●大分県別府市・鶴見岳
何体ものイフリート達が、続々と鶴見岳に集結している。
イフリート達の体毛によって、燃えるように煌々と輝く鶴見岳。
頂上には、一体のイフリートが存在した。
他のイフリートを圧するほどに大きく、威厳に溢れたその姿。
イフリートの首魁は、配下の前でゆっくりと力を練り、人間の姿へと変貌する……。
……人の形へと転じたイフリートの首魁。
少女のようなその姿は、居並ぶ配下の幻獣達に向かい、唸り声の如き少女の声で命じる。
「ガイオウガノメザメハチカイ。ケダカキゲンジュウシュヨ、コノクニノクサビヲクライクダキチカラタクワエタノチ、ソノチトニクヲ、ガイオウガニササゲヨ! サスレバ、ガイオウガハゼンナルイチノゲンジュウトナリテ、ナンジラトトモニクンリンスルデアロウ!」
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小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)から、話を聞いているかも知れないが、別府温泉のイフリート事件で新たな動きがあったようだ。
灼滅者であるお前たちが、別府温泉でイフリートを灼滅してくれたおかげで、強力な敵の復活は防げたようだが……敵は新たな一手を打ってきたってわけだ。
別府温泉の鶴見岳に出現した多数のイフリートが日本全国に散り、各地の眷属や都市伝説をその牙に掛けようとしている。
その目的は、おそらく、鶴見岳に封じられた強大な存在を呼び起こす事。
全国に散ったイフリート達は、これまでに現れたイフリートを焚き火とするならば地獄の業火と呼ぶにふさわしい! それほど危険な存在だってことだ。
だが、このまま見て見ぬ振りをする事はできない。更にカオティックな事態を招いてしまうことは火を見るより明らかだからだ。
どうか、このイフリートを灼滅をしてくれ。
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「ねぇ、らっくん、落語やらないの?」
人懐っこそうな少年が、隣に座る友人に話しかけている。
くせっ毛で、猫のように愛嬌がある。しゃべり方も軽妙で心地よい。
対して友人は、目つきの悪い、不良然としていて、どらの鳴るような不機嫌そうな声で一言。
「やらねぇよ」
人懐っこい少年は、大げさに手を上げて。
「もったいないなぁ。せっかくそんな迫力のある声してるのに。らっくんがラクダをやったら、絶対面白くやれるよ? 僕が保証する」
「あんな長えの、誰が覚えるか。だいたい落語家はてめえの夢だろうが。俺を巻き込むなよ」
「いいじゃん。らっくん、やりたいことないんでしょ? 僕と一緒に落語やろうよ。行く行くは圓楽、談志の同時襲名だよ!」
「所属から違うし、先代死んだばかりじゃねぇか。二、三年前に」
とか会話をしながら、なおも少年が友人に粘り強い勧誘を続けているところに、そいつは現れた。
炎をまとった狼。
「……な、犬? いや、違う……狼!?」
跳びかかってくる狼に、少年は友人を守るように前に立つと、その姿を変えた。
和服を着た、小さい鹿の角を生やした姿へと。
現場は横浜戸塚区にある広い交差点。
鹿丸の友人を含め一般人が数多いので軽く避難誘導して欲しい。
襲撃されるのはご当地怪人『花の鹿丸』。
人間名、花田与太郎。
浅草ではなく、横浜周辺の落語のご当地怪人。
完全に闇堕ちしているダークネスだが、マイナー系なのであまり戦闘力は高くない。高校生として地道に落語好きを増やし、落語で文化的な世界征服を狙っている。
襲撃者はイフリート『毒風狼』。
毒の風を吹かせ、ギザギザの牙をもつ、人間大の狼型イフリート。
単純に基礎能力も高い強敵。
イフリートが不良達を撃破する前にどちらかに接触を図った場合、バベルの鎖によって察知され、襲撃自体が発生しなくなる可能性があります。
あえてそれを選択するということなら止めませんが、慎重に行動してください。
「強敵だが、お前たちなら地獄の業火さえ鎮火できると俺は信じてる! 頼むぜ!」
参加者 | |
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篠原・小鳩(ピジョンブラッド・d01768) |
苑・バサラ(金剛夜叉・d02157) |
ヴェルグ・エクダル(逆焔・d02760) |
八握脛・篠介(スパイダライン・d02820) |
丹生・蓮二(エングロウスエッジ・d03879) |
服部・あきゑ(赤鴉・d04191) |
松田・時松(トトロイマニ・d05205) |
アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダー・d07392) |
●
「早く逃げて!」
花の鹿丸は友人に告げた。
突然現れた狼型イフリートの目的はわからない。ただ、相当強力な個体であることは伺い知れる。
「けど、そいつ、ただの犬じゃねぇ……」
「早く逃げろってぇのが聞こえないのかい?」
鹿丸の鬼気迫る態度にただごとならない事態を感じて、友人は身を翻す。
「これでよし……!?」
友人の退避を待たずして、狼は大きく口を膨らませ毒を含んだ風を吹く。鹿丸はとっさに友人の背後を守るように飛び出した。
「ぐ……のんきに太華でラーメンすすってる場合じゃなかったね、こりゃ……」
この近くには駐車場があり、そこそこ人通りがある。突如始まった異能の戦いに場は騒然となるが、鹿丸はそんなことは構っていられない。よそ見のできる相手ではない。
狼の爪を避けて側面へ回り込み、十連続パンチ。
「一つ二つ三つ四つ五つ! 今何時だい? 『二つです』三つ四つ五つ六ー七、八、九つ十っ!」
どう見ても十回以上殴りつけ、最後に思い切り吹っ飛ばす。拳は的確に狼の胴体をとらえ、急所を突いたようにも見えたが、狼は空中でくるりと回転し、平然と着地した。
(「駄目じゃ。実力の差がありすぎる」)
八握脛・篠介(スパイダライン・d02820)の目にも勝負の行方は明らかだった。一対一では遠からず鹿丸が敗北するだろう。
篠介達は近くに身を潜めていた。
バベルの鎖があるので不用意な行動はとれない。友人の盾となる鹿丸を救いたいという者もいたが、身を切られる想いで傍観に徹している。
松田・時松(トトロイマニ・d05205)は建物の陰に。戦う怪人の姿はよく見える。その傷つく姿も。
(「怪人とはいえ、目の目で殺されようとしている場面をただ隠れて見ているしか出来ないとは……仮にも、ヒーローなのにね。悔しいな……」)
手にある妖の槍は人を救うためだけにあるのかと自分に問いかける。
(「……予知通りに進めないといけないとわかっていても、心が痛みます、よね」)
篠原・小鳩(ピジョンブラッド・d01768)の視線の先で、鹿丸の体が焼かれ肉を裂かれる。
アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダー・d07392)の、ライドキャリバーのハンドルを握る手に力がこもる。
ヒーローとして生きると決めた者が、もしその生き方を自分自身で裏切るとしたら、それはもう、ヒーローじゃないなにかになる……。
(「危険をさらして友を助ける者を、見捨てる理由なんてない」)
それが、いつか自分達が灼滅するダークネスだったとしても。
これは偽善と言われるのだろうか。
「どうする気だ」
彼の肩をつかんだのは丹生・蓮二(エングロウスエッジ・d03879)だった。
今にも飛び出して行きそうに見えたからだが、彼とて自制するだけの理性は残している。拳を固く握り、もう片方の手の平に打ちつけた。
「……なんでもない」
「……そうか」
蓮二は冷静であったが、それは彼の薄情さを表しているわけではない。
戸塚は彼の地元だ。依頼モードにスイッチしているので状況の観察に集中できているが、見覚えのある風景がイフリートの炎に脅かされる現状は、彼の心をせき立てる。霊犬のつんは彼の心情を察するように見つめていた。
「こっちは危ねぇぜ、婆さん。悪いことは言わねぇ、他の道を通りな」
ヴェルグ・エクダル(逆焔・d02760)は一足早く、避難誘導を始めていた。毒風狼が現れたことで、その場にいた一般人は逃げてきていて、ぶつかりそうになった老婆を今、かばったところだ。
遠くに見えるダークネス同士の戦いは、どこか非現実感を伴っていた。自分もそちら側の人間だというのに。
これは心の防衛機能かなにかだろうか。でなければ感情移入しすぎて、槍を振るう手が鈍ってしまうかも知れない。鹿丸だってダークネスに違いないのに。
「……」
ヴェルグはほんの僅かに苦い表情を浮かべて、敗北の色は明らかとなった鹿丸の姿を見続けていた。
ふいに、彼の横を誰かが駆け抜けていく。それは逃げたはずの男だった。
●
鹿丸の片腕は既に焼け焦げて、全身を自らの血で染めている。相手にも手傷を負わせているが、もはや命運は風前の灯火。
「あじゃらかもくれんきゅうらいそう、てげれつのぱぁ……へへ、ダメだ。消えてくれねぇ」
燃え盛る炎の牙が鹿丸の左腕を喰いちぎり、そうして怪人は敗れた。狼は肉を喰い、血をすする。
「そうかぃ、お前さん、エナジーを……」
「てめえぇ! 与太を離しやがれ!」
友人は調達してきたらしい自転車で狼に突っ込む。無駄だ。たかが一般人がダークネスに敵うはずもない。軽くひねられて彼も死ぬ。
「やめてよ、ラクゴ!」
だが、その無謀な突撃を止めることさえ鹿丸にはできない。止めたのは苑・バサラ(金剛夜叉・d02157)だった。片手で強引に自転車から引きはがす。
「なにしやがる!」
「……それで誰かの気が済むならいいんだけどよ」
バサラの飄々とした態度に文句を言おうとした、友人の顔に唐突なおびえが走った。友人は不良然として血気盛んに見えるが、湧きあがる怖気を抑えきれない。
その原因は、バサラではない。
いつの間にか影のように現れ、飛び込みざまの閃光百烈拳を狼にたたき込んだ、派手な出で立ちの、赤い髪の女。
服部・あきゑ(赤鴉・d04191)。
「花の鹿丸、お前は敵だ。いずれ必ず灼滅する敵だ! だから情けもない、許しもしない、助けもしない」
あきゑは朗々と、よく通る声を戸塚の空の下に響かせる。
「けれど、お前が守ろうとした友達は人間だ。だから……お前が愛した友達も、落語も! 全部あたしが守ってやる!」
狼は鹿丸にとどめを刺そうと立ち上がり、その前に立つあきゑ達に襲いかかる。だが、その狼の体に、横手から放った時松のビームが炸裂し、体勢を崩したところへ小鳩が飛び込んでチェーンソー剣を突き立てた。高速で回転する刃が、狼の肉をこそぎとる。
「ガルゥウァ!」
その間に、アレクサンダーはバサラから友人を受け取りライドキャリバーの後部に乗せた。なお抵抗しようとする友人に、あきゑは、
「あたし達は君の友達を助けず、君の友達を利用した。そのことには言い訳はしないよ。だけど、奴が君を助けようとした気持ちは信じられるよな? だから、今は黙って、逃げろ!」
そいつは任せた、というあきゑの視線にアレクサンダーは黙って頷きを返す。
走り出すライドキャリバー。
友の名を呼ぶ声。
逃げ遅れていた人の避難誘導を開始した篠介は、すれ違いざま友人に声をかける。
「きっと忘れちまうだろうが、花田はお前さんを守ったんじゃ。助かった命を無駄にするな、逃げて生きろ」
●
「ヒーロー相手でもねぇのに消えるなんて無様はしねぇよな、怪人?」
……生きてろよ、もう少し。
あきゑは笑いかけ、バサラと共に狼へ踊りかかる。時松も、ご当地エネルギーを集中させて妖の槍パセキラウニを構え直した。
「さあ、狼狩りといこうじゃないか」
その後ろ姿を、鹿丸は頼もしく思いつつうそぶいた。
「へへ、灼滅者風情が。嬉しいじゃないか。前座以下の手習いに、こんなに集まってくれるとはね……」
狼はあきゑの千枚通しを跳んでかわし、あきゑが本命のロッドの一撃を放つ瞬間、体当たりをぶちかました。振り向きざまに振るわれた牙を、しかしバサラは屈んだ格好で金剛杵槍によって受け止め、代わりにチェーンソー剣を狼の首筋に突き入れる。炎のような返り血がバサラの顔を染めるが、暴れるように繰り出した狼の爪に薙ぎ払われた。
「ほら、こっちだよ」
時松のビームが狼を焼く。狼は俊敏にそれをかわすが、時松は続けざまに何度もビームを放ち、いくつ目かのビームが狼の脚を貫いた。その瞬間、小鳩が両手の武器に炎を灯し、迫る。初撃を跳んでかわされるも、更に踏み込み槍の穂先を狼に届かせた。けれど、浅い。
小鳩はそこから、更に踏み込んでレーヴァテインを突き入れた。小鳩の異なる炎が狼の炎を駆逐する。振りほどかれぬよう必死に食らいつき、
「帰って、くだ……さい! 封印とか、何が封じられてるか、なんて知りません。迷惑なのですっ!」
「ガアアアァ!」
しかし、狼は武器を刺したままの小鳩ごと近くのビルの壁にぶち当たり、小鳩から逃れると、時松に怒りの視線を向けながら、けれど惑わされることなく、当初の目標へ向けて駆けだした。
鹿丸はもう逃げる力を持たず、狼の牙を逃れる術はない。
「こいつはあれだね、スレイヤーズでいうところのシャブラニグドゥを倒したところだ。『は? どういう意味だい?』一巻の終わり、というわけさ」
鹿丸はこの後に及んで人懐こい笑みを浮かべ、あろうことか目前の狼を見ずにいる。たかだか強いだけの狼よりも、よっぽど手強いライバル達に語りかけ。
「……お前さん方はヒーローさ。僕の宿敵さ。胸をおはりよ」
狼の顎が鹿丸の心臓を喰い破った。
それがとどめ。
狼は、駆けつけた篠介のディーヴァズメロディの直撃を受けながら、それから逃れるように跳躍する。
うつ伏せだった鹿丸は最後の力を振り絞って正座すると、深々と頭を下げるように、崩れ落ちて最期の一席を終えた。
「……お後がよろしいようで」
●
アレクサンダーは離れた場所で友人を降ろすと、毒に侵されているのに気づいて治療を行った。
「……おい、大丈夫か」
命に別状はないはずだが、友人は呆然としたまま立ち上がらない。
アレクサンダーは何が起こったのか悟った。
ただの人に過ぎない友人に、そのことを察知する力などないはずだが、それでも。
「……信念を捨てたヒーローなんざクソ喰らえ、だ」
ぎり、と歯噛みする。
彼は知らない。誰も知らない。
鹿丸が宿敵であり続けることを望んだことなど。来世では落語で勝負と思ったことなど、灼滅の向こう側へ持っていってしまった。
けれど、なんのESPの仕業か、鹿丸の声が聞こえた気がした。
「……クソ喰らえ、だ」
●
「強ぇなあ……震えが止まらんぜ」
そう言いながら、バサラの顔には笑みが浮かんでいた。死ぬかも知れない恐怖と危険を楽しむ気持ちが混在する笑みだ。
篠介は黒いオーラで刃をくるみ、狼を斬り裂いた。確実な手応えであったが、狼炎の勢いは衰えを見せない。
避難誘導を優先していた仲間達が合流し、本格的な攻勢を始めて、改めて思い知る。
こいつは強敵であると。
「ガルルゥ」
「ガルガル煩ぇな……人語でしゃべれよ。手前も元人間じゃろうが!」
篠介を追う狼に、ヴェルグの妖の槍アンサズの穂先が触れる。浅い傷だが、注意の矛先を自分に向けるのが目的だ。自分が健在な内は後衛に手は出させない。ヴェルグの視線に気づいて、篠介はありがたくその場を退いた。
ズザァッ!
舗装された道に摩擦音を立てて、高速で狼の死角に回り込んだバサラは金剛杵槍の穂先で後脚の腱を断つ。生半可ではない。腱だけと言わず、足首をそのまま刈り取るような一撃。狼は怒りの滲む吠え声を上げ、時松のビームを避け、片足で器用に跳び上がる。
「……! 違う!」
ヴェルグが叫ぶ。狼は回避したわけではない。大きく開かれた顎から、眼下に向けて、鉄をも焼き切る灼熱の業火を放出する。爆炎はたやすくバサラ達を飲み込み、焦熱の内にすべてを無に帰した。
「……ッァ!」
否。
とっさにバサラの前に躍り出たヴェルグが、自ら盾となることで仲間への炎を防いだ。時松達も炎に巻かれながら、転がり出る。
ヴェルグは言葉にならない叫びを発し、まとわりつく炎を打ち消した。全身に火傷と傷と毒による腐食を抱えながらも、鬼気迫る表情で狼を睨み上げる。
自分の体が後何分も保たないことはわかっていた。けれど、意識の途絶える一瞬まで、喰らいついてやろう。
平和な日常は炎に焼かれ、毒の風の吹く、地獄と化した。さながら地獄の番犬と剣交わすように。
「故郷の寒さが恋しいよ」
汗すら蒸発する戦場で、時松はそうつぶやく。狼が自分を狙っている。あれだけビームを撃ち込んでやったのだから当然だ。呼吸を整え、そのときを待つ。
狼は正面からやってきた。どうせもう避けるだけの余力はない。狼の顎が時松をとらえ、牙が臓腑にまで届く。衝撃に目が霞んだ。
「このっ!」
時松は最後の力で短く持った槍を狼の鼻先に叩きつけた。そっちからやってきたのだから、逃がすものか。
そこへあきゑが飛びかかる。
「力を貸してくれ、なんて言わねぇさ。勝手に借りるぜ……必殺、葬礼蹴りぃぃ!」
炸裂。
衝撃で炎と煙が逆巻き、しかし、その中から狼はゆらりと悠然と歩み出る。地面には血溜まりに沈む時松。
普通のイフリートなら今ので倒れておかしくはない。けれど、あきゑ達の前にいるのは数段格上の敵なのだと、まざまざと思い知らされた。
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「さぁて、どうするか……」
蓮二は惨状を見て、頭を抱えた。
あれから、ヴェルグ、あきゑと次々に倒れ、薄くなった前衛へ小鳩がディフェンダーとして入っている。蓮二はもう何度リングと護符を放ったか覚えていない。狼は片足を引きずり、氷のこびりついた毛皮は破け、かなりの負傷。けれど瞳は爛々と赤く輝き、最期の一瞬まで戦い続ける強い意志を感じさせる。こいつの体力は無尽蔵かと思うが、そんなことはないはずだ。
「仕方ないな」
蓮二は篠介達と言葉を交わし、次誰かが倒れた場合の撤退を提案すると、リングスラッシャーを放ちながら、狼の眼前へと飛び込んでいった。
「きゃぁっ!」
小鳩の体がビルの壁に叩きつけられた。全身がバラバラになるような衝撃。口の端から血が垂れ落ちる。こぼれ落ちそうな意識を、かろうじて繋ぎ合わせた。
「これでどうだよ!」
頭上から舞い降りたバサラの雷を帯びた槍が狼の背の破けた皮膚に突き入れられる。肉を抉り骨を砕き雷撃で焼く。もっと深く、もっと強く。渾身の力を込めて。
だが、狼は倒れず、必死で振り落としたバサラを噛み砕いた。
「ダメ、か……だがおまえら幻獣なんぞに使ってやる力はねえ。とどめは任せた」
バサラは確信していた。
今ここで自分が倒れても、仲間が必ずこいつを灼滅することを。
その信頼に応えるべく、アレクサンダーと篠介は全力の援護を蓮二に送った。
バサラの一撃で大きくぐらついた狼。そこへ機銃が掃射された。
この一撃がとどめになる。
蓮二はそう悟って、つんと呼吸を合わせて、リングスラッシャーを放ち、遂に狼の炎をかき消した。
●
花田与太郎の亡骸に向き合う友人の姿を見て、ヴェルグは声をかけようか迷う。
最善を考えた作戦だ。
不用意な行動をすればもっと多くの命が失われた可能性だってある。ヴェルグ達はなにも間違っていない……けれど、
(「……アイツにとっては友人を失った戦いだ。何も言えねぇよ」)
結局、言葉を見つけられず、ヴェルグは待っていた篠介達と共に、そっとその場を立ち去った。
作者:池田コント |
重傷:苑・バサラ(金剛夜叉・d02157) ヴェルグ・エクダル(埋み火・d02760) 服部・あきゑ(赤烏・d04191) 松田・時松(女子・d05205) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年1月16日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 13/感動した 8/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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