雪底より這い出るもの

    作者:月形士狼

     場所は北海道某所。
     時は人々が寝静まる深夜。
     雪に覆われた街に、異形の影が蠢きだした。
     最初に異変が起きたのは地の底から響く、何かを引っかくような音だった。
     それは時と共に次第に大きくなり、やがて地を貫く音と共に地の底から這い出てきたものは、正しく異形の姿。
     ぽたりぽたりと純白の雪の上に腐った血を垂れ流し、元は人だった屍体が次々と姿を現し、何処かへと進んでいく。
     死者の列は、舞い散る雪に消えるように、姿を消していった。
     教室に集まった灼滅者に、物静かで控えめな少女が話を切り出した。
    「あの、みなさんにお願いがあるんです……」
     おずおずと、どこか気弱そうにお願いをする園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)は、何処から現れたのかは解らないがはぐれ眷属のアンデッドが北海道に現れたと告げる。
    「アンデッド!? ノーライフキングか!?」
     その言葉に、朝日南・周防(中学生エクソシスト・dn0026)が過剰な反応を見せた。
     彼は以前闇落ちし自身がノーライフキングになりかけた経験から、かの『屍王』に激しい敵意を燃やしている。そんな彼の視線に、槙奈は身をすくめて言った。
    「い、いえ。今回ノーライフキングの姿はアウトプットされていません。見えたのは腐りかけの人間の死体、ゾンビが街中に現れて廃校に集まっているというだけです。ごめんなさい」
    「あ、ごめん。驚かせた。でもゾンビか。……気になるな」
     驚かしたことに周防は素直に謝罪し、続く説明を聞いたところ数は10体程。しかも刀等でそれぞれ武装までしているらしい。
    「ゾンビ達は、侵入して来た者達を排除しようと動きます。ですが、その中でも特に強力なゾンビが一体、屋上に居座っていますので気をつけてください」
     エクスブレインの少女はそう念を押すと、次に侵入について話し始める。
    「この廃校の二階では、東西南北と1体ずつゾンビ達が侵入者に対して見張りをしています。ですが決して知能は高くないので、何か気を逸らせるような工夫や見た目を誤魔化すことができれば、このゾンビ達の目を掻い潜るのは容易だと思います」
     続いて槙奈は、それぞれのゾンビの詳しい行動を伝えていく。
     まず一階では、正面玄関を入ってすぐの下駄箱のある空間でゾンビが2体待ち構えている。このゾンビ達は侵入者が手強いと判断すると、3分後に学校全体に響くような声を出して仲間を呼ぶらしい。速やかに倒すことが望まれる。
     次に二階に立つゾンビ達は建物に入ろうとする者を発見するか、同じ階のどこかで戦闘が始まれば仲間を呼ぶらしい。
     この見張りの目を掻い潜ってここまで上がれたら四手に分かれ、外にばかり注意を払っているゾンビ達を背後から一斉に不意打ちをしかけて仕留めるのが上策だろう。
     三階では、3体のゾンビが定期的に見回りをし、屋上に繋がるこの場所を守っている。此処までくれば1体ずつ仕留めるのは不可能だが、最初に近くまで来た1体をすみやかに仕留めれば、駆けつけてきた残り2体を仕留めるのも容易となる。
     最後に屋上では、ガトリングガンを装備したボスゾンビが一体で立ち塞がる。全力をもって叩いて欲しいと締めくくると、三つ編みの少女はほうっと息をついた。
    「……以上、です私はみなさんを見送ることしかできませんが……どうか、お気を付けてくださいね……」
    「わかった。必ずぶっ倒してくる!」
     深々と頭を下げるエクスブレインの少女に、周防は大きく頷き。
     夕暮れの教室を後にするのだった。


    参加者
    玖・空哉(クックドゥドゥルドゥ・d01114)
    風早・真衣(Spreading Wind・d01474)
    井達・千尋(魔砲使い・d02048)
    クノン・マトーショリカ(トラブルメーカー・d04046)
    リオーネ・ブランシュ(運命黙示録・d04884)
    水無瀬・楸(黒の片翼・d05569)
    皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)
    零零・御都(自分的には魔法使い・d10846)

    ■リプレイ

    ●突入
    (「海を渡った地は、初めて来ました、ね。はじめまして、北海道さん」)
     見慣れたものとは違う色を見せる空に、風早・真衣(Spreading Wind・d01474)は白い息と共に笑みを浮かべる。
    (「でも寒い、です」)
     だが冷たい風に挨拶を返されて身を竦めると、空から廃校の校舎へと視線を戻した。
    「うー、寒。北海道寒すぎ!」
     突入用に調整し終えた携帯電話をしまい、玖・空哉(クックドゥドゥルドゥ・d01114)が悪態をつく。
    「……これから一仕事で暖は取れるが、どーせなら腐った男よりピチピチの女の子相手に暖を取りたかったぜチキショー」
     二階の窓に立つ姿に軽く目を細めると、垣間見せた色を隠すように仲間達へ振り返った。
    「ま、同感だな。見てて嬉しいもんでもないし、とっととぶちのめすとすっか」
     掌に拳を打ち合わせて朝日南・周防(中学生エクソシスト・dn0026)が気合を入れ直し、
    「ま、適度の緊張はイイけど、力み過ぎは失敗の元ってね」
     逸る気持ちを察したように水無瀬・楸(黒の片翼・d05569)が注意を促し、変わらぬ様子の敵に内心で首を傾げる。
    (「最近こっちでよくゾンビ依頼聞くけど、新たな眷属を作るでもなく場所を占拠してるみたいだし、屍王の活動拠点でも確保する気なのかねー?」)
     そんな疑問を感じたのは、彼だけではない。灰色の瞳で校舎を見つめるリオーネ・ブランシュ(運命黙示録・d04884)も、そのうちの一人だ。
    「この場所に何があるのかな……でも、まずは片付けていかないと、ね」)
     しかし今は目の前の事へと集中しようと結論付け、気を引き締めなおした。
    (「なんだってまた北海道にゾンビが湧いてんだかなぁ……」)
     答えの出ない考察を井達・千尋(魔砲使い・d02048)は振り払い、これから行われる行動へと思考を切り替え
    「籠城してんだかなんだか知んねぇけど、さっさと倒して帰ろうぜ。寒い」
     ぼやくように仲間へと声をかけると、準備の進み具合に目を向けた。
    「……くー」
     ……一人寝てる。
     風船を手にしたまま、船を漕いでいたのは零零・御都(自分的には魔法使い・d10846)。
     集まる視線を感じたのか、はっと目を開けるとパタパタと手を振ると低血圧なのでと年に合わない言い訳を口にし、風船を膨らませる作業を再開した。
     薄茶の袋に入れていた最後の風船を膨らませ、クノン・マトーショリカ(トラブルメーカー・d04046)が、青い空に向かって飛ぼうとする赤い風船につけた紐を束ねる。
    (「建物へ入る為に、見張りさんの気を逸らさないとね」)
     エクスブレインにより見張りの存在をあらかじめ察知していた灼滅者は、風船を飛ばすことにより注意を逸らす作戦を立てていた。
    「お願いね。ちぃ」
     風船の紐をくわえて霊犬のちぃが頷き、
    「葛桜」
     少しは目立つかと、小さな鏡を括り付けた風船を受け取った霊犬の葛桜が応え、二匹の霊犬達は赤い風船をくわえて駆け出した。
    「久しぶりにゾンビ退治ですね。一般人に被害が出る前にさっさと終わらせましょう」
     皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)がぽつりと呟くと同時に、離れた場所から赤い風船が空へと上がっていく。
     誰かが発した合図に従って校舎へと地を蹴って進む中、玄関のガラス越しに見えるはぐれ眷族に知らず笑みを浮かべ。
    (「……殺しがいのあるゾンビだといいな。 楽しませてもらいましょう」)
     湧き上がる高揚感と共にスレイヤーカードを取り出し、発動の決めゼリフを口にする。
    「さあ、狩りの時間だ!」
     カードに封印されたサイキックエナジーが、灼滅者の手の中で殲術道具として形を成す。
     凍りつくような北の大地で、ダークネスとスレイヤーの戦いが幕を開けた。

    ●強襲
    「遅えっ!」
     扉を蹴り破るようにして開けた空哉は、雷光にも似たバトルオーラを拳に収束させながら左にいたゾンビの間合いに踏み込み、一瞬にして高速の連打を叩き込む。
    「剛転号!」
     ライドキャリバーの剛転号が主の命を受け、エンジンを唸らせて下駄箱を駆け上りそのまま突撃し、高速回転するタイヤの跡をその腐りかけた体に刻み付ける。
    「さーて、とっとと終わらせて……北の大地を漫喫しよーぜ?」
    「美味いもん多そうだしな!」
     通りすがりに叩かれた軽口に周防は笑い、サイキックで硬質化した拳をもう一体のゾンビに力任せに叩き付けた。
    「わぉ、間近で見ると想像以上に壮絶な姿だねー」
     嫌そうに口にしながら楸が体から噴き出した炎で魔槍を覆い、炎と共にゾンビの片腕を斬り落とす。
    「よく素手で触れるなー。俺には無理だわ」
    「いやバトルオーラで直接には触れてないし。空哉センパイもそうしてるぜ」
     そんな会話をする襲撃者達に片腕となったゾンビが刀を構えると同時に二人はしゃがみ、その頭上を銀色の少女が飛び越えた。
    「とった」
     死者が驚愕したように見えたのは目の錯覚か。空中で鞘から刀を抜き放った桜夜が瞬速の斬撃を走らせ、そのまま蹴りを放つようにして頭上へと逃れる。
    「殲滅、開始――」
     リオーネの心の深淵を映したような漆黒の弾丸が、構えた大鎌の先から撃ち出される横で、御都が傍らで滞空する光の輪に命じる。
    「リングスラッシャー。行ってくださいです」
     空を切り裂きながら進む漆黒の弾丸が胸を貫き、大きく弧を描いた光の軌跡が首を切り裂いてその動きを止めた。
     その隣ではタイヤの跡を刻まれたゾンビが刀を抜くより早く、霊犬の葛桜が斬魔刀で斬りつけて隙を作り、ゴーグルをつけた千尋がバスターライフルのスコープ越しに叫ぶ。
    「その腐れた頭、ぶち抜いてやらァ!!」
     宣言どおり放たれた光条がその頭を貫き、大きく揺らいだ視界にサイキックエナジーで出来た光輪を従えた少女との姿が映った。
    「いき、ます」
     高純度に詠唱圧縮されたサイキックエナジーが魔法の矢を織り成し、無数の光矢が真衣の言葉と同時に一斉に襲い掛かった。
    「ぜんじろう、さん」
     ライドキャリバーのぜんじろうが魔法の矢の中を突き進み、タイヤがゾンビの頭を捉えると同時に、幾本もの光矢がその身体を貫いていく。
    「怖くないよ」
     もう何も届かない耳に、まるで言い聞かせるような優しい声でクノンはカードの封印を解除すると、自分を守るように立つ霊犬に声をかける。
    「ちぃ」
     主の命に下駄箱を連続で蹴って進む霊犬のくわえた斬魔刀がゾンビの首を切り裂き、さまよう死体をアンデッドの呪縛より開放した。

    ●奇襲
     一階の敵を、仲間を呼ばれる前に排除した灼熱者達は、二階に上がりもう一度作戦を確認し合う。それは外を警戒しているゾンビ達を、四手に分かれて奇襲するというものだ。
    「んじゃ俺は二階の中央で待機しとくな」
     連絡と警戒の為に仲間を見送る周防に千尋が頷き、南の教室へと視線を向ける。
    「行くぜ、皇樹」
    「ええ。参りましょう井達さん」
     桜夜がその言葉に頷き、仲間達もそれぞれの場所へと向かっていった。
    「北って渡り廊下、だったのね。御都ちゃん、狙えそう?」
    「……」
     窓越しに渡り廊下を覗きながら問うクノンに、御都は両手で口を抑えながらこくこくと頷き、奇襲まで残り二分を刺す時計からゾンビへと視線を戻した。
    「どう? 空哉」
     リオーネは、共に東に来た空哉に問いかけた。
     この場所は廊下の突き当たりにゾンビが居て、近づくのに慎重さが必要だった。いくら外に注意を向けていると解っていても、かなりの緊張を強いられていたのだ。
    「ああ。ここからなら一息で間合いを詰められる。後は攻めるだけってな」
     空哉はエンジン音を消す剛転号を軽く叩くと、ちらりと視線を時計に落とした。奇襲の合図まで、後1分。
    「(という訳でぎりっぎりだねー。危なかった)」
    「(あと30秒を切りました。水無瀬様、ぜんじろうさん、ご準備を)」
     西の見張りにつくゾンビのすぐ近くにある階段の物陰で楸が息を吐き出し、真衣がぼんやりとした口調で準備を促す。
     ここも東と同様に隠れる場所が無く、道中ひやりとする場面もあったが、なんとか時間内に辿り着けた。遅れた場合は仲間に着信で報せる予定にはなっていたが、余分な時間はかけたくない。
     全員から着信が無いのを確認し、周防は始まった戦闘音に耳を澄ます。
    「……さっすが」
     2分と経たず終わった戦闘音に笑みを浮かべ、帰ってくる仲間へと大きく手を振った。

    ●決戦
     三階の敵を突破した灼滅者が、最後の屋上の扉を開けると同時。
     危険を感じて一斉に散開して離れた扉を、轟音と共に無数の穴が穿たれた。
    「挨拶がわりって訳か? 腐れ死体の総大将」
     明らかに甘い狙いで撃たれた銃弾の雨に、千尋が目を吊り上げてバスターライフルを構える。
     銃口の先に立つゾンビは、生前のものかそれとも何かの理由によってか、2mを越すぶよぶよと太った巨体に、明らかに人が持つように調整されて無い巨大なガトリングガンを構えて灼滅者達の前に立ちはだかっていた。
    「斬り甲斐のある敵だな」
     右手に漆黒の野太刀、左手に刃が二つある大鎌を構えた桜夜が、高速の動きで屋上の給水塔を蹴るようにして背後の死角に回り、空中で回転しての大鎌による斬撃を見舞う。
    「……なるほど。せいぜい楽しませて貰おう」
     しかしその一撃は体躯に見合わない程の素早さで構えられた銃身によって阻まれ、間近で見る強敵に笑みを浮かべながら素早く飛び退く。
     その視界を遮る動きに合わせて踏み込んだ楸が、螺旋の動きを加えた魔槍を突き刺して、間近で笑う。
    「この廃校で何するつもりかなー?」
     返事は無く、その怪力に槍を捕まれる前に離れた背後から飛び出したサーヴァント達が一斉に襲いかかった。
     ライドキャリバーの突撃を片腕で受け止め、そのまま振り回すようにして霊犬達を蹴散らすボスゾンビに、後衛達が狙いを定める。
    「ここまで来たら、もう遠慮しません」
     音を出る事を嫌った御都が、もう音を気にする必要は無いとバスターライフルを構える。殲術道具は音を絞る事が出来るという話を聞いて、驚くのは後日談の事である。
     放たれた魔法光線が巨体を穿ち、怯むボスゾンビに照準を合わせながら千尋が教室でのエクスブレインの話を思い出す。
    「全力で、だっけ?」
     サイキックエネルギーを叩き込み、蹴散らされてもすぐに向かっていく葛桜に合わせて引き金を引き新たな穴を穿ち。
    「じゃぁ思いっきりボコボコにしてやる方向で」
     油断無く相手を観察しながら、次の一手を見定めるピンクの少年には真衣は頷く。
    「全力戦闘あるのみ、ですね」
     ぜんじろうが注意を作った隙をついて詠唱し、現れた魔法の矢を一斉に降り注がせた。
    『――――!!』
     纏わり着く敵に怒りを感じたのか、ガトリングガンから吐き出された無数の銃弾が嵐となって前列へと降りかかる。
    「こっの野郎!」
     血を流しながら飛び込んだ周防が拳を叩きもうとするが逆に掴まれ、そのまま地面に叩きつけられて転がった。
    「回復、します。ちぃも。手伝って」
     一瞬にして血に塗れた仲間に、クノンはリングスラッシャーから生まれた小光輪の光を盾にすると同時に傷を癒し、ちぃが浄化の瞳で仲間達の傷を塞ぐ。
    「やってくれるじゃねえか!」
     傷を負った仲間達への視線を遮るように飛び上がった空哉が、連続でボスゾンビの頭にオーラを集中した拳を叩き込み。仲間を庇った剛転号がエンジン音をかき鳴らして自らを癒す。
    「何者に呼び起こされたのか分からないけど……。 死体は死者らしく土に還るべき、なの」
     リオーネが生み出した漆黒の弾丸が貫くと同時に毒へと侵すが、ボスゾンビはまだまだ余裕のあるように灼滅者達を見渡した。
    「っし、アップ終了。やーっと体が温まってきたわ」
    「奇遇っすね。俺もそんなとこっすよ」
     楸の軽口に空哉が笑い、ボスゾンビへと鋭い視線を向ける。
     既に無事な様子の仲間などおらず、ボスゾンビの身体に刻まれた幾多の傷がその激戦を表していた。
    「そんじゃもう一頑張りと」
    「行きますか!」
     二人は競うように敵へと向かって走ると、直前で左右に分かれてそれぞれの武器を構える。
    「ゾンビが器用に銃なんぞ使ってんなよなー」
     砲身で防ごうとするガトリングガンを楸は魔槍を回転させて石突きで逸らし、炎で包まれた穂先が紅蓮の奇跡を描いてボスゾンビに迫り。
    「素直に燃やされちゃってちょーだいな?」
     度重なる傷を負った左足の腱を灼熱の刃が焼き斬った。
    「はっ!」
     その逆側から迫る敵を遮ろうと突き出された腕を、空哉は飛び上がると回し蹴りで弾き、
    「死体は死体らしく、土に帰りやがれ!」
     着地と同時に駆け抜けるように、全力を込めたサイキックエナジーの刃で右足を深く斬り裂いた。
    「塵も残しません」
     ニコニコと笑顔を浮かべたまま、御都が小柄な身体とは裏腹な巨大な銃身を向けて光の奔流に飲み込み。
    「あの世へ送り返してやるよ」
     葛桜の撃ちだす六文銭の穴を通すように放った千尋の光線は、一直線にボスゾンビの引き金にかけられた指を撃ち抜き、そのまま腰骨を砕いた。
    『――――!!』
     失った指の変わりに中指を使い、両膝を突いたボスゾンビがガトリングガンの銃口を構える。狙いは一番ダメージの大きい者。
    「まずっ!?」
     周防が慌ててバトルオーラの密度を高めるが、それよりも早くガトリングガンが唸りを上げた。
     静けさが戻り、吐き出された薬莢が屋上の床を叩く音の中、静かな声が響く。
    「危なかった、ですね」
    「……させないよ」
     銃弾と仲間の間に光輪の盾を浮かべた真衣とクノンが、仲間を癒すという意志を浮かべた瞳で呟き。
    「そういう事だ」
     斜線を遮るように飛び込んだ桜夜が、リングスラッシャーの盾越しに笑みを浮かべ、駆け出した。
    「悪り、助かった!」
     ふさがった傷と庇ってくれた仲間に礼を言いながら周防はオーラを収束し、敵の顔めがけて放つ。
     迫る光にボスゾンビは身を攀じるが、膝をつき、腰骨を砕かれた身体はその動きに耐え切れず自重によって崩れていき。
    「いくぞ」
     抜刀術から蹴り、大鎌の斬撃と連続攻撃を放った桜夜の影が動き、
    「終わりだ」
     着地した背中から伸びた影による一瞬の斬撃が、その首を切り裂く。
    (「ゾンビ達、何だか苦しそうに見える……。痛くて辛くて……それは背負った罪そのもの」)
     たまらず倒れ込んだボスゾンビに、リオーネの瞳が憂いを帯びる。
    「この世界は貴方達のいる場所じゃないの」
     咎人の大鎌を掲げて口にするのは決別の言葉。送魂の言霊。
    「本当に在るべき所に戻してあげるから……安らかに眠って、ね」
     死の力を宿した刃が振り上げられ。
     偽りの生を吹き込まれた屍が、静かに灼滅された。
     戦闘を終えた灼滅者達が、折角北海道に来たのだからと様々な楽しみを思い浮かべる中、何人かが屋上から雪に覆われた町を見下ろして目を凝らす。
     この地に何が起きようとしているのか、見極めるように。

    作者:月形士狼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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