雪が降る北海道は札幌市、某所。
「ええ、築浅の駅前物件ですから……ほら、あのマンションです」
「あれで築1年なんでしょう? 本当に徒歩0分だし、いいんじゃないかな?」
「いや、とりあえず中古ではあるんだし内装はチェックしないと……あ、駐車場は?」
「もちろん。ではまず地下駐車場へご案内しましょう」
2人の新婚カップルが、不動産屋のスーツ男に案内されマンションの地下駐車場へ。
だが、地下駐車場に入って見るともわっと何やら空気が悪い。
スーツ男は慌てて駐車場の隅にあった管理用の扉に入って行く。
そこには空調設備やボイラーなどがあるのだが……残念ながら、そこにいたのはそれらだけではなかった。
薄暗い狭い通路の先から、ボロボロの服を纏ったゾンビ達が現れたのだ。
「ひ、ひええ~~!?」
「サイキックアブソーバーが俺を呼んでいる……時が……来たようだな!」
教室に集まった灼滅者達を見回して神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が言い放つ。
「今回お前達に解決してもらいたいのは、はぐれ眷族……ゾンビの討伐だ」
そう行ってヤマトはゾンビの情報を説明する。
ゾンビは全部で4体。
駅近くのマンション、その地下駐車場から入れるマンションの空調設備室に入ると奴らは現れる。
見た目はほぼ変わらないが1体だけ他より強いボスがいるから気を付けて欲しい。
空調設備室はあまり大きな部屋ではない。ゾンビも含めて6人も入ればいっぱいいっぱいだ。
戦闘をする上では地下駐車場で戦う方が良い。
「まぁ地下駐車場とはいえ、そのマンションはすでに人が住んでいる。一般人がやってくる可能性があるので人払いには何かしらアイディアがあった方が良いだろう」
つまり、どの時間帯で接触するかによっては、人払いが必要という事だ。
そこまで言うとヤマトはゾンビについて補足を行う。
ボス格のゾンビは手裏剣甲に似たサイキックを。
雑魚ゾンビの3体は解体ナイフに似たサイキックを使ってくる。
雑魚ゾンビは手近な敵を攻撃するが、ボス格は効率良く動くらしい。
その辺りでボスがどのゾンビか目星を付けるのも悪くない。
「一つ、注意して欲しい。ボスのゾンビは一度戦闘になるとどちらかが死ぬまで戦い続けようとする。ゾンビだからといって絶対に油断はするなよ」
どのゾンビがボスか見極める為にどうすれば良いのか。
倒す優先順位は雑魚3体とボスとどちらを先にするのか。
敵のサイキックの種類から何が危険なのか……。
しっかり考えて望めば大丈夫だろう。
「お前達がしっかり灼滅に成功すれば、誰か一般人が犠牲になる事は無い。敵は強い。だが油断しなければ大丈夫のはずだ、頼んだぞ」
参加者 | |
---|---|
色射・緋頼(兵器として育てられた少女・d01617) |
クラリーベル・ローゼン(青き血と薔薇・d02377) |
明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578) |
藤堂・朱美(冥土送りの奉仕者・d03640) |
流鏑馬・アカネ(霊犬ブリーダー・d04328) |
織元・麗音(ピンクローズ・d05636) |
天城・迅(高校生ダンピール・d06326) |
黎明寺・空凛(木花佐久夜・d12208) |
●
雪が降る北海道は札幌市、某駅。
終電を降りて地下鉄のホームから地上に出れば、すぐそこに件のマンションがあった。
「マンションかー、でも住むならやっぱりペット可の所じゃないとね」
見上げて呟くのは流鏑馬・アカネ(霊犬ブリーダー・d04328)だ。赤毛の霊犬わっふがるも「わっふ!」と鳴いて同意する。わっふがるもアカネと共に住める家が良いのだろう。
今回ゾンビを灼滅する為に集まったのは8人、その灼滅者達は終電の人々が帰路に付き閑散としたのを見計らってマンションの地下駐車場へと歩を進める。
8人の中には初めての依頼でとても緊張している者もいた。かつて闇堕ちしかけ武蔵坂学園の灼滅者達に救われた黎明寺・空凛(木花佐久夜・d12208)がそうだ。
(「はじめてのお仕事がこのような手ごわいゾンビとは……」)
その時、空凛の肩に誰かが手を置く――ビクッ!? 見ればかつて自分を救ってくれたクラリーベル・ローゼン(青き血と薔薇・d02377)だった。
「落ちつけ。みども達がついている」
クラリーベルの言葉にこくりと頷き、空凛は地下駐車場に入った所で殺界形成を発動させる。これで一般人が近づいてくる事は無いだろう。
一般人が誰も残っていない事を確認しやがて空調設備室の扉の前へと8人は集合する。
「人がいない事も確認しましたし、これで安心して戦えますね」
色射・緋頼(兵器として育てられた少女・d01617)が感情無く言葉を紡ぐ。
天城・迅(高校生ダンピール・d06326)が仲間達に気をつけろと釘を刺しつつ設備室の扉を開けようとするも、鍵がかかっているので簡単には開かないようだ。
――ドシュ! ガランガランガラン……。
迅がどうしたものかと仲間の所に戻るのと入れ替わりに、光の帯が扉を貫き鉄製のドアが床に転がった。
「早いトコ片付けて、さっさと帰りましょ。凍えちゃうわ」
明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)がバスターライフルでブチ抜いたのだ。
迅は慎重にと言ったそばからと溜息をつくも、すぐに気持ちを切り替える。
横合いから緋頼が鋼糸を放ち大きな音を出す。
ゾンビを駐車場側へおびき出す作戦だ。
しかし、待てど暮らせどゾンビ達が設備室から出てくる気配は無い。
破壊された扉の向こう、薄暗く見通す事のできない設備室の闇がまるで灼滅者達を嘲笑うように口を開け続けている。
エクスブレインから聞いた予測で何か見落としがあっただろうか? それとも敵に気付かれるような何かをしただろうか……。
誰ともなく皆の中に焦りが生まれる。
そんな中、つかつかと設備室へと歩いて行くのは織元・麗音(ピンクローズ・d05636)だ。
「出てこないなら、こちらから呼びに行くまでです」
そう言い放つとそのまま部屋へと入って行く。
数秒、残った7人が自分達も行くべきではとの判断が頭を過ったその瞬間。
『ォォォオオオオオーーッッッ』
複数のゾンビの叫び声が中から響き、同時に転がる様に駐車場へと麗音が飛び出してくる。
すでに空気は変わっていた、1体、また1体と似たような作業員姿のゾンビが空調設備室から現れる。
「やっとか……では、ゾンビ退治と洒落こもうか」
迅が無敵斬艦刀と構え、藤堂・朱美(冥土送りの奉仕者・d03640)がスレイヤーカードを掲げて叫ぶ。
「さあ、お掃除開始だよ!」
服装も専用のメイド服となり、その手には縛霊手とロケットハンマーが握られる。
戦いが、始まる。
●
現れたゾンビは予測通り4体、揃いも揃って同じ作業服を着ておりまた顔は腐敗し初見での判断は難しそうだ。
4体は不気味な雄叫びをあげ一斉に襲いかかって来た。吹き荒れる毒の風に肉を切り裂く破片が混じる。
暴風がおさまると灼滅者達は己の異変を察する。それは身体のそこかしこを猛毒に侵された証だった。ボスのバッドステータスも含めて合計で5つの毒がついた事になる。灼滅者達が動いた瞬間、毒をくらった前衛の全てが一瞬で瀕死となるだろう。
だが――。
地下駐車場に浄化をもたらす優しき風が吹き、心を奮い立たせる心地よい音が響く。2人のメディックからの列回復、そしてキュアだった。
確率の問題もあるがもし2人がいなかったら敵の初手で戦線は瓦解していただろう。
そして灼滅者達が動く。
そう、今の一撃を見ただけでもいくらか識別できる事もあったのだ。
「動き、封じさせてもらいます」
颯爽と鋼糸を操り1体のゾンビに巻きつけたのは緋頼だ。
この4体が揃って行動を起こした時、この1体から吹き上がった風は他のどの風よりも毒々しかった。その違和感に気付けたのは訓練のおかげだろう。事前の作戦通りまず倒すべきはこの対象だ。
緋頼に合わせるようにゾンビ達に斬り込んで行くのはクラリーベルだ。
鋼糸が巻き付いた1体に迫ると青薔薇と言う銘の細剣を下から振り切る。途中、その刀身を炎が纏い切り裂いた傷口が燃え上がる。
炎に焼かれながらふらふらとゾンビが倒れ込もうとする。
だが、そのさらに下に潜りこんだ灼滅者がいた。朱美だ。
「それじゃあ、行くね!」
下から打ち上げるように雷を纏った朱美の拳がゾンビの腹へクリティカルにめり込み、延焼するゾンビが天井に勢いよく叩きつけられる。
パラパラとコンクリートの粉が降り、朱美は優雅にメイド服のスカートを翻すとお客様を案内するように僅かに立ち位置をずらす。次の瞬間、動かなくなったゾンビがそこに落下した。
灼滅者達の作戦はこうだ。ジャマー、ディフェンダー、クラッシャー、スナイパーの順番で敵を各個撃破、ただしボスが発覚した場合にはボスを最後に回す。数の優位性を確立してから残った強敵を倒すもっとも模範的な作戦だった。
「皆様、一番前のゾンビは攻撃に特化しております。その一歩後ろにいるゾンビは、た、たぶん守りを優先しているかと……」
後衛から的確に戦場を見回してゾンビの動きを観察していた空凛が多少自信なさげに指示を出す。
仲間達もゾンビ達の動きや癖に目を光らせると、空凛の目星が間違い無いと確認する。
あとはボスがどのゾンビなのか……。
後衛よりガトリングガンを構えてゾンビ達をターゲッティングしているアカネが、ボスに目印を付けようと敵の動きに注視する。怪しいのは1体……。
すぐ前にいるわっふがるを見れば自分と同じ相手を見て「がる……」と唸っていた。
「みんな聞いて! 一番後ろにいるゾンビが他の奴より攻撃力が高い。あいつがボスだよ!」
●
ボスが最奥に陣取って狙いを付けてきているゾンビだと発覚し、戦闘は灼滅者有利に……なりはしなかった。
ボスが最後衛から白い破片混じりの風を撒き散らす。前衛の4人が一斉にガードするも、ボスに連携するように攻撃と防御の2体のゾンビが灼滅者をジグザグに斬り裂こうとその爪を振るってくる。
爪を回避できなかった迅がその裂かれた傷からさらに毒が回るのを感じる。だが日々の鍛錬の成果か、迅は冷静さを失わずに爪を振りおろしたゾンビの隙を見逃さない。
「ゾンビに痛覚はないだろうが…その方が幸せかもしれんな」
一気に無敵斬艦刀を振り下ろしゾンビの片腕が宙に飛ぶ。
「あれで致命傷にならないとはな、さすがは守り役か」
再び目の前のゾンビが迅に向き直りその落ちくぼんだ目が向けられた瞬間、大剣と大斧がゾンビにめり込み吹き飛ばす。
割り込んで来たのは長い髪とドレスをひるがえす麗音だった。
「ふふ……楽しいですね? でも、斬っても叩いても血が出ないのが残念ですけど」
傷だらけのままにこにこと話す麗音に思わず迅は渋い顔となる。
そんな2人に瑞穂からの回復が飛ぶ。
「すまない」
「アタシゃ壊すのじゃなく治すの専門だしね」
いーのいーの、と手をひらひらさせるが実際にはそこまで余裕が無いを瑞穂は理解していた。
思った以上にボスからの攻撃が激しい。致命的な一撃や即座に再行動を行うなど、とにかく命中率に関わる効果が厄介だった。
今も治癒した迅や麗音が当初の半分も体力が回復していないのが解る。回復できないダメージが蓄積しているのだ。
もし、ボスがどの役割か見極める方法を考えるだけでなく、どのポジションだった場合にどんな対処を取るべきか、そこまで相談をしていたのなら……こんな事にはならなかったのかもしれない。
前線ではクラリーベルの細剣が攻撃役のゾンビを切り捨てた所だった。
ゾンビの数が減ると共に、灼滅者達もまた真綿で首を絞められていくように、じわじわと追い詰められているのだった。
●
灼滅者達を鼓舞するような音が響き渡り、傷口を癒し、その身を侵蝕しようとする毒を浄化する。
だが前衛の仲間達を癒した空凛は、自身の拳を震わせる……自分の力だけでは足りないのがわかるから。
「いや、空凛ちゃん、今のは良いタイミングだったわよ」
掛けられた瑞穂の声に空凛がはっとする。
見れば瑞穂が重ね合わせるように癒しの風を吹かせさら仲間の傷を回復させていた。
「大変な手術だって1人じゃできない……仲間がいるから成功するの」
「は、はい!」
「それでも次に強烈な一撃が来たら、耐えられないと思います」
鋼糸で多少なりともボスの命中率を減らすよう捕縛を狙っていた緋頼が冷静に言う。
緋頼自身はヴァンパイアミストで回復しており、もう少々の継続戦闘は可能だ。
だが、常に毒とそして時に治癒さえ受け付けなくなるバッドステータスにさらされていた前衛達は違う。
「ならば、倒せば良い」
凛と仁王立ちしたまま言い放ったのはクラリーベルだ。
「ただ倒すだけの楽な依頼と思っていたが……一瞬でもそう考えた過去のみどもが恥ずかしい」
ピタリと敵に向けた青薔薇の先端から、ボっと火が灯り刀身全体へと広がる。
「ダークネスとそれに連なる者を倒す。そこに楽な事など何一つ無い。今はただ、眼前の敵を倒すのみ」
クラリーベルの気迫にボスが意識を向ける。その隙を見逃す灼滅者では無い!
ふわり、何かがボスの頭上を飛び越えた。
裾も乱さずボスの後ろに着地した彼女は、そのメイド服をゾンビの視界にとらわれる事なく勢いよくロケットハンマーを振りかぶる。
「吹き飛んじゃえ!」
背中にぶつかった瞬間、ロケット噴射で勢いよくハンマーがボスを吹き飛ばす。
海老反りになって吹き飛ぶ先は、ゆっくりと腰溜めに剣を構えるクラリーベルだ。
一閃!
ボスの脇腹を、背骨ごと切り裂いてクラリーベルがすれ違う。
しかし脇腹を抉られてもボスはまだ倒れなかった。
道連れとばかりに白い破片を混ぜた凶風を吹き荒れさせる。
朱美が、クラリーベル、麗音、迅が巻き込まれる。
「皆様!?」
空凛の叫び声が駐車場に響き渡る。
「安心しな! あいつらは死んじゃいないよ!」
「わっふ!」
アカネが答えつつガトリングを連射して凶風の中心にいるボスへ叩きこむ。
戦闘開始時からボスを見ていたアカネには解っていた。先程の攻撃に今までのような命中精度が無くなっていた事に。だから、大丈夫と答えたのだ。
その予測通り、アカネがガトリングをぶっ放すと同時、2本の巨大な武器が風を切り裂いてボスへと迫る。
巨大な斧と剣、麗音だ。
笑顔のまま2本の武器を振るうと、ボスの胸に紅い十字傷が浮き上がりその身を切り裂く。
さらに麗音が飛び出した風の後ろから、同じく巨大な刃を構えた迅が飛び出した。
「俺はお前の様なヤツをこの世に残しておくつもりはないのでな」
戦艦すら切り裂く刃がボスの目の前へと迫る。
彼らは確かにボスの役割に合わせた戦術まで考えはしなかった。
しかし偶然か必然か、半数の灼滅者が敵の命中率を引き下げる技に長けていた。それが功を奏した。
最後、ボスの凶風が精度を失ったのはその積み重ねがあったが故だ。
ブンッ!
迅の刃で真っ二つに割れたゾンビが、ドサリと床に崩れ落ちた。
「この世界より早々に退場してもらおうか」
●
「ふふふ、行って戦って終わりなんてわかりやすくて素敵なお仕事だと思いましたが……なかなかどうして、楽しかったですね」
ゾンビ達の肉片を見ながら満足気な麗音がいる一方。
「皆様、ご無事ですか?」
と心配そうな空凛。
「前に助けた黎明寺に、無様な姿は見せられないと思っていたのだが……な」
傷ついた身体で気丈に振る舞うのはクラリーベルだが、そんな事ありません、とは空凛が首を横に振る。
一応、討ちもらしがないか空調設備室の奥まで探索し、怪しい部分が無い事を確認する。これで依頼は無事完了だろう。
「皆お疲れ様っ」
笑顔満開で朱美が言うと、「わっふ!」とアカネのわっふがるも弾む吠え声で同意する。
「さ、カタもついたんだし、さっさと帰って温かいモンでも食べましょ。アタシゃ寒いの苦手なのよ」
伸びをしつつ、瑞穂がさっさと地下駐車場を後にしようとする。
「多少は元通りにした方が良いと思うのですが……」
飛び散ったゾンビの肉片を見ながら指摘するのは緋頼だ。
このまま放置してもバベルの鎖の効果で異常なこの事件の情報が伝搬する事は無いが、少しは片づけても良いかもしれない。
「それにしても……ゾンビが最近北海道で多く見られるようだが、なにかあるのかね」
迅がボソリと呟くと、皆の頭を戦闘開始前の状況がよぎる。
空調設備室に誰かが踏み込まなければ出れ来なかったゾンビ達は、まるで何かを守るかのようだった。
だが、最後に設備室を調べたが何も出てこなかったのは事実だ。
ブルッと灼滅者達の肌が震えた。
それは北の大地の冷たい空気か、それとも……――。
作者:相原あきと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年1月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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