クリスマス~輝ける祈りの夜

    作者:篁みゆ

    ●クリスマスの夜空に
     12月に入るとすっかり街中はクリスマス一色に染まる。
     ショーウィンドウの中身や街路樹、場所によっては一般家庭までイルミネーションに凝りだすものだから、見ているだけでも楽しいというもの。
     けれどもやはりクリスマスには特別な場所で特別な時間を過ごしたいと思う。
     向坂・ユリア(中学生サウンドソルジャー・dn0041)も当日の下調べなのか、タブレット端末とにらめっこしていた。
    「迷いますね……でもここはやはり、長い歴史を持つ東京タワーでしょうか?」
     色々迷った挙句、東京タワーに決めたらしい。嬉々としてページを読み込む姿が見えた。

    ●イルミネーションと夜景の夜
    「あのですね、東京タワーってすごいらしいんです」
     ユリアが嬉々として話している。すごいってなんだろう?
    「東京タワーからの夜景も素敵なんですけど、東京タワー自体も素敵なイルミネーションに彩られるそうなんです」
     よく話を聞いてみればこういうこと。
     東京タワーの展望台、大展望台1階、2階はもとより特別展望台からの夜景は、息を呑むほど素晴らしい。噂くらいは聞いたことがあるだろう。高さではスカイツリーに勝てないが、綺麗な夜景は健在だ。
     大展望台1階では、カフェでお茶や軽食を楽しみながら夜景が楽しめる。
     大展望台2階では、夜景が楽しめるだけでなくグッズショップや、恋愛成就・合格祈願にご利益がある神社がある。
     特別展望台では、未来・宇宙をイメージさせるSFっぽい空間演出の中、夜景が楽しめる。
     それだけではない。『東京タワーから夜景を見る』のではなく、『東京タワーを含めた夜景を見る』のも楽しみの一つ。
     ランドマークライトという、180個のライトがタワーを浮かび上がらせる通常のライトアップだけでなく、クリスマスにはダイアモンドヴェールという、東京タワーから外に向かって七色に輝くライトアップが見られる。
     白はホワイト・ダイヤモンド。光り輝く高貴な白は『永遠』と『継承』のメッセージ。
     黄色はリボン・ゴールド。新しく誕生した金は『希望』と『祝祭』のメッセージ。
     青緑はプラネット・グリーン。地球の大地の緑は『地球』と『平和』のメッセージ。
     赤紫はドリーム・ピンク。夢のような穏やかなピンクは『夢』と『幸福』のメッセージ。
     青はアクア・ブルー。水のような澄んだ青は『水』と『命』のメッセージ。
     緑はピュア・グリーン。宝石のように煌めく緑は『自然』と『環境』のメッセージ。
     赤はエンジェル・レッド。コーラルのような優しい赤は『愛』と『感謝』のメッセージ。
     それぞれメッセージ性を持つ七彩の光色が流れる姿は、想像するだけでうっとり出来る。
     また、東京タワーにはライトダウンの伝説がある。
    『東京タワーのライトアップが消える瞬間を、一緒に見つめたカップルは永遠の幸せを手に入れる……』
     その伝説に触れようと、カップルたちが集まるのである。
     通常午前0時(現在は工事の都合で22時であるが)に消えるライトアップが、クリスマス期間中は19時半に一度消灯する。その後再点灯するまでの30分間は、第展望台のハート型のライトアップや地上へと繋がるフラッシュライトがクリスマスソングに合わせて光のショーを展開するという。
     東京タワーの足元、地上にもたくさんのイルミネーションが存在するので、そうしたものでも十分楽しめるだろう。
    「クリスマスの夜の予定はお決まりですか? もしまだお決まりでないのなら、東京タワーはいかがですか?」
     素敵なイルミネーションと夜景が見られます、ユリアはタブレットを片手に微笑んだ。


    ■リプレイ

    ●ひっくり返した宝石箱
     東京タワーから見える夜景は、黒い天鵞絨(ビロード)の上にビーズを散りばめたような、真珠を零したような、幻想的で素敵な光景。
     ありきたりな言葉で飾るのが憚られるような、息を呑むような夜景であった。
     その夜景をひと目見ようと、大勢の人が3つの展望台へと上っていく。

    「なんつーか、ひよりん今日は一段と可愛いなっ!」
     変じゃないかなって何度も確認したおめかし姿。悠のストレートな褒め言葉に、ひよりも素直に嬉しくなる。
    「すごーい! たかーい! きらきら!」
    「うわー! すっげー!」
     カフェの席に通された二人は、夜景を目にするなりテンションが上がる。
    「車道の光が、天の川みてーになってる!」
    「学園とか、ここから見えるかな?」
     目を輝かせながら大はしゃぎする悠をチラッと見つつ、ふとひよりは思う。クラブの皆で遊ぶことはあっても悠と二人だけというのは初めて。意識してしまうと少し緊張する。
     運ばれてきたケーキを一口差し出されて、その仕草にも少し赤くなってぱくり。ひよりも一口分のケーキを差し出して。
    「お、ありがとなー!へへ、なんか照れちゃうぜっ!」
     悠が照れて笑えば、おんなじなんだとわかって。ふわふわ嬉しい気分だ。
     今日は世間一般で言う恋人の日だが、だからといって友情を深めてはいけないという道理はない。
     窓から眺めるのはクリスマス一色となったきらびやかな景色。律嘩の目の前には紅茶と甘いケーキ、そして隣に年下の友人。ふと目が合えば軽く笑いかけて。
    「今日は付き合ってくれて有り難うな、乙葉」
    「私の方こそ誘ってもらえて嬉しかったです。ありがとうございます、律嘩先輩」
     断られるかと思ってたから嬉しい誤算だったと笑う律嘩に、乙葉は笑んで。他の人を誘うとばかり思っていたから、自分が誘われた時は驚きと嬉しさでいっぱいだった。今日の相手が本当に自分でよかったのかという不安と、一緒に過ごせる嬉しさが入り混じる。
    「――特別展望台から見てみたかったか?」
     笑って問いかける律嘩に、乙葉は小さく首を傾げて。見てみたいかと言われれば見てみたい。
    「律嘩先輩と一緒ですからこのままでも満足です」
     微笑んで。
    「とても綺麗……一緒に見れて、よかった」
    「たまには夜にこうして過ごすのも楽しいですね」
     シャーロットはコーヒー、レンブラントはホットミルクを飲みながら、ゆっくりと夜景を眺める。
     コーヒーなんて大人ですねと感心しているうちに、温まった身体が眠気を訴えて、うとうとしだすレンブラント。
    「レン? ……レン、大丈夫?」
    「景色を存分に眺めるまでは、寝ない、寝ないんです……」
     寝ぼけ眼で告げるレンブラントを見て、シャーロットはそうだと思い立って。
    「寝ないように、もう少しお話しましょうか」
    「はい、お話しましょう!」
     話すのはクラスでのこと。いつもは友達とどんな話をしているのか、クラスが違えばやっぱり気になる。お互いに自分のクラスのことを話して。
    「皆楽しいことが好きだから、もしかしたらここにもいるかも、ね」
     シャーロットが冗談めかして微笑んだ。
     カフェで寛ぎながら見る夜景は圧巻だ。
    (「街のイルミネーションと相俟って、夜のトーキョーはまるで光の海みたいだ」)
    「うわー、高い! 綺麗ー!」
     じっと眼下を眺めるリュシアンに、目をきらきら輝かせている茜歌。ふと誘い主たる桐人を見ると、いつもより表情が緩んでいる気がする。
    「何、にやにやしてるのさ。変なヤツ」
    「なんか、さっきから桐人さん、表情がいつもよりゆるゆるで、変?」
    「何でも無い」
     ロマンチックだと思う、だが柄じゃないからその思いは口にせずにカッコつける桐人。茜歌がブリオッシュを食べたいと言ったのを聞き留めて、来てもらった礼に奢ろうと言ってみたのだが。
    「ありがとう! じゃあね、三種類全部ください! あ、あとこのあまおうサンデーも!」
    「その理屈なら、僕も奢って貰わなきゃね」
    (「え、全部……だって……? あまおうサンデーも追加……? 更にリュシアンまで?」)
     桐人の顔が蒼白になっていく。
    「……あれっ、今度は桐人さんの顔が白くなっちゃったよ?」
    「……何、白くなってるのさ。冗談だよ、冗談」
     ほっとした様子の桐人を眺めながらリュシアンは思う。こういう過ごし方も、偶には悪くないかな、と。
     普段より一層可愛いクノンの髪を撫で、凭れてくる彼女を受け止めて手を握る陽丞。
    「見慣れていたつもりだったけど、夜ってこんなに綺麗だったんだ……」
     感動するクノンを見て思う。出逢った頃と違って彼女が笑顔を見せてくれることが増えて嬉しい、と。素直に告げれば、瞳を捉えられて。
    「先輩が、笑顔を守ってくれているから、こんなに幸せ。ありがとなの。大好き、よ」
     これからも、沢山一緒に笑い合おう。悩んだ時は手を繋いで歩こう。ゆっくり、一緒に。
    「何があっても、俺は君を守るから、傍にいてくれないかな」
     手渡した贈り物。開けてもいい? の問いに頷いて。彼女が嬉しさで滲ませた涙を愛おしく見つめる。
    「うん、ずっと一緒っ。私も、先輩を傍で支えていくの」
     光の絨毯の上で、交わす誓い。
     幸せそうな雰囲気をおすそわけしてもらおう、流希は隅の方の席で行き交う人々や愉しそうな人々を見ていた。
    「自分には似合いませんが、このような雰囲気はよいですねぇ」
     呟いて人間観察をしていたその時、目に入ったのはひとりでぽつんといる蒼空瑛。
    「ここに座って、一緒に飲みませんか?」
    「……ああ」
     男二人だが、その方が他愛のない話にも花が咲くもの。お互い少しずつ、会話を進めて。
    「自分には縁遠い世界ですが、今日くらいはいいでしょうねぇ……」
     ちらりと別方向に視線を向ければ、寒さ対策バッチリの蝸牛が、お店の人の許可を得て美味しそうなスイーツと軽食を写真に撮っていた。
     初東京タワーにワクワクしているものの、千季はそれを顔には出さない。どうだと蓮に問われても、夢中になって夜景を眺めている姿で言葉にせずとも気持ちは明らかなのだが気がついていないようだ。
    「おおー、やっぱ……景色がいいなぁー!」
    「蓮、学校とか見えるんだろうか」
     二人で夢中になって学校を探してみたりして。タルトと紅茶が運ばれてきて漸くカフェに来たのだと思い出す。
    「蓮、食べさせてあげるよ。ほら、あーんって」
    「ん? 食わせてくれんの? サーンキュッ♪」
     あーんされる蓮も楽しそうだ。
    「これで雪が降ってきたら本当に綺麗なんだろうな」
     二人で空を見上げたその時、チラチラと視界に白いものが入ってきた。
    「……お、雪だ! ……願ったのが届いた……とかー?」
     蓮が笑みを浮かべれば、暫く光景に見とれていた千季が蓮に振り向いて。
    「たまには、こうして静かに過ごすのもいいな」
     幸せそうに笑いかけた。
    「百合は声かけありがとうね。今日すごく楽しみにしてたのよ!」
     【中学2年F組・クラスマス】の三人はそれぞれスイーツと飲み物をオーダーしてクラス会兼クリスマス会だ。
    「それじゃ、クラスマス会はじめましょうか……『メリークラスマス』!」
     杏の掛け声に合わせ乾杯……だけど照れも入ってしまい、顔を見合わせて笑い合う。
     夜景を楽しみながらも女の子が集まればスイーツに目が行くのは当然で。
    「あ、百合もベルのも美味しそうねー! 私のもあげるから二人のもちょーだい♪」
     百合とアルベルティーヌも杏に倣って少しずつスイーツを頂いて。三種類のスイーツが楽しめるなんて、とても素敵。
     何を話そうかと考えずとも話題が出てくるのが女子の集まり。やはり一番に出てくるのが、好みの男子についてや気になる仕草。恋バナ系。のんびりと時間を共有しながら話に花が咲く。
    「あ、二人に素敵な人ができたらちゃんと私に報告するのよ?」
     杏の言葉に思わず笑って、二人共頷いた。

     大展望台二階は、より窓際に寄って夜景が見れる空間だ。
    「いい眺めだな……夜景を見る機会なんてあまりないし、たまにはこういうのも……」
     振り向いた吉篠の視界には、後ろの方で怯えるようにしている灯倭の姿が。思わず笑いを堪えて手招きをして手を引いて。見たいけど怖いと葛藤している彼女を窓際に連れ出せば。
    「わ……綺麗! 凄いね、来てよかったね」
     怖いのも忘れてはしゃぐ姿に思わず笑みが浮かぶ。
     夜景に満足したところで神社に向かって二人でお参り。
    (「ん、と……いつも私や周りを一番に優先してくれる、優しいしのちゃん。吉篠にいつか、大切な人が出来て、彼を一番大切にしてくれる人と、幸せになれますように」)
    (「灯倭が、何時かちゃんと好きな奴と幸せになって、大切にされるように。ついでに俺も、何か良いことありますように」)
     願う、互いの幸せ。

     特別展望台から見える夜景は、やはり他とは違っていて。並み居るビルも、殆どが俯瞰で見ることができるから不思議な感じだ。
     綺麗な景色にただただ感動を覚える陽向の横で、とても嬉しそうにしているのは白兎。
    「わー、やっぱり写真で見るのより何倍も綺麗ですね!」
     興奮で声を上げて、夜景に見入ってしまっていてから気がつく。自分ばかりが楽しんではいないかと。そんなことない、返ってきた声を追って紡がれる言葉。
    「うさぎさんが楽しそうなのを見るとやっぱり嬉しいな」
     少し照れてしまって、話題を移す白兎。ちょっと高すぎかもしれないといえば、落ちたら大変だなんて言われて。怖いかと聞かれれば、そんな事ないと口をついて出る。
     今の状態なら、何をされてもドキドキしてしまう、絶対。
    「メリークリスマス、楽しい時間をありがとう、です」
    「メリークリスマス、僕の方こそ、楽しい時間をありがとう」
     一歩引いて眺める遠くの街の明かりも、綺麗だ。
     東京各所を回って最後に東京タワーの特別展望台を訪れた亮と茉莉夜。二人を迎えたのは、絶景。
    「あの灯り、ひとつひとつに、沢山の人の想いが込められている、その想いが集まって、こんな綺麗な光景を見せてくれるんだろうな。そしてその灯りを大切に灼滅者として護っていけたら、そう思うんだ」
     思わず紡がれた亮の言葉。茉莉夜は静かに受け止めて。
    「亮の思い、それがわたくしには一番の絶景に思えます。貴方のそんな光が、小さな部屋しか世界を知らなかったわたくしをずっと照らしてくれた。病弱で、ベッドから離れられなかったわたくしに、広い世界を教えてくれたのは亮だったから」
    「そんなの……メリークリスマス、マリア。今日は俺も楽しかったよ」
    「メリークリスマス。亮、貴方に、主の限りない祝福がありますように。ありがとう、今日は忘れられない一日となりました」
     月と星が好きで、宇宙って聞いたら気になる、と特別展望台へ上がった菜月は、宇宙をイメージしたという足元の、色の変わるライトに感動しつつ窓辺へと近づく。近くで蝸牛が足元のライトの美しい移り変わりを写真に収めている。
    「わぁ……すごくきれい……!」
     時間が経つのも忘れそうな光景は、物思いを招く。学園に来なければ見られなかった光景。景色の中にいっぱいいる人を、自分達なら助けてあげられるという事実。
    (「前はこの力はあんまり好きじゃなかったけど、今はあってよかったって思うの♪」)
     今は、これからは、新しい気持ちで前にすすめるだろうか。

    ●ライトダウンに想い乗せて
     東京タワーの下には沢山のカップルが集まっていた。ダイヤモンドヴェールと名付けられた七色の虹彩を楽しみながら、今か今かとライトダウンを待つ。
     そのダイヤモンドヴェールを楽しみに来た民子は、スケッチブックに湧き上がったイメージを書き留めている。のちに自分の創作のアイデアにするのだ。
     気に入ったのは黄色。人工のものは人工の物の美しさがあるんだなって改めて感じる。そして横を見れば、それを見る人達の感動した横顔が。こうした心躍る気持ちがやはり大事だと、忘れないようにメモをして。寒いけどもう一回りしていくことを決める。
     明日から、また良い物が作れそうだ。
     スカートにブーツ、厚手のコートを着込んだ律花を見て、春翔は親友とはいえ女性なのだから、屋内に誘ったほうが良かったかと少し後悔した。だが初めて見る東京タワーを楽しそうに見ている彼女の柔らかい表情を見ると、後悔も杞憂であったとほっとして。
    「タワーそのものもだけど、周囲のイルミネーションもあって凄く綺麗。写真に納めたいかもだけど……写真とか形に残しちゃうのはちょっと違うのよね」
    「ああ、そうか。直に見る感動までは写真に出来ないからか。君の発想には驚かされる」
     素直に驚きを認めた春翔を振り向いて、律花は問う。
    「機会があればまた来れるし、その時はまた一緒してくれる?」
    「誘いを断る理由が無ければ何時でも」
     とりあえず身体を温めよう、二人は連れ立って行く。
    「まこちゃん、ツリーの前で記念撮影しましょ。もっとくっつかないと入らないっすよ!」
    「……これでも十分近……いっ!?」
     照れてる顔でパシャリと撮られて誠も携帯のカメラてパシャリ。負けじと携帯を取り出した宙に苦笑しつつも、しっかりピースサインをする誠。
    「まこちゃん、あれいっしょに座りましょ!」
    「……今、なんていった?」
     宙が指した方向には、恋人達に人気の光のベンチが。
    「無理」
     恥ずかしさを思うと即答。しかし宙は思ったよりもしょんぼりしている。
    「……ライトダウンの伝説なら一緒に見てやってもいいけど?」
    「ほんとっすか? えへへ、やっぱりまこちゃんはやさしいっす」
     すぐに立ち直った宙を見て現金な奴と思う誠であった。
    「……あ、ダイヤモンドヴェールってあれかな。メッセージ性とかもあるのよね……海保君は何色が……」
    「おれが緋織に見せてェのはコーラルレッド、かな」
     それぞれクリーム色と黒のコートに身を包んだ緋織と眞白はタワーを見上げて。伝えたいのはいつもの感謝と。あえて口には出さない。彼女のその姿を見ているだけで幸せだから。
    「緋織はどんなライトアップが好きなんだ?」
    「うーん、私は青緑か黄色が好きかなあ。あと、白は『永遠』と『継承』だっけ……」
     ライトアップについて話しながらふと思い出した眞白はそっとリボンのかかった小さな箱を取り出して。
    「気に入って貰えるかはわからねェが……良かったら、受け取って貰えねぇかな?」
    「……貰っちゃっていいの? ……ありがとう」
     お返しにと用意したものはマフラー。すでに身に着けている眞白の首元に、そっともう一つマフラーを巻く緋織。
    「……連れてきてくれて、ありがとう。いつも、傍に居てくれてありがとう」
     クラスではまあ仲のいい感じだけど、校外では余計に緊張してしまう。はしゃいでわくわくしているリリウムを見て、魅鳥は少し赤くなる。
    (「べ、別にそういう感情はないけどねっ」)
     リリウムは教室でちょっとだけ勇気を出して誘った後に知ったと付け加えて。
    「暗くなると伝説になるのですね」
     と、自分がつけてきた長めのマフラーを魅鳥の首にも巻きつけて告げる。続けて呟いた言葉は、彼に聞こえるだろうか。
    「私も、あやかりたい……かも、です」
     温かい飲み物を買ってきてくれた魅鳥。嬉しさと共に気持ちが湧き上がるリリウム。
    「なんかこれって……」
    「赤憑さん」
     ブツブツ言ってる魅鳥の言葉にかぶせるようにして礼を述べたリリウムは、にっこりと笑って彼を見つめる。
    「会ってから間もないですが……好き、になりました」
     はぐれないようしっかり手を繋いだ遥翔と李。
    「すごく綺麗ですよ、遥翔君! 予想以上ですっ」
     感動している彼女を横目に光の三原色のこととか考えてしまった遥翔はそろそろ自重しようと考える。
    「七色のライトアップ、白も赤もありますね……私が好きなのは白ですからメッセージは『永遠』と『継承』ですね」
    「え? なに? 光のメッセージ? 俺カラーの赤は『愛』と『感謝』か。すごいね赤と白、二人合わせて『永遠の愛』だって」
    「『永遠』ということで、ちゃんとライトダウンは一緒に見てずっと一緒にいてくださいね? 約束ですよ?」
     李の言葉を受けて、返事の代わりにぎゅっと彼女を抱きしめる。
     お揃いの指輪はまだぎこちないけど、これから二人で慣れていこう。

     間もなくライトダウンの時間だ。今まで何処にいたのか、タワーの足元はカップルで溢れだす。ダイヤモンドヴェールを撮影していた蝸牛は、ライトダウンまでのカウントダウンのツイートをして。
     ライトダウンを見ようと訪れた者達は、それぞれのライトダウンを迎えた。
    「シェリーはドノ色が好きなンだ?」
    「この七色の中だと赤が好き。優しい色で落ち着いて」
    「アノ赤は確かソウナ、色をシテイルな」
     七琅とシェリーは七色の彩を眺めてそんな会話を交わしていた。
    「七琅はどの色が好き?」
    「俺? ……俺、は白カナ」
    「あ、白も綺麗だよね。染まらない高貴な色」
     横目で彼女を眺めた七琅は、白い首元に目を留めて。そっと彼女にマフラーを差し出す。あたふたとしながら彼女が寒くないかと問うのを見て、突然の行動を謝る七琅。
    「ただ……君が寒くナケレバ好いト思った。俺は平気ダから、つけてイテ」
     その気遣いと優しさが本当に嬉しくて、有難うと笑ってマフラーを巻くシェリー。
    「青、も。好いカナ。宝石の様な、澄んだ青ガ」
    「あっ……」
     照明が消えた。そこで初めてライトダウンの伝説を思い出したシェリー。停電かと心配する彼に一歩だけ、近づいて。
     両親が亡くなってから初めてのクリスマス。蒼刃と薙乃は寂しさを紛らわせるように東京タワーを訪れて。タワーの灯りを心から綺麗だと感じる。不意に、その灯りが消えた。近くのカップルが伝説について話している……そこで初めて伝説を知った二人は、妙にぎこちなくなって。
    「……そんな伝説があったのか。えっと、その。兄妹だからノーカウントだとは思うけど……すまないな。一緒に見たのが俺で」
    「全く! 兄さんと見たって仕方ないわよねっ。兄さんも来年は彼女を連れてくる甲斐性ぐらいないと!」
     伝説を嬉しく感じる心を抑えた蒼刃の言葉に、薙乃はつい余計な事を口走ってしまって。
    「やれやれ、薙には敵わないな」
     たった一人の家族として良い兄でいなければならない、そう自分に言い聞かせて苦笑を浮かべる兄を見て、薙乃は思う。本当は来年も一緒に過ごしたい。
    (「……彼女とかできちゃったら、無理かな……」)
     利亜の手を握り、大きな声でカウントダウンする転寝。その横顔を見ていてつい瞬間を見逃しそうになった利亜。けれどもしっかりと二人でライトダウンを見ることができて。そのまま続く光のショーは星のよう。
     彼の指に指を絡めて、繋がれた手を頬にすり寄せる利亜。温もりと自分の幸せを伝えたいから。隠そうとしても心が隠せなくて、そのままの表情で彼を見つめる。転寝の鼓動は利亜の手と頬の温もりに高まりっぱなしで。
    「好き、です。転寝さんの事が好きです。今日は一緒に過す事が出来てよかった。ありがとうございますっ」
    「お礼を言うのはこっちの方だよ。最高のクリスマスプレゼントをありがとう。これからもよろしくね!」
     転寝の笑顔は、利亜の喜びの時を紡ぐ。
    「一緒に買ったマフラー、可愛いじゃん」
     鵺白の手を優しく握り返し、温めるように上着のポケットに入れる蓮二。
    「ライト一つ一つに意味があるなんて素敵」
     ライトダウンが待ちきれなくて落ち着きなくタワーを見つめる鵺白につられ、蓮二もそわそわと時計を気にしている。
     ふと灯りが消えた瞬間、蓮二の腕を襲うのは暖かな温もり。
    「こっち見ないでね、カップルじゃないけど伝説の効果ってあるのかしら?」
     腕にしがみつく彼女。俯く彼女の言葉に鼓動が早くなる。
    「伝説の効果、あるんじゃない? ……俺達にも」
     見上げてくる彼女の表情が蓮二の背中を押す。
    「今はまだだけど、いつか俺が現実にしてもいい?」
    「ズルいや、今日の君はカッコいいね」
     鵺白は驚いて満面の笑みを浮かべた。
     クリスマスを祝ったことのない千佳にとって、光流ははじめてのサンタさん。一緒にいるのは凄く嬉しい。でも、二人でいるとたまにちくちくと痛む。この正体が何なのか、未だわからない。
     ライトが消えた。一瞬、星しか見えなくなって。なんだか急に怖くなった。
    「家族の代わりにはなれないけど、楽しんでもらえた?」
     光流が顔を覗きこむと、千佳の表情は優れなくて。光流といると嬉しいといってくれたけれど。
    「サンタさんが明日になったら雪国にかえってしまうように。みつるさんも雲のように、きえてしまうような気がして」
    「大丈夫、サンタは今日限りだけど、俺はずっと花澤さんと一緒にいるから」
     全然高価じゃないけど、差し出した光流のプレゼントは指輪。
    「みつるさん、みつるさん。このぷれぜんと、みつるさんにつけてほしいです。ずっといっしょに、いてくれますか?」
     光流はそっと、千佳の指に指輪を通した。
    「折角の聖夜に何が悲しくて三人なんだ」
     少しは気を利かせろと一佳に告げつつも、こんな賑やかなひとときが嫌いなわけではない一詩。
    「一詩くんだけ仲間外れじゃ可哀想だから誘ったんですよ、気が利くでしょう?」
     そう言う一佳と顔を見合わせて、小夜は笑う。
     ふっと、さざめく灯りが一斉に消えてつかの間の沈黙。
    「永遠に幸せ、に、なれるでしょうか」
     隣合う温もりが幸せで、永遠を願ってしまう一佳。それが続かないとわかっているのが悲しくて。
     もし永遠の幸福が存在するのだとしても、ずっと笑いあえる未来なんて幻想は自分たちには降ってこないと、一詩。
    「私は、すごく幸せ。永遠の時間でも使い切れないくらいに」
     いつか三人が離れてしまったのだとしても、小夜は伝えに行きたい。今日、降る光の数だけ幸せだったこと。もっと幸せがほしいから迎えに来た、と。
    「――欲張りだね、さよは」
     一詩の暖かな手。一佳の冷たい手。指切りを交わすように、小夜はきつく握った。
     東京タワーの見える範囲で黒虎と銀河は二人、歩く。
    「改めて……私の気持ち伝えさせてください」
     くるっと向き直り、銀河は唇を開く。
    「私、黒虎の事が好きです。あれからずっと、今も、これからも。だから……私とお付き合いしてもらえませんか?」
     見つめ合う二人をイルミネーションが見つめている。
    「……ああ、ありがとな、銀河。俺もお前のこと、好きだぜ。こんな俺で良ければヨロシク、だ」
     優しく応えた黒虎は銀河を正面から抱きしめて。身を寄せた彼女を愛おしむように頭を撫でる。身長差を埋めるように背伸びした銀河に合わせ、顔を寄せて。彼女の頭を後ろから抱き寄せるようにして唇を合わせる。
    「最初のキス位は俺からリードしないと、な」
    「ありがとう。こんな私だけれど、これからもよろしくお願いします」
     ウインクした黒虎に紅潮した顔で告げて。その腕の中に収まる銀河。
     ふとタワーを見ればライトダウンの瞬間。
     どうか、この幸せが永遠のものとなりますように。
     散歩がてら渋谷駅から歩いてきた駆道と歩華。ライトダウンまでは時間的に余裕があると歩華はしっかり確認済み。
    (「人出が多くても手は繋いでくれないだろうなあ……」)
     ちらり、駆道を見上げる。駆道は駆道で思うところがあって。
    (「俺はあいつのことが好きだが、自分の闇堕ちとか迷惑かけちまわないかとか考えると、これ以上距離を詰めるのも躊躇われるんだよなあ」)
     だから「もう今年も終わるんだなぁ」とか「昨日何食ったよ?」とかとりとめのない会話をしながら歩ければ、彼にとっては十分なのだ。でも、やっぱり……手を繋いで一緒に歩くとかしてみたい気持ちがあるのも事実。
     はぐれないように気をつけて、タワーから少し離れたところで二人。黙って隣に立って、ライトダウンから始まる光のショーを見つめた。
     乃亜が指定した時間を待つ間、隣にいる彼女の様子をうかがう詠一郎。白で統一した格好の彼女は、どことなく寒そうに見えて。肩をきゅっと抱き寄せる。
    「え、詠一郎!?」
    「あともうちょっとだから、こうして待ってようか」
     自然にこういうことをやるから困る。焦っているのは乃亜だけ。
    「あっ、ライトが消えた!」
     こんなショーがあったんだねと見とれる詠一郎の横で、乃亜は祈る。どうかこの幸せな時間がもう少しだけ続きますようにと。
    「……来年も、こうやって一緒にクリスマスを過ごせたらいいね」
     耳元で話され、乃亜は飛び上がりそうなほど驚いた。深呼吸を重ねて何とか言葉を絞り出す。
    「ら、来年は詠一郎がプランを考える番だからな。まあ、その……楽しみにしているよ」
     顔には出さないがタワーと周囲の夜景の共演に夢中になっていた奈兎はふと隣から視線を感じて。向けば寒そうな仁奈がいたから声をかけようとすると、訪れたのは両頬へのひんやりとした感覚。
    「……つめっ、て……! おま……」
     外気に晒した手を当てたら、驚いた反応が見れて満足の仁奈。怒られるかと思ったら、手はそのまま奈兎の手に包まれて。
    「ふふ、奈兎あったかい」
     気がつけばライトダウンの時間。二人見上げると、ふっと灯りが落ちて。しばらくして光のショーが始まる。
    (「伝説、叶うのかな」)
     視線を向ければ奈兎はショーに集中している。それは何となく伝説を気にしてしまった自分を誤魔化したから。
    「にーな、もう少し、此のまま見てようぜ」
    「ん、もっと一緒に眺めていたい」
     繋いだままの手だけが、暖かく感じて。今は繋がった手を放したくなくて。
     緊張からか、晶もルイーザも手を繋ぐことすらできない。だがタワーが見える位置で幻想的な光景を眺めていると、自然にルイーザは軽く晶と手を合わせて。晶は彼女の手を包み込むように握り返した。
    「……風雅様。私は……臆病なのです……永遠に幸せになれるなど……信じてはいけないのです……」
     ライトダウンが近づき、祈るように目を閉じたルイーザの言葉。
    「永遠の幸せを、信じてはいけない、ですか? 何がルイーザさんをそう思わせるのか今は判りませんが……そういうところも含めて、私は貴女のことをもっと知っていきたい。そして、幸せにしてあげたい」
     その言葉に思わず瞳を開けたルイーザ。その目に写ったのはライトダウンの瞬間。
    「ああ……私は…何という罪深い…」
    「だから、今日ははっきりと言います。ルイーザさん、貴女が好きです。私と付き合って下さい」
     晶の言葉に思わず、きゅっとしがみつく。
    「風雅様……本当に…宜しいのですか……私は…」
     優しく包み込むように抱きしめることを、答えにして。
    「いつまでも一緒に居られます様に……」
     剣と葬はタワーの神社で恋愛祈願をした後、ライトダウンの時間に合わせてタワーを降りてきていた。無事に間に合って、二人の目の前でタワーの灯りが落ちる。ぎゅっと抱きついた葬を剣は抱き寄せて、互いのぬくもりを感じながら光のショーを眺めていた。
    「葬」
     呼びかけに顔を上げた彼女が何かを口にする前に、ちゅっと口付け。彼女が真っ赤になって驚いたから、剣はにかっと笑って。
    「愛してるぜ、葬。世界で一番な」
    「私も、愛してます……剣さん♪」
     キスはまるで永遠を誓うかのように。愛の告白を交わした二人の夜は、まだまだこれからだ。
     ホワイトココアとコーヒーを飲みながら、朱梨と椿はタワーの灯りを眺めている。好きな人と過ごすクリスマスは初めてでドキドキしている朱梨は手を繋ぎたいけれど、ドキドキが伝わってしまいそうで恥ずかしい。
     ライトダウン――見届けてそっと朱梨は椿を見る。
    (「朱梨ちゃんは年々綺麗になっていくよなぁ」)
     昔からの付き合いの上に色々複雑な事情を知っているからか、ついそんな風に物思いに耽ってしまう椿。その横顔を見つめる朱梨は、言葉がうまく出せなくて。大好きだよって伝えたいはずなのに。
    「一緒に来てくれて、ありがと」
     それだけ伝えて視線をタワーに戻すと、椿の言葉が追いかけてきた。
    「また来年も見ような」
     一緒にいられるだけで幸せなの、それだけでいいの。でも、約束は嬉しい。
     ライトダウンの瞬間を見逃すまいと、ただ静かに寄り添って。寒さの中で握っている手は温かくて。蓮璽の彼女への気持ちが募る。
    (「ずっと一緒にいたいんだぜ……」)
     余市が手に力を込めると、応えるように握り返された。
     灯りが、消える。
     ふっと訪れた一瞬の暗闇の中、蓮璽の心はぱっと明るくなって。
    「この伝説、本当のお話にいたしましょうね?」
     互いに見つめ合って、抱きしめて抱きしめられて。
    「ずっと……ずっと一緒です、余市さん――」
     目を閉じ、そっと唇を重ねあう二人。
    (「ずっと一緒だよ、レンジさん」)
     願いを胸にして、余市はそっと瞳を閉じる。
    (「大好きです、ずっと――」)
     紡ぐ言葉の代わりに、蓮璽はありったけの想いを口付けに込めた。
     七に手を引かれて眩しそうに目を細めながら、かまちは光のショーを楽しんでいる。混んでない場所でのんびり眺めるのもいいものだ。
    「あ、ライトアップの色、それぞれ意味があるらしいわ。知ってた? あたし青がね、綺麗だなって思うわ」
    「……俺ぁ青緑っつーのか? あれが一番綺麗に見えたな」
     普段は意味が込められているなんて考えたこと無いけど、案外何気ないものにも込められた意味があるのかもしれない、零すかまちに七は頷いて。
    「……なるほど? 確かに込められた意味ってありそう。探してみるのも楽しいかも」
     新しい楽しみを見つけた。
    「今日は付き合ってくれてありがと。ふっふ、めいっぱい遊んだわ。お陰様でいい一日」
    「あー、基本暇人だからな。礼を言われる事なんかしてねぇよ。楽しかったんならそりゃ良い事だ」
     笑んだ七を、かまちはそっと見つめた。

     それぞれの、聖夜――。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月24日
    難度:簡単
    参加:68人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 15/キャラが大事にされていた 7
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