諦めようと思ったけど…やっぱ無理みたいだ。オレは、お前に、お前だけにずっと傍にいて欲しい。だから、オレと付き合ってくれ!」
     茉莉は識から告白されているのだと実感すると、顔だけでなく耳も真っ赤にして、周囲を見渡したり、識を見上げたりとせわしなく確認して、自分の置かれている状況があまりにも恥ずかしいのと嬉しい気持ちがないまぜになったまま、気絶した振りをして識の腕の中に倒れ込んだ。
     凄く安心できるのと、この恥ずかしい気持ちから逃げ出せる、その両方から。
    「茉莉…!」
     識は茉莉を横抱きにする。
    「(識さん、ごめんなさい…返事は2人の時に…恥ずかしすぎます)」
     小声の茉莉に、識は頷く。
    「返事は2人きりの時に聞かせてくれるようだ。上手く行く様、祈っていてくれ」
     識は愛おしげに茉莉を見つめ、抱き上げたまま舞台を下りていった。

    「8組目の方、お願いします!」
    (「こういうのは恥ずかしいな…」)
     炎斗と維緒は長めのマフラーを2人で巻いて、互いを抱きしめる様に舞台に進んだ。
    「このマフラー、炎斗くんの手作りなんですよ! 見た目は余りよくないかもしれないけど、わたしの宝物です!」
     そう言って、維緒はマフラーに触れて頬ずりする。
     愛おしそうに撫でる維緒の姿に、炎斗は凄く照れた表情を浮かべた。
    「炎斗くんは優しくて、カッコよくて、本当に素敵な人なんですよ。犬変身した時は凄く可愛いですし、一緒にいると、とても心が安らぎます」
     もふもふな姿も重要なんです、と力説。
     確かに犬好きにとっては犬自体が好きだが、愛らしい姿が好みだった時は、好きの強さも違うもの。
     仲睦まじいは姿は見ていても分かる。
     炎斗と維緒は見つめ合う。
    「…維緒は、やっぱ世界一かわいいぜ」
     炎斗にとっては維緒は大切で、宝物で、大好きな彼女。
     一番可愛い彼女なのだ。
    「俺、初めて付き合えたのが維緒で…心から良かったって思うよ…」
     ぽろぽろと思いが言葉となって零れていく。
     が、そんな自分に気付いたのか、維緒は顔を真っ赤にして、
    「かぁああ!! 言ってて恥ずかしいなこれ!」
     身もだえしてしまう。
    「えへへ…もう、わたしの視界には炎斗くんしか映りませんよ。これからもずっと一緒にいたいですね、炎斗くん」
     炎斗の思いを受けて、維緒は幸せそうに惚気て見せた。

    「それでは、9組目です!」
     井の頭キャンパス高校1年9組の2人、殊亜と紫。
     赤の意志の強そうな眼差しの殊亜と名の通り髪も瞳も透き通るような色の紫。
     話し方も自然で、仲の良い友達のよう。
     実際、クラスメイトで隣の席で、普段から一緒にお喋りやお弁当を食べる仲だ。
     楽しそうだから、と今回のイベントに誘ったのが大きい。
     紫にとっては、殊亜は気兼ねなく話が出来る男の子なのだ。
     新しい友達に話しかける様に丁寧に言葉を紡ぐ。
    「私達の一番…うん、そう…距離の近さだね」
    「そうだね、なんたって机は隣同士だし」
     2人ともサーヴァント持ちという共通点もある。
    「お供の久遠が可愛くて、寝顔が無防備で可愛くて、武器を持てば頼りになるし、たまに怖い表情が気になるけど…、笑顔が素敵で、猫っぽい無邪気さがほっとけなくて、少々天然だけど、手作りドーナツが最高で、近くにいると温かくてほっとするから、ずっと一緒にいたくなる」
     良い所を指を折りながら数えていく殊亜だが、少し勢いで思ったことを言い過ぎたかと照れ笑い。
    「ディープファイアに騎乗した姿がカッコ良くて、強い意思を宿した瞳が素敵で、誠実そうな顔してるのに実は腹黒くて、でも困ってる人が居たら放っておけない正義感が強いとこ。あ、あと私の作ったドーナツを美味しそうに食べてくれる優しいとこかな。気づいたら、隣に居るのが当たり前になってた…。だから、これからも一緒に居たいと思うの」
     久遠は紫の霊犬で、ディープファイアは殊亜のライドキャリバーだ。
    「良かったら、俺と付き合って下さい」
     沢山言った所は、今では全部好きな所になった。
     手を差し伸べて、殊亜が紫を見つめる。
    「…えっと…こちらこそ、よろしくお願いします」
     紫は照れた表情を浮かべて、差し出された手を取った。
     殊亜は嬉しそうに笑顔を浮かべ、紫に聞こえる小さな声で言った。
     その照れ顔は初めて見せてくれたかな、と。

    「10組目、どうぞ!」
     明るい舞台上を歩くのだと思うと、かちかちになってしまいそうになる由希奈をいちごはステージ慣れした動作で、エスコートする。
     最前列の観客席に居るまぐろの声援が舞台へと飛ぶ。
    「がんばりなさい!」
    「ちょ、ちょっと、あれ、いちごさんに由希奈さん!? ふ、ふたりとも女の子じゃない!?」
     せりあの焦った声が、おちついたまぐろの声が重なる。
    「いいじゃない、2人ともさまになってる。よーし、うんうん、よーし」
     焦るせりあと対照的にまぐろは満足そうに頷く。
    「ちょっと、部長さん、あれ何。どういう事!? 何であの二人がカップルなの。ボク知らない。女の子同士のカップルって、初めて見たよ! あれが百合なの!?」
     がくがくと肩をつかんで揺さぶられるまぐろ。
     せりあは、動揺しっぱなしだ。
     舞台に上がる前まで、エントリーされたことを知らなかった由希奈は、まだ胸のどきどきが収まらない。
     けれど、いちごの自信溢れる姿に段々と緊張もほぐれてくる。
    「どうせなら、楽しみましょう? これ歌えます?」
     いちごが由希奈に振ると、これなら…とこくりと頷く。
    「それじゃ、始めよう」
    「うん」
     アイコンタクトでタイミングを合わせてデュエットを歌う。
     いちごのリードで、由希奈は詰まることなく歌い上げていく。
     真剣だけれど、楽しそうに歌ういちごの横顔が目に入って、
    (「あ、こんな顔もするんだ」)
     と、由希奈は新しい面を知る。
     自分でもよく分からない気持ちだけれど、嫌な感じではないのは確かだ。
     どこか温かくて、気持ちの良いもの。
    「いちご、由希奈、その調子よ!」
     頑張ってとまぐろは力づける様に声をかけた。
     歌い終えて、互いの事を語り始める。
    「可愛い由希奈さんの事は好きですし、特別仲良しと思いますけど、カップルかどうか…どうなんでしょう?」
     どうかな? といちごのからかうような問いかけに、由希奈は色白の肌を染めて、潤んだ青の瞳で見上げた。
    「そ、そんな事分からないよ」
     それでも、今の胸で抱える気持ちは言葉にしたい。
    「でも…こうやって2人で歌うのは楽しいよ?」
    「私も2人でこうしているのは嬉しいですよ♪」
     いちごは長い藍の髪をふわりと揺らして、藍の瞳を細めて微笑んだ。
    「それでは、ゆきいちごのミニライブ、最後まで聴いてくださいね♪」
     由希奈といちごは息をぴったりと合わせて歌い、曲が終わって2人は最後まで聞いてくれた観客の方へと手を振って、舞台袖へと消えていったのだった。
    「ゆきいちご最高よ!」
     重なり合う声が凄く良かったわ…と満足そうに何度も頷くまぐろに、せりあはというと、未だに落ち着きを取り戻しては居なかった。
    「そ、そうだ。みんなに伝えなきゃ!?」
     思い出したように、カメラを舞台へと向けるが、既に2人は舞台を下りていた。

    「11組目です!」
    「クオンとのラブラブっぷり、見せ付けちゃお♪」
     双子の姉弟である音音と空音。
     お揃いのサンタコスで、姉妹のように見える。
    「俺と姉さんは双子で、カップルもコンビも超えた存在。つまり絶対に切れない関係、だ。…他にはない関係だと思うぞ」
    「クオン、似合ってる~♪」
     ぴったりと音音がくっつくのを空音は気にもしない。
    「ネオンとクオンは、2人で1人なの。誰も代わりにはなれないし、代わりをする必要だって無いんだよ。だって、ネオンはクオンの事、宇宙で一番大好きだから!」
     紫の髪を揺らしてぽふっと空音に腕をまわして頬にキスをする。
    「姉さん、外でのキスはやめてくれよ」
    「続きは帰ってからのお楽しみ、ね?」
     音音は、空音の唇に指を押し当てて囁く。
    「まぁ、今日は特別な日だから別に良いけど」
     しょうがない姉だと言いながら、親愛の籠もった眼差しを向けた。
    「元気な姉さんが居ないと俺の調子も狂うからさ、これからも、変わらず一緒にいてくれると嬉しいよ。…実際に、口にしてみると少し照れるな」
     そう言って空音はふいっと横を向く。
    「これからもずっとずっと一緒よ。あれ~? もしかして、恥ずかしがってる? 堂々としてれば良いじゃない」
    「ほら、ネオン達のラブラブっぷりに、お星様も祝福してるみたいにキラキラしてる♪」
     音音が空を指さして、空音の方を笑顔で振り返る。
    (「その星の輝きに負けないくらい、姉さんの事は大好きだから」)
     言葉にしないけれど、きっと音音は分かってくれている。
     そう、空音には思えた。

    「12組目のカップルさんです!」
     シャルロットはクリスマスの為に用意しておいたゴシックドレスに、手編みで用意した長いマフラーと赤い毛糸で繋がっている手袋を。
     指を絡めて離れがたい雰囲気を纏って、舞台へと進み出る。
     金と銀の髪が舞台できらきらと輝く。
    「えっと…私たちはクラブの企画がきっかけで付き合い始めてもうすぐ3か月、正式な恋人になったのはついこの前だけど、クラブでは砂糖製造器とか言われてるわ」
    「シャルが申しました通り、私達はほんの数日前に本当の意味でのカップルになりました。私にとって、今やシャルはかけがえのない存在です」
    「背丈の差が私の悩みだけど、でも悪いことばかりじゃないわ」
     2人の身長差は約20センチ。
     ハルトヴィヒはシャルロットを横抱きにして、見つめ合う。
    「私達以外の方々にはもっと大きい問題があるかもしれません。でもそれを気にして、恋人と共にいられない方が罪だと思いませんか?」
    「ハルトの膝に座っても、ハルトの動作の妨げにならないのがいい点よ」
     いつもこうやって甘えても大丈夫、とハルトヴィヒの胸にに頭を預ける。
     今の懸念は、同じキャンパスに通えるかということ。シャルロットは来年高校生になる。是非ともハルトヴィヒと同じキャンパスに通いたいのだ。
     離れがたい恋人達は、恋人達は皆同じ気持ちだと思うの、と言葉を紡いだ。

     衿や袖が雪のようにふわふわしたモヘアが可愛いアクセントになっている白のワンピースでドレスアップした彩雪を色は見つめる。
    (「さゆと色ちゃんはとってもらぶらぶ。さゆはおにいちゃんたちと結婚する、って決めてるのです。だから、他の人にこの愛は負けません」)
     兄たちが愛しすぎて、未だに彩雪に兄妹では結婚は出来ないと言えないで居るらしい。
     溢れてくるのは家族愛で語るにはやや偏愛の情が漏れ出している。
    (「俺はさゆが大好きだ、正直好きすぎてかわいいしか言葉がでてこない。くっ、ふわふわの白い服とか、おにーは…おにーには雪の妖精にしかみえない。まじえんじぇる!!」)
     思っていることがかなり表に出ている気がする色の末妹へのほとばしる愛。
    「えっと、さゆと色ちゃんがどうラブラブなのかをアピールする…です? どうしよう、色ちゃん」
     どうしよう? と思案げに色を見上げる。
    「んじゃー、こうな!」
     彩雪の手に持った籠ごと、抱き上げられ、視線が同じになる。
     両サイドで結い上げた緩やかな弧を描く彩雪の青い髪が、頬に触れて揺れる。
    「12組目、どうぞ!」
     舞台へと誘導されて、色は彩雪を抱きかかえたまま歩き出した。
     籠の中には、モミの木と鈴の飾りを挿した手作りプリン。
     大好きなおにいちゃんに食べて欲しくて、作ったもの。美味しいって言ってくれるといいなと祈りながら、彩雪はスプーンで掬ったプリンを色の口へと運ぶ。
    「色ちゃん、はい、あーん」
     ぱくりとプリンを味わう。
    「…さゆの手作り、うまい、ありがとな」
     彩雪にとっては昔から食べさせてあげたりもらったりしていたから、別段恥ずかしくない。
     それは、色も同じで、寧ろ当たり前。
    (「けど…、そんないつものことが一番幸せかも」)
    「おにいちゃん大好き」
     人多い所では引っ込み思案な彩雪も、直ぐ傍に色が居る安心感か、花開くような笑みを浮かべた。
     色がその笑みを見て、超絶幸せだったのは言うまでもないだろう。

     とものの母がエントリーしていたらしく、とものは何だかわからないまま順番を待っている。
     恋人とかカップルとかさっぱりなので、皆何をしているんだろう? と不思議そうに眺めているともの。
     逆にローラは理解しているので、仲睦まじい恋人達を見ていると、どきどきして頬を赤らめたり、自分達もととものと腕を組んでみたりする。
     やがて、とものは楽しそうに見て、ローラはどきどきの時間を過ぎて、舞台へと上がっていく。
    「13組目、最後のカップルさんです!」
    「じゃ、行こう」
    「ええ」
     とものの差し出す手をとって、ローラは微笑みを向ける。
     舞台の上でもともののマイペースは普段通り変わらない。
     揺るがない懐の広さがあるのだろう。
     クリスマスはローラの誕生日でもあった。
     そのことを思い出して、手製のお手伝い券を取り出そうとする。
    「ローラ、お誕生日おめでとう! これプレゼントの…」
     といって、取り出した紙は何だか自分の記憶とは違う。よく見たら、重なるようにあって、内心ほっとした。
    「今日、とものさんとご一緒することが出来まして、とても嬉しいです。ありがとうございます」
     ローラはとびきりの笑顔でとものに向ける。
     祝ってくれるのはとても嬉しく、自然と笑みも零れるというもの。
     見慣れない紙には、母からの指令が書かれていた。
    (「渡す時にほっぺにちゅー!? う、ううううううううううう」)
     想像して一気にとものの顔が赤くなる。
     一瞬の間にもかなりの葛藤が過ぎ去った。
    「お、お誕生日おめでとう」
     頬が火照ったまま、母がしてくれる目覚めのキスのような優しいキスをする。
     ローラもとものと同じように顔を赤らめるが、
    「お返しですわ」
     と、ともの頬にキスをしたのだった。

    ●恋人達の愛のかたち
     全14組のカップル達の紹介が終わり、暫くして再び舞台に司会が立つ。
    「それでは、優勝者の発表をいたします。5組目の句穏さん&文織さんカップルです! おめでとうございます!」
     舞台に出てきた2人は、手を取り合い礼をする。
     そして、見つめ合い顔を寄せ合って抱きしめあったのだった。
     沢山の拍手と共に、イベントは無事に終えたのだった。
     温かな思いを分かち合う恋人達は、これからも甘いひとときを過ごすのだろう。
     ちらつく雪が、夜空を彩る。
     メリークリスマス!

    作者:東城エリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月24日
    難度:簡単
    参加:36人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 2
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