冬に湯気立つ郷の年

    作者:幾夜緋琉

    ●冬に湯気立つ郷の年
    「皆さん、年の瀬にお集まり頂きありがとうございます」
     微笑みながら、五十嵐・姫子は皆に頭を下げて。
    「今回皆さんには、年の瀬ですが……別府温泉へと向かって頂きたいのです。どうやら……鶴見岳のマグマエネルギーを吸収し、今強大な力を持つイフリートが復活しようとしている模様なのです」
    「サイキックアブソーバーの効果により、幸い出現は予知する事が出来るのですが……申し訳無いのですが、強大なイフリートの力の影響なのかは判りませんが、直前になるまで予知が出来ないのです」
    「しかし普通のダークネス事件の様に、予知の後移動しては間に合いません。なので、別府温泉の周辺で待機し、出現が確認され次第にすぐ迎撃に向かって頂きたいのです」
    「という事で……つまり、皆様には、まず別府温泉へと向かって頂きたいと思います」
     そして姫子は続けて細かい説明を。
    「私がイフリートの出現を感知したら、すぐに皆様に連絡を入れさせて貰います。知らず知らずの内にイフリートがやってくる、という事はありませんので、ご安心下さい」
    「又、イフリートの状況ですが……彼は眷属などを連れてはいません。そこまで強力な個体という訳では無いのですが……迎撃に失敗すれば、平和な温泉街は大惨事になってしまう事でしょう。そうならない為に、皆様には温泉街にイフリートが到着する前に迎撃して欲しいと思います」
     そして、姫子は皆を見渡しつつ。
    「イフリートの出現は何時になるかは予測出来ません。皆様到着次第すぐに連絡する事になるかもしれませんし、数日後に連絡を入れる事になるかもしれません。丁度年末でもありますし、その辺りを踏まえた上の心づもりで向かって欲しいです。勿論その間については露天風呂で静養していても構いません」
    「後……無いと思いますが電源を切ったり、圏外に出たり、長電話で連絡に気づかない、とかはやめて下さいね? それでは……宜しくお願いします」
     と微笑み送り出すのであった。


    参加者
    真榮城・結弦(中学生ファイアブラッド・d01731)
    槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)
    東堂・汐(あだ名はうっしー・d04000)
    狗洞・転寝(風雷鬼・d04005)
    山岸・山桜桃(ヘマトフィリアの魔女・d06622)
    サンサーラ・サンマハサティ(リトルドゥルガー・d07780)
    皇樹・零桜奈(呪われし漆黒の天使・d08424)
    ナナイ・グレイス(孤独におびえる者・d11299)

    ■リプレイ

    ●冬の瀬
    「いやー、温泉地だねー、凄いなー」
     真榮城・結弦(中学生ファイアブラッド・d01731)が、たまらず感嘆の言葉を呟く。
     年の瀬の別府温泉……湯治に来た一般客達も一杯居る。
     一大温泉地、別府温泉……何故其処に灼滅者達がやってきたのかと言えば、姫子の感知したイフリート出現、その討伐の為。
     とはいえ目の前の光景を見ていると、楽しさがこみ上げてきて。
    「うわぁ……やっとゆすらも、別府にやって来られました♪」
    「別府……うん、温泉は私も初めてですね……そんな温泉を妨害するイフリートは、さっくりとやっつけましょう」
     と山岸・山桜桃(ヘマトフィリアの魔女・d06622)と、サンサーラ・サンマハサティ(リトルドゥルガー・d07780)が嬉しげに微笑み。
    「うん……初めての……温泉……楽しむ……イフリートは……倒す……絶対に……」
    「そうだな。温泉! 温泉! イフリート到着まで楽しまねーとな!!」
    「このたわいもない日常が好きなんだ。その為には、ダークネスの支配を打ち砕かなきゃね……」
     皇樹・零桜奈(呪われし漆黒の天使・d08424)、東堂・汐(あだ名はうっしー・d04000)、そして狗洞・転寝(風雷鬼・d04005)の三人も、同様に言葉を紡いでいく。
     冬の瀬に暖かい温泉に入り年を越す……ある意味それは素晴らしい過ごし方かもしれない。
     でも、その素晴らしい時を、平穏を、脅かそうとしているイフリートが現われるという事。
     それを防ぐのが、今回の仕事。
    「でも、マグマエネルギーを吸収して復活だなんて、怪獣みたいだよね。いや……本当にそんな化け物が現われるのかもしれないけど……」
    「まぁなぁ……俺も過去はそうだったらしいし。ま、綺麗さっぱり忘れちゃってるんだけどな?」
     槌屋・康也(荒野の獣は内に在り・d02877)と、転寝の会話。
     ぽりぽりと頬を掻きながら笑う康也に、転寝は苦笑しつつ。
    「ともかく、何としてでも防がないとね。今は出来る限りのことを一つ一つやって行かないとね……」
    「ああ。宿敵との対峙という意味では複雑だけど、どちらも楽しみだぜ!」
     二人の会話に、他の仲間らも頷いて。
    「さて、数日かかるかも知れない様だし、どっか温泉宿の部屋を借りた方がいいだろうしな!」
    「そうだね……年末ですし、事前に予約しておいたよ? ……ここで、いいかな?」
     と、ナナイ・グレイス(孤独におびえる者・d11299)が一つの旅館を提案すると、それに。
    「おぉ、グッジョブだぜ! よーしそれじゃ早速だけど其処に行こうぜ!!」
     汐がナナイの頭をガサガサと撫でると共に、灼滅者達は予約していた旅館へと向かうのであった。

     そして旅館に到着すると共に、灼滅者達は二班に分かれて行動開始。
     男子班と女子班に分かれて……まずは温泉街に向かう男子班。
    「しかしこの湯気立つ街って良いよねぇ……硫黄の香りって言うのかな?」
    「そうだな……だが、この香りこそが……温泉街に来た感じにさせる……」
     結弦と零桜奈がそんな会話を交していると。
    「お! あれ美味しそうだな!! おーい、みんな行くぜ!!」
     だだだだ、とお土産物屋へと走って行く康也。
     売っているのは所謂普通の温泉まんじゅう……勿論蒸したて。
     ひょいっと一個、口の中に放り込むと、絶妙なバランスの味が拡がる。
    「うーん、美味い! ほら今そこで買ったコレ、うまいぞ! 皆喰うか?」
    「あ……はい」
     こくりと頷くナナイ……結弦、零桜奈も少々苦笑を浮かべながら一緒に温泉まんじゅうを食べて……そして冬の街角を散策する。
     一方女性陣は、同じ頃は温泉に入浴。
    「極楽極楽……お肌すべすべになるですね♪」
    「そうですねぇ……身体の奥まで暖まりますね」
     山桜桃に微笑むサンサーラ。
     ……ちなみにそんな灼滅者達の手元には、ビニール袋に入れただけのも含むけれど防水仕様にした携帯電話とカメラ。
    「んー……と、山桜桃、あそこだっけ?」
    「ええ。これまで別府で起こった一連の事件は、イフリートの出現場所もバラバラですし……エクスブレインの予知を阻害しているのがブレイズゲートだとすれば、入口は恐らくイフリートの出現地点なのでしょうか、と思うんですが……どうでしょうね?」
    「ふーん。まぁ了解。そんじゃ風呂上がって男連中が帰ってきたら、ちょっと近くまで行ってみようぜ? 写真とか撮れば、何か判るかもしれないしよ」
    「ええ、そうですね……♪ ではそれまでの間は、思う存分温泉を楽しむ事にしましょう♪」
    「うん。あ、湯上がりにはフルーツ牛乳を飲みましょう。これは定番だから外せないですしね」
    「フルーツ牛乳かぁ……うん、美味しそうですね♪ 一緒に飲みましょうです♪」
    「わーい、山桜桃さんありがとうっ、一緒に飲みましょうっ!」
     ……と、そんな事を言いながら、時は刻々と過ぎていくのであった。

    ●灼滅の獣
     そして灼滅者が別府温泉を訪れ半日程が経過。
     男性班と女性班が交代して、今度は女性班が街を散策し、男性班が露天風呂に入浴していた時。
    『プルルルル……』
     と、汐の携帯電話に着信が入る。
     電話に出ると、それは姫子。
    『イフリートが現われました!』
     場所を確認すると共に、サンサーラが。
    「イフリートが出現しました。こちらに向かってきてます!」
     と、直ぐ男性班の面々に連絡を取り、場所を伝える。
     そして……灼滅者達は急ぎ、イフリートの出没ポイントへと急行。
     灼熱に包まれた身体……ううぅ、と呻き声を上げながら、別府温泉街に向けて進んできている。
     その進路上に立ち塞がるようにして。
    「イフリートさん、どこへ行くですか? ここから先は進入禁止ですよ?」
     と山桜桃が宣告すると、イフリートは。
    『ウゥゥ……』
     と睨みを利かせる。
     その睨みに対し、結弦、汐、山桜桃三人がクラッシャーのポジションで最前線に立ち構えると。
    「まぁ被害が出る前に、いなくなって貰おう。厄を祓って新しい年を迎えるとしよう」
    「そうだな。そして早く倒して温泉プリンを食べるんだぜ!!」
     私欲が一部混じっている気がするが、それはさておき。
    「それでは、蔵王権現真言……オン、バキリュ、ソワカ!」
    「朽チ尽キテハソノ死ノ為ニ、対象ノ破戒ヲ是トスル」
     とスレイヤーカードの封印を解除する転寝、零桜奈……他の仲間らも同様にスレイヤーカードを解除し、戦闘態勢を取ると、初撃……イフリートがそのまま突っ込んでくる。
    「させるかっ!!」
     と康也がすぐさま最前線に構え、ディフェンダー能力で仲間を庇う。
     一撃自体がかなりの強力なダメージ……だが、耐える。
    「へっ、来いよ! どっちが熱いか、勝負しよーぜ!!」
     そして更に康也は、シールドバッシュで相手を挑発し、怒りを付与。
     イフリートの睨みの視線が、康也にギロリと向けられる。
    「……では、行くぞ……」
     と零桜奈は斬艦刀を抜き、蒼色の炎を灯しながらレーヴァテインで斬りかかる。
     炎に炎が合わさり、青白き炎……。
     しかしイフリートは、それに怯む事は無く突撃……その隙間を縫って、サンサーラが。
    「あはは、燃えて壊れるのっ」
    「……この靄に巻かれて下さい」
     サンサーラがバニシングフレア、ナナイがヴァンパイアミストを繰り出す一方、ダメージを受けたのに対しては。
    「クロ、康也くんを回復して」
    『ワゥ!』
     と転寝の指示を受けた霊犬のクロが、康也の元に近づき回復する。
     そして……残る前線の仲間らは。
    「よし、皆行くぜ!!」
    「うん!」
     汐がティアーズリッパーで攻撃を嗾けると、結弦がレーヴァテイン、山桜桃がフォースブレイクでそれぞれクラッシャー攻撃。
     倍加されたダメージが、確りとイフリートの体力を削る。
     ……とはいえイフリート、その体力はかなり高く、一回の連携攻撃を食らう位ではさほど効いている風でもない。
    『グゥゥゥ……』
    「……流石、と言うしかないな……しかし、こちらも負けん……」
    「そうだぜ。ちゃっちゃとぶっ飛ばすぜ!」
     零桜奈、康也のディフェンダーコンビはそう会話を交しつつ……次のターン。
     康也は再度シールドバッシュで、零桜奈はフェニックスドライブで以て敵を攻撃しつつ、その注目を引き付ける。
     そして攻撃を康也と零桜奈が一極集中しないように切り替えながら、クラッシャの結弦、汐、山桜桃が連携攻撃で大ダメージを叩き込む。
     又転寝は錫杖の音を立てながら轟雷、鬼神変、フォースブレイクを順繰りに切り替えながら着実にダメージを挙げていく。
     そしてサンサーラが、シールドバッシュとバニシングフレアでバッドステータスを重ねていく。
     勿論イフリートからは、単体ではあるが強力な攻撃力で以て反撃の猛攻が喰らわされるのだが、それらのダメージをナナイとクロが確りと回復する事で、決して重傷、死亡には陥らせない。
     ……そして、戦闘開始から数ターン経過。
     ジリジリとダメージを喰らい続けたイフリートは、身体の所々から出血し始めて。
    『グゥゥ……ルゥゥ……』
     何処か怯む様な動きも垣間見せ始める。
     そんなイフリートに、転寝は。
    「……元のきみは、どんな人だったんだろうね……それを知る術はもう無いけれど……破戒と殺戮なんて望んじゃいなかったって事は確かだよね」
     と声を掛ける。
     ……とはいえ、イフリートがそれに答える事は無い。
     それに悲しげな視線を向けて。
    「……今、きみを解放するよ。せめて、灼滅をもって、ね」
     静かに、強い口調でイフリートへと告げる転寝。そしてその錫杖を再度シャンと鳴らす。
     そして。
    「よっし……皆、後もう一息だ。気を抜かずに一気に行くぜ!!」
     と康也が皆に向けて威勢良く叫ぶ……そして。
    「イフリートさん、今すぐお家に帰りなさい!!」
     と山桜桃が渾身のオーラキャノンを叩き込んだその瞬間……イフリートはがくり、と膝を落す。
    「今です!!」
    「おう! 了解だぜ!!」
    「……ここで、全てを終わらせるよ」
     汐、結弦が攻撃を叩き込み、そして。
    「今きみを解放するよ。せめて、灼滅もって、ね……」
     と転寝の神薙刃がイフリートを貫くと、イフリートは。
    『ウガァアアアア……!!』
     と断末魔の悲鳴を上げながら消えうせるのであった。

    ●次なる年を
    「ふぅ、終わったか。皆、お疲れだぜ!」
     イフリートの姿が消えるのを確認すると共に、汐が皆にそう声を掛ける。
     その言葉に、康也もニカッと笑みを浮かべながら。
    「おう、お疲れ様だぜ!」
     と。
     無事にイフリートを倒した事に対する安堵。
     そして転寝が静かに手を合わせ、倒したイフリートに。
    「どうか安らぎの時を……清浄なる風が、きっと魂を救ってくれるから……」
     そう、風に冥福の祈りを捧げる。
     と……その時、遠くから聞こえ始める鐘の音。
    「……あ、年明け……みたいですね」
    「……うん、そうみたい……あけまして、おめでとうございます」
     山桜桃の言葉を受けて、ぺこりと頭を下げるサンサーラ。
     そして他の仲間らも、改めて新年の挨拶をしつつ。
    「まぁ年明ける瞬間に討伐出来て良かったというか、だね……でも、ちょっと眠くなってきたし、一旦旅館に戻って寝ようか。起きたらまた、色々したい事も在るし」
    「そうだな。だって俺、まだ人気だって言う温泉プリンを食べてないし、せっかく遠くの別府まで来たんだから、それは食べていかなきゃだよな!」
    「温泉プリンですか……いいですね~……あ、うん、お土産も買っていかないといけませんし……」
    「……後、山桜桃の言う鶴見岳の調査もある……エクスブレインに渡せば、何か判るかもしれないしな……」
    「ええ……!」
     ナナイ、零桜奈、そして山桜桃の言葉。
     そして康也が。
    「まーともかく今日は皆お疲れ、しっかり鋭気を養って、明日……いや、もう今日だけど、今日に備えるとしようぜ!!」
     その声に皆も頷き、灼滅者達はイフリートの消えたその場を後にして、日常の別府温泉へと戻るのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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