年の終わりと始まりに

    作者:佐和

    「『2年参り』をご存知ですか?」
     今年もあと何日……と話していた折に、ふと、思い出したように五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)がそう問いかけてきた。
    「大晦日の深夜0時をまたいでお参りすることからそう呼ばれる初詣です。
     今年最後の思い出に、新年最初の思い出に、皆さんで行ってみてはどうでしょう?」
     姫子の話では、学園からそう遠くない場所に、そこそこの規模の神社があるそうだ。
     そういえば、初詣にぜひ!的なポスターを駅で見かけたか。
     地元の人以外にも参拝客はいて賑わっているのだろう。
     とはいえ、TV中継されたり交通規制が入ったりする程の有名神社ではない。
     人混みで疲れるだけ、ということも、貸切状態で寂しく参拝、ということもなく、2年参りの雰囲気を味わうにはちょうどいい場所のようだ。
    「最寄の路線は深夜も運転しているそうですから、帰りの電車もありますし。
     たまには平和な夜更かしもいいんじゃないでしょうか?」
     初詣前の待ち時間を楽しむもよし。
     真剣にお参りするもよし。
     おみくじに一喜一憂するもよし。
     どうしようかと考えながら、参考にと姫子の行動を聞いてみる。
     だが、姫子はにっこり笑うと、
    「あ、私は家のこたつで除夜の鐘を聞いてます」
     唖然とした顔に向けて、いってらっしゃい、とひらひら手を振った……


    ■リプレイ

    ●待つもまた楽し
     除夜の鐘の響く中。
     神社へ続く行列に並んでいた鶫は、聞き覚えのある声に呼び止められて振り向いた。
    「よ、鶫。偶然だな」
    「……すごい『偶然』ね」
     クラブ仲間の真月へと、ため息つきつつも楽しそうに。
     また1人増えた行列の一角で、
    「今年の最後に顔を合わせるのがお前で、来年の初めもお前になるのかよ」
    「こっちの台詞よ」
     やりあう会話がテンポよく続いていく。
    (「1度目はおじいちゃんと……」)
     昔を思い出し、1人寂しく笑う菫に、隣り合った神夜が声をかけ。
     菫はおずおずと、神夜はのんびりと、学園での様々な縁を語り始めた。
    「これも、今年の縁」
     偶然の出会いもあるが、やはり待ち合わせは多い。
    「イルルちゃん、こっちだよー!」
    「いやあ、待たせた」
     【メカかぴばら研究会】の仲間と合流したイルルは、出迎えたユリオへ道中の苦労を語り出す。
     小学生の夜の1人歩きは大変だ。崇の通ってきたという、秘密の抜け道話に飛びつくのも、当然。
     後輩達を見ながら、部長の沙雪は、今年の思い出を挙げていく。
     クラブの設立もだが、一番大きな出来事は、
    「可愛くて綺麗な恋人ができたことかな」
    「あああ、沙雪さん、そんなことをさらっと」
    「沙雪お兄ちゃんとユニスお姉ちゃん、本当に仲がいいよね」
     慌てるユニスを眺めながら、からかう崇へはにやりと笑みを。
    「キョーコの振袖姿、スゲー可愛い。似合ってるッス」
    「ありがと」
     ことある毎に言う立夏に、今日子は照れながらも毎回ちゃんとお礼を言って。
    (「……ま、リツに見せるために着てきたわけだし」)
     他の女の子達もそうなのかな?
    「あ、タスク!」
     メイファンは、自慢の美脚も艶やかなチャイナ姿。
    「ミオ、お前……」
     それを見つけるなり、丞は自分のコートを差し出した。
    「さすがに軽装過ぎるだろ」
    「謝謝。あったかいネ」
     赤みがさした頬は、寒さのせいかお礼のウインクのせいか。
    「さむいねーっ」
     テンション高く寒がる涼花の手を、軍は躊躇いなく握って。
    「すず、お前、ホント体温高いな」
    「いっくんの手はいつも冷たいね」
     心が温かい証拠? と聞けば、どうかな、と優しい笑みが零れ落ちた。
     一方で。
    (「手くらい繋いでもいいかな……」)
    (「素手で寒そうだし……でも、恋人同士みたいに見えちゃうかな……」)
     いちごと由希奈の2人は、同じことを思いながら、互いに手を出しかけては引っ込めるを繰り返す。
     貴明の肘に腕を絡ませることになった闇縫。嬉しそうな貴明は、せっかくの機会にと1つ提案。
    「『桜塚氏』って呼び方は硬すぎるからやめません?」
    「じゃぁ桜塚氏はなんて呼ばれたいんだ?」
     妥協点を探る貴明の様子に、闇縫の口元にあるかなしかの微笑が浮かぶ。
    「クゥ、寝るなー」
    「はっ!? 寝てません! 寝てませんよっ!」
     時間が時間だけにうとうとしかけた空の頬をぺちぺち叩く皐月も、どこか嬉しそう。
     一二三は屋台を見つけ、串焼き肉にりんご飴にと忙しい。特撮ヒーローのお面も忘れずに。
     各々の楽しいひと時はあっという間に過ぎ去って。
    「ユッカさま、今何時です~?」
     エルディアスがユッカの腕にくっつけば、その手首で、2人と同じように重なる時計の針。
    「ちょうど12時ですよ」
     答える声に、様々な『あけましておめでとう』が重なって聞こえた。
     その盛り上がりに背を向けて。
    「さて、海まで行って初日の出を眺めましょうかね」
     昌利は参拝しないまま、ロードワークの続きへと走り去る……
     
    ●新年の祈りは
     年が変わると共に行列は動き出し、人々は順に拝殿前へと進み出た。
    「彼女と健康で幸せでいられますように」
     真剣に祈る真一の隣では、1人で訪れた円蔵が同じことを仲間へと向けて祈る。
    (「こんな事、皆さんがいては恥ずかしくて願ってられませんからねぇ」)
     そのまま人の流れに乗って真一の後ろを通り、ヒヒヒ、と笑いながら去っていく。
     冬月と龍暁も、周りにならって静かに礼をし、祈る。
     十分御縁がありますように、と15円を投げた逢紗は、悠二郎の手から放たれた45円に不思議顔。
    「悠二郎さんの所ではそうなの?」
    「ん? 始終御縁がありますように、ってね」
     ちょっと奮発かな、と笑い合って。
    「食らいやがれ500円玉です」
     その上を、ミキの声と大きなコインが飛んでいく。
     同じ【仮眠部参拝班】のアンナは、パンパンと元気に柏手を叩いて。
    「今年も楽しく遊びまくりたい! そのためにも彼氏ができますように!」
     言っちゃった! とアロアは真っ赤になってばたばたと。
    「この幸せな日々が続きますように……」
     祈り終えてれば、すぐ横でなるほどと頷く雪紗の姿。願いを声に出していたことにやっと気付いた楼沙は、忘れてくれと大慌て。
     手早く参拝を終えた歩夏は、そんな部員達を(たまには)部長らしくまとめて移動開始。
     が、1人だけ、真剣に二礼二拍一礼する紋付袴姿が残って。
    「隣の人が今年彼女になりますようにっ!」
     大声で祈り、すぐに隣を確認した虎丸が見たものは……
     誰1人として虎丸の隣に立たなかった【仮眠部参拝班】は、おみくじ班と合流するべく、1人泣く後姿をあっさりと置いていく。
    「仮眠部の連中は面白いヤツが多いなッ!」
     ころころと笑うアンナに、仲間達も楽しそうに笑い合った。
     【CO-Laboratory】は、部長の九十三が、メンバーの先陣をきってお参り開始。
     願いは仲間の為に。自分のコトはそっちのけ。
     しかしその後ろでは。
    「遥翔君、明けましておめでとうございます」
    「李さんも。今年もよろしく」
     一番におめでとうを言いたかったという李と遥翔が、念願叶ってほのぼのと挨拶を交わし、
    「随分熱心だけど、九十三さんは何をお願いしているのかしら?」
     ウィントミュレーもとりあえず出来そうなことをあっさり祈願して終わっていて。
    「お前達もちゃんとお参りしろー!」
     九十三の声に、紫苑が静かに前へ出て、真剣に祈りを捧げた。
    「早く暖かいところに行けますように」
     ……切実。
     最近学園に来たばかりの剣は、ある意味今年が本当の始まりだと、自身のさらなる強さを願い、いわば内の神に祈る。
    (「強くなります。そしていつの日か必ずダークネスを滅ぼします」)
     自らに誓うように願ったマーテルーニェは、
    「お嬢様はどんなお願い事をしたんですか?」
     遠慮なく聞いてくる花之介に、教えないことを見透かされているのに気付きながら、
    「決まっているでしょう? 世界平和ですわ」
     素気無く言って拝殿を後にする。
     こちらも参拝を終えた殊亜。紫に聞かれて、
    「いつも通りをいつも以上に、かな」
     答えると、『いつも以上』の部分に紫は慌てながらも嬉しそう。
     同じ問いを返せば、笑わないでねと前置きしてから、こっそり殊亜にだけの耳打ち。
    「一緒に過ごす時間を大切に」
     ちょっぴり進展も期待して。
    (「ミルフィとずっと一緒にいられますように」)
    (「アリスお嬢様にずっとお仕えできますように」)
     相思相愛の願いを捧げたアリスとミルフィ。
     互いの願いを聞き合えば、答えも「ひみつ」とお揃いで。
     流れる人と想いの波の中、山桜桃が時間を忘れて次から次へと祈りを続けていた。
     
    ●参拝の後で
     人々の足は、自然と社務所へ向かう。
     おみくじを引くのは、いわば恒例行事。
    「はぅぅ……これは……」
     悪い結果にしょんぼりする冰雨。
     これまた良い結果とは言えなかった麗だが、こちらは平然と。
    「運試しだからな。結果は良くも悪くも仕方ない」
     冷華は無表情に末吉の文字を確認してから、唯人の結果を訪ねる。
    「ほどほどでしたよ。あ、でも凍風さんの着物姿見れたので運は上向きかも?」
    「……調子いいのね」
     すげなくあしらう無表情。だけど満更ではない雰囲気に、唯人はにこにこ顔で。
    「当たるも八卦、当たらぬも八卦」
     こちらも、レンが一緒なだけで運気は良好、と結果に拘らない零冶。
     そのレンは、おみくじへ手を伸ばしながら、
    「1人が悪くても1人が良ければ、一緒に居なさいって、そういうことなのかしらね」
     さあ、どんな結果が出るかしら?
     霖の手に渡った小吉の紙を、暁は素早く自分の大吉とすりかえて。
    「……なにすんのよ」
    「今なら神様だって間違えてくれるわよ」
     そのまま手を引けば、振り払わずについてくる霖。
     交換の必要なんてない。一緒にいれば同じこと。
     人混みから外れ、一息つく柩姫が眺める先には、【Hawk-Eye】の仲間達。
     目印は高身長のジャック。本人は大して目立たないと思っているようだが、体格もいい彼のおかげで柩姫は仲間を一度も見失っていない。
    「俺は……凶を引き当てる!」
     在処は何か間違った気合いを入れて、
    「一凶、披露仕る……」
     決め台詞を呟く宗嗣も、もちろん狙うは、凶。
    「そいつァいったいどんな修行でござんすか!?」
     普通とは真逆な兄貴分の狙いに驚く娑婆蔵の傍らでは、イリヤが初めてのおみくじに興味深々。
    「『凶』は形がクールだね」
     ここにも凶狙いがもう1人。
    「日本の神社や正月の習慣はなじみがなかったよ」
     ずっと海外で暮らしていたという力生も、楽しそうにおみくじを引いて。
     しかし、よりによって大凶を当てたのは明雄。
     思わず凶狙いのメンバーを無言で見つめる明雄の肩を、ジャックが励ますようにぽんと叩いた。
     そんな悲喜こもごもに、柩姫の口元に笑みが浮かぶ。
     【正義の味方部】もおみくじの箱を前にわいわいと。
    「よーし、2013年を占う大事なバトル。負けられねぇぜ!」
     火水が、最初に触れた1枚を迷いなく引き上げれば、
    「念じて念じて……ん~、これだぁっ!」
     ヘキサは逆に集中してじっくりと選びぬく。
    「皆、引い、た? それじゃあ、えと、いっせーの、でっ!」
     希子の声で見せ合いっこ開始。
    「んー、小吉かぁ……みんなはどうだった?」
    「大吉よ。なかなか幸先がいいですね」
     尋ねる謳歌に菊里が微笑んで答える。いいなぁと覗き込む瑠璃の結果は吉。なれど。
    「今年もいいことがたくさんありそうだね」
    「た、多少の困難は、望むところよ!」
     動揺しながら言うエリザベスの手の中には、大凶の2文字。
    「おみくじにハズレなんかないんだよ」
     伸びしろがあるってことだろ? と将平が明るく慰めて。
    「ま、これ以上悪いことは起きないんじゃねーの?」
     逆にラッキー、と前向きな紫桜が握っているのも、大凶。
     各々、今年の運を手にして。
    「おみくじは木の枝に結んでいいんでしょうか?」
    「あそこに結ぶところがあるよ」
     自信なく辺りを見回す林檎に、花火は、おみくじ結び所と書かれた立て札を指差した。
     その結び所の前で、【仮眠部おみくじ班】はおみくじを結ぶ真っ最中。
    「利き手じゃない手を使って木に結ぶと『困難を乗り越える』修行になって凶が吉に転じるって話だぞ」
     今年こそはと賭けた恋愛運に、がっくり肩を落としていた紘疾へと、淼はそう話しかけ。
     低い位置に結ぶ場所がなくて困り果てていた九音は、不意にひょいと葵に抱えられて、思わず小さく悲鳴を上げてしまう。
    「これで届くかな?」
     笑顔でお礼を言ってから。背の高い葵のおかげで、おみくじはしっかり結べた。
    「暇つぶしにはちょうどいい」
     自身の結果よりも、周囲の雰囲気を楽しむ玖韻はそう呟いて。
     その横で、部員を初詣に誘った当の本人であるはずの幸太郎は、おみくじを持つことも参拝することもなく、今年の飲み始め、と缶コーヒーを傾けていた。
     そうこうするうちに【仮眠部参拝班】が合流して、一気に騒がしくなっていく。
     人だかりは、御守りの前にもできていて。
    「はい、大事にしてよね」
     おみくじの結果に落ち込むグロードへ、莉都が渡したのは無病息災の御守り。
     嬉しそうに受け取りつつ、先ほど買った家内安全の御守りをお返しに。
    「家族を守るんだそうだ。それ」
    「……ありがと」
     呟きのようなお礼と共に、莉都は火照った息を白く吐き出す。
    「これは律の分」
     自分と親友とその弟へ。いつも通り3つの御守りを手にした慶一は、早速1つを浅居へと渡した。
     俺にまでいらないのに、と言いながらも受け取った浅居は、
    「よし、じゃあお礼に俺が甘酒をおごってあげるよ」
     調子のいいことを言いながら、甘酒の無料配布所へと向かっていく。
    「あ、せっちゃん、あまざけだよ~」
     茜に勧められて雪花は初めての甘酒を手にする。
    「お酒、なんですよ、ね……?」
     恐る恐る口をつけて。
     驚きと共に浮かんだ笑顔に、茜も嬉しそうに甘酒を飲んだ。
     瑠璃羽と有斗も、仲良く並んで甘酒に舌鼓。
    「はぁ~、甘酒、あったまるね」
    「あられも美味しいよ」
     瑠璃羽がお茶うけにと持ってきた紅白のあられは梅の形。
     赤いのは梅味で。甘酒と一緒だと尚美味しい。
    「えっと、もう1杯は……駄目かな?」
     しれっともう1周したらいけるかと、真剣に考える蒼朱を視界の端に眺めながら。
    「平和ですねぇ……」
     流希は、のんびり1人、甘酒を飲み干す。
    「ねえ、この行列は何?」
     そこに尋ねて来たのは、初詣を知らないヒラニヤ。
     流希はヒラニヤを案内して、もう一度参拝の列に並んでいった。
     
    ●駅へ向かって
     帰り際、華乃がひなたに差し出したのは、1つの紙袋。
    「はい、ひなた先輩。お年玉です」
    「やりたいことがあるって、これ?」
    「貰ったことないって言ってましたよね?」
     驚きながらも嬉しそうに受け取れば、華乃は満足そうに笑顔を浮かべた。
     寒い中並んで冷え切った、【武闘集団【吉祥】】の一行は、
    「そこのコンビニ寄っていかない? 温まって帰ろうぜ」
     聖太の提案に我先にとコンビニへ寄り道。
    「立見には、いつかの約束通り、お茶でも奢るよ」
    「そうか。では、乃木。これを頼む」
     尚竹が迷いなく選んで聖太へ差し出したのは……昆布茶。
     温まるにはこれが一番。らしい。
     その横を駆け抜けて、浩之が一直線に目指すのは、アツアツのおでん。
    「浩サン、おでん食うのか?」
    「すけみー君も食べる?」
     慧樹と2人、味のしみてるヤツを探して。
     はんぺん、卵に大根、と選べば、餅巾着が飛び込んでくる。
    「僕、肉まん食べたい!」
    「じゃあ、ういはおしることあんまんにしよっと」
     樹燕と羽衣も、あったか中華まんを手の中へ納めるべく突進!
     ブラックのコーヒー缶を手に、奏はそんな賑やかな仲間を眺めて、ぽつり。
    「今年は退屈する暇もないくらい、悪くない年になりそうだね」
    「これからも色々あるだろうが、宜しく頼むよ」
     梗香がカフェオレの缶を近づけて。2つの缶は、コン、と仲良く小さく音を立てた。
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月10日
    難度:簡単
    参加:105人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 16
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