我が矢を喰らえ、と言わんばかりにぶひぃと鳴いた

    作者:波多野志郎

    『ぶひぃ』
     その山奥に、そのはぐれ眷属が住み着いていた。
     バスターピッグ――そう呼ばれるはぐれ眷属の群れだ。総勢で六体――ただし、一体だけ明らかにおかしい個体がいた。
    『――ぶひぃ』
     他の個体よりも明らかに大きいそれは二門あるべきバスターライフルの代わりに二門の大型の弩を備えていたのだ。
     そして、ふてぶてしい面構えをしていた。実に男前である――豚の顔に見分けがつくのなら、だが。
    『ぶひぃ』
    『ぶひい?』
     五体のバスターピッグがその個体を振り返る。聞こえていないのか、そのままその個体は真っ直ぐに斜面を下っていく。
     ――彼等は知っていたのだろうか? その先に車道がある、という事実を。

    「……多分、知らないと思うんすどね?」
     湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)は渋い表情でそう告げた。
     今回、翠織が察知したのははぐれ眷属であるバスターピッグの存在だ。
    「全部で六体っす。五体はよく皆が知ってるバスターライフル二門を背負った奴なんすけどね? 一体だけ、明かに大きい個体でバスターライフルの代わりに弩を背負ったのがいるんすよ。こいつが結構な強敵っす」
     バスターピッグの群れは気紛れで斜面を下り、普段は行かない車道へとたどり着いてしまう。ここで車と出会ってしまえば最後、ここを中心に行動してしまう事となるのだ。
    「そうなると被害は拡大するっすから。何としても防いで欲しいんす」
     バスターピッグの群れが下って来る斜面――ここで迎え撃つしかない。足場はよくないが、灼滅者なら注意しておけば問題なく行動出来る。木々が障害物となるが、それを前提に戦術を考える方がいいだろう。
     通常のバスターピッグはバスターライフルのサイキックを弩を背負った個体は天星弓のサイキックに加えシャウトも使う――油断すれば痛い目を見るかもしれないっす、と翠織は念を押した。
    「一歩間違えば連鎖的に被害が拡大してしまうっす。相手ははぐれ眷属でも油断せずにお願いするっす」
     そう翠織は締めくくり、灼滅者達を見送った。


    参加者
    浅居・律(グランドトライン・d00757)
    玖・空哉(クックドゥドゥルドゥ・d01114)
    上代・椿(炎の腹筋ブレイカー・d02387)
    五美・陽丞(幻翳・d04224)
    天樹・飛鳥(Ash To Ash・d05417)
    一條・京茅(お砂糖マエストロ・d09341)
    佐藤・角(高校生殺人鬼・d10165)
    鹿崎・走狗(クマのキグルミ・d10436)

    ■リプレイ


    「懐かしいな」
     その山の光景を見回し、浅居・律(グランドトライン・d00757)が笑みをこぼした。
     冬の山だ。実りの秋が終わり再び命が芽吹く春までの間、息を潜めるように山は静まり返る。山に囲まれた田舎で生まれ育った律からすれば、故郷を思い起こさせる光景だった。
    「ライフルと弩を抱えた豚さんって、どうやって撃つんだろう、気になるのです!」
    「何ていうか個人的な感覚ではあるが弓よりもバスターライフルの方が強そうに見えるけどな」
     元気よくその斜面を登る一條・京茅(お砂糖マエストロ・d09341)に、上代・椿(炎の腹筋ブレイカー・d02387)も返した。
     その隣では軽い足取りで熊のきぐるみ――鹿崎・走狗(クマのキグルミ・d10436)が続く。
    「メイワクなブタさんたちには、早々にお帰り頂かないトね……串カツ食べたいナ」
     ボソ、と付け加えられた走狗の言葉に佐藤・角(高校生殺人鬼・d10165)は苦笑すると、ふとその視線を細めた。
    「どうしたです?」
    「いらしたようですよ?」
     問い掛ける京茅に角が視線で誘導する。仲間達もその視線を追って、その群れを発見した。
     その両脇に二門のバスターライフルを装備した豚が五体。そして、あきらかにふた周りほど大きいライフルの代わりに二門の弩をつけた個体が群れを引き連れるように斜面を下ってくる。
    「あのバスターピッグ達が車道に到達する前に何としても倒さないといけないね」
     それを見て、天樹・飛鳥(Ash To Ash・d05417)はチラリと後方を見た。車道まではそこそこの距離がある――だが、あそこにたどり着かせてはいけないのだ。
    『ぶひぃ』
     斜面の途中で、先頭を行くボスがその歩みを止めた。こちらに気付いたのだろう――ガシャガシャガシャ、と銃口をこちらに向けてくるのを見て玖・空哉(クックドゥドゥルドゥ・d01114)が不敵に笑った。
    「一匹だけバスターじゃなくアローが居るみたいだが……大差ねーわな。ちっちゃっと終わらせようぜ!」
     空哉が叫び、電撃のようなヴィジョンのバトルオーラをその身にまとう。五美・陽丞(幻翳・d04224)も優しい笑みをこぼし、うなずいた。
    「rebuild」
     音もなく陽丞の足元から植物の蔦が伸びる。その影業を従え、陽丞は呟いた。
    「誰一人として地に膝を付ける事は俺が赦さない」
    『ぶひぃ!!』
     ドドドドドドドドドドンッ! とボスの弩が大量の矢を上空へと射撃――矢の雨が灼滅者達へと降り注いだ。
    「調理開始だネ」
    「アレを食べるのには勇気がいりますね」
     器用にクマッターガトリングG3を取り出す走狗に、角が苦笑交じりにガトリングガンを構える。
     矢の雨にも怯まない灼滅者達に、雑魚のバスターピッグ達も動き出す――ここに戦いの火蓋が落とされた。


    『ぶひぃ!?』
     ライドキャリバー、剛転号の機銃掃射がバスターピッグの群れに撃ち込まれていく。
     その隙に空哉と飛鳥が斜面を駆け上がりボスへと肉迫した。
    「ポークミンチにしてやるぜ、豚ちゃんよ!」
    「これを受けきれるかな?」
     空哉と飛鳥の両の拳が振るわれる。ボスの巨体へとバトルオーラが無数の軌跡を描きながら叩き込まれていく――そこへジャージの袖をくっと上に引っ張ってジャージの袖が肘近くまで持ち上げ、京茅が続いた。
    「いくのです!」
     むん、と京茅がバイオレンスギターを振り上げ、巧みに叩きつける。
    『――ぶひ』
     だが、怒涛の連打を食らってなおボスは怯まない。そのボスへと無数の鋼糸が絡みつく――走狗の結界糸だ。
    「ほぉら、動いちゃ駄目ダヨ!」
     だが、その結界糸を構わずボスはその巨体で暴れまわる。ビハインドのファティシアもその刃でボスの体を切りつけるが、その肉厚な体はほとんど刃が通らなかった。
     そこに椿が回り込む。ボスの眼前で横回転、遠心力をつけて椿は燃える無敵斬艦刀を振り抜いた。
    「……焼き豚って美味しいよね」
    「一推しは串カツだヨ!」
     レーヴァテインで燃えるボスを見て椿は思わず呟き、走狗はこんな時でも串カツ推しを忘れない。そんな仲間達に笑みをこぼしながら、陽丞は飛鳥を治癒の力を宿した温かな光で照らしその傷を癒した。
    「うん、頼もしいと思っておこう」
     ボスが弩を構える。そして射ち込まれた鋭い一矢に京茅は右肩を射抜かれ、膝を揺らした。
    「ここから先には、行かさないのです!」
    『ぶっひいい!』
     言い放つ京茅に、ボスも地面を蹴り突進する。そのボスを灼滅者達は地形を利用して追い込んでいった。
     その頃、残りの者達が雑魚のバスターピッグと交戦していた。
    「おっと、邪魔はさせませんよ」
     斜面で低くガトリングガンを構え、角が言い捨てる。ガガガガガガガガガン! と囲まれたボスの元へと行こうとする一体へと爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を撃ち込んだ。
    『ぶっひ!?』
     横から叩き込まれた無数の弾丸に、瞬く間にバスターピッグが火に包まれる。その仲間が火達磨になるのを見て身構えた残りの者へ角のサーヴァントであるライドキャリバーのスーパーカブ改が銃弾を叩き込んでいった。
    『ぶひい!』
     たまらず駆け出した一体は、不意に足元から伸びた影の触手に絡めとられる――律の影縛りだ。
    「悪いけど、山での戦い方で負ける気はないよ?」
     木の幹を掴んで体勢を整えた律が言い捨てる。槍での戦い方も全部叔父から教わったのだ、このような木々が茂る林の中で。だからこそ、どう動き相手より有利な場所を取ればいいかわかっているつもりだ。
    「うん、久し振りに思い切りやってみようか」
     律の隣に剛転号が並び、その後ろには京茅のサーヴァントであるナノナノのもこちゃんが勇ましく控える。
     ガシャン、とバスターライフルを構えたバスターピッグ達へ律は駆け出した。


    (「流石に眷属相手に負けるわけには行かないよなぁ」)
     椿はそう内心で一人呟いた。
     ボスは確かに強い。だが、その強さはあくまではぐれ眷属のものだ、自分達の宿敵であるダークネスに及ぶものではない。
    (「唯でさえあの子達と力量に差がついていってるからなぁ。此処で俺もがんばってちっと位追いついていかないといけないだろうしな」)
     思い浮かべるのは仲間達の顔だ。苦戦せずに確実に戦果を上げていきたい――椿は妖の槍と無敵斬艦刀を握るその手に力を込めた。
    『ぶっひいい!!』
     ボスが荒れ狂う。囲まれ、いいように翻弄されている事が気に入らないのだろうか? 陽丞はモスグリーンのセルフレームの眼鏡を押し上げながら冷静に判断を下す。
    (「一撃一撃の威力は目を見張るものがある。でも――」)
     一撃を受けてその威力を知った陽丞は、胸元にハートのマークを浮かべながら思う。ボスは攻撃力があるが、その攻撃手段に問題があるのだ。威力に優れた彗星撃ちと広範囲に攻撃を文字通りばらまく百億の星はどちらも優秀な攻撃手段であり脅威だが、回数を重ねれば見切りやすい。
    (「だから、必ず回復を挟む。それが弱点だ」)
    『ぶっひい!』
     鼻息も荒く威嚇したボスが一本の矢を頭上へと射放つ。その矢が落下し、ボスへと突き刺さるのを見て陽丞は言った。
    「今だ!」
     陽丞のかざした中指――バフォメットの頭部の意匠をした契約の指輪が、妖しい輝きを放つ。その赤い瞳に呪われたように、ボスの体が石化を始めた。
    『ぶっひ……!』
    「逃がさないのです!」
     たまらずその場から逃れようとしたボスへ京茅のディーヴァズメロディの歌声が響き渡る。苦しげに鼻を鳴らし暴れるボスへひょっこりと木から顔を覗かせたクマ、走狗がクマッターガトリングG3の銃口を向けた。
    「お肉の柔らかさのコツはよく叩くことダヨ」
     ガガガガガガガガガガガッ! と真横から銃弾の雨あられとファティシアの重ねるような霊障波を受けてボスがふらつく。それを斜面を真っ直ぐに駆け上がった空哉が引っ掴み、その巨体を宙へと持ち上げた。
    『ぶひ!?』
    「コイツで決まらなきゃ嘘だぜ!」
     思い切り持ち上げてからの投げっぱなしパワーボム――空哉渾身の地獄投げにボスは頭から地面へと叩き付けられた。
    『ぶ、ぶっひ……!』
    「嘘ぉ!?」
     手応えはあった。空哉が驚くのも仕方がない。そのタフネスこそ褒めるべきだろう。
     ヨロヨロと立ち上がったボスへ飛鳥が弧月を大上段に振りかぶり、椿がその槍の切っ先をボスへと向けつららを生み出した。
    「これで……どうだっ!」
    「きっちりと糧にさせてもらうぜ?」
     ザン! と大きく飛鳥の雲耀剣がその胴を切り刻み、椿が放った妖冷弾が刺し貫く――二度、三度、とその弩をカラカラと動かしながらボスの巨体がついに倒れ伏した。
    「今行くから頑張るのですよ……!」
     それを見届け、京茅が小声で呟き駆け出す。戦いはまだ、終わっていないのだ。
    「――ありがとう」
     もこちゃんのふわふわハートに癒されながら律がそう告げるともこちゃんはお安い御用だというように強くはばたいた。
    (「さすがに、この数は厳しかったかな?」)
     律はそう苦笑するが、足止めと言う意味でならばその役割を果たしたと言ってもいい。
     スーパーカブ改と剛転号という二台のライドキャリバーが前衛での盾となり、積極的に律と角がバスターピッグを落としにかかり、もこちゃんが回復の役目を果たす。サーヴァントが多い状況を十二分に活かした戦いぶりだった。
     ガガガガガガガガガ! 角のブレイジングバーストが一体のバスターピッグに次々と着弾する。ゴウ! と炎に包まれてよろけたところを大きく回り込んだ律が木を足場に跳躍、螺穿槍でものの見事に刺し貫いた。
    「これで二体目です――」
     ね、と続けるはずだった角へバスターピッグのバスタービームが撃ち込まれた。だが、その魔法光線をスーパーカブ改が横っ飛び、その装甲で受け止めた。
     ヴォン! とフルスロットルでエンジン音を轟かせる自身の愛機に角も微笑む。そこに、そのよく通る声が響き渡った。
    「お待たせ!」
     飛鳥だ。斜面を一気に駆け上がるとそのまま撃った直後のバスターピッグへと連続の拳を叩き込んだ。
    『ぶっひ……!?』
    「闘気にはな、こーいう使い方もあるんだよ!」
     跳躍し、空哉がその闘気剣を振り下ろし炸裂させた。溢れ出す光と衝撃が三体のバスターピッグを容赦なく襲う!
     合わせるように撃ち込まれた剛転号の機銃掃射がバスターピッグ達の足を止める。そこへ京茅が飛び込んだ。
    「いくのですよ、もこちゃん!」
     京茅の呼びかけにもこちゃんがたつまきを巻き起こす。その中を京茅はバイオレンスギターをかき鳴らしパッショネイトダンスでバスターピッグ達を踊りながら殴打していった。
    「ブロック肉はこう縛るんデスネ」
     そして、走狗の鋼糸が一体のバスターピッグを絡め取った瞬間、ファティシアがその刃を突き立てた。
    『ぶひ……』
     崩れ落ちる豚。それを見て、京茅が角を笑顔で振り返った。
    「大丈夫です?」
    「……ええ、おかげ様で」
     角もここに至って安堵する。戦いの前から気合が入っていた京茅を心配していたのだが、ここに至っては杞憂で終わりそうだ。
    「――!!」
     律が回転させた妖の槍を振り抜き、その切っ先でバスターピッグ達を切り裂く。
    『ぶっひ……』
     大きく体勢を崩したそれぞれのバスターピッグへ上から回り込んだ椿が燃え上がった無敵斬艦刀を振り下ろし、陽丞がそのバフォメットの意匠をかざした。
    「そろそろ――」
    「――終わりにしよう」
     振り下ろされた刃に焼き尽くされ、呪いによって砕け散る――バスターピッグの群れは、ここに一体残らず駆逐された……。


    「何とかなったみたいだね……」
     そう呟いた飛鳥が周囲を見回し、溜め息交じりにこぼした。
    「 あれが車道に到達していたらと思うとゾッとするね……」
     戦場となった斜面はすっかりと荒れ果てている。そのままの破壊がもしも普通の人間に振るわれていたのならば――その想像は愉快なものではなかった。
    「誰も犠牲にならずにすんだんだ、本当によかったよ」
    「ええ、そうですね」
     やり遂げた、そういう笑顔で言った律に陽丞も笑みをこぼしてうなずく。
    「あいつら見てると豚肉食いたくなったわ。帰ったら豚肉料理でも作るかなぁ」
     伸びをして言った椿の目の前に差し出されるものがあった。
    「ハーイ、串カツだヨ?」
    『何で!?』
     思わずツッコミを入れた仲間達へクマのキグルミは労うために用意していた串カツを配っていった。
     ある者曰く、戦いの後の串カツはとても美味しかったという……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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