楔を喰らう炎獣~焔のTrinita!

    作者:志稲愛海

    ●大分県別府市・鶴見岳
     何体ものイフリート達が、続々と鶴見岳に集結している。
     イフリート達の体毛によって、燃えるように煌々と輝く鶴見岳。

     頂上には、一体のイフリートが存在した。
     他のイフリートを圧するほどに大きく、威厳に溢れたその姿。
     イフリートの首魁は、配下の前でゆっくりと力を練り、人間の姿へと変貌する……。

     ……人の形へと転じたイフリートの首魁。
     少女のようなその姿は、居並ぶ配下の幻獣達に向かい、唸り声の如き少女の声で命じる。

    「ガイオウガノメザメハチカイ。ケダカキゲンジュウシュヨ、コノクニノクサビヲクライクダキチカラタクワエタノチ、ソノチトニクヲ、ガイオウガニササゲヨ! サスレバ、ガイオウガハゼンナルイチノゲンジュウトナリテ、ナンジラトトモニクンリンスルデアロウ !」
     

    「椎茸まじムリ、絶対ムリだから……ッ!」
     新年早々何かいきなり涙目な飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)の様子に。集まった能力者の一人・綺月・紗矢(小学生シャドウハンター・dn0017)は首を傾げる。
    「椎茸? 遥河は椎茸が苦手なのか。私は今朝雑煮を10杯ほどおかわりしたから、椎茸も20個くらいは食べただろうか」
    「てか育ち盛りとはいえ、新年早々荒ぶってる紗矢っちの食欲……!」
    「まぁ、腹八分目というしな」
    「え、八分目……だと?」
     それにしても何で椎茸の話になっているんだ、と。
     やっと本題に移れそうな振りをした紗矢に、遥河はまだ涙目ながらも、今回皆に集まって貰った理由を語りだす。

    「小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)からみんなも話を聞いてるかも知れないけど、別府温泉のイフリート事件で新たな動きがあったみたいなんだよ」
     灼滅者の皆がこれまで別府温泉に赴きイフリートを灼滅してくれたおかげで、強力な敵の復活は防げることができたようであるが。
     敵は、さらに新たなる一手を打ってきたらしい。
    「というのもね、別府温泉の鶴見岳に出現した多数のイフリートが日本全国に散って、各地の眷属や都市伝説にその牙に掛けようとしているみたい。その目的は、おそらく、鶴見岳に封じられた強大な存在を呼び起こす事らしくて。しかもそのイフリート達は、これまでに現れたイフリートに比べて強力で、危険な存在なんだ。でもこのまま放置すれば更に危険な状況を招いてしまうだろうから……このイフリートの灼滅を、皆にお願いできないかなって」
    「鶴見岳に強大な存在が?」
     九州に祖母がいる紗矢は、表情を引き締めそう聞き返して。
     らしいよーとこくり頷いた遥河は、今回皆にあたってもらう案件の詳細を説明する。
    「まずね、イフリートの出現場所だけど。鶴見岳に程近い、城島高原だよ。高原にある遊園地の駐車場付近で、イフリートは接触したご当地怪人を倒そうとするんだけど……そのさ、ご当地怪人がね……」
    「その、ご当地怪人が?」
    「シイタケ戦隊サルジュピターとかいう怪人なんだよぉぉうっ」
     だから椎茸はムリなんだってばぁぁっ! とさらに涙目になる遥河に。
    「……シイタケ戦隊サルジュピター?」
     大きな瞳をぱちくりとさせて小首を傾げる紗矢。
     大分の名産品のひとつである椎茸をこよなく愛し、お山のボスザルの如く5体程度のサルの配下を連れ、高原にある遊園地にちなんだ名を名乗りつつ戦隊を語っては荒ぶっている冴えないご当地怪人らしいが。
     どうやらイフリートはそんな怪人をさくっと倒して糧とし、強大な存在を呼び起こそうとしているという。
    「今回のイフリート討伐は、ご当地怪人を襲撃する事件に横槍をいれてこのイフリートを撃破して貰うカタチになるよー。それ以外のタイミングで動くとさ、バベルの鎖で察知されちゃうからね。元凶の鶴見岳と何気に近い戦場だけど、とりあえずこのタイミングで此処に現われるイフリートは1体だけみたい」
     予測された以外のタイミングで動けば、襲撃自体が発生しない事になるかもしれない。
    「このイフリートはね、当然ながらファイアブラッドのみんなと同じイフリートのサイキックと基本戦闘術も使ってくるよ。それでもって、戦隊ものの幹部の側近ーって感じの獣っぽく、もふもふな巨体で大きな無敵斬艦刀をぶん回してくる、かなりの強敵だよ」
    「祖母の家が九州にあるため、よく城島高原や高崎山には連れて行って貰ったけれど……そんな思い出のある地で、強大な存在を呼び起こさせるわけにはいかないな」
    「椎茸はムリだけど、大分は関アジとか関サバとかカレイとか魚美味しいし、唐揚げはオレも大好きだからさー。椎茸はさくっと燃えて貰うとして、強敵だけどイフリートの討伐をお願いするね」
     遥河はそう灼滅者の皆をぐるりと見回した後。
    「イフリートはもふもふだけど、今回は気を引き締めて戦わないと、ただでは済まないだろうくらい強い相手だから。でも皆ならなんとかしてくれてるって、オレ信じてるね」
     お土産は椎茸以外ならウェルカムだよーと、へらりと笑んでみせつつも。
     皆の無事を祈る様に、遥河はそのモーヴの瞳を細めて灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    山科・深尋(落日の虚像・d00033)
    遥・かなた(こっそりのんびりまったりと・d00482)
    ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)
    月宮・白兎(月兎・d02081)
    逆霧・夜兎(深闇・d02876)
    日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)
    空井・玉(野良猫・d03686)
    荒野・鉱(中学生ダンピール・d07630)

    ■リプレイ

    ●紅蓮の空
     一瞬にして冬空を染め変えたのは、業火。
     城島高原に現われたイフリートが堂々と従えるのは、燃え盛る紅蓮の炎であった。
    『なにぃ!? あちっ、あちち……!』
     愛する椎茸を無理やりにでも人々に食べさせるべくやって来たご当地怪人や配下のサルたちは、あっという間に取り囲まれた炎に、情けない声を上げて一瞬慄くが。戦闘態勢に入ると、必殺・しらしんけんキックを繰り出し、イフリートへと飛びかかっていく。
     そして――眩い程の紅蓮が一層、周囲の景色を支配した。
     そんな派手な交戦を戦場外から慎重に確認しながらも。
     駐車場の一般人を誘導するのは、山科・深尋(落日の虚像・d00033)や荒野・鉱(中学生ダンピール・d07630)。
     敢えてESPやサイキックは使わず、一緒に逃げる振りをし、目立たぬ様に人々を安全圏へと導いていく。
     その理由は、バベルの鎖の感知能力。
     エクスブレインが予測し導き出したタイミングは、この争いが終了した直後。
     イフリートが勝利した、その瞬間であるから。
    「本当に情けないなぁ」
     一般人に紛れ車の物陰に潜みながらそう呟くのは、日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)。
     イフリートもご当地怪人も、どちらも一気に灼滅できる力が自分にあったらと……そう、己の非力さを嘆くも。
    (「せめて自分のできることを精一杯やって、被害を最小限に食い止めなくちゃ」)
     この後の為に、イフリートの戦い方をしっかり観察すべく見据えて。
     空井・玉(野良猫・d03686)も万が一に備え撤退経路などを確認しつつも、タイミングを逃さぬ様にと注意を怠らず戦況を見守っている。
    (「正直ヴァンパイア以外と戦うのは初めてだから、いつもと勝手は違うけど、ダークネスの企みは防がないとね」)
     宿敵外のダークネスとの初の戦いとなるミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)は、銀のツインテールをひらり靡かせながら、周囲の人々に慌てぬよう促して。
     その間にも、勢いを増し逆巻く炎。
     イフリートの暗躍、止めなければ大災害になるかも、と。
     遥・かなた(こっそりのんびりまったりと・d00482)は、燃え盛る紅の恐怖から人々を上手く遠ざけながらも。
    (「一つ止めただけではたいしたことはないかもしれませんが、塵も積もればと言いますし、ここはしっかり倒しましょう」)
     確実にこの1体を灼滅すべく、仕掛けるタイミングを窺っている。
    「危険だ、逃げろ」
     逆霧・夜兎(深闇・d02876)も傍の一般人にすかさず声を掛けた後。
     次第に焼き椎茸になっていくご当地怪人をチラ見する。 
    (「オレ椎茸大嫌いだ……」)
     いえ、彼だけではありません。
    (「正直、私もしいたけ嫌いなんですよね……話聞いてたときからなんだか寒気が……」)
     夜兎や遥河と同じく椎茸が嫌いだという月宮・白兎(月兎・d02081)は、出来るだけシイタケ怪人を見ない様にしつつ。申し訳ないけどイフリートさん頑張ってと、そっと今だけ思わず応援するも。
    (「あ、でも怪人さんも少しだけでもイフリートさんの体力削って欲しいな」)
     自分達との戦闘開始時に、少しでも炎獣の体力が消耗されていればと、改めて戦況を見つめた。
     ――だが。
    「!」
    『ぎゃあっ! 焼きシイタケになるうぅぅ!!』
     こんがり焼き椎茸どころか、焦げる勢いで炎に巻かれるシイタケ怪人。
     いつの間にか配下のサルは、もう1匹も戦場にいない。
    「しかし、また面倒な所でバトルしてくれたなぁ」
     漂う焼き椎茸の香ばしい匂いに思わず顔を顰める夜兎に、綺月・紗矢(小学生シャドウハンター・dn0017)も頷いてから。
     此処はアタシ達に任せて頂戴、と、そう申し出てくれたクロエ達に、後の一般人の保護をお願いする。
     此処は高原にある遊園地の駐車場で、人の出入りが激しい時間帯であったが。
     イフリートの灼滅に向かった9人がダークネスに集中してもまだ十分、一般人の誘導や保護の人手に事欠いてはいなかった。
     状況を知らず駐車場に入ろうとする車には、舗装のため工事中で今は使えないと、遊園地のマスコットになりきった矜人がそう告げて。オバケ! と喜ぶ子供にツッコミつつ、駐車場を封鎖すべく動いて。空も、ちょっと騒動が起こっていて危ない、と周囲の人に説明を。さらにプラチナチケットを使い駐車場管理者を語る冬舞が、落ち着くよう促しつつ人々を順に避難誘導させていた。
     それに、何かのショーかと寄ってきた客にも抜かりなく。
    「野生の猪が! 早く逃げろ!」
    「ここは危険なんだ、逃げてくれ」
     千早が使ったパニックテレパスで混乱した人々は、ゆっくり言い聞かせる来栖や鞴の言葉に、素直に従って。パニックで駐車場へ向かいそうな人も、昴が急いで反対方向へと促す。
     紗矢と一緒に人払いをしていた黒々も、引き続き逃げ遅れた人々の保護や手助けをし、花幸も手を貸して。由乃は身を呈し人々の盾となる位置を取り、友衛や昌利が転んだり動けなくなった人達を抱え運ぶ中で。小さな子たちを不安がらせぬようにと、已鶴は優しい笑顔で接し、手を取って誘導する。
     そんな灼滅者の皆の尽力で、大きな怪我人も出ずに。
     一般人の姿が、駐車場からほぼなくなった――その時。
    「っ、はやく早く逃げて。私は大丈夫だから」
     降りかかる炎から、逃げ遅れた最後の一般人を庇ったのは、沙希であった。
     もう他の人が傷つくのは見たくない、かつてのように暴れる獣にはなりたくないと……そんな一心で。
     そして。
    『ぐはあっ!! だがきっと、第二第三のシイタケ戦隊が……ぐふうっ!!』
     業火に焼かれ、黒焦げになって倒れる、シイタケ怪人。
     そんなお決まりな断末魔に。
    「……第二第三のシイタケ……」
     椎茸が苦手な面々は、思わずその最期の台詞に一瞬遠い目をするも。
    「椎茸に魚にから揚げに……美味しいものがたくさんあって、いい所っすね。大分を守るために頑張るっす」
     普通の食事というものに特別な思いを抱く鉱の言葉に、皆で頷いて。
    「暴力は好きではないのですが」
     怪人を倒した後、すぐに逃げられぬ様にと。
     イフリートの前に、かなたは素早く仲間と立ち塞がってから。
     Get ready――そう口にした刹那、大人しく地味な印象であった少女の瞳に、苛烈で不屈な闘志の色が宿って。
    「ちなみにボクは椎茸は割りと好き」
     ゴスロリドレスを身に纏い、己の身の丈よりも大きなチェーンソー剣を軽々と振り回し、構えるミルドレッド。
    「これ以上好きにはさせないわ。はらいためきよめたまえ!」
    「ほな、いこか……」
     炎に包まれながら戦闘態勢に入る沙希に、ゴーグルを装着した白兎も紡いだ言の葉と共に力を解放して。
     右手の中指でくいっとメガネのズレを直した後、紅に燃える冬空へとカードを掲げる深尋。
    「さぁ、次はオレ達の相手をしてもらおうか」
     夜兎と玉も、それぞれ相棒のユキやクオリアと共に、いざ戦場へと飛び出す。
     シイタケ怪人達をあっさりと一蹴したイフリートは、気を引き締めて戦っても、ただでは済まない相手かもしれない。
    (「正直なところ、怖いのだと思う」)
     玉は、表情を上手く前髪で隠せてると良いな、と。そう現実逃避気味に考えたりもしたが。
    「行くよクオリア。為すべき事を為す」
     微かに震える手で確りと得物を握り締めた後。敵へと、改めて向き合う。
     信じてくれる人を裏切るのも、並び立つ人の助けになれないのも。
     共に耐え難いと――そう、思うから。

    ●灼滅の戦火
     冬の高原とは思えぬ程の、灼熱の戦場。
     唸りを上げ燃え盛るイフリートの業火に対し、灼滅者達はまずはバッドステータスへの耐久力を高め、敵のエンチャントを解除すべく、冷静に強化をはかった後。
     回復に専念する仲間を信頼し、状態異常を有効的に与えながらダークネスを灼滅すべく作戦を取り、得物を揮っていく。
     だがやはり、強力なダークネスと予測されただけあって。
    「……くっ!」
     視界全てを一瞬で赤に染め上げる炎の奔流が、施した強化もろとも灼滅者達を飲み込み焦がしていく。
     その一撃は確かに強烈で、気を抜いたら瞬く間に火達磨にされてしまうかもしれない。
     だけど。
    「おっと、大人しくしてて貰うぞ」
     猛り狂うイフリートに絡みつくのは、夜兎の手から放たれた幾重もの糸。
     その糸は戦場を渦巻く炎の色を映して煌き、敵の巨体をきつく縛り上げて。
    「縛られた気分はどうだ?」
     地を揺るがす様な声を上げ、その呪爆から逃れんと暴れる炎獣を逃すまいと、夜兎はキュッと糸を操る手に一層力を込める。
     そんな主人の指示通り、一生懸命ふわふわハートを飛ばすユキ。
     そしてさらにイフリートの動きを制約すべく。
    「強敵なのでしっかりしないとですね」
     気合い入れていきますよ、と。
     そう勢い良く白兎のしなやかな指から撃ち出されたのは、魔法の弾丸。
    「手難い敵っすけど、がんばるっす」
     さらに同時に動いた鉱が放った弾丸が嵐のように降り注ぎ、紗矢の発射した魔法光線が炎獣の巨体目掛けて戦場に閃いて。
    「そう簡単にやらせはしません」
     焔揺らめく中、怯むことなく距離を詰めたかなたの拳が唸りを上げ、敵のその身を貫くかの如き勢いで叩き込まれる。
     その間に、玉の作り上げた小光輪の盾が味方の傷を癒し守りを固め、戦場を疾走するクオリアの突撃が、敵の巨体へと豪快に見舞われた。
     そんなイフリートと対峙する灼滅者達が戦闘に集中できるのは、周囲で人払いにあたる仲間の存在も大きい。
     同じクラブである玉やクオリアを応援しながら、エアは殺界形成で戦場から一般人を遠ざけて。リオンも同じく殺界形成を展開し不用意に人が近づかぬよう警戒を続け、巧もサウンドシャッターを使い、派手な戦闘音を戦場外へと漏らさぬよう気を配ってくれている。
    「ほらこっちだ、もふもふ!」
     深尋は、炎と共にふわふわたてがみを揺らすイフリートを挑発する様に、素早く接近し死角からの斬撃を繰り出して。
    「その炎ごと斬り裂く……!」
    「禍々しき傷を癒したまえ!」
     ミルドレッドの巨大チェーンソー剣がもふもふの身をズタズタにすべく唸り狂い、敵の攻撃にさらされている前衛の仲間を守護すべく沙希の手から放たれた護符が、一直線に炎の戦場を舞い飛ぶ。
     正面からの力比べでは、到底叶わぬ相手であるが。
     互いに強化を施し態勢や陣形を整え、効果的な状態異常を与えていき、休みなく回復が行き届けば……強力な敵でも、勝機がみえてくるだろうと。
     炎の戦場を踏みしめ、地を蹴る灼滅者達。
     だが――得物を振るったその手応えが、確かにあったにもかかわらず。
    『グアアッ! ガアァァアアアア!!』
    「!」
     まるで灼滅者達の攻撃が効いていないかの様に、勇ましく赤に焼けた空へと雄叫びを上げたイフリートは。
    「! ぐうっ!!」
     目の前に陣取る灼滅者達を纏めて、容赦なき焔燃ゆる紅の無敵斬艦刀で斬り裂いて。
     まるで空と同じ様に、飛沫いた血の赤に、地面が染まっていく。

     滝の様に流れ落ちる汗と、じりじりと焼け焦げる様な肌の痛み。
     襲いくる鮮烈な炎や重い一撃に、少しでも気を抜けば、意識まで飛ばされそうになるが。
    「しいたけを燃やしてくれたのは有難いですけど」
    「手数で押していくっす」
     声を掛け合い連携し、何度も何度もイフリートの身を斬りつけ、攻撃を重ねる灼滅者達。
     白兎と鉱が同時に成したふたつの赤き逆十字が、精神ごと敵を引き裂きにかかれば。
     傷を負いながらも尚、何処か血が沸く命賭けのスリルを楽しむような夜兎が、じわじわと追い詰めるかの如く漆黒の弾丸で巨体を毒で蝕んで。
    「まだまだ!」
     すかさず敵の懐に入ったかなたの繰り出した鋼鉄の拳が、もふもふの巨体に埋まり、めり込む。
     そして獣の哮りをあげる理性なき相手を見遣って。
     会話で情報を得られないことが残念、と呟きつつ、かなたは改めて身構える。
     情報を得られないダークネスならば……全力で、灼滅するのみ。
    「もふもふ巨体と小柄なボクじゃ体格差は大きいけど、前線は支えてみせるよ」
     これまで激しい炎の衝撃を受けてきたミルドレッドは、ぐっと魂を奮い立たせ、紅蓮に染まる戦場に踏みとどまってきたが。
     小柄な腕で大きな得物を力強く振り回し、もふもふの巨体から鮮やかな血飛沫を空へと噴出させた。
     だが、その血は燃え盛る火の粉となって。
     鉄塊の如き刀に宿った煉獄の炎の一撃が、逆に彼女へと襲い掛かる。
     そんな彼女の前に咄嗟に立ち塞がったのは、深尋。
    「く……女の子を庇うのは、男として当然だからな」
     肩代わりした炎の衝撃に顔を顰めつつも、そう調子良く格好つけたものの。
    「……熱っ! あのもふもふは触りたかったな……くそ、なんで敵なんだ。世の中無常すぎるだろ……」
     何気にもふもふしようと挑戦てみましたが。
     このイフリートは熱すぎて、ちょっともふるの無理だったようです……!
    「クオリア、できるだけ長く耐えて……!」
    「風よ風よ、忌々しき力を払いたまえ!」
     そして、ここまで誰も倒れず強敵と渡り合えてきたのは、各人が己の役割を、全力で適切に成してきたという証拠。
     さらに心強いのは、周囲でサポートにあたっている大勢の灼滅者の存在。
     砂那とスウの回復が体力のない紗矢へと飛び、前衛の皆の強化や回復にあたっていた黒虎が咄嗟に狙われた彼女を庇う。
     紗矢はそんな支援してくれた皆へと礼を言った後、バスターライフルから魔法光線を撃ち出して。
     一歩も引かず、互いに連携し攻撃を重ねていく灼滅者達。
     そして。
    「いずれにせよボクは闇堕ちはしない……ヴァンパイアに堕ちるなんて真っ平だからね」
     強敵であるダークネスを前に、炎のような血に染まった得物を、改めて握り締めて。
    「ボクのチェーンソーで斬れないものなんてないよっ!」
     見舞われ続けてきた仲間の攻撃に、ついに大きく揺らいだイフリートの巨体へと、ミルドレッドの緋色のオーラを纏ったチェーンソー剣がモロに炸裂する。
     そして、今までで一番鮮やかな赤の色が、戦場に勢い良く飛び散って。
    『グ……グアア、アアアァァッ!!』
     小さな身体の足元に、大きなふさふさの巨体が、地を揺るがす程の轟音を立てながら崩れ落ちたのだった。

    ●焔の影の闇
     誰もが残り体力が僅かであった、ギリギリの状態であったが。
     無事に、イフリートを灼滅し終えて。
    「モフモフでも触れなかったら意味ないよね」
     そうちょっぴり残念そうに言った沙希に頷きつつ、椎茸や関サバを土産にしようと思う、深尋とミルドレッド。
     そして、他の戦場や今後に思いを馳せるかなたの横で。
     ふと鉱は首を傾け、考えを巡らせるのだった。
    「それにしても、イフリートの組織的な行動なんて……裏で何が起こってるんすかね」
     この案件の裏には、一体何があるのか。
     それにこの事件が……どう今後に影響を及ぼしていくのだろうか、と。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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