クリスマス~サンタが君のもとへやって来る!

    作者:海あゆめ

    「よう! お前らクリスマスイブの日って予定あるか?」
     武蔵坂学園で行われるクリスマスパーティーの準備が着々と進められていた、ある日の放課後の空き教室。緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)が、意気揚々と黒い長靴を履きながら、突然そんな事を聞いてきた。
     よく見ると、黒い長靴の上は真っ赤なズボン。その上に、白いもこもこの飾りがついた赤いコート。おまけに、お揃いの赤い三角帽子まで被って。
    「ねぇ、ねぇ、それ何してんの?」
    「何だ、見てわかんねーか?」
     他の灼滅者達と一緒に空き教室にやって来ていた、斑目・スイ子(高校生エクスブレイン・dn0062)が首を傾げてみせると、何だかとってもいい笑顔が返ってくる。
    「サンタだサンタ! 今年のクリスマスイブは、ちびっ子共に菓子を配るんだぜ!」

     香蕗が言うには、こういう事だ。
     今年の武蔵坂学園のクリスマスパーティーの企画の一環として、サンタクロースに扮した学生達が街へと繰り出し、お菓子を配り歩くというボランティア活動がある。
     学生サンタ達の行き先は、東京都内の児童養護施設や公園などを中心に何箇所か定められており、さっそくこれに志願した香蕗は都内の児童養護施設でお菓子を配るつもりなのだという。
    「親のいねぇ子どもらにも、いい子にしてればサンタは来てくれるんだって信じてほしいしな!」
    「ふぅ~ん?」
     終始笑顔で上機嫌に、今度は大きな白い袋にバター飴の小袋を詰め込み始める香蕗。スイ子はそれを尻目にしながら、教室の机の上に置いてあった企画内容が書かれたプリントを手に取って目を落とす。
    「それじゃ、あたしは公園に行こっかな! イブの日に一人でいるような寂し~い人にお菓子あげるの♪」
    「……お前、性格悪いな」
    「えぇ~? そんなことないよ~! だって、お菓子と一緒に、こうやったげるんだよ?」
     思わず顔をしかめた香蕗に、スイ子は悪戯っぽく笑って近づいた。そして、ぴっと立てた人差し指を香蕗の唇に押し当てる。
    「ちゃ~んと食べてね♪ 手作りだぞ、と♪」
     ばちこん、とウインクを飛ばしながら、スイ子は離した人差し指を、今度はそのまま自分の唇に当ててみせる。
    「……っ!? ばっ! おまっ、それっ、かかか、間接…………っ、だろうが!!」
    「にひっ♪ いい反応、いい反応♪」
    「ばかやろう! お前っ! もっと自分を大事にしろ! 親が泣くぞ!!」
     面白がってケラケラ笑うスイ子からもの凄い勢いで距離をとって、香蕗は肩で息をしながら声を荒げた。顔が見事に真っ赤である。
    「……っ、とっ、とにかくだ!」
     香蕗は白い付けひげをそそくさと付けながら、誤魔化すようにわざとらしい咳払いをひとつ漏らす。
    「今年のクリスマスイブの日は、街に出て菓子を配るぞ! 手が空いてる奴は一緒に行こうぜ! で、皆で楽しいクリスマスにすんべ、な!!」
     なお、余ったお菓子は食べたり持ち帰ったりしても良いとのこと。施設や公園を回り終えたら、みんなでお疲れ様のジュースで乾杯をしつつ、余ったお菓子を食べるのも良いだろう。

     12月24日、クリスマスイブ。武蔵坂学園のサンタクロース達が、恵まれない子ども達や恵まれない大きな子ども達のもとへやって来る……!


    ■リプレイ


     12月24日クリスマスイブ。今日はサンタクロースに扮した武蔵坂学園の学生達が、都内の児童養護施設や公園へと繰り出している。
    「喜んでくれるかなぁ」
    「これでちょっとでも幸せになれるヤツが増えたら良いよな」
     やってきた児童養護施設の前、ちょっぴり緊張ぎみに深呼吸を繰り返すりりの横で、治胡は嬉しそうに言いながら大きな白い袋を担ぎ直した。
     いざ、子ども達のもとへ! と皆で歩き出したその時、真っ青な顔で哮が叫ぶ。
    「サンタって夜に子供の家に来て、戦車に乗って、空から屋根を突き破って侵入して、悪いことをした子供を袋につめて、シベリアに連れて行って強制労働させる、赤い返り血と白ヒゲの危険人物なんだろう!?」
    「はははっ、違うっつの! サンタは子ども達にプレゼントを運ぶんだぜ!」
     香蕗が大笑いしながら手を横に振ってみせた。
     誤解も解けて一件落着。子ども達に夢と希望を運ぶため、サンタクロース達は児童養護施設の門をくぐる。

     一方その頃、都内のとある公園にて。
    「リア充爆発しろーー!!」
    「「うおおぉぉぉっ!!」」
     律の叫びに呼応する、男達の咆哮。妙な熱気に包まれた公園。黒いサンタに扮した舜が持っていた袋からお菓子の包みを掲げてみせる。
    「クリスマスを騒げる友達もいないお前等に告げるー。ここに居る理由を言え。菓子を恵んでやるぜ~」
    「ついさっき振られました!」
    「プレゼントだけ買わされました!」
     涙ながらに訴える男達。よく分からないけど、気の毒に思ったゆまが、一人の男にお菓子の包みをそっと手渡す
    「げ、元気出してください……ね? メリークリスマス!」
    「……! ありがとうございます! よ、良ければこの後二人でどこかに……」
     調子に乗った男が、ゆまの手をガシリと取ったその時。
    「ほら、コレやるから、行け」
     目が笑ってない笑顔で律がお菓子の袋を差し出し。
    「悪い子はいねーかー!」
     黒サンタ舜が袋から取り出した炭を投げつけて男を追い払う。
    「ほえ? 二人ともどうしたの?」
     ナンパされたことにも気付かず、ゆまは、きょとんと小首を傾げるのだった。

     その頃、児童養護施設を訪れたサンタ達は元気な子ども達に迎えられていた。
    「Merry Christmas! 僕たちは、そしてここの先生たちも、君たちが良い子にして、いつか立派な大人になってくれることをいつも願っていますよ」
     ユーリーが白いヒゲ眼鏡を、くいっと持ち上げてそう言うと、子ども達の笑い声がどっと沸く。
    「よーし、そうだ! サンタじいちゃんは笑ってる子が大好きなんだぜ!」
    「さー、行くぞ! 腕前は保証しないがな!」
    「みんな、一緒に歌ってね!」
     克也がアルトサックスを。鳳臣はホルン、翡翠がクラリネットで、飛び出したのは楽しいクリスマスソング!
     素直じゃないのか、隅っこでふてくされている子どもを見つけて、臣は屈み込みながら子どもの頭に、ポン、と手をのせた。
    「これは秘密なんですけどね、実は私ははるばる金星からやってきたんですよ」
    「……本当?」
    「プレゼントも持ってきましたからね」
     シー、と人差し指を立ててみせながら、臣は子どもにお菓子を手渡してやる。
    「クリスマスですから、楽しまなければ損ですねぇ」
     笑顔になってきた子どもを、流希はウクレレでクリスマスソングを弾きながら賑やかな輪の中へと促してやる。
    「ほーら、しっかりつかまってー」
    「きゃはははっ!」
    「わぁ、すごいすごい!」
     小さな女の子を肩車してみせる樹咲楽。はしゃいで笑い声を上げる女の子に、側についていた雪風も思わず笑顔で拍手を送った。
    「そら、キリンだぜ!」
    「ここをこうして……犬……のつもりっ」
     治胡とりりは、子ども達の目線に合わせてしゃがみ込み、長い風船で動物を作ってプレゼント。
    「イヌ~?」
    「えへへー、見えないねーっ」
    「おらー、良い子にしねーと菓子やらねーぞ」
    「やだー! 良い子にするーっ!」
     二人は子ども達と一緒になって楽しく笑い合う。
    「やーっ!」
    「とぉーっ!」
    「…………」
     最初は怖がられていたものの、慣れてきた男の子達に攻撃されながら、宗志朗は無言のままプレゼントを配って回る。
    「あ、ありがと……」
     プレゼントを受け取った女の子が、宗志朗のフードの赤いファーに、もふっと触れる。
     サンタというより、何かの着ぐるみ的ポジションである。
     お菓子を配っているサンタのもとには、たくさんの子ども達!
    「はい、皆さん並んでくださいね、慌てなくてもまだまだたくさんありますよ」
     綾鷹が次々とお菓子の入った包みを取り出してみせると、子ども達の歓声が上がる。
    「こんなにたくさんのお菓子、どこに隠しているのかって? ふふふ、それはね……」
     集まってきた子ども達を集めて、磯良が何やらひそひそと。
    「えー! ホントー!?」
    「スゲー!」
    「ふふふ、ここだけの秘密だよ」
     子ども達に何を吹き込んだのか、和装の胡散臭い仙人風サンタは、にっこりと悪戯っぽく笑う。
    「緑山さんもいかがですか? 中に星のメダルが入っていたら、きっと願いが叶いますよ」
    「お、ありがとな。けど、当たりのやつは子どもらに渡ってほしいよな!」
     羽千子が差し出す手作りのマドレーヌを、香蕗は中に何も入ってなさそうなのを確認しながら受け取った。
     プレゼントやお菓子を貰って、ほくほく笑顔な子ども達。
    「サンタのおねーちゃん、今日はどうもありがとうございましたっ!」
    「また来るわ。その時は、また遊びましょうね」
     ぺこりと小さくお辞儀をする元気な男の子に、羽翠は優しく笑いかけた。
    「サンタさん、もう行っちゃうの?」
    「メリークリスマス。そのクマさん、かわいいな。一緒に食べるといい」
     名残惜しそうに見つめてくる、クマのぬいぐるみを抱いた女の子。その小さな手にお菓子の包みをしっかりと握らせて、直人は努めて表情を和らげてみせた。そして、決意を固める。
     この子ども達の笑顔を護るためにも、ダークネスの支配を許してはならない、と。


     小さな公園に、天使のようなサンタがやってきた!
    「貴方にも聖夜の共を。例え見えずとも、貴方を忘れぬ誰かは必ずいます」
    「今日のサンタさんは悩み事や愚痴や相談も聞くのですよっ」
     とっても親身になってくれる恵理と朱梨。
    「おにいさん、よかったらいかがですか?」
    「あなたの運命の人はきっと……いいえ、必ずどこかにいるはずです。だから元気を、笑顔を出して下さい」
     澄んだ瞳でお菓子を配り歩く珊瑚に、落ち込む少年の手を握って満面の笑みをみせる結唯。
     だが、配られたお菓子の一部には世界一まずいと評判の外国製のお菓子が混じっていたり、掛けたお誘いを光の速度でお断りされたりと、昨今の天使達はわりと厳しいようで。
     ずずん、と落ち込む男達。だが、その時、一筋の光明が!
     眩しいミニスカートのサンタ服を着たレイラに、熱い視線が集まっていく!
    「い……いやー!? 斑目さん! たすけてー!」
    「うーん、おねいさん思うに、君たちがイケナイ子なんじゃない? にひっ♪」
     悪戯っぽく笑って、スイ子は傍観を決め込んだ。

     次の児童養護施設へとやってきたサンタ達。
    「メリークリスマス! いい子にしてた?」
     ワンピースにケープの女性らしいサンタ衣装。少しぎこちなく、でもにっこりと微笑んで、篠は子どもに目線を合わせながらお菓子を配る。
    「よし、良い子だ……」
     サンタ帽子をのせたコアラの被り物な鏡は、真顔で子どもにお菓子を配りながら優しく頭を撫でてやる。
    「だはははっ、部長がまさかのコアラサンタ!!」
    「あははっ、変なの~!」
     誠が大笑いすると、子ども達も釣られて笑い声を上げた。そんな様子に、鶫はちょっぴり呆れたように息をついた。
    「真月は子供と同レベルね……それはそうと、私もズボンにすればよかったわ……っくしゅん!」
    「おいおい、大丈夫か? そんなミニスカートだから……って……」
    「あー! おにーちゃんお顔が真っ赤!」
    「おにーちゃんとおねーちゃんって、デキてるのー?」
    「う、うるせー! どこで覚えたそんな言葉ー!」
    「ちょっ……! もう! ちびっ子相手でも容赦しないんだから!」
     誠と鶫が、子ども達と一緒になって走り回る。
    「……元気だな」
     鏡は少し気にしてそれを横目で見やるが、放っておいても大丈夫そうだと、コアラの被り物のまま黙々とお菓子配りを続行した。
    「おねーちゃん達、今日は来てくれてありがと!」
    「……! こちらこそ! 今日は素敵なクリスマスをありがとう」
     嬉しそうにお礼を言ってくれる小さな女の子。篠の緊張もすっかり解れて、自然と笑顔も零れ出す。
    「こんにちはー猫サンタです。良い子の皆にお魚クッキーをプレゼントに来たよ」
    「こほこほ風邪の子は治ってからやで。楽しみに取っときや」
     猫耳尻尾なサンタのカエデと、犬耳尻尾なサンタの采は、子ども達の目の高さまでしゃがみ込んで、手作りのクッキーを配っている。
    「良い子にしていれば、来年もきっと会えますからね……ふふふ」
    「うむ、何時もと違う様子のメイもまた可愛らしいものだ」
    「ク、クラリーベルさんの手作りのクッキー美味しそうですね……!」
     にこにこ、子どもの頭を撫でながらお菓子を配る迷。その様子にクラリーベルが思わず和めば、焦ったように照れた表情が返ってきた。
    「メ、メリー……」
    「もう、坂部さん顔引きつってるよ?」
    「……頼んだ」
     やっぱり言えなかった、とどこかしょんぼりする芥一郎に、一樹は、仕方ないなー、と自分の中のテンションを4割増しにする。
    「ヨーホー! メリークリスマース!」
    「わあぁ! サンタさんだー!」
    「ケーキだーー!」
    「わーっ、そ、そんなに一気に来ちゃダメだって! そんな子にはプレゼントなしだからねー!」
    「ほら、押したりするんじゃないぞ。好きなのを取って食え」
     テンションを上げた結果、喜んだ子ども達に押し掛けられて、飲まれていく一樹。芥一郎は少し慌てながら子ども達を並ばせて、お菓子を配っていく。
    「ほら、こぼしたらすぐに脱ぐ。シミになるからな。ゴミはゴミ箱だぞ!」
    「おにーちゃん、ありがとう!」
    「……オレは、おねーちゃんだ、おにーちゃんじゃない」
     いろいろ世話を焼いていたコウが、うっかり性別を間違えられる。
    「木を隠すなら森の中、サンタクロースを隠すならサンタクロースの中……フフフ、よもや本物が紛れてるとは思うマイ!」
     39代目サンタクロースを自称するサンディが、得意げに子ども達の前に立つ。
    「さあ子供たちよ、プレゼントを受けと……やめなサイ、ボウシを引っ張るのはやめなサイ!」
     が、一瞬にして子ども達の渦に巻き込まれてしまった!
    「はわわー!?」
    「おーい、しっかりしろー?」
     巻き添えを食って子ども達に埋もれるレイラを、香蕗が救出。ついさっき公園からこちらに逃げ込んできたばかりなのに、とんだ災難である。
    「ほら、喧嘩はだめよ。悪い子はなまはげに食べられちゃうわよ!」
    「ええっ!?」
     プレゼント入りの風船を配りながら銘子言うと、それを聞いた子どもが、ぎょっと目を丸くした。
    「そうそう。良い子の所にはサンタクロースが来て、悪い子の所にはナマハゲがお説教しに来るんだよ」
     そんな子ども達の様子を、カメラで撮影しながら蝸牛。
    「なまはげこわいー!」
    「ああ、でもほら、今日はサンタクロースが来たから……良い子で良かったね」
    「う、うんーっ!」
     なまはげ効果でもきちんとお行儀も良くなった子ども達。
    「……くっ。ズボンがなければ完璧だった……! いやでも、先輩がミニスカだなんてそんな……!」
    「み、ミニスカだなんて……雪之丞さんたら……もう、変なことを考えないで下さい……」
     そして雪之丞と璃耶は、揃って何やら照れ照れないい雰囲気。
     何だか皆楽しげなのに、自分のところに子どもが来ない。淼は辺りを見回した。
     無言で涙を浮かべる少女。
     足を震わせながら睨んでくる少年。
     これではいけない、と淼は可愛い動物の飴細工を手にして構える。すると、恐る恐る近寄ってきた男の子が、飴を素早くもぎ取って走って逃げていく。
    「……メリークリスマス♪」
     精一杯の笑顔で手を振った。返ってくる子ども達の悲鳴!
     サンタの格好も、プレゼントも完璧だったはず。
    (「何故だ? いったい何が駄目なんだ?」)
     今日は一人反省会が必要そうだ。


    「メリークリスマス♪ 良い子の皆にプレゼントを持って来たよ♪」
    「メリークリスマス! みんな良い子にしてるかなー?」
     みんなで作ったクッキーを、ルームシューズにできるクリスマスブーツに詰めて。笑顔でプレゼントを差し出す咲耶の横で、ひよりは集まってくる子ども達の頭を優しく撫でる。
    「みんな並んで? サンタさんの手作りだよ!」
    「良い子はちゃんと並ぶんじゃー。並べ、並べって!」
     集まってくる子達と同じくらいの沙奈と春も一生懸命お手伝い。
    「ほら、皆いい子だったかな? サンタさんからプレゼントじゃ!」
     もみくちゃにされてる春を助けるように、やんちゃをしている子どもをひょいと抱き上げて、皐はにっこりと笑顔をみせる。
     仲間達も笑顔。子ども達も笑顔。みんな笑顔。
    「うん! 皆が笑顔なら満足!」
     上機嫌に、悠はクリスマスソングを口ずさむ。お世辞にも上手いとは言えない歌だけど、子ども達も笑って喜んでいる。
    「メリークリスマス! いい子にはサンタさんが来るのよ!」
    (「違和感ゼロ……」)
     子どもに交じって、笑顔でお菓子を配っている妃里を見やって、司は思わず笑いそうになるのを堪えた。
    「メリークリスマスである! サンタの国の王子である我輩が、プレゼントを持ってきたであるぞ♪」
     もこが子ども達に手渡すのは、フェルトの靴下に入ったプレゼント。
    「良い子にしてたら、来年も来るのである!」
     本当は自分もプレゼントを貰う役をやりたかったのは心の中に追いやって、もこは笑顔でプレゼントを一生懸命に配る。
    「ついでだ、こいつで遊ぶといい! よっしゃ! ついでに爆発だ!」
    「きゃあっ! や、八雲さん!? 何をしてるんですか! って、ああ!? 子供達にそんな不浄なプレゼントを!?」
     クラッカーを鳴らしたり、子ども達にゾンビが出てくるカードゲームなんかを配ったりする八雲に、美賛歌は抗議の声を上げた。が……。
    「まぁ、クリスマスだ! 子供達も楽しんでるじゃないか? なぁ、諸君!」
    「うんー!」
    「ゾンビかっけー!!」
     子ども達は案外とっても楽しそう。
    「むぅ……そう、ですね。子供が楽しいのが、一番大事ですものね」
     シスターとしては釈然としない部分があるけれど。言い返す言葉もない、と美賛歌は渋々口を噤む。
    「ふぉっふぉっふぉ、拙者謹製忍者菓子が欲しい良い子はござるかのぅ」
     バック転で登場してくる信蔵には、子ども達も大興奮! 白い付けひげを撫でながら、信蔵は隅でおどおどしている子に近寄り、屈み込む。
    「恐れることはござらん。案外、世界とは優しいものでござるよ」
     優しく頭を撫でて、お菓子を手渡す。
     元気に見えても、ここにいる子ども達には親がいない。甘えたい盛りで親に甘えられずに育った子ども達ばかりだ。どれだけ、寂しい想いをしたことだろうか。
    「このクリスマスが君たちにとってよいものであるよう願っているよ」
     血の繋がらない妹に作ってもらったクッキーを差し出して、灯耶は穏やかに目を細めた。
    「サンタもヒーローも、来ると信じれば必ず来る!」
    「本当?」
     赤い髪をなびかせて、元気一杯にそう言い切った周に、子ども達は首を傾げた。
    「皆が信じてくれるから、こうやってサンタさんは皆の元に現れるのですよっ。もちろん、自分の夢とか目標もね。だからまっすぐな気持ち、忘れないでほしいな」
    「うん……!」
     優しく掛けられた朱梨の言葉に、子ども達の顔に笑顔が咲いた。
    「プレゼントを貰うのと同じ位素敵な事があるのよ……それはね、今のあなた達みたいな嬉しそうな顔を見られる事。ほら、お姉さんの顔、凄くいい感じでしょ? 笑って貰うのって、とても幸せな事なの」
     釣られて、恵理も思わず笑みを零す。
     皆が笑顔になる中で、一人、不安そうに何かを探していた子どもが、近くにいた南守の服の端を引いた。
    「サンタさん、ママはどこ?」
     寂しげな表情に、南守の顔は強張ってしまう。悟られないように笑みを作って、南守は子どもに目線を合わせた。
    「これは君のママから預かったんだよ。さぁどうぞ」
    「ママからのプレゼント!?」
     嬉しそうに輝く瞳。バツが悪そうにうつむく南守を庇うようにして、梗花が続ける。
    「ママはサンタさんに、たくさんのプレゼントを頼んでた。『私がいなくても、あなたが楽しく、幸せな毎日を過ごせますように』って。このお菓子だけじゃない……毎日、毎日が、ママからのプレゼントなんだよ」
    「うん。ありがとう、サンタさん!」
     笑って、その子は駆け出していく。
    「……ごめん。ありがとな」
    「うん……」
     ぽつりと呟く声に、梗花は小さく頷いた。


     独り身が貰って嬉しくないプレゼント。フォトスタンド。映画のペアチケットに、ペアの手袋などなど数々のペアグッズに、二人で巻けるロングマフラー。それとセットに割れたハートのチョコとクッキーもおまけして。
     ミニスカサンタないろはと、全身タイツの自称トナカイなウツロギが、鼻歌交じりに公園を闊歩する。
     嫌なプレゼントとお菓子を撒き散らしながら、二人は今日一番のがっかり具合な男を見つけて、すすっと近づいた。
     そうして、カップルがキスをしている砂糖菓子がのったケーキをワンホール、おもむろに差し出して……。
    「……じゃ、僕達はこれから予定があるから」
    「「さらだばー」」
     カサカサと帰っていく。
     男の、すすり泣く声が、公園に悲しく響いた。

     反対に賑やかな児童養護施設にて。
    「そんじゃ、正義のサンタクロース出動、だぜ!」
    「正義の味方部、参、上っ!」
    「え、えいっ!」
    「え? 俺もやるの? ええい、ままよ!」
     火水、希子、林檎、と続いて、皆揃ってポーズを決める正義の味方部。そんなつもりはなかった将平も、きっちりポーズをとってみせると、子ども達から拍手と歓声が沸き上がった。
    「ふぉっふぉっふぉ、わしはサンタクロースじゃ」
    「Hallo guys! Merry Christmas! 良い子にしてた皆にお菓子のプレゼントよ」
     もじゃもじゃ白ひげで完璧にサンタクロースになりきる謳歌に、ミニスカサンタなエリザベス。二人からのプレゼントは、ジンジャークッキーにゼリービーンズ、そして甘い甘いスナックバーにとっておきのチョコレート!
    「いい子にしていた君には、このチョコレートをあげよう」
     優しく手渡しながら、謳歌は子ども達が少しでも楽しいと思ってくれれば、と願いを込める。
    「喜んでいただけると良いのですが……」
    「良い子な君に、素敵な、素敵なプレゼント、だよ!」
     林檎が、青森リンゴで作った特製アップルパイを配り、笑顔いっぱいに、ありがとうを言ってくれる子ども達を、希子は思わず抱きしめる。
    「食べた後は歯磨きだぜ? 良い子の常識だよな?」
    「「はーい!」」
     火水の問い掛けには、元気なお返事。
    「よーし! みんながちゃんといい子にしていれば、いいことあるからな? 例えば……」
     宝物のマフラーをバサッと掛け直して、将汰は子ども達の顔を見渡していく。
    「人を困らせたり、悲しませたりしないことだな」
     そうして、にっと笑ってみせた。もう一度、元気な返事と笑顔が返ってくる。
    「来年もまたここに来たいから、みんな一年間良い子でいてくれる?」
    「「はーーいっ!!」」
     優しく、エリザベスがそう聞くと、一段と大きな声が返ってきた。もちろん、笑顔もいっぱい、溢れている。
    「よーし、今日の俺のパワーの源は笑顔だぜ!」
     負けないくらいの笑顔をみせて、将平は立てた親指を、ぐっと子ども達に突き出した。

    「メリークリスマス。いい子にはお菓子のプレゼントよ。好きなものを選んでね」
     エレナが集まってくる子ども達にお菓子を配っていると、後ろの方から聞き覚えのある声が。
    「よーし、どんどんもってけ! ちょ、付けヒゲは持ってくな取れる! 元気か! なら良かった!」
     間違いない。そう確信したエレナが振り向けば、そこには案の定、子ども達に囲まれた蓮次の姿が。
    「あっ、エレナ先輩! 遅れてごめん!」
    「ううん。来てくれてありがとう、蓮次」
     子ども達とじゃれ合いながら、少し申し訳なさそうに小声で言って眉を寄せる蓮次に、エレナはふわりと微笑んだ。
    「俺も親を知らない。でも、沢山の幸せに逢ってる。君も、皆や俺達、未来の大切な誰かと逢う為に生まれたんだ。要らない人間じゃ無い」
    「誰だって、幸せになる為に生まれてきたんだと思いますの」
    「うん……」
     どこか元気の無い子どもに、煌介と由良が優しく話しかける。小さく頷いた子どもの頭を軽く撫でて、煌介はちらりと由良を見た。
    「……やっぱその丈、短いすよ……」
    「……よ、用意された物を着ただけですわっ!?」
    「あはははっ、おにーちゃん、おねーちゃんに怒られた!」
     結果オーライ。すっかり元気に笑う子どもに、二人は、メリークリスマス、と声を揃えた。
    「メリークリスマス。素敵な一日を過ごすんだよ」
    「うん、このあと一緒に絵本を読もうか」
     悠二郎は、近寄ってきた子どもの頭に、ポンと手を置いて笑い、亜理栖は絵本を持ってやってくる子ども達を誘導して、邪魔にならないところで読み聞かせをしてやった。
    「さて、クリスマスといえばこれだよね!」
     ポンチョコート風のサンタ服に身を包んだ民子が子ども達に配っていたのは、手作りの靴下型の巾着に入ったジンジャークッキー。この靴下を見るたびに、今日の事を思い出してくれたら嬉しいな、と民子は思う。
     ちなみに、施設のドアに掛けられた、ボタンや造花で飾ったコットンリースも、彼女の手作りである。
    「ほら、動物のクッキーだぞ」
     子ども達にとって、今日という日が楽しい1日になるように。ヴィランはそう願いつつ、子ども達にお菓子を手渡しながら穏やかに目を細めた。
    「いい子にしていたら、来年も皆のところに来るからな」
     言いながら、しっかりと約束を交わす。
    「サンタさん、ありがとー!」
    「折角のクリスマス、笑顔がいっぱいにならなきゃね!」
     笑顔いっぱいな子ども達の表情に、深愛も笑顔で頷いた。
     もらったプレゼントを手に抱えて、嬉しそうな子ども達。貰っていない子はもういないだろうか。キョロキョロと辺りを見回してから、深愛は香蕗を見つけて、くいっと引っ張った。
    「コロちゃんあのね……みあもバター飴ねだっていいかな?」
    「おー、お前も今日は頑張ったもんな! よーし、ご褒美のバター飴だ!」
     香蕗からバター飴の入った小袋を貰って、今日一日頑張った深愛も、ほくほく笑顔。
     お菓子も無事子ども達の手に渡り、サンタクロース達は帰り支度を整える。
    「いいか、好き嫌いすんな、いい子でいろよ。そしたらちゃんと来年も来るからな」
     懐いてきた子どもを肩車してやって、雷歌はそう言い聞かせる。
    「本当? サンタさん、また来てくれる?」
    「あ? 当たり前だろ。サンタさんは嘘はつかねえよ」
     頭の上から降り注いでくる不安げな声を明るく笑い飛ばして。
    「約束だ」
     雷歌は拳を突き出してみせる。
    「うん……!」
     小さな拳が、コツン、と当たった。


    「ったく、ガキの相手は大変だな」
     ぼやきつつも、コウはどこか嬉しそうに笑って、今日一日を振り返る。
     街へ繰り出してのボランティア活動はそろそろ終了の時刻を迎えていた。
     手近な公園に集まった武蔵坂学園のサンタクロース達が、余ったお菓子でささやかな打ち上げパーティーを楽しんでいる。
    「二人とも、カッコよかったよ! ね、写真撮っていい?」
    「カッコよく撮ってくれよな!」
    「えっと、やっぱ……ちょっと恥ずかしいような」
     翡翠が構えるカメラの前で、克也は鳳臣と肩を組み、笑顔を作ってみせる。
    「お疲れ様! 二人とも今日は付き合ってくれてありがとう♪」
    「楽しかったな! オレは子供より盛り上がっちまった!」
    「俺も楽しかった、誘ってくれてありがとな」
     パシャリとシャッターが下りた後、三人は笑いながらジュースで乾杯をした。
    「皆さんお疲れ様でした。皆さんのサンタ姿、なかなかお似合いでしたよ」
    「女の子のサンタさんはやっぱり可愛いよね。うちにもこんな可愛いサンタさん、来ないかな?」
    「褒めても何も出ませんよ?」
     互いを労いつつ、冗談交じりに話す、綾鷹に磯良と羽翠
    「皆さん、メリー・クリスマス、です」
     それににっこりと笑い掛けながら、羽千子は余ったマドレーヌを配って歩く。
    「おつかれ~」
    「こ、子供の前以外では、やっぱり恥ずかしいのですよ……」
     お菓子を食べまくりながら、皆に声を掛けて歩き回る樹咲楽の後にくっついて、雪風は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
    「素敵な一日に……なってるといいな。大きな子供たちにとっても……」
     悠二郎はちょっぴり心配げに公園方面へ向かっていた仲間達を見やる。
     ……深く聞かない方が良さそうだ。
    「お菓子……!」
    「はい、どうぞ。今日は寒いしね。生姜が入ってるから体が温まるよ」
     珊瑚は亜理栖から貰ったジンジャークッキーをもくもくと頬張って。
    「おー緑山さんもお疲れさん! 飲め飲めー!」
     皆に飲み物を配って回っていたらしい、周は香蕗にも缶ジュースを放って寄越した。
    「おっ、ありがとうな!」
    「本当、今日は有意義なクリスマスを過ごせたよ。ありがとう……あぁ、後は義妹へのプレゼントも用意しないとな……」
    「おうっ、いいやつ選んで祝ってやれよ!」
     思い出したように呟いた灯哉に、香蕗はにかっと笑ってみせた。
     今日は楽しいクリスマスイブ。
    「はい、采君のお願いも叶いますように!」
    「あ、ありがとう。お返し、言うか、カエデの分は別に作ったんやけど……」
    「わっ、カエにも? ありがとうー!」
     カエデからはお星様のクッキー。采からは猫のクッキー。お互いに送り合って、カエデと采は笑みを交わす。
    「可愛いモノが好きと聞いたのでな」
    「こ、こんなに素敵なくまさん……良いのですか……? わ、私なんかに……ありがとうございます……!」
    「良い子にはプレゼントが有るのだぞ?」
     クラリーベルからの思いがけないプレゼントに、迷の瞳はうるうると。
    「ありがとうございます、璃耶先輩!」
    「わ、私こそ、ありがとうございます……大切に、致しますね♪」
     雪之丞と璃耶も、お互いにプレゼントを交換して、ちょっぴり照れくさそうに頬を朱に染めている。
    「お疲れ様っ!」(悠)
     温かい缶のお汁粉を皆に差し入れて、悠は絆部の仲間達をまとめてぎゅっと抱きしめた。
     きゃーっと、嬉しそうな笑い声。頬を緩ませて、沙奈が袋の中から色んな形のクッキーを差し出してくる。
    「春くんと咲耶くんはわんこ。ナツマと桜樹だよ。皐くんにはネコさん。悠お兄ちゃんは悠お兄ちゃんで、ひよりちゃんにはうさぎさん。わたしもうさぎさん、へへ、お揃い!」
    「ふふ、うさぎさんもお揃いだね。わたしもブラウニー焼いて来たの。ね、みんなで食べよう?」
     ひよりの手作りブラウニーも加わって、ちょっと豪華なパーティー気分。
    「はい! 良い子の二人にプレゼントだよ♪」
    「サンキュ! これ、ホントはおれも欲しかった」
     咲耶から、沙奈と春へのプレゼント。クリスマスブーツに入ったお菓子を受け取って、春は、にひ、と嬉しそうに笑ってみせた。
    「今日は子供の笑顔で最高のクリスマスになったな! そうだ。俺も皆にプレゼントあるんだ!」
     そう言って、皐が取り出したのは、願いが叶うという小さな鈴。
    「おれ、願い決まっちった」
    「わたしも鈴のお願い決まった」
     笑い合って、チリン、と鈴を鳴らす春と沙奈。
     響いた鈴の音には、また皆で、幸せを運べればいい。そんな願いが込められたのかもしれない。
    「いい子にはサンタがくるんだろ?」(余ったお菓子頭にぽすん)
    「あたしもうそんな歳じゃないのよ」
     余ったお菓子の包みを、ぽすん、と頭の上に乗せてくる司に、妃里は抗議の声を上げながらもどこか嬉しそうに笑っている。
    「ねぇねぇ、これ、余ったやつ皆で割ってみない?」
     銘子が持ってきていたプレゼント入りの風船。
    「やるやるー!」
    「これ、割ってもいいのか?」
     面白がって集まった仲間達が風船を割り始め、冬の空に、パァン! と乾いた音が響いた。
     追いかけるように、楽しげな笑い声。
    「夢届き 笑顔溢れる 聖夜かな」
     眺めながら、流希が一句詠み上げた。

     クリスマスイブ。希望を運んだサンタクロース達のしばしの休息は、楽しく、賑やかに過ぎていく。

    作者:海あゆめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月24日
    難度:簡単
    参加:77人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 15/キャラが大事にされていた 5
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