凶冥する夜

    作者:東城エリ

     冷たい風が肌を撫でる。
     夜空は冷たく美しい星を輝かせているが、足下と言うべき駅の中は人でいっぱいだ。
     幾筋もの線路が並ぶターミナル駅。
     年始年末の近い時期は、休暇に入った人々で終電間近でも人の数は多い。
     せわしなく駅のホームを歩く人々。
     飲み会帰りや年始年末でも仕事のある職種なのか、スーツ姿の人など様々な人の様子がうかがえる。
     案内のアナウンスが絶え間なく流れ、発着音が聞こえた。
     ホームに交差するように、ほぼ同時刻、両ホームに電車が滑り込んでくる。
     長い車両の窓から満員ではないが、多くの乗客の姿が見えた。
     ホームには、乗車を待つ人の列が並ぶ。
     列車は速度を落としながら、停車した。
     そんな中、前方車両に近い車両の扉が開き、1人の男が出て来、ホームに降り立つ。
     後ろへとなでつけた黒髪にノンフレームの眼鏡、その奥の瞳は仄暗い紅で、うっすらを笑みを刻む唇は、小さく言葉を紡ぐ。
    「さて、今夜はどのような色を見せてくれるのでしょうね」
     どこか理知的さを感じさせる声音。
     スーツにトレンチコートを纏い、黒皮の手袋をした男は、手にする武器を握り直す。
     今日の愛器の感触を確かめるように。
     手に持つ男の身長に届きそうな大きな武器と、細やかに切り刻めそうな長目のナイフ。
     左右に分かれて階段へと歩き出す人々のちょうど真ん中で、男は踊るように一回転した。
     長大な武器は、ホームに居た人々の身体を半ばから切り飛ばす。
     噴水のように吹き出る赤い血。
     ホームの床はコンクリートの無機質な色から濁った赤の色へと変え、その範囲を広げていく。
     一瞬何が起こったのかと、判断がつかない人々が騒ぎの中心へと近づき、災禍が広がる。
     ようやく近づいてはならないものだと気付くと、逃げ場としての階段へと殺到し始めた。
    「綺麗な色だと思いませんか」
     そう言って、男はうっそりと笑みを刻んだ。
     
    「それでは、説明を始めましょう」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、集まったメンバーを見やり、ひとつ頷くと話し始めた。
     ダークネスである六六六人衆がひとり、序列五九七位の三日月・連夜のことを覚えていらっしゃるでしょうか。
     彼が再び現れると、未来予測に出ました。
     皆さんには、彼が現れる場所に赴き、彼が行っている殺戮を止めていただきたいのです。
     ダークネスには、バベルの鎖の力による予知がありますが、私達エクスブレインが予測した未来に従えば、その予知をかいくぐり、ダークネスに迫る事が出来るでしょう。
     強力で危険な敵ですが、ダークネスを灼滅する事こそ、灼滅者の役目なのではないでしょうか。
     厳しい戦いになるとは思いますが、お願いします。
     
     今回、彼が現れるのは人の多いターミナル駅です。
     終電間近の駅のホームに到着した先頭車両から降り立ちます。
     そして、降車とする人々と乗車する人々の居る中で、刃を振るい血の海にしてしまいます。
     事態が起こってから、三日月連夜に接近してください。
     それ以外の状況では、彼が何らかの気配を察知して逃走してしまう可能性がありますから。
     ホームの両側に到着した列車、ホームには三日月連夜の殺戮で取り乱した人々で埋まっています。
     殺戮が始まれば、逃げだそうとするでしょう。
     改札口に続く階段へと人々が殺到しますから、戦場となる場所は確保される筈です。
     犠牲を出さないためにする方法は、三日月連夜と相対すること。
     そうすれば、殺戮の刃が一般の人々に向かうのを阻止することが出来ます。
     序列五九七位である以上、かなりの強さです。
     ですが、向こうは1人。
     殺戮を止められて、つまらないと思えば、上手く撤退してくれるかもしれません。
     仕留めることはまだ難しいと思いますから、これ以上の殺戮で血を流させないよう。
     
    「皆さんなら、きっと大丈夫だと信じています」
     お願いします、と姫子は真摯な眼差しを向けたのだった。


    参加者
    望崎・今日子(ファイアフラット・d00051)
    玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)
    ターシア・ディーバス(恐怖を歌う小鳥・d01479)
    二夕月・海月(くらげ娘・d01805)
    星野・優輝(銃で戦う喫茶店マスター・d04321)
    木通・心葉(パープルトリガー・d05961)
    天月・一葉(自称萌えの探求者見習い二号・d06508)
    天城・兎(無名の歌い手・d09120)

    ■リプレイ

    ●ホームにて
     肌をひやりとした冬の風が撫でる。
     照らし出される明かりの下、年末年始の忙しさもあってせわしなく行き交う。
     駅のホームは、人で溢れて流れに逆らうのは難しい。
     ホームから少し離れ、空飛ぶ箒に乗り、上空で待機するのは木通・心葉(パープルトリガー・d05961)。
     相乗りしているのは、天月・一葉(自称萌えの探求者見習い二号・d06508)で、同じ寮に住まう気心の知れた仲間でもある。
     事が始まれば、箒から飛び降りて戦う算段だ。
     三日月連夜が現れるという先頭車両周辺を中心にして、待機している。
     玄鳥・一浄(風戯ゑ・d00882)は、三日月の視界に入らない位の距離と位置に留まっている。時折、同じ位置に居るのを怪しまれない様に柱や階段裏、自動販売機の陰など。
     旅人の外套を使い、隠れているのはターシア・ディーバス(恐怖を歌う小鳥・d01479)。小さな姿が人の波に攫われない様、場所を探すべく視線を彷徨わせる。
     天城・兎(無名の歌い手・d09120)は、列車の入って来る進行方向よりも先の線路上、ライドキャリバーの因幡に跨がっていた。
     壁側の物陰で電車を待っている振りをして、二夕月・海月(くらげ娘・d01805)は、その時が来るのを待つ。
     出現地点近くのベンチに座って、新聞を開き読んでいる風を装い、顔を隠して溶け込んでいるのは、星野・優輝(銃で戦う喫茶店マスター・d04321)。新聞に小さな穴を開けて、列車の入ってくるホームを目視出来る様にしている。
     望崎・今日子(ファイアフラット・d00051)も、人の流れに飲まれない様、周囲に気を配る。
     案内のアナウンスと列車の発着音が聞こえた。
     一浄の涼しげな眼差しが鋭い物に変わる。
    「心葉ちゃん!」
     一葉が心葉の名を呼び、それに応えて心葉が空飛ぶ箒を操作した。
     ホームの両側に交差する様に、電車が滑り込んでくる。
     黄色いラインの内側、電車を待っていた人達の列が、電車が静止したと同時に動き出す。
     車両の中は多くの乗客が見えた。
     皆の視線が、先頭車両に向けられる。
     ドアが開き、乗客が吐き出され、その中に紛れていた男は、ホームに降り立つと黒皮の手袋を填めた手が握る武器を手に、何事もなさそうな仕草で歩き出す。
    「さて、今夜はどのような色を見せてくれるのでしょうね」
     男の身長に届きそうな大きな武器と細やかに切り刻めそうな長目のナイフの刀身は、血で染め抜いたようで、三日月連夜の瞳の色と同じ色。
     線路の先に居た兎は双眼鏡を放し、ライドキャリバーを疾走させる。
    「さぁ、行こうか因幡」
     吹き付けてくる風を心地よく感じながら、鮮血舞う舞台へと上がるのだ。
     海月は、発見すると同時に物陰から出る。
    (「この力がどれほど通用するのか、私はそれを知りたいんだ」)
     試したいと思う。
    「これが六六六人衆、やっと会えた」
     だから、今持って居る自分の力をぶつけてやるのだ。
     左右に分かれて階段へと歩き出す人々の中で、三日月は一瞬立ち止まり、踊るように一回転した。
     三日月の所行を不快げに見るも、海月はパニックテレパスを使い、
    「改札口へ逃げろ!」
     と、大声で叫ぶ。
     同時に敵の元へと接近していく。
     深紅の刃はホームにいた人々の身体を半ばから切り飛ばし、灰色のコンクリート床を鮮やかな赤に変える。
     何が起こったのかと背後を振り向いた人々は、惨状の理解が出来ないまま、先に命の灯火を消された人々の後を追わされた。
     理不尽も何も自分達が狩られる事だけは分かる。
     本能で逃げようと、闇雲に前方にいる人を押しのけるように、階段へと殺到し始めた。
    (「殺しちゃダメ……ダメ、なのに……なんで、そんな……簡単、に、殺せる……の……?」)
     ターシアの心に湧き上がる思い。
     幼い頃に遭遇した惨劇を思い出し、ターシアは静かな怒りと、それ以来抱える殺人衝動を躊躇いと共に自分に言い聞かせるように解き放つ。
     一浄は殺界形成を発動し乍ら、人の層が薄い所へと駆けだす。
     悲鳴と怒号が入り交じる。
    「ミッション・スタート!」
     優輝はそういって、口元に笑みを刻む。
     カードを指で挟み、表面がキーワードが見えるよう掲げ、宣言するように。
     人の流れに逆行する様に優輝も現場へと向かう。
     ホルスターから、ガンナイフを抜き放ち乍ら。
     同じく行動を起こした仲間の姿を視界に捉え、心の中で頷く。
    (「殺戮阻止をする事が第一優先だが、これ以上の被害を出さない為にも灼滅したい所だな。一筋縄にいかない相手だけどね」)
     殺戮の中心からやってくる人の衣服には、血飛沫を浴びた人もいる。
    「心葉ちゃん、私より先に倒れないで下さいよ!」
     空飛ぶ箒から共に飛び降り乍ら、一葉が一瞬心葉の方を見、ホームへと降り立つ。
    「一葉、ボクは魔法使いなんだから無茶はいうなよ」
     心葉が、一葉が降り立ったのを確認すると、自身も慣れた動作で飛び降りた。
     胸に湧き上がるのは戦いへの高揚感。
     戦いが始まると身体か、戦闘態勢に移行する。
     戦闘狂の気があるのかも知れないと自覚はあった。
     途中、倒れ込みそうになった女性の背を支え、一浄は思いの外早口で連れの人物らしき人に任せた。
     連れが居るのなら、大丈夫だろうと。
     その様子に三日月は注意を払う事無く、自身を取り巻く鮮血の絨毯に満足したのか、仄暗い紅の瞳を深くする。
    「綺麗な色だと思いませんか」
     吐息の様に吐いた台詞に応える声がある事に興味を抱いた様で、三日月はそちらへと頭を傾けた。
     集まって来る今日子達の姿を捉え、手にした重量感のある長大な刃を軽く振るう。
     同時に降りかかってくる刃。
     それを飄々として、感じた苦痛は表へと出しはしない。いつも涼しげで余裕のある姿を保って居たいと思うから。
     灼滅者達の周囲にあった消えかけた命の灯火も、それで掻き消されしまう。
     興味を抱くと攻撃を仕掛けるは同義らしい。
     三日月の紅い瞳を見返し、一浄は嘆息する。
    (「あぁ、これが――、墜ちた人なんやね。きっと世界は紙一重。やけど、せやからこそ、此方側まで壊させへん」)
     今消えた命の灯火に耐えるように、一浄はほんの一瞬、目を伏せた。それはまるで冥福を祈るよう。
    「これ以上は、させへんよ。お初さんです。長い付き合いにはなりとうないけど、ちょい俺らと遊んでなぁ」
     護りたいと思う人々の命が掌から零れていく感覚は、寒々しい。
     前に出た心葉は、ふと気付く。
    (「依頼では前に出るの初めてだな……。ん、楽しそうだ」)
     ノリ過ぎないように抑え無ければと、自戒する。
    (「三日月、お前のしている事は楽しくなさそうだけどな」)
     僅かに眉間に皺を寄せた。
    「私達が相手だ!」
     縛霊手を前に出し、まだ背後で逃げ惑う人達が、うまく逃げられる様にと願う。
     自分が三日月へと注意を惹くように強く言ったのは、そういった思いがあったから。
     やって犠牲が減る可能性があるのなら、やった方が良い。
     何より、正攻法での戦いを好んでいるというのもあった。
    「殺せないのはつまらないだろう? 私が立っている限りはやらせないぞ」
     強い思いが力になると信じて。
     兎のバイオンレスギター、城鍍の怒號で殴りつける勢いと因幡の加速で、三日月へと放たれる。
     同時に兎は因幡から飛び降り、兎は後方へ下がり、因幡は前へと出た。
    「だめ……これ以上、は……だめ!」
     フランス人形の様に可憐なターシアが、青の瞳に強い意志を込めて精一杯の大きな声を出す。
     災禍が広がれば、悲しむ人が増える。
     悲しい事は増えて欲しくない。
    「骨のない者を相手にするより、私たちの方が面白いぞ三日月!」
     そういって、海月は三日月の前に立ちはだかり、
    「さあ、暴れてこようクー」
     自身の名前の由来であるクラゲの形をした影業に声を掛けた。共に戦場を駆ける相棒に。
    「本当、綺麗な色ですねぇ。私、赤って凄く好きなんです」
     一葉がピンクの瞳を輝かせ、笑みを浮かべながら同意を示す。
     敵対的な中、一葉の態度は友好的と言えた。
    「手応えが無くて、つまらないでしょう。ただ切られるだけの人形みたいな相手じゃ。特別に私の血の色を貴方に見せてあげます、だから私と殺しあってくれませんか?」
     謳うように、一葉は白い手首を晒す。
    「貴方の色はどのような赤の色を見せてくれるのでしょうか。爆ぜた肉塊も、美しく切断された断面も、綺麗な赤の色彩です」
     自分の居る場所は、美しい赤に彩られた世界だと三日月は言ってのけた。
     共感者がいるということに僅かに表情を動かす。
     それを一葉は了承であると解釈し、笑顔を浮かべる。
     一葉は気になっていた事を駄目もとで、投げて見ることにした。もしかして、気が向いて応えてくれるかも知れないと思ったから。
    「バイロンさんとやり合ったのって、三日月さんですか?」
    「さあ、どうでしょうね……? 私と殺り合ったというのなら、そうなのでしょう。血の海に沈めると分かっている相手に、私は名など尋ねませんから」
     名を尋ねるのは、気が向けばと言うことらしい。
     恨みに思われていたとしても、その都度切り刻んでしまえばいいと破滅的思考で居るようだ。
    「答えて下さってありがとうございます」
     ふふふ、と一葉は微笑んで見せた。

    ●交わる刃
     今日子は闘気を雷に変化させると拳へと集中させ、縛霊手を繰り出す。
     自身に耐性を付けさせるためだ。
     一浄は手にする朔之雪と銘を持つ槍を螺旋の様に捻りながら突き出し、破壊力が増すようにと保険を掛ける。
     無敵斬艦刀を振るい、心葉は重い一撃を叩き込む。
     一葉は笑顔を浮かべながら、軽やかな足取りで三日月の方へと回り込み、葉月・樹月という銘を持つ自身の刃で切り裂く。
     因幡はフルスロットルで勢いを増す。
    「帰って、よ……。もう……誰も、殺せ、ないんだか、ら……」
     ターシアは震えながらも敵を見定め、言葉を紡ぐ。
     そして幼さに不似合いな長大なバスターライフル、手動装填式対物ライフルを手に、重厚から光線を撃ち出した。
     滞空しているリングスラッシャーを、海月の意志のまま投げつける。
     綺麗な弧を描き、三日月へとぶつかるが、表情を動かす事はない。
     優輝は敵をよく知ろうと、注意深く観察しようとしていた。
     傷つけるのも傷つけられるのも、綺麗な赤という色を作り出すモノだという認識なのだろうか。
     痛みに鈍いのなら、どれくらいのダメージを負っているのだろうと図るのは難しい気がする。
     得られる情報を有用活用して行けば、この戦いも楽になるのではないかと考えるから。
     楽というのは、手を抜くと言うことではなく、適切な対処をすることが出来ている状態だと思うのだ。
     ガンナイフの銃口から、善には癒しを悪には灼滅を与える鋭い裁きの光を放つ。
     兎は元気づけられるような歌声で、前衛で三日月に近い今日子から癒していく。
     深くはダメージを負っては居なかったけれど、余裕がある方が良い。
     攻守の要である4人と1体が抜かれたら、瓦解してしまう可能性が高い。
     そんな事を考えたくはないが、最悪を考えておくのも必要だ。
     三日月の足止めが優先事項だが、心根では撃破するつもりである。
    「ああ、綺麗では無くなってしまいましたね……」
     声音は残念そうだが、表情は眉ひとつ動かす事はない。
     軽い仕草で長大な刃を扱い乍ら、とん、と一歩下がった。
     ねっとりとした質感を持つ漆黒は殺気へとなり、後方へと襲いかかる。
     赤黒ささえ感じる色は、これまで澱のように積み重ねてきたものだろうか。
    「血の香りは良いのですがね」
     ワインの味を批評するソムリエの様に三日月は語る。
     縛霊手に炎を纏わせ、今日子が重さを持った一撃を繰り出せば、一浄が三日月へと赤き逆十字を現出させ切り裂く。
     心葉はロケットハンマーを勢いよく振り抜いて当てようとし、一葉一瞬のうちに抜刀し、撫でるように斬り伏せようとする中、因幡は突撃する。
     海月は自身の深淵に潜む闇を形にして弾丸へと変え、足下から弧を描くように撃ち出せば、優輝は圧縮された魔法の力をガンナイフで狙い撃つ。
     左手に兎の影を纏わせ投げるように放ち、噛みつかせようとした。
     兎は相棒の因幡に視線を向け、まだいけると確認する。

     幾度か刃を交えて後、三日月が前衛にいる心葉の足止めした。
     この戦いはここで終わり、とでも言うようなその仕草。
     心葉は三日月が撤退するのだろうかと、手を止める。
     その通りだと分かると、殲術道具を降ろした。
    「ボク達は灼熱者だからな、守るべきものを守るだけだ」
     無駄な戦いはしないと、言葉にする。自身を戒めるように。
     海月と兎は後を追いかけようとするが、仲間は追う気がないのだとわかると前に出、三日月の姿を目で追い駆けるに留める。
     ホームの先へと下りて、消えた。
    「もう……殺さ……ない……?」
     ターシアは、完全に去るまで澄んだ青の瞳を向け、見つめた。
     災厄は去ったのだと、半ばほっとしながら。

     三日月が去ったホームを見やる。
     漂う血の香りと屍体の山。
     身体の半ばから断ち切られている人々からは噎せ返るような香りが漂い、戦いが終わっり、緊張が解けて嗅覚を刺激し始めた。
     酷い場所で戦っていたのだと。
     心葉は、救援を呼んだ方が良いだろうかと考え、生存している人のあたりへと足を向け、ポケットから飛び出したらしい携帯電話を拾う。
    「何をしていますの?」
    「いや、別に特に意味はないが、自分が運ばれるのだから、自分の携帯であるべきだろう?」
    「そうですわね。でも、大丈夫だと思いますわ」
     ほら、と一葉は耳を澄ます仕草をする。
     同じように心葉も一葉に倣う。
     聞こえたのは、救急車の鳴らすサイレン音。
    「では、退散した方が良さそうだな」
    「心葉ちゃん、乗せてくださいな」
    「ああ、構わない」
     心葉が空飛ぶ箒を用意して、一葉と共に相乗りする。
     一浄は犠牲となった人々へと、一度だけ目を伏せると、断ち切るように背を向ける。
    (「覚えましたえ、三日月連夜」)
     確りと胸に刻み込むと、立ち去ったのだった。
     赤く染まった戦場から。

    作者:東城エリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月12日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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