ツインスターの鎮魂歌

    作者:旅望かなた

     世間的には、それは幸運な交通事故であると言われた。
     巻き込まれた二人の少女が、トラックとの追突であるにも関わらず、二人とも生き延びたから。
     ――世間的には。
     
    「星香……」
     暖房を切った部屋。冷蔵庫の中のような空気に、扉を開けた少女は身を震わせた。
    「……ご飯、食べる?」
     ベッドの中にいた、星香と呼ばれた少女が、ゆっくりと振り向く。
     一目見た瞬間、その顔が死人のように腐敗しつつあるのが見て取れた。
     けれどよく見れば、彼女が扉を開けた少女と、そっくりな顔をしているのがわかる。
     トラックの運転手が重傷を負うほどの追突事故から、生き延びた幸運な双子。それが、彼女達の肩書。
     けれど、真実は。
    「あ……あ、あ……」
     濁りかけた瞳で、けれど星香は懸命に双子の片割れを見つめる。
    「ほ……ほし、の……」
     星香は死に、そしてすぐにゾンビとして蘇った。
     彼女をゾンビにしたのは、星乃だ。
    「ごめん……ごめんね。ごめんね……」
     星香がこれ以上腐敗しないよう、冷たい部屋で。
     星香がまだ生きていると信じるかのように、食事を運んで。
     けれど――もはや己の片割れが元のままではないことは、彼女が一番知っている。
     
    「……なんか、一人だけならまだ助けられるかもって言い方、嫌だけど……でも、本当にそうなんだ」
     一人だけなら、助けられるかもしれない。そう、嵯峨・伊智子(高校生エクスブレイン・dn0063)は唇を噛む。
    「交通事故をきっかけにね、星乃ちゃんって中学生の女の子が、闇堕ちしちゃったんだ。そして、ノーライフキングとして、双子の妹の、星香ちゃんを眷属にしてんだよね」
     星乃は、まだ人間としての意識を残している。素質があれば、灼滅者として覚醒する可能性があるのだ。
    「でも、どっちにしろ眷属の星香ちゃんは、倒さなきゃいけないし。で、もし星乃ちゃんも帰ってこれなかったら、灼滅、お願い」
     どっちが、辛いんだろうね。
     そう、涙をこらえる様に伊智子は瞬いた。
     
    「星乃ちゃんは、一軒家でお父さんとお母さんと一緒に暮らしてるけど、共働きで昼間は二人ともいないんだ。入れてもらうのはすごく工夫が必要だと思う。駄目だったら、窓割って入るとかしないといけないんじゃないかな」
     そして、灼滅者達は星乃と星香、両方を相手取ることになる。
    「星乃ちゃんは自分の力で星香ちゃんがゾンビになっちゃったこと、なんとなくだけど理解してるんだ。でも、できるなら今の生活が……や、違うね。二人とも無事だった頃の生活が、戻ってこないかなって思ってる」
     それは、絶対に不可能な事。
     説得によって闇の力を削ぐことができるとしても、非常に難しい事かも知れない。
    「星乃ちゃんは、エクソシストと同じサイキックを使うよ。星香ちゃんは、トラウマを引き起こす拳で殴ってくるのと……ディフェンダーで、星乃ちゃんを庇おうとしてくるみたい」
     辛い、ね。
     そう、伊智子は呟く。
    「星乃ちゃんも星香ちゃんもそれなりに強力だし、辛い任務だけど……お願い、するね」
     そう言って、伊智子は深く頭を下げた。


    参加者
    志賀野・友衛(中学生神薙使い・d03990)
    レオ・フーゴ(伊達男見習い・d06122)
    鉄・正宗(無銘の刀・d06193)
    小塙・檀(テオナナカトル・d06897)
    如月・春香(クラッキングレッドムーン・d09535)
    エリノア・フレイ(退魔の黒・d11129)
    イヴマリー・フレイ(浄化の白・d11134)
    黄嶋・深隼(高校生ファイアブラッド・d11393)

    ■リプレイ

    「本人らが悪いんちゃうのに……説得で納得してくれるんやったらいいんやけど」
     そう呟く黄嶋・深隼(高校生ファイアブラッド・d11393)が、けれど一番それが難しい事を知っている。
    「仲の良い双子だったんだろうけど」
     鉄・正宗(無銘の刀・d06193)の言葉が、白い息となって消えて行く。
    「死体を無理矢理動かして、昔に縋って生きてくなんて、やっちゃいけない事だ。いつか完全に心が壊れる前に、星乃に自分で立ち上がる手助けをしてやらなくちゃ」
     例え、荒療治になってでも。
    「何とか星乃ちゃんだけでも、前向きに生きてもらえるように動こう」
     深隼が、そう言って唇を噛んだ。
    「行こう」
     短い言葉と共に、灼滅者達は歩き出す。――双子の終焉に、向かって。
     志賀野・友衛(中学生神薙使い・d03990)が呼び鈴を鳴らす。しばらくの間の後、「待っててね」と声がして――やがて、チェーンの向こうから一人の少女が顔を出す。
     その目の下には、驚くほど深い隈ができていた。
    「君と、君の妹の事について話がしたい」
     単刀直入に友衛が切り出せば、はっと息を呑んだ少女――星乃が、ドアを必死に閉めようとする。
    「待って、な?」
     その隙間に、急いで深隼が手を入れた。挟まれる痛みに顔をしかめながらも、少女が渾身の力で引っ張るドアを何とか閉じないで貰おうと。
    「俺らは星乃ちゃんと話しにきてん」
    「君が、力を持っている事も知っているんだ。そして」
     そしてそのわずかな隙間から、友衛は必死に言葉を続ける。
    「私達も、同じような力を持っている者達だ」
     驚いたように目を開いた星乃の手から、力が抜けた。
    「話だけでも聞いて頂けませんか。妹さんと――君が、ご両親を傷つけてしまう前に」
     小塙・檀(テオナナカトル・d06897)が後方から、じっと星乃の瞳を覗き込む。さらに警戒心を与えないよう後方で控えていたレオ・フーゴ(伊達男見習い・d06122)が、きゅっと唇を引き締めた。如月・春香(クラッキングレッドムーン・d09535)が静かに瞳を閉じる。――間違いなく、星乃は自分が助かったとしても、双子の片割れを失うことになる。かつての、己のように。
     灼滅され共に死す事と、どちらが幸せになれるのか、春香にはわからない。
    「お2人を助けに来たんです。このままだとお2人が一緒に過ごした記憶まで、全て無くしてしまいます」
     イヴマリー・フレイ(浄化の白・d11134)が、必死に呼びかける。その傍らでじっと真剣な瞳を星乃に注ぐのは、エリノア・フレイ(退魔の黒・d11129)。
    「双子……?」
     少しだけ目を見開いた少女が、ぱちりと瞬きする。イヴマリーとエリノアは双子、そして二人ともエクソシスト。その親近感が、彼女達を突き動かす。
    「迷っているなら星乃サンの答えが見つかるよう皆でお手伝いします。どうか、どうかお願いです」
     そう言って、イヴマリーは一歩踏み出す。そして怯えドアを閉めようとした星乃に、深く、深く頭を下げる。
    「扉を開けて話を聞いて下さい!」
     きゅん、きゅん、とイヴマリーの足元で声がする。霊犬のブランジュが、寂しげな声で尻尾を控えめに振る。エリノアの霊犬であるノワールも、じっと星乃を見つめた。
     ――目を閉じた少女が、長い、長い溜息をつく。
     それは、何か決意を固めるまでの、心の準備だったのだろう。
    「……入って、下さい」
     小さな音と共に、外されたチェーン。
     一歩ずつ、灼滅者達は星乃の空間に、踏み込んでいく。

    「どこまで、知ってますか」
     尋ねたのは、星乃の方からだった。
     口を開いたのは、友衛。真実を――星乃の知る真実を、そして星乃の知らない真実をも、順々に語っていく。
    「だから――まだ君には、生きる道がある」
    「星香には?」
     思わず答えに迷い、友衛は一瞬口をつぐんだ。
     それが、答えだった。
    「だったら私は」
     立ち上がりかけた星乃を、再び友衛の言葉が制する。
    「君はずっと妹をこの様な形で在り続けさせて、死を否定しながら生きたいのか?」
     ぐ、と千切れそうなほどに唇を噛む少女の瞳を、友衛はしっかりと覗き込み。
    「そして、そんな風に君が苦しみ続ける事を、妹は本当に望むのか?」
    「……わかりません。わかんない、よ……」
     もはや知性も失いかけ、人としての姿も腐敗し、それでも名を呼んでくれる妹が、何を考えているのか。
     生きて居た頃ならわかったのに。
    「大好きな人と別れたくない気持ちは、僕でも分かります。けど、いつまでも苦しむ星乃さんを見て、一番苦しいのは星香さんだと思います」
     レオが星乃にじっと視線を合わせ、懸命に思いを伝える。
    「今のままじゃ、二人の楽しい思い出に現れることも許されないんですから」
     黙りこくった星乃に、静かに語り始めたのはイヴマリーだった。
    「もし私だったら、ネリーを一人ぼっちにしてしまう事を申し訳なく思います。でも、終わりを迎えたのが姉じゃなくて良かったと、きっと思うんです」
     ちらりとエリノアにイヴマリーが視線を走らせれば、やはりイヴマリーを見ていたエリノアと視線が合った。双子の姉の意思はわかるけれど、それでも彼女に生きて欲しいと願うだろうとイヴマリーは思った。
    「僕たちは星乃さんが今感じている無力さを消すことは出来ません。でも、今の苦しみから二人を救うことができます」
     そうすれば、星乃の痛みは純粋に、双子の妹を失った痛みとなり。
     乗り越えて行けるはずだと、レオは思う。
    「私が星香さんの立場になったら、私のせいで自分を見失わないで欲しい、両親を支えてあげて欲しいと思います。姿は見えなくてもずっと一緒。お腹の中から一緒だったんだから」
     そのイヴマリーの言葉を聞きながら、春香はじっと考える。一緒だったからこそ、置いて行かれた片割れの重みを、彼女は感じ続けていたのだから。
    「だから私との思い出を忘れないで欲しい、そう願います」
     けれどイヴマリーも、真剣にそう思うのだ。星乃だけでも、生きて欲しいと。
     本来ならば人と目を合わせる事すら難しい人見知りの檀も、心を決めて顔を上げる。助けたいと、必死だから。
    「星香さんの分まで幸せになって欲しいし、親御さんを幸せにしてあげて欲しい」
     妹さんの代わりには到底なれないけれど、と言ってから、それでも檀は手を差し伸べる。
    「俺達がいます。支えに、なります」
     どうか、支えになれますよう。
     そう言って出した手は、けれど届かない。
     まだ。
    「――ありがとう。そして――」
     ごめんなさい。
    「本当は、みんなが言う事が正しいんだって、わかってる。わかってるけど、もう一人の私が、嫌だって言うんです。このままの星香が続くのも嫌だけど……いなくなっちゃうのは、もっと嫌」
     その言葉と同時に、かたん、と扉が開いた。数秒遅れて、灼滅者達の場所まで浸透する冷気。
    「ほし、の……わるい、ひ、と……?」
     腐乱した顔に、濁りかけながらも宿る瞳で、じっと少女は――かつて少女であった者は、双子の姉を見つめる。
    「悪い人じゃない。悪い人じゃないんだよ。でも」
    「……ほしの……まもる……」
     そう呟いた者――星香は、ゆっくりと拳を握った。そして先ほどからは考えられぬような俊敏さで、星乃と灼滅者達の間に割り込む。
    「これが本当にキミが望んだ事なのか」
     ゆらりと星乃の前に立ちはだかる星香を、そしてぎゅっと水晶の如く変貌した拳を握る星乃を見つめ、静かに、けれど力強くエリノアは尋ねる。
    「片割れは一番近くて大切な存在だ。事故のとき妹のことを強く想ったんだろう」
    「そう……だよ。星香、大事だから」
     それに負けぬ程強い瞳で、星乃が頷く。
    「だが今の状況はキミだけじゃない、妹も苦しめている。その苦しみを終わらせられるのは」
     そこまで一気に言って、エリノアはす、と静かに息を吸った。
     そして、真っ直ぐに年も境遇も近き少女を見つめて。
    「キミだけだ」
     ぱん、とプリズムの十字架が浮かび上がる。己が出した光に照らされて、星乃の頬に流れる筋が浮かび上がった。
     ぽとり、と床に落ちたそれを、星乃は自らの足で踏みにじる。
     もはや、彼女を支配しているのはダークネス。戦いによってダークネスを打ち倒さなければ、星乃を無事に救い出すことは叶わない。
     咄嗟に飛び出した友衛は即座に立ち位置を守りから攻めへと変え、大太刀を抜き放った。戦艦すら断ち切らんと振りかざした大太刀を、凄まじい速度で斬り下ろす。――星乃ではない、星乃の中の闇を断つため。
     人は生きているからこそ死者の為にも為せることがあると、友衛は考える。死が救いではないという信念が、戦いにより星乃の闇堕ちに必死に抗おうとする。
     それに合わせて、闘気を雷と為し星乃の懐に入った正宗が、拳を突き上げる――けれど、星乃を突き飛ばしてそれを受けたのは、星香。
    「だめ……ほしの、に……だめ……」
     ぎり、と正宗は歯を食いしばる。そして、星乃に向けて口を開く。
    「眷属には人の魂がない。つまり、その子の魂はもう存在してないんだよ。普通なら」
    「違うっ! だってっ!」
     その現実に抗うかのように、必死に星乃が首を振る。
     それにあくまで冷静に、正宗は言葉を続ける。
    「魂の無いはずの星香が、何故お前を庇い続けてるのか。その意味が判るか?」
     ぶんぶんと、星乃は首を振る。理解していないのか、それとも――その状況自体を、理解したくないのか。
     それでも、正宗は彼女の心に響けと叫ぶ。
    「お前が人間としての自分を捨ててでも、彼女を生かしたかったように、彼女もお前に生きて欲しいと願っているんじゃないのか?」
     先ほどの冷静な言葉とは裏腹に、熱く、激しく。
     無敵斬艦刀を背負うように構えた深隼が、一気に斜めに斬り下ろす。やはり庇いに走った星香の体が、斬と断面を見せる。
    「星香ちゃんもうそんな体やんか。ゆっくり眠らしたらへん?」
     そう深隼が言ったとき、星乃の首は奇妙な動きをした。
     まるで、頷くように。
     まるで、拒否するように。
     どちらが彼女の本心なのか。闇を消さねば、聞く事もままなるまい。
     俺に勇気を下さい、とカードに祈れば、力が檀に応えて咎人の大鎌となり現れる。黒色の波が、大鎌の斬線に従って伸び、二人を包み込む。
     素早く春香が攻撃に適する場所へと立ち位置を変えた。星香の拳を受け止め、浮かぶトラウマに息を呑んだ春香に、レオが裁きの光を送る。同時に、星乃も星香へと優しい裁きを下す。
    「……この子、貴方を庇ったわね。何故だと思う?」
     正宗と同じ問いを、春香はぶつける。星乃が必死に首を振る。
    「理由は三つ考えられるわ。一つ、この子の意思で貴方を守った」
     癒しの力を削ぐ巧みなギターテクニックで星乃へ、彼女を覆い尽くさんとする闇へ一撃を喰わせながら、次々に春香は可能性を挙げていく。
    「二つ、貴方が無意識にこの子を操った」
    「違うっ……!」
     今度は必死に、星乃が否定を込めて首を振る。けれど、春香は静かに続けた。
    「三つ、その両方」
    「……どういう意味?」
     驚いたような星乃の問いに、けれど応える間もなく戦況は変わり続ける。星乃自身が、裁きの光やプリズムの十字架を放出し続けているのだから。
     影を鋭い刃と為し、エリノアが急所である心臓を貫く。ダークネスを速やかに灼滅し、一人の少女を救う為に。
     双子たるイヴマリーが送るのは、仲間達への癒し。光の花冠たるシールドリングが分身を作り出し、エリノアの身を守る。二匹の霊犬達が、白と黒が混じり合うかのように飛び込み咥えた刀を振るう。
     ゆら、とよろけるように正宗の前に出た星香が、けれど凄まじい力で正宗の腹を殴り、トラウマを植えつける。その痛みに、正宗はぎゅっと眉をしかめて。
    「ああ、痛いな。大事なもんが無くなって、それがどうあっても取り戻せないとなれば、こういう痛みを受けるもんだよな」
     吐く息すらも、痛みに感じるのは身体の痛みと心の痛み、両方が正宗を蝕むから。
     けれど、もっと辛いのは二人だから。
     正宗はそのトラウマを癒すことなく、必死に空間を裂くような真紅の十字架を解き放つ。友衛の神薙の刃が、それに続いて空間を斬り裂いた。
     この一撃は、彼女の闇を祓う為。
     己の思念を凝らし、闇の力すら借りて闇を祓うべく檀が必死に弾丸を放つ。レオが、傷を負いながらも言葉を絶やさぬ仲間達に癒しを送る。
    「辛かったよな。お前ら……この程度の痛みでお前らの全部を判ってやる事なんか出来ないけど、それでも」
     正宗が重なるトラウマに歯を食いしばりながら耐える。さらに重なろうとした拳に、深隼が巨大な刃をかざして割り込み、受け止める。
    「オレは、その痛みを抱えた上で人間として生きて、死ねと言わせて貰うぜ」
     人間が生きるって事は、苦しんで、悩んで、死にたいと思ってもそれでも前に向かって生きるって事だ。
     そう叫ぶように言い放った正宗は、その思いをオーラと為し強く強く、叩きつける。
     深隼が深呼吸し、一気に距離を詰め斬艦刀を振りかぶった。闇から覗く、少女の心を探し出すかのように、斬りつける。
    「星乃ちゃん一人で生きて、もし後悔するような人生だったらそん時は俺んとこおいで」
     責任、取ったるから。
     裁きの光を、檀が呼び覚ます。「俺達が、いますから」ともう一度星乃に告げて、その力を解き放つ。ゆっくりと頷いて、レオが影の刃を伸ばした。闇を、切り開く。
     ――考えた末、春香が口を開いた。
    「助かる可能性があるのは、貴方だけ……でも、私達と同じ素質があれば、千秋のように姿が変わってもこの子に廻り逢える望みはあるわ」
     ただ、と春香は言葉を切って、そして千秋へと視線を送った。頷くように前に出た千秋が、春香への拳と裁きを受け止める。
    「大切な人を失って独りで生き続けるのは本当に辛い。だから私は貴方に生を押し付ける気は無い」
     逝くも、戻るも、貴方次第よ、と。立ち上がる力をもたらす響きは、仲間達を癒しながら確かに星乃の耳にも届く。
     ダン、と踏み込んだ正宗の刃によって、星乃と闇を繋いでいた最後の糸が、途切れ――床に崩れ落ちるように座り込んだ少女は、涙をこぼし続けたまま妹を、見つめる。
    「星乃サンの光で天に送って貰えたら、きっと昔の星香サンのまま、ずっと傍で見守ってくれる」
    「キミの手で妹を楽にしてやれ」
     星香は――動かなかった。
     ただ、黙って星乃を見つめていた。
     ゆっくりと、星乃の手が上がる。裁きの光を使う事の出来る灼滅者達が、共にそれに光を添える。
     星香は、動かなかった。
     ただ、小さく頷くと、目を閉じた。
     ――光が止んだ時、もはやそこには誰もいなくて。
     学園へ共に、と誘った正宗の手を握り締め、遺された少女は声もなく静かに、泣き続けた。
     それは、もはや還ることなき片割れへの、少女の中で鳴りつづけるであろう鎮魂歌の如く――。

    作者:旅望かなた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年12月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 6/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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