クリスマス~だから秋葉原行くよクリスマスだから!

    作者:旅望かなた

    「クリスマスですってよみんな!」
     端的に言うとミニスカサンタだった。
    「なんだけど恋人とかいなくてカップルだらけの雰囲気で一人で校内歩けませんでしたてへぺろ☆」
     足の寒さは根性論で何とかなる。それが女子高生って生き物だ多分。
     嵯峨・伊智子(高校生エクスブレイン・dn0063)の持論である。
     でも隣に誰もいない寒さは耐えられなかったらしい。でもリア充爆発させたりとかする勇気もないんだだって自分が爆発させられるの怖いじゃん。
    「てなわけで、伊智子は今年、秋葉原とやらに初挑戦したいと思います! クリスマスだから! クリスマスだから!」
     大事な事なので二回言う伊智子。
     でもわかるだろ、その気持ち。
     お祭りだからこそ、平常心を忘れちゃいけないっていうか。
     むしろアキバの空気を常食にしてますとか。ケバブ食わないとHPが徐々に減少するとか。次元の壁の向こうにいるコネクション:恋人とか妹とかメイドさんに会いに行くとか。普通に電気パーツ買いに行ってパソコンのスペック上げますとか。
     
    「でさ、でさ、普通に秋葉原でいつも通り過ごしてもいいし。面白いところ連れてってくれたらめっちゃ嬉しー的な! でもでも、ちゃんとクリスマスイベントもあるんだー調べてきちゃったし!」
     どさどさ、と印刷された資料が広がる。クリスマスに相応しいキラキラから、痛車まで……痛車!?
    「あーうん、痛車ってキャラクター描いたヤツなんでしょ? 可愛くない? ちょー可愛くない?」
     もちろん試乗は免許がないのでできないが、運転ゲーム体験コーナーやコスプレイヤー撮影会は普通に楽しめるだろう。モーター付き自動車模型やラジコンカーの特設レーンもあり、節度を守って楽しむことができそうだ。
    「あと、ホビーショップとかメイド喫茶でクリスマスフェアやってるとこもあるから、プレゼント買うとか! アタシにくれてもいいのよ? いいのよ?」
     目をキラキラさせる伊智子の言葉はともかく、自分とか友達とか……まぁ、趣味を共にする恋人とかに、プレゼントを買ったり記念チェキ撮ったりとかにも悪くない。
    「あとね、あとね。電気街口の近くで、おっきいクリスマスツリーと街路樹にイルミネーションしてるところがあって、夜に何回か『光と音のファンタジー』ってやつやるんだって! 秋葉原やるじゃん! ロマンチックじゃん!」
     わくわくと伊智子は資料いる? と仲間達に尋ねる。
    「もち別に推奨コースとかじゃないし、アタシ達はふりーだむーにクリスマスを楽しむ選ばれし者達って感じでアキバ縦横無尽しちゃおう的な! じゅーおーむじん!」
     街中がクリスマス一色になる中、我らの聖地で――我ららしく、聖夜を迎えようではないか!


    ■リプレイ

    「好きなところだからと言って、ハメを外すことなく」
     杏がひらりとコートを揺らし、山手線秋葉原駅の出口から街を見渡す。
    「私は私理論で戦う。そのつもりだ」
     ――ま、要するにせっかくのクリスマスに秋葉原突撃なんていう、ちょっぴり変わり者達のお話、なのである。

    「ただの冬のイベントだろ? 勿論独り身ですし一人で過ごすつもりですが、それが何か?」
     ――ともあれ午前十時には秋葉原に到達している和弥である。
     美少女ゲーム関連のクリスマスイベントを一通り覗く。言わばデート。
     食事は空いている時間に『チェーン店ではない牛丼専門店』で牛丼大盛りに卵を乗せて、そうこれはディナー。
     その後は様々なTRPGショップを梯子して、クリスマス特価のルールブックやサイン入りリプレイを漁る。それはまさしくクリスマスプレゼント(自分に)。
     午後四時台なら混雑もまだ酷くなく。早速、撤収。
     あとで戦利品で「やっぱりクリスマス限定イラストとか良いな……」と楽しむのである。言わばお持ち帰りというやつだ。
     ……完璧じゃないか!

    「……いや、別に食事のついでだからな……? クリスマスだからって特に用事もないし……いや、なんでもない……」
     むなしくなるからそれいじょう、いけない。
     ともあれ模造武器専門店への道の途中にはケバブ屋さん。通常サイズでソースはガーリックの効いたヨーグルトとトマトのソースが、仁人のお気に入り。
     そして、武器屋へ。
    「灼滅者だから、武器は見慣れているものもあるが……それはそれ、これはこれだ……自分が使わないものもある……」
     大抵冷やかしだが、たまに資料を買う事もある。
     そして、近くのTRPGショップにて先日発売の新作ルールブックを購入し、仁人はまた秋葉原の人波へ流れていく。

    「秋葉原って実は行った事無かったんですよね。今日は思いっきり楽しみましょうか」
     すごい肩パットを電車降りたので再装着しつつ三成が秋葉原上陸!
     まずは駅近くで名物某ロボット焼きゲット。通りかかった伊智子が「なにこれロボ!?」と目をキラキラさせていたので、一つどうぞと渡せばその目がもっと輝いた。
    「これも名物らしいですけど……良かったらどうぞー」
     クリーム味の方も渡せば、大好物だけど食べるの勿体ない、と伊智子がスマホで撮影。
     そして三成は散策を再開。素敵なコスプレイヤーの写真を撮ったり、裏通りのフリーマーケットを眺めたり―――最後は道を聞いて神田明神へとダッシュ。
    「ヒャッハー! 来年の仲間全員の無病息災を祈願だぁー!」
     悪そうな顔と裏腹に心優しい願いが、届きますように。

    「秋葉原! いいよなこういう……面白いもんいっぱいあるとこって」
     せっかくだし自分用にクリスマスプレゼントをと、レイシーが辿り着いたのは模型屋である。
    「プラモデルでも買おうと思ってさ。年末年始に作って遊ぶんだ」
     戦車に飛行機、船にロボット。いろいろ見て「これだ!」というのを丹念に探していく。
    「お好みは?」
     店主に尋ねられ、レイシーはにまっと笑って。
    「俺の好みとしては、『空飛ぶ』『変形する』やつだな、かっこいいしロマンだぜ!」
     もちろん飛ばない実在兵器だって燃え。
    「萌えよか、燃えだぜ!」
     その言葉に店主は深く頷き、お勧めの箱をいくつも取り出して。
     こうして、彼女の年末年始はプラモデルに明け暮れる。

     そしてこちらは電器店が並ぶ街。
    「クリスマスですもの、自分にご褒美をあげてもいいと思うの」
     いつだって女の子はゴージャスな石に弱いと鵠湖は一人ごち――パーツショップへ。
    「新しいOSが出たばかりですもの、せっかくだからいい石(CPU)搭載したマシンにしたいわ」
     これでもかってくらいハイエンドパーツ!
     ダブル搭載グラフィックカード!
     ケースはシンプルなミドルタワー!
     多めに積んでおきたいベイ!
     モニタは奮発して大き目液晶タブレット!
    「ああ、組み立てるのが楽しみ……」
     部室の住所で宅配を頼み、足取り軽く鵠湖は技術の街を軽やかに歩く。

    「なんか明るくて、人が多いねー! 専門的なお店も沢山!」
    「確かに、専門店の集まりって感じだな」
     秋葉原ほぼ初挑戦の灯倭と梗也が、楽しげに賑やかな街を歩く。
    「おお! メイドさんだ! ちっちゃくて可愛いなー」
    「わ、ホントだ、可愛い!」
     2人の声に気付いて、メイドさんが手を振る。梗くんメイドさん好きなのかな、後でこっそりメイド服プレゼントしようかな、と見上げる灯倭の視線を誤解し、「メイド喫茶行きたければ付き合うけど?」と梗也は首を傾げる。
    「そういや、ゲーム見たい。欲しいのあるんだよな」
    「へぇ、どんなの?」
     灯倭に尋ねられた梗也は普通のゲームタイトルの後、思わずオトナなゲームを挙げそうになり……慌てて口をつぐむ。そっと灯倭は聞かなかった事にした。
    「そ、それより! ゲーセン行こうぜ、ゲーセン!」
     今日の礼に何かプレゼントをと言えば、喜んでキャッチャーゲームのぬいぐるみを指さす灯倭。しばしの格闘の後、可愛らしいワンコぐるみは灯倭の腕の中に。
    「私もお礼に何かプレゼントするよ」
     そう言った灯倭に、ならばシール写真を一緒に撮ろうと梗也は提案する。それで良いなら是非! と灯倭は笑って。
    「いくぞ! メリークリスマス!」
     さりげなく抱かれた肩、2人の笑顔がかしゃりと収まる。
    「今日はサンキュな!」
    「こちらこそ!」
     写真を撮り終っても、2人の笑顔は終わらない。

     可愛いもの、綺麗なもの、格好良いもの、面白そうなもの。
     蝸牛が探す大抵は、秋葉原のどこかに埋もれている。
    「一番好きなものは美味しいものですものね」
     なのでその手には雪のような新感覚スイーツ。狐耳が楽しそうに揺れ、カイロと防寒服もばっちりだ。
     今までも許可を取ったカップル、美少女の紙袋、格好いいプラモデルを抱えた少女の満面の笑み、美少女執事とメイドさんのコンビ、ロボット焼き、その中でさらに許可を取ったものがSNSへと投稿されていく。
     秋葉原の端から端まで現れる彼の、移動手段は、もちろん謎である。
     次の行き先は――。

     迷う事もなく弟のクラウディオを連れ、アスセナが入ったのはメイド喫茶。
    「セナ姉、こんなのどこで知ったの?」
    「世の中にはインターネットという情報ツールがあるのよ」
     自慢げに胸を張るアスセナに呆れ顔を返しつつ、楽しそうな姉に付き合おうとクラウディオは物珍しげに辺りを見渡す。
    「お帰りなさいませご主人様、ご観光ですか?」
     可愛らしいメイドさんから早速声を掛けられるクラウディオ。慌てつつちやほやされる彼を、面白そうに見ていたアスセナは――だんだん拗ねた表情になっていく。
     そして……彼女は、弟を奪い返す。
    「クロードにサービスしていいのはわたしだけなんだからっ」
     驚いた顔をしていたクラウディオは、可愛らしい嫉妬心を理解し微笑んで。
    「じゃあ、姉さんにサービスしていいのも僕だけ。ね?」
     己の手を取り口づける弟に、アスセナはにこにこ。見目麗しい姉弟のやりとりが店中の目を奪うのもお構いなく、二人の世界が繰り広げられる。

    「甘いものを片っ端から持ってくるのじゃ!」
     そんな甘さとは無縁に、やはりメイド喫茶で詞乃は非常に荒れていた。
    「ふんだ、クリスマスに一人でいて何が悪いのじゃ。大体今日は本来キリスト教の祭日じゃろう。ではキリスト教徒以外には無縁のはずじゃろうが」
     向かいでかなり真剣な瞳でうんうん頷くメイドさん。
    「祝っている連中はキリスト教徒か? 普段から教会へ行っているのか? 行ってないじゃろう。それなのにこんな時ばかり浮かれおってからに」
     分かるかメイドよ、と詞乃はフォークをぎゅぎゅっと握る。
     同じくぎゅぎゅっと拳を握って頷くメイドさん。
    「あ、ついでにケーキお代わりじゃ」
    「わかりました大盛りにしますご主人様!」
     というわけでケーキのお代わりをつつきながら。
    「ああ、勘違いして欲しくないのじゃが、別にわらわは一人ぼっちなのが寂しくてこんなことを愚痴っているわけではないのじゃよ。ただどうにも納得が行かないだけなのじゃ……本当じゃよ」
     向かいでハンカチを目に当て頷くメイドさん。
     そんなわけで軽くなったお財布と重くなったお腹に少しばかり憂鬱な詞乃であった。

    「クリスマスに付きおおよそがサンタコスだと? 嗚呼、僕を襲う『君は其の侭でも十分可愛いよ』現象!」
     絲絵は非常に幸せそうである。
    「ニコ君はサンタ服似合いそう、普段も赤い服を着てますよね」
    「言っておくがあれは殲滅道具だからな、俺だって私服も着るぞ」
    「でも似合うのは本当ですよ」
     せっかくだし、どうでしょう? ダメ? と街子が首を傾げる。
    「嗚呼、ニコちゃんはサンタコスしたら可愛いかも」
     そう言って絲絵は買い込んだサンタ帽を取り出して。
    「流石は絲絵だな、準備が良い」
     済まないが有難く、と笑ってニコがサンタ帽を受け取る。
    「あっ! 実はメイド服も買いこんで来たんだぜ。メイド分を補う為に頼むかしこくん、なあ街子くん!」
    「……しえちゃんの用意周到さが恐ろしいですね」
    「まあ、街中サンタだらけだよね……だからって絲絵ちゃんも用意しなくていいんだよ……」
     思わず奇異と尊敬が視線に入り混じってしまう街子と柚弦。
    「僕にはこんなフリフリの服似合いませんよ」
     そんな目で見ないでください、と必死に回避する街子。
    「……え、まさか私もメイド服を着る流れなのかい?」
     胸の前で手をふるふるするかしこ。
    「かしこ嬢はバッチリでしょうね。こんなに可愛らしいんですから」
    「こ、こういうのは久我先輩にこそ合うのではないかな。もう少し久我先輩みたいにスタイルが良ければ良かったのだけれど……」
     全力で押し付け合う2人。2着あるんだけどな、と絲絵はその様子をにこにこ見守る。
    「街子ちゃんもかしこちゃんも可愛い格好、きっと似合うよ」
    「更には今は男子用も売っていてね」
    「……えっ?」
     目の前に出されたメイド服は確かに肩幅が広い。
    「いや男子用メイドっておかしいよね!?」
     がば、と街子とかしこが柚弦に振り向く。新たな標的というやつだ。
    「この世界は奥深いですね。緒野君は背も高いし、きっと似合いますよ。来ましょう、着てください。着てみてください」
    「……緒野先輩は着ないのかい、似合うと思うのだけれど。執事やサンタ服も見たいが」
    「そ、そんな目で見てもだめだからね。やだからね。ごめんなさいスカートはやめてください後でサンタでも執事でもいいからお願い許して」
     傍観していたニコが、くすりと微笑む。
    「灰咲も久我も折角の機会だ、良いんじゃないか? 勿論緒野もだ、人の行為を無駄にするもんじゃないぞ」
     既にコスプレ済みのニコの発言力や偉大――いやぁ眼福。
    「だがそのもえもえきゅん☆ は言わんぞ!」
    「またまたニコちゃんは! 皆で唱えようモエモエキュン!」
    「なんかその、接頭辞がいちいち不思議なんだけど。も……もえもえきゅん……」
    「もえもえきゅん……これは何かの呪文なのだろうか、美味しくなる呪文、とか?」
    「はい、もえもえきゅん。……意味、あるんですか? これ」
    「ふふ、意味有るぜ、美味しくなるし録音は完璧だ!」
     ――その後、絲絵の持ち物チェックが全力で行われたかは皆さんの想像にお任せしちゃうぞ☆

    「クリスマスと言うだけで溢れ出るカッポーは爆発すればいいのに」
     昏い情念はともかくとして、武刃蔵の一同はメイド喫茶に来ているのである。
    「如何せん皆美男美女。もてなす側が若干可哀想な気もせんこともないな」
     暁は自分を美男と美女のどっちにカテゴライズしてるのかが問題である。
    「メイドと言うからにはきっと可愛いプリンちゃんとかプリンちゃんとかがいるんだよな! 俺初めてだからウキウキ☆ヒャッフー。目の保養♪ 目の保養♪」
    「うむ。椿は今日も元気そうだな」
     心の声が口に出ている椿に、ジャックは最年長らしい鷹揚な目を向ける。
    「お帰りなさいませ、ご主人様」
    「ご主人様……??」
     私の性別が判らなかったらしいと、暁は肯定も否定もせずふっと笑みを浮かべて着席。
    「……何コレ……?」
     対照的に海外でちゃんと教育を受けたメイドさんを知っている光明は思考停止。
    「何というか……目のやり場に困るというか、落ち着かないな……」
     その隣で刀兵衛の目が泳ぐ泳ぐ。とりあえず言いたい事が多すぎてどこからツッコむべきなのか。
    「……メニュー名おかしくない?」
     おっと。光明の最初のツッコミどころはそこだったか。
    「流石はメイド喫茶の本場、秋葉原だな。かわいこちゃんがいっぱいおっぱいだぜ! やはりこのももちーの目に狂いはなかった」
     どうせならと羅生丸はノリのよさそうなメイドに話しかけてみる。そしてチェキを勧める営業に見事に引っかかる。
    「それとこの中で誰が一番か決めてみようぜ!」
    「ふっ、その賭け……乗った!」
    「……成程、面白い」
     早速それに乗って傍らのメイドさんを口説きだす椿と暁。黙々とケーキを喰らう刀兵衛と光明。ジャックは「なるほどメイド喫茶とはそういう場所か」と頷きつつ。
    「おお、良い筋だ」
    「ありがとうございますー♪」
     ケチャップで見事な『武』の字を書き上げたメイドさんを褒めていた。
     傍らでは暁がメイドさんのエスプレットアートに目を細め、自分でやってみたいと言ったら細いチョコペンとココアパウダーが差し出される。
     しばし苦戦。――出来上がったのは、死神ではないかと巷で噂の流れたあの妖精。
    「すごいですー!」
    「ご主人様、初めてでいらっしゃいますか?」
    「うむ、いい腕だ」
    「おお、すごい……!」
     自然とメイドさんからも仲間達からも起きる拍手。そんな中、ちょっと得意げな暁はメイドさんの一人にそっとチョコペンとココアパウダーを手渡して。
    「君が作ってくれた奴、飲んでみたいな」
     ぱっと笑顔になるメイドさん。向けられる仲間達の白い眼。
    「あ……あの黒髪ポニテの小柄な娘。一見不愛想に見えるけど気も利くし、屋敷で働いてくれないかな?」
     いろはが店内の花々や甘味を堪能しつつ、ぼーっとメイドさんに見入る。家柄上、お嬢様扱いには慣れている。
    「プリンを2つ兼ね備えた金髪ツインテの娘の方はもがれた方が良いね」
     ……い、いろはさんまだ中一だから成長可能性あるよ!
    「普通のプリンも好きだぞ」
     椿さんそれはサイズなのか食い物なのか。
    「君かわうぃーね、俺ってイケメンだろ?」
    「はーい格好いいですー!」
    「おっと、いくら俺がイイ男だからって惚れちゃあいけねぇぜ」
     羅生丸が歯を光らせながらサムズアップ。「本当にこんなので良いんだろうか」とそっと刃兵衛が頭を抱える。
     さりげなく席を立った光明が、「他の皆には暫く内緒にしといて下さい」と会計を済ませておく。彼なりの、クリスマスプレゼント。
     こうして彼らのクリスマスは、過ぎていく。

    「色んなパーツ補充できるからいいよねー、アキバ♪ ジャンクあったらお安いし素敵っ!」
     そう言いながらあっちこっちと裏路地の電気街を巡る和佳奈に、妙なカテゴリや名前の店に思わずキョロキョロと歩く悠悟。
     もちろん荷物持ちは悠悟である。
    「……で、なんでコスプレショップ入ったの?」
    「……なんでだろうな?」
     正直悠悟にも訳が分からない。何か入ったらここだった。
    「試着して遊んでけば?」
    「まぁ、可愛い服着るのは好きだし、良いけどさー」
     ――そして。
    「ね、見て見てあにぃ、これボク似合わない?」
    「ちょっ……待っ!? お嬢それ胸元開け過ぎだっ!」
    「えー……これくらいが可愛いのに……あにぃのおこちゃまー」
     くるりと回った和佳奈の衣装は――際どい胸元にハイレグレースクイーン。
    (「コイツ中身お子様のクセに体は十分色気あるんだよな……」)
     あにぃ、お嬢と呼び合う気安い中でも、目のやり場に困る位には。
    「気に入った服がありゃ買ってやらんでもない……クリスマスプレゼントだ」
    「え、欲しいの?」
     和佳奈の言葉に慌てて首を振る悠悟。にやりと笑う和佳奈。
     結局無難な可愛い制服になって、今度着てクラブ行ってあげるねーと笑う和佳奈に、何だかんだで俺はこの妹分に甘いんだよなと一人ごちる悠悟であった。

     所変わってゲームセンターにて。
    「ゲームセンター……!こーゆーのはじめて!」
     優姫がきゃっきゃとはしゃいで今にも走りだしそう。
    「おれの知ってるとこより、うんと広い……!」
     1階から5階まで全部ゲームフロアといったびっくりな構造に、鏡は目を丸くして「えと、まずは両替機の場所チェック……」と確実に。
    「あぅ、すごい音……」
    「……音と光が凄いわ」
     人も多く広いフロアに、元気いっぱいだった羽衣がちょっと小さくなる。何と言うか少し退廃的な印象ね、と楓子は目を瞬かせながら頷く。
    「何と言うか、気を抜くとはぐれてしまいそうね。気を付けないと……」
    「てゆか、なんかゾンビがうつってるよ!?」
     はぐれる前にぴるぴる震える羽衣が、ぎゅっと楓子の手を握って離さない。
    「うん、皆と一緒だし私も音ゲーやろっと」
     太鼓を叩いてリズムを刻む簡単な音ゲーを選び、瑞樹は子ども向けアニメの主題歌を選ぶ。ノリがすごく好みなのだ。
    「むむっ! これがおとゲー!」
     優姫が初めて見る素敵な音楽を流す煌びやかな機体に、瞳を輝かせる。
     紫姫が誘われて、バチを手に取る。やがてキラキラした曲に、流れるターゲット、リズムの良い太鼓の音が響き、優姫は瞳を輝かせる。
    「リズムに合わせてっと。意外と面白いかも」
     紫姫がくすりと笑いながら、上手くリズムを刻む。瑞樹も流石の腕前だ。
    「高峰おねーちゃん、水瀬おねーちゃんじょーず~♪ わたしもやっていい?」
     紫姫がにっこり笑ってバチを渡す。「ふっ、この程度の腕でも幼子達のギャラリーが出来るんだよ」と瑞樹が明後日を見つめて笑みを浮かべる。
    「お、音ゲーなら拙者も負けんでゴザル。これでもミュージックガールデース」
     ポップでテンポ速めの曲を選び、ウルスラは自信満々でバチを取る。
    「ぇ、ぇぃっ! とぁっ!」
     一生懸命ターゲットを合わせて叩く優姫は、やがていい結果と同時に「これ、たのしーね!」と満面の笑顔。
    「わぁ、凄く上手。私なんか目じゃないくらい」
    「そ、そんなことないよー、高峰おねーちゃんのがじょーずだよー」
     互いに褒め合いながら、ふと見ればみんなはわいわいと次のゲームへ。
    「って、ゎゎ。みんないっちゃう! まってよ、おにーちゃん!」
     そう優姫が駆け出した瞬間、一気に振り向く『おにいちゃん』達。
     びっくり。
    「ゲームは少しやったことがあるけど、どれがどんなゲームなのかサッパリ分からないわね」
     きょろきょろと辺りを見渡しながら歩いていた楓子が、クレーンゲームを見つけ「あれってちゃんととれるのかしら?」と首を傾げる。
     だって。
    「んにゃぁぁぁ! 何でとれないのーっ!」
     クレーンゲームに次々コインを投入しながら、羽衣が必死にボタンを押しまくるけど、重さと角度の壁に阻まれて。
    「あの手のゲームは苦手だから手伝えないかな」
     ちょっと残念そうに、紫姫が言って応援に回る。
    「可愛いぬいぐるみとかあるんデース?」
     では羽衣の手伝いを、と挑戦したウルスラは――やがてやり切った笑顔で汗を拭った。
    「難しいでゴザルな☆」
     うん、取れなかったらしい。
    「どの子、欲しいの?」と通りかかった鏡が尋ねて挑戦。上手い場所に引っかかり、女の子達の歓声の中ゲットしたぬいぐるみを、羽衣にプレゼント。
     嬉しい悲鳴を上げて、羽衣はぎゅっとぬいぐるみを抱き締める。
    「最後に皆でシールになるお写真撮るの!」
     そしてそのまま、はしゃぎながら写真機の方に皆を引っ張っていく。
    「おお! ぜひ撮ってみたかったデース」
     皆で撮るのすごく楽しそう、とウルスラが顔を覗かせて。
    「ぁ、わたしもしゃしんとるー♪」
     優姫が広がる画面やカメラにわぁ、と輝く笑顔。
     不参加を決め込もうとした鏡と瑞樹も、もちろん羽衣に引っ張り込まれた。
    「うー……よしっ」
     瑞樹が自己暗示をかけ、カメラに向かって必死に笑顔を作る。
    「はいチーズ♪」
     満面の笑みの羽衣、自慢げなウルスラ、凛とした瑞樹、ほっこり笑顔の優姫、すまし顔な楓子、照れ笑いの鏡。
    「なんだ、私も凄い笑顔じゃない」
     ふふ、と紫姫が画面に映った写真に笑顔。
    「確か最後、撮ったのにみんなで落書きするって聞いたデース」
     そうウルスラが言った途端、ペンを奪い合うように落書きが始まる。
     そして――。
    「えへー♪ ういの宝物だー!」
     可愛らしい写真シールは、皆の宝物。

    「クリスマス? んなもん知らん。そんなの365分の1日に過ぎねーよバカ!」
     くわっ!
    「僕の魅力に取りつかれなよ! 苛立ちが収まらないからゲーセンで暴れてやるよ。これで!」
     般若面のような顔で月夜が魂のシャウト。
     ミニスカサンタで。
    「全裸じゃないだけいいけどさ、どうせならニエさんに着て欲しかったよ」
     エリアルが肩をすくめる。
     全くである。
    「さてさて今日はどう料理してやろうですかね。ニエが皆を大分やらしい感じにコーディネートです!」
     そうして仁恵に連行されるエリアルと彩華。
     ――十分後。
    「……何、やってるんだろう……私」
    「彩華さんの格好、すごく似合っているよ。でもなんでクリスマスにミニスカポリス?」
     ミニスカポリスの彩華と、トナカイ着ぐるみのエリアルが登場。
    「こう見ると月夜くんとペアルックみたいだよね……」
     可愛い女の子だったら良かったのになぁ、と、エリアルが遠い目。
     そして全員を写真シール機に押し込む仁恵。テーマは変態サンタを逮捕ー! な感じ!
    「この恰好で一生残るとか、マジ僕って勇者!」
     叫ぶ月夜を逮捕(?)しつつ、内心複雑だけど普段やらないから結構楽しいな、なんて彩華は思う。
    「でも、やっぱり……恥ずかしいから……あんまり、こっち……見ないで……欲しいな」
     こらそう言われたから凝視するんじゃない月夜さん。
    「そうそう、サンタだからプレゼント用意しないとね」
     そして取り出したのは仁恵にハンバーガー型消しゴム、エリアルには卓上わんこカレンダー、彩華には……。
    「ね、ねぇよ! お前には!」
    「え……と……」
     リボンのヘアゴムを後ろ手に隠し持ってるのが他二人にはバレバレである。
    「ふあっ!?」
     そして面白い声を上げる仁恵。
    「着せるのに必死で仁恵何も着てねーじゃねーですか!」
     その言葉にゲーセンのお兄さん達がくわっと振り向く。
     全裸じゃないよ。普段着だよ。
    「ぐぬぬ……しかたねーです。この悲しみはメイドにしか癒せねーですよ!」
    「メイド喫茶行くのかい? 元々行きたかった場所だから付き合うよ」
     この国のメイドがどんなものか見てみたいし、と仁恵にエリアルは頷いて。
     写真を大事にしまう彩華と「後でお金頂戴ね!」と叫ぶ月夜も一緒に、彼らのクリスマスは続いてく。

    「基本一人だ、悪いか!」
    「悪くないけど怖いし!」
     独りだと思ったら返事が返ってきて、丞は振り向いた。
     伊智子が手を振り、斎がぺこりと頭を下げる。
    「たまにダ……サイコロとか本とか買いに来ますけど、あまりきちんと見て回ったことはないので、ご一緒させて頂ければ、と思いまして」と斎に誘われて、一緒にTRPGショップに行くところだったとのこと。
    「と、嵯峨は初めてなのか。なら、折角だしTRPGショップを案内しよう」
    「マジでお願いシャース! で、TRPGって何?」
     ――まぁ、予想できたのでざっくりと説明する丞と斎。
    「ちょうどボードゲームプレゼントの抽選に当たってな。……まあ、折角だしその後一緒に一プレイできればとか思ったんだけど」
    「ゲームとか全っ然やったことないけどだいじょーぶ?」
    「教える教える」
     そんなわけでプレイスペースで一プレイ。
     初心者っぽくハチャメチャな手を使いまくる伊智子だが、「頭使うね賢くなった気分!」と満面の笑顔。
     その後は絶版ルールブックを探してもいいし、色々本を見てもいいし。
    「新作の発売日が少し前でしたし、他にも色々と新刊、出て居たはずなので買っておきませんと」
     斎がせっせとルールブックを買い込んだり、丞がのんびりと見て回ったり。
    「あとはダイ……じゃなくてサイコロですけど。ふつうの四角い1から6のだけじゃなくて、変わった形だったりするのもあるんですよ」
    「うおへーすごーい! え、これどこ読むの!?」
     四面ダイスを手に目を白黒させる伊智子を微笑ましく見ながら、斎は10面ダイスを数個取って試し振り。
     ――1、2、3、2、5、5。
    「……あれ?」
    「普通のサイコロと出目一緒ー!」
     や、ほら。バックトラックで出なくて良かったじゃん。
    「っと、それはそうとしてあんまり遅くならないうちに戻らないとな」
     あんまり遅いと妹が拗ねるしな、と言った丞は、手を振って去る伊智子とぺこりと頭を下げる斎に手を振りかえしてから。
    「ひとまず帰りにケーキを受け取って、後何かクリスマスっぽい食事も作らないとなぁ」
     そう、兄らしい表情を見せ、丞は秋葉原の街を後にする。
    「しかしなんで、うちの妹はメイドに興味を持ったんだろう?」
     それは本当になんでだ。

     人ごみの中、美夜と志乃はそれぞれの想いを胸に秋葉原の街を歩く。
    「光と音のファンタジーだっけ? 夜にあるらしいの、楽しみね!」
     そう笑う志乃の言葉に返事をしようとして、珍しく店に向けた目を戻そうとしたら、美夜は人の波に流されていた。
     はっとして、志乃が美夜の手を取る。「ごめんなさいね。人が多い所は苦手だったかしら?」と申し訳なさそうに言う志乃に、気を遣わせたみたいでかえって申し訳ないと美夜は首を振る。
    「確かに少し苦手ではあるけど……別に平気だよ。買うもの……あるんでしょ」
     そう。自分の買い物ついでに友人からのお使い。
     という名目。
     本当は一緒に歩ければ買い物なんてどうでもいい、なんて志乃は思う。
    (「ところで……手、繋ぎっぱなしなんだけど、いいのかな? 絶対、傍から見たら誤解されると思うんだけど……」)
     まぁ、彼女がいるとかいう話は聞いた事無いし、また人に流されそうになったら遠慮なく掴まらせてもらおうと思う美夜はまだ気づいていない。
     大事なものに触れる様に、優しく温める様に……口も利けず、デートみたいとふざけるには小さすぎるその手を、火照る顔を持て余しながら志乃はそっと繋ぐ。

    「て、由衣さん、自分もメイドになるんすか!?」
    「せっかく来たんですもの。私だけなんて、つまらないでしょう?」
    『桜埜・由衣メイド化計画』、早速発案者きらめも巻き込まれ中。
    「それに二人なら怖くないですよ?」
    「そ、そうですよね、二人一緒なら怖くない!」
     そんなわけで。
     黒のワンピースに白いエプロンの正統派メイドさんと、ピンクのワンピースに白いエプロンのプリティメイドさんが出来上がり!
    「わあっ、やっぱり由衣さんのメイド姿可愛い!」
    「ふふ、ありがとうございますね。きらめさんもとってもお似合いです」
     お互いに褒め合って、それが嬉しくて、似合うかどうか不安だった気持ちが溶けていく。
     だから、カメラに向かって満面の笑顔で。
     二人の手で作ったハートマークは、どんなハートよりも強い絆。
     メイドさんの聖地で過ごした聖夜のひととき、その証のツーショット写真は互いの宝物。

    「やー何コレ可愛い! えっと、何モンスター狩るゲームのマスコットなの? やだー可愛い連れて歩きたいー!」
     キャッチャーゲームの前で身悶える伊智子に、エスコート役たる大和はジェントルに硬貨をゲームに投入する。しばし後、そこには嬉しそうに猫クッションを抱き締める伊智子。
     ゾンビシューティングやら太鼓リズムやらを楽しみ、二人が来たのはシール写真機の前。元気いっぱいVサインの伊智子と柔らかな笑顔の大和が収まり、落書きで『友☆愛』とか書かれたシールを分け合って。
    「激ウマだよー秋葉原ってば美味しいものばっかり!」とクレープに喜ぶ伊智子と一緒に、そろそろ暗くなってきたので音と光のファンタジーへ。
    「わ、すごい音と光の出方合ってる! すごいなー技術力ロマンティックってのかな!」
     きらきら輝くクリスマスツリー。ツリーも巻かれたリボンも、一番上の星も全部電飾でできていて、音楽に合わせて流れる様に色が変わっていく。
    「楽しんでいただけましたか?」
    「うん! メチャたのしかったよ!」
     振り向いた伊智子の満面の笑顔に、大和はエスコート役の本意得たりと頷いた。

     さて、最後に。
     ――クリスマス前に、交わされた一つの約束があった。
     クリスマスに、ゲームセンターで華乃が選んだゲームでひなたと勝負する。もし華乃が勝ったらひなたが付き合いを受け入れ、ひなたが勝ったら彼女の言うことを華乃が一つ聞く。
    「さて、センパイ。約束は覚えていますか?」
     この日のためにゲームの猛練習をしてきた、と華乃は強気の笑みを浮かべる。――心の中は不安でいっぱい心臓ばっくばくだ。
     そしてひなたは、ならば全力で相手をするのが礼儀と心得る。
    『Ready――Fight!』
     ゴングと同時に華乃が一気に攻め寄せる。素早い連打はガチャプレイに見えて、その実確実にガードの隙を突いていく。
     逆にひなたは、耐えながら隙あらば確実な大技を撃ちこみ、離れて射撃を繰り返す。一進一退の熾烈な戦いを制したのは――ひなた。
     振られちゃったか、と肩を落とす華乃を真っ直ぐに見つめて、ひなたは口を開く。
    「……それじゃ、私に……恋愛、教えて……欲しい」
     目と口を思わず丸くした華乃が、幸せそうにひなたの手を取るまで――あと一瞬。

     新しい絆や新しい戦利品や新しい萌えと一緒に、聖なる夜はどこも平等に更けていく。
     秋葉原の、クリスマス。

    作者:旅望かなた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月24日
    難度:簡単
    参加:46人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 8
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ