末なる恨みを超えて

    作者:幾夜緋琉

    ●末なる恨みを超えて
    「……はぁ…………」
     何処か元気の無い言葉を紡ぎ、駅前のアーケード街を歩く大学生の彼女。
     その表情は何処か思い詰めているかの様で……死が間近に迫ったかの如く覇気も無い。
    「……もう、私……生きてても仕方ないのかなぁ……」
     そんな彼女の言葉を聞いて……一人の老婆が。
    『ちょい……ちょいと、そこの娘や……』
    「……ん?」
     その声に気づいた彼女が、その老婆に向けて振り返る。
     フードを被った老婆……何処かミステリアスな雰囲気を醸し出している彼女は。
    『お主……思い詰めている様じゃな。どうやら……徐の悩みは、恋の悩みかえ?』
    「……え? な、なんで……判るんですか……!?」
    『ふぉっふぉっふぉ……わしでよければ相談によるぞぇ?』
     全てを見透かしたかの様な言葉。
     その言葉に……彼女は老婆の前にすわり、話始める。
     長年、愛をはぐくんでいた最愛の彼氏が……クリスマスに別れようと言ってきた、という事。
     そしてその彼氏がくっついた相手は……彼女が親友として仲良くしていた、小学生以来の友人。
     奪われた恨みを、こんこんと語り続ける彼女の話をしっかりと聞き届けた老婆は。
    『深い恨みなのじゃな……ふむ、お主の心はよく分かった。ならば……』
     真っ直ぐに彼女を見据えると、老婆は……。
    『それは殺してしまうがええ。奪った者は、お主から大切な者を奪い去ったのじゃろう? ならば……殺してしまうがええ』
     その言葉に、何か不思議な力強さを感じた彼女。
     老婆の話を聞いて、彼女は……恨みの儘に、復讐を考えるのであった。
     
    「お、皆集まってくれたか? んじゃ早速だが、説明を始めるぜ!」
     神崎・ヤマトは、集まった灼滅者達を見回しつつ、早速ながら説明を始める。
    「今回皆には、ダークネス、ソロモンの悪魔によって強化された幹部の老婆、および彼女によって欺されてしまった強化一般人の者達を灼滅、もしくは気絶させてきて欲しいんだ」
    「幹部の老婆は、何の変哲も無い街角に路上占いの机を出して……恨みを持った女性達を復讐へと陥れている。被害に遭いそうな人をどういか踏みとどまらせる……もしダメでも、灼滅、もしくは気絶させ、正気に戻してあげて欲しい」
    「無論、皆の前にはバベルの鎖という者が立ちふさがる事になるだろう。だが大丈夫、俺の全能計算域(エクスマトリックス)から導き出された生存経路に従えば間違い無いんだぜ!!」
     そして続けてヤマトは細かく、敵の状況について説明を加える。
    「まず幹部である老婆だが、こいつは後衛の位置から遠隔攻撃で狙ってくる。主体となる攻撃は杖から放たれる雷鳴の一撃になる」
    「老婆は幸いその動きは遅い。とは言え老婆を守る様に、今までに欺されてしまった強化一般人が6人、彼女を護るディフェンダーとして立ちはだかる様や」
    「ディフェンダーの彼女らは、リングスラッシャー、バイオレンスギター、サイキックソードの三種を二人ずつで構成されている。彼女らを倒さない限り、老婆には遠隔攻撃以外不可能……また遠隔攻撃も、基本的に彼女らが庇う筈だ」
    「まぁ強化一般人は、皆とほぼ同等の力ではある。なんで変に油断しなければ多分大丈夫だとは思うが……油断はしない様にな?」
     そして。
    「こうやって一般人を悪の手に染めるソロモンの悪魔の使いを見逃す事など出来ないよな? という訳で皆の力を貸してくれ。宜しく頼むぜ!」
     と、ニヤリと微笑むのであった。


    参加者
    榛原・一哉(箱庭少年・d01239)
    住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)
    緋野・桜火(高校生魔法使い・d06142)
    ムウ・ヴェステンボルク(闇夜の銀閃・d07627)
    倉澤・紫苑(奇想天外ベーシスト・d10392)
    暁・紫乃(悪をブッ飛ばす美少女探偵・d10397)
    天木・桜太郎(嵐山・d10960)
    神園・和真(カゲホウシ・d11174)

    ■リプレイ

    ●恨み言
     ヤマトの話を聞いた灼滅者達。
     彼らが向かうは、とある駅前、アーケード街。
     年の瀬も押し迫り、歩く人々はせわしなく歩き回る中、このアーケード街の中はどこか異質な雰囲気をかもし出している。
    「しかし、なんであんな老いぼれの言いなりになっちゃうのかしらね。私の所に来たら、ちゃんと慰めてあげるのに」
    「んー……まぁ、ちょうど失恋したタイミングだ。その時に相手を恨むのはわからないでも無い。だが、殺すのはやりすぎだな」
    「うん。たったそれだけで、とも思えるけど、人の心の弱みに付け込むのがそれだけ上手いって事なんだろうね……」
     倉澤・紫苑(奇想天外ベーシスト・d10392)に、ムウ・ヴェステンボルク(闇夜の銀閃・d07627)と、榛原・一哉(箱庭少年・d01239)の受け答え。
     三人が言う通り、今回相手にするべく相手は人の心の弱みに付け込むのが得意なダークネスのひとつ、ソロモンの悪魔に連なる者。
     その心の弱みこそ、失恋……クリスマスの夜に別れを切り出されてしまった彼女は、自暴自棄気味に周りを巻き添えにしてやろう、っていうことだろう。
    「でも、クリスマスにこういう事件が起こるなんて……いや、だからなのかな……」
    「まぁなぁ……でもよ、大体クリスマスにふってくる奴なんて、こっちから願い下げじゃね? ったくよくわかんねーなぁ……」
    「……そうだな。私はあまり恋愛とかしたことが無いので、理解しづらいのだが……でも落ち込んでいる人間につけこむのが赦せないのは確実だ」
    「うん……例えナリがおばあさんだろうとも、ヒトの心の弱いトコにつけこもうってのがなんか気にくわないし、赦せない! 容赦はしないぜ!!」
     神園・和真(カゲホウシ・d11174)に肩をすくめる天木・桜太郎(嵐山・d10960)と、緋野・桜火(高校生魔法使い・d06142)、住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)らの会話。
     例えおばあさんの外見であろうとも、彼女のしている事は赦さざること。
     ただ……今回の相手はその本体ではなく、幹部の内の一人だと言う。そこに疑問を抱いている慧樹。
    「いかしソロモンの悪魔の幹部が、こんなトコに居るとはね……まぁ、こういうヒトが訪れやすいところの方が、騙せるヒトが多くていいのか?」
    「判らないね。でも……こんな事件で殺されてしまうなら、彼女達も浮かばれないだろうし」
    「ああ。出来れば一般人は助けたい所だ。だが……被害を広げすぎないことも優先。相手はダークネスの手先だから容赦は出来ん」
    「そうだな。痛い目、見て貰いますか。婆さんはヒトの心を利用し騙した。ただですまさん」
     一哉、桜火、ムウが言う中……一人暁・紫乃(悪をブッ飛ばす美少女探偵・d10397)は。
    「……手加減はちょっと苦手なの。大体、こっちを殺しに着てる相手を殺さないとか、甘すぎなの」
     と、厳しい一言。
     その一言に一哉は。
    (「判ってる。でも……罪も無い人達をこの手に掛けるなんて、想像するだけで怖いよ。ボクが、弱いだけなのかな……」)
     と、内心で思う。
     ……でも、他の仲間達も、同じような心を持っている。
     罪も無い人達を殺したくない、それは当然。
     しかしながら、相手はダークネスに連なる力の持ち主……真剣に、全力で当たらなければこちらが負けるのは目に見えている。
    「……ま、ともかくよ、この依頼、しっかり始末をつけましょう。人に騙されて、失意のまま年越しなんて可哀想過ぎるしね」
     紫苑が力強い言葉を紡ぎ、そして。
    「ま、ともかく要らぬ被害者は出さないようにしよう……というわけで」
     とムウは一度場を取り直しつつ……アーケード街を進む。
     すると、その先で……彼女の話を聞いている老婆の姿を確認。
     そんな彼女、老婆に気づかれないように。
    「Lets rock!」
     とムウは小さく告げて、スレイヤーカードを解除。
     そして、続けてその場にサウンドシャッターを展開。
     周囲に対し、音の飛散を防ぐと共に……頷きあい、彼女の元へと向かうのであった。

    ●恋の逆恨み
    『ふむ……そうか。お主はこのクリスマスの夜に、裏切られたと。恋人から別れを宣告された、という事なのじゃな?』
    『ええ……ずっと、ずっと仲良くしてたのに……なのに、なんで、今日……突然……』
     ポロポロ泣きながら、婆さんの問いかけに応える彼女。
     心の奥底からの嗚咽、そして……それほどまでに、彼を愛していたのだろう。
     それが奪われた相手が、小学生以来の友人ともなれば……絶望、その思いは何よりも重い。
     だからこそ、その心のうちに秘める思いは大きく、切ない。
     ……そんな彼女に。
    『その深い恨みは、お主を惑わすものじゃ。それならば……相手を殺してしまうがええ。お主から大切なものを奪った……ならば、お主はその元凶を殺せば万事解決なのじゃ』
     言っている言葉は、聊か理論的ではない様にも思う。
     しかし、絶望の淵に居る彼女にとっては、その言葉をも正しいことだと思えてしまう。
    『……』
     そしてその言葉に、顔を伏せながら。
    『殺す……そう、殺す……か……』
     と、ぽつり、ぽつりと呟く彼女。
     そんな彼女に対し、一斉に現れた灼滅者たち。
    「全く、女の子達を私兵にしようだなんて、胸糞悪いのよね。素直に灼滅された方がマシだと思う様な目に遭わせてあげる!」
    「……殺め重ねた罪に救済の理なし。積もり背負いた重みが、我が力となす……!」
    「……あれがダークネス。俺の中のダークネス、俺に、お前達を滅ぼす力を貸せぇぇ!!」
    「武装解放」
     紫苑に頷きながら、紫乃が大鎌と、鋼糸を仕込んだ手甲を軽く打ち鳴らし、和真も叫び声を上げながら戦闘態勢……桜火と共にカード解放。
     そんな灼滅者らの対峙に、老婆は。
    『まったく……血の気が荒い者達じゃのぅ……まぁ、仕方ないかの』
     と言いつつ、ふゅぅ、と後退。
     そしてその彼女を護るかの様に、彼女に欺された少女達が立ち塞がる。
     ただ……まだ今日、話を聞いた彼女は、状況を判断出来ておらずきょろきょろ周りを見渡すばかり。
     そんな彼女へ和真が。
    「いいか? 振られた逆恨みに殺人? ふざけるな! 振られる覚悟も無いんだったら、最初から好きになるんじゃない! 振られた悲しみで自暴自棄になる気持ちは分かるけど、それで人を殺したら、もう取り返しがつかねーんだよ!!」
    『……でも……』
    「でもも、何でもない! 殺すという事は、それ相応の枷を負う事になるぜ!」
     和真の言葉に、何も言い返せない彼女。
     ……どうやら彼女は、闇落ち寸前で踏みとどませられた様で、まずは一安心。
     しかしながら、目の前にはまだ残る護衛の女性達が六人……バイオレンスギター、リングスラッシャー、サイキックソードを持ったのがそれぞれ二人ずつ。
    『さぁ、行くのじゃ。儂等は誤って等居ないという事を教え込むのじゃ!』
     婆さんの声に、ディフェンダーの彼女らはこくり、と頷き一斉攻撃。
     それら攻撃を引き受けるは慧樹と和真。
    「ディフェンダーってことは、固ぇんだよな!? じゃー最初は、手加減なしで行くぜ!」
    「ごめんな……少し眠っていて貰うよ」
     螺旋槍で壊アップを付与しつつ、ディフェンダー効果でダメージを半減させながら攻撃を受け止め、対し和真は手加減攻撃。
     そしてそれに続けて紫苑、紫乃、桜太郎がクラッシャー配置について。
    「私が、貴方達を落してあげるわ!」
    「……刃向かうなら、倒す迄なの」
     それぞれ制約の弾丸、斬弦糸での連携攻撃、合わせて桜太郎は。
    「おら、ばーさん、高見の見物してんじゃねーぞ!!」
     と除霊結界をその場に付与し、パラライズを叩き込む。
     そして一方、一哉はジャマーポジションで。
    「……僕らだって、無作為にこの力を揮いたい訳じゃない。出来るなら……一般人を手に掛ける事は避けたいんだ。でも……お婆さんを倒す為に壁になるのなら、こちらだって戦わざるを得ない……」
     一哉はんな言葉を紡ぎながら、妖冷弾でバッドステータスを付与。
     更に桜火も、デッドブラスターで毒と共に、ダメージを叩き込む。
     そして……敵陣の、ディフェンダー六人の行動を見極めつつ、ムウは最後に行動。
     一番ダメージを負った仲間を判断すると、そこに祭霊光で回復を施す。
     ……灼滅者達のそれら動きを見て、婆さんは。
    『ふむ……中々やりそうな子達じゃのぅ……しかし、まだ甘さもあるのが命取りじゃよ』
     達観した口調の老婆。
     そして老婆は後方、護られた位置から遠隔の雷鳴。
    「っ、いってーな、ちくしょう!!」
     桜太郎が少し怒りの口調で叫ぶ。婆さんはふぉっふぉっふぉと笑って。
    『これくらいの攻撃で痛がるなどまだまだ未熟じゃて。さぁ、更に行かせて貰うとするかのぅ?』
     そう言いつつ、婆さんは配下の者達に更なる攻撃を指示。
     その攻撃を慧樹は出来る限り受け止める。
    「ダイジョーブか!? 次も俺が受けてやるから安心しろよ!!」
    「……ありがとう、なの」
     そう言いつつ、クラッシャーポジションの三人、そして和真がターゲットを集中させて攻撃。
     ……とは言え最初の内は敵の体力が判らず、巧い具合に手加減出来ず、気絶以上のダメージを与え、倒してしまう。
    「っ……すまない」
     和真がぽつりと呟きつつ、その体力へ見当を付ける。
     そして次の攻撃からは、その体力を想定した上での手加減攻撃へシフト。
    「これは……中々難しいわね」
    「(こくり)……だから、甘い考えは怪我の元にもなるの」
     紫苑に頷きながら告げる紫乃。
     確かに下手に手加減すれば、いつの間にか返り討ちという事だってあるだろう。
     でも……だからといって、欺された彼女達には、そこまでの非がある訳ではない……攻められるべきは、後ろで暗躍するあの婆さん。
    「……必ず、お前達の恨みと共に滅ぼしてやる……ダークネスを……」
     そう言いながら、次のバイオレンスギターの女性を……どうにか手加減攻撃でトドメを刺し、気絶に追い込む。
    「良し。これくらいでいいみたいだ!」
    「了解だ……」
     桜太郎に、桜火他仲間達も頷く。
     そして、残る四人の、彼女達を一人一人、確実に倒して行く。
     中々その力加減が難しく、灼滅してしまうのももう1人出てしまったが……残る四人は、どうにか気絶で止めていった。
     
     そして……残るは老婆一人。
     灼滅者達は、ダークネスに半円陣での包囲網を構える。
    「……本当に、老婆だな……」
    「あれが、ダークネスに取り込まれた人の姿……ダークネス、お前達さえ居なければ!!」
     一瞬躊躇してしまう慧樹に対し、強い口調で言い放つ和真。それを老婆はくっくっく、と笑いながら。
    『さぁて……ならばこちらも本気を出すとするかのぅ?』
     というと共に、強力な力の一撃を突如として繰り出す。
     かなりの大ダメージとなるが……素早くムウが回復を施すことで、後には続かせない。
     又、前衛のクラッシャー、ディフェンダーのポジションに着く仲間達が出来た穴を即座に埋めるよう動き回る為、穴も生じることはない。
     ……そして、老婆に対峙して数ターン。
     流石にその動きは素早い訳でも無く……体力もそれほどでは無い老婆は、集中砲火の下、ドンドンと体力が削られて行き……。
    「……人を欺したお前を、必ず滅ぼす……ダークネス、覚悟しろ!!」
     和真の渾身の一撃で、彼女を壁際に突き放すと。
    「……これで、終わらせるの」
    「……あなたに慈悲なんて無いわよ。消えて償いなさい」
     紫乃がデスサイズを大きく振りかざし……紫苑が合わせて斬弦糸。
    『う、うぅ……くそぅ……このぉ……赦さぬ……赦さぬぞぉ……』
     その攻撃に老婆は、恨みを込めた視線で睨み付けるが。
    「どうだ? この未来は占えたか、婆さん」
     静かに消え行く、ソロモンの悪魔幹部の婆さんに向けて言い放つ慧樹。
     くそ、ぅ……と呟きながら、婆さんの身体は消えていくのであった。

    ●果てぬ思い
     そして……その姿が全て消え去ると、ふぅ、と息を吐いて。
    「……ま、当然だな」
     どこか余裕な感じを見せる桜火。
     そして……それと共に、改めて周囲に倒れている一般人の彼女を確認。
     ……どうにか、息は残っているのもいるが、何人かは……息をしていない。
     生存していたとしても、かなり怪我はしている訳で……。
    「……すまない。今度は、人を恨まぬ様……幸せが訪れることを祈っている……」
     と、死した者達に対して、供養の言葉をささげるムウ。
     ……その言葉に。
    「……今回が上手くいったからって、次も上手くいくとは限らないの。いずれ、人を殺める覚悟は必要になってくるの……」
     この先、もっと強い敵が現れるかもしれない。
     そうなれば、今回のように一般人を守っていけるのか……断言は出来ない。
     とは言え、今出来ることはこうして、ダークネスの配下を倒し、少しでも被害を抑えること。
     ……そして、ムウの祈りに、他の灼滅者らも、ささやかながら弔いの祈りをささげ、花を道端に供え、供養する。
     そして。
    「……帰ろうか」
     一哉のぽつり呟いた一言に、他の周りの灼滅者たちも頷いて……そして、真夜中のアーケード街を、静かに去り行くのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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