歳末の商店街にて

    作者:宮橋輝


     2012年も、もう残り少ない。
     クリスマスが終われば、あっという間にお正月だ。
     短い冬休みは、実に慌しく過ぎていく。ぼんやりしていては、何もしないうちに終わってしまうかもしれない。
     遊ぶにしても、宿題をするにしても、しっかり計画を立てなくては。

     そんな十二月の休日、あなたは商店街を訪れた。
     周囲を見渡せば、武蔵坂学園の生徒と思われる姿もある。
     彼らは一人で、あるいは連れ立って、歳末セールで賑わう店の間を歩いていた。

     買い物を済ませに来たのかもしれないし、友達と待ち合わせて遊ぶのかもしれない。
     奥の福引きコーナーから、鐘の音が聞こえてきた。もしかしたら、これが目当てだろうか?

     今日は天気も良いし、事件の発生を告げるエクスブレインからの連絡もない。
     このまま一人で動くにしても、誰かを誘うにしても、のんびり過ごすことができるだろう。

     さて、あなたの行動は――。


    ■リプレイ


     訪れた商店街は、セールの活気に満ちていた。
     年越し蕎麦に鏡餅、注連飾り。手際良く買い物をこなしつつ、臣が呟く。
    「いつ来ても賑やかですね」
     好物の出し巻き卵を食べ比べようと何店かはしごしたら、荷物はもう両手一杯だ。
     秀春が選んだのは、雑煮用の丸餅。九州出身の彼には、この方が馴染み深い。あとは焼きあごとかつお菜があれば完璧だが、東京で買えるだろうか。
     まあ探してみようと八百屋に向かえば、店の主人と値引き交渉するマキナの姿。まだ一人暮らしには慣れないが、家計のやりくりは楽しい。
     二割引で手を打ち、ホクホク会計。節約しすぎで、福引きの券を逃したのはご愛嬌。

     人波の中には、『buzz session』の三人娘。
     本日のお目当てを問う智景に、灯と菫が答える。
    「本屋で小説を二、三冊かな」
    「私は服を……」
     行き交う人々を眺める菫の表情が、ふと翳った。
     自分達は、彼ら一般人とは違う。せめて、この機に二人と仲良くなれたら――。
    「部室の方になんか置きたいね、鏡餅とか」
     明るい声に振り向けば、智景の笑顔。
     今度は皆で来たいねと言う彼女に、菫も頷いて。
    「終わったら福引きしたいなー」
     灯の提案に、二人から賛成の声が上がった。

     本日の目的はマーケティングリサーチ。
     アルヴィは端から店を巡り、売れ筋商品をチェックしていく。
    「あら……?」
     お得な安売り品を見つけて財布を取り出す彼女の傍らを、軍と涼花が通り過ぎた。
    「お前、正月うち来ねぇの?」
     軍の言葉に、涼花は一瞬どきりとして。二つ返事で、満面の笑顔を向ける。
    「すずがおぜんざい作ってあげる!」
    「甘いのは食えねぇぞ」
    「不幸な奴め! じゃあお雑煮?」
     打てば響くやり取りで、買い物を進める二人。
     福引きの券は半分こ。当たったコーラも、半分こ。年末も来年も、ずっと一緒がいい。

     力生と織音は、『石英寮』の買出しに。
    「まず食材だな。ええと……」
     メモを頼りに必要な物を探すが、実は揃って日本の正月に疎い。間違っても、指摘できる人間は居なかった。
     苦戦しつつお使いを終え、折角だからと福引きに。戦利品は、手作りのミニ門松。
     愛が溢れている、と目を輝かせる織音を前に、力生は何に使う物なのかと首を傾げていた。


     福引きコーナーは、運試しに訪れた人々で混雑していた。
     あっという間の一年を思い返し、道理は抽選器に手を伸ばす。
     外れて当然と開き直れば、引き当てたのは入浴剤。無欲ならぬ我欲の勝利とはいかずとも、年末の休養には丁度良いか。
     お次は悠。ゲーム等を買い込み、手にした抽選券は三枚。
    「うっしゃ。良いお年を、俺。いくぜっ」
     戦果はティッシュ、お菓子、缶ジュース。正月、ゲームのお供にどうぞ。
    「やっぱりすごい人だなぁ」
     どうせ当たらないと有斗が抽選器を回せば、鐘の音が鳴った。
     収穫は、おもちゃ屋で高いと諦めたボードゲーム。冬休みは、これで皆と遊ぼう。

     一方、『Bloom』の三人は芒の抽選券を分け合い一回ずつ福引き。
     法被を着たクマのぬいぐるみを揃って当てた男二人が、複雑な表情で向かい合う。
    「かわいい子ゲットしたじゃん」
    「よし、飛鳥。これをやろう」
     ティッシュ片手に笑う清に、迦月がクマを押し付けた。怒るかと思いきや、意外にも彼女は頬を緩ませて。やりとりを見た芒は、クマを手にそっと微笑む。
     ――この後は、近くの珈琲屋でお茶にしようか。
     いつもの商店街も、友人達が隣にいるだけで違って見える。楽しくも温かい、歳末の時間。

     続いては、大荷物を抱えた『炎血部』の二人。
     荷物持ちの駄賃に貰った抽選券五枚で桜太郎が勝負するも、結果は全滅。
    「運なんて気分だ、気分。参加賞も当たりだと思え」
     悔しがる後輩を宥め、淼の番。やはりティッシュが続く。
    「当ったれ! 当ったれ!」
     応援を受け、気合込めたラスト一回――見事に味噌を当てた淼に、桜太郎が驚きの表情を見せた。
     新品の食器が入った袋を提げ、猪子も福引きに『チョコっと』挑戦。
    「面白いものでもあたるかなっ?」
     と、引き当てたのは板チョコ。大好物という訳ではないけど、これはこれで。
     後ろでは、敦真が家族からの電話に弱り顔。
     お節の材料を買い揃えた後に、それらを頂いてしまったと告げられても困る。
     直後、福引きでさらに食材が被ったのはここだけの話。


     そのゲームセンターは、商店街の片隅にあった。
     貯めた軍資金を手に、皐月は勇んで足を踏み入れる。
     お目当ては、地元で最強を誇っていた格闘ゲーム。ここでも頂点に立つべく、彼女は対戦者を探す。今日は、金と時間が尽きるまで。
     一方、クレーンゲームの景品を抱えて店内をぶらついていたヒラニヤは、新作ガンシューティングをワンコインクリアする宮子を目撃。
    「貴様らは、所詮モニタの上でしか動けん的と知れ」
     彼女のスタイリッシュなプレイスタイルに興味を惹かれたヒラニヤが対戦を申し込めば、宮子も受けて立ち。
     ハイスコアラーの座をかけて、いざ勝負!

     隣のガンシューティング台では、オロカと彩音が奮戦中。
    「……サイキックなら当たるのに」
     ガンナイフ使いといえど、ままならないことはあるもので。
     百花と砂那は、太鼓のゲームをプレイ。
    「初めてやったけどらくしょーだな、らくしょー!」
     一曲目クリアに気を良くした砂那が難易度を跳ね上げれば、次は開始三十秒で呆気なく轟沈。まあ当然の結果か。
     こちらはクレーンゲームのコーナー。ナノナノ似の人形を狙う焦を、三ヅ星が応援する。
     しかし、あと少しというところで小銭が尽きた。
    「ナノナノ様お願いします……お金返して下さい……」
     崩れ落ちる焦に、三ヅ星は笑ってガッツポーズ。
    「今度はボクが挑戦するよ!」
     協力プレイで、見事人形をゲット!

     一通り遊んだら、『あやかしびと』の六人でプリントシール機へ。
     得意じゃないからと隅に寄る百花の腕を、彩音が引いた。
    「ダメだぞー、そんな端っこじゃ目立てないんだからー!」
    「きゃっ!? ……ちょ、ちょっとやめっ」
     すし詰め状態で大騒ぎ中に、シャッターの音。笑う三ヅ星の隣、驚き顔の焦が映って。オロカは、砂那の額に第三の目を落書き。
     表情はそれぞれでも、皆にとって思い出の一枚になっただろうか。


     昼を過ぎても、商店街の客足は途切れる気配がない。
    「シア、手を……」
     はぐれないよう、十夜はそっと妹の手を取った。自分に歩調を合わせる兄の優しさに、アリシアの心は温かくなる。
     欲しいものは決まったかと十夜が問えば、アリシアは鯛焼きが食べたいと控えめに答え。
     一つだけ買ったそれを、二人で分けて食べる。
    「美味しいですね」
     微笑む妹に、十夜も少し笑って。兄妹はただ、互いの幸せを祈る。

     雅臣と歌織は、テストの反省会と霊犬の散歩コース下見を兼ねて商店街を散策。
     互いの苦手分野対策を話し合いつつ、参考書を買いに本屋へと向かう。
    「風が強くなってきましたね……」
     雅臣が自分のコートを歌織にかければ、彼女は女の子にそういう事するものじゃない、と突っ込んで。
    「……でも、ありがとう」
     礼の言葉とともに、微かな笑みが零れた。
     二人が本屋に辿り着くと、買い物を終えた弓弦とすれ違い。
     級友と挨拶を交わし、弓弦は一人帰路につく。ゲームソフト屋も、今日は素通り。楽しいことも、毎日続いたら退屈と同じだから。

     本屋の中には、大荷物を抱えた流希。
     年越し蕎麦を皆に振舞おうと多めに買ったのだが、傍から見るとかなり目立つ。本人は気にせず、SFものの小説やDVDを選んでいたが。
     一方、香は参考書の会計を済ませて福引きコーナーへ。
    「御神籤の予行演習みたいなもんか」
     呟いて抽選器を回せば、五百円分の割引券を入手。運試しとしてはそれなりだろうか。

    「しろちゃん、このお店可愛い……っ」
     アンティーク調の雑貨屋を指し、露が声を上げる。
     扉を潜れば、中はまるで童話の世界。小さな置時計を手に取った鵺白に、露は雪の結晶のチョーカーを差し出して。絶対似合うよ、と笑う。
    「あ、この髪留め露ちゃんみたい」
     鵺白が見つけたのは、薄いピンク色の花飾り。
     素敵な出会いに、二人の表情も綻んだ。

     一方、娑婆蔵は招き猫を物色。
    「こいつァ実にめでてえ面構えでござんす」
     小判の書き文字が『一撃必殺』とか『鎧袖一触』なのは、この際突っ込んではいけない。
     顔を上げれば、衣料品店に入る男女の姿。
     女物売り場に向かう光明に声をかければ、彼はいいんですよと答えて刃兵衛の服やアクセサリーを選ぶ。
     戸惑う彼女に、光明はワンピースとロザリオを差し出して。
    「どっちが良いですか?」
    「……光明の好きな方で構わない」
     会計の後、ロザリオは光明の手で刃兵衛の首元へ。
     似合っているという声に、彼女は微笑み礼を返した。

     山のように衣類を買い込み、焔竜胆が店を出る。
     一人のショッピングを寂しく思わなくもないが、編入して間もない身では仕方あるまい。着道楽の彼女らしく、次は呉服屋を探す。
     その頃、呉服屋では陵華が友禅の振袖に目を見張っていた。
     流石に手が出ないので、馴染みの店員と談笑しつつ帯留と帯締めを選ぶ。
     宝くじ当たらないかなと、つい本音が漏れた。


     商店街の楽しみは、買い物だけではない。
     クレープ屋には、テストの打ち上げで三鷹北キャンパス高校1年2組の面々が集まっていた。
    「噂通り、クリームの甘さと苺の酸味が……」
     隠れた甘党ぶりを発揮する直人の隣で、雅が一番大きなクレープを笑顔で頬張る。
    「クレープ怪人!」
     紅葉がカプセルトイで当てたフィギュアの手足をクレープに付ければ、フィールドジャケット姿の真がやんわりと窘めた。
    「食べ物で遊んだら駄目ですよ」
     そうっすよと声を重ねつつ、雅は一人で上京した頃を思い出す。心細かったけど、今は友達もいるから大丈夫。 
     皆を誘った直人も、表情には出さないが内心では嬉しい。
     共に笑い合う仲間達にはいつも助けられているし、守っていきたいとも思う。

     喫茶店では、買出しを終えた二人が一休み。
    「今日は付き合ってくれてありがと。これ、お礼だよ」
     千優が差し出したプレゼントに、由乃は目を丸くする。
     中身は、可愛らしい花のピアス。それを見て、由乃は親友の優しい想いを悟った。兄を亡くしてから、ずっと彼女には心配をかけ続けていたのだろう。
     ありがとうと告げると、千優は満面の笑みを浮かべた。

     別の席には、やはり休憩中の彩とジンの姿。
     プレゼントしたテディベアを抱いて笑う彩を見て、ジンも表情を綻ばせる。喜んでもらえると、自分も嬉しい。
    「今度は、わたくしからもお礼をさせて頂きますね」
     何が良いかと彩が問えば、ジンは少し考えて。
    「……また、こんな風に、一緒にお出かけしたい、かな」
     少し照れた様子で、彼はそう答えた。

     奥の席で、こんな一幕もあった。
    「女の子とのデートとか慣れてる?」
     恐る恐る発した問いに頷かれ、由希奈の瞳から涙が零れる。
     誘われたのが嬉しくて、服も頑張って選んだのに――。
     いちごが、違うんです、と慌てて言った。
    「今までは女子扱いでしたから……」
     男として見られると、妙に意識してしまう。
     泣き止んだ由希奈に、彼は頬を赤らめて笑った。


     買い物を終え、伽夜の手には抽選券。
     興味津々で福引きコーナーに向かう途中、功紀を見つけた。
    「何してはるの?」
     遊んでました、と笑う彼の足元には野良猫。割烹着姿の柊慈が、可愛い猫ですねと声をかける。
     猫を愛でつつ福引きは済ませたのかと訊けば、まだと言うので三人一緒に。
     列に並ぶと、気合の入ったヘキサの声。
    「金賞出やがれええええッ!」
     流石に家電は無理だったが、千円分の割引券を手にご満悦。いいなぁと言う功紀に、ヘキサは自慢げに胸を張る。
     ちなみに三人は参加賞。ティッシュを受け取る伽夜の後ろで、柊慈が結構ありがたい、と笑った。

     中には、こんなハプニングも。
    「あれ?」
     舞姫が抽選器を回すも、玉が出ない。
     順番待ちの列を見てパニックに陥った末、玉詰まりと判明。
     直してもらった後、菓子を引き当て一件落着。

    「うわー、人いっぱい」
     列の最後尾に並んだるりかは、鯛焼き片手に順番待ち。
     時折響く鐘の音にどきどきしつつ、いよいよ自分の番。
     参加賞に肩を落とすも、来年はきっと良い事がある筈で。
     ――続いての挑戦者は、椿。
    「いざ、勝負……!」
     彼女の戦果は、ティッシュとガムが一つずつ。
     こんなものかと言いながらも、正月の御神籤は大吉を出そうと誓った。

     一方、こちらはミハイロフ兄弟。
    「日本に来て、行列作るのはもう慣れた……」
     イリヤの呟きに溜息を返し、イワンは賞品のゲーム機を見つめる。
     やがて、双子の番。
     勢い良く回した兄は割引券、ゆっくり回した弟はティッシュと対照的な結果に。
    「なァこれ欲しい? やろーかー?」
     得意げなイワンを前に、イリヤは悔しそうに舌打ちする。
     立ち去る双子と入れ違いに、ニコニコ顔の時仁が列に並んだ。
     そわそわと抽選券を数えながら待った後、目を輝かせてハンドルを握る。
     当てたのは、犬用のおやつ。後で、霊犬の『こま』にあげようか。
    「……へっくし!」
     続いて抽選器を回した雷歌は、大きなくしゃみ。
     ティッシュを貰おうと手を伸ばせば、何と米1kg大当たり。
     嬉しい半面、鼻水的な意味でかなり切実に困る。


     のんびり買い物を済ませ、手の中には抽選券が一枚。
     急ぎの用も無いからと、翔琉は福引きコーナーに立ち寄る。
     無心で臨んだ戦果は、切り餅1パック。まあまあの結果だろうか。
     続いて、将平に手を引かれた真白がやって来た。
    「ついてるな、まだ当りは残ってるぞ」
     抽選券を受け取り、背伸びしてハンドルを握る。
    「えいっ!」
     力一杯に回す様子は、どこか危なっかしくて。
     応援しながら差し出した手に、将平は亡き兄のそれを重ねる。
     結果は、全部外れだったけれど。はにかみティッシュを受け取る真白は、楽しそうに笑っていた。

     ふらりと現れた蝸牛が当てたのは、一本の箒。
     再び雑踏に紛れてカメラを構える彼がどこから来てどこに去るのか、それは誰も知らない。
     ――だって、蝸牛は謎の転校生だから。

     夕方のタイムセール時には、主婦に混ざって走るムウの姿があった。
     安売りの卵や新鮮な魚介類を勝ち取った後、思わぬ落とし穴。
    「や、やばい。買いすぎた……」
     誰か手伝ってくれと叫んだ時、目の前のラーメン屋から昌利が出てきた。
     どうやら、行きつけの店で味噌ラーメンを食べていたらしい。渡りに船と、彼に助けを求めてみる。

     商店街の人波が落ち着いた頃、菊乃は一軒の鯛焼き屋を見つけた。
     今まで食べ歩いていた自分をなお虜にする味に感動し、袋一杯お買い上げ。
     福引きでも菓子を当てた彼女は、帰るまで笑顔だった。

     ――皆の温かな思いとともに、商店街の年は暮れてゆく。

    作者:宮橋輝 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月30日
    難度:簡単
    参加:74人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 16/キャラが大事にされていた 19
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