生徒会アイドル化計画!

    作者:一文字

    ●会長はアイドル様!?
     生徒会――それは中学校や高等学校等における生徒による自発的、自治的な組織である。
     言葉にしてみると小難しそうだが、生徒会の役割はそう大変なものではない。例年実施される行事等をマニュアル通りに運営し、時折教師から頼まれる仕事をこなせばいいだけのことである。
     故に余程特殊な環境下でない限り、その権力は無に等しい。生徒会が独断で生徒を裁き、学校を操るなど漫画やアニメの中だけだろう。
     しかし……この中学校は違っていた。

    「みんな~、今日は集まってくれてありがと~!」
    『うぉぉぉぉ、ラブちゃ~ん!』
    『今日も可愛いよぉ!』
     ステージ上から送られる愛らしい声に呼応して体育館が歓声で揺れた。
     それに機嫌を良くしながらも、ラブと呼ばれる少女はわざとらしく頬を膨らませる。
    「もう、ラブちゃんじゃないよ。今は『会長』って呼ばなきゃダメなんだぞ♪」
    『ウ、ウインクが眩しい!』
    『あぁ……俺はもうダメだ……』
     ウインクを決める少女に卒倒寸前の男子一同。女子が害虫を見るような目で彼らを眺めているのは言うまでもない。
     そう、何を隠そう、ラブは本校の生徒会長にしてアイドルなのだ。
    「今週もラブと一緒に頑張っていこ~!」
     おぉぉぉぉぉ、と再び咆哮が轟く。そんな中、ラブは誰にも気付かれないように口元を歪めていた。

    ●生徒会なんて馬車馬です(経験者談)
    「ついでに言うと、今のは週初めに開かれる全校集会の様子な」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)の補足に灼滅者一行は溜息を吐く。もはやバカばかりである。
    「今回のターゲットは淫魔。『ラブ』という愛称で、とある中学校に紛れ込んでる」
     彼女はその圧倒的なビジュアルによって生徒会長にのし上がり、今や男子達のアイドルとなっている。大抵の中学校では生徒会選挙なんて人気投票みたいなものだろうから無理もない。
     そういった経緯から生徒会の権力は凄まじく、もはや教師ですら手出しが出来ないほどなのだと言う。
    「このまま掌握され続ければ、中学校は本来の機能すら失われてしまう。お前達には生徒会の駆逐を頼みたい」
     戦力はラブを含めて5人。4人の生徒会メンバーも只の一般人ではなく、淫魔であるラブから力を与えられている。
    「ラブはサウンドソルジャーと天星弓、生徒会メンバーはバトルオーラと同じ技を使ってくる。布陣としては、前者がスナイパーで後者は全員ディフェンダーだろうな。まさしくアイドル親衛隊って訳だ」
     戦いの舞台は生徒会室。むろん普通の学校ならば狭くて戦闘どころではないだろうが、この中学校は違う。漫画等でよく見られるバカげた規模を持った生徒会室なのだ。故に十分に立ち回れるだろう。
    「接触方法に関してだが……実のところ、生徒会室ってのは簡単に行けるところじゃない。生徒会メンバー以外の非公認ラブ親衛隊がそれまでの道を守ってる。……いや、そんな目で俺を見るなよ……」
     色々とツッコミどころ満載だが、ヤマトの所為ではないので悪しからず。
     では、どのように生徒会室に向かうのか。手段としては大きく分けて2つ。
    「真っ向から生徒会室に向かうか、生徒会を引っ張り出すか」
     前者は非公認親衛隊をどうにか処理することとなる。灼滅者にとっては造作も無いだろうが、無用な被害を避けたいなら控えるべきかもしれない。
     後者は生徒に扮して問題行為を起こせばいい。ラブにとって中学校はステージ。そんなところで暴れられれば黙ってはいないだろう。生徒会室に連れて行かれたところで戦闘を始めよう。
     説明を終えたヤマトは疲れた様子で資料を閉じる。
    「アホらしいと言えばアホらしいが、このまま淫魔を野放しにする訳にはいかない。うちの生徒会じゃないんだし、身の程を弁えさせてやってくれ。頼んだぞ、お前達!」


    参加者
    脇坂・朱里(胡蝶の館の女主人・d00235)
    陽乃下・のどか(ぷにたまいちご・d00582)
    早鞍・清純(全力少年・d01135)
    居島・和己(は逃げだした・d03358)
    花田・正太(小学生シャドウハンター・d10333)
    本田・優太朗(優し目な殺人鬼・d11395)
    藍堂・ルイ(歌う愛弩留総長・d11634)
    花邑・イデア(極彩メサイアニズム・d11749)

    ■リプレイ

    ●RUNO ON STAGE!
     バンッ!
     ステージ上で火花が炸裂。爆音は周囲の熱気を更に引き上げ、オーディエンスの歓声は一層強くなった。
    「ルイちゃん! のどちゃん! RUNO! 僕らは2人を愛してRUNO!」
    「「ルイちゃん! のどちゃん! RUNO! 僕らは2人を愛してRUNO!」」
     最前列で団扇を掲げる居島・和己(は逃げだした・d03358)の小っ恥ずかしい掛け声に続き、花田・正太(小学生シャドウハンター・d10333)と早鞍・清純(全力少年・d01135)が完璧な振り付けを見せる。中学生達もまたすぐに彼らに合わせ始め、会場は一体感を増していった。

     夕日も沈みかけた放課後、それは突如出現した。
     グラウンドの中央に堂々と鎮座する野外ステージ。6人の親衛隊が囲むその上に立つのは2人の少女。
     その名もRUNO。話題沸騰のネットアイドルと新人アイドルの異色ユニットである!

     アウトロも歓声も止み、一瞬の静寂がグラウンドを包み込む。全ての視線がステージ上に集中する中、ひらひらでふわふわなドレスを身に纏った陽乃下・のどか(ぷにたまいちご・d00582)はオーディエンスにふんわりとした笑顔を向けた。
    「皆、ありがと~!」
     手を振るのどかに再び沸く観客。しかしその一方で首を傾げる生徒達もいた。
    「RUNO……? お前知ってる?」
    「いや、初耳。どうする、聞いてく?」
    「折角ですし、聞いて行ったら如何ですか?」
     生徒達の会話に割り込んできた声。脇坂・朱里(胡蝶の館の女主人・d00235)は目を丸くする彼らに説明を続ける。
    「新生アイドルの誕生を見たくはないですか?」
     誕生――その言葉に生徒達の目が輝く。人間とは総じて限定力溢れるものに弱い。
     そこへ歩み寄ってきた花邑・イデア(極彩メサイアニズム・d11749)は、揺れる生徒達にペンライトを握らせ、トドメを刺した。
    「一緒に応援しましょう。きっとその方が美しいですよ。ね?」
    「「は、はい!」」
     その後、朱里とイデアは他の生徒にもペンライトや団扇を渡して回る。
     一方、ステージ上では、のどかが軽快なトークを魅せていた。
    「話題のネットアイドル、陽乃下・のどか! モニターの中から出てきました! そしてこちらは新人アイドルのルイちゃんです!」
     のどかが隣の藍堂・ルイ(歌う愛弩留総長・d11634)にバトンを渡す。しかし当の本人は俯いたまま一向に動こうとしない。
    「えっと……ルイ、ちゃん?」
    「え……あ、あぁ! ゴメン、ボーッとしてた!」
     我に返るルイ。彼女の胸に去来していたのは感動だった。
     ずっとアイドルを追い続けていた。ステージ上で歌って踊るその姿は眩しく、輝いて見えた。いつだって憧れだった。
     しかしルイはその気持ちを心の底へ押し込める。この感動を口に出す必要はない。
     何故なら今の自分は貰うのではなく、皆に感動を与える存在なのだから。
    「アタシの名前はルイ! 今日は皆の心にお邪魔に来たぜ! よろしくな!」
    「じゃあ2曲目行ってみよう!」
    「え、もう!? アタシのMCは!?」
    「大人の事情で時間もあまりないのに、ルイちゃんがボーッとしてるから……」
    「いや、だからって――あ、おい! 勝手にイントロ始めるなよ、優太朗!」
    「のどかちゃんの言う通り、時間が押してるから」
     もはや問答無用。各種設備を扱う本田・優太朗(優し目な殺人鬼・d11395)は次なる曲を始めた。
     恨めしそうに見つめたルイであったが、すぐさまアイドルの顔に戻る。そしてスタイリッシュモードを発動させ、オーディエンスの歓声を起こさせた。
    「じゃあ2曲目行くぞぉ!」
     ルイの突出した歌唱力から始まったポップなラブソング。それは昨夜まで練習した振り付けと相まって、一瞬にして中学生達の心を奪っていった。

     その時、3階の廊下で2つの瞳がグラウンドを見下ろしていた。

    ●ライバルアイドル登場!
     アイコンタクトの直後、ルイとのどかがジャンプ。軽やかな着地と同時に今度は銀テープが冬のグラウンドに舞った。
     空に手を伸ばす生徒達の中、イデアが微笑む。
    「うふふ、彼女達ほど可愛いアイドルはいませんね」
    「これからはRUNOの時代。生徒会長さんは流行に取り残されちゃっていませんか?」
     未だラブに想いを寄せていた生徒達すら朱里の言葉に揺らぎかける。それほどまでにRUNOのパフォーマンスと親衛隊の盛り上げは影響を与えていた。
    「いい具合に盛り上がってきましたね」
     真面目に現状を分析する優太朗。対して最前列で活躍していた3人はその限りではなかった。
    「こう……俺の好み的にはおぱいが……あ、いや、なんでもありませんッ」
     清純は自然と漏れた言葉を撤回しようとする。その時、彼の肩を和己と正太が優しく叩いた。
     分かるぜ、と。
    「「YES、おぱい!」」
    「ふ、2人共ォ!」
     おぱいで繋がる友情。男としては当然の欲求なのかもしれないが、傍から見るとこれほど滑稽なものはない。
    「それにしても、俺らのRUNOちゃんは最強アイドルだぜ!」
    「ルイ先輩ものどかちゃんも可愛すぎ!」
    「RUNOの伝説が今、始まっちゃうじゃん!」
    「……誰の伝説が、何処で始まるの?」
     刹那、凄まじい冷気が背筋を撫でた。
    「ラブちゃんのステージで何してくれちゃってるのかな~?」
     ラブ率いる生徒会の登場に次の曲に入ろうとしていたRUNOも堪らず歌を止めた。
     如何に媚びた態度をしようとも、如何に頭が弱そうであろうとも、彼女は淫魔。人を魅了する力は群を抜いていた。
    「皆も~、誰を応援すべきなのかな~?」
     先程までRUNOコールで一体となっていた観客の半数すらラブの名を答える。彼女が生やした根はそれほど深かった。
     しかし灼滅者達は違う。闇と戦う彼らは早々闇に屈しないのだ!
    「た、堪んねぇ~! いいんじゃねぇ? ねぇ、いいんじゃない!?」
    「和己さん、何処に行かれるんですか?」
    「は、離せ、花邑! 今の内に逃げようなんて考えてないこともないから!」
    「お、おぱいっ……!」
    「早鞍さん、そのイヤラシい手の動きは止めて下さい」
    「ス、スカートが短い……。マズイ、吐血しそうッ……」
     前言撤回。割と瓦解しつつあった。
     ふふん、と余裕そうに鼻を鳴らすラブ。そしてラブ親衛隊はRUNO派とラブ派に分かれていがみ合う生徒達を制した。
    「本校生徒は早々に帰宅しなさい。……貴方達には話があります。生徒会室まで来なさい」
     それだけ言い残し、生徒会メンバーはラブの許へ戻る。ラブは一度ステージを睨みつけた後、生徒会室へと帰っていった。
     グラウンド全体に緊張が走るが、おかげで条件は整った。これで余計な妨害抜きに生徒会室へ迎える。
    「それじゃあ、行ってくるね~!」
    「喧嘩なんてするなよ。仲良くするんだぞ、皆」
     のどかとルイはオーディエンスにそう声をかけながらステージを降りる。そして親衛隊と共にラブ達の背中を追った。

    ●物理的アイドル頂上決戦!
    「舐めたことしてくれたわね、アンタ達」
     生徒会室に到着した一行を迎えたのは、ラブのドスの利いた声だった。
    「このラブちゃんの庭でライブ? RUNO? はぁ? 連中が今更あたしの魅力から逃れられる訳ないじゃない」
     己のステージで歌われた憤怒と生徒を半分持っていかれた嫉妬から、ラブは本性を剥き出しにする。真っ先に対峙したのはイデア。
    「随分と面白い淫魔さんですこと。でも些か自分勝手が過ぎるようですね。我々の手でお灸を据えて差し上げましょう」
    「神輿は軽い方が良いって御存知ですか? 理解出来るほどの中身が貴方にあるとは思えませんけど」
     慇懃無礼な言葉を放つイデアと朱里。それは相手の激昂を招くには十分過ぎる挑発だった。
    「……ブッコロス!」
     ラブの宣戦布告と同時に親衛隊が前衛に展開。灼滅者達もまた広大な生徒会を利用して散開した。
    「全てはラブ様のために!」
     右腕に『書記』という腕章を巻いた男は、自身に闇の契約をかけていたのどかに迫ろうとする。しかし直前に清純のガンナイフが敵の足元に放たれた。
    「おっと、うちのアイドルちゃんはやらせないぜ?」
     たたらを踏む生徒会メンバー。その隙を突くように朱里が情熱の篭ったダンスを舞い、和己は預言者の瞳で自己強化を図る。
    「全く、突然襲うとは。そういうところの思慮が足りないのですよ」
    「うぅ、やっぱり前衛になんか立つんじゃなかったぜ――って、うぉ!?」
     突如襲いかかってきた『会計』のバインダーを間一髪で回避。だが次の瞬間、『副会長』のオーラを纒った拳で後頭部を強打された。
    「~~っ! あ~もう、やっぱり性に合わねぇ!」
    「だからって徐々に後退しないで下さい」
     和己の背中を前に押してから、イデアもパッショネントダンス。
    「これならどうですかッ」
     優太朗は口に咥えたナイフで『雑用』の体を斬り裂き、ビハインドが追撃。相手は咄嗟に体制を立て直そうとしたが、腹部に魔法の弾丸がめり込んだ。
    「へへっ、結構効くだろ?」
    「ラブ様のために鍛え上げたこの肉体……簡単に倒れるものか!」
     書記は手の中で素早く回したペンを正太の肩に突き刺す。その背後で雑用は生徒会室の端に置かれたモップにオーラを乗せ、柄で優太朗の腹部を殴打した。
     それぞれの親衛隊が乱戦を繰り広げる中、アイドル同士は静かに見つめ合う。
    「ラブちゃんはちやほや構って欲しいから、アイドルになったの?」
    「当たり前じゃない」
     即答するラブにのどかは小さく溜息を漏らす。
    「……それならアイドル失格だね」
     ぴくりと柳眉を歪めるラブ。一触即発の空気が流れるが、その間にルイが入った。
    「まぁまぁ、カリカリするなって。ふ~ん、アンタがラブちゃんか……。可愛いな」
    「……ふん、当たり前じゃない」
     ニッコリと笑うルイにラブは髪を弄りながら答える。想いの違いはあれど、偽りないルイの言葉は満更でもないようだ。
    「ぐぁ!」
     その時、朱里に蹴られた副会長が両者の間に転がる。ルイとのどかの注意がそちらへ向いた瞬間、ラブは弓を取り出した。
    「――っ! アイドルなら歌で語れよ、ラブ!」
     ルイの叫びがラブの耳に届くことはない。直後、頭上から無数の矢が降り注ぎ、前衛の体を鋭く穿った。
    「邪魔者は消えればいい。ここのアイドルはアンタ達じゃない、ラブなの!」
     プライドと存在意義を証明するため――物理的アイドル頂上決戦が加速する。

    ●アンコール!
    「ハッ!」
     美しい装飾が施された大鎌が死の香りと共に振り下ろされる。断罪の刃に裂かれた書記は地に伏した。
    「これで3人っ」
    「いや、4人目だぜ!」
     イデアの言葉に付け足しながら、正太は制約の弾丸を放つ。額に直撃を受けた雑用は床を舐めた。
     親衛隊が起き上がってこないのを確認してから、一行はラブに視線を向ける。
    「さぁ、後はお前だけだぜ」
     敵の数が減って超強気な和己だが、ラブの表情に諦めはない。
    「別に親衛隊なんていらない。アンタ達はあたしの魅力に気づかなかったことを後悔しながら死ぬの」
    「ラブちゃんは可愛いけど……ゴメンな、肉食系女子はちと好みじゃないんだ」
    「あたしもアンタみたいなのタイプじゃないわよ、バーカ」
    「ガーン!」
     エコーが掛かけながら打ちひしがれる清純。まさかのカウンターである。
    「傷は深い! しっかりするんだ、兄ちゃん!」
    「謝れ、謝れよ! こいつは二股掛けられた挙句、あっさり振られたし、ルックス以外は残念仕様だけど良い奴なんだぞ!」
    「グサァ!」
     全くフォローになってないどころか致命傷だった。
    「あー……真面目に行きますよ?」
     優太朗の確認に残りの面々が大きく頷く。号泣しながら抱き合っている3バカはひとまず置いておこう。
    「行くよ、ラブちゃん。戦いでもアイドル力でもRUNOが勝たせてもらうから!」
     力強い宣言と共に『きらっ☆』とポージング。同時に放たれたご当地ビーム――もといあぶらとり紙花吹雪ビームはラブの右腕を捉えた。
    「貰った!」
     一瞬の怯みを見逃さず、優太朗が肉薄する。しかし既のところで気づいたラブが無理矢理体を捻った。
     その結果がとんでもないことを招くとも知らずに。
    「きゃあ!」
    「お、おぱいッ!?」
     ぽふっと優太朗の顔がラブの豊満な胸に埋まる。ラッキースケベ神、御降臨である。
    「こんのっ……変態!」
     ラブは優太朗の頭を掴み、顔面から地面に叩き付ける。当然の仕打ちに優太朗の半壊したメガネが外れた。
     優太朗が変貌を遂げたのはその直後。
    「ふ、ふふふっ……やってくれたねぇ!」
     口調も見た目も変わった優太朗が斬弦糸を放つ。超至近距離からの一撃を回避すること叶わず、鋼糸はラブを斬り裂いた。
     思わず後ずさるラブ。その背後には復活した和己と清純がいつの間にか控えていた。
    「「喰らえ、男の純情ミサイル!」」
     名前はさておき、見事なコンビネーションであることには変わりない。2つのマジックミサイルは複雑な軌道を描き、同時にラブに着弾した。
    「くっ……こうなったら!」
     ラブは弓矢を捨て、代わりに生徒会長席に置かれたマイクを握り締める。次の瞬間、一行の動きが一斉に止まった。
     マイクから発せられる声があまりにも美しかったから。
     普段のラブからは想像出来ない、綺麗で繊細な歌声。聞き惚れるのも無理もなかった。
    「……アンタ達が強いのは認めるわ。でも勝つのはあたしよ!」
     歌声が力となってルイに迫る。しかしその衝撃が彼女に届くことはなかった。
    「少々貴方を見くびっていたようです。素敵な歌声でした」
     でも、とルイを庇った朱里の拳に光が収縮する。
    「勝つのは私達です!」
     拳がラブの体を穿つ度に光の軌跡が彼女の体に吸い込まれていく。そしてその輝きが収まった瞬間、宙へ舞ったラブのマイクをルイが掴んだ。
    「ラブちゃん! アタシの歌を聴いて!」
     歌い上げるのは、先程ラブが奏でたメロディー。一瞬目を見開いたラブだったが、少し口元を緩ませながらゆっくりと瞳を閉じた。

     ラブの体が光となって消える。ゆらゆらと揺蕩う粒子にルイは語りかけるように告げる。
    「ラブちゃんの歌、好きだよ。アタシ、ラブちゃんのファンになる。だからね、今度会ったら一緒に歌おう」
     恐らくその願いが直接叶うことはない。ラブが蘇ることはないのだから。
     しかし口にせずにはいられなかったのだ。貴方と共にステージで歌える日が来れば、それはとても素敵なことだと思うから。
     その時、のどかが廊下から顔を出す。その表情には歓喜の色が窺えた。
    「ルイちゃん、アンコールだって! 皆がグラウンドで待ってくれてるみたい!」
     ルイは手のひらに落ちてきた粒子をそっと抱き締める。それを看取った後、しんみりした気持ちを払拭して振り返った。
    「よーし、期待に答えちゃおっか! 行こう、のどか!」
    「うん!」
     笑顔で駆ける2人。何故なら私達は皆を幸せにするアイドルなのだから。

    作者:一文字 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 8
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