うどん食べろ!

    作者:柿茸

    ●香川県高松市
    「あー、腹減ったなー」
    「じゃあラーメン屋行こうぜ。すぐそこに行きつけのラーメン屋、あるんだ」
     電車から降りてきた少年2人。それぞれの腹の虫が不満の声を上げている。
     と、ラーメン、という言葉を聞いて、物陰からぴくりと反応した何者かが1人。
    「お前本当にラーメン好きだよな。栄養偏るぞー?」
    「はっはっは。俺はラーメンさえ食べられれば栄養補給できるのだ!」
     身体はラーメンでできているからな! じゃあ血管に流れるのはラーメンスープか?
     などと笑いながら改札を抜けた2人の背後に、音もなく忍び寄る―――
    「おい」
    「「ん?」」
     ―――うどん?
    「もしも、もしもだ。一億円あったなら、何を食べたい?」
     いきなりの、やたらと威圧感のある雰囲気と共に、うどんが尋ねてくる。
     正確には、うどんの束が人の胴体を形作っていて、頭に相当する部分には何故かおでんに入れられるような丸く切った大根。そして帽子代わりなのだろうか、その上にこれまたおでんの具を思わせる三角のこんにゃくが乗っていた。
     ……誰だよ、というか生き物かよ。
     かなりドン引きながら、それでも先ほどラーメンと言っていた少年が無謀にも口を開く。
    「そ、そりゃーラーメンをたらふく食いた―――」
    「うどん食べろ!」
     コシのある右腕の一撃!
     冗談かのように、殴られた少年がきりもみ回転しながら吹っ飛んでいく。地面に身体の正面から突っ込み、ヘッドスライディングのように芝生まで滑っていく。
     そして植え込みに頭を突っ込んで停止した。痙攣している。
     それを呆然と見ていた少年に、うどんが振り向いた。
    「……さ、君。もしも一億円あったなら?」
    「う、うどんが食べたいです……」
     恐怖に震えた声ではあるものの、うどんはそれで満足したようだった。
     
    ●教室
    「一億円あってうどんが食べたいだなんて夢がないよね?」
     何の話だ。
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)はそんなツッコミをスルーして説明を開始する。
    「うん、それじゃ集まってくれてありがとう!集まってもらった理由についてはもう分かっているとは思うけど。今回はご当地怪人を灼滅して欲しいんだ」
     今回、偶然にも察知できたご当地怪人の事件は香川県、高松市にて起きている。香川県といえば。
    「そう、うどんのご当地怪人が現れたの。えっとね、姿はねー」
     黒板に姿を描き始めるまりん。まるで子供の落書きのような棒人間が描かれ、頭に三角形の被り物が追加される。
    「え、何その顔。いや本当にこんな感じの姿なんだってば!」
     振り返ったまりんはそう言いながらも胴体部分に『うどん』、顔の丸い部分に『大根』、そして三角形に『こんにゃく』と書いていく。それは重要なのか。
    「え、ええと、いい?説明続けるよ?」
     微妙な空気を感じ取りながらも、咳払いを一つ、まりんは説明を続ける。そう、これはダークネス事件なのだ。見た目はふざけていても、1人で灼滅者10人分ぐらいの戦力がある立派なダークネスなのだ。心してかからねばならない。
    「高松市の電車から降りながら食べ物の話をすると、この怪人は勝手にでてくるよ」
     そこで、一億円あったら何が食べたい? という問いにうどん、もしくはおでん以外の答えを返すとコシのある一撃をもらうらしい。
    「特にラーメンとかソバとかパスタとか、麺類の答えを返すと威力が倍増するって」
     割とどうでもいい。
    「まぁそれを利用して、食べ物の話をしながら電車を降りて改札を出て、やってきたところを皆で叩けばいいんじゃないかなぁ。それが簡単だし一番確実だと思うよ」
     このご当地怪人、一度ターゲットにしたグループをボコさない限り新たなターゲットを定めることはない。つまり一度戦闘にもちこんでしまえば、たとえ周りで一般人がラーメン食べたいとか言っていても巻き込まれる心配はない。
     もっとも、バベルの鎖の効果でよほどのことがない限り一般人は近づくことはないのだが。
     何か怪しい集団がいる、関わらないほうがいいかな。とか、特撮の撮影? とか、何だろう、止めちゃいけない気がする、とか。そんな理由で。
    「このご当地怪人、うどんの身体を使ってのコシのある一撃で殴りつけてきたり、大根からかなり熱い出汁を撒き散らしてきたり、こんにゃくをドリルに見立てて突っ込んできたりするよ」
     ……それは、なんというか、なんだろう。
     コシのある一撃はブレイク効果があり、撒き散らされる出汁を浴びると滑って攻撃を当て辛くなってしまう。
     また、こんにゃくドリルは威力が高く、この技でKOされると凌駕しにくい。
    「コシのある一撃は、身体がうどんだからなのかな、腕が伸びて遠くまで届くから注意してね。出汁を撒き散らされたら広範囲に、これも遠くまで届いちゃう。流石にこんにゃくは伸びないし、自分から突っ込む形になるから近距離の相手にだけ使うって」
     説明を聞いて頷きつつ、相変わらず微妙な空気が流れる灼滅者達に対してまりんはさらに咳払いを一つ。そして再度向き直る。
    「いい?その、見た目は確かにふざけてるけど、相手はご当地怪人、ダークネスだよ。油断しないでね?」
     そう、相手は1人で灼滅者10人分ぐらいの戦力がある立派なダークネスなのだ。
     心してかからねばならない。
     心して、かかれたら、いいなぁ。


    参加者
    原・晶(大学生ファイアブラッド・d00079)
    藤堂・優奈(緋奏・d02148)
    冬月・椿(凛と咲き誇る・d05040)
    真継・旋(板金戦士センバーン・d06317)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    千葉魂・ジョー(ジャスティスハート・d08510)
    久瀬・一姫(白のリンドヴルム・d10155)
    茂扶川・達郎(新米兵士・d10997)

    ■リプレイ

    ●やってきましたうどん県!
     電車が終点に到着する。香川の地に一歩足を踏み入れると同時に文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)が章タイトルを宣言する。
    「いやぁ、うどんのご当地パワーを感じるなぁ♪」
    「うどんパワー?ご当地ヒーローはそんなものまで感じ取れるのか?」
     続けて原・晶(大学生ファイアブラッド・d00079)が電車から降りて直哉の隣に並んだ。
    「まぁうどんは香川の名産だからな。香川のガイアパワーはうどん分も多いさ。もちろん、何もガイアパワーの源は食べ物ばかりじゃない。例えば名所とか、な。どうせなら高松城とか行ってみないか?ここから目と鼻の先っぽいぜ?」
     千葉魂・ジョー(ジャスティスハート・d08510)が地図を見ながら解説をする。チバジョーとしては他県のご当地。つまり高松城を見てリスペクトしておきたいところなのだ。
    「おお、ジョー先輩、そういうところまで考えているなんて流石だぜ!」
     と言うのは真継・旋(板金戦士センバーン・d06317)。作戦通り、直哉と晶から僅かに離れた位置にてジョーと旋、そして続々と降りてくる灼滅者達が続く。
     辺りを警戒しながら、チラリと旋が目配せした先には茂扶川・達郎(新米兵士・d10997)の姿。目配せを受け頷きつつ、達郎は内心考える。
    (「何かを愛する事は良い事だと思うでありますが、人に押し付け、なおかつ暴力を振るうのは看過できないでありますな! 力による抑えつけはより大きな力で倒されるだけであります)」
     そう、それを自分たち灼滅者が成すのだ。
     静かに決意に燃える老け顔の高校生のさらに3m程後方、藤堂・優奈(緋奏・d02148)、冬月・椿(凛と咲き誇る・d05040)、久瀬・一姫(白のリンドヴルム・d10155)が並んで歩いていた。
    「寒い空気に冷やされた身体に、温かいお茶が染み渡るわね……」
     買ってきていたお茶をしまいながら、椿がリラックスした様子で呟く。
    「確かに寒いの」
     一姫も寒さには同意した。
    「けど、多分怪人とあったら色んな意味で熱くなると思うの。ノリが某元スポーツ選手並なの」
     だが、脳内ではテレビに出てくる熱さを売りにした元スポーツ選手の映像が再生されている。
     ま、まぁまぁ、何もそこまで言わなくてもいいんじゃないかしら?と宥めつつ、でも、と前を見る眼光には強固な意志。
    「私もうどんは大好きだけれど、他人に自分の好みを押し付けるなんて身勝手な話だし、それに汁は飛ばすものじゃないわ。飲む物よ! 許せない。成敗してあげる!」
    「ん、そうだな」
     イヤホンを片耳にさして歩いていた優奈が、その宣言に相槌を打った。半分心ここにあらず、という感じで適当に相槌を打つ彼女の心を占めるはある一つのこと。
    (「あたしはうどんもおでんも大好きなんだけど……。アレも斬ったら食えるかな? かな? 美味いかな? かな?」)
     食う気満々だったこの子。

    ●アイツは美味いのか、不味いのか
     ひたすらそんなことばかり考えている優奈の前方。高らかに上がる声。
    「でも! ここは敢えて、少数派ラーメンに挑戦するのが俺のジャスティス」
     目までキラリンと光らせて直哉が宣言する。さらに直哉のラーメン談義は止まらない。
    「九州人としては断然豚骨派」
    「ふむ」
    「堅めの細麺が良く合うんだこれが。チャーシューはとろけるバラ肉が好みだな」
    「そうなのか」
    「お勧めのトッピングは辛子高菜だがメンマも好きだ。焦がしネギの香ばしさも捨て難いぞ」
    「ほぉ。ちなみに私はしょうゆラーメンにごはんが正義だと思う」
     煮卵美味しい、と晶が相槌を打ち、辺りを軽く見渡す。
    (「食べ物の好みが、というより、一億円という前提でうどんを選ぶのは至難の業だな。これは質問が悪い。……そういう話じゃないか。止めないとな」)
     そう思う旋も、皆も辺りは警戒していた。
    「さぁ、うどん県のラーメンや如何に!」
     直後。
     うどん怪人が一行の視界に建物の影からスライドイン。改札の向こう側、駅の入り口で変な近寄りがたい圧力を出しながら仁王立ちしている。どう見ても待ち構えてます本当にありがとうございます。
    「……うどんがちくわだったらコンビニのおでんにありそうなの」
     一姫が呟いたことに全員が同意した。
    「出たな、うでん!いや……おどん、か……?」
     そして優奈は涎を飲み込んでいた。ちなみにうでん、おどんというのはうどんとおでんが合体事故したものらしい。電車の効果音ではない。
    「おい」
    「ん?なんだ?」
     改札を出るや否やかけられる声。直哉が応じ、晶が見上げる。意外とでかい。
     残りの6人が少し離れたところで立ち止まる。
    「もしも、もしもだ。一億円あったなら、何を食べたい?」
     テンプレ通りの質問。でもなんか怒気がやばいんですが。
    「何を食べたいか?愚問だな」
     だがそれを涼しい顔で受け流して、さらにニヤリと笑って。
     一瞬のタメの後、クワッと効果音付きで表情を変えながら直哉は言い放つ。
    「全国ご当地ラーメン食べ歩き、コレしかないだろ!!」
    「うどん食べろ!」
     空気の壁をうどんが捉え、突き破る!渾身の、コシのある一撃!
     その一撃は直哉の防御ごと身体にめり込み、盛大に駅前広場まで吹き飛ばした。直哉の身体が地面に盛大に落ちる。
     一姫の脳内で元スポーツ選手が米の苗を持っている映像が流れた。
    「クロネコレッドーー!」
    「死なないで!」
     ジョーと椿が叫びながら直哉に防護符とヒーリングライトを飛ばす。ちなみにクロネコレッドとは直哉のヒーロー名である。
    「死んでねえし!」
     あ、直哉、飛び起きた。全員の視線がそっちに集まる中、視線の反対側から声が響く。
    「業務了解、着工開始!」
     声がした方向に振り向いたうどん怪人の目の前に、板金戦士センバーンへと変身した旋がスライドインしてくる。
    「悪いがこちとら工場町育ちでな! うどんとおでんよりは断然、ラーメンと揚げ物―――」
    「うどん食べろ!!」
     コシのある一撃2回目!宙を舞うセンバーン、もとい旋。
    「センバーァァァン!」
    「この人でなしのおどんめ!」
     今度は晶と優奈が叫んだ。ヴァンパイアミストと集気法が旋を包む。
    「もういいから!っていうかそいつ人じゃねえし!」
     そして同じく飛び起きた旋がツッコむ。
     そこへ清めの風が吹いた。相変わらずの通り魔的犯行なの。という言葉と共に。

    ●いきなり殴ってくるとは、なんと暴力的な!
    「一生うどんの食べられない身体にしてやるので覚悟するであります!」
     達郎は憤慨していた。それこそどこからかパパパとかパウワーとかいう音が聞こえてもおかしくないぐらい見事に宣戦布告していた。隠れて見えないはずの目がカッと見開かれたのは予言者の瞳を使用したからではない。
    「うでん! お望み通り、あたしがぶった切って食ってやるぜ!」
     優奈が中段の構えから摺り足で近づき、縦一線に重い斬撃が繰り出される。その後ろではいつの間にかそこにいたふわふわのウェーブの髪をした甘ロリが霊障波を放っていた。
    「私が食われることは望んでおらん! そして誰だお前は!」
     大根に縦一線、切れ目を作りつつうどん怪人が甘ロリにうどんを突きつける。出汁がより染みそうとか思いながら、優奈が甘ロリを後ろに庇った。甘ロリ、もとい優奈のビハインドの零も大人しくその後ろに隠れる。
    「やるな、コシのある良いパンチだ」
     体勢を整え、口を拭いながら直哉が言う。
    「だがそれだけじゃ俺達の熱いハート(主に食欲)は満たせないぜ?」
     でもこれシャウトです。回復2回もらってさらにシャウトで回復です。ディフェンダーじゃなかったら凌駕判定してました。
     あれほど麺類の答えは止めろと! でもそんなノリ精神大好き!
    「蕎麦よりはうどんだが……。肉うどん、月見うどんを良く食べる。キス天ぷらは正義」
     晶が拳にオーラを収束させて距離を詰める。うどんという言葉にうどん怪人が反応して振り向いた。
    「残念。うどんよりはラーメンだ。先手エフェクト必勝!」
     あ、でも年越しはきちんと蕎麦食べました。
     裏切りの言葉と共にうどんに拳の連打を打つべし! 打つべし! 打つべし! うどんのコシはよく叩くことにあり!(ただし茹でる前に限る)
     一方こちら、旋。先ほどの回復でなんとかシャウトを使わないぎりぎりのHPになったのでご当地ビームを遠慮なく放つ。活きのいい養殖ウナギがビームの中に現れ、うどん怪人に向かって泳いでいく。
    「うなぎビーム! ハハハ、うなぎはうどんに入れられまい!」
     拳の連打とビームの直撃を受け、よろめいたうどん怪人がその挑発に、ブチン、と弾力のあるものが勢い良く切れる音をして旋を見た。一姫が清めの風でさらに前衛陣の体力を回復させながら思わずこんにゃくやうどんを凝視するが、どこも千切れてはいない。
    「うなぎうどんは……」
     ゆらりとうどん怪人の身体が動いた。瞬間、飛び上がるうどん。
    「存在するぞおおおおお!!」
     天空から頭を、こんにゃくを下に向けて怒り(バッドステータス)と共に回転突撃する!
    「嘘ぉ!?」
     間一髪避ける旋。寸前までいた石畳の地面にこんにゃくが突き刺さる、ことはなく、こんにゃくで跳ねてヘッドスライディング。途中、達郎のティアーズリッパーにうどんを……え、いやそれ服なの? とりあえず斬り付けられつつも滑っていく。
     雰囲気がウザくて仕方ないわ、という一姫の言葉の口調は戦闘中だから。
     足下でにこんにゃくと大根が止まったところで、椿がハッと我に返った。
    「なんで、頭は大根でこんにゃくなのよ!」
     直哉を回復させながら素早く距離をとる。
    「そうだぜ! うどんかおでんか、どっちかにしろ!」
     旋に符を飛ばしながらの追撃のジョーのツッコミ。
     同時に2人に、周りからの香川県民の視線が突き刺さった。視線の意味を悟ったジョーが思わず緊張から唾を飲み込む。
    「うどんとおでんを一緒に食べるのか? ……すげえな、香川」
    「うどんとおでんが合うのは認めよう。だが……おでんの具と言えばトマトだろう!」
     そして直哉の意見に、何言ってんだこいつ、と言いたげな視線も大量に向けられた。
     そんな中、うどん怪人は立ち上がる。出汁が先ほど切りつけられた傷から染み零れる。
    「うどんだしのおでんは……」
     力を込めるうどん怪人。零れる出汁の量が増える。いや、これは。
    「うーまーいーぞー!!」
     熱々の出汁が噴きあがり、辺りに降り注いだ。晶が辛うじて回避し、トマトおでんを無言で否定され打ちひしがれていた直哉が盛大に浴び、熱さに転げまわる。隣では旋が同じく全身に浴びて地面に倒れ、痙攣したかと思ったら倒れる直前より元気な状態で起き上がった。
    「凌駕したぜ!」
     そして残りの前衛の優奈は。
    「スキありィ!」
     出汁を身体に浴びつつ、うどん怪人に飛び掛っていた。瞬間的な抜刀術で切り抜けつつ、口には大根の切れ端。
    「……ちょっと出汁がたりないんじゃないか?」
    「食べたのでありますか!?」
    「今しがたの攻撃でだしつくしたからな!」
    「そういうものなのでありますか!?」
     ツッコミに回った達郎の顔が引き締められる。先程、暴力的行為に怒りに満ちたが、そこに今度は別の怒りが継ぎ足される。
    「いいでありますか? 美味しく頂くため、他の物も必要であります。どれだけ良いものであっても押し付けられれば反感を得るだけであります!」
     達郎の影が伸びる。うどんに絡みつき、瞬く間に縛り上げた。
    「うどんとおでんが一緒なのはなんのためでありますか? 両方美味しく頂くためでありますね? 違うと言ったらラーメンを口に詰めるであります」
     今は傷に影を詰めている。そもそもこいつの口はどこだ。
    「そもそも食べ物で攻撃など不謹慎! 反省!」
     地面に叩きつけられるうどん怪人。ご当地ヒーロー3人が飛ぶ
    「菜ノ花ビームッ!」
     ジョーの菜ノ花色のご当地ビームが直撃。
    「足袋刺しキィック!」
     旋のご当地キックが炸裂する。ちなみに足袋刺しというのは足袋職人のことである。
    「行くぞ、小倉焼うどんダイナミック!」
     そして直哉がうどんを掴んだ。
    「コシだけがうどんじゃない、真の魅力はその変幻自在な素材力―――」
     持ち上げ、振り下ろそうとして滑った手からうどん怪人がすっぽ抜けて飛んでいく。
     ダメージがないまま地面に投げ出され、自分で撒き散らした出汁の上を滑っていくうどん怪人。
     こんにゃくが誰かの足に当たり、軽く跳ね返って止まる。うつ伏せだったのかエビ反りをするように持ち上げられた顔に落ちる影。
    「焼きうどんになれ」
     晶のレーヴァテインが叩き付けられ、大爆発が起きた。
    (この怪人のとどめ刺された時の演出でありレーヴァテインとは無関係です)

    ●きっと第二、第三のうどん怪人が現れたら秋田と群馬なの
    「うどん県ほど認知度はないけど」
     そう呟く一姫の視線の先、すき焼きの後にいれたうどん以上に酷いことになったうどん怪人が、黒焦げになって倒れていた。
     その隣ではジョーが真剣な顔をして悩んでいる。
    (「香川県には確かうどんの神様がいるんだったか? その名もうどん様っていう……」)
     うどん屋が出鱈目言ってただけかも知れないが。とりあえずジョーはうどん怪人に指を突きつけた。
    「とりあえず……怪人!お前はうどん様にごめんなさいしとけよ!」
    「何だそのうどん様って」
    「ごふぅ……うどん様、申し訳ございません。私はここまでです」
    「いるのか!?」
     晶のツッコミの対象がジョーからうどん怪人にシフト。
    「だが私を倒しても第二第三のうどん怪人が……」
    「さぁて、ラーメン食うか!」
     直哉、スルー。聞けよ! という最後の言葉もオールスルー。と思いきや。
    「もちろん、うどんもな!」
     親指を立ててうどん怪人に言ったその台詞に、一瞬呆気に取られるものの、満足した笑みを浮かべて消えたうどん怪人であった。
     表情分かるの? とか言っちゃ駄目。
    「そうですね、折角香川まで来たんだから、うどんを食べたいですね」
    「おでんもな!あー、動いたら超腹減った……」
     椿が、そして優奈が同意する。優奈は、そして後ろに隠れるように自分にしがみついている零の頭をお疲れさん、と撫でた。
     照れながら喜び、そして恥ずかしそうに消える零。
    「んー……。ラーメンに揚げ物は唐揚げとか色々あるが、うどんに揚げ物か……」
     歩き出した一同。後ろで旋がうどんに合う揚げ物について悩んでいる。
    「てんぷらうどんは駄目なのでありますか?」
    「てんぷらかぁ。なるほどな。……あ、よく考えたらコロッケうどんもあったな」
     達郎の言葉に頷き、そして自分で思いつき、手をぽんと打って納得する旋。その前ではジョーが手を合わせて何かに拝んでいた。
    「ツルツルシコシコ」
    「ジョー先輩、それ、なんだ?」
    「うどん様へのお祈り」
     ……。
     とりあえず、全員で手を合わせておいた。
     ツルツル、シコシコ。

    作者:柿茸 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 11
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