闇の合間に揺れる心

    作者:幾夜緋琉

    ●闇の合間に揺れる心
     すっかり肌寒さが強くなった早朝、静岡県は某所。
     周りと比べても、何の変哲も無い、とある一般家庭の中で。
    「やだよぉ……助けてよぉ……」
     譫言の様に、そんな声でうめき続けるのは、10歳位の少年。
     そんな少年の声を聞き届けながら……。
    『ふふ……面白い。こうして苦しむ姿は、比類出来ない程に楽しいものだな』
     何処か含み笑いを含みながら告げるは、ダークネスのシャドウ。
     少年が苦しむ姿を見て、シャドウは嬉気に呟くのであった。
     
    「皆、集まったかな? それじゃ、説明を始めるね!」
     まりんが集まった皆を見渡すと、早速説明を始める。
    「えっとね、今回は皆に、夢を荒らすダークネス、シャドウを倒してきて欲しいんだ。ダークネスは……この子の夢へと入り込み、そして苦しませる事で満足を得ているみたいなんだ」
    「みんなも知っての通り、ダークネスはバベルの鎖による予知能力があるけど、わたしの指示に従ってもらえればきっと大丈夫なんだよ!」
    「ただ今回の相手であるシャドウ……強力で危険な敵なのは間違い無いよ。でも、ダークネスを灼滅する事こそ、灼滅者の宿命なんだ。厳しい戦いになるとは思うけど、宜しく頼むんだよ」
     そして続けて、まりんは敵の能力について説明をする。
    「ダークネスはシャドウ。シャドウの能力は、まだ皆が相対するには強力な力を持っているの。でも、少年のソウルボードの上であれば、シャドウの実力は大幅に弱体化される。だからこそ、シャドウをソウルボードの上で対峙し、彼を退却させることが目的になるね」
    「またシャドウは、その配下を四人連れているんだ。配下達はダークネスに比べれば、殴りかかったりする程度の攻撃手段しか持たない。当然シャドウと連動して攻撃を行ってくるから、油断は出来ないけどね……」
    「後は……ダークネスを灼滅するのは勿論なんだけど、あともう一つ……悪夢に囚われている少年の救出もお願いしたいんだ」
    「彼は……このクリスマスの時期にご両親が交通事故に遭ってしまったそうなんだ。だから、クリスマスに対しては余り良い想い出は無いみたい……そんな彼を元気づけてきて欲しい、と思うんだよ」
     そして。
    「子供の心に入り込んで虐めるこのダークネスを許せないよね! みんなの力で、このダークネスを灼滅してきちゃってよ!!」
     と言いながら、ぴょんぴょんとジャンプするのであった。


    参加者
    成重・ゆかり(闇光の紡ぎ手・d00777)
    晦日乃・朔夜(死点撃ち・d01821)
    夜魔神・霜汰(復讐鬼・d03490)
    草壁・悠斗(蒼雷の牙・d03622)
    泉・火華流(元気なハンマー少女・d03827)
    ハイプ・フィードバック(焔ノ記憶・d04764)
    白灰・黒々(モノクローム・d07838)
    高峰・緋月(よく転ぶ子・d09865)

    ■リプレイ

    ●闇聖夜
    「……きっと、彼にとっては、この聖夜はクリスマス以外にも、また別の意味合いがあるのでしょうね……」
    「ええ。ただでさえクリスマスにはいい思い出が無い少年……なのに、そこに付け込むシャドウ……赦せませんね」
     成重・ゆかり(闇光の紡ぎ手・d00777)に、白灰・黒々(モノクローム・d07838)がぐっと唇をかみ締める。
     クリスマスの夜……悲しい事件を背負った少年を救う為、まりんから依頼を聞いた灼滅者達はとある家へと向かっていた。
     街角をみわたせば、恋人やらと楽しいひと時を過ごすのだろう、肩を抱き合い歩く人の姿。
     サンタの衣装に身を包んで、クリスマスケーキを売っている人やら、町はクリスマスという時を祝いの形で迎え入れていた。
     しかし……そんなクリスマスを、悲しい形で受け入らざるを得ない少年がいる。
     この記念すべき日に……彼の両親は遠い空の先へと旅立ってしまった。
     数年が経過しても、その悲しき思い出は消え去る訳がない。この日が来ると、幾度となく思い出してしまう。
     でも、そんな少年に対し、更に苦しめようとする影、ダークネス・シャドウが迫り拠るという。
    「何だろう……余計なことをせずに、おとなしく引きこもっていればいいのに……シャドウって、どいつもこいつも、趣味が悪いわね」
    「全くだ。そして……俺がこんなに少年を助けたいと思っているのは、やっぱりアイツがシャドウハンターだからなんかなぁ……」
    「……シャドウは、私達の宿敵ですからね。それはシャドウに対する怒り、恨みなどはあるわよ。そのハイプさんの言う人も、そうじゃないかな?」
    「そうだな……」
     晦日乃・朔夜(死点撃ち・d01821)の言葉にハイプ・フィードバック(焔ノ記憶・d04764)と、高峰・緋月(よく転ぶ子・d09865)が答え、頷く。
     そして、草壁・悠斗(蒼雷の牙・d03622)が。
    「この下衆なシャドウを完全に灼滅出来ないのが悔しいが……今は、少年を救い出すことに集中しないとな。いずれ機会が来れば、熨斗を付けて返してやるさ」
     と言うと、それに泉・火華流(元気なハンマー少女・d03827)が。
    「いや……今回は灼滅出来る可能性も少しはありそうだよね? なら、がんばらないとね!」
     とニコリと微笑む。
     そんな火華流の言葉に。
    「……そうだね……うん、がんばらないと……」
     ごくり、と唾を飲み込む彼女。
     実は、シャドウと戦うのは初めてだったりする訳で……内心ではかなり緊張していた模様。
     でも、少年を助けたいという気持ちは確かで。
    「まぁ……彼の悲しい思い出で、これ以上不幸を重ねることを赦すわけには行きません。必ずや、悪夢から救い出してみせましょう」
    「ん、そうだね。みんな、がんばろうねぇ」
     夜魔神・霜汰(復讐鬼・d03490)が皆に言い聞かせるように言うと、灼滅者達は……苦しむ少年の家へと到着。
     苦しむ少年の顔を一度確認し……思いを新たにしながら、彼の夢の中へとソウルアクセスするのであった。

    ●優しき心の中に
    「……~♪ 夢の中に登場~、っと。正義のサンタさんズ登場って感じですかね? さて、少年はどこですかな?」
     黒々が周囲をきょろきょろと確認。
     暗い空間の中、彼の夢の中。
    『……うぅ……やだよぉ……』
     すすり泣く声が、遠くの方から聞こえてくる。
    「この声の方は……こっちね」
    「そ、そうだね。皆、急ぐよ!」
     緋月に霜汰が頷く、そして声のする方へと急いで走る。
     ……程なくすると、彼らの目の前に。
    『うぅ……パパぁ、ママぁ……』
     突如の事故で離ればなれになってしまった、父親、母親への言葉。
     周りはクリスマスの符に樹というのに、彼のココロは……暗いまま。
     そして……そんな彼の元へと迫り来るのが……ダークネス、シャドウ。
    『くくく……面白い。こうして苦しむ姿を見るのは、何にも増して楽しいものだな……』
     と。
    「あそこか……! 行くぞ、ロック!!」
     とハイプが叫ぶと共に、他灼滅者達が一気に彼の元へと駆けつけていく。
     そして……少年を護る様に、ぐるりと周囲を囲みながら、ダークネスの方に睨みを利かせる。
    「大丈夫か? 助けに来たぜ!」
    「君を護りに、この悪夢を終わらせに来たよ。さあ、こっちに!」
     ハイプと黒々の二人が少年の手を握り、ダークネスから離れるように動く。
     当然そんな灼滅者達の動きに、ダークネスは。
    『させるか!』
     そう言いながら、四体の配下を出現させる。
    「っ……仕方ねえな」
     吐き捨てるハイプ。少年を背に構えつつ……少年に努めて優しい声で。
    「俺はハイプ! きみの名は?」
    『ぼ、ぼく? ……草太……』
    「草太か、いい名前だ。ちょっとここで待ってな。俺達が必ず助けてやるから!」
     ニッ、と笑い元気づけ、そして周りの仲間達に頷く。
    「さぁ、フラストレーションたまっているから、今回は思いっきりいかせてもらうよっ!!」
    「そうだ。これ以上、彼を苦しませたりしない……!」
     火華流と、緋月が力強い宣言……の一方で。
    「む、無防備な人を痛めつけるなっ。ボ、ボ、ボクが相手になってやる」
     と霜汰は、何処か腰が引けた様に声を上げる。
     ……勿論これは演技。だがそのへっぴり腰の体制は、シャドウに。
    『くくく……そんなへっぴり腰で何が出来ると言うのだ? 全く……邪魔をするな!!』
     そう強く言い放つと共に、シャドウは先手の一撃。
     その攻撃を火華流がディフェンダーで受け止める。
    「っ……なんの、これしきだよ!」
    「……っ、でも、絶対に灼滅してみせる。絶対に、許さないから!」
     緋月も、改めてシャドウに対し敵対心の心を宣言する。
     そして火華流の両サイドから、ゆかりと霜汰の二人が。
    「行きますよ!」
    「う、うん!」
     近接し、クラッシャーの威力でブレイジングバースト、ティアーズリッパーで攻撃。
     ただ……ダークネスが本気を出さない様、こちらが精一杯の力である事を装いつつ。
    『っ……クク、その程度か?』
     その攻撃を受けて、大して効かない、とシャドウの言葉。
    「何!? そんな訳……!!」
    『その程度で私に勝とうなど百年早い。配下よ、いけ!』
     シャドウは配下へと指示し、己は一歩下がる。
    「……来るわよ」
    「判った。ロック、彼を頼むぜ」
    『わぅ!』
     朔夜が知らせると共に、ハイプは霊犬ロックを少年の護りにつかせ、配下達に対峙。
     次々嗾けてくる配下の攻撃を捌く。
     そして、次のターンになれば。
    「反撃だっ、アクセルスイングッ!!」
     火華流が、おおきなロケットハンマーを……ぐるんぐるんと振り回して、近づく配下達に攻撃。
     でもその攻撃は、威力が付きすぎて……。
    「は、はうぅ。……ちょ、ちょっと力が入り過ぎちゃったぁ……」
     と、目を回してぽてん。
     そんな彼女に、ハイプがすぐさま代わりの位置に入る……そしてシャドウ本体からの攻撃を受け止める。
     そして受け止めた攻撃を黒々が。
    「回復は慣れていないのですが……やらざるを得ませんね……みなさん、回復は任せて下さい!」
     と大きな声で言いながら回復。
     そして、シャドウと、配下の攻撃から草太を護る、悠斗と霜汰、ハイプの霊犬達。
     絶対に通さない……と言う心を持ちながら、配下達に牽制の攻撃を続けて行く。
     ……そして、苦戦を装いながらの数ターンが経過。
     ……すると、ふと気づいてみればダークネスの配下を一人、また一人と倒していて。
    「子供を虐めるなんて、最低だぜ! これでも喰らえっ!!」
     霜汰の渾身の雲櫂剣が、配下に叩き込まれると……最後に残っていた配下も倒れる。
     残るはシャドウ一人。
    「……ほら、いつの間にか後はお前だけだぜ?」
    「ええ……どうです、改めて自分の周りを見てみなさいな」
     霜汰とゆかりの言葉に……きょろきょろ、そして知る。
    『っ……この、お前達……欺したな!?』
    「気づけなかったのはあなたでしょう? ……慢心のしすぎです。さぁ……一気にとどめ、刺しますよ」
     悠斗がそう仲間達に告げて、灼滅者達は……今までセーブしていた力を全開にして、一斉攻撃。
     シャドウはその位置ターンの大ダメージに……当然怯む。
    『っ……この!』
     反撃とばかりに渾身の一撃を繰り出すも、黒々に加え、霊犬達も浄霊眼による回復でダメージを残させない。
     二ターン、三ターンとの猛攻……それに、一気にシャドウはダメージが大幅に蓄積され、ボロボロに。
    『っ……はぁ、はぁ……』
    「どうしました? これで終わりですか?」
    『……う、五月蠅い……くそ、今回は調子が悪かっただけだ……次は、覚えてろよ!!』
    「あ、待ちなさい!!」
     ゆかりがダークネスを逃すまいと一撃を放つ。
     が……その一撃は、何も無い虚無の空間に、空しく過ぎた。

    ●煌く聖夜の贈り物
    「……ふぅ。終わったか。逃げ足は速いな」
     息を吐き、平静になる霜汰。
     ……そして、後方を見返すと、そこには。
    『……な、何だったの、あれ……』
     呆然と、目の前で繰り広げられた状況に驚いている少年……いや、草太。
    「……驚かせちまったか、すまねぇ」
     霜汰は少し気まずそうに言う……そしてそれに、朔夜が。
    「ごめんね……キミに、クリスマスを届けにきたよ……?」
    「うん。良い子にしてたキミに、今日はボク達はサンタさんから、大事なモノを預かってきたんだ。天国に居る、キミのパパとママからだよ」
     そう言いつつ、黒々はひょい、っと大きな包みを彼に差し出す。
     その包みは緑色の包装紙に、赤いリボン……クリスマスラッピング。
    『……プレゼント……? パパと、ママから……?』
    「うん……草太に、って……せっかくの楽しい夜に、塞ぎ込んでいる子供を見て……両親だって喜ばないの」
    「クリスマスに辛い思い出があるんだろ? ちょうど今日に……今日一日だけ、草太君のパパとママが現れて、俺達に託してきたんだ」
    「そう……辛いことがあっただろうけど、そうやって悲しんでると、両親も悲しいって……だから、笑顔を取り戻して欲しい、ってね?」
     朔夜、悠斗、火華流の言葉に……少年はまだちょっと良くわからない風で。
    『だって……パパとママ、死んだんだよ? ……遭える訳、無いよ……』
    「ううん、遭える。だって……」
     少年の間近に顔を寄せて……そして満面の笑みで。
    「だって、サンタさんはどこにでもいけるからっ。ほら、メリークリスマス♪」
     そう言いながら、しっかりと手渡す黒々。
     草太は……おずおずながら頷いて、そしてプレゼントを開封。
     すると中からは、手編みのセーター、飛行機のワッペンの着いたニット帽、赤いマフラーや毛糸の手袋。
     どれも手作りの、温かみのあるアイテム……それに、ぱあっ、と顔を明るくさせる草太。
     そんな少年に対し……次第に姿が消えかけていく灼滅者たち。
    「……いい? この悪夢から覚めれば、きっと楽しい夢を見れるようになるから……だから今は、私達を信じて、待っていて欲しいの……」
     最後朔夜が、その言葉を残し……悪夢にとらわれた少年の下から消えていった。

     そして、現実世界に戻ってきた灼滅者達。
     目の前でまだ眠りについている少年……ただ、幾分その寝息は落ち着いたかの様に思う。
    「……さて、と……それじゃ夢の中だけじゃなく、現実世界でもプレゼントをあげないと、ね」
     とゆかりが言うと、夢と同じ緑の包装紙と、赤いリボンの箱。
     中には同じ、手作りの品々が詰め込まれている。そしてその箱のリボンを解く部分に一枚のメッセージカードを置く。
    「草太君、遅くなってごめんね? サンタクロースより」
     そんなメッセージカードに、更にハイプがベルの着いた青い月のオーナメント。
    「ベルは魔よけ、月は幸運を呼び込むんだとさ。飾っておくといいことあるかもだぜ!」
     まだ寝てるから返答は無いけれど……もしかしたら、少年には聞こえたかもしれない。
     そして……最後に緋月が。
    「……悪夢は終わったよ。これからきっと楽しい日々が始まるから……メリークリスマス」
     そう告げて、軽く頭をなでて……去る。
     そして家を出て……朝焼け始める空を見上げつつ、黒々が。
    「……願わくば、同じような事件が、おきません様に……」
     と祈りをささげる。
     クリスマスの夜明け……その祈りは、サンタへの願いとして届くかも、と思いつつ。
     そして……祈りを終えて。
    「……さて、と。メリークリスマス! 皆、ケーキでも喰いに行かね?」
    「おー、いいですねぇ。勿論ハイプ先輩の驕りだよね?」
     ニヤリと微笑む霜汰。
     まぁ、それはさておきとして。
     灼滅者たちは、再度少年の復帰を願い、一度振り返り……そして、その場を後にするのであった。


    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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