●否ぬる迷宮者喰らう者
夏の終わりが近づいたとは言えまだまだ暑い神奈川県の某所……既に人の影もなくなった、逗子の廃ホテル。
『ったく、本当こんな所にいるのかよ?』
『ああ、だって聞こえたんだぜ? とても人の物とは思えない呻き声がよ!』
『そんなの、単なる聞き間違えじゃねーの?』
大声で会話している若者達の影。
そしてすっかり日も暮れた深夜、足を踏み入れた彼ら。
本当、単なる肝試し的な感じで気楽に足を踏み入れたのだが……それが、運の尽き。
『……ウゥゥ……ウゥ……』
呻き声が、廃ホテルの中に響き……彼らもその声を聞く。
『ひぃ!?』
『な、だろだろ? き、聞こえただろ!?』
その声に、すっかり怯えきった若者達。
そんな若者達の前へ、廃ホテルの中から現われたのは……半ば腐敗せし人。
その目に光もなく……彼らをターゲットに収めると、ためらうことなく、若者達を殺すのであった。
「あ、みんな集まってくれたんだね、ありがとう! それじゃ今回の事件の事、説明させてもらうね!」
須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、参加者の皆ににっこりと笑いながら説明を始める。
「みんなに解決してきて欲しい事件はね、逗子の廃ホテルを住処にしてる眷属を倒してきて欲しいんだよ」
と、インターネットから取ってきたその廃ホテルの写真をみんなに見せるまりん。
丁度夜に取られた事もあってか、おどろおどろしい雰囲気を醸し出している。
「この廃ホテルを根城にしてるのは、いわゆるゾンビ達みたいなんだ。ゾンビ達は肝試しを装ってやってきた若者達へ、不意に襲い掛かって来るみたいなんだよ。だからみんなも、肝試しに来た人を装うと良いと思うんだ」
「襲いかかってくるゾンビ達、その数は10人で、その内1体は恐ろしい呻き声を上げることでみんなを足留めしてくるみたい。他のゾンビ達は、ただ攻撃するのみで特別な能力は無いけれど……数が多いから油断は禁物なんだよ」
「後……当然の事と言えば当然のことなんだけど、ゾンビ達が根城にしているのは廃病院という事で、色々な物が足下に散乱してて足場は悪いし、視界も悪いんだ。戦闘前に灯りを煌々と付けちゃうと寄ってこないだろうから、不意打ちを受ける可能性はかなり高いと思うので、その辺りはよーく頭に入れておいてね!」
そして、最後にまりんは。
「不幸な事に、既にもう被害者が出てしまってる事件なんだ。だから、被害者の遺族の為にも、ゾンビ達をしっかりと倒してきてね!」
ぴょんと跳ねながら拳を振り上げるまりん。
そして……そのままバランスを崩してしまうのであった。
参加者 | |
---|---|
水綴・梢(銀髪銀糸の殺人鬼・d01607) |
禄此土・貫(ストレンジ・d02062) |
叶・維緒(機馬拳士・d03286) |
マリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680) |
久遠寺・ほのか(赤い目のうさぎ・d06004) |
片桐・秀一(高校生殺人鬼・d06647) |
秋月・絢雨(高校生魔法使い・d06979) |
リーグレット・ブランディーバ(中学生魔法使い・d07050) |
●廃墟に隠れし死者の影
神奈川県逗子市は某所……既にヒトの訪れる事は無くなった某廃ホテル。
そういう廃墟に現われてしまったはぐれ眷属のゾンビを倒す為、灼滅者達は人気の無い道のりを歩いていた。
本来であれば緊張するべき時……しかし。
「廃墟かー。これは中々の雰囲気がありますねー」
と、どきどきわくわく、と言った感じで、秋月・絢雨(高校生魔法使い・d06979)は先頭を歩いていた。
ある意味彼女にとっては、こういう廃墟は大好きな場所。つまりは……廃墟マニアと言ったところだろうか。
「本当、絢雨ちゃんは楽しそうですね……」
「ん? 維緒ちゃんは楽しくないの? もしかしてこういうのは苦手とか?」
「そ、そんなことありませんよ!! お化けとか、そういうのは得意ですから! それに一回でも実物を見てしまうと、それ以外は別に……」
叶・維緒(機馬拳士・d03286)の焦り様に、言わずもがな……という感じはしつつも、それはさておき。
「……ま、灼滅者になってから初めての実戦になるわね……」
「ええ♪ 普段殺人衝動を抑えている身としては、人型の敵を倒せるってだけで興奮しちゃうわね♪ いけないいけない。ちょっと落ち着かないと、ね」
「そうだな。初めての依頼、頑張ろうぜ皆! 敵はゾンビ……ぶちのめしてやるぜ!! な、リーグレット?」
久遠寺・ほのか(赤い目のうさぎ・d06004)に、水綴・梢(銀髪銀糸の殺人鬼・d01607)と、片桐・秀一(高校生殺人鬼・d06647)の三人の言葉。
ただ、秀一が声を掛けたリーグレット・ブランディーバ(中学生魔法使い・d07050)は、その声を無視し、さっさと先へと進んでいく。
「んー? ……どうしたんだろうな?」
「そうですね…………あ、あれじゃないですか?? 廃墟!」
秀一に頷きつつ、絢雨が指を差した先に見つける廃ホテル。
朽ち果て、おどろおどろしい雰囲気はまさしく廃墟の名前にふさわしい、そんな場所。
「いやぁ、廃墟って、雰囲気はもちろんなんですけど、昔はどうだったのかなぁって考えるのも楽しいんですよね♪ 今は……荒れちゃってるけど、元々はどんな感じだったのかな? 建てた人はどんな事を考えてここ作ってんかなって? そんな感じで、なんて言うか残った想いのカケラ探しみたいなん? あそこらへんの看板とかもいい味出てんなぁ♪」
ペラペラとしゃべりが続く絢雨。
まさしく廃墟愛が為せる語りだろうか……その語りの勢いを止められない。
……そして数分後、その語りが落ち着いた所で。
「……ほんと、廃墟が好きなんだな?」
「勿論や!」
秀一の問いに、素の大阪弁で、満面の笑みで頷く絢雨。
という訳で一通り落ち着いた所で。
「それにしても、ゾンビですか……この季節だし、やっぱり腐っているんでしょうか?」
マリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680)が訪ねると、ぶっきらぼうにリーグレット、そして優しく禄此土・貫(ストレンジ・d02062)が。
「ゾンビなのだから当然そうだろう」
「うん……もっと早く気づけていれば、犠牲者も減らせたんだろうけどね……もう今となっては、今更、かな。だからこそ、きっちりケリを付けに行かないといけない」
「そうですね……でも……も、元は人間なんだし、こういう事を考えるのは良く無いのかもだけど……臭かったり、グロテスクなのは、やっぱりちょっと苦手です……」
『ナノナノ』
マリーゴールドに、傍らのナノナノの菜々花も頷き、しょんぼり。
でも、ここで立ち止まっている訳にもいかないのだから、覚悟は決めねばならないだろう。
「それじゃそろそろ行きましょうか。はい、これ使って?」
梢が皆に渡すのはハンズフリーライト。
今回の事件は、ゾンビ達に対して肝試しを装いやってこなければならない。
だからこそ余りに明るい灯りで向かってしまえば、彼らが出てこなくなる可能性すらあるのだ。
そして各自灯りを受け取り、点灯を確認すると共に。
「行くわよ」
短くほのかの一言……そして彼女は内心。
(「……わたしはあのときよりも強くなった……アイツじゃないし、そう強くもない、大丈夫よ……」)
そんな事を呟いたのである。
●陰鬱の気配と共に
そして廃墟の中へ足を踏み入れた灼滅者達。
外とは比べものにならない程のおどろおどしい雰囲気が漂う空間。
「うん、流石に雰囲気出ているねー」
「全くやねぇ、ドキドキやわぁ♪」
貫に頷く絢雨。
まぁ楽しんでいる雰囲気なのはこの二人で……他の仲間達は、無表情だったりするのも居るけれど。
「ゾンビって、腐ってるんですよね? 近くに居たら腐敗臭で解りそうだけど……菜々花?」
『ナノナノ……ナノ』
マリーゴールドの言葉に、くんかくんかしてみつつも、小首を傾げる菜々花。
腐敗臭は感じるものの、どこにいるかは解らない……そんな感じらしい。
とは言え怪談スポットに、興味本位で来てみた若者達、という雰囲気は十分に出せているだろう。
……ただ、そんな怪談スポットに来たといえどもどこから奇襲されるかは解らないから、それぞれが前後左右を分担して警戒。
足下の廃屑などを踏み分けながら歩いていき、灯りを照らして更に先へ。
そうしていると……ガタン、という音が突如聞こえる。
「!? ……左側からみたいよ!」
梢が叫び、仲間達もその咆哮へ視線を向ける。
闇の中から、ゾンビ10体がうぅぅぅ、と呻き声を上げながら仕掛けてくる。
「ふん、最初の力試し、ゾンビ位が手頃か……よし、貴様に決めた。このリーグレット・グランディーバが貴様を滅ぼしてやろう!」
尊大に宣言したリーグレットが、向かってくるゾンビの内の一体を指さし、己の杖に魔力集中……そして轟雷を放出。
電撃にしびれたゾンビ一体。だが、うぅぅ、と呻き声を更に上げて、灼滅者達への進撃を止めない。
「さぁ、仕掛けますよ!」
「了解……」
維緒がほのかに声を掛け、二人前線上昇しつつ、ドラゴンパワーとヴァンパイアミストで、自己能力を上昇。
そしてそのサイドから秀一と、維緒のライドキャリバーが近づき、黒死斬とフルスロットルの一撃を喰らわせる。
前衛三人と一体の攻撃に続けて、今度はジャマーの梢、貫、マリーゴールドが動く。
「うう、やっぱりグロイ。菜々花、やっぱり配置変わって~!」
『ナ、ナノ!?』
「うう、だめですかぁ……仕方ないです。や、近づいてこないで、もぉお!!」
「まぁ落ち着きなさいな? 当たらないわよ?」
「そう。まぁ解らないでもないけど……ね」
そんな会話をしつつも、マリーゴールドの五星結界符、梢の鏖殺領域、そして貫がフリージングデスで牽制しつつ、バッドステータスの命中狙い。
そんな仲間達の行動を見極めつつ、絢雨もフリージングデスで連続行動。
……そんな灼滅者達の攻撃に対して、ゾンビ達は何の工夫もなく近接攻撃をベースにした猛攻。
そして、その内の一体……後方にいる一体のゾンビは。
『ウゥゥゥ……ウグゥゥ……』
低く、寒い呻き声を灼滅者達に向かって流す。
その呻き声に、マリーゴールド、絢雨が足留めを喰らう。
「っ……」
しかしそれにすぐ菜々花が。
『ナノ!!』
ふわふわハートで、まずはマリーゴールドを回復。
そして次のターン。
「やっぱり厄介な敵は後ろに居るか……絢雨、狙えるか?」
「解った、やってみます!」
秀一に頷きつつ、前衛陣は広がりつつ、ゾンビの攻撃を受ける盾になりつつも確実に攻撃を集中させ、一匹ずつにダメージを蓄積。
中衛陣は、リーグレットは定めた相手を確実に、梢がデッドブラスターとトラウナックル、マリーゴールドがレーヴァテインと五星結界符の攻撃を切り替え、命中率を下げないように工夫しつつ攻撃。
そして貫と絢雨が狙うのは、先ほどの厄介な足留め攻撃を仕掛けてくるゾンビ。
「後ろからやるのなんて卑怯だね。まぁ、こっちのこの攻撃も届くんだけど……ね」
「全くですねー!」
貫は光刃放出とマジックミサイル、絢雨はフリージングデスとマジックミサイルの交互射撃で狙い続ける。
ただ、流石にボス格の存在ではある訳で、外れる事も多い。
無論、ゾンビ達の攻撃が収まるわけもなく、次々と攻撃は繰り出され、足留めの呻き声も戦場に常々響き渡る。
「本当厄介……」
ほのかは呟きつつも……黙々と目前の相手にロケットハンマーを打ち下ろし続ける。
……そして、五ターン経過。
やっとの事で、一人目のゾンビを打ち倒し、程なく二人目も倒す。
まだ8匹……こちら側のダメージも、結構蓄積しつつある。
しかし適宜シャウト等の自己回復手段を使い、ヒールを行う事で蓄積を出来る限り減らしていく。
「やはり中々強いですね」
「そうね。でも……こういう戦いも中々楽しいです!」
秀一ににっこりと維緒が笑う。
ある意味、こうして強敵と戦えるのも、維緒にとって一つの楽しみなのかもしれない。
そして、攻撃相手を三体目、四体目、五体目……と着々と切り替えて、攻撃。
数十ターン程経過し……疲弊は激しいながらも、やっと……残るは最後のボスのみとなる。
「後はこいつだけか。さっさとトドメを刺してやろう」
リーグレットは鋭く睨み付ける。
勿論ゾンビは、何かの反応を返すという訳でもないが。
「それじゃみんな、一気に行くわよ!!」
梢の号令……そして灼滅者達の猛攻。
呻き声から、攻撃へとシフトするが、1対8では手数の量が違いすぎる訳で……じりじりとその体力は削り去られていく。
そして。
「これで……トドメだぜっ!!」
秀一がダッシュ、そして頭上から黒死斬で斬りかかると、ゾンビの身体は一刀両断に裂かれ……そして悲鳴と共に倒れるのであった。
●微笑むは闇よりも
「……終わった、みたいね」
ほのかの言葉。
息を吐きつつ、荒れた呼吸を整えていく中。
「……それじゃ」
さっさとその場を後にしてしまうリーグレット。
そんな彼女に、秀一が。
「……リーグレット、大丈夫か?」
「重傷までは、行ってない……きっと大丈夫」
「……そう、ですね。そう思うしかないと思います」
ほのかと維緒の言葉。
呼び止めても、恐らく彼女は意に介さないだろうから……それは仕方ないだろう。
……そして。
「それにしても、この死体って、放って置いて良いんでしたでしょうか?」
とマリーゴールドが訪ねる。
少し考えつつも。
「……多分、大丈夫」
「まぁ、そうですね。ここを訪れる人も、そうそう居ないでしょうし」
ほのかと貫の言う通り……ここは廃墟。
「さー、それじゃ帰りましょうかー……っと、その前に、ちょっと写真撮ってもいいん?」
「ええ、構わないわよ♪」
「わーい♪ 一杯撮るでー!!」
……絢雨の様な、廃墟好きでもない限り、そう簡単に来るような所でもない訳で。
その後、絢雨の写真撮影に暫く付き合い、そして空が間もなく白らじむ頃になって。
「それじゃお疲れ様。また逢えたら宜しくね」
梢の言葉に皆も頷き、その場を後にするのであった。
作者:幾夜緋琉 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年9月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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