楔を喰らう炎獣～豪獣、荒れ狂う

■リプレイ

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　凍えるような冷たい風が吹き抜けていく。それを感じながら笠井・匡（白豹・d01472）が小さくこぼした。
「あれですね」
「で、ござるな」
　その木々に身を潜めながら匡が言うと、牙神・京一（鉄槌の愛犬家・d02552）もしっかりとうなずく。
「まごうことなき、ばすたあぴっぐでござるな」
　独特の発音でバスターピッグの存在を口にした京一に、霊犬のコマも肯定するようにその尾を一振りした。
　その豚の体に二門のバスターライフルを装着するその姿は、明かに自然の生物としては一線を画している。その異形の姿を発見した匡は小さくだが確かに手を振った。その合図に気付き、仲間達の中で更科・五葉（忠狗・d01728）が呟いた。
「問題は、いつイフリートが来るか、だな」
　バスターピッグ達から吹き付ける風を感じながら、五葉は迷彩色の服で地に伏せる。相手は強敵だ、だからこそ充分な備えをしたい、その想いゆえの工夫だ。
「強力なイフリートかぁ……不謹慎かもしれないけど、ちょっとワクワクしちゃうよね♪」
　鈴鹿・巴（吶喊型鉄拳少女・d08276）はそう笑みをこぼす。今まで戦ったイフリートよりも手応えがあるのならば――そう期待せずにはいられなかった。
（「……なんだ？」）
　先行していた匡は不意に、その風の流れが変わる――そう感じた。
　いや、そう錯覚させる程の暴威がこちらへと近付いて来ているのだ。その足音を遠くから聞いて、ツェツィーリア・マカロワ（ロックンロードロコケストラ・d03888）が口元を歪めた。
「いい音させてるじゃないか」
　力強い躍動を感じるリズムカルな足音だ。その異変に三体のバスターピッグも気付いたのだろう――足音の方へと銃口を向ける。
『オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオッ！』
　いた。巨大な猫科の肉食獣に似たフォルム。燃える灼熱の毛並み。そのこめかみから伸びるねじれた二本の角――その姿の迫力に、遠くにいたはずの幸祝・幸（不幸中の災い・d00040）が息を飲んだ。
（「……すごい」）
　その強烈な生命の躍動は、恐怖を呼び起こすと共に感動さえも覚える。
　地響きを立ててバスターピッグ達へと近付いたイフリートが、その口から炎の奔流を吐き出した。ゴウ！　と津波のように叩き付けられたバニシングフレアは容赦なく、バスターピッグ達を飲み込んでいく。
『ぶ、ぶひぃ！！』
　そのイフリートへバスターピッグ達も反撃を試みる。炎の中からバスタービームの魔法光線がイフリートへと放たれていくが、イフリートは意にも介さない。
　そのまま間近まで駆け寄れば、そのままその炎を宿した爪を踏み潰すように一体のバスターピッグへと振り下ろした。そのまま、そのバスターピッグは押し潰されるように燃え尽きる。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！！』
『ぶ、ぶひ！』
　バスターピッグ達に選択肢などなかったのだ。戦うとか逃げるとか、そういう問題ではない。このイフリートに狙われた、その時点でこの運命から逃れる事は叶わなかったのだ。
　残る二体も紙を引き千切るようにイフリートは始末していく。その暴れ狂う姿を見ながら臼場・陽炎（闇夜に疾る黒マント・d03749）が笑みを浮かべた。
「何を企んでいるか知らんが、放っておく選択はあるまい――目標確認、之より灼滅を開始する」
　バサリ、とマントを広げ、端を陽炎のように揺らめかせながら陽炎が言い捨てる。それに火野・綾人（恐れる焔・d03324）も震える拳に力を込めて言い放った。
「イフリートの首魁……討つのは俺だ。その為にも、まずはこいつを討つ！」
　回り込むのは既に終えている――バスターピッグ達を倒し、勝利の雄叫びを上げようとしたイフリートへ灼滅者達は挑みかかった。

●
「――ッ！」
　無言で槍を繰り出した匡の螺穿槍がイフリートへと深々と突き刺さる。それにイフリートは気付き、振り返ろうとするがその時には既に巴が縛霊手の拳を振り上げていた。
「霊力開放！　これで捕まえるっ！」
　叩き付けられた縛霊手から網状の霊力が放射される。そこへ綾人が大上段に構えた龍砕斧を全体重をかけて振り下ろした。
　切り裂かれるイフリートの毛並みから、火の粉が舞い散る。確かに手に残る手応えに、綾人は自らに言い聞かせた。
（「――いける」）
　綾人には過去の事件からイフリートに対するトラウマがあるのだ。これほどのイフリートを目の前にして、恐怖がないはずがない。それでも、その恐怖を押し殺して戦える強さが、綾人には確かにあった。
「踊れよ、ご機嫌なビートを刻んでやるからさ！」
　ツェツィーリアがガトリングガンを構えた瞬間、三人が地面を蹴る。木々に紛れて仲間が散るのを確認するとツェツィーリアはガトリング連射でイフリートへと銃弾を容赦なく叩きつけていった。
　その銃弾に合わせてライドキャリバーのリーリヤが真横から突っ込む――！
「……ハハッ」
　その光景を見て、ツェツィーリアが笑みを浮かべた。ゾクリ、と首筋が総毛立つ――銃弾を受けながらもそれをまるで雨粒か何かのようにイフリートは意に介さず、リーリヤのキャリバー突撃をその前脚で受け止めたのだ。
　そのイフリートへ五葉が駆け込む。その頭の下へと潜り込むと、全身のバネを活かしてその雷の宿る拳を振り上げた。
　だが、イフリートの頭はびくともしない。手応えはある、いつもならば確実に振り抜けたはずの拳が振り抜けない――その事実に五葉も笑うしかない。
「おいおい、冗談だろ」
　そこへ京一が右前脚へ燃える霊力噴射式金砕棒・拾弐式を叩きつけ、コマがその斬魔刀を振るった。そして、共に後方へと跳ぶ。
「やはり、今までのいふりいとは一線を画すでござるな」
「面白いじゃないか」
　陽炎が誓約の指輪のはまったその手でマントを振るう――その直後、ペトロカースの呪いがイフリートを襲う。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ！』
　ドンッ！　とイフリートがその前脚で地面を強く踏みつける。その大震撃が前衛を容赦なく襲う――だが、幸の天使を思わせる歌声は地響きすら阻めない。
「傷は任せて……私が拭うよ！」
「うん、よろしく！」
　巴はそう振り返らずに幸へと答えると、仲間と共にイフリートへと挑みかかった。

●
　――山奥で、激しい戦闘音が鳴り響く。
「ハハ、たまらないなァ、おい！」
　跳躍したツェツィーリアがその大質量の巨大鉈を力任せに叩き付けた。それをイフリートは口から吐き出す炎で相殺する。
「どんだけだよ！？」
　巨大鉈を振り抜いた時には、炎の向こうにもうイフリートの姿はない。リーリヤの機銃掃射の銃撃も空を切った。その巨体からは想像も出来ない身の軽さだ。ツェツィーリアにあるのは、驚愕以上に喜色だ。戦闘を音楽と考える彼女にとって、これほどの音色を長々と奏でさせてくれる相手はそうはいない。
　森の木々に触れる事なく駆けるイフリートへ五葉が並走する。木の幹を蹴って大きく跳躍した五葉はイフリートの眼前へとその身を躍らせるとその濁ったオーラの両腕を振るった。
「っらああああああああああああああ！！」
　ダダダダダダダダダダン！　と力任せの連打がイフリートの顔面を捉える。だが、イフリートは止まらずにそのまま駆け抜けた。
「とと！」
　イフリートの顔面を足場に五葉は飛び越え、着地する。そのイフリートの軌道上へ綾人が飛び出し、炎をまとう飛び蹴りを眉間へと叩き込んだ。
『ガ、ウ――！！』
「今だ！」
　五葉と綾人の連撃にイフリートの動きがようやく止まる――そこへ、巴が赤頭鬼を振り上げた。
「いっくよー！」
　マテリアルロッドが振り下ろされた瞬間、一条の電光がイフリートを撃ち抜いた。巴の轟雷の一撃を受けたイフリートへ陽炎がマントを振るうとそこへデッドブラスターの漆黒の弾丸が撃ち込まれる。
『ガ、アアアアアアアア！！』
　その漆黒の弾丸をイフリートはその炎の爪で掻き散らす――だが、陽炎の不敵な笑みは変わらない。
「こちらは一人ではないのだよ」
　その呟きは届かない。その代わりに死角へと回り込んだ匡はその槍を横一閃、大きくその燃える毛並みを切り裂いた。
　そこへコマがその刃を突きつけ、京一の影が放たれる！
『ガアアアアアアアアアア！！』
　イフリートがその爪を振るう。その爪に込められた衝撃にコマは大きく切り裂かれ、その場に崩れ落ちた。京一は目を伏せる。そして、愛犬へと誓った。
「コマ、お主の戦いは無駄にせんでござるよ」
　そして、幸のジャッジメントレイの輝きが匡を回復させる。
「ありがと！　……よし、まだまだイケル！」
　匡から受けた礼に幸も笑みをこぼすが、それも長くは続かなかった。
（「……回復が追いつかんね」）
　そう幸は苦笑する。それがわかっていても守勢に回る訳にはいかないのだ。攻撃の手を緩めれば、それは戦いが長引く事を意味し灼滅者達を追い込んでいくからだ。
（「本当に、格が違うんだな」）
　匡は噛み締める。目の前の存在の強大さを、だ。攻撃力が違う。耐久力が違う。単純だからこそ、その力量の高さは脅威だった。
「何をしようとしてるのか知らないけど思い通りにさせてやる訳にはいかないよ」
　絶対に倒す、そう決意を込めて匡は言い切った。
「そのた為に此処に来たんだ！」
　その決意に仲間達も同意する。いかに目の前の敵が強大であろうと、届かない存在ではないのだ。
　森の中で荒れ狂うイフリートを木を障害物に使いこなし、灼滅者達はイフリートを追い込んでいく。その利点をもってしても五分五分――危うい均衡だ。
　加えて、追い込まれたイフリートはその戦い方を変えてきた――後衛を積極的に狩りに来たのだ。
「これは、まずいでござるが――！」
　回復が追いつかない――その危機を救ったのは巴とリーリヤだった。
　イフリートが吐いたバニシングフレアを巴が幸を、リーリヤが京一を庇ったのだ。
「幸ちゃんは何が何でも守らなきゃっ……！！」
　崩れ落ちそうになった巴が凌駕する。リーリヤはそのまま砕け散った――それでも、この一手が大きく戦況を動かした。
「うん、みんなをちゃんと帰すよ！」
　幸の癒しの輝きが巴を癒す――そして、巴はイフリートへと駆け込んだ。
　渾身の力で赤頭鬼を叩きつけ、フォースブレイクがイフリートの顔面を横殴りにした。遅れてやって来た衝撃にイフリートがこの戦いで初めてよろめく。
「……この力は、お主と同質のもの。だが、力に善悪は無い。使い方１つで善悪があるのでござる！」
　そこへ京一が続く。肩に担ぐように構えた霊力噴射式金砕棒・拾弐式をその炎で包み、全体重をかけて振り下ろした。
「ぬしらの凶行は必ず悲劇を生む。なら、灼滅するが灼滅者の定めでござるよ！」
　ガゴン！　と鈍い打撃音と共にイフリートの頭を京一が強打する。その炎が燃え盛る中、ツェツィーリアがガトリングガンを構えた。
「そろそろ息があがって来たかァ！？」
　爆炎を宿す銃弾の雨がイフリートへと降り注ぐ。ガガガガガガガガガ！　とブレイジングバーストがイフリートを穿つ中、陽炎のマントがひるがえる。
「行きたまえ」
　その声に応えるように、漆黒の弾丸がイフリートへと飛んで行く。デッドブラスターの弾丸は得物の喉笛を狙う猟犬のように、その巨体を撃ち抜いた。
『ガ、アアア、ア――ッ！！』
「まだまだ！」
　そこへ匡が槍を振り下ろす。頭上へと生み出された氷柱が真っ直ぐに、イフリートの胴を貫いた。
　そして、跳躍した五葉がその拳を炎に包み、渾身の力で振り抜く！
　ドゥッ！　とイフリートが殴りつけられ体勢を崩す――五葉が、振り返らずに叫んだ。
「やっちまえ！！」
　それに応えて動くのは綾人だ。手に持っていた武器を放り捨て、その足に集中させたオーラを激しく燃やす！
「俺は……その炎を、超えるッ！」
　己の中の恐怖に打ち克つように、綾人の胴廻し回転蹴りによるレーヴァテインがイフリートを地面へと叩き付けた。地響きと共に木々を薙ぎ払いながら地面に転がったイフリートは、そのまま起き上がる事なく、燃え尽きていった……。

●
「ハハハハハハハハハハハハハハッ！！」
　爽快な笑い声と共にツェツィーリアがガトリングガンを上空へと乱射した。まさにフィナーレにふさわしい銃声音楽だ。
「あァ、思った以上に楽しめたぜ？」
　そう、ツェツィーリアは燃え尽きたイフリートへ語りかけた。五葉も小さく笑みをこぼして言う。
「確かに強敵だったな。歯応えあったぜ？」
「そうか……流石に疲れたよ」
　溜め息交じりにこぼした匡に、仲間達も笑い声をこぼす。戦い抜けた、その事実が体に心地がいい――幸も綻ぶように笑みを見せた。
「みんなでちゃんと帰れるんやね」
　その事実が何よりも嬉しい――戦いが終わり、急速に冷めていく風に吹かれながら灼滅者達は自分達の勝利を噛み締めた……。

作者：波多野志郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年1月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 14／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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