雪の町に潜むものたち

    作者:階アトリ

     雪のちらつく寒い寒い夜、札幌の町。
     マンションや、真新しい戸建て住宅の立ち並ぶ一帯にも、白は降り積もる。
     近くに大きな公園もあり、交通の便も良く住みやすい閑静な住宅街……そこに、似つかわしくないものが現われた。
     塀の影からゆらりと立ち上がり、現れたのはスーツ姿の男。スーツは乱れ、頭にネクタイを鉢巻のように巻いているが、飲み会帰りと思えばそうおかしくはないかもしれない。
     しかし、見る者があれば、この寒空の下、コートも着ずにいることに、まず異常を感じるだろう。そしてその次にはきっと、腐敗しかけて皮膚のゆるんだ顔や手が街灯に照らされるのを見て悲鳴を上げる。
     そう、これは、ゾンビだ。 
    「う……お……」
     男のゾンビは、うめき声を発しながら歩き始める。
    「お……」
     その1体に続いて、もう1体。またもう1体と、次々と似たような風体のゾンビが現れた。
     ゆらゆらと歩くさまは、スーツ姿と相俟って、忘年会帰りの呑み過ぎサラリーマンたちが住宅街に迷い込んできたように見えなくもない、けれど。
     もしも生者に出会うことがあれば、ゾンビたちに引き裂かれてしまうことだろう。
     雪の降る寒い夜。
     外を出歩いている者が今ここにいないことが、幸いだ。
     頭にネクタイを巻いたゾンビを先頭に、ゾンビたちはゆらゆらと歩き続け、やがて売家の看板の出た空き家の中へと入っていった――。
      
    「この寒いのに、ゾンビが出たよ!」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が、教室に集まった灼滅者たちにズビシ!と左手のペンを突き出し、事件の発生をごく端的に告げる。
    「や、気温は関係なくね?」
     斑鳩・慧斗(中学生ファイアブラッド・dn0011)が苦笑した。
    「うん! ダークネス事件に季節感を求めるものじゃないのはわかってるの! でも、ゾンビものってやっぱり夏の風物詩かなって」
    「まあなー」
     気持ちはわかる。慧斗は茶々を入れるのはやめにして、先を促すことにしたようだ。
    「そんで、場所はどこだって?」
    「札幌! 北海道だよ。
     数は10体。住宅街の片隅にある空き家のドアを壊して入り込んで、その中にこもってるよ。
     ちょっと日当たりの悪い立地の空き家みたいで、暗い雰囲気が気に入ってるのかな?
     わかんないけど、出て行ったりしないでずっとそこに巣食ってるみたい。
     だから、その空き家に乗り込めば必ず10体全部と会えるからね!」
    「了解」
     まりんが印をつけた簡単な地図を渡してくれたので、現場である空き家に行くところまでは特に苦労はしないだろう。
    「えっと、それでね。見た目は、スーツ姿の男性のゾンビばかりだよ。
     ほとんどは映画なんかに出て来るモブゾンビみたいな感じに蹴散らせちゃう程度の強さなんだけど、1体だけすごく強力なのがいるの!
     頭に鉢巻みたいにネクタイを結んでるのが特徴で、他のゾンビより恰幅がよくてね、なんか『課長』って感じだよ。
     課長ゾンビは、空き家の2階に陣取ってるよ。
     9体の平ゾンビたちは1階でウロウロしてて、侵入者に気付いたら襲いかかってくるから、パパっと蹴散らしてから2階へ向かって」
    「ボスの課長ゾンビをやっつける、って流れだな! 単純明快でいいじゃねーか」
     まりんの言葉を途中から引き継ぐと、パンッ、と掌を拳で叩いて、慧斗は椅子から立ち上がる。
    「気をつけてね。課長ゾンビはが胸ポケットから取り出した万年筆を使って繰り出す突きは強力なの! あと、吠える声がダメージを与えてくるよ。それに打たれ強いの!」
    「了解! じゃ、気合入れてブッ潰しに行こうぜ、皆!」
     まりんの注意に大きく頷いてから、慧斗は八重歯を覗かせて仲間たちに笑いかけた。
    「油断さえしなかったら大丈夫だとは思うの!
     現場は空き家だけど、不動産やさんが売家として管理してるから、いつ一般人が入っちゃうかわかんないよ。
     被害の出ない今の内に、よろしくね!」
     まりんは愛用のノートをぎゅっと胸に抱き締めながら、灼滅者たちを見送る。
    「あ、あと、寒いけどがんばって!」
    「おー」
     心配そうにまりんは付け足したが、ひらひらと手を振った慧斗は制服の前ボタンを留める気は全くないようだ。


    参加者
    稲城・実(悠久アッテンタート・d00175)
    天衣・恵(無縫・d01159)
    龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)
    斑目・立夏(双頭の烏・d01190)
    織部・京(紡ぐ者・d02233)
    久織・想司(妄刃領域・d03466)
    夢見・喜一郎(一夜橋・d06078)
    加瀬・玲司(月鏡で遊ぶ銀狐・d09974)

    ■リプレイ

    ●札幌の夜
     真冬の北海道の夜。灼滅者の一行が、防寒に努めた服装で住宅街を歩く。
    「雪が積もった日の夜って静かでキラキラで綺麗なのに……」
     ふー、と織部・京(紡ぐ者・d02233)の吐いた真っ白い息が、街灯の明かりでキラキラと光った。赤ダッフルに白いもこもこマフラーという、冬らしい可愛らしいスタイルながら、足元は雪国仕様の踵のないブーツ。
    「なんでこんな寒いところに出るかなあ」
    「寒いと腐敗進まないですし、ゾンビさん達にとって冬の札幌は極楽かもしれませんねぇ」
     思わず愚痴る口調になった夢見・喜一郎(一夜橋・d06078)の呟きが聞こえたか、加瀬・玲司(月鏡で遊ぶ銀狐・d09974)が言う。
    「なるほど確かに。……愚痴っても仕方ありませんか、さっさと片付けて暖かいもんでも食べにいきましょ」
     喜一郎は肩を竦めると、口を噤んで脚を動かした。
     すごく寒い。が、ゾンビたちは恐らく、元気に(?)潜伏しているのだろう。
    「寒……寒さ感じないのはちょっと羨ましいなあ……」
     稲城・実(悠久アッテンタート・d00175)はコートとマフラーに耳あてを着用しても、まだ寒そうに手に息を吐きかけながら歩く。
    「ほんま寒っ! 指先冷えるわー」
     ダウンジャケットを着込んだ斑目・立夏(双頭の烏・d01190)も、マフラーに顎をうずめるようにしながら、冷える指先を揉んでいた。寒さに弱いと自認しているのに、武器を持つからと手袋をせずに来たのが地味にダメージらしい。
    「あ、カイロなら余分にあるさかい、いる奴は言うてや?」
     と立夏は、仲間たちが希望すれば次々とポケットからカイロを出す。
    「俺も欲しい!」
     斑鳩・慧斗(中学生ファイアブラッド・dn0011)も手を出したので、立夏は首を傾げた。
    「斑鳩は炎あるさかい寒ないんかと……?」
    「サンキュ! いやー他のファイアブラッドの奴がどうかは知らねえけど、俺は寒いことは普通に寒いぜ?」 
     もらったカイロをズボンのポケットに入れた慧斗は、ダウンジャケットを着込んで寒そうにしつつも背筋は伸びている。
    「さて今回はですね、こちらのお宅にやってきました! 中は真っ暗です……、うぅ」
     天衣・恵(無縫・d01159)は玄関の前でお宅訪問風に切り出したが、その口上は途中で止まる。
    「止め! 寒い! ダメだよこの寒さは……は、早く中に入ろう?」
     恵はぶるぶるっと震えると、皆を促した。
    「……さて、ゾンビ狩りといきましょう」
     ダッフルコート姿の久織・想司(妄刃領域・d03466)が玄関扉を引くと、音もなくすぅと開いた。
     入るなり襲われてもかなわないので、想司が大きめのLEDライトで中を照らすと、奥へ続く廊下。
    「いきなりゾンビと出くわしても大丈夫なようにしないとね」
     後方から家の中を覗き込んだ恵が、呟いて封印を解除する。
    「サクッと粉雪にしてしまうか。犠牲者が出てからでは、遅いからな」
     ラシェリールが頷いた。
     仲間たちも、サポートに来てくれた者たちも含め、防寒対策に重きを置いた格好から、灼滅道具を纏った姿へ。
    「人払いは任せてくれ。俺を闇墜ちから助けてくれた人に、灼滅者になった俺なりの、恩返しってやつ」
     将平が、念には念を入れESPで一般人が近づいてこないようにする。
    「微量ではあるけど、サポートします」
     ハカルは後方からヒール要因として不測の事態に備えてくれるらしい。
    「見張りをしていますね」
    「もし外に出てくるゾンビがいたら、除霊結界で通せんぼします」
     讓治とセイのように万一のために家の外で待機する者を残し、あとは中のゾンビたちを片付けるだけだ。
    「行こう、けいちゃん」
     クラッシャーを勤める京が、ヘッドライトをつけて一歩、真っ暗な家の中へと足を踏み入れる。
    「廊下の先はリビングでしょうか。……なるべく広い部屋で戦いましょう」
     同じくクラッシャーを努める龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)が、日本刀の柄を握り続く――。 

    ●戦いは、小ダンジョン攻略にも似て
     足音を殺して、廊下を行く。明かりに気付いたのか、ゆらりと出て来る平リーマンゾンビが1体。
    「イヌ! 皆さんをお守りするんですよ」
    「わわ、出た出た! いっくよー!」
     喜一郎の霊犬が、恵が放った小さな光輪で守りの力を与えられ、一声吠えてディフェンダーの役目を務めるべく前へ駆け出てゆく。
    「よし、やっちまおうぜ!」
    「ええ。あまり音を立てないように静かに!」
     慧斗と実のレーヴァテインを食らい平ゾンビは倒れる。
     蹴散らせる程度、というのはその通りのようだ。
     奥へと進むとリビングに出た。
    「あ……う……」
    「う。ぁ……」
     リビングにいたゾンビは5体。
    「全く、死んでもなお上司に逆らえないなんて哀れですね」
     玲司が、横並びになった3体に、まずは除霊結界を展開させた。
    「うぅ……」
     パラライズに陥り、想司に殴りかかろうとして失敗するゾンビ。
    「死体の生きをますます悪くしてもらえましたし、さっさと片しましょう」
     想司のバトルオーラが、空振りした平ゾンビを殺々自在というその名にふさわしく屠る。
    「こない寒いとこに出んでもええやんっ」
     立夏は家の中でも寒いため、ゾンビに八つ当たりしつつ足元から影業をぶわりと広げる。双頭の鴉の形をした影が広げた翼を畳めば、ゾンビが1体その中に飲み込まれそのまま倒れた。
     戦闘の気配に、残りの平リーマンゾンビ3体がリビングの奥のキッチンからゆらゆらと出て来る。
    「なんでこんなにたくさんゾンビが……ゾロゾロとめんどくせーな!」
     乱暴な口調になり、手近の1体の前に立った京。その傍に寄り添っていた影業が、すっと音もなくゾンビへと伸び、触手となって絡まり縛る。
    「わざわざ普通の家に陣取るって何かこだわりでもあるのですかね、このゾンビたち」
     柊夜が閃光百裂拳を叩き込み終え、残りのゾンビを見てみれば、立って動いているゾンビは半分以下になっている。
     相手が弱かったので、広い場所で接敵したのは成功だった。一気に片付く。
    「うー、あったまるほどの運動にもならんかったな。ま、ざこが軽ぅにいてまえてよかったわ」
     立夏が震えながら倒れたゾンビの数を数え、雑魚を掃討できたのを確認すると、灼滅者たちは2階へと続く階段へ向かった。
    「降りてくる様子はない、みたい」
     実がランタン型LEDを階段に向けて掲げ、上の気配を探る。
     向こうからこちらに迫ってくるつもりはないようなので、回復やポジションの変更をして備えられる程度の間はありそうだ。
     幸い、消耗は小さい。
     玲司はヴァンパイアミストで可能な限りの人数を回復すると、スナイパーにポジションを替え、皆に続いて階段を上がった。
     照明器具は大きなものではないが数があるので頼もしい明かりとなって、2階へと続く階段を、その先にある戸口を、照らし出す。
     扉は開いていて、照明の光の交錯する中、まるでダンジョンの個室で宝箱等を守る中ボスのごとく部屋の奥に立っている――頭にネクタイを巻いた、スーツ姿のリーマンゾンビ。
    「カチョーサン?」
    「でしょうね」
     呟いた喜一郎の後ろから、玲司がひょいと覗き込んで頷く。
     灼滅者たちは部屋に飛び込むと陣形を整えた。
    「う……う……てめえら……俺の酒が飲めねえのがあー!!」
     課長ゾンビが、胸ポケットから万年筆を抜いた。現れた鋭いペン先が、鈍く光る。
    「来ますよ気をつけて!」
     実が指の契約の指輪を煌めかせながら、制約の弾丸を放った。
    「何もない広いところや墓地などで雪の下からガバーッとか現れた方がよっぽど雰囲気出ると思うのですが」
     クラッシャーからキャスターにポジションを変えた柊夜も、制約の弾丸を放つ。
    (「2発、当たった。動きを封じるように出来たらいい」)
     実は着弾を視界の端に見ながら、次にどう行動すべきか判断するために、素早く戦況を確認するのだった。
    「やっちゃうよー!」
     バトルオーラを全開にした恵が飛び込んで行き、雷の火花を散らす拳を課長に叩き込むんでから後衛に引く。
    「おぉおおお……上司に逆らうかぁああ……!」
     激昂しながら課長がふるった万年筆の先から微かにインクが飛んで、床が汚れた。
    「他人の家、否いずれ誰かが住むだろう家ですよ」
     居座っているだけでも罪深い。想司は万年筆に痛手を受けたものの、表情は変えず、くいと眼鏡の位置を直したのみ。
     彼は敵の死角へと飛び込み、その瞬間に身を包むバトルオーラは刃となりひらめく。ティアーズリッパーが切り裂くのは、薄汚れたスーツとその下の肉。
    「本当に、まったくもって、度し難い」
     想司は床に滴ったインクにちらを目を落としてから、次の行動へと体勢を整える。
     平ゾンビたちと違って課長はタフだった。
     攻撃の応酬が続く。
    「うわっち! エエ突き持っとるやん!?」
     立夏は課長の突きをすんでのところでかわすと、よく手に馴染んだ解体ナイフの刃をジグザグに変えて反撃に出る。切り裂かれ、それでもまだまだ課長の動きは力強い。
    「万年筆ってそういう使い方するもんじゃないよ……つーかそんなんでちまちま刺してるよかぶん殴った方が効率いいんじゃねーの!? 万年課長!」
     京は万年筆を武器扱いする課長を激しい口調で煽りながら、縛霊手を大きく振りかぶり殴り降ろす。クラッシャーの面目躍如! 轟音、と呼べるほどの打撃音と共に、京の縛霊手から放射した網状の霊力が課長に絡みついた。
    「う……ぐぅう、万年課長とはなんだぁ……」
    「あーなるほどなるほど」
     万年筆を持った手を振り振り立ち上がる課長ゾンビに、喜一郎が頷く。ゆらり立ち昇った影業で目元が見えないが、多分したり顔をしている。
    「あーわかった、万年筆だけに」
     そして玲司が、喜一郎の意図を汲んで合いの手を入れる。そして、同時に言う。
    「「万年課長」」
     その言葉が、何かを抉ったのだろうか。
    「誰が……万年……! し、昇進するわぁ……!」
     向かってきたゾンビを、漫才コンビは同時に振り向く。
    「「邪魔」」
     喜一郎は「すんなや!」と続けて犬の形をした影業を、玲司「しないでくれます?」と続けて妖の槍を、それぞれが鮮やかに操り。
     斬影刃と螺穿槍が、課長ゾンビに叩き込まれる。
    「ぐぅ、おお、……ゲホ……ッ!!」
     よろつきながらも、課長は床を踏みしめ、攻撃となる吠え声を放った。否、吠えようとして失敗した。最初に重ねたパラライズが効いたようだ。
    「燃えてろ!」
     好機とばかりに慧斗が斬り込み、レーヴァテインの炎に課長が燃え上がった。
     回復の手段を持たない課長ゾンビはダメージが嵩んできているが、灼滅者たちのほうはメディックによる回復がある。しかも、メディックたちがダメージを受けている人数や度合い、キュアが必要かどうかを素早く判断して声をかけあっていた。
    「そっちお願い! あの子は僕が!」
     実が、恵に声をかけると自分は闇の契約で想司を癒した。
    「わかった! メディックの楽しさはヒール! ヒール職人に私はなる!」
     恵が祭霊光を撃ち出す指先を向けたのは、毒を食らっている京へ。
    「ありがとう! わたし、まだ戦えるよね……けいちゃん」
     京は恵に明るい笑顔を向けてから、ふ、と視線を伏せると己に向かって語りかけ。
    「いよいよ終わりだ! 覚悟しろよ万年課長!」
     顔を上げた次の瞬間には、京は荒々しく眦を上げ、静かに寄り添う影業と共に、燃えている課長ゾンビと対峙する。
    「あたしの影は炎にだって負けねーよ!」
     京の影縛りが、炎の上から課長ゾンビを絡め取った。
    「ウォ……オォオオオ!!」
     ゆらり、ネクタイを鉢巻にした頭が傾ぐ。が、持ち直し踏みとどまった。
    「うわー、しぶとい!!」
     恵が思わず目を丸くしたが、しかし最早勝負は見えている。
    「終わって下さい!」
     柊夜の閃光百裂拳が、追撃を伴って叩き入れられ。
    「終わります……恐らく、次で」
     想司が、バトルオーラで形成した刃を突き立てた深々とした手ごたえに笑みを浮かべ。その、言葉通り、次の。
    「ええかげんにせえ! こっちは生きとるんや、寒いんや!! しかも1人で燃えてぬくそうやの!!」
     歌声は神秘的なのによく聞くと歌詞が残念なことになっている、立夏のディーヴァズメロディが止めとなった。
     課長ゾンビの身を包んでいた炎が消えたのは、灼滅されたその瞬間のこと。
     タフを誇った課長ゾンビが、ついに、倒れた。

    ●寒い夜、熱くて美味しいものをハフハフするのは最高です
     かくして、空き家に蠢いていた者たちは灼滅された。
    「多少でも片づけていった方がいいんでしょうかね? これ」
     柊夜は、課長ゾンビが万年筆を振り回して飛び散らせたインクの汚れを照明で照らして吐息する。
    「……さて、片付けましょうか」
     実も、苦笑しながら周囲を見回した。
     空き家なので家具はない。幸い床や壁へのダメージもインク汚れくらいで済んだようだ。
     これでこの件は落着だ。
     少し気になるのは最近エクスブレインたちから、この件以外でも多数、ゾンビの灼滅が依頼されているということ。
    「屍王が動き出す前触れってヤツですかね」
     想司がぽつりと呟いたが、真相はわからない。
    「何にせよ、皆さん風邪など引かないように」
     想司の言う通り、灼滅者たちは次に何が起こっても対応できるよう、体を万全に保つべきだろう。
     ひととおり、片づけを終えたところで、露香が皆にコーンポタージュのカップを配った。
    「あったけー!」
     と大喜びで飲んでいる慧斗は、いつの間にかダウンジャケットの前ファスナーを全開にしている。
    「寒くないですか?」
    「戦闘とポタージュであったまった!」
     思わずたずねた想司に、慧斗はいい笑顔で答える。寒さにとても強いらしい。
    「くしゅんっ! 暖かいとこ入りたいです……」
     可愛らしいクシャミをしたのは京だ。
    「そ、そやな! はよ、暖房ついたとこ帰ろや! な!」 
     立夏も、自分で自分の肩を抱いてガチガチ震えている。
    「札幌の美味しいモノを食べて帰りましょう♪ 寒いしラーメンでも」
    「ラーメンでもいきません?」
     玲司が提案したら、その語尾に喜一郎の声が被った。同じことを考えていた者同士、顔を見合わせる。
     札幌は都会なのでこれから入れる店もあるだろう。
    「いよいよ、このお宅ともお別れですね! 次こそは温かな家族が住む家になればと……やっぱり止め! 寒い!」
     恵はお宅訪問風にしめようとしたが、やっぱり挫折してぶるぶるっと体を震わせた。
    「マジでダメだよこの寒さは……は、早く美味しいモノ食べに行こう!?」
     恵に促され、現場を後にする灼滅者たち。
     戦いに疲れ、北の大地の夜に冷やされた体を、こってりかさっぱりか、いずれにしても温かいラーメンが、癒してくれることだろう――。

    作者:階アトリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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