楔を喰らう炎獣～御神木に牙穿つ獣

■リプレイ

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「御神木ってのは神様の宿る木、ですね」
　エクスブレインが予測した場所で、その御神木に触れながら茅薙・優衣（宵闇の鬼姫・d01930）が言う。
「どうかしたか？」
　志賀野・友衛（中学生神薙使い・d03990）が聞けば、いえ……と前置きしつつ優衣は。
「火山である富士山にイフリート……ご神木を倒したら噴火するとかって言うのは洒落になりませんよね」
　友衛は少し考えてから、一応皆にも伝えておこうと提案する。
　やがて御神木が視認できる境内の物影に灼滅者８人は身を潜める事に。
「うう、夜の神社って怖いよね……」
　幽霊系が苦手な橙堂・司（獄紋蝶々・d00656）が薄らと星明かりに浮かぶ神社と御神木を交互に見上げつつボソリと呟く。
「ダイジョーブ、１人じゃないわ」
　西土院・麦秋（ニヒリズムチェーニ・d02914）が司の肩に手を置きながら笑顔で安心させ、司もこくりと頷き暗がりへと身を潜める。
「それにしても、どうしてイフリートは他の眷族を……」
　ライドキャリバーと共に身を潜めながら九条・都香（凪の騎士・d02695）が言う。
「イフリートが他眷属を倒す理由ねぇ……ダメね、アタシ推理はニガテ。ま、ゴチャゴチャ考えてないで行きましょっか」
　麦秋の言葉に都香も拳を握り込む、ドドドと何か巨大なものが走ってくる音が近づいて来る。時刻はあと数秒で……。

　深夜２時、その神社の御神木の前に少しずつ巫女の都市伝説が実体化する。
　その瞬間、ドドドと近づいていた音が静まり返り、上空から真昼の如き紅い光が照らされる。
　ズズンッと巫女の前に上空から跳んで来た炎の神獣が降り立ち、巫女が反応するより早く、地面すれすれを鋭い牙の並んだ口が走り、そのまま巫女をバクリと咥え込みそのまま口で天に掲げる。
　灼滅者達はイフリートと都市伝説の巫女がどの程度の激戦を繰り広げ、そしていつ終わるかのタイミングを見極めようと息を殺して待機する心づもりだった。
　だが、次の瞬間。
　ズバンッ！
　牙に炎が灯り燃え上がるとまさに一噛み。
　巫女が真っ二つに噛み千切られ、そのまま夜の空でキラキラと柳花火のような粒子を引きながら消えていく。
『オオオオオォォォォォッ！！！』
　遠吠えするように空へ吠える炎の獣。
　今まで見聞きしたどのイフリートより圧倒的な強さだった。
　――ュイーンギュルルル！
　上空から響く駆動音。
　炎獣が遠吠えを止め、天を向いたままソレを視認。
　黒いロングコートをはためかせ、覗く瞳は紅色、その手に持つチェーンソーが一気に――ズシャ！
　炎獣の右目を斬り裂き着地したのは柩城・刀弥（高校生ダンピール・d04025）だった。
　突然の出来事に炎獣は両前足を持ち上げるように仰け反る。
「まず一発！」
　その隙を逃さず獅子堀・磨璃華（本当は怖い赤毛のアン・d01031）が炎を纏った巨大スパナで胴を薙ぎ、瞬後、楪・奎悟（不死の炎・d09165）の放った光輪が地を這うように飛び、胴を叩かれ自重が掛かった足を傷つける。
　周囲の木々を圧し折りながらドウッと倒れるイフリート、そこに他の仲間が絶妙のコンビネーションで攻撃を重ねる。
「ガイオウガだか何だか知らねぇが、ダークネスは灼滅するのみだ！」
　土煙の向こうで倒れる炎獣に向かって奎悟が宣言する。
『グラアアアアァァァッ！！！』
　巨大な吠え声が富士の裾野に響き渡り、大気を震わす怒号が土煙を散らす。
　そこにはほぼ無傷のイフリートが四肢を踏ん張り立っていた。
　唯一の傷は右目のみ。
　灼滅者達はその強さを肌で感じ、幾人かはこの戦いに臨む際の己の覚悟を再認識する。
　傷付いた右目に炎が灯り、神話の炎獣は小さな反逆者達へと襲いかかる。

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　イフリートが大きく息を吸うと同時、爆炎が灼滅者へと押し寄せる。
　咄嗟に磨璃華の前に縛霊手を構えた優衣が割って入り、ライドキャリバーに乗った都香が友衛を引き上げるように炎の主軸から庇ったが、その勢いを完全に殺す事はできない。都香に至っては今の一撃で半分はもっていかれただろうか。
　だが、灼滅者達も負けていない。庇われると同時、磨璃華は炎のブレスが途切れるタイミングで炎獣へ接近、片手で巨大スパナを握ったまま炎を灯した一撃を叩き込む。だが――。
「なっ！？」
　その一撃は大地に火花を散らして終わり、半歩後退したイフリートが磨璃華を睨みつけ、再度飛びかかろうと力を貯める。
「行かせないよっ！　おとなしく鎖につながれてなっ」
　優衣が甲に鬼面を模った朱色の縛霊手を掲げイフリートの周囲に結界を張り巡らせる。
　炎獣は身震い一つ、それだけで結界がひび割れ砕け散る。
「そんな……それだけで！？」
「いや、助かったぜ」
　イフリートの強さに驚く優衣に、それでも気を逸らしてくれたおかげで助かった磨璃華が横に並んで礼を言う。
　だが、灼滅者達は理解し始めていた、相対する獣の強さを、その圧倒的な能力の差を。
　しかし、その差にひるむわけにはいかなかった、彼らの作戦はその差を埋める為の下準備を必要とするからだ。
　ダラララッ！　とライドキャリバーから機銃掃射しつつ回り込むように都香が炎獣の気を引きながらも、自らは集気法にて自己回復を行うがそれで全快する程傷は軽くない。
　その都香に炎獣が向かおうとするが、伸びた影が足を絞め上げるように捕縛し動きを止める。
「……させないよ」
　司だった。
　強引に影を引き千切る炎獣に対して、妖気を冷気に変換したつららが襲いかかる。
　咄嗟に首を廻らせつららを弾くものの、角の一部が氷漬けになるのを友衛は見逃さなかった。
　角が凍り、炎獣の意識が僅かに逸れた瞬間、死角へと潜りこんだのは刀弥だ。
　そのまま足をぶった切ろうとチェーンソーを振り切る。
　しかし半ばで刃が止まり、そこを援護するかのように後衛から飛びこんで来た奎悟が同じく黒死斬を叩き込む。
　その衝撃で足からチェーンソーを引き抜き、距離を取る刀弥。
　一連のコンビネーションが終わる間際、心地良い音が響き前衛で戦っている４人を癒す。麦秋のリバイブメロディだった。
「まだまだ！　こんな所で終わるアタシ達じゃないわよ！」

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「雷神（カンナイ）！」
　都香が至近距離から雷を纏った拳を叩き込み、イフリートが呻き声を上げる。
　すでにライドキャリバーは爪で斬り裂かれ動かなくなっていたが、灼滅者達が積み上げたバッドステータスの山は、確実に炎の獣の身体を蝕んでいた。
　吠えるイフリートの目の前に自身以外の炎が映る。
「どこ見てんだ。潰すぞ」
　ガッシと角を掴む磨璃華は、身体中の傷から炎が吹きあがっており、もう片方に持つ巨大スパナが弧を描き、喧嘩でもしているかのように乱暴にイフリートの眉間殴りつけると炎獣が衝撃で横倒しになる。
　敵との能力差は圧倒的であり、ゆえにその得意分野で戦えば回避される。その差を埋める為にバッドステータスで回避率を下げるという作戦は正解だった。
　すでに炎獣に当初の軽快な動きは無く、得意分野においても灼滅者の攻撃が五分五分にて命中し始めていた。
　だが、灼滅者達はすでに、かなりの時間を戦っていた。
　この時間帯で……そう、やっと五分五分、命中し始めたのだ。
　それが意味する事はつまり――。
　ギャリギャリという呻りと共に刀弥のチェーンソー剣が紅く染まって行く。
　起き上がろうとする炎の獣。
　無言で狙いを定め刀弥が滑るように接敵、傷口へとチェーンソーを突き込み相手の都合などお構いなしにその生命力と魔力を吸い取る。
　イフリートは飛び跳ねるように刀弥を弾き飛ばすと、一足飛びに次の獲物として……優衣を牙に掛ける。
　右の肩口をがっつり食い千切られるも、すぐに奎悟の小さな光輪が傷を癒す。
「アンタの強さを信じてる。がんばってくれ！」
　奎悟の言葉にコクリと頷く優衣。
　しかし肩口の傷は大きい、奎悟の回復だけでは正直足りていない……だが、それでも拳を振るうぐらいは回復しており、優衣にとってはそれで十分だった。
　チラリと肩が動く事を確認すると即座にイフリートに向かって動く。
「くらえ！　閃光百烈拳！」
　左右の拳が光の軌跡を何度も描き、獣の顔面に小さなクレーターを幾つも作ったかのような衝撃を与える。
　さらに――。
「私も混ぜさせてもらう」
　友衛が横に並び、さらに光の軌跡が倍となって炎獣へ襲いかかった。
　あまりの衝撃に、イフリートが１歩、２歩とたたらを踏み肩で息をするように四足で踏ん張り息を整える。
「ヒュウ♪　まだ倒せないなんて……さっすがねぇ……じゃ、コッチもテンション上げて行くわよ！！」
　戦い自体を楽しんでいるかのような口調で麦秋が言い、そのまま前衛達を癒しの音で回復させる。
　もっとも、深刻なのはどちらかと言えば灼滅者達の方だった。
　今まで受けた傷は全快してもしきれず、これでは敵の１撃を喰らえばその瞬間倒れてしまう程。
「ボクに……続いて……」
　司が鋼の糸でピンポイントに炎獣の傷をえぐり、そこに――。
「はぁぁぁっ！　オーラキャノンっ！！」
　鋼糸をなぞるように放出した優衣のオーラが同じ場所へ着弾する。
　だがイフリートもやられっぱなしではない。が司の手へ戻ろうとする鋼糸をガッシと咥え、力任せに引っ張ろうとする。
　咄嗟に鋼糸から司が手を離し、イフリートはその鋼糸を後ろに振り向くように投げ捨てる。
　しかし、再び灼滅者に目を向けた炎獣が見たのは、スッと空いた手には光の剣を握る司だった。
　武器は鋼糸だけでは無いのだ。

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　敵の命中や回避率は下がっているが、その驚異的な攻撃力は変わる事なく、そして灼滅者達はその肉体としての限界が近づきつつあった。
　磨璃華も身体のあちこちから血を流し、それが炎となって燃えている。自分が限界を越えて魂の力だけで立っている事を磨璃華は理解していた。
「大丈夫か？」
　だから優衣に心配されれば。
「なに、やっと体が温まって来た所だッ！」
　そう、答えるのだ。
　もちろん優衣も心情穏やかではない、なかなか当たらない攻撃にイラつきもピークだ。
「行くぜ」
「ああ」
　磨璃華と優衣が同時に炎獣に走り込みつつ、磨璃華だけが途中でジャンプ。
　上下に別れた２人に対しイフリートは一瞬だけ躊躇が生まれ、その隙に優衣が愛用の縛霊手を振りかぶり、その鼻先へと叩き込む。
　同時、網状の霊力が展開、イフリートの身体を締め付ける。
　優衣が作った僅かなその数瞬に、磨璃華は炎獣の背に降りると背骨に向かって炎に包まれたスパナを振り下ろす。
「お礼を、しないとなッ！」
　それは構えなど無く、型など無い、ただ背骨に向かって殴りつけるだけの雑な、ゆえに恐ろしく凶暴な攻撃だった。
　振り向くように背にいる磨璃華へと視線を向けるイフリート、だが、視線を外したその隙に全力で駆け寄った者がいた。刀弥だ。
　炎獣が気がついた時にはもう遅い、喉の下にまで迫っていた刀弥が死角からチェーンソーを振り抜き、その喉を掻っ切った。
「そのまま消えろ、ダークネス……」
　よろりと後退するイフリート。
　もしこれが普通のイフリートであったのなら。
　もし前半、灼滅者達の攻撃がほぼほぼ命中してダメージを与えていたのなら。
　ダークネスはこの一撃で灼滅されていただろう。
　だが――。
『ガアアアアアァァァァァッ！！！』
　このダークネスは普通のイフリートよりも俄然強敵であった。
　イフリートは怒号のように吠え声を上げ続け、そのままグンッと灼滅者達へ爆炎の玉を４つ吐きだした。
　巻き込まれたのは磨璃華と優衣、友衛と都香だ。
「おいおい、っざけんなよ……」
「ぐっ……」
　磨璃華と優衣が倒れる。
「九条！？」
　そして友衛は目の前に立ち、自身を庇った都香に声をかける。
　咄嗟に１人でも助けられればと都香は近くにいた友衛の前に割って入ったのだ。
「くっ、流石にそう何度もは、無茶だったみたいね……」
　三戦立ちのままぶすぶすと煙を上げる都香が、ゆっくり倒れ伏す。一度凌駕していた身、二度目はなかった。
　そして残った灼滅者は……５人。

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「弱い俺に価値はない……回復するなら、他を……頼む」
　友衛が皆を守る立ち位置に移動している間、ほぼ１人で炎獣を相手どっていた刀弥が、最後に仲間を気遣いつつ炎に沈む。
「どうする！？」
　刀弥の言葉通り、友衛を回復しつつ奎悟が聞く。それは撤退するか否か、だ。
　だが、傍からみてもイフリートはすでに初期の半分も体力は無いだろう……それなら――。
「相討ち覚悟でも、倒すべきだ」
　押し切れる可能性があるならと友衛が言う。
「フッ……楽しくていいわね！」
　相談していた撤退条件には当てはまらないなら、この戦いを最後まで楽しむのも悪くないと麦秋。
「ヤろう……ボク達なら……できるよ」
　司がそう言うと共に、４人が一斉に攻撃を開始する。
　だが、僅かな、本当に僅かな差だった。
　その刃は届かず、その首が、凶暴な牙の並ぶ口が……司に迫る。
　目の前に広がる牙の群れに、一矢報いようと構えた時だ。
　その口に友衛が飛び込んだ。
「え……」
　それは守る為とはいえ、強引なやり方だった。
　槍をつっかえ棒にして口が閉じるのを耐える友衛と、司の目が合う。
　それは仲間を信じるからこそ。
　炎獣は首を強引に横に振り付近の神社へと友衛を叩きつける。
　ぐったりとして動かなくなる友衛。
　だが、それと同時にイフリートが倒れ伏し、そのままピクリと動かなくなる。
　見ればその腹には数本の、司が放った光の刃が突き刺さっていた。

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「灼滅、できたよな……？」
　呆然と呟く奎悟。
　厳しく、辛い戦いだった。
　だが、僅かずつでも積み上げた力が、今回の勝因と言っても過言では無い。
「イフリートの目的とかは……探す気力は無さそうかしら」
　倒れた仲間達が致命傷では無い事を確認しつつ、麦秋が言う。
「御神木は……守れたね……」
　消えていくイフリートの横で、座り込むようにして司が言う。
　見上げる御神木は、最初に来た時より少しだけ、怖くなくなっていた。

作者：相原あきと	重傷：獅子堀・磨璃華（本当は怖い赤毛のアン・d01031） 茅薙・優衣（宵闇の鬼姫・d01930） 九条・都香（凪の騎士・d02695） 志賀野・友衛（道標・d03990） 柩城・刀弥（大学生ダンピール・d04025）  死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年1月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 14／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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