偽りの正義

    ●都内某所
     街から悪を根絶するため、自らの正義を貫いた刑事がいた。
     彼に睨まれたら、最後。
     どんな悪党であっても、捕まってしまう。
     それもそのはず。
     彼は犯人にとって不利な証拠を捏造し、牢屋にブチ込んでいたのだから……。
     だが、身の危険を感じた悪徳政治家の罠に掛かり、今までの不正が明るみになって、自分自身が捕まる事に。
     それでも、刑事は自らの信念を曲げず、『この世界は間違っている。何もかも間違いだらけだ。本当に裁かれねばならない者が裁かれず、いつも裁かれるのは弱者ばかり。そんなの間違っているだろ。俺は間違った事などしていない。何一つ……、何一つ、な!』と訴え、獄中で不審な死を遂げたようである。
     実際に彼のおかげで犯罪は激減しており、冤罪で捕まった者は一人もいなかった。
     それだけ、念入りに捜査を続け、捏造されていった証拠である故、まわりも騙されてしまったのだから。
     しかし、彼が亡くなった後は犯罪が倍増。
     いつしか、彼の復活を願う者が増えていった。
     そんな噂から生まれたのが、今回の都市伝説である。

    「どうやら、都市伝説は実際の刑事と比べてダーティな感じになっているようだ。どうやら、悪人を捕まえるよりも、命を奪った方が世の為になるって考えのようだな」
     ハードボイルドタッチのイラストを配り、神崎・ヤマトが溜息をもらす。

     今回、倒すべき相手は、自らの正義を貫き悪を決する都市伝説。
     都市伝説が命を奪うのは、世の中の悪。
     例えるなら、悪徳企業や私腹を肥やす政治家と言った類だな。
     まあ、殺される方にも十分な理由はあるんだが、放っておくわけにもいかないからな。
     おそらく、お前達が行く頃にも私腹を肥やした政治家辺りが襲われている事だろう。
     既にまわりにいるSPは命を奪われており、生きているのは政治家のみ。
     はっきり言って助ける価値がないほどのクズ野郎だ。
     都市伝説は拳銃から弾丸状の衝撃波を飛ばす事が出来るらしく、政治家の命を狙って攻撃を仕掛けてくるから、くれぐれも気を付けてくれ。


    参加者
    古室・智以子(小学生殺人鬼・d01029)
    神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・d02612)
    如月・陽菜(蒼穹を照らす太陽娘・d07083)
    レオナルド・ブランシャール(サウンドレボリューション・d07604)
    黒沢・焦(ゴースト・d08129)
    アイネスト・オールドシール(アガートラーム・d10556)
    赤坂・鷹徒(高校生ファイアブラッド・d10935)
    日野・唯人(高校生ファイアブラッド・d11540)

    ■リプレイ

    ●俺が法だ!
    「法では裁けない悪党を殺す都市伝説か。灼滅すべき存在とはいえ、自分の方が悪党みたいに思えてくるわ」
     複雑な気持ちになりながら、アイネスト・オールドシール(アガートラーム・d10556)が都市伝説の確認された場所にむかう。
     都市伝説は自らの正義と信念を貫き、悪党を裁いている。
     その多くは、法の抜け目を利用し、罪のない人達を地獄に落とした極悪人。
     そういった意味で、都市伝説のやっていた事は間違っていないのかも知れない。
     だが、悪党を裁いていくうちにだんだん殺り方も過激になっているため、放っておけば暴走しかねないほど危うかった。
    「まあ、世の中万事が上手くいく事は難しい。ことに、権力を握る者がグレーゾーンで暗躍する事。それが珍しくはないのも事実じゃろう。じゃが、それを理由に勝手が許されるはずもない。如何なる理屈を振りかざそうとも、こんなものは結局のところ『俺ルール』でしかないからな。かような蛮行が罷り通るというのならば、この国の秩序が崩壊するは疑いないのじゃ。狭い視点でしか物事を見られぬうつけ者は、相応の場所へと還してやるが情けというものじゃな」
     険しい表情を浮かべながら、神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・d02612)が口を開く。
     だが、それを望んだのは、噂を流した一般人。
     その噂が広まって都市伝説になると言う事は、それだけ望んでいる者が多かったと言う事である。
    「う、うわあああ」
     次の瞬間、政治家の屋敷から野太い悲鳴があげる。
     すぐさま美沙が玄関の扉を蹴り飛ばし、悲鳴がした部屋に入っていく。
     部屋の中には腰を抜かした政治家と、既に事切れたボディガード達。
     そして、都市伝説がいた。
    「やらせるかァ!」
     都市伝説を牽制するようにして、日野・唯人(高校生ファイアブラッド・d11540)がオーラキャノンを放つ。
     その一撃を食らってバランスを崩し、『邪魔を……するなァ!!』と叫び声を響かせた。
    「とりあえず、無事のようやな」
     政治家を守るようにして陣取り、赤坂・鷹徒(高校生ファイアブラッド・d10935)が都市伝説を睨む。
    「俺はターゲットにしか用はない。……それを退け。命だけは助けてやる」
     殺気に満ちた表情を浮かべ、都市伝説が警告混じりに呟いた。
    「正義気取りが、聞いてあきれるの」
     冷たい視線を都市伝説に送り、古室・智以子(小学生殺人鬼・d01029)が吐き捨てる。
     そもそも都市伝説の存在自体が間違いであり、即座に灼滅すべき対象。
     そのため、都市伝説の基準で正義というだけで、必ずしも正しい事をしているには思えなかった。
    「……ふん。こんな奴を庇って何になる。コイツは自分と敵対する相手にあらぬ罪を着せ、社会的に葬ってきた極悪人。故に始末されても、当然の人物。そんな相手を庇ってなんになる。俺は社会のゴミを始末しているだけだ」
     あくまでクールに、あくまでハードボイルドに、都市伝説が答えを返す。
    「この政治家……、いっそ死んでくれた方が世の中のためなのかな。ま、いいや。終わってから考えよう」
     だんだん都市伝説の言い分が正しいように思えてきたため、黒沢・焦(ゴースト・d08129)がスパッと気持ちを切り替えた。
    「お、おい! お前達! わしを助けに来たんじゃないのか! いますぐ助けろ! ……たくっ! これだから子供は……」
     ブツブツと愚痴をこぼしながら、政治家がチィッと舌打ちをする。
     おそらく、政治家にとって、焦達は単なる手駒に過ぎないのだろう。
     自分の身さえ守れれば、焦達がどうなってもいいようだった。
    「政治家さんは僕らが若いから不安なようだけど、灼滅者には年齢ってあまり関係ないよ。僕より小さい子で僕より強い子だってだくさんいるしね。人を見掛けだけで判断するのはよくないよ?」
     政治家に語りかけながら、レオナルド・ブランシャール(サウンドレボリューション・d07604)が溜息をもらす。
    「だったら、早く助けろ! そのために、お前達はここに来たんだろ!」
     イライラとした様子で、政治家が叫び声を響かせる。
    「べつに、あなたがどうなろうと、わたしには関係ないの」
     怯える政治家をジロリと睨みつけ、智以子がキッパリと言い放つ。
     ハッキリ言えば、足手纏い。邪魔さえしなければ、どうでもいい存在。
     そのため、政治家が何を言っても、軽くスルー。
     まともに相手をするだけ、時間の無駄である。
    「もう一度だけ言う。そこを……退け!」
     都市伝説が智以子達に拳銃を向けた。
    「そこまでして、正義を成したいのは良く判る。ボクだって正義のヒーローを名乗ってる身だもん……けど、やり方を間違えた、それは……正義じゃなく、防御にしか過ぎない……。……だからこそ、止めるよ。正義のヒーローとして、闇を切り裂くためにね……! キミの正義とボクの正義! どっちが強いのか、勝負!」
     都市伝説と対峙しながら、如月・陽菜(蒼穹を照らす太陽娘・d07083)が叫ぶ。
     だが、都市伝説は動揺する事なく、『ならば、お前達も共に滅するまで』と呟いた。

    ●法の裁けぬ者
    「あくまで自らの正義を貫く気か」
     政治家を守るようにしながら、焦が少しずつ間合いを取っていく。
     しかし、都市伝説の狙いは、政治家のみ。
     そのためか、焦達には必要最低限の攻撃しかしておらず、まったく興味がないようだった。
    「な、なあ……。わしを助けてくれるだよな? 途中で見捨てたりしないでくれ? わしは何も悪い事はしていない。ただ、秘書が……秘書が勝手にやっただけで!」
     酷く怯えた様子で、政治家があれこれと言い訳をし始める。
     よほど助かりたいのか、あからさまに嘘が混ざっており、心底呆れ果てるには十分な態度であった。
    「……これも仕事ですから」
     ただ一言だけそう答え、唯人が都市伝説に攻撃を仕掛けていく。
    「お、おい! だったら、もっとわしを守れ。わしは被害者なんだ!」
     大粒の涙を浮かべながら、政治家が大声で叫ぶ。
    「いい加減に嘘をつくのは、やめるのじゃ。本当は殺したいほど恨まれる覚えが多々あろう? 聞く耳を持つ気はなかろうが、これが人の痛みの形じゃ」
     政治家を守るようにしながら、美沙が何か心当たりがないか問いかける。
    「し、知らん。き、記憶にない! そもそも、わしが悪いような事をしているように見えるか?」
     本人はそう言って自らの無実を訴えていたが、美沙には政治家が絵に描いたような悪人に見えた。
    「さっきから、五月蠅いの。死にたくないなら、黙って大人しくしているの」
     日本刀の切っ先を政治家の鼻先に突きつけ、智以子がイラッとした様子で脅す。
    「おいおい、冗談……だろ!? わ、分かった……」
     怯えた様子で両手をあげ、政治家がコクコクと頷いた。
    「昔から口は災いの元っていうやろ。こういう時こそ、ダンマリや」
     政治家に対して声を掛けつつ、鷹徒が都市伝説の注意を引く。
    「お前達は何もわかっていない。コイツが一体、何をしたのか。コイツのせいで、一体どれほどの人間が自ら命を断つ事になったのか、を……」
     悲しげな表情を浮かべ、都市伝説が拳銃を構える。
    「お前さんの正義を理解はするが、納得はせぇへんで? どんな救いようのない下種でも、死なせるわけにはいかん命なんでな」
     警戒した様子で間合いを取りながら、アイネストが鏖殺領域を展開した。
    「そいつの命など、ゴミにも劣る。いや、そんな事を言ったら、ゴミにも失礼だな」
     含みのある笑みを浮かべ、都市伝説が政治家の脳天に狙いを定める。
    「どんな人でも誰かが死ぬのって嫌だから」
     あえて都市伝説に狙われるようにして陣取り、レオナルドがディーヴァズメロディを使う。
     それと同時に都市伝説が引き金を引き、レオナルド達に衝撃波を飛ばしていく。
    「だから……キミの相手は、ボク達だよ!」
     真正面から都市伝説に突っ込み、陽菜が戦艦斬りを叩き込む。
     その一撃を食らった都市伝説が、『ならば、お前達から始末する必要がありそうだな』と呟いた。

    ●邪悪な正義
    「俺達から先に始末する、か。それが正義なの? まあ、だからと言って、はいそうですか、と納得して、命を奪われるつもりはないけど……」
     都市伝説を迎え撃ち、焦が閃光百裂拳を叩き込む。
    「何とでも言うがいい。だが、それで救われる人がいるのなら、悲しむ人がいなくなってくれるのなら……、俺は悪魔にでも、化け物にでもなってやる! 例え、自らの身がどんなに穢れても……!」
     焦に対して答えを返し、都市伝説が拳銃を構える。
    「人のためと口にしてはいても、その実は自己中思考そのもの。己が正しさに酔っているにすぎぬ馬鹿者よ」
     皮肉混じりに呟きながら、美沙が都市伝説に攻撃を仕掛けていく。
    「そうかもな。だが、酔っているからこそ、非情になれるのさ。こんな事、シラフじゃできねーよ」
     苦笑いを浮かべながら、都市伝説が素早い身のこなしで攻撃を避け、再び衝撃波を飛ばしてきた。
    「……!」
     それに合わせて、智以子が機械的に居合斬りを放ち、都市伝説の身体を切り裂いた。
    「効かぬゥゥゥゥゥ!」
     だが、都市伝説は鬼のような形相を浮かべ、拳銃の引き金を引く。
     途端に智以子めがけて、衝撃波が飛んできた。
    「ちょっと、遅かったね」
     都市伝説の死角に回り込み、レオナルドがデッドブラスターを撃ち込んだ。
     その一撃を食らって都市伝説が右肩を庇い、チィッと悔しそうに舌打ちをした。
    「これで終わりだよ、必殺……アサクサキック!」
     一気に間合いを詰めながら、陽菜がご当地キックを炸裂させる。
     それと同時に都市伝説が派手に吹っ飛び、『……後悔するぞ』と吐き捨て跡形もなく消滅した。
    「今度は法の番人に政治家生命を絶たれないよう注意してください。その時は助けられませんからね」
     都市伝説が消滅した事を確認し、唯人が政治家に視線を送る。
    「な、何の話だか、分からんな」
     青ざめた表情を浮かべ、政治家が視線を泳がせた。
     だが、何か無くなっていた事に気づき、政治家の顔色がみるみるうちに変わっていく。
    「な、ない! さっき奴が持ってきたUSBメモリが……ない! あれがないと……わしは破滅だ」
     怯えた様子で頭を抱え、政治家が携帯電話を取り出した。
     そして、手当たり次第に連絡をし始めたが……、何処にも繋がらない。
    「終わった。何もかも……」
     政治家の脳裏に過るのは、椅子取りゲーム。
     既に、政治家の椅子には、別の人間が座っている。
    「おっちゃん、これからは心入れ替えんとな。でないと次あんなんが現れてもおれらが助けに来るとはかぎらへんのやで」
     色々と察した様子で、鷹徒が政治家に声を掛けた。
     おそらく、政治家が捜しているUSBメモリは、都市伝説が作り出した幻。
     その幻に怯え、政治家はすべてを失ったのだと、勝手に勘違いしてしまったのだろう。
     だが、真実を知らない方が政治家の為かも知れない。
     いまから心を入れ替えれば、まだチャンスはあるのだから……。
    「まあ、やってもうたことには責任をとらなあかん。最後くらいは、政治家としてしゃんとした態度で臨んだらどうや?」
     政治家に対して改心の光を使い、アイネストが仲間達を連れて食事にむかう。
     後は政治家の気持ち次第。
     それが良い方向に向かう事を祈りつつ、アイネスト達はその場を後にするのであった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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