真冬の肝試し

    作者:春風わかな

     雪が降り積もる冬の街。両方の手にスーパーの袋を下げて世間話に興じるおばさま方の姿があった。
    「そういえば聞いた? 線路沿いの廃病院の話」
    「知ってる~、お化けが住んでるとかっていう噂でしょ。いやーねぇ、うちのバカ息子ってば興味津々で。『今度皆で肝試しに行くんだ!』とかって言いだしてるの」
    「あら、それうちの子も言ってたわ。なんでも深夜1階の窓ガラスに幽霊が映るんですって? 絶対見るって張り切ってるの」
    「どこでそんな噂を聞いてくるのかしらね……」
    「ホントホント、そんな暇があったら勉強してほしいわよね。来年になったら6年生なのに」
    「あ、そういえばこの前会長さんちのお嬢さんがね……」
     どこの町にもありそうなごく普通の風景だった。この時は。

     その夜。時刻は午前二時を少し過ぎたころ。草木も眠る丑三つ時。
     朽ち果てた病院の塀の影から、何やら人影が這い出てきた。
     一人……二人……三人……。
     人のように見えるが、よく見ると彼らは人ではなかった。うつろな何も映していない瞳、腐りかけた身体。そう、彼らはゾンビだった。
     おぼつかない足取りでゾンビ達は一心不乱に目の前の病院を目指して歩いている。そして、吸い込まれるように病院の中へと入っていった――。

    「ねぇみんな、北海道でアンデッドの姿が目撃されてる話って聞いたことあるかな?」
     教室に集まった灼滅者達への挨拶もそこそこに須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は問いかけた。
    「今回の事件も場所は札幌! 廃業しちゃった病院にゾンビが入り込んじゃったみたいなの」
     レポート用紙を慌ててめくり、まりんは事件の内容を説明する。
     まりんの話を纏めるとこうだ。
     件の病院にいるのはナース服のゾンビが9体、白衣を来たゾンビが1体の計10体。
     ボス格である白衣ゾンビはナースゾンビ3体とともに1階にある正面入口すぐ横の大部屋に籠っており、残りのナースゾンビは2階と3階にそれぞれ3体ずついる。
    「1階のゾンビは侵入者の気配を察すると部屋から出てくるから気を付けてね」
     逆に、ゾンビに侵入を気づかれなかった場合はこちらが有利な状況で戦うことができるので有効に活用していただきたい。
    「2階と3階にいるナースゾンビは普段はどこかの部屋に固まって籠っているみたいだけど、白衣ゾンビに危険が迫るのを察した場合は部屋から出てくるよ」
     1階の白衣ゾンビから先に倒そうとした場合、2階、3階のナースゾンビ達に気付かれることは避けられないだろう。到着までには多少の時間がかかるものの、10体のゾンビを纏めて相手にするのはそれなりの作戦が必要だといえる。
     もしも、先に2階や3階のゾンビ達を相手にする場合は手分けをするのも良いかもしれない。
    「ゾンビたちの攻撃だけど、基本的に鋭い爪で襲いかかってくるよ。この爪には石化によく似た効果があるみたいだから注意してね」
     でも白衣ゾンビだけは別の攻撃手段を使うからね、とまりんが眉をひそめる。
    「病院に廃棄されていたメスを使って攻撃してくるの。サイキックは手裏剣甲のものに似ているかな」
     レポート用紙に書かれた内容を説明し終え、まりんは顔をあげた。
    「この病院はもともとお化けが出るっていう噂があって近所の子供達の人気スポットなの。うっかり入り込んじゃった子が犠牲にならないよう、今のうちにみんなでゾンビを倒しちゃってね!」
     それじゃ、いってらっしゃい。
     まりんは笑顔で灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    峰崎・スタニスラヴァ(エウカリス・d00290)
    安曇・陵華(暁降ち・d02041)
    佐倉・梨沙子(咲焔・d04168)
    式守・太郎(ニュートラル・d04726)
    松下・秀憲(午前三時・d05749)
    春原・雪花(中学生神薙使い・d06010)
    フィリス・カーネリア(アンブレイカブルの原石・d09075)
    氷渡・零士(パプリックエネミー・d11856)

    ■リプレイ

    ●昼間に肝試し
     朽ち果てた病院を訪れた灼滅者達はボスがいると言われた1階の大部屋の前を慎重に通り抜け2階へと上がってきた。そして2階と3階のナースゾンビから倒すため作戦通り二手に分かれて探索を開始する。
    「実に探検したくなる様な廃墟ですね」
     近所の子供達に人気というのも頷けるお化け屋敷然とした3階の廊下を歩きながら式守・太郎(ニュートラル・d04726)が率直な感想を述べた。廃業されて長いのかぼろぼろの病院は隙間風が容赦なく吹き込んでくる。
     昼間だというのに薄暗い廊下をライトで照らしながら進む氷渡・零士(パプリックエネミー・d11856)の視線は床へ向けられたまま。最近付いたと思われる足跡はもちろんのこと埃の違い一つも見落とさない気概だ。
    「雪花と一緒に依頼になるとはな。改めてよろしく」
    「こちらこそ。陵華さんと一緒で心強いです」
     同じクラブに所属する仲間と共に戦うことができることは頼もしい。安曇・陵華(暁降ち・d02041)と春原・雪花(中学生神薙使い・d06010)は笑顔で挨拶を交わす。
    「この辺は埃がないな……こっちだ」
    「大丈夫、この先の廊下にゾンビはいない」
     零士のライトが照らす曲がり角の手前で陵華は手鏡を使って敵の有無を確認した。その言葉に安心しつつも太郎は周囲の警戒を緩めない。そして仲間達に目配せを一つしてゆっくりとドアノブに手をかけ静かに扉を開ける。
     ――ギィィ。
     扉が軋む音が敵に気付かれないかハラハラする灼滅者達だったが。
    「この部屋には誰もいないようですね」
     扉が開け放たれた部屋はがらんとしており至る所に埃が積み重なっているだけでなく蜘蛛の巣も張っている。
    「では、こっちの部屋にゾンビ達が……」
     雪花が小さく息を飲み、向かいの部屋のドアノブに手をかけ仲間達に目配せをする。
     無言で3人が頷いたことを確認し雪花がゆっくりと扉を開けると素早く陵華がその身を部屋の中へ滑り込ませた。
    「はい、ちゅうも~く!」
     突然の奇襲者に戸惑いつつも視線を向けるナースゾンビ達。
     そんな敵の視線を一身に集めた陵華は身長よりもわずかに長い槍を片手で器用に操りナース達に一閃、3体纏めて薙ぎ払う。
     間髪入れずに雪花が百億の星で攻撃をし、敵の死角に回り込んだ太郎の解体ナイフがナースの喉を切り裂く。
    「北国の寒さも身に沁みるが……絶対零度の世界を見せてやろう」
     突如ナース達の身体が凍り付いたかと思うとその威力に耐えられなかった1体がそのまま砕け散った。
     怒りに我を忘れたナース達の攻撃は陵華に集中するが、零士の治癒の力が込もった温かな光で傷は癒される。
     そして太郎のジグザグになったナイフが腐肉を抉り雪花が弓を弾いて起こした風の刃が最後に残ったナースを討ったことを確認し、零士はサウンドシャッターを解除した。

    「2階を探索している方はまだみたいですね」
    「そうだな、私達の方が早かったみたいだな」
     雪花と陵華がひそひそと小声で話す。
     3階を担当していた4人は無事探索を終えて合流場所である2階階段前へ戻ってきたが、2階の探索をしているA班の姿はなかった。
    「時間には余裕がありますし、休憩がてら待ちましょう」
     時間を確認した太郎の判断に零士も小さく頷いた。
    「それにしても背中にカイロを1つ貼っておくだけでも暖かいもんだ」
     背中の温もりを感じながら陵華は暫しの休息にほっと一息つき体力の回復に努める。
    (「北海道アンデッド事件の真相は気になりますが……」)
     まずは子供達の犠牲が出ないよう全力で排除することが先決。
     完全防備の太郎は愛用の白いマフラーを少し持ち上げ壁に寄りかかって静かに仲間の帰りを待っていたが――。 
    「様子を見に行った方がいいでしょうか?」
     思ったよりも到着が遅い。
     そわそわした素振りを見せる雪花につられ陵華も無言で廊下の奥を見つめる。
    「そうですね、ちょっと偵察に……」
     太郎の言葉を遮るように奥で物音がする。慌てて零士はライトの光を音のした方へ向けた。

    ●試されてる大地なう
     時間は少し遡る。
     二手に分かれた後A班の4人はそのまま2階に潜むナースゾンビ達を探していた。
    「冬の肝試し……で本物のゾンビってユニークだけど笑えないよね!」
    「全くだ、こんな寒いのに肝試しで余計寒くなってもなー」
     ツインテールの髪を揺らしどこか好奇心を押さえられない様子の佐倉・梨沙子(咲焔・d04168)の隣りを松下・秀憲(午前三時・d05749)は足元をライトで照らしながら慎重に進む。寒さにやられて耳が痛い。ライトを持つ指もかじかんできた。さっさとキチっと片付けて早く観光したいのが本音なのだが涼しげな表情からは全く伺いしることが出来ない。
    「次の角を曲がった先の奥にはナースステーションがありますので気を付けてください」
     フィリス・カーネリア(アンブレイカブルの原石・d09075)は1階で確認した案内板とあらかじめネットで調べておいた情報をリンクさせて静かに指示を出した。万が一の不意打ちに備え常に背後に気を配ることも忘れない。
    「だいじょうぶ、曲がり角の先にゾンビはいないよ」
     4人の中で一番小柄なスタンこと峰崎・スタニスラヴァ(エウカリス・d00290)が手鏡を片手にゾンビの有無をチェックし、OKとジェスチャーで仲間達に示した。
     明かりは足元を照らすだけで十分な明るさがあるとは言えない。だが目も暗闇にも慣れてきたので敵の有無くらいは判断ができそうだ。とはいえ、いつゾンビの襲撃にあうかもわからぬため4人は一歩ずつ音を立てぬように気を付けて歩を進める。
    「なんだかこういう探索していると本当に肝試しっぽいね」
    (「でもゾンビが出るのがわかってるとなると、も一つ恐怖は無いんだけどね」)
     梨沙子は館内見取り図を思い出しながら先頭を歩く。ゆっくりと4人固まってしらみつぶしに部屋を確認していくがまだ敵は出てこない。やはりフィリスが注意を促したナースステーションが怪しいのか。
    「あの正面の部屋がナースステーションです」
     ナースステーションだった部屋をフィリスが指さした。
     足元の埃をライトで確認すると何かを引き摺ったような跡が真っ直ぐと部屋の前まで続いているのがわかる。
     ゆっくりと部屋の前まで進んだスタンは扉に耳を当てて部屋の音をチェックする。音が止んだタイミングで突入のチャンスだとジェスチャーで知らせた。
    「……行くか」
     目配せする秀憲に3人は小さく頷き戦闘の準備ができたことを示す。
    (「なんだかスパイになった気分……!」)
     ぎゅっと無敵斬艦刀を握る梨沙子の目の前で扉がゆっくりと開かれた。
    「……っ!?」
     目の前に立っていたナースゾンビと見つめ合うことになった秀憲がビクリと肩を震わせる。なんとか声をあげるのは我慢、耐えた。
     慌ててフィリスが室内の音を遮断し戦闘が始まる。
     龍の翼の形になったスタンの影が敵陣へ突撃して注意を引いている隙に梨沙子が拳に宿した雷でゾンビを撃つ。秀憲が展開した夜霧に包まれたフィリスが放った網状の霊力がゾンビを縛り上げた。怒りに我を忘れたナースの鋭い爪がスタンの腕を切り裂き傷の痛みで思わずスタンの顔が歪む。
    「まずは1体っと」
     梨沙子の繰り出した超弩級の一撃に耐えられず灼滅者達の集中砲火を受けていたナースが膝をついた。
     ――あと2体。
     ナースを怒らせたため敵の攻撃を受けることが多いスタンを援護すべく秀憲がサイキックエナジーの小光輪で盾を作り護りを固める。前に立つ梨沙子は軽やかな動きでナースを翻弄しフィリスは赤きオーラの逆十字でナースを引き裂いた。
     手堅く確実に1体ずつ倒していくことで灼滅者達は勝利をその手に掴もうとしていた。
     そして敵の死角に回り込んだスタンの黒い影がその胴体を真一文字に切り裂くと音もなくナースは崩れ落ち室内には静寂が戻ってきた。
    「急ぎましょう。予定よりも時間がかかってしまいました」
     サウンドシャッターを解除したフィリスの言葉に頷き、B班の待つ階段の前へと急いで向かうのだった。

    ●命の守り人のなれの果て
    「ごめんね、待った!?」
     零士のライトが照らす先にはツインテールをなびかせぱたぱたと走ってくる梨沙子の姿。
    「皆さんご無事で良かったです……!」
     ほっと胸を撫で下ろす雪花の言葉はB班共通の想い。
     時間こそ要したが手堅い戦術が功を奏しA班の面々の傷は浅い。これならばしばし休息をとれば大丈夫だろうということで安全な2階で8人は休憩する。
     ――10分後。
    「よっし、行くかー」
     秀憲の言葉に灼滅者達は立ち上がり、足音を忍ばせながら階段を降りて1階に向かう。目指すはボスである白衣ゾンビとその配下が籠る部屋だ。
     廊下を通り抜け待合室まで戻ってくると受付カウンター奥の医療事務室で何か影のようなものが動いた気がした。あれはゾンビだろうか。灼滅者達は穴の開いたソファの横をすり抜け扉の前へと近づき身を潜める。
    「みんな準備はいい?」
     戦闘の準備が整ったことを確認したスタンが目配せして扉を開け放つ。
     突然の来訪者にゾンビ達が動きを止めてゆっくりと顔をこちらへ向ける。すでに腐敗が進んだその顔は醜く崩れ生前の面影はない。
    「うおーグロいわぁ……」
     普段表情を動かすことの少ない秀憲も思わず顔をしかめる容貌だが灼滅者達は意を決して部屋へと駆け込んだ。
     最後尾のフィリスは仲間の頼もしい背中を見つめ誰にも聞こえない小さな呟きを漏らす。
    「……私の実力でどれほど通じるでしょうか」
     武器を握る手に力を込めてフィリスはまっすぐに敵を見据え部屋の中へ飛び込んだ。
     8人の灼滅者と4体のゾンビ。先に動いたのは白衣を纏った大柄なゾンビだった。
     招かれざる客である灼滅者達を追い払うかの如く白衣ゾンビは右手を挙げると持っていた大量のメスを前衛に向かって放つ。飛んでくるナイフ全てを避けることはできず、何本かは灼滅者の身体に刺さった。
     痛む傷口を押え、陵華は槍を回転させるとナースゾンビ達に突撃して薙ぎ払った。そんな陵華に続けとばかりに雪花が弓の弦を静かに弾く。
    「……参ります」
     ふっとその姿が視界に消えたと思うや否やナースの懐に滑るように入り込み鬼神変で攻撃をした。その大きな衝撃に態勢を崩したところを太郎は見逃さなかった。長刃のナイフに蓄積された呪いを毒の風に変わりナース達を竜巻が襲う。
    「オーライ、ガンガンやっちめぇー」
     秀憲の声援と共に前衛をうす暗闇の霧が包み込んでいく。
     スタン、梨沙子、零士が息つく暇もなく畳み掛けるようにナース達に攻撃をし、集中砲火を受け虫の息となっていたナースをフィリスの縛霊撃が捕えその息の根を止めた。
     
     早々に1体のゾンビを倒したことで戦況は灼滅者達に有利なように思われた。
    「はーい、2体目撃破っと!」
     梨沙子の力強い一撃を受けふらふらしていたナースを陵華が槍で一突きして止めを刺す。
     だが白衣ゾンビの投げたメスが爆発しスタンと太郎が巻き込まれた。慌てて太郎が自らに喝を入れ態勢を立て直す。
    「くっ……」
     ナースゾンビの鋭い爪を避けようと必死に身をかわすフィリスだったが紙一重で避けきれず切り裂かれた頬から血が滲んだ。
    「悪いのは貴方方ではないだろうがな……」
     許せ、と呟いた零士が放った魔法の矢が最後に1人立っていたナースを射抜くとドサリと事切れた体が倒れ込んだ。
     これで残る敵はボスである白衣ゾンビただ一人。しかしいまだ無傷のゾンビに対し灼滅者達は徐々に疲れが見え始めていた。
    「流石に集中されるときついな……」
     ナース達を怒らせ自らに攻撃を集中させていた陵華は癒しの力を込めた矢で自身を回復するが全快には遠い。
    「おっと、任せろってー」
     秀憲が呼んだ浄化の風が前衛の間を吹き抜けるとその身体から悪しき感覚が消え軽くなっていくのをフィリスは感じた。梨沙子も自らを振い立たせ気合で傷を癒す。
     態勢を立て直すことに成功した灼滅者達の猛襲は止まらないが相手もボス。そう簡単に倒れてくれる様子はない。
    「……はらいたまいきよめたまう」
    「切り裂け!」
     何度目の攻撃になるか数えてはいない。雪花が弦を弾くと空気が振え風の刃を生み出され、そしてまた同時に陵華の手刀が空を切ると真空の刃を創り出した。激しく渦巻く無数の風の刃がゾンビに襲いかかる。風の刃はゾンビの残っていた肉を抉りゾンビが悲鳴ともとれる奇声をあげた。
    「これはどうかな?」
     スタンの黒い影が触手のように伸びゾンビの身体を絡めとるように巻きつく。ジャマー能力が高まっているスタンの影に縛られたゾンビは苦しそうにもがき呻いた。
     そのチャンスを見逃さず梨沙子が戦艦斬りで斬り付けフィリスの紅い逆十字がゾンビの精神もろとも切り裂く。
    「子供らを襲わせるわけにはいかんのでな」
     零士が渾身の力を込めて撃った矢はまるで流星のように煌めきゾンビの胸に刺さった。
     ナース達を先に倒しボスとの戦いに集中できたことが功を奏したのだろう。灼滅者達は確実にボスを追い詰めている。
     そして――。
    「今を生きる者への邪魔はさせません」
     太郎が静かに呟くと同時に手にしたナイフでゾンビの首を切り裂きその偽物の生命に幕を下ろした。

    ●ラーメンが俺達を呼ぶ
    「折角の札幌だしラーメン食いに行こうぜ」
     廃病院を出た灼滅者達を待っていたのは再びの北の大地の冷たい洗礼。寒さに震える者にとって秀憲の提案を断る理由などない。
    「わ、お誘いありがとうございます……!」
    「冬の札幌のラーメンは美味しそうですね」
     ほんわかした陽だまりのような笑顔を浮かべた雪花はお辞儀をし、太郎はマフラーをしっかりと巻き直す。
    「私ラーメンを食べるの初めてです」
     名前は聞いたことはあるがまだ知らぬ味にフィリスは思いを馳せた。
    「美味しい店はタクシーの運転手に聞くといいらしいぞ」
     陵華のアドバイスに大丈夫、とややテンションが上がった調子で秀憲は答える。
    「近場のいい店を探しといたわ」
     ポケットからスマホを取り出し手早く地図を確認する。
    「でも気分悪いなら無理しちゃだめだよ、おいしく食べられないもの」
     ゾンビ達との戦いで気分が悪くなった人はいないか、心配そうにするスタンに梨沙子が笑顔で答える。
    「みんな大丈夫よね、行きましょ! 私塩!!」
     和気藹々と歩き出した灼滅者達だったが、零士は一人病院を見つめていた。
    (「命を弄ぶダークネスは俺の義に悖る。もしも見つけた時は――」)
    「何してるのー? 置いて行っちゃうわよー!」
     梨沙子の声に気付き零士は少しだけ笑みを浮かべてすぐ行くと告げた。
    「本場のラーメンは楽しみだ」
     病院の入り口に添えられた献花に見送られ、灼滅者達は札幌の街へと繰り出していった。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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