楔を喰らう炎獣~眩き業炎

    作者:

    ●大分県別府市・鶴見岳
     何体ものイフリート達が、続々と鶴見岳に集結している。
     イフリート達の体毛によって、燃えるように煌々と輝く鶴見岳。

     頂上には、一体のイフリートが存在した。
     他のイフリートを圧するほどに大きく、威厳に溢れたその姿。
     イフリートの首魁は、配下の前でゆっくりと力を練り、人間の姿へと変貌する……。

     ……人の形へと転じたイフリートの首魁。
     少女のようなその姿は、居並ぶ配下の幻獣達に向かい、唸り声の如き少女の声で命じる。

    「ガイオウガノメザメハチカイ。ケダカキゲンジュウシュヨ、コノクニノクサビヲクライクダキチカラタクワエタノチ、ソノチトニクヲ、ガイオウガニササゲヨ! サスレバ、ガイオウガハゼンナルイチノゲンジュウトナリテ、ナンジラトトモニクンリンスルデアロウ !」
     
    ●武蔵坂学園・或る教室
    「別府温泉でのイフリートの大量出没。かなりの数の灼滅者の働きあって、結果、あちらでの動きは収束したようだが」
     朗報、である筈なのに、どこか神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)の言葉は歯切れが悪い。それもその筈、この事件には続きがあった。
    「残念というか何というか……敵もやられっ放しじゃないってことだな。どうやら別の切り口で行動を起こすつもりの様だ」
     多くの灼滅者達の活躍によって、別府温泉・鶴見岳に集まった多数のイフリートが灼滅された。
     喜ばしいその事態の裏で、敵は新たな角度から手段を講じようと動きを見せ始めている。
    「別府に集まってたイフリート達が、全国に散ってる。目的は、各地の眷族やら都市伝説やらを潰し、恐らくは鶴見岳に封じられてる強大な何かを呼び起こすことだろう」
     『何か』とは一体何なのか。それに関わる情報は解っていない。しかし、組織活動を目撃されていないダークネス・イフリートが、揃って行動を起こしている今の事態。
     黙って放置できるものでは到底無い。
    「お前達に灼滅を依頼したいイフリートは、はぐれ眷属を狙ってる。ある封鎖されたトンネル内にたむろしてる、5体程のネズミバルカン。今回の目的はイフリート討伐だ、お前達に、くれぐれも注意して貰いたいことがある」
     ビッ、と人差し指を突き出し、ヤマトは真剣な瞳で告げる。
    「1つ。イフリートは、はぐれ眷属を狙って現れる。万一、イフリートが眷属を倒す前にお前達が眷属へ手出しした場合、バベルの鎖が働くことは……解るよな? 結果、目的あって動いてるイフリートは、標的を変え現れない可能性だってある」
     今回、脅威はイフリートであり、標的もまた、あくまでイフリートだ。仕掛けるのは、イフリートが眷属を倒したその直後。イフリートを倒せなければ、この依頼は失敗となる。
     そして、もう1つ、伝えなくてはならない重要な要素があると、ヤマトは2本に増やした指を見つめて、語った。
    「はっきり言う。……今までに出会った、いつものイフリートだと思うな。使う能力こそいつも通りイフリートのものだが……その力は、今までの比じゃない」
     念押す様に繰り返し、ヤマトは注意を促した。敵の強さ。灼滅者達への注意点。それだけ、手強い敵であると、灼滅者達に知らしめるために。
    「これだけ強いと念押しして、危険覚悟で向かって貰うのは、お前達ならできると信じるからだ。良い報告、期待してるぜ」
     かたり、と椅子から立ち上がり、珍しくヤマトは灼滅者達へ手を差し出した。握り返した手は8人。その手に、全幅の信頼を寄せ、ヤマトはもう一度、背を押す言葉を繰り返す。
    「お前達なら必ずできる。武運を祈って、帰還を待ってるぜ」


    参加者
    宗原・かまち(徒手錬磨・d01410)
    椙杜・奏(翡翠玉ロウェル・d02815)
    シャルロッテ・モルゲンシュテルン(夜明けの旋律・d05090)
    布都・迦月(獄炎の剣を繰る者・d07478)
    皇樹・零桜奈(呪われし漆黒の天使・d08424)
    フィオナ・ドミネーター(硝子の細剣・d08925)
    蒼城・飛鳥(片翼の鳥は空を飛べるか・d09230)
    上倉・隼人(伝説のパティシエ・d09281)

    ■リプレイ

    ●点火
     強い渇きに、瞳を開けているのが辛い。
     空気から肌へと伝わる熱は、先を行く炎獣より齎されるものだ。岩陰に身を潜めながら巨獣の背を追う椙杜・奏(翡翠玉ロウェル・d02815)は、ふと過った思いに小さく息を吐き出した。
    (「初めての依頼が、まさかこんな事件だなんてね」)
     戦わずとも、感じる熱量がその強さを物語る。少し荷が重いけれど――そう感じたのも無理は無かった。
     トンネルの外で見た威風堂々たるその姿もそうだが――存在感だ。自分がちっぽけに思える程に、灼熱の獣は佇むだけでその存在を誇示する迫力がある。
     奏の隣に身を潜める宗原・かまち(徒手錬磨・d01410)もこきんと指を鳴らしながら、とんでもねぇな、と呟いた。
     トンネル内、逃げ場無い熱波は唯一の出口から外へ逃れるべく容赦無く灼滅者達へ吹き付ける。揺れる髪を押さえ、フィオナ・ドミネーター(硝子の細剣・d08925)は青い瞳を瞬かせた。
    (「とても、とても大きなケモノ」)
     8人の灼滅者中最年少。小さな体が、巨獣の大きさに震える。
     自分の小ささも年若い未熟さも解って、それでも力を持つから自分は戦うのだとフィオナは小さな手をぎゅっと握り締めた。
     青い瞳にもう一度見据えた巨獣。眩さ故に暗がりに見失う心配等皆無だが――直後、突如前方から響いた轟音と生じた熱風に、シャルロッテ・モルゲンシュテルン(夜明けの旋律・d05090)は岩陰に身を低くした。
     灼熱の風が走り去るのを待って顔を上げ、その光景に息を飲む。
     まるで獄火。赤く高く燃え上がる炎が、悲鳴届く隙間すら許さぬ轟音と共に逃げ場なき袋小路を火の海へと変えていたのだ。
     窮鼠に噛みつく暇も与えず、ただの一撃だけで一瞬に5体もの眷族を焼き払う炎は、これまでに出逢ったどの灼滅者、そしてどのイフリートとも異なる物だ。
     言葉は出ない。あの炎と、これから相対しなければならない――ほとんどの灼滅者が微かな緊張でその光景を見守る中、皇樹・零桜奈(呪われし漆黒の天使・d08424)がぎり、と拳を握り締めた。
    「イフリート、倒す……いや、殺す……!」
     殺気立ち今にも飛び出したいのを堪える。湧き上がる憎しみに拳震える零桜奈の隣で、蒼城・飛鳥(片翼の鳥は空を飛べるか・d09230)は深海の双眸を静かに閉じた。
    (「強いのは解ってる……でも、仲間誰一人、欠けない様に」)
     思い巡らす飛鳥の肩に、ぐっと添えられた手。見開いた瞳の先には、炎獣に負けぬ灼熱点した上倉・隼人(伝説のパティシエ・d09281)の瞳が赤々と燃えている。
     行くぞ、と、絡む視線に互いの覚悟を確かめて。
     炎獣の眩さの前に、開始の合図にと用意した光は目立たない。布都・迦月(獄炎の剣を繰る者・d07478)はスレイヤーカードの封印を解き、現れた錫杖型の杖を横に振った。
     しゃん、と。
    「正直嫌な予感しかしない。全力で阻止させて貰おうか」
     静かな声と鳴り響いた音を合図に、灼滅者達は一斉に飛び出した。

    ●鳴動
    「『Music Start!』 見過ごすわけにはいかないのデス!」
     カードに秘めた力を解き放ち、シャルロッテが立つは最後方、敵と同様に仲間も見渡す癒しの配置。
     そこから紡ぐは、伝説の歌姫の旋律だ。
     8人がかりでも一撃で到底終わる筈が無いことは、先の業火を目の当たりにすれば解る。そして、此方に限っては当たりが悪ければ数撃で終わりかねない相手だということも。
     背後からの奇襲。この好機を無駄にはできないのだ。
     癒し不要の今だけは、全身全霊全力の一撃を。歌でいつか世界に平和を齎したいから――思い乗せ奏でるシャルロッテの魔力の音色に呼吸を合わせ、隼人と飛鳥が巨獣へと飛び掛った。
    「全力でぶっ潰してやる!」
    「無理はするなよ隼人!」
     交わす軽口と笑みの中には信頼を滲ませて。振り向いたイフリートとのすれ違い様、両側面へと見舞うはご当地ビームと斬影刃。
     着地と同時飛び退った飛鳥に対し、隼人は地を蹴り、翻ってもう一度。影から延びる続け様の斬撃が、イフリートの燃え盛る炎を切り裂いた。
     耳を劈く大きな咆哮。それだけでトンネル内部の温度が増す様だ。まだ戦い始まって間もないというのに、迦月の輪郭線に沿って汗が一筋肌を滑る。
     刹那、その利き腕に眩き閃光が宿った。
     巨獣の炎が一面焼き尽くす猛火なら、迦月の腕に奔る雷は一点局所を貫く針の弾丸。繰り出した打撃が正面から炎と相対し、紅と白の火花が、同時に弾けた。
     相殺。力弾け消えた瞬間無防備となった獣へ、静かに迫ったのはかまち。
    「……お前らが何考えてるのかなんて、興味ねぇけどよ」
     興味はなくとも、ダークネスが何かを起こすと言うならば、それは間違いなく迷惑だ。飛鳥が刻んだ傷へ、掲げる盾の重い衝撃が打ち込まれた。
     連携の一撃に、血に代わり傷口から噴出した灼熱が、ちり、とかまちの髪の先へ触れる。直後、邪魔者を薙ぎ払うべく――或いは傷を庇うためか。振るわれた鋭い腕を、かまちは飛び退って回避した。
     巨体の何気ない大きな動きに生じる隙。すかさず迫るは――奏とフィオナだ。
     後方、フィオナのギターから生じる見えない音の衝撃に併せ、奏が繰り出す赤きオーラの斬撃。
     逆十字に切り裂かれたイフリートの肌から迸った炎。映す瞳に憎しみを寄せ、壁を蹴り飛び上がった零桜奈は空中から一閃、漆黒の長刀の居合いの一撃を抜き打った。
     音も無く閃いたそれを巨獣は巨大な爪で受ける。
    「殺す……絶対に、殺す……!」
     刃と爪の拮抗。向き合う程に身を焦がす憎しみの衝動。零桜奈の瞳が更なる鋭さを帯びた。
     やがて力の均衡崩れて弾き飛んだ零桜奈が地を滑りながら踏みしめ堪えると、炎獣はぎろりとその視線を巡らせる。はっきりと伝わる感情は、不快。
     何か来る―――暑さの中ぞくりと背筋を走った冷たいものに、再度飛び出そうとする零桜奈へとフィオナが叫んだ。
    「まだです! 出てはだめですの!」
     直後、巨獣の放った業炎の塊が、前衛に立つ4人へと襲い掛かった。
     他の前衛よりやや一歩抜き出ていた零桜奈が真っ先に炎に飲み込まれ――るかに見えたそこへ、咄嗟にその身を差し出したのは飛鳥。
    「飛鳥っ!」
     隼人の声は轟音に掻き消える。
     呼吸ままならないのは熱風のためか、それとも全身に受けた炎による傷のためか――身を挺した盾は、零桜奈の無傷と引き換えに飛鳥へと大きな傷を齎した。
     それでも壁として、盾として耐える用意をしてきた飛鳥だからこそ、そこに未だ立っている。立っていられる。
     手を上げ無事を示した飛鳥。迦月は回避し無傷、急所免れたかまちも身を焼かれながらも立っている。しかし――個を狙わぬ一撃ですらこの威力。間違い無く、今の灼滅者には癒し無くして長くは維持できない鋭さを持っている。
     戦いは未だ決着には程遠く。結果など、到底見える筈もなかった。

    ●閃火
     呼吸は乱れ、汗は流れる傍から乾いていく。
     もう何度目になるか、フィオナは防護符の癒しを飛鳥へと送った。癒しの配置が幸いして、飛鳥の肌を焼く炎を幾分か消し去る。
     奇襲できた初撃以降、フィオナとシャルロッテの2人は完全に回復に専念していた。時折そこに奏も加わるが、それでも充分とは言えない。状態異常以上に、一撃の消耗が激しいのだ。
    「さぁ、まだ倒れるときではないデスヨ!」
     フィオナに続きシャルロッテの傷癒す清らかな風が、金糸の髪を揺らして吹き抜けた。ずっと目を配り敵以上に仲間を見渡してきたから――シャルロッテは今、戦況をこの場に居る誰よりも理解している。
     イフリートは先程からバニシングフレアを多用している。前半、積極的に怒りを買っていたかまちと飛鳥を主に狙い――つまり前衛に立つ4人へと攻撃が集中しているのだ。
     飛び抜けて消耗しているのは飛鳥だが、かまち、迦月、零桜奈――受傷具合によっては誰が倒れてもおかしくはない。
     シャルロッテの風で幾分楽になった呼吸に、迦月が痛み逃す様に大きな息を吐き出す。
     作戦に問題は無い。状態異常も機能し、誤算も無い。ただ、敵が強いだけ。
     ――ならば、後は運と体力、気力の勝負。
    「オン・ガルダヤ・ソワカ……!」
     錫杖型の杖の、しゃん! と、何処か高潔な響きを持つ音が導いたのは魔力の爆弾。
     火焔杖【迦楼羅】が炎獣の身を打った時、同時に体内で大きな魔力の奔流が弾け、爆発する。表皮を破って弾けた魔力にイフリートが咆哮し右前肢を折った。かなり大きな一撃だ。
     生じた大きな隙。格上の敵に隙は逃すまいとつぶさに様子を覗い戦う奏が、今とばかりに己が発する炎を纏った。
     例え、火力に劣るとしても―――その炎は確かに戦人の業火。翡翠の瞳は真直ぐに炎獣を捉え、一気にその間合いを詰めた。
    「出来る事をやるよ。……それで良いよね」
     戦いの最中ですら穏やかさを失わず柔らかく笑んでいた翡翠の視線に一瞬、鋭さが宿る。炎纏った一撃は、体勢崩すイフリートの右前肢・急所へと的確に入った。立ち上がりかけて再び足を折ったイフリートへ、逆側からは零桜奈が再び空中から斬りかかる。
     仲間達が連携を繋ぎ、入れ替わり立代り攻撃仕掛ける合間。隼人の視線はふと、前方の肩で息をする友へと留まる。
     視界を遮った血を拭う飛鳥の肺は、酸素を求め誰よりも激しく動いている。何度でも仲間を守るべく走る飛鳥へ隼人が感じるのは、微かな焦燥。 
    (「……強く、なりたいんだ。守りたいと思う人を守れる様に」)
     弱さとの葛藤。今灼滅者の勢力はまだまだ虚弱で、その中での隼人は決して力に劣るわけでは無い。
     しかし、足りないのだ。それを今、痛烈に感じている。現に――目前で、友がこれほど傷付いている。
    「……負けて、たまるかよ!」
     イフリートに。友に。守りたいと願う気持ちは誰にも負けはしない――飛び上がった隼人の日本刀が上段からひときわ鋭くイフリートを叩き切った。その一撃は急所深く、左前肢を斬り落とす。
     炎獣の、それまでと色の異なる咆哮は恐らく痛みの絶叫。炎と化して消えた左前肢は再生することは無い。つまり――確実に、巨獣は消耗している!
     ブォオオオオ!!
     怒りに狂乱してか、巨獣の動きが激しくなった。近寄ろうとする灼滅者達を払う様に右前肢を振り回し、傷口から噴出す炎は接近を許さない。
     そして猛々しい動きの最中に、飛鳥は獣の視線が自分へ向いたことを察した。
     恐らく、あと1撃でも受ければ自分は倒れる――回避できねば回復は無意味と、心に決めたのは最後の攻勢。
    「……俺が倒れても、仲間は絶対負けはしない!」
     犠牲では無く、諦めなどでも勿論無く、仲間信じるからこその強き笑顔。
     飛鳥が渾身で放ったレーヴァテインが炎獣の左目を焦がした時。同時その身を包み捕らえた炎に、遂に飛鳥は意識を手放した。

    ●予感
    「蒼城サンっ!」
     叫ぶ声は、飛鳥へは届かない。癒しきれなかった。どさりと落ちたその肩を抱いて、シャルロッテは悲しみに顔を歪めた。
     全員が役割を果たす中でも、守りの布陣で戦う2人の功績は、中後衛を浅傷に抑える大きな大きなものだ。飛鳥と同じ布陣に並ぶかまちが無事であるのは、本当に運でしかない。
     そして飛鳥が倒れた今、最も危険な立ち位置にあるのも、またかまちだった。炎獣へ齎した怒りは、未だ消えてはいない。
    (「ちゃんと帰らねぇと、待ってる奴らに怒られんでね……」)
     思う傍ら万全での帰還が難しいかもしれないことを、冷静なかまちは理解していた。飛鳥を討った炎を共に受けたかまちの余力もまた、もう癒しで庇いきれない所まで来ている。
     狙われれば、後は無い。だからと言って、立ち止まる理由も無い。
     挑発気味に笑んだかまちの隣には、隼人。倒れた友の穴は自分が埋めると、心に点した決意の炎は、目前の業炎の眩さにも決して揺らがない。
     終わってはいない。嘆くより今は倒すこと。シャルロッテの癒しを受けた迦月は灼熱のトンネル内に妖気の氷柱を喚んだ。
     直線に炎へと奔った氷柱に、僅かに戦場が冷気を帯びる。
     そして迦月は気付いた。戦場を包む熱が、確かにその温度を失ってきている。
    「イフリート……!絶対、殺す!」
     左目を失った炎獣へと、増えた死角から零桜奈は再び迫った。
     空中から一度斬艦刀【スケィス】を振り下ろし地へ着地、その反動そのままに、順手から逆手へと持ち替えた刃を飛び上がる力で振るう。
     ざくり、と確かな手応え。真上へと飛んだその体を、再び順手に持ち替えた刃と共に重力に乗せる。二度の鋭き刃に切り裂かれた右前肢が、炎と消えた。
     振り回す両腕を失くし、イフリートは痛みに頭を振り乱す。とても正気の沙汰では無く半狂乱に暴れる巨獣を、静かに穏やかに見つめる瞳は奏。
    「苦しそうだね、じゃあそろそろ……終わらせようか」
     にこり、と柔らかな笑顔は、しかし何処か冷たさを帯びている。静かに佇んでいたその位置から一瞬で間合いを詰めると、灼熱のその体へと再び炎の一撃を叩き込んだ。
    「あと少しですの……!」
     フィオナが魂奮い立つ力の響きで仲間を癒す。幾度も幾度も、仲間を鼓舞し、またその癒しを受けて、かまちはフッと小さく微笑うと、最後の挑発を炎獣へ送った。
    「ヘイヘイ足止まってんぜ? そんなんで俺ら倒せんのかよ?」
     残る右目が、強く鋭くかまちを射抜いた。
     苦しいのは向こうも同じ。これが最後だ。此処を乗り切れば、他の誰も倒れずに帰還できる――。
     仲間ならできると確信するから、最後までかまちは揺らがない。
     事実、炎に包まれかまちが膝を折った後、炎獣のその炎が仲間を襲うことは無かったのだ。
     痛みに悶える炎獣へ、迦月が静かに歩み寄る。強い敵だった。苦しい戦いだった。
     それでも、恐らくこの戦いには先があるから、立ち止まってはいられない。
    「この程度で圧倒される訳にはいかない。……眠るといいさ」
     その言葉を聞いてか聞かずか。零桜奈が最後に音速の刃を振るう。
     弧を描いた斬撃に、辺りを照らした眩き業炎は静かに身を潜め――後には灼滅者達の息遣いだけが、暗闇に微かに響いていた。

     用意してきた灯りが、静寂のトンネルを優しく照らしている。
    「大丈夫ですの?」
     白い息を吐き出しながら、進路に灯りをかざすフィオナは不安げに目を伏せる2人を見つめる。
    「じきに目を覚まシマス。大丈夫デスヨ」
     安心させる様に微笑んで、シャルロッテは隼人と共に飛鳥を肩で支えた。
    「……何が起こっているんだろうな」
     真剣な眼差しで呟いた迦月。共にかまちの肩を担ぐ奏も、視線を思考に泳がせその答えを探る。
    「一先ず終わったのは良かったけど……『ガイオウガ』。一体、何の事だろう」
     未だ、謎は謎のままだ。一時の脅威は去っても、このままで終わる筈が無い。
     見えぬ答えこそ、次なる戦いへの確かな予感。
     しかし、今暫く灼滅者達には安息の時が必要に思われた。

    作者: 重傷:宗原・かまち(徒手錬磨・d01410) 蒼城・飛鳥(片翼の鳥は空を飛べるか・d09230) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 22/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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