嘆きの家

    作者:那珂川未来

     今年の札幌は雪が多い。
     娘はもう高校生になるけれど、除雪も行き届いていない公道はバスも一時間遅れているから迎えにこいとせがんで来て。部活のあとに雪の中バスを待つのは確かに可哀想だと彼女は今、娘を迎えに行こうと雪降りしきる外へと。大事な一人娘、大事なたった一人の家族だから、この雪で何かあっても嫌だからと。
     もう子供の背丈など軽く超えるくらいの雪山、道幅は狭く曲がり角の先など全く予想が付かない。大人でも酷く危険だと感じる。玄関前に止めてある車に乗り込んだ時、そんな雪山の一部に違和感を見たのは、ヘッドライトに照らされたからだ。
     もそもそと雪が動いている。
     真っ白な雪山から飛び出す、ベルベットでできた袖口の温かな色合い。そこから飛び出すくすんだ色の質感は間違いなく。

     人の腕。 

    「うそ」
     誰かが、雪山に埋まっている。彼女はそう直感して、すぐに車を降り駆け寄った。
     雪山にうごめいているその手を掴み、ひき上げようとしたその時。
     ――ずる。
    「ひっ!」
     腕の肉が根こそぎ離れた。
     綺麗に。
     容易く。
     まるで手袋のようになった腕の肉を放り投げ、彼女は逃げようとしたけれど、雪の中から湧きだした手は動くことをやめず、彼女の足を掴んだ。
    「き……」
     悲鳴を上げる間もなく、崩れゆく雪山より現れた何かに食いつかれる。
     真っ白な墓標の跡に、真っ赤な花が咲いた。
     
    「札幌にゾンビが現れたわ。それらに、もうすでに人が二人食い殺されていて――犠牲者はそれ以上増えていないけど……」
     いたましい事件だと、顔を伏せて。
     どうやら、最初に獲物とした女性を食い殺し……そしてその女性の家をねぐらにしたらしい。当然娘も殺害済みだろう。エクスブレインの少女がそう悲しげに告げた後、
    「雪の中から出てきたゾンビたちは、所謂はぐれゾンビ。この家に居座ったまま出ることはないわ」
     これは不幸中の幸いである。これ以上事件を起こす前に、そこで撃退するのが最善だろう。
    「この場所はこの辺。住宅街だけれど、緑地が多いみたいだから、札幌の割にはそれほど住宅が混み合っている……というわけでもない感じね。それにこの家の塀は高いから、あまり周りの目は気にならないと思うの。ご近所づきあいもないみたい。引っ越してきたばかりだったみたいだから……」
     ただ昼でも夜でも辺りに人はいるので、注意しよう。
    「ゾンビたちは、吹き抜けのある大きな茶の間にいるわ。数は十体と多めだけれど、個々の能力は高いとはいえないわ」
     けれど、相手は数の利を生かし力で押してくるから、油断すると撤退もやむえない状況になるだろう。
     エクスブレインの話だと、その拠点から逃げようとするものは追うことはないため、最悪の場合は安全に逃げられる。
    「とはいっても、みんな撤退なんて最初から頭にはないわよね。このゾンビたちは、知的な行動はとらないから、十分な時間をかけて、突入することができる」
     茶の間は、東の玄関と、北の勝手口から入って、ダイニング続きの茶の間への侵入が可能。もちろんちょっとした広さのダイニングからの攻撃も可能だろう。
    「どちらも鍵はあいているの。ゾンビたちの仕業でね。玄関から入って真正面から挑むのもよし。勝手口からこっそり入って奇襲もいいし。勝手口と玄関から東・北ではさんでもいいし、場合によっては時間差で釣るのも可能かしら」
     ダイニングにも茶の間にも特別物はなく、キッチンやカウンターなどの設備もその辺りには備わっていない。広い空間なので攻撃はしやすいだろう。ただ勝手口からの侵入は、うまくやれば不意打ちができる。だが玄関からの侵入と違い、裏まで回らなければならないので、場合によっては誰かが裏から入ってくるということがばれる可能性もある。茶の間には南に、ダイニングは東に、共に大きな窓があるので、策なく通過すると見つかるだろう。
    「ゾンビは半数がクラッシャーで武器は解体ナイフ。半数がキャスターで武器は縛霊手よ」
     それ以外のサイキックは使わない。
     少女は、灼滅者たちの目を見つめ。
    「あくまで並み程度のゾンビだけれど、絶対に油断しないでね。帰ってくるの待ってるわ」


    参加者
    立見・尚竹(インフィニットスレイヤー・d02550)
    白鐘・衛(白銀の翼・d02693)
    真白・優樹(中学生ストリートファイター・d03880)
    青柳・琉嘉(天信爛漫・d05551)
    ラーセル・テイラー(偽神父・d09566)
    ルナール・シャルール(熱を秘める小狐・d11068)
    天ヶ咲・ディートリヒ(鏡の中の亡者・d11677)
    ンソ・ロロ(引きこもり型戦士・d11748)

    ■リプレイ

    ●白の双璧
    「雪だー! こんなに積もってる所は初めてだ!」
    「山のような雪ってあまり見ないからテンション上がっちゃうよねぇ」
     路肩に聳える真っ白な双璧の間を歩きながら、青柳・琉嘉(天信爛漫・d05551)と天ヶ咲・ディートリヒ(鏡の中の亡者・d11677)は、珍しい景色にちょっと興奮気味。手乗り雪うさぎなんて作りながら歩く姿は、札幌にいそうな観光客の姿。
     だが件の家が近づくにつれ、気も引き締まってゆく。先程まで普通にあった、車や人の往来もぱたりと途絶えたのは、ルナール・シャルール(熱を秘める小狐・d11068)より形成された殺界の効果である。これで塀の外での行動も、特に問題はないはずだ。
    「こっち、大丈夫」
     ルナールが声をかければ、人目をはばかりつつビハインドのビッグ・チーフに運ばれてきたンソ・ロロ(引きこもり型戦士・d11748)が、こっそりとドラム缶から顔を出し(正確にいえば仮面をつけたまま)、おどおどした様子でまずは頭を下げて。
    「あぅあぅあぅ…………は、初めての……その……依頼っす……その…足でまといになったら……ごめんなさいっす……うぅぅ」
     それを言うのが精いっぱいと言わんばかりに、また閉じこもる。
    「さてと……」
     琉嘉とディートリヒが家の外観を見た限りでは、壁歩きから屋根への進行も特に問題はない。屋根には雪が積もっているけれど、塀からのダブルジャンプで到達は可能。吹き抜けのある茶の間の位置を避ければ、着地の際の震動も伝わり辛いだろう。屋根の雪は固くなっていそうだから、滑ることも無いだろう。
     玄関を覗き見て、ルナールはぷるりと身を震わせた。
    (「寒い、と。ゾンビ、でも。家、いたくなる、かな?」)
     真っ白な息が、薄闇の中を流れてゆく。
     寒い場所が苦手なルナールにとって、この気温は厳しいもの。
     けれど体に感じる寒さよりも、失われた命の灯があるという事実の方が辛い。
    (「どうにもできないことだとしてもやり切れないよ……」)
     死者に奪われたこの家は、まるで留守のように静まり返っているけれど。本来ならきっと、此処に住む親子が団欒の時を楽しみ賑わっていたはず――。
     命も、そして家族の象徴も、何もかも奪われた母娘を思い、居た堪れなくなった真白・優樹(中学生ストリートファイター・d03880)の瞳が曇る。
    (「その事実を俺は赦さない。屍王どもの戯れに、生が奪われたのだ。まだ幸が在らんとする、世の隣人の命が――」)
     ラーセル・テイラー(偽神父・d09566)は命を弄ぶ屍王への怒りを心の内に。音も無くテリトリーの中へと踏み込む。
     その口元に微かに零れるのは嘲笑と、強烈な敵意。
     サングラスのブリッジを押し上げると同時に目に見えぬ防音の壁を形成する。
     これが弔い合戦となるならば、決して負けるわけにはいかない。優樹はいつしか小さな黒猫へと変化を遂げて。少し硬くなった路肩の雪山を器用に駆け上がりながら、雪の落ちた塀へと登り、塀の中の様子を確認して。
     くるりと振り返ると合図する。
    (「――いこう。これ以上一人だって新たな犠牲者を出させたりさせないんだから」)

    ●嘆きの間へ
    「夜闇の魔法使いさん到着っと」
     空飛ぶ箒で北側へと渡ってきた白鐘・衛(白銀の翼・d02693)は、寒さに身を振るわせながら勝手口へと降り立った。
    「なんとか全員これたな」
     琉嘉は笑みを零す。多少使い慣れた防具を変更したものの、その甲斐あって二班に分かれることに成功し、ひと安心。挟撃は十分な効果が期待できるだろう。
    「さて、そろそろおっぱじめっか!」
    「じゃ合図を送るよ」
     衛の言葉に頷いて、ディートリヒはスマートホンを操作する。
     僅かなブランクの後、静寂に包まれた玄関前では、携帯のバイブレーターの震動さえ妙に耳に届いた。
    (「札幌で多発するゾンビ事件。これが何を意味するのか……」)
     この一連の事件にどんな目的があるのか。立見・尚竹(インフィニットスレイヤー・d02550)と様々な憶測を立てていたがそれに気づき、目を開くと、きびきびとした足取りで玄関に張り付いた。
     ノブに手をかける。
     ンソも察知して、もそもそと改造ドラム缶の蓋を押しあけ、抜け出して。
    (「……今は……戦いに集中っす……。ゾンビ……ちゃんと埋葬大事っす……」)
     ぐっと護符揃えを握りしめ、気持を落ち着かせようとするンソ。緊張に押しつぶされそうだけれど、ンソなりにその役割を全うしようと必死な様子。前衛に立つ尚竹の突入に遅れまいと、普段は上げるのも恥ずかしい顔を必死に正面へと向けて。
     尚竹は後衛の三人に頷いて見せると、一気に突入。蹴り開けられた扉の向こう、蠢く醜い死体の列。
    「貴様らの所業、俺が許さん。我が刃に悪を貫く雷を。いくぞ――!」
    「フェルヴール!」
     尚竹は日本刀を握りしめながら奥に佇むゾンビらに狙いを定め。ルナールは白銀に輝くフルートを手に構えをとって。
    『があぁぁ』
     地を這う様な声と共に、慌ただしく玄関から押し入った侵入者に威嚇を向けるゾンビたち。迎撃しようと、意識が完全に尚竹らへと向けられた時、
    「いくよ!」
     すでに勝手口より侵入を果たし、今そこにいる誰よりも速く、ゾンビの懐に詰めたのは優樹だ。アースゲイザーに己が力を集中させると、薙ぐように一気に叩き付ける。
     完全に気が玄関方面へといっていたゾンビは、無防備のままモロに攻撃を受けた。
     注がれた魔力に内から崩され、醜くひしゃげるゾンビの顔。顔面を押さえよろけているところを狙った琉嘉のWOKシールドが、完全にゾンビの足元をすくう。
     背中が床に付くよりも早く、透明な刃が天を突くように地面を走る。外に吹き抜ける冷気などとは比べ物にならないほどの力が。
     衛の放ったフリージングデスの冷気に凍り付き、粉々に飛び散るゾンビの体。その破片を掻っ攫ってゆく風はディートリヒの放ったもの。
    「よし。奇襲成功!」
     一体を潰しただけでなく、二体目にも深手を負わせることに成功。やったねと笑みを零し、毒の入り具合にも満足のディートリヒ。
     先制を得た勝手口班の勢いは、そのまま二度目の攻撃へと繋がった。
     ひるがえった勢いのまま、玄関班と陣形を意識するかのようにしながら放つ、優樹の螺穿槍。
     腹から肩へ向けて突き抜ける先端。衝撃に曲がる体は、あとひと押しで崩れるだろう。
     勢いに乗る前衛陣と比べれば落ち着きはらったかのように見えるラーセルだけれども、深くなってゆく屍王への敵意は、その攻撃にも現れて。
    「さあ、王の戯れ事に乗ってやろう。浄化――灼滅――してやるよ、化物ども」
     十字架の頭から光刃を作り出すと、それを解き放つ。熟練されたその一振りに、ばらばらと弾け飛ぶゾンビの体。
    『があぁ!』
     二体の仲間失って声を荒げるゾンビたちは、その体躯より大きな縛霊手を掲げ、祭霊光で前衛の崩れを治そうと動き、そしてその恩恵を受ける間、前衛陣はヴェノムゲイルでこれ以上の特攻を防ごうと。
    「立て直す前にいくぜ」
    「斬る!」
     猛毒の霧の中を駆け抜け、衛と尚竹は的確に傷の深いゾンビを見定めて。祭霊光がまだ届いていない個体の懐へと一気に詰める。
    「迷惑なゾンビはやっつけるべし!」
     追い打ちをかけるべく、琉嘉は横っ面を張り倒すようにWOKシールドを叩きつける。その一撃に憤怒を表し、まるで鋸の様な刃を振り下ろしてきた。
    「くっ!」
     至近距離のカウンターに血を流すけれども、琉嘉はその動きを一切止めることなく、衛に向かってゆくゾンビの前へと躍り出て。
    「何処みてんだよ!」
     加わる毒に顔をしかめたものの、尚竹の放つ斬撃にゾンビの首が飛ぶのを見送れば、体をはった甲斐があると拳を固め。
    「このままの勢いで押してゆくよ」
    「あぅあぅ……回復するっす」
     フォローは即座に。フルートを軽やかに回し、棒術の演武にも似たパッショネイトダンスで敵前衛へ詰める仲間たちへ援護を行うルナールと、顔を下に向けながらも頑張る、ンソの防護符が空を切る。
     琉嘉に触れた、護符の輝き。見えない力が暈となって琉嘉を覆う。眼前のゾンビが繰り出したヴェノムゲイルを、地を這うような姿勢でかわすと、そのまま抗雷撃でその顎とも喉ともつかない顔に拳を振り上げる。
    「いくぜ――砕けろーっ!」
     電光瞬く一撃に、下顎が完全に吹き飛んだものの、その手足は獲物を求めるかの如く蠢いていて。
    (「知的な行動を取らず、ただ各所で湧いて出るのみ。それもほぼ同時に……屍王による、何らかの誘導か?」)
     報告書にある出現ポイントを思い起こしながら、様々な憶測を巡らせるラーセル。ノーライフキングに対して根深いものを抱く彼は、その手に白光を放つリングスラッシャーを生み出すなり、虫の息であろうとも容赦なく喉笛を狙う。
     屍に憐憫を持たぬ指先は、十字を切るように光輪の刃を操って、確実にその首を落とす。
     窮屈と感じるほどの密度だった茶の間も、僅かな時間で隙間が目立つようになり、前線が頼りなくなったゾンビたちは、裂けそうなほど口を広げて唸った。
     体液を口から溢れさせながら、ナイフのゾンビ二体が優樹を狙い打ち。
    「そう簡単には通さないよ?」
     ずさっと、一方のゾンビの前に立ちはだかり、ダメージを受け持つ琉嘉。
    「ごめん!」
     彼が受け持ってくれた怪我は、手早く動いたンソにお任せして。優樹はその心意気に報いるため、残り一方の攻撃は軽やかにかわし、ウイングランサーで一気に突きあげて。
    「こいつで、トドメ!」
     ルナールのパッショネイトダンスとディートリヒの紅蓮斬で深手を負っているゾンビへと、滑るように迫る衛。零距離格闘、ガンナイフの先端を思いっきり心臓へと。
     ゾンビが事切れたことを確認すると、すぐさま向き直りつつ。
    「……っと、後は!?」
    「俺が行くぜ!」
     ビッグ・チーフの霊撃に仰け反るゾンビへ琉嘉は恐れなく懐へと突っ込んだ。閃光飛ぶその拳、ナイフが振り下ろされるより早く繰り出した。
     抗雷撃が綺麗に鳩尾へとめり込んで。
     バチバチと帯電した電気を放出しながら、血反吐を落としそのまま崩れるゾンビ。
    『がうう……』
     前衛陣が崩壊し、さすがのゾンビたちにも焦りの様なものが見え隠れした。
     そして、一斉に除霊結界を発動し、徹底的に灼滅者達の動きを抑制しようと。
     除霊結界より撒き散らされた、強制停止の波動。この流れを切ろうと、ゾンビ側も必死。
    「あぅ……」
    「このっ!」
     びりびりとくる力に、ンソと琉嘉が動きを抑制されてしまう。
    「ちっ」
    「それで逃げられると思うな、化け物ども」
     小賢しいことしてくるなとディートリヒは舌打ちしながら、こっちが捕縛してやるよと影縛り。ラーセルはスナイパーの特性を生かしつつ、リングスラッシャーで足を関節から切断するべく打ち放った。
     ゾンビは大きく体勢を崩した。除霊結界の抑制力の途切れを狙い、優樹はアースゲイザーを掲げて、轟雷を呼び寄せる。
     飛びこむより打つ方が早いと判断してのことだ。
    「ゾンビの家は墓の下でしょ。送ってあげるからさっさと帰れ!」
     吹き抜けの天井。何処からともなく光が落ちた。
     衝撃に消し飛ぶゾンビを横目で見送りながら、尚竹はかわされてしまった黒死斬から、すぐさま居合斬りへと繋げる。
     だが、空を裂く音だけが耳に届く。
    (「見切られる、か」)
     尚竹が死角を狙うも、同じ術式の剣技故か、太刀筋を読まれて思うように当たらなくなってくる。それは霊撃を繰り出し続けているンソのビッグ・チーフも同じだ。さすがに五度目の打ち込みとなると見切る方も容易くなるらしい。
    「まかせて」
    「すまん」
     シャウトを織り交ぜ、他の剣技もあるのだと臭わせる尚竹をフォローするように、鎮魂歌を捧げるべくルナールがとどめを引き継いで。
     白銀に踊る紅。ルナールとワルツを踊るかのように舞うレーヴァテインの炎。鮮やかにひるがえるフルートの先端が、したたかにゾンビの腹を穿った。
     強打に身を折ったまま、崩れ去るゾンビ。
    「あと二匹!」
     ディートリヒが解体ナイフの刃を撫でれば、穢れだけに反応する猛毒が室内を満たし、衛がフリージングデスを重ねて。
     足場を埋めるように通り抜けた両者の攻撃に怯んだすきを見て、体に走る麻痺を気力で押さえこみながら、優樹はフォースブレイクを打ち込んだ。
    『がっ、かがっ!』
     毒と衝撃に苦しむゾンビへと、ビッグ・チーフの背後からンソが契約の指輪をきらめかせた。霊障波が迸らせると同時に、ンソはそのきらめきを解き放つ。
     どっ。という鈍い音と共に、ゾンビは喉元を打ち抜かれゆっくりと倒れてゆく。
     最後のゾンビは再び除霊結界を解放するけれど、最早勢いを止める力にすらならない。
    「新年早々縁起の悪いものは消えるといいよ」
     深淵から浮かび上がってくる巨大な顎が、漆黒に染まる口を開けて最後のゾンビへと。尚竹の黒死斬に足の動きを鈍くさせられて、成すすべもなく暗黒へと飲みこまれる。
     ディートリヒの影にかき消されたのを見送って、戦闘が終わったという安心感と相変わらずの人見知りに、ンソはすぐに改造ドラム缶のなかに引っ込んで。
     そんな様子を見てちょっぴり笑みを漏らした優樹だけれど。すぐに目を閉じ、犠牲となった母と娘に黙祷を捧げる。
    「ちっとは、敵討ちになれたかね?」
     衛は誰にとはなしに一言だけ呟いて。
     窓の向こう、街灯明かりにきらめく六花。まるで犠牲者を弔うかの如く、静かに舞っていた。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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