●噂話につく尾ヒレ
「……でね、その人が振り向くとさ、いるんだよ。バイクに乗った、首のない人が!」
前フリは完璧。つなぎでじわじわと迫り来る恐怖と違和感を演出し、そして最後に声のトーンを激変させて畳み掛ける。
怪談としてはオーソドックスで王道な首なしライダーの都市伝説だ。
しかし、それ故にマンネリが進行しており、聴衆もほとんどは聞き覚えのあるオチに肩を落としていた。
しかし、そこに新展開が加わるとどうだろう。
「一人、二人……計五人も出てきたんだ!」
思いがけない追加要素にどよめく聴衆。この瞬間、語り部が勝ち誇った顔をしていたのは言うまでもないだろう。
●かくて暴走する噂とライダー
「誰が言い出したんだろうね、首なしライダースなんて」
少し困ったように苦笑しつつ、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が概要を話し始めた。
「今回解決して欲しいのは、新年になると出てくるっていう都市伝説だよ」
なんでも、正月の深夜になるとバイクに乗った五体の首なしライダーが出現し、隊列を組んで暴走行為を働くという。
何故正月限定なのかは不明だが、多分めでたいからだとそれっぽい理由をつけて、まりんは納得していた。
「一度出現したらずっと騒音をまき散らして、朝まで我が物顔で道をクネクネ蛇行しながら走ってるみたい」
まさに暴走である。爆走でも構わないが。
放置したら朝まで騒音が止まないとなれば、近くに住んでいる人への精神的被害は相当なものになるだろう。
「出現予定地は割と広い道だけど、深夜だし人の気配がないのは不幸中の幸いかな」
オマケにライダースは低速で走り回り、標的を見つけると襲い掛かってくるので、こちらが何かに乗って追いかける必要もないという。
「それで、戦闘についてだけど……まず注意して欲しいのは、やっぱり騒音かな」
敵からは常にエンジン音とホーンのけたたましい音が発せられており、対策をしていないと集中力が削がれて攻撃が当たりにくくなるだろう。
「相手は全然気にしてないんだけど、首がないから音とか関係ないのかな。理不尽だよね」
主な攻撃は体当たり。走りながら鉄パイプを振るい、複数の対象を巻き込む行動も確認されている。
「相手は都市伝説だから、ライダーとは言っても完全にバイクと同化しちゃってるみたい。バイクだけを壊して足止めって事は出来ないと思うけど、その代わりバイクに攻撃を当てても本体へのダメージになるね」
なお、五体で出現しているためか、個々の身体能力はあまり高くない。
各個撃破を狙っていけば、頭数を減らすのは簡単だろう。
「新年早々討伐なんてツイてないよね。早く片付けてゆっくりお正月を満喫しよう!」
帰っても寝正月の前に年賀状のお返しくらいはするんだよーと軽いノリで締めくくり、まりんは片手をひらひらさせて灼滅者を送り出した。
参加者 | |
---|---|
日辻・迪琉(迷える恋羊・d00819) |
不破・聖(壊翼の楔・d00986) |
御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461) |
峰・清香(中学生ファイアブラッド・d01705) |
不知火・隼人(フォイアロートファルケン・d02291) |
二階堂・空(高校生シャドウハンター・d05690) |
南波・柚葉(偽心坦懐・d08773) |
水無月・彩音(胡蝶の夢・d10510) |
●夜に出てくるロックなヤツら
「いやー、新年早々都市伝説も頑張るなあ」
陽気ながらも、どこか辟易したようなトーンで発せられる二階堂・空(高校生シャドウハンター・d05690)の言葉が、冷えたアスファルトへと吸い込まれていく。
折角の年末年始休みという事で穏やかに過ごしたいと誰もが思うだろうが、残念ながら都市伝説は例外のようである。
時刻は深夜。時期も相まって通りがかる人の全くいない道に、灼滅者は集合していた。
「夜遅くだし、外が騒がしかったら皆困るよね」
腰につけた懐中電灯で辺りを照らし、周囲を見ながら、水無月・彩音(胡蝶の夢・d10510)は周辺住民の心配をしていた。
今回の標的は暴走するライダース。物理的被害はもとより、まき散らされる騒音が何よりも心配のタネとなっている。
ご近所さんの安眠を守るという使命を帯び、彩音のやる気も充分だ。
「本当、はた迷惑ですよね……」
翻って、心底うんざりした顔で返事をしているのは御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461)である。
いいところで育った彼にとって、誰かに邪魔されて平穏を乱されるなど想像もしたくないのだろう。読書好きならばなおさらである。
「それにしても……首なしだから、音、気にしないんですかね。困りものです」
「向こうに、首がなくても……こっちの被害は、変わらない。はやく、倒さないと……だな」
裕也の疑問を受け、不破・聖(壊翼の楔・d00986)が途切れ途切れのセリフで答える。
危惧されている騒音に備え、全員が耳栓を持参。更にその上からヘッドホンやヘルメットを使って音を完全にシャットアウトする姿勢であり、準備に抜かりはない。
しかし、早々に元を断たなければ埒があかないのも真理だ。
何より一月の深夜、外は吐いた息が白くなるほどの冷え込みになっている。おそらく、全員が早く片付けてすぐにでも温かい家に帰りたいと思っているだろう。
「しかし、速攻で倒すには数が多いな。多ければ良いというものでもないだろうに」
量より質だと言うように、呆れた表情で返す峰・清香(中学生ファイアブラッド・d01705)。
闘争の刺激を求める彼女にとって、都市伝説の類は後先考えずに向かっていける格好の敵だ。
「ま、百体首なしパレードになる前に叩けるだけよしとするか」
数が多いだけでは楽しめない。五体という数は微妙ではあるが、それでも手応えはあるだろう。
今回の戦闘も楽しめるものであるかどうか。清香は密かに期待しつつ出現を待っていた。
「ガラが悪くて首のないライダーが五人、話を聞くだけでもロクでもない光景が浮かぶね」
一体でも怪談として語られるというのに、それが五体。南波・柚葉(偽心坦懐・d08773)が小さく肩をすくめる。
「出てきても、絶対驚いてやんない。たかってきても不良に出すお金はないし、跳んでも小銭の音とか立ててやんないから」
何やら別のところで心配しているご様子。今回の不良はゆすりもたかりもしないが、それ以外でシャレにならない行動を取っているので注意が必要だ。
「ところで、騒音ってどんな感じなんだろう? 遠くにいれば、ちょっとくらい聞いてても大丈夫だよねえ?」
そんな折、日辻・迪琉(迷える恋羊・d00819)が羊のぬいぐるみを抱えつつ、好奇心いっぱいの目でそんな事を言ってのける。
その言葉がきっかけになった訳ではないだろうが、言い終わった直後、静かだった道を突如轟音が襲いかかった。
「!? きゃーうるさーい! ……うう、聞かなければよかったよう」
目尻に大粒の涙をためて、エンジンの破裂音とホーンの甲高い音が織りなす不協和音を受けた事を心底後悔する迪琉。大急ぎで音響対策を身につけ、何とか事なきを得た。
「新年早々なんて騒音を撒き散らしやがる……ほっとく訳にゃいかねぇな」
派手な効果音と共に出現したライダースを見やり、不知火・隼人(フォイアロートファルケン・d02291)はためらう事なく臨戦態勢に入る。
もちろん、耳栓とヘルメットで防音も完璧だ。
「さあ、今年初めての戦いだ。派手にいくぜっ!」
燃え上がるような真紅の装甲を身にまとい、隼人が身振りと共に戦闘開始を告げる。
かくして、正月の都市伝説と灼滅者が真正面からぶつかった。
●暴走する者、止める者
五体のライダー達が、夜の街を蹂躙せんと移動を開始しようとする。しかし、それに先駆けて空のガトリングガンが火を吹いた。
「いきなりこんなのが相手とか、今年の先が思いやられるよね、っと!」
横に並んだライダー達の一番左にいる個体へと、炎を帯びた弾丸の群れが殺到。見た目にも派手なその攻撃によって、最初に集中攻撃するべき対象が浮き彫りとなる。
「まずはコイツを叩けばいいんだな!」
目印となる炎を更に広げるため、清香も炎を纏った龍砕斧を振り下ろす。
痛打を受け、最初の標的が灼滅される。それを受けた他のライダー数体が鉄パイプを取り出し、一斉に反撃を始めた。
「弔いで反撃ときたか! そう来なくちゃな!」
攻撃を受け、野性的な笑みを浮かべる清香。鉄パイプによる殴打で理性のタガが外れてきているようだ。
「びーくーる。敵の安い挑発には乗らない」
柚葉はあくまで淡々とした口調ながら、回復の祈りをしっかりと旋律に乗せて怒りの沈静化に務める。
敵の騒音にかき消されないように、自分の音がみんなに届くように。自然と、敵へ対抗するかのように大きな音を奏でていく。
「あれ……ギター鳴らしたり殴ったりうるさいのはどっちだろ」
周囲を見るが、周りには完全に音をシャットアウトした仲間と、そもそも音が聞こえているのかすら定かではない都市伝説がいるだけだ。たぶん、問題ないだろう。
「よっし、次行くぜ! 燃えちまいなっ!」
一体を倒した事で、隼人のガトリングガンも次の目標へ着火させるべく唸りを上げる。
全員が耳を塞いでいるのと同じ状況である今、会話での意思疎通が難しい。射線がきちんと他の味方にも見えるように立ちまわりつつ、確実にライダーの体力を削っていく。
「一体倒せたからって、油断しないでいこー。まだまだ沢山残ってるからねっ!」
マーキングされたライダーを中心にして、強い意志をぶつけていく彩音。同時に長期戦へと備え、自分に出来る事を少しでも増やしていこうとする動きだ。
「思ったより数が減りませんね。でも、これで……!」
裕也の振り上げた大鎌が、ライダー一体の生命力を吸い取るべく振り下ろされ、鋭い斬撃を発生させる。
「撃破、二体目ですね。この調子で行きましょう」
ライダーに残った最後の生命力を吸い取り、灼滅を確認。裕也は身振りも交えて撃破を報告し、可能な限り早くこの戦闘を終わらせようと次の行動に移っていた。
「それにしても、本当にずっとうるさいのが止まらないのー。安眠妨害はんたーいっ」
かわいらしく言ってはいるが、その抗議は真剣そのもの。迪琉は険しい目をして残りのライダーを指さし、勢いよく苦情を訴えかけている。
「うちのゆずが寝れなくなったら、どうしてくれるのっ!」
騒音に悩むであろう周辺住民に溺愛する妹の姿を重ね、既にやる気は最高潮にまで押し上がっている。その勢いに任せたレーヴァテインの一撃は、既にある程度ダメージを受けている敵を葬り去るのには充分だった。
「……いい加減、アタマ痛くなってきたから、な。残りも、早く片付けて……このうるさいの、終わらせないと」
しっかり耳をふさいでいても、少なからず聞こえてくる不快な音。戦闘に支障が出るほどではないが、気分のいいものでもない。
騒音が続いて若干キレ気味になっている聖に、敵へかける情けなどない。
真一文字に竜の骨をも砕きそうな一閃を繰り出し、ライダーは文字通り真っ二つに両断されて消え去った。
「さあ、最後の一体!」
元気よく宣言した彩音が、最後の一体へと魔力の乗った一撃を遠慮無くお見舞いする。
これまでの戦闘でダメージが蓄積されているライダーには、既にそれを受け止めきれる余力もなく、派手な衝撃音が戦闘の終わりを飾ることとなった。
●夜も年も明けまして
「ったく、本当迷惑なヤツだったな……と、もう朝か」
いつの間にか空が白み始め、街が少しずつ明るくなっていく。姿を見せた朝日を見て、隼人はひと仕事終わった充足感に浸っていた。
「まあ、うるさかったけど悪くはなかったかな」
戦闘中はハイになっていた清香だったが、思うさま暴れられたようで多少はすっきりした表情になっている。
「でも、これで片付きましたよね。よかったです」
取り敢えずの収束に安堵する裕也。まだ多少耳の中で騒音の余韻が残っているが、そのうちそれも消えるだろう。
「しかしまあ、こういう怪談っていつの時代も尽きないモノだよね」
みんなが怖いモノ好きなのもダークネスの陰謀なのかも? と空が冗談めかして言う。案外そうかもしれないし、そうでないかもしれない。確かめる術は今の彼らにはなかった。
「うー、そんな事はいいから、みち疲れちゃったよう……」
「……ねむい」
ようやく安静を取り戻したからか、あるいは戦闘で疲れたか、はたまた単純に夜更かしがたたったか。
迪琉と聖は、敵を撃破した事に安堵して眠気を訴えていた。というか既に、うつらうつらと舟をこぎだしている。
「ほらほら、二人とも家に帰るまで寝ないの」
寝正月の前に年賀状の返事くらいはするようにってまりんちゃんも言ってたしと、まるで姉のように二人をあやす彩音。
疲れて寝たいのは分かるものの、せめて家に帰るまでは起きていないと困るのだ。
「返事……か。あたしは別に書かなくてもいいかな」
年賀状という単語を受けて、柚葉が小声でなにやら呟く。そもそも返事が必要な年賀状を果たしてもらっているのかどうか。真相は闇の中である。
それぞれの思いを胸に、新年早々の都市伝説退治は解決された。今年も、騒がしい一年になりそうだ。
作者:若葉椰子 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年1月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 7
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