放課後は強者の時間

    「みんな集まったみたいね」
     スピーカーから下校のメロディーが流れ、窓の向こうは暗闇に包まれつつある、いわゆる放課後の保健室で、白衣姿の女性は言う。
     女性の前には生徒と思しき10代の男女が3人。男子2人は小柄な少年と太った少年、女子は眼鏡を掛けている他は外見に特徴はない。だが、3人ともどこかおどおどとしていて、自信なさげな雰囲気を漂わせているという点で共通していた。
    「相変わらず今日もいじめられてたみたいね。でも分かってるでしょう? あなた達がいじめられるのは、あなた達が弱いから。人は自分よりも弱い者がいる事を確かめなくては安心できない生き物。だからあなた達をよってたかって蔑み、攻撃するのよ」
     女性の言葉は容赦なく少年達の心を抉り、3人とも泣きそうな表情になる。
    「だから、あなた達も自分より弱い者を蔑み、攻撃すればいい。それが、あなた達が救われる、たった一つの方法」
     女性は机の引き出しからナイフを3本取り出し、机の上に並べる。
     すると、少年達の目が一斉に輝きだす。
    「さあ、今日もこれで、弱い者を存分に蔑み、攻撃して、殺してきなさい」
     優しい口調で女性が言うと、少年達は即座にナイフを手に取る。
     その表情は、優越感と嗜虐の笑みで歪んでいた──。
    「ククク……今日もサイキックアブソーバーが、俺を呼んでいるぞ!」
     教室に集まった灼滅者達に向かって、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は呟く。
    「今回、俺の全能計算域が察知したのは、ソロモンの悪魔に関する事件だ」
     と言っても、ソロモンの悪魔本人が直接動いたわけではなく、ソロモンの悪魔に力を与えられた一般人が事件を起こしているようだ。そうやって支配した一般人に悪事を働かせる事で、自身のサイキックエナジーを増加させ、その増加したサイキックエナジーで更に一般人を強化して配下にして、勢力を拡大するのがソロモンの悪魔のやり方なのだ。
    「今回動いているのは今宮・彩美(いまみや・あやみ)、28歳。都内のある高校で養護教諭をしている。おっと、相手の保健室の先生で、お前達のツボだったとしても敵なんだからな。手加減したり変に興奮したりするんじゃねえぞ」
     ヤマトの説明に、灼滅者の1人が「するか!」と叫び、椅子を蹴って立ち上がる。
    「俺達を何だと思ってるんだ!? 殴るぞ!」
     白髪が特徴的な少年──鳴瀬・慎一郎(中学生殺人鬼・dn0061)が、鋭い目つきを一層険しくして睨み付けると、流石のヤマトも僅かに後じさる。周りの灼滅者達が微妙な表情ながら宥めると、慎一郎は割と素直に座り直し、鞄から板状のチョコレートを数枚取り出し、
    「みんなも食え」
     そう周りに勧め、自分も1枚銀紙を剥いて囓る。そうする事で気を鎮めようとしているようだった。そうして場が落ち着きを取り戻した所でヤマトは説明を再開する。
    「彩美先生は、学校でいじめを受けている生徒を見つけて、そいつに力を分け与えている。そして自分より弱い者をいじめれば惨めな思いから救われると吹き込んで、学校が終わった後に小さい子供や老人を襲い、殺させているんだ」
     やるせない表情で、ヤマトは溜め息を吐く。
    「敵は彩美先生と、彼女に力を与えられた生徒が3人。彩美先生の戦闘能力は眷属以上ダークネス以下と言った所だが、それでもお前達1人1人よりも上だから油断するなよ」
     それを聞いた灼滅者達の表情に、一様に緊張が走る。
    「彩美先生は魔法使いのサイキックを全て使いこなせるし、3人の生徒もナイフを使ってくるだけでなく、マジックミサイルも使える。ちなみに今回俺の全能計算域が導き出したお前達の生存経路は、下校時刻の保健室だ。そこに集まっている生徒3人が出て行こうとする瞬間、保健室に踏み込んで、彩美先生と生徒達を倒すんだ」
     時間的に校内を歩いている生徒や教師も少ないから、見つからずに潜入するのは簡単だ、とヤマトは付け加える。
    「それから、お前達に残念な知らせがある。彩美先生は言うまでも無く、配下の生徒3人も、もはや手遅れだ。救う手段は……ない」
     つまり、灼滅するしかないという事だ。
     例えダークネスから力を与えられたとしても、罪を重ねたとしても、元は一般人である。教室内に重い空気がのしかかるが、
    「所詮はいじめられて、相手に立ち向かおうとする勇気も無く、関係ない奴を襲って憂さ晴らししていたような奴らだろう? そんな奴、いじめていた側と同じ、いや、殺しているんだからそれ以上に重罪だろうが」
     呆れたように慎一郎が言うと、「それでいいのか」という周囲からの視線が彼に集まる。だが、慎一郎はそれらを避けようともせず全て受け止める。まるで、罪は全て自分が背負うと言うように。
    「辛い仕事になるだろうが、犠牲者の遺族のためにも、これ以上犠牲者を出さないためにも、必ず倒してきてくれ。頼むぜ」
     色々入り交じった思いを噛み締めるように、そうヤマトは言って、説明を締めた。


    参加者
    石弓・矧(狂刃・d00299)
    玖珂峰・煉夜(狂獅子・d00555)
    狗川・結理(よだかの星・d00949)
    真城・季桜(桜色コヨーテ・d01990)
    シャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984)
    流鏑馬・アオト(ロゼンジシューター・d04348)
    花厳・李(純真無垢なラプンツェル・d09976)
    レヌーツァ・ロシュルブルム(﨟たしマギステラ・d10995)

    ■リプレイ

    ●赦しなさい。聖書にはそう書いてあるけれど
    「さあ、行ってらっしゃい。あなた達が強者の世界へ──」
     白衣姿の女性の言葉に背中を押され、3人の生徒はナイフを手に保健室を出ようと踵を返す。すると、目の前の扉が勢いよく開かれる。
    「やぁ、救いの道を誤り堕ちた憐れな人達。……贖いの時間だ」
     室内に足を踏み入れ、玖珂峰・煉夜(狂獅子・d00555)はそう挑発気味の台詞を言いながら、殺界形成を展開する。人の少ない時間ではあったが、念のため周囲から一般人を遠ざけるためだ。
    「……『Gehorcht mir Maiglockchen』」
     続いて入ってきた狗川・結理(よだかの星・d00949)が、スレイヤーカードを取り出し封印解除の言葉を口にする。他の灼滅者達も同様に封印を解除しながら入室して、殲術道具で武装すると、生徒達はナイフを構え、白衣姿の女性──今宮彩美も椅子から立ち上がる。
    「僕たちは……貴方達を止めに来たんだ」
     帽子を目深に下ろし、静かな口調で結理は言う。
    「もう手遅れだそうだからな。散々他人を殺してきたんだ、自分は死にたくないなんて理屈は通らないぞ」
     冷徹な口調で言いながら、日本刀の鯉口を切る鳴瀬・慎一郎(中学生殺人鬼・dn0061)に、「おい慎一郎」と真城・季桜(桜色コヨーテ・d01990)が声を掛ける。
    「お前の主義主張にとやかくいわねーが、根詰めすぎねーようにな。じゃねーとダークネスとの戦いは続かねぇ。感情的になるなとはいわねーさ。俺もけっこう感情的になる。だが、同時にクールに頭を回転させる。どうしたら生き残れるかをな」
    「そうですよ。慎一郎さん1人で戦うわけじゃ無いんですから」
     シャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984)も続いて言う。普段の間延びした口調とは違い、しっかりした口調に覚悟の程が伺える。
    「心配されなくても、ちゃんと俺なりに考えてるよ」
     素っ気なく返す慎一郎に、(「それが心配なんだけどな……」)と季桜は不安を拭えない。
    「とにかく、これ以上の過ちを止めるために、犠牲を出さないために、あなた達の行い、私達が止めます!」
     花厳・李(純真無垢なラプンツェル・d09976)が、丁寧だが、毅然とした口調で言うと、
    「好き勝手言ってるけど、その程度の数で私達に勝てると思ってるの?」
     明らかに灼滅者達を見下した口調で彩美が言う。
    「そうだ、先生から貰ったこの力があれば……」
     生徒達の1人、小柄な少年が自分たちを鼓舞するように言い、3人の生徒達がナイフを振り下ろすと、ナイフの先端からマジックミサイルが放たれ、キャスターのポジションにいた、灼滅者達の中で一番おどおどした印象の結理に向かって飛ぶ。
    「うわっ!」
     2本は辛うじてよけた結理だが、そこへ3本目がやって来る。流石にこれは避けられない体勢だったが、ディフェンダーのレヌーツァ・ロシュルブルム(﨟たしマギステラ・d10995)が横合いから入ってくると、結理の前に立って矢を受け止める。
    「まあ、何とも雅でない戦い方をしますこと」
     いささか芝居っ気のある口調でレヌーツァは言うが、その表情からはかなり余裕が失せていた。

    ●弱肉強食
    「どうだ! 9人くらいで勝てると思ったら大間違いだ!」
     そんなレヌーツァの様子を見て、太った少年が勝ち誇るように言うと、
    「おや、9人で来たと誰が言いました?」
     いつもの柔和な笑みで石弓・矧(狂刃・d00299)が言う。それを合図のように、彼らの背後の入口や窓から更に灼滅者達が現れる。矧達のサポーターとして同行してきた者達、その数12人。
    「僕達も行くよ!」
     自分達の補強や、敵に対する援護射撃をしてくれるサポーター達に負けじと、レヌーツァに癒しの矢を放つメディックの流鏑馬・アオト(ロゼンジシューター・d04348)は言うと、彼のライドキャリバーもクラッシャーとして生徒達に向けて機銃を撃つ。小柄な少年は弾丸を避けるが、少女と太った少年は弾丸を受けて膝を崩しかける。
    「これは、報いだ。殺人という逃避しか掴めなかった、君自身のな。……許せなんて、言わないぜ?」
     飄々としていながら、悲しげにクラッシャーの煉夜は言い、更にガトリングガンでバレットストームを撃ち込んで生徒達の服を穴だらけにしていく。普通の人間ならばとっくに命がなくなっている所だが、ソロモンの悪魔の力で強化された少年達はまだ憎々しげに灼滅者達を睨み付ける。
    「私が先生を牽制しますから、その間に皆さんは生徒達をお願いします」
     そう矧が言うと、ジャマーの役割を果たすべく契約の指輪からペトロカースを放つ。石化の呪いは彩美の左手に命中して石像のようになるが、「片手を封じたくらいで私の力は落ちないわよ!」とせせら笑うように彩美は言う。
    「お前の力じゃ無くて、ソロモンの悪魔から貰った力だろう?」
     挑発するように同じジャマーの慎一郎は言うと、太った少年に向かって斬り込み、アオトのライドキャリバーによる弾痕が痛々しい足に、更に黒死斬で切り傷を加える。
    「俺もやるぞ、慎一郎!」
     ライドキャリバーのヨザコの上で季桜は叫ぶと、ヨザコの機銃掃射に紛れて彩美にバスターライフルの狙いを付け、バスタービームを発射。スナイパーのポジションである事もあってビームは彩美の左肩口に命中する。
    「戦いの時は、最低でも半分以上の体力をいつも残しておくようにしとけよ」
     命中を確認した後、灼滅者としての戦いは初めての慎一郎にアドバイスする季桜。
    「ごめんなさい……でも、こうするしか!」
     一方、季桜と同じタイミングで飛び出したシャルリーナも、ディフェンダーとして慎一郎を隠すように太った少年の前に出ると、悲痛な表情で詫びながら抗雷撃を叩き込む。
    「あぐっ!」
     殴り飛ばされた少年は、頭から床に落ちてバウンドすると、倒れたまま動かなくなる。
    「あぁっ!」
     消滅していく仲間の体を目にして、少女が叫ぶ。その隙にレヌーツァは少女との間合いを詰めると抗雷拳を叩き込み、間髪を入れず結理が放ったマジックミサイルが飛んできて、少女を射貫く。
    「虐げられる辛さは君達が一番良く知ってる筈だろ!」
     泣きそうな顔で結理は叫ぶ。それは生徒達に対する言葉か、それとも自分自身に対するものか? それは結理本人にも分からないのかも知れない。
    「体の傷は時間が経てば治っても、心の傷は治らない。癒してくれる人がいないなら、他人を傷つけるしか自力で治す方法はないのよ! あなただって私達の同類なら分かるでしょう!」
     少女から返ってくる叫びに、結理は苦しげに歯を軋ませる。
    (「ああ、彼らは僕なんだ。運命の歯車がほんの少し違っていたら、なっていたかも知れない僕の姿なんだ──」)
     だが結理は目を逸らさず、戦いからも逃げない。それが結理が選んだ灼滅者という道なのだから。
     そんな結理の目の前で、スナイパーの李が放つ制約の弾丸と、彼女のビハインドであるレムの霊撃を受けて、少女は倒れる。
    「助けられなくて……ごめん」
     消えていく少女に結理は一言謝ると、すぐにまだ立っている敵へ視線を戻すのだった。
    「嫌だ! 死にたくない! 先生言ったじゃないか、自分に従えば傷つける側になれるって!」
     仲間2人を灼滅され、本来のいじめられっ子の精神状態に戻って泣き叫ぶ小柄な少年を、彩美は冷たい視線で一瞥すると、たちまち少年は沈黙して、床に尻餅をつく。それから彩美は灼滅者達を見回すが、その瞳は妖しい光を放っている。
    「弱者を虐げる事でしか自分を見出せない人種は、確かにいる……が、それが全てじゃないと世の中を信じられなかった、だから君は道を誤ったんだ」
     諭すように、煉夜は少年に言う。だが、それが活かされる事は永久に無いであろう事は、煉夜自身が良く分かっていた。
    「うるさい!」
     立ち上がりもせず、少年はマジックミサイルで煉夜を撃つ。だがその傷もサポートとアオトによってほとんど癒され、煉夜の反撃のギルティクロスと、アオトのライドキャリバーの突撃で跳ね飛ばされ、少年は壁にもたれるように力尽きた。

    ●罪には罪を
    「よくもやってくれたわね。ここまでこぎ着けるのに、どれだけ手間と時間が掛かったと思ってるの?」
     生徒達を全て倒され、憎々しげに灼滅者達を見ながら彩美は言う。そこに悲しみの色は無く、道具を奪われた苛立ちがありありと見て取れた。
    「貴女の罪に、俺は今更言及なんてしない。……お互い、ダークネスに踊らされる憐れなマリオネットなんだからな。……その糸、俺が断ち切ってやる!」
     怒りをにじませた口調で言う煉夜だが、「私1人だけになったからって、勝てると思ってるの?」と彩美はまだ余裕の態度を取る。
    「もちろんでしてよ。ごめん遊ばせ、AhahhHa」
     対してレヌーツァも余裕綽々とばかりに笑いながら、クラッシャーに位置取りを変える。
     その挑発的な言動に、彩美がこめかみをひくつかせている隙に、慎一郎が横合いから接近し、黒死斬で彩美の右足の腱を切る。
    「お前の罪も、今日で終わりだ」
     死刑を宣告するように慎一郎が言うと、季桜がヨザコに乗って突っ込んできて、衝突と同時に彩美をトラウナックルで殴る。吹き飛ばされた所へ待ち構えていたシャルリーナが、更に抗雷撃を叩き込む。
    「俺は慎一郎みてーに罪とか罰とか、あんま重苦しく考えねー性質でね。けど、お前らやったことって……虫唾が走るぜ! おめーらはもう救えねぇ」
     そう季桜は言って、バスターライフルを構え直す。
    「弱者を虐げれば自分は強者……か。その思考が既に弱者である事に気づかないんですかね? まぁ、元凶はそれを促した人にあるんですがね」
     呆れたように矧が言うと、
    「精神的に追い詰められた子達は、自分に都合が良い理屈を優しく言ってあげれば簡単にすがってくるものよ。深く考えもしないでね」
     返す彩美の言葉には、生徒達に対する明らかな侮蔑が含まれていたが、矧はそれ以上何も言わず、斬影刃で彩美の白衣を切り裂く。命中率を高めるため予言者の瞳を発動させた目でそれを見ていた結理だが、
    (「もういい、あんな人の言葉なんて、これ以上聞きたくない!」)
     同じ部屋の空気を吸うのも苦痛そうに顔を歪める。
    「レム、早々に哀しみを終わりにしますよ」
     李の言葉に答えるように、レムが彼女のオーラキャノンと同時に霊障波を彩美に放つ。
    「生意気な子達ね。あなた達も所詮は弱者だって教えてあげるわ」
     彩美は白衣はあちこち切り裂かれ、体力的にはもちろん、精神的にも消耗しているのが見て取れたが、ニヤリと笑って灼滅者達に向かって右手をバッと広げる。次の瞬間、中衛の灼滅者達の顔から急激に血色が失せ、矧の首筋に氷が貼り付く。だが、サポートからのサイキックで矧の首筋の氷がみるみる溶けていくのを見て、流石の彩美も表情から余裕が消え、そこへ癒しの矢で矧を治療するアオトの指示を受けたライドキャリバーが突っ込んできて、とっさに身を捻ってかすった程度に留めるが、そこへ煉夜が大上段から龍骨斬りを見舞う。
     白衣を両断され、肩口から派手に出血する彩美に、体ごと両断できなかったからか煉夜は舌打ちする。
     そこへレヌーツァが閃光百裂拳を叩き込み、軽く喀血した所へ慎一郎が続いて接近する。刀を鞘に収め、居合斬りの体勢でやって来る慎一郎に、彩美は避けようと後退するが、予想していたタイミングで抜かず、一拍遅れて慎一郎は刀を抜くと、刀の柄で彩美の顎を打つ。
    「ひっ──あぁぁぁッ!!」
     左右に何か恐ろしいものでもいるかのように、灼滅者達がいない方向を見回して叫ぶ彩美に、
    「死ぬ前に、目一杯苦しめ」
     ぼそりと慎一郎は呟くが、
    「悪いな、とどめは俺が刺す」
     そう季桜は言って、キャリバー突撃とトラウナックルの同時攻撃を加え、彩美はますますヒステリックに叫ぶ。
    「私がやりますよ」
     シャルリーナが静かに言って、黒死斬で左足の腱を切ると、彩美は糸の切れた人形のように床に崩れ落ちる。既に床には大量の血溜まりができていて、もはや彼女の命が尽きるのが時間の問題である事は容易に分かった。
    「先生。敗因を教えてやろうか? あんたは弱者を舐め過ぎた。そして……泣かせたからだ!」
     最後に因果を含めるように、季桜は言う。
    「そんなに大勢でよってたかって、よく言えたわね──!」
     最後に絞り出すように叫ぶと、彩美は力尽きて倒れ伏した。
    「「そんな事、分かってるから」」
     灼滅者達の数人が、そう声を揃えて答えた。

    ●剣を取る者は皆剣で滅びる
    「これで彼らの凶行を阻止できましたが……彼らを救えなかったのは残念です」
     李が鎮魂の歌を捧げる中、彩美と生徒達の死体が完全に消滅したのを確認して、やるせない表情で矧が言う。
    「少しでも、苦しませずに済んだかな?」
     せめてもの慰めを求めるように言うアオトだが、
    「そんな自分への言い訳が無ければ出来ないなら、罪を背負うなんてするな」
     慎一郎は冷徹に両断する。
    「どんなに綺麗事を言ったって、所詮は人殺しなんだからな」
     そう続けて言う慎一郎に、
    「けど、あんま背負いすぎると、身動きとれなくなるぜ?」
     軽い口調で言いながら、季桜が慎一郎の肩を叩いてくる。
    「そうですよ。救えなくとも貴方が全てを背負い込む事は無いのですから」
     シャルリーナもそう慎一郎を気遣う。
    「ちゃんと背負うさ、どうあっても、命を奪ったことに変わりはないのだから」
     じゃあなと煉夜は言って、保健室を出て行く。
    「僕には救ってくれる視線と声がある。だから、殺して、背負える」
     弱々しいながらも、確固とした口調で結理が言うと、サポートで参加していた万事・錠(残響ビートボックス・d01615)が近づいてきて、結理をねぎらうように肩に手を置く。
    「お前にも、きっとあるさ。救ってくれるのが」
     そう季桜は言うが、
    「分からないよ、そんなもの──」
     苛立ちか悲しみかそれ以外か、感情を特定しづらい声で、慎一郎は答えるのだった──。

    作者:たかいわ勇樹 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ