クリスマス~第一回武蔵坂学園雪合戦

    作者:天木一

    「ふんふんふ~ん、ふんふんふ~ん、クリスマス~♪」
     どこからともなく楽しげなメロディが流れてくる。教室を覗くと、上機嫌に鼻歌を歌いながらクリスマスの飾り付けをしている五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)の姿があった。
    「あ、皆さんこんにちは!」
     振り向いた姫子は、笑顔で灼滅者達を出迎える。
    「もうすぐクリスマスですね。学園もこうやって飾り付けて華やいでくると、なんだかわくわくしてしまいますぅ!」
     もう気分はすっかりクリスマスに飛んでしまっているのだろう。瞳を輝かせてうっとりとあれこれ予定を考えている。
    「残念ながら、この辺りではホワイトクリスマスとは行きませんけど……」
     そう言って残念そうな顔をする姫子。だがすぐに表情を綻ばせる。
    「でもですね、知っていますか? なんとクリスマスにグラウンド一面に雪を積もらせるらしいんです!」
     姫子は胸の前で握りこぶしを作り、凄いですよねと目を輝かせる。
    「もちろんうちの学園だからといって、サイキックで降らせるわけじゃないですよ? 学園が人工降雪機を用意してくれるそうなんです」
     クリスマスに雪。都会ではなかなか見ることの出来ない景色だ。
    「それでですね、せっかくですから皆で雪で遊ぼうと思うんです。年齢に関係なく皆で遊べるものが良いと思って、クラス対抗『雪合戦』をしよう思います」
     雪合戦ならば誰にでも出来る遊びだ。道具も雪があれば事足りる。それに学年に関係なくクラス番号でチームを組めば、年齢も混成されて戦力も均等になりやすいだろう。
    「ルールはシンプルに、雪玉に当たったら失格。最後まで生き残ったチームが勝利です」
     もちろんサイキックの使用は不可だ。サーヴァントは参加OK。道具は雪玉を作る為のタコ焼き器型の雪球製造器をチームに一つ貸し出す。
    「失格になった人はフィールドから出て下さいね。熱いココアを用意しておきますから、それで温まって下さい」
     姫子は審判として参加する。だから反則はダメですよと人差し指を立てて注意した。
    「学園の許可も頂いてます。しかも勝ったチームには学食の食券が賞品として出るそうです」
     おお! と食欲旺盛な学生達の気勢が上がる。
    「ふふ、皆で楽しい一日にしましょう」
     姫子はきっと楽しいクリスマスになると確信して、微笑んだ。


    ■リプレイ

    ●雪合戦
     普段見慣れているはずの学園が別世界となっていた。校舎には星やトナカイの飾り付けが施され、グランドは一面の銀世界。雪がびっしりと積もっている。足を踏み入れるとざくざくという音と共に足跡が残る。雪の感触に寒さなど忘れて皆の顔に笑顔が宿る。
    『今日は雪合戦に大勢集まっていただいて、ありがとうございます。早速チーム分けをしますね』
     仮設した壇上で姫子がマイクを手に皆に説明を始める。
     チーム分けは1A梅組と7G蘭組の連合、総勢12名を一の軍。2B桃組と8H百合組の連合、総勢12名を二の軍。3C桜組と6F菊組の連合、総勢12名を三の軍。4D椿組、総勢20名を四の軍。5E蓮組、総勢27名を五の軍。9I薔薇組、総勢32名を六の軍とする。合計115名、全6チームで戦うことになる。
     グラウンドを囲むようにそれぞれの陣地が整う。
    『皆さん位置に付きましたか~? それでは第一回武蔵坂学園雪合戦を開催しまーす!』
     陸上部から借りてきたのか、姫子は指で耳栓をしてスターターピストルを構える。発砲。合戦の開始が告げられる。

    ●四と五
     まずはそれぞれの陣地から雪玉の投げ合いによる牽制が行なわれる。
     最初に動いたのは五の軍。2-Eの面々が2-Dに対して宣戦布告を行なう。
    「吉祥寺キャンパス中学2年D組! クラス対抗戦を申し込むで!」
     そう宣言すると悟は『必勝鉢巻』を装着したクラスの仲間と先頭に立ち、五の軍が進軍を開始する。
     受けて立つのは『白い鉢巻』を身につけた四の軍2-Dの面々。
    「井の頭中学2年E組からの挑戦に乗る事にするぜ。負けた方が勝ったチームに暖かい缶ドリンクか肉まんを奢るって事で!」
     武流がクラスを代表して応答する。
    「おごって貰えるとか……燃えてきた! E組を返り討ちにしちゃおう!」
     鏡花は雪玉を手に走り出す。同じようにクラスの仲間も迎撃に動き出した。その動きに乗って四の軍全体が動く。
     両軍が対峙したのは中間地点のシェルターを挟んでだった。シェルターを巡っての攻防が始まる。
    「情けも容赦もしないよ! ボカーンッ!!」
    「まずはシェルターの確保だ。敵を押し返すよ!」
     ララと沙雪がお互いをカバーしあいながら、相対した五の軍へ雪玉を投げる。
    「うわ!」
     隣から叫び声、最初の犠牲者は奏耶。直撃を受け初の退場者となる。
    「見敵必殺! 見敵必殺だ!」
    「俺にガンガン回せ。片っ端から狙い撃ちだぜ」
     後方から晃はとにかく数を投げ弾幕を張る。威嚇によって相手の行動を少しでも阻害させる。銀都は対照的に、出来るだけ正確に敵を狙い撃つ。
    「雪玉を置いておくね、どんどん投げちゃって!」
     奏音が流れ弾に当たらないよう屈みながら、雪玉を投擲する仲間に渡していく。
    「ありがとうございます」
     ルシフは丁寧に頭を下げ、雪玉を受け取ると前線の仲間を援護する為に敵に投げつける。
    「勝負がかかってるE組にだけは負けられないですよね! 小さい身長もこんな時には役に立ちます」
    「……寒いのは苦手ですけど、食券の為に頑張りますよー!」
     明と維緒はライドキャリバーのあんどれと共に、仲間の援護の為に囮として動き回って敵を撹乱する。
    「余に宣戦布告とはな! その心意気に免じて王の力を見せてやろう!」
     アルは攻める、小さな体をより縮めて、的を絞らせないようにジグザグに走る。ナノナノのルゥルゥが援護射撃を行い、その間に敵陣深くへと突き進む。
    「んしょんしょ、えいっ!」
     日夏は手で雪玉を作っては投げている。不恰好ながらも雪玉は勢い良く飛んでいく。
    「はい! できたての雪玉だよ」
    「お、ありがとう!」
     花梨が作った雪玉を持ってくる。手には厚手の真新しい手袋、手を冷やさないようにと、父親が心配して用意してくれた物だ。
     ときは花梨から雪玉を受け取り、跳んで投げたり、横から投げたりと工夫しながら投げまくる。投げる度にフードに付いたパンダ耳が揺れる。ナノナノのゆきちは囮としてふわふわと飛んでいた。
     後方本陣では初季とマッドが雪玉を作成していた。
    「意外と重い……これを叩きつけて……あー、こうなるんですね」
     コツを掴んだのか、徐々にペースアップしていく。少しずつ無駄を省いて動作がスムーズになっていく、そして上がるテンション。実は単純作業が好きなのだった。
    「僕も手伝うよ! ここに雪を詰めていくんだね。よいしょっと……結構大変かも」
     マッドも花梨と一緒に雪を詰めて、せっせと雪玉作りを行なう。思ったよりも重労働な作業に汗が滲む。
    「アタシは遊撃隊として好き勝手やらせてもらうよ」
     ジェーンは雪玉を手に、目立たぬよう単独で遊撃隊として動く。

     対する五の軍も負けてはいない。
    「勝てたらおごってもらえるのでがんばる。とりあえずシェルター確保がよいよね」
     椿森郁は雪玉を手に前進する。上着を投げ、囮にすると全力でシェルターに向かう。
    「……ふっ。残像だ」
     同じくシェルターに向かう綸太郎は、雪玉を器用に避ける。柔らかい体をねじって、まるでダンスのようにかわす。
    「五の軍は他に囲まれてる。守ったら攻め込まれるだけだ」
    「ああ、守ってばっかでもしゃーねぇ。前線で攻撃しかけようぜ」
     零冶と供助が中央のシェルターへ移動しつつ、敵に攻撃を仕掛ける。
    「それなら俺が後方支援するから、先行け! 前線の第一攻撃は任せた!」
     悠埜が二人を狙う敵に、牽制の雪玉を投げて動きを封じる。
    「下手な鉄砲も何とやら…や!」
     悟は雪玉を投げまくり、シェルターに向かう仲間を援護する。
    「そんな攻撃、俺には当たらないよ」
     迅瀬郁は雪玉を避けつつ、前へ前へと進む。
    「みんな、頑張って行きますよー!」
    「せっかくクラスメイトにお誘い頂いたのですし、しっかり働きますわ」
     霞とアナスタシアも、前進する味方を攻撃しようとする敵に向かって投げつける。
    「よーし、ガンガン攻めるぜ!」
     宝児も手にした雪玉を次々と投げ続け、弾幕を張る。
    「わたしもがんばるね!」
     まなみは最前線から引いた位置で後衛と前衛を繋ぐ場所で、前衛の援護に雪玉を投げる。この位置なら後衛の支援も受けやすい、弾を出来るだけ投げ続ける。
    「勝ちに行くぜ、食券は俺たちが頂く!」
    「もちろん! 勝ちに行くわよー全力で!」
    「食券を勝ち取るべく、オレってば超! 本気で頑張っちゃうんだし……!!」
     カグラ、七、三朗の3人は連携して雪玉を投げる。七が投げた雪玉、それを敵が避ける。それを予想してカグラと三朗がサイドに投げていた。三朗側に逃げた敵に飛ぶはずの雪玉は明後日の方向に……。
    「ヒット頂き……あれ?」
     大暴投である。だが横からナノナノ幸子がひょいっと雪玉を投げて当ててしまう。
    「きゃー!やったぁ!」
    「おーけー、空回りしすぎんなよー?」
     作戦が上手くいってはしゃぐ七。カグラは仲間とハイタッチしつつ三朗に声を掛ける。
    「食券ゲット、絶対ゲットする……!」
     遥は固く誓う。クリスマスプレゼントと称して姉たちに小遣い巻き上げられ、昼飯代を少しでも手に入れようと必死の決意だった。
    「ココア楽しみだなぁ。まぁ、これも『戦い』だから手加減はしないよ?」
     透也は口に僅かな笑みを浮かべ、戦うモードへとスイッチを入れる。身を隠しながらも雪を敵に投げ始めた。
    「囮役頼んだぞ! 砲撃手は攻撃開始!」
     空哉が本陣で防衛の指示を出す。
    「うん、了解だよクックくん」
     茜は飛んでくる雪玉をシェルターに身を隠して避けつつ、雪玉を投げる。
    「囮役だぜッ! 一体でも多く敵を引き付けてやるぜ」
     源氏星は上手く敵の中間点で立ち回り、敵の注意を集める。ライドキャリバーの黒麒麟には雪玉の運搬をさせる。
    「古関さん・ヴァシリアさん行きましょう」
    「ボクに任せてよ!」
     楽多の呼びかけに元気良く答えるニーナ。その足を一歩踏み出したときに雪の足を滑らせずっこける。
    「え、えへへ」
     ニーナは起き上がり雪を払いながら照れ笑いを浮べた。
    「補給です! またすぐ持ってきますから、それまで頑張ってください」
     影華は抱えてきた雪玉を前線に渡すと、後方へと雪玉を補給に下がる。
     本陣では飛鳥が雪玉を作っている。
    「よし大和、とにかく作れるだけ作ろう」
    「了解! 全力で作るぜ!」
     飛鳥と協力して大和が雪玉作りを行なう。作成された雪玉を、大和がライドキャリバーに乗せて仲間へと運搬する。
    「緋織君、後ろは任せたよ」
    「千歳さんは攻撃に回るんだね。ん、弾の確保は任せておいて」
     千歳は学校で初めて出来た友人と共闘して行動する。千歳の自分を信頼してくれる言葉に、緋織は笑顔で返す。
     緋織はビハインドのニーナには雪集めをお願いして、雪玉作成を手伝おう。前線で戦う千歳に弾を運ぶのは自分の役目だ。
     皆が行動する中、一人別行動をする人影。湊は一人黙々と隠れて行動を開始する。

     シェルター制圧に向かっていた鏡花の目に入ったのはまなみ。
    「うーちゃん」
    「はい、きょーちゃん」
     玉を運んで来ていた初季は呼ばれ、阿吽の呼吸で雪玉を渡す。
    「おりゃりゃりゃ!」
     初季から雪玉を受け取っては投げる。高速速射がまなみを襲う。
    「きゃっ」
     不意を突かれたまなみは雪玉を喰らい、慌てて転ぶ。うーっと涙目で2人を見た後、転ばないように気をつけて退場していった。
     対峙する2人、最初にシェルターに辿り着いたララと供助。お互いに持つのは左右の雪玉2つ。ガンマンのように向かい合った。
     同時に動く。1投目はお互いに空を切る。次を先に放ったのはララ。だがそれも外れて手ぶらになる。確実に近くから供助は投げようとしたところで固まった。雪が腕に当たったのだ。見れば沙雪が側面から攻撃を加えていた。
    「後は、任せた……!」
     供助が倒れた瞬間、飛んで来た雪に沙雪が被弾する。供助の後を零冶がカバーする二段構えだった。更にララにも雪を投げる。だが同時に雪が飛んできた。相打ち、ララは倒れた供助の落とした雪玉を拾っていたのだ。
     第二陣が到着したのは五の軍が速かった。迅瀬郁と悠埜がシェルターを確保する。シェルターを奪われるのは拙いと、そこに攻撃を仕掛ける武流と奏音。
     雪を投げ続け、味方とシェルターを奪いに攻勢を掛ける。そこに現われた日夏は抱えた雪玉を全て放り投げる。雪玉の雨が降りシェルター付近に多大な被害を与えた。混戦はまだまだ続く。

    ●一と六そして二
     少数の機動性を活かして一の軍が動き出す。
    「食券取るぞ野郎ども!!」
     やるからには勝利を目指すと高明が気合を入れる。
    「ふふふ、三つ子のコンビネーションを見せつけてやるのですよ~」
    「しょうが無いな花音ねえは……やるからには全力でやるよ、背後は任せて」
     敵に向かい飛び出す花音の背を当たり前のように守る弧月は、お互いに背中合わせで死角を守る。
    「雪玉できました~♪」
     真雪がナノちゃんと一緒に雪玉を作って、二人を援護しながら補給をする。
    「今こそ天文台2年1組の力を見せつける時ですわ! 櫓木さん、文織さん、句穏さん、行きますわよ! 突撃ぃぃい!!」
     桜花が仲間に号令を掛けて先陣を駆ける。
    「それじゃあ僕らも行きましょうか」
    「ああ! 勇敢な阿剛殿の支援をしなければ、行こう句穏」
    「うん! 桜花様をサポートしなくちゃね」
     白いジャージを着た悠太郎が無表情のまま駆け出す。句穏と文織もお互いに頷き合うと後に続く。
    「援護は任せて! 気をつけてね」
     結弦が飛び出す仲間に声を掛けて、援護の雪玉を投げる。
    「今日は普通に楽しむわ。お手柔らかに、よろしゅうな」
     笑顔で仲間に挨拶をする颯太。皆と同じように雪玉を投げ始める。
    「弾薬補給はお任せ下さい……」
     眠兎は自陣で雪玉製造機で弾薬の補給に専念していた。
    「こちらに向かって来ている敵は居ないな……」
     榮太郎は戦況を観察しつつ、眠兎の雪玉作りを手伝う。
     一の軍が占領したシェルターに迫る敵部隊。それは最大勢力である六の軍。戦場は大きく動き出した。

    「参加するからには勝利を目指しましょう!!」
     鞠藻が製造班、砲撃班、迎撃班にメンバー分けを行なう。自らは製造班に指示を出す。
    「雪合戦とかチョー燃える! やっぱ、こういうのは派手じゃなきゃね!」
     千巻は楽しそうに雪玉の補充を行なう。
    「詰めて挟む、詰めて挟む、詰めて挟む、ヤバい、指先の感覚無くなってきた………へくしっ!」
     雪の冷たさに冴が大きなくしゃみをした。口ではブツブツと言いながらも、手の動きに淀みはない。
    「戦うのはその前準備が大事だよな」
     出来た雪玉を祐一は霊犬の迦楼羅に玉を運ばせ、いざという時の為に貯蔵させておく。
    「勝つためには戦況を正確に把握することが大事よ」
     逢紗は周囲を観察し他軍の動きを探る。ナノナノにも策敵を行なわせ、少しでも情報を得るために手を打つ。
    「一の軍が中央を取りに来てるわ! 完全に制圧される前に叩きましょう! 砲撃班は突撃するメンバーの為に玉を集中して」
     逢紗の言葉を聞き、薔薇組が動き出す。
    「了解したぜ! みんなあそこに投げろ!」
     穂ノ太は逢紗の指示を受け、雪玉を放物線を描くように高く投げる。この投げ方ならばシェルターも関係なく、当てる事が出来る。
    「行っく、よーっ!」
     希子も息を合わせて、次々と雪を投げる。これ、貰っても、良ーい? と穂ノ太の雪玉を分けてもらい、楽しそうに投げ続ける。
    「テストなんて消えてしまえばよかったんです!」
     ストレス発散のように叫びながら、七波も指定の場所に雪玉を投げる。
    「ゆき負けないんだからっ」
     結月は手で雪玉を作って投げた。飛んできた雪はシェルターに隠れてやり過ごす。
     千巻が激しくなってきた味方の動きを見て号令を出す。
    「1-9突撃! 突撃ぃー!!」
     その声に乗せられ、イッキュー小隊のメンバーが一斉に動きだす。それは大きな流れとなって六の軍を動かす。
    「目標、中央エリア制圧! 突貫するッス!」
     黒白が突撃を開始する。原色でカラフルな目立つ服装は狙われ易く、すぐに敵の雪玉の迎撃に会う。
    「ぎゃふん!」
     集中砲火を浴びて倒れた。だがそのお陰で僅かな間が生まれる。
    「……今やッ、ゴーアヘッドや! 俺が援護するでー、ヴチかましておくれやすー!」
     臆病なくらい慎重に様子を見ていた右九兵衛が前進の合図を出す。
    「今が好機、突撃します!」
    「燃えるね、これは負けてられない!」
    「勝負なら勝つためにやるのが当然じゃ。私の本気、見せてやるのじゃー!」
     地響きをさせて進む巨大な機械甲冑を纏った亜樹と、ゴーグルを装着しライドキャリバーに騎乗した殊亜は突撃を開始した。
     華織はワザと狙われ易いように姿を見せて敵の攻撃を煽る。投げられたら姿を隠し、敵の無駄玉を少しでも稼ごうとする。
    「Ураааа!」
     ツェツィーリアも両手に雪玉を持ち、勇猛に駆ける。その顔には獲物を狙う肉食獣の笑みが浮かぶ。
    「行くよ、久遠!」
     紫は霊犬と共に中央へ攻めあがる。左右に別れ挟撃を仕掛けた。
    「味方援護、砲撃合わせ……撃てーーっ」
    「息を合わせていくぜ。いち、に、さん!」
    「任せろ! いち、に、さん!」
     優雨は突撃する味方の動きに合わせ、雪球の一斉砲撃の指示した。その声に合わせて虎丸が貯めておいた雪玉を投げる。レイシーも同じく、敵の手が怯むほどの勢いで投げつけた。
    「くっくっく。本気でやる雪合戦は楽しいな!」
     芥もライドキャリバーに積んだ自作の食紅入りの赤い雪玉を投げる。ライドキャリバーを盾にしながら全力で投げ続けた。
     幾つもの雪玉が宙を舞い、味方の頭上を追い抜き敵に襲い掛かる。
    「勝てば官軍、勝者が正義となり歴史となる! 勝てばいいんすよ勝てば! あっ、でも反則はダメっすよ! いいっすね!」
     奏が持論を展開して、囮として敵の注意を引く。敵軍の殺傷域で回避に専念する。
    「補給ここに置いておきます。反撃が来ますから、もう少し屈んだほうがいいですよ」
     敦真は雪玉をあちらこちらへと運んでいく。細々とした気配りで、皆が動き易いようにサポートしていた。
    「えっと、後ろから支援しますから……安心して突撃してください」
     そう言うと茉莉はありがとうございますと、緋織から受け取った雪玉を投げる。
    「それじゃあ行ってくる! ははは! そんな攻撃じゃこの俺、相良太一は倒せないぜ!」
     太一は正面から敵に攻撃を右に左にと回避しながら突き進む。だがその頭を狙う雪玉が後頭部へと突き刺さる。
     唖然と動きの止まった太一は次々と被弾し、振り向き倒れた。
    「は、謀ったな古樽ぅ!?」
    「あっ……ご、ごめんなさい、雪合戦ははじめてでー」
     茉莉は棒読みで視線を逸らす、その口元はひくついていた。
    「わぷっ」
     そんな小芝居をしているうちに玉に当たってしまう。どさりと太一と同じように驚き振り向くように雪原に伏した。
    「相良君、古樽さん……尊い犠牲を無駄にはしないからねっ」
     緋織は倒れた仲間の分も戦うことを誓う。手に付いた雪を払いながら。
    「だ、大丈夫、太一くん? って茉莉さんまで……え? これって仇って……行ってくるね!」
     蒼月の視線が彷徨い彼女と目が合った。次の瞬間、蒼月は全力で走り出す。
    「わ、わ、わわわわ!?」
     焦った足を雪に取られて転んでしまう。雪まみれになりながら、それでも楽しそうに駆け出す。
    「そう簡単には動かせないところが狙い目だね」
     七葉は敵の腰や足を狙い、雪玉を投げる。
     星流はじっと待っていた、敵が動きを止める瞬間を……。投擲。敵の胸へと吸い込まれるように雪玉は命中した。
    「狙い……撃ったりするのは得意なんだ……」
     戦場をあっちへこっちへと動く人影。
    「戦力外だから攻撃しないでね」
     蝸牛は光学部の腕章をつけて雪合戦の光景を撮影する。
    「小学生やってやれんねんでー!」
     つばきは製造班の護衛として本陣を守る。ドッヂボールで培った経験から足を狙い全力投球。
     リスが宙を舞う。それは雪玉に閉じ込められたフェルトマスコットだった。
    「折角だから、こういうびっくりするのを仕込みたくなるじゃないっすか」
     善四郎が作ったそのリス入り雪玉は、遠くで雪の運搬をしていた真雪に偶然当たっていた。
    「当たっちゃった……でも可愛い」
     真雪は負けたけれど、満足そうに雪に閉じ込められていたリスに微笑んだ。

     圧倒的な六の軍の火力に防戦一方に追い込まれる一の軍。1人、2人と犠牲者が増え数を減らしていく。
    「ああ……うちで最初の犠牲者は俺やとおもっとったわ……」
     偶然、集中砲火を受けた颯太は雪の上に倒れた。
    「花音ねえ!」
     弧月は花音を襲う雪玉から身を挺して庇い、雪原に倒れた。
    「弧月君!」
     止まらぬ敵の攻撃。弧月を抱きしめもう駄目かと思った瞬間、敵の攻撃が止む。見れば、六の軍の側面に新たな部隊が現われていた。二の軍の参戦である。
    「覚悟ー!」
     凜は雪玉を避けつつ突撃する。避けるのは上手いが、投げるのも当たらない。ノーコンだった。
    「あたしのタマをくらえー!」
     白いコートとブーツに身を包んだ焔は最低限の雪玉だけを持って身軽に駆ける。不意を付いた初段が命中する。
    「ごめんなさいー!」
     謝りながら雪玉を投げているのは明都。頭も下げながら、全力で雪を投げる。
    「真剣勝負のときこそ慎重になった方が勝つんだよ、ニンフ」
     大剣を背負ったアンクが『もっとガンガン攻めなさいよ!』という声を宥めて、沈着に雪玉を投げる。
    「危ない! 援護するよ!!」
     かえでは仲間に攻撃を加えている相手に、雪玉を投げる。
    「よーし、わたしは妨害役するねー!」
     志歩乃もかえでに合わせて、手当たり次第に雪玉を投げて弾幕を張る。
    「雪玉持ってきたぜ」
     凪が本陣で作った雪玉を、持てるだけ抱えて前線に運んできた。手が足りなさそうな援護を手伝い、玉が切れそうになったらまた後方へと玉を補給にいく。
     玉を差し出されたフーリエは首を横に振り、玉の補充を断る。
    「私は結構……一射必殺、其れこそ我が弓兵としての矜持なれば」
     全てを見通すかのようにじっと目を凝らす。ふいに雪玉を投げる。無造作にも思える自然な動き。雪玉は当たり前のように、敵の顔に当たって砕けた。
     ティファーナはせっせと雪玉を作り、それを受け取ったビハインドのラミアが投げていた。
    「……相手が先に武器を使ってくれれば、反撃できるのに……」
     ぼそりと漏れてしまった呟きに、十字架を握って懺悔する。
    「こっちはお任せなのー」
     彩香は霊犬のシルキーがかき集めて作った雪玉を、向かって来た敵に投げる。
    「しかしこの雪玉の造詣は見事だな……おっと、見惚れてる場合じゃなかった。いくよ」
     満足げに雪玉を鑑賞していたボールマニアの明々日は、気を取り直して合戦に加わる。飛んできた雪玉に雪玉をぶつけて迎撃する。
    「しっぺ、ぼくたちも行くよ!」
     薫は霊犬と共に駆け回る。後方から前線へ、雪玉の補給をしながら、遊撃を行なう。新しい仲間と遊ぶその顔は眩しいほどの笑顔だった。

     六の軍という巨大な敵の前に、二の軍と共同戦線が張れると悟り、一の軍は反撃に転ずる。
    「行くぞガゼル!」
     高明はライドキャリバーを走らせ霍乱させると、動く敵を狙い撃つ。
    「雷轟、囮をして下さい」
     悠太郎も同じようにライドキャリバーを走らせ、敵を惑わす。
     花音も2人の分も頑張ると雪玉を投げつけた。
    「オーッホホホ!! そんな巨体など雪玉でつぶしてくれますわっ!!」
     桜花は突進してくる華織に雪玉を集中する。
     二面攻撃を受ける六の軍も唯やられている訳ではない。すぐさま体制を建て直し、反撃に移る。
     華織は巨体を捨て身で盾となり突っ込む、桜花の攻撃の前に倒れるも、シェルターに突っ込み一の軍の防衛を崩す。
     そこに騎乗した殊亜が切り込み、紫と久遠が挟撃し、イッキュー小隊のメンバーで敵を攻撃する。
    「う……ぁああ。もうだめだぁ」
    「句穏!」
     被弾した句穏に文織が駆け寄る。
    「文。ごめん……。あたっちゃった、後は任せるね」
    「ああ、任せろ!」
     文織は雪玉を手に反撃に向かう。それを見届けた句穏は起き上がり。
    「ココアココアー♪」
     元気に場外へと走っていった。
     二の軍は前衛が戻って来る前に叩こうと速攻で攻撃を行なう。
    「食券もらったらみんなで食べにいこう……だから頑張ろうね!」
     かえでが声を掛ける。志歩乃と薫は大きく頷くと六の軍に思い切り雪玉を投げる。
    「行ってくるわね」
     焔は雪玉を手に駆ける。みるみるうちに敵陣に近づきそのまま突入する。
     右九兵衛は顔を狙い雪を投げる。だが迎撃を潜り抜け、一発、二発と持っていた雪玉を接近戦でぶち当てる。
    「む、無念や……」
     右九兵衛は逆に顔面に雪を当てられ仰向けに倒れた。
     漸く混乱が落ち着いた六の軍は二の軍に対して動く、いち早く察知していた逢紗を中心に部隊を再編成し迎撃する。
    「結月、七葉は敵の前衛を叩いて!」
     2人はこれ以上近づかせないと弾幕を張る。援護を行なっていた穂ノ太達が前衛に立ち応戦する。芥はキャリバーに突撃させる。
     狙い済ました一撃がお互いの数を減らす。その被害から星流とフーリエはお互いの存在を認識していた。星流の帽子がシェルターから覗く。フーリエがそれを射抜く、だがそれは帽子だけ。星流の雪玉が真っ直ぐにフーリエの胸に当たる。すぐさま屈む星流の頭上に雪玉が落ちてきた。既に二射目は放たれていた。矢は放物線を描いて飛ぶものである。両者は共に倒れた。
     一の軍を倒したことにより、一気に形勢が傾く。ツェツィーリアが側面から突撃を行い、崩壊した戦列に一気に雪玉が投げ込まれる。多大な被害は受けたが最後に残ったのは六の軍だった。

    ●三と五
     四と五の軍の戦いに決着が着こうとしていた。両者共に半数も残っていない。五の軍が一斉に四の軍に襲い掛かる。
    「えいやーっ」
    「大胆不敵! 電光石火!」
     最後の抵抗とばかりに、花梨の自爆攻撃にジェーンの伏兵と、連続攻撃により更に数を減らすも、その勢いのまま本陣を制圧した。
     勝利の喜びも束の間。最後に動き出したのは三の軍。他の全ての軍団が傷ついた今、唯一無傷の集団だった。
     円陣を組み、一致団結して気合を入れ、白い集団は動き出す。
     峻は量産した雪玉を運び、狙い済ましていた。敵が勝利に油断する瞬間を。その玉は放物線を描き、笑顔の敵に命中した。
    「食券の為だ、悪く思わないでくれ」
    「よし頃合だ、行くぞ突撃班は付いて来い!」
     咲楽は仲間に呼びかけ、雪玉を手に突撃を開始する。
    「今が好機なり! 出陣でござる!」
     武士も雪玉を投げながら声を出し、味方を奮起させる。
    「行くぜ!雪玉一号、特攻!」
     一番手は和志。元気良く飛び出し、巨大な雪玉を転がし盾にしながら敵軍へと向かう。
    「ただ勝つのみ……いくぞー!」
     一馬は投擲で前を行く仲間の援護を行なう。敵がシェルターに隠れるように誘導して、仲間に場所を知らせる。
    「わかりました。ッ―――」
     彼方が敵が隠れている場所に山なりに投擲を行なう。それは頭上からシェルターを無視して命中する。
    「僕たちが優勝できたら、担任に恋人ができて、素敵なクリスマスを迎えられるって願をかけたよ」
     だから勝たないとねと、タージも突撃して猛攻を掛ける。
    「戦いは数だよ、マシンガンの如くガンガン乱れ打ちだよ!」
     ましろは貯蔵していた雪玉を投げて投げて投げまくる。
    「みんなで参加するんだもん、優勝を目指すよ! 食券が目的じゃないよ! 貰える物は貰うけどね」
     タバサはこそこそと隠れて動き、相手の不意を狙って投げる。
     戦いは優勢に動いている。
    「いないふり作戦が見事に上手くいったね」
     清和は眼鏡を直しながら、戦力を温存するという脅威の作戦が上手くいったことに笑みを浮かべた。
    「楽だと思ってたけど、前に出たほうがさむくなかったかな……」
     希春はひたすらに雪を作っていた。じっとしていると冷えるのでとにかく雪を作る。
    「ロティが昔やってたのとは全然違うね。でも楽しいよ!」
     シャーロットも思い切り雪玉を投げる。その雪玉は風に乗り、ゆるやかな放物線を描き落下する、その落ちた先にはアナスタシアが居た。
    「な?!」
     突然の被弾に驚き、周囲を見渡す。遠くに手を振るシャーロットの姿が。
    「ほんとにわたくしのペースをいつもいつも……」
     わなわなと握りこぶしを震わせるアナスタシアに、シャーロットはいつもどおり無邪気に笑っていた。
    「くっ、俺の昼飯……ッ」
     遥はがっくりと雪上に倒れる。その目には消え去った食券を思い涙が浮かぶ。
    「ひゃっ。あーD組には勝てたし、いっか……」
     最後に郁が倒れ、五の軍は壊滅した。

    ●三と六の決戦
     三と六の軍が向かい合う。数はそれほど変わらないが、六の軍は激しい戦いに疲弊していた。
     だがここまで来れば後は気力の勝負である。最終決戦が始まる。
     咲楽、和志、タージとツェツィーリア、殊亜、紫の前衛同士がぶつかる。移動、投擲、被弾。次々と倒れていく。
     後ろからは中衛の援護。ここで差が生まれた。三の軍には玉が十分に残っているのに対して、疲弊した六の軍には無駄玉を撃つ余裕が無かった。
    「もうすぐ天下は我らが手中に! でござるよ~♪」
     武士が指揮を執り、雪玉が投げられる。
    「武士ちゃんは攻撃させないよ!」
     ましろは飛んで来た雪玉を撃ち落し、武士を守る。
     少しずつ三の軍が弾幕で押していく。このまま押し切れるかと思った時、後ろの補給部隊から被害が出る。襲撃していたのは湊。五の軍の生き残りだった。ずっと隠れ続けていたのだ。
    「俺だってやるときゃやるんすよ……」
     不意の攻撃で希春とましろを倒すと、自らも被弾して倒れた。
    「今だ! 行くぞ!」
     この機を最後のチャンスと六の軍が全員で突撃を掛ける。
     製造班だった鞠藻もなりふり構わず走る。接近戦になれば雪玉の数などもう関係ない。全力で走る走る。
     三の軍もすぐに持ち直し迎撃する。勝利の女神がどちらに微笑むかはもはや誰にも分からない。
     雪玉が飛び交う。走り。倒れる。誰も彼もが倒し倒され、最後に生き残ったのは――。

    「惜しかったね、きゃっ」
    「あーあ、ほら、気を付けないと」
     希春のところまで歩いて来る途中で凜は転んだ。希春は仕方ないと近づき引っ張り上げる。
    「思ったよりすべるんだもん」
     凜は半べそになりながら言い訳する。2人はそのまま温かいココアを求めて歩き出した。
     グラウンドでは六の軍のメンバーが勝ち鬨をあげている。最後まで生き残った華織が胴上げをされていた。
    「ふふふ、優勝は頂いたのじゃっ♪」
     蝸牛がその一瞬の姿を逃さず、しっかりとカメラに収める。
     戦いは終わり姫子からココアが皆に配られていた。姫子を口説こうとした高明は何故かココア配りと手伝おうことになっていた。
    「結構大変だぜ。でもこれで高感度アップだな!」
     前向きな思考でせっせと働く。
    「ごめんね、先生。僕がふかがいないばっかりに、今年もシングルベルだね……」
     決定した未来に、タージと3年F組の仲間は何と慰めようかと相談する。
    「冷てぇ~……当たった雪玉、背中に入っちまったよ」
     虎丸はココアを優雨は笑顔で受け取り。一緒にココアを飲む。
    「え、えーと……」
     蒼月はちらりと横を見る。太一と茉莉と緋織の3人が笑顔なのに、なんだか時折視線が鋭い気がする。微妙な空気の中、ココアを手に居た堪れない気持ちを押し殺した。
     2-Eのメンバーは2-Dとの戦いに勝利したことを喜んでいた。逆に2-Dのメンバーは奢るはめになり無念の表情を浮べる。
    『六の軍の皆さん、おめでとうございます! これで雪合戦は終了です。皆さん今日はありがとうございました。そしてメリークリスマス!』
     姫子が言うと、皆がメリークリスマスと唱和する。敵も味方もなくココアで乾杯。どこもかしこも笑顔だらけだった。楽しいクリスマスに姫子は満足そうに笑った。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月24日
    難度:簡単
    参加:115人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 18/キャラが大事にされていた 22
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