クリスマス~飾れ、イルミネーション!

    作者:一兎

    ●イルミネーションアタック!
     風が吹き付ける真冬真夜中。
     寒さに震える者や服に仕込んだカイロを自慢する者、寒さに対するリアクションも様々に。ある計画のため、生徒たちは校門前へと集められていた。
     当然、この場にいるのは、参加を希望する一部の勇士のみだ。
     そんな勇士たちでも、割とざわついていたが。一人の生徒がやってくるのを誰かが見つけると、それが全体に伝わり、場は静寂に包まれる。
     その一人の生徒、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は最初に、集った勇士たちを見回して一言。
    「よく来てくれた! まずは感謝する」
     礼儀は忘れず、一礼して。
    「お前達に集まって貰ったのは、他でもない。聖夜クリスマス、その日、ある計画を実行に移すからだ!」
     今はまだ打ち合わせだがな。ヤマトは何食わぬ顔で言ってのけた。
     ならどうして外に呼んだんだ。
     そう、勇士たちから文句が出たような気がするが、ヤマトはさらりと聞き流して、話を続ける。
    「その名も『イルミネーションアタック』! 念のために言うが、命名に対する異論は受け付けない……見ろ!」
     ビシィ!
     ヤマトは武蔵坂学園を指差す。それはもう力強く。
     文句が出てくるだろう雰囲気に溢れていた勇士たちも、その指先の力強さに思わず口を閉じた。
     指先をそのままに、背を向けたままヤマトは言う。
    「アレがお前達のキャンバスだ!」
     キャン『パ』スではない。キャン『バ』スである。
    「当然、絵の具なんてものは使わない。必要ないからな。……お前達には、電飾を使ってもらう」
     そう、イルミネーションアタックとはつまり、学園をイルミネーションで飾り付けるだけの非常にシンプルな計画なのだ。
    「ここに呼んだのは、その想像力(イマジネーション)を広げてもらうためだ。こちらからは、どう飾り付けろと一切指示はしない。思いつくままに、最高の光輝くアートを生み出せ!」
     型に決まりはない。
     無数の色を組み合わせて、光のイラストを作り上げるのもいいだろう。
     光が描く模様、もしくは形状にこだわるのもいいかもしれない。
     もしくは、点滅する仕掛けなど何らかのギミックを用いた特殊なモノだって作れる。
     電飾というアイテムも、様々な種類があるのだ。
     その可能性は、まさに人の数。
     ついでに言うと、片付けの心配はいらない。次の日には元に戻っているらしいからだ。
     それらの説明を聞いて、再びざわつきだす勇士たち。
     だが、まだ説明は終わっていない。
    「待て、まだ続きがある。……いいか。いくら自由にやってもいいとはいえ、限度というものがある」
     例えば、怪我をするのが自然な危険な電飾。
     例えば、正気を持っていかれるような名状しがたい電飾。
    「もしも、やりすぎた場合。その時は覚悟してもらう……」
     やりすぎた時、その者は魔人生徒会の刺客に襲われるという。
    「お前達が選ぶ道は、二つだ。己の意志を貫くため抗うか、やりすぎた事に反省して従うか」
     もっとも、やり過ぎた電飾を作るくらいの度胸があるならば、答えは決まってるだろうが……。
     微妙にざわついたままの勇士たちに、その呟きは聞こえたかどうか。
     少し重苦しくなった雰囲気の中ヤマトは、ハッと思い出したように、紙の束を取り出した。
    「そうだった。魔人生徒会から、刺客募集のビラも貰っている。興味のある奴はやってみるといい」
     そこまで重く考える必要はなかった。


    ■リプレイ

    ●広い広い中庭で
     太陽が青い空を昇り切り、これから沈み始めるぞといった時分。
     文字通り、明暗を分ける計画は動き出した。
    「少し太め……っと、これか?」
    「うん、それだ。それを向こうの印の所に」
     あいよと返事をして、長井・覚(狩猟者・d04742)は指示通りの部品を繋げに行く。
     そのままエリノア・フレイ(退魔の黒・d11129)は、設計図を見ながら中庭の地面に線を引く作業に戻る。
    「間に合うでしょうか?」
     作業の進みを見て、エリノアの後ろ、双子のイヴマリー・フレイ(浄化の白・d11134)は呟いた。
     彼女たちが作る予定の巨大クリスマスケーキは全三段ある予定で、土台はまだ一段目の半分ほどしかないのだ。
    「夜が来るまで時間はある。イヴが気にするほどじゃないさ」
     それに対して、エリノアは振り返りもせずに断言する。人手はなくとも効率良く動けば、十分に間に合うはずだと。
    「そうです。千里の道も一歩から、ですよ」
     エリノアの言葉に、土台の上から戌亥・一(戌亥神社の生き残り・d03107)も同意する。その間もワイヤーを繋ぐ作業の手は止めずに。
     そこに、覚も部品を持ったまま。
    「そうそう。力仕事は俺と一に任せて、二人は電飾とボードの用意をしておけばいいんだって。で、これはどこ?」
     人懐こい笑みで聞いて、エリノアはいい加減覚えてよと、呆れ気味に次の場所を指差す。
     一は力仕事の先に、電飾の取り付け作業があると聞いてるので、軽く苦笑いをして。
     その様子に、イヴマリーは微笑みを浮かべた。それから思いついたように手をポンと叩いて。
    「……そうですわ。ティナ、ブランシュ、ノワール。あと、天ちゃんとリョウくんも借りれますか? それから、絵の具も」
     それぞれは、彼女たちの飼う犬、それと従える霊犬の名前。
     これを聞いた一は土台から飛び降り、駆け出した。
    「天様は大丈夫ですよ。絵の具は用意してないので、どこかで借りてきます」
     エリノアの制止も間に合わず。覚は、任せろとサムズアップ。
     イヴマリーは絵の具を心待ちに、今を楽しむ。
     そんなやりとりがあって、中庭から校舎に戻ろうとする少年は、途中でサンタを担いだ少女とすれ違う。
     少女の名は百舟・煉火(彩飾スペクトル・d08468)。煉火は担いでいたサンタ人形をドスッと地面に置いて叫んだ。
    「LIFE PAINTERSの諸君、電飾の用意は出来たかぁー!」
     煉火の言葉に、雪路・零人(破壊的快楽主義者・d09260)は一人、手を挙げた。
    「ねぇ、部長さん。これって戦闘できるようにするんだっけ? だとしたら、AIの調整がまだなんだけど」
    「いや、いらない。大丈夫」
     質問しておいて、なぜか自信に満ちていた零人の言葉を煉火は一蹴。
     すると次は、山咎・大和(彼女のためならいかなる事も・d11688)が手を挙げ。
    「点滅パターンの調節が、まだ残ってるよ……よし、出来た」
     わかりにくいが、この間、約10分。
    「それじゃ、突撃ィー!」
     号令と同時に、新妻・譲(高校生主婦・d07817)と高峰・紫姫(銀髪赤眼の異端者・d09272)の二人が、電飾の端を持って駆け出す。
    「なぁ、雪の結晶とかいろいろあったろ? どうするんだ?」
    「細かい物は、後でするそうですよ。まずは本体の虹からだとか」
     並走する二人の間に、赤い電飾のカーペットが出来ていく。これで中庭を突っ切り、巨大な虹を作るつもりなのだ。
     それを待つまでの間、手が空いた大和は、視線を巡らして、煉火が置いたサンタ人形を見つめた。
    「サンタの飾りつけでもしておきましょう」
     一瞬、備品という文字が見えた気がするが。
    「俺も……思いついた。っす」
     大和の一言に、月原・煌介(月暈の焔・d07908)も協調したのか、サンタ人形の周囲に電飾を配置していく。
    「クリスマスの主役ですからね。もっと目立つようにしないと……後でピエロの仮面でも着けましょうか」
     飾りつけを言い出した大和は、サンタ自体に電飾を取り付ける。
     そこに、同じく暇を持て余していた円・陽華(景陽の鐘・d00850)もやってきて、じっと見た後に一言。
    「煌介ちゃんの作ってるそれ、魔法陣よね? 可愛いから広げてあげるわ!」
     その提案を聞いて煌介は、地面に線引きしながら魔法陣の全体像を描いていく。
     そうやって、しばらくした頃。
    「二人ともお疲れ、次は細かいの行くよー。高峰ちゃんは休んでていいからね」
     煉火は、虹作りに走り続けていた二人を労い、譲に次の飾りを渡そうとした。
    「ちょっと待て、散々走った後だよ!? 察しろよ!」
    「むははは、ライバル心を抱いてる奴に送る塩はないのだよ」
     そのやりとりの傍で。
    「これ、なんですか?」
     紫姫は、丁度完成した煌介の魔法陣を見て、聞いた。
    「……願い、事。っすよ」
     煌介は一番近いと思った答えを返す。
    「……素敵ですね。私も何かねが……あ、あれ、目眩が?」
     返答に、紫姫も願い事をしようと思ったのだろう。途端、紫姫は急な目眩に襲われた。
    「ちょっと、やっと来れたと思ったら何よこれ?」
     そうして、紫姫がヨタヨタと倒れそうになる所を、横から咲宮・律花(花焔の旋律・d07319)が抱きとめて聞く。
     その時、遠くから声がかかった。
    「愉快犯的なテロリズム。一人二人ならば、あると思ってましたが、まさか団体様とは思ってませんでしたわ」
    「何か邪気みたいな物も感じますし、間違っても危ない物じゃないですよね?」
     真っ白な服装をしたミルフィ・ラヴィット(アリスを護る白兎の騎士・d03802)と、真っ黒な服装をしたフィリス・カーネリア(アンブレイカブルの原石・d09075)の二人である。
     二人とも『魔人生徒会』の腕章をつけていた。ちなみに、お互い初対面。
     やってきた白黒の少女たちの姿に、律花は舌打ちをして、仲間たちに指示を飛ばした。
    「陽華ちゃん、背中のソレ使って。煌介くんは首を捻ってないでサンタをずらす。虹も形を変えましょう。煉火ちゃん、いいわね?」
     煉火はオフコースと返して、陽華と共に魔人生徒会の刺客に立ち向かう。
    「あら、いい根性ですわね。褒めてさしあげ……キャァ!?」
     ミルフィが向かってくる二人を褒めようとした所に、不意打ちの雪球が飛んでくる。
    「今のは試射用の雪さ。玉は、まだまだあるからね、ドンドンいくよ」
     零人が懲りずに用意していた迎撃装置の仕業だった。そして次の瞬間には、雨のように雪球が吐き出される。
    「くっ、卑怯な……しまった!?」
     迫る雪玉に気をとられ、フィリスは陽華の接近を許してしまった。
     陽華はフィリスにも見えるように、にやりと笑い、背中のバズーカクラッカーを掲げて叫ぶ。
    「メリィー、クリスマーースッ!!」
     中庭に、巨大な炸裂音が響き渡った。

    ●青春の輝き
    「怪我人は出さない決まりじゃねぇのかよ! バールみたいの持ってるぞ!?」
     宮森・武(高校生ファイアブラッド・d03050)は、後ろを見つつも全力で走る。
    「いいから、逃げて、そして飾るのです。諦めなければロマンは終わりません」
     真ん中で緒方・宗一郎(月影の魔術師・d00117)が、走りながら答える。
    「そう、何人と我々の放つ天上(ヴァルハラ)の輝き、絶やさせはしませんわ!」
     有須・芳江(逆十字を背負いし反逆の乙女・d01572)も走りながら、校舎の壁に電球を引っ掛ける。
     3人は、浪漫探究部として、学校中にロマンを撒き散らすため、無差別的な飾りつけをしていた。
     おかげで、校舎の壁という壁に、星々が配置され、眩しいほどの電球が輝き、学校中の木に、スプラッタなヌイグルミが吊られた。
     最後のはともかく、3人はやり過ぎた。結果、魔人生徒会の刺客に追われる事になったのだ。
    「うふふ、ヌイグルミたちにあんな真似をして……相応の代償は覚悟してまして?」
     北条・華鳳子(劇薬ベラドンナ・d09377)は、スプラッタなヌイグルミを目撃した一人である。それ以降、笑顔で3人の追跡を始めた。
     その手で、緑と赤で縞々なバールのようなものをパシパシ打ち鳴らし、歩くような動きをしながら、等速で追いかけてくるあたり、狂気に近い物を感じる。
    「大人しくお縄について頂けませんか。このままだと、実力行使に訴える事になりますよ」
     華鳳子と共に、高倉・光(羅刹の申し子・d11205)も3人を追っていた。
     光は単純に、飾りの量が多すぎる事で口頭注意と思い、声をかけたのだが。なぜか全力で逃げ出したので追いかける事になったのだ。
     ただ、手に持つ道具はテープ、手錠、タバスコ、ミネラルウォーターと、何をする気か想像しにくい分、華鳳子より怖い。
    「ハッ!? これが、冒険のスリルというロマンなのではないでしょうか」
    「そう言えば。この魂(アルマ)の鼓動……。そういう事だったのね!」
    「んなわけあるかぁー!! いいから逃げるんだよぉぉぉ!!」
     そんな、3対2の危険な追いかけっこが続く中、他の校舎の壁の飾りつけをしているグループは、いたって平和そのものだった。
     ……普通、咎められるような事をする方が珍しい。というのもあるが。
    「ただいまー! ジュース買ってきたよー」
    「開けんのは、ちょいと待ってや。みんな揃てからや」
     エリオ・マニングス(おひさますまいる・d03094)は、飛び跳ねて帰りを告げ。共に飲み物を買いに行っていた桜庭・智恵理(チェリーブロッサム・d02813)は、こういう時くらいは皆で一緒に、と待ったをかける。
     二人の声を聞いても、作業の手を止めない犬塚・沙雪(炎剣・d02462)は、そのまま振り返り様に。
    「マフラーを完成させる事を……強いられてるんだ!」
    「あかんよ、さゆ君。そういう時は気ぃ抜かな。ほら早ぉ」
     沙雪の渾身の台詞は真っ二つにされ、智恵理に引き剥がされた。決して、選ぶネタを間違えたわけではない。
    「……こうして見ると、もう少し大きめでも、よかったかもしれませんね」
     すでにココアの缶を受け取っていた安中・榛名(超灼乙女マハルーナ・d07039)は、沙雪が引き剥がされるのも気にせず、壁の電飾を見て言う。
     大きさは特に考えてなかったため、もう少しスペースをとってもよかったと思ったのだ。
    「これでも、十分だと思いますですよ。あんまり大きいと、メカピちゃんとヒメカちゃんじゃなくなるのです」
     それに、平坂・月夜(常闇の姫巫女・d01738)が横から言葉を添える。
    「それなら、草原の緑を目一杯広げようよ。メカピ達も走った事がないような、とっても広いの!」
     下から聞こえた声に、榛名と月夜は視線を下げる。そこには月夜に向けてミルクティーの缶を差し出すエリオの姿があった。
     その言葉に、笑顔を返して月夜は、缶を受け取る。
    「よーし、皆持ったな。メカぴ研の未来に、あとイルミネーションの完成の無事を祈ってー!」
     缶が行き渡ると同時。いつの間にか音頭を取っていた沙雪の台詞に、皆が缶のフタを開けて。
    「かんぱーい!」
     不思議と全員の声は重なった。
    「あぁ、下の奴らは賑やかでいいな」
     その声を高い所で聞いていた東堂・イヅル(デッドリーウォーカー・d05675)は、窓枠から身を起こす。
     イヅルが話しかけている相手は、双子の妹の東堂・イヅナ(中学生エクソシスト・d02921)なのだが。返事はない。
    「いやさ、間違って悪かったよ。……でもさ、仕方ないだろ? 俺はあの時、よいつが気の毒で仕方なかったんだよ。な?」
     よいつとは、彼らと共に作業する高野・ひふみ(殺人鬼・d11437)のライドキャリバーの名である。今回、荷物持ちにされていた。
     そして噂はなんとやら、ひふみ本人も違う窓から顔を出して。
    「よいつは大丈夫です。イヅルさんも次の電飾を、トラ猫くんでお願いします」
     地味に難題を残して顔を引っ込める。
    「暗い雰囲気は禁止なんだよ。みあの目が黒いうちは許さないの♪ ほら、イヅナちゃんも、次のキラキラをつけにいくんだよ♪」
     次に、ひふみと入れ違うように、椿・深愛(ピンキッシュキャラメル・d04568)が現れて、イヅナの手を取り。
    「あ、おい、ちょっと待……」
     イヅルは妹が連れられて行くのを止めようとしたが、そこで気づいた。イヅナがニヤニヤと、こちらを見ている事に。
    「たまには、こういうのも悪くなかったでしょ? 私はライトアップで集大成を見るんだから。それまで、ヘコんでる暇なんかないのよ。さ、行こ、深愛ちゃん」
     一気にまくし立て、深愛とイヅナは、次に何を飾ろうかと話し合いながら去っていく。
     その背を、イヅルは呆然と見送って。
    「イヅルさん、トラ猫くんを、大至急」
    「だぁぁ! わかってるって!」
     二度目のひふみの要請に、イヅルも作業に戻る。
     ただ気がつけば。やりきれないモヤモヤと一緒に、少しの安心感があった。

    ●思いを込めて
     日も傾き始め、空が赤く染まる頃。人数の違いもあるが、幾つかのイルミネーションは、完成が近づいてくる。
     傾向として、多人数より少人数の方が早く終わるのが多いのも面白い結果となった。
     花桐・咲良(桜ひとひら・d02724)と加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786)の二人も、その例に漏れず。手早く作業が進んだ方である。
     二人はモミの木を、白い綿雪、ピンク色の電飾で飾り、様々な動物たちのオーナメントで飾るという、クリスマスツリーを作るつもりでいた。
     ただ、問題があった。
    「咲ちゃん、だいじょうぶ?」
    「うぅー、咲じゃ届かないのっ」
     下はある程度いけたが、それ以上は身長が足りなかった事だ。
     そうやって、途方にくれている所に声がかかる。
    「困った時はなんとやらってね。俺に任せなよ。いいよね? アイリスちゃん」
     二人は声の主、九重・風貴(緋風の奏者・d02883)を見上げた。
     風貴は、アイリス・シャノン(春色アンダンテ・d02408)に確認を取る。
    「で、でもお兄さんとお姉さんの飾りつけは、いいんでしょうか?」
    「私たちなら、大丈夫なのよ。私も手伝うから問題ないの」
     そうして、4人でのツリーの飾りつけが再開した。
    「咲は黒猫で、さゆちゃんは白うさぎちゃん、それから」
    「さゆのお兄ちゃんの、わんこと、亀さんは、同じところに」
    「ほいほい、お安い御用。いいねぇ、こういうの」
     咲と彩雪の二人の出す指示にそって、風貴とアイリスが飾り付けていく形で作業が進む。
     そこで、パシャリとシャッターの音が鳴る。
     一瞬、フラッシュで驚く4人が見ると、いつの間にか腕章をつけた少年、雁屋・蝸牛(突撃隣の食いしん坊万歳・d01675)が居座っていた。
    「魔人生徒会なの!? 風貴くんは何も悪い事はしてないのよ!」
     慌てたアイリスは、風貴をかばうように立ち塞がる。しかし。
    「風貴。あぁ、向こうのラブメッセージを作った。どれどれ……」
     蝸牛は淡々と手元のデジカメを弄る。やがて目的の画像を見つけ、それを4人に見せながら。
    「これだよね? なかなか思いきった事するなぁと思って、撮ったけど」
     そこには、デカデカと輝くネオンのような太文字が、愛を刻んでいた。傍に控えめな愛も刻まれている。
    「別に取り締める気はないんだ。もっと凄いのもあったしね。……とりあえず、終わったらあの棟の屋上に行くといいよ。きっと良い物が見れるから。それじゃあね」
     呆然とする4人に、蝸牛は一息に言って姿を消した。最後に風貴には腕章の文字が『光画部』だというのが読めた。
     そんな事があった遠く。学校のプールを飾る場所に選んだ二人、椙森・六夜(靜宵・d00472)と紫雲寺・りり(小夜風・d00722)は、缶コーヒーは飲んで、一息ついていた。吐く息が白い。
    「うん、なかなかの出来かな」
    「力作っ、夜が楽しみだねー」
     二人は、プールのフェンスで複雑に絡み合った大量の電飾を見る。
    「思ったより短かったな。途中、絡まった時はどうなるかと思ったけど」
     少し悪戯な笑みを浮かべて、六夜は言い。
    「いいじゃない。初めての事だから、ちょっと興奮しちゃっただけよ」
     軽く頬を膨らませて、りりが返す。
     いざ、会話だけとなると、微妙に時間を長く感じた。
    「もしも誰かが、私達のイルミネーションを見て、歓声をあげたら……」
    「……その時は、その時さ」
     プールサイドの二人は、じっと夜を待つ。
     目立たない場所、普段は意識もしない場所。そういった場所でもイルミネーションは作られる。
     そういう場所だからこそ、飾りを考える価値があるのだとも。
    「そっちのケーブルは? 早く終わらせないと、手元が見えなくなるから急いで」
    「焦らなくても、まだ十分以上あるって」
     校舎裏という場所を選んだ瀬芹・慧一(胃薬常備の胃痛くん・d01052)率いる『文芸部・跡地!』のメンバーは、地面の限り巨大な『Pao de』と呼ばれるサークルを描こうとしていた。
     この形状は、モチモチ感が名物の某ドーナツを想像するとわかりやすい。
     この間にも、いち早く返事をしていた宮瀬・冬人(イノセントキラー・d01830)は、テキパキと指示通りにケーブルを繋ぎに動いていた。
     一方、幼馴染の声を聞いた、白・彰二(虹色頭の反抗期・d00942)はじっと、電飾を眺める。
    「あれ、しょーちゃん、どうかした? まだ肩叩いた事気にしてる?」
     さすがに気になったのか、走り回っていた笑屋・勘九郎(一寸法師スパニエル・d00562)は、足を止めて聞いた。
    「いや、それは吹っ切れてるけど。何か違和感を感じんだよ」
     なら、見つけてくるよ。と返事をして勘九郎はまた走る。各所を見て回っているのだ。
     その間に、神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)は森村・侑二郎(無表情イエスマン・d08981)を呼び止めて。
    「でっかい飾りも、大変だからさ。高い所のお友達を呼ぼうと思うんだ」
     上から見れば分かりやすいからと、1、2、3、とカウント。
     次の瞬間、天狼の手から、鳩が数匹飛んでいく。
    「すごいですね……」
     侑二郎の返事は妙に薄っぺらく聞こえたが、それでも天狼は喜んだ。
    「やった、大成功、しかも褒められたよ!」
     その姿に、慧一は乾いた笑いを漏らすしかなく。ついには、胃が痛み始める。
     そんな時、まだ違和感を探していた彰二の肩に、何者かが手を乗せた。
    「おい、いい加減にし」
     振り返りながら文句を垂らせば、ぷにっと、頬を突かれる。
    「はいアウトー! 綺麗に引っかかったね」
     そう言う大正ルックの少女、狩野・スガタ(何処の何奴か・d03740)は『魔人生徒会』と書かれた腕章を着けていた。
     そのまま、彰二が言葉を発するより早く。スガタは言う。
    「タンマ、ちょい待ち、私は親切にも、形が歪んでる事を教えにきただけよ」
     上から見たからね。とスガタは歪んでる箇所を指差す。
     そうなると、後の対応は素早かった。
     彰二が慧一に伝え、慧一がへこみ、その間に冬人が歪みを修正。
     再び慧一が復活するという奇妙なコンボが続いた。
     後に冬人は、こう語る。
    「こういう共同作業も醍醐味だよね」
     どうにか、夜がやってくるまでには間に合った。

    ●イルミネーションアタック
    「夜か……」
     一人、校舎の壁に立ち並ぶ数々のイルミネーションを眺めて、篤木・優也(夜風を浴びて・d05149)は呟いた。
     彼の前にあるのは、雪原を描ける光のトナカイ。4種類の点滅がまるで動いているように見せる仕組みだ。
    「それでは、行きましょうか」
     やがて動きに満足したのか、優也はトナカイに背を向ける。
     また、校舎の片隅にある、桃色の光を放つ花の下。
     陽守・桃香(残景・d11435)に月守・代近(朔之夢・d11811)は、提案する。
    「そうだ、一緒に見て回ろうか」
     それに桃香は聞き返す。
    「わたしでもいいの?」
     ただ、聞く意味がないとも知っていた。
     飾りつけに困っていた少女に、救いの手を差し伸べるような人だから。
    「もちろんさ」
     ほら、そう呟いて桃香は微笑む。
     今日が初対面、名前を知ったのはついさっき。
     二人は手を繋ぎ、今を楽しむ様にゆっくりと歩き出す。
    (今日は、厄日か……)
     クラリス・ブランシュフォール(青騎士・d11726)は歩きながら、心の中で呟いた。何度も鎧の置物と間違われたのだ。
     しかも、景観を損うとかで、鎧の上に電飾を巻いている事が、それに拍車をかけている。
     そう思いながら校門に近づいた時、向こう側から声が聞こえてきた。
    (もしや、怪しい相談)
     最初に否定するべき可能性を持って、クラリスは様子を見る事にした。
     ただ実際には、友達同士の二人の少年と一人の少女がいるだけだったりする。
     それぞれ、ワイルドな少年を永井・明透(贖罪の鎮魂歌・d11843)、ぼんやりとした少年を宮都・螢(荊冠の囚人・d11844)、明るい雰囲気の少女を朱華・鈴(高校生サウンドソルジャー・d11845)と言ったが。クラリスには知る由もなかった。
    「りんちゃんの、星、かわいいね」
    「ホーちゃんもオーメナントボール、可愛いわ♪」
    (なんだ、僕と同じか)
     厳密にでなくても違う。
    「アキちゃんはコレ。ぐるぐる~」
    「何で俺に巻くんだよ。木に巻けよ!」
    (……立ち聞きはいけないな。騎士として人として)
     そこで普通の会話だと諦めをつけ、クラリスが立ち去ろうとした時、異変は起きた。
    「きゃーアキちゃんすてきーだいてー」
    (なに?!)
    「きゃーっ! 強盗!」
    「なんでカラーボールがあんだよ、シミになろぁ!?」
     強盗と叫びを聞いた瞬間、クラリスは鎧姿からは想像もつかないほど素早く飛び出し、強盗と思わしき少年の体を持ち上げていた。
     実際には、螢によってぐるぐる巻きにされ、鈴によって着色された明透だったのだが。
    「あー、魔人生徒会の人? 逃げないと♪」
    「にげるー」
    「待て、さっさと逃げるな!? 降ろせよ、明らかに俺が被害者だろうが! ……なんか喋ろうぜ!?」
     結果として、明澄の訴えが考慮される事はなかった。
     校門でそんな騒ぎがあった頃、図書室前では、優雅で小さなお菓子パーティが開かれていた。
    「途中で光らせた時も綺麗だったけど。完成するともっと綺麗だね♪」
     風音・瑠璃羽(散華・d01204)は、そう言ってはクッキーを食べる。
    「そうだね。滅多にないよ。女の子とみっちゃずげふっ!?」
     鈴城・有斗(高校生殺人鬼・d02155)の台詞は、叩き込まれた瑠璃羽の鉄拳で途切れる。
    「有斗くんは何か言いました?」
     そこに、蒼井・夏奈(小学生ファイアブラッド・d06596)がデジカメを持ってきて。
    「お菓子のお家も出来たし。一緒に写真とろうよ! あれ、有斗はどうしたの?」
     鳩尾に入った一撃に呻く有斗を尻目に、二人の少女は位置取りを決めていく。
     そして、セルフタイマーを入れてから、光を纏うお菓子の家を背後に三人は並んだ。
    「10秒だから、あと7、6、5……」
     夏奈がカウントダウンを続ける。その際に、立ち直った有斗は、瑠璃羽の耳元で何かを囁いた。
    「はい、チーズ!」
     取れた写真では、有斗が裏拳を叩き込まれており、取り直しをする事になったのは、言うまでもない。
     その頃。学校の階段の踊り場で平田・カヤ(被験体なんばー01・d01504)は、窓の外を見ていた。
    「記念撮影みたいだね、楽しそうだ」
     巨大な3段クリスマスケーキの前で、ボードを持った4人の人影と、犬たちが並んでいた。
     中庭にでんと立つそれは、人の目を強く惹きつけた。
     ケーキの段ごとに、電飾で作られた何匹もの犬たちがいる。それもポーズにダブりはなく。土台の組みから、ホワイトシート……よく見れば、斑点のような犬の足型もある。
     手の込み方なら、恐らく一番だろう。
    「だな。ただ、霊犬は写真に写るのか?」
     同じく、外を見て楪・颯夏(風纏・d01167)は疑問を口にする。
     カヤもさすがに知らないので、返事はうやむやにして、残りのスノースプレーを窓に吹きかけた。
    「ふむ。君のトナカイも、中々様になってきたじゃないか」
    「もうすぐ、底をつくけどね」
     最初に描いたトナカイは、原型を保ってなかった。それを考えると素晴らしい進歩だ。
     カヤがそんな事を思って、トナカイの向こう側を見ると、さきほどまで写真を撮っていた4人以外の、周囲にいた10人が混ざって写真を撮ろうとしていた。
    「アレは、さっきまでリースを作ってた人たちかな。魔人生徒会の刺客の人も混ざってるけど」
    「ボクも、クラッカーの音があそこまで凄まじいとは思わなかった」
     白黒の刺客たちに、なぜか徹底抗戦した8人は、虹をリースに作る変える事で妥協していた。そのサイズはクリスマスケーキを囲うほどあり、二つが組み合わさって、より映えて見えた。
    「それじゃあ、僕たちも屋上に行こうか。あの人が言ってた通りなら、全部のイルミネーションが見れるって」
    「そうだな。そうしよう。ボクも楽しみだ」
     そんな軽いやりとりを続けてしばらく。二人は屋上の扉を開く。
     瞬間、二人を包んだのは止む事のない歓声。
    「向こうの星は、僕が仕掛けた星ですね。ロマンを貫いた甲斐がありました」
    「ですが……こっちの星々の方が、可憐(ファンタスティック)な気がします」
    「風貴くんの電飾、ここからでもよく見えるの」
    「俺の透ちゃんへの思いの大きさ、さ。アイリスちゃんのも、流サンにきっと伝わるって」
    「アレはえっと、ドーナツ? あ、わかった!」
    「名前は出すなよ。いろいろ面倒だから」
    「俺の、俺のロマンが、ただのヌイグルミにされただと」
    「結局、タバスコドリンクの使い道、なくなっちゃいましたか」
    「凄い、ここからでもプールに反射して見える。天の川も、アルデバランも全部」
    「自分で感動する前に、人を感動させない?」
     次々とやってくるイルミネーションアタック参加者と、魔人生徒会の刺客。
    「降ろせっての、螢と鈴も、説得してくれよ! いや、鎧さんもメリークリスマスじゃねぇよ!?」
    「いやっほー、イッチバーン……って、あれ?」
    「下に居た時から、騒がしかったでしょうに。ほら、煉火も今の内に楽しみなさいな」
    「いました。カピラちゃんとヒメカちゃん、いましたよ」
    「見てみて姉さん、ここなら、ワンちゃんたちがみんな見えますわ!」
    「待てイヴ、あんまり乗り出すな。危ないから」
    「予想通り、絶好のロケーションだったかな」
     その全ての声が、成功を意味していた。
    「颯夏ちゃんは、どれを見る?」
    「全部だ!」
     しばらく、屋上の喧騒は続くだろう。
     クリスマスは、まだ始まったばかりなのだから。

    作者:一兎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月24日
    難度:簡単
    参加:54人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 3/素敵だった 13/キャラが大事にされていた 3
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