楔を喰らう炎獣~殲滅! トナリのイフリートさん

    作者:黒柴好人

    ●大分県別府市・鶴見岳
     何体ものイフリート達が、続々と鶴見岳に集結している。
     イフリート達の体毛によって、燃えるように煌々と輝く鶴見岳。

     頂上には、一体のイフリートが存在した。
     他のイフリートを圧するほどに大きく、威厳に溢れたその姿。
     イフリートの首魁は、配下の前でゆっくりと力を練り、人間の姿へと変貌する……。

     ……人の形へと転じたイフリートの首魁。
     少女のようなその姿は、居並ぶ配下の幻獣達に向かい、唸り声の如き少女の声で命じる。

    「ガイオウガノメザメハチカイ。ケダカキゲンジュウシュヨ、コノクニノクサビヲクライクダキチカラタクワエタノチ、ソノチトニクヲ、ガイオウガニササゲヨ! サスレバ、ガイオウガハゼンナルイチノゲンジュウトナリテ、ナンジラトトモニクンリンスルデアロウ !」
     
    「新年は無事に開けたか。おめでとう!」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は迫真の形相で新年を祝った。
    「おめでとう! 今年もよろしくねっ!」
     そして観澄・りんね(中学生サウンドソルジャー・dn0007)は元気な笑顔を振りまいていた。
     2013年になり、どこか心が踊り出しそうになる気分ではあるが……ダークネスに正月休みという概念はないらしい。
    「早速だが、小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)の話は聞いているか?」
    「えっと。ざっくり聞いてるけど、イフリートが大変なことになってる……んだよね?」
    「ざっくりだな。別府温泉で起きたイフリート事件に新しい展開があるようだ」
     灼滅者たちの活躍により、強大な敵の復活は阻止された。
     だが、敵もやられてばかりではいられないとばかりに二の矢を継いできたのだ。
    「鶴見岳に現れた多くのイフリートが日本のありとあらゆる場所に散会して、様々な眷属や都市伝説を倒して回ろうとしているらしいな」
    「えっ、それって私たちのお手伝いをしてくれてる……わけじゃないよね?」
    「ま、それだけならそう捉えられなくもないか。だが、奴らはある目的があってこういった動きを計画している」
    「その目的とは!?」
     りんねに迫られ、ヤマトは落ち着けとばかりにルービックキューブを机の上に置いた。
     色はバラバラだった。
    「鶴見岳に封じられた強大な存在を呼び起こす事……だろうな」
    「強大な存在!? ……って、どういうの?」
    「今のところはただ強大な何かとしか言えない。とにかく強大なんだ……!」
     それも気になるが、しかし全国各地に出没するイフリートもまた手強い相手なのだとヤマトは言う。
    「これまでに確認されていたイフリートよりも強い個体だ。危険な仕事になるだろうが――」
    「でも、やらなくちゃもっと危なくなる。そうだよね?」
    「その通りだ。それを承知で頼ませてもらいたい。イフリートの灼滅を」
     ヤマトは頭を下げ、灼滅者たちはそれに対し心強い応えを返した。
     それからヤマトは紙の地図を取り出し、
    「これが今回、お前たちに出向いてもらう場所だ! 俺のエクスマトリ」
     その四隅にルービックキューブを置いて視認性を向上させた。
     別にそれを重しにしなくても。
    「ちょっとした街なのかな」
    「ああ、よくある地方都市だ。そしてここによくあるビルの廃墟がある」
    「廃墟はよくある……のかなぁ」
     りんねの疑問はさておきヤマトは説明を続ける。
    「この廃墟には淫魔の配下である、いわゆる強化一般人の溜まり場になっているようだ」
    「淫魔自身は?」
    「いや、この場に現れる事はまずないな。集まっている強化一般人たちは『俺が一番淫魔たんとラブラブになれるんだ! ウオオ、ハァハァ』といった具合にお互いを研鑽し合っているとか」
    「はぁはぁ?」
    「言っておくが、俺の台詞じゃないからな!」
     そんな感じで強化一般人のちょっとイケメンな青年たちはある淫魔のお気に入りにされるべく、時には互いのイケメン力をぶつけ合って激しく啀み合い、時には共に想い人もとい想い淫魔の事を語り合ったりしている場所が件の廃墟なのだとか。
     廃墟は5階建てで、その最上階が会合場所になっている。
     そのフロアは階段付近以外の壁が一切無く、それなりに広い面積がぶち抜かれている。
    「比較的新しい建物ではあるから、天井や床に穴も空いていない。戦闘は快適に行えるだろうな」
    「ふむふむ。そこに強いイフリートが出てくるんだよね」
    「そうなる。このイフリートは特異な攻撃こそしない……それこそ普通のイフリートのようだが、全体的な能力が底上げされている……と表現するとわかりやすいな」
    「見た目は同じでも油断するな、って感じかな」
    「迫力も違うかもしれないな」
     ところで、とりんねが手を挙げる。
    「強いイフリートは最初にいる強化一般人を倒すために来るんだよね。なら、そっちを先にやっつけちゃうのはどう?」
    「いや、それは無理だ。お前たちが介入できるのはイフリートが奴の目標を殲滅した後になる」
    「うーん、黙って見てなくちゃいけないのかな」
    「バベルの鎖が厄介でな。イフリートが満足する前に戦ったりしようものならその場に奴が現れなくなっちまう可能性がある」
    「そっか。了解!」
     そうなろうものならこの作戦は失敗に終わってしまう。
     強化一般人たちの見事なやられっぷりに期待したい。
    「気の抜けない戦いが待っているだろうが……正月なのは変わらない。終わったら少しくらい正月らしい事をするのもいいかもな」
    「余裕があったら、だね!」
     説明を終えたヤマトは懐に腕を差し入れた。
    「正月繋がりでこういったものを作ってみた」
    「これは!」
     なんと、紅と白の2色のみの紅白ルービックキューブだ!
    「簡単そうだねっ!」
     やってみたら妙に難しかった。


    参加者
    逢坂・啓介(赤き瞳の黒龍・d00769)
    姫乃木・夜桜(右ストレート・d01049)
    倉田・茶羅(ノーテンキラキラ・d01631)
    アルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160)
    一之瀬・梓(月下水晶・d02222)
    鳴神・月人(一刀・d03301)
    椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)

    ■リプレイ

    ●鮮烈のお宅訪問
     人が訪れなくなった建物は命を失ったかのように瞬く間に荒廃していくという。
     この5階建てビルもまた、同じ道を歩んでいる。
    「なんていうかアレだねー。生贄を捧げて悪魔を召喚してるような感じだねー」
     エントランスを潜り、エレベーターは勿論使用できないので奥の階段を登りながらアリスエンド・グラスパール(求血鬼・d03503)が小声で呟く。
    「生贄かー……そう言われるとちょっと不気味だなぁ」
    「災禍を払う為の礎になって貰う、と言い換える事もできるでしょうか」
     両肩を震わせる倉田・茶羅(ノーテンキラキラ・d01631)のやや後ろでアルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160)が静かに唸る。
    「ふぅむ。イフリートはご丁寧にこの階段を駆け登ったって感じやな」
    「ああ。あちこちに強い力で圧迫されて不自然に崩れたような痕があるな」
    「しかも最近やね」
     逢坂・啓介(赤き瞳の黒龍・d00769)の言葉に、壁や足下を注視する鳴神・月人(一刀・d03301)。
     人が何人か並んで昇降ができそうな立派な階段だが段差が上からの力で粉砕された形跡や、壁に何かで深く抉ったような傷が残されていた。
    「仕方ないとは言え、死ぬのを見届けるってのもいい気はしないわね……」
     姫乃木・夜桜(右ストレート・d01049)はそう言いながら拳を握り、悔しそうに眉を歪ませた。
     イフリートと強化一般人たちはそろそろ対峙している頃だろう。
    「確かに彼らのことは不憫に思う……はずなんだが」
     一之瀬・梓(月下水晶・d02222)は言葉を切ると、ふと視線を上に向けた。
    「そろそろ5階だね。あれ、何か声が聞こえる?」
    「……正直、気分悪いけど聞いてみるか」
    「そうだね」
     観澄・りんね(中学生サウンドソルジャー・dn0007)と椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)は互いに頷き合うと、それぞれ今は入り口で待機しているいろはから受け取った携帯カイロを握り締めながら姿勢を低くし、耳を澄ませた。
     4階の踊り場に身を潜めた一行のもとに聞こえてきたのは――。
    「くそ! な、何だコイツ……!」
    「もういい! お前ら、先に逃げろ!」
    「先にって……オマエはどうすんだよ!」
    「オレはここに残って足止めする」
    「無茶な!」
    「それは承知! 1人でも多くあの方の所に帰るんだ」
    「……くッ!」
    「そして伝えてくれ。オレが格好良く化け物と戦い、哀れなお前らを逃したのだ……と」
    「あ?」
    「君じゃ役者不足だね。僕が残る! そしてあの方から……ハァハァ」
    「いいや俺が! ……あの方ハァハァ」
    「カッコつけんのはオレの――」
    「なんだとコ――」
    「「「ほげええええええ!!」」」
     腹まで響くような猛烈な破壊音と共に男たちの声は聞こえなくなった。
    「はずなんだが……ハァハァ連呼されると微妙に……」
     梓は眼鏡を押えながら俯いた。
    「あれは間違いなくへんた……げふんげふん。まぁ、せやな」
     彼らの最期はあれで良かったのか。
     さておき、時は満ちた。
    「では御正月早々暴れまわる空気の読めないイフリートに少々キツいお仕置きをしに行くとしましょうか」
     アルヴァレスが立ち上がると同時に、梓と啓介もスレイヤーカードを手にした。
    「そうしよう。これから武力行使だ」
    「ほな行くで、エクシー! オレらも気張るでー! アウェイクン!」

    ●熱風の灼滅戦
     5階は凄惨を極める光景……。
     には違いないのだが、犠牲となった強化一般人らはコンクリートの壁に大の字にめり込んでいたり、首から上が天井に突き刺さっていたり、あるいはガラスが砕けた窓に干されるような形で垂れていたりと。
     何故か妙な倒され方をしていた。
     そして部屋の中央には、惨状の元凶たるイフリートが灼滅者に背を向け佇んでいる。
    「あれこれ含めたモヤモヤを込めて……ぶっ飛ばす!」
     先手必勝とばかりに新年初の右ストレートを放つ夜桜。
     ダッシュの勢い、そして直前の体重移動。それらのエネルギーを全て右の拳に集約し、ただ真っ直ぐに打ち抜く。
    「気持ちイイ一撃! 決まったわね!」
     獅子のようにも見えるその幻獣の背中に重く叩き込まれた拳は、まさに会心の直撃と見えた。
     しかし彼はゆっくりと振り返り、「今何かしたのか」と意に介さないような表情で夜桜にぎらつく眼を向けるのだった。
    「……鉄面皮ってこういう事を言うのね」
     拳をさすりながらバックステップで数歩下がる夜桜。
    「ほとんど効いてない……って感じかな」
    「簡単に泣かれたらつまんないからねー。さぁ、ぶった切るぞー!」
     半笑いになる茶羅と、満面の笑みになるアリスエンド。
     先に飛び出したのは勿論アリスエンドだった。
     真正面に立ち、イフリートの顎目掛けて抗雷撃を打ち上げる。
    「ほらほら、顔の下ががら空きだよー!」
     大抵の生物は顎に強い衝撃を受けるとひとたまりもないが、このイフリートはそれでも動じない。
     潜り込んできたアリスエンドを見下ろし、ただ威圧感のみを放っている。
    「まだ攻撃は終わらないんだよね、っと」
    「さて……新年早々の野獣狩りと往きます――災禍を招く獣……貴様を灼滅する!」
     アリスエンドがしゃがみ込んだその上に狙いを定め、
    「災禍の炎獣よ……貴様を撃ち落とす!」
     アルヴァレスが眩い光の剛束、バスタービームを撃つ。
     一瞬にして焼き尽くされるイフリートだが、それも少し上体がぐらついた程度。
    「やはり一筋縄ではいかないか」
    「それなら何本も縄を用意するだけだぜ!」
     武流はヴァリアブルファングを何度も振るい、実体のない刃をあらゆる箇所に打ち付けていく。
     いくら面の皮が厚く、熱くとも綻びは必ず生まれる。その瞬間、場所を見逃さないように武流は集中を続けた。
     その最中。
     メインチームを援護するため集まった総勢21人のサポートチームも散会し、それぞれの役目を果たすべく動き出していた。
     その1人、矜人は強化一般人の生存を確認するが……。
    「わりぃな……どうにもできねぇ」
    「駄目か!」
     砂那はそれでも彼らを安全な場所までの移送を試みるようだ。
    「いつまでその余裕顔をしていられるか、見ものだな」
     至近距離から導眠符やティアーズリッパーといった相手の状況を不利にするサイキックを行使して立ち回る月人。
    「って、いつまでも『待て』はできないみたいだぜ……?」
     武流は攻撃の手を止め、眼前のイフリートを見上げた。
     これまで沈黙を貫いてきた彼は、今ようやく目覚めたかのように大きく体を伸ばしながら咆哮する。
     刹那、イフリートが纏っていた炎が意志を持ったかのように膨張し、周囲の灼滅者を飲み込んだ。
    「みんな無事か!?」
     後衛に位置し、炎を逃れた啓介がすぐ仲間たちに声をかける。
    「……ちょっと熱かったけどへっちゃらへっちゃらー」
    「この程度ならまだ動ける」
    「熱は肌はもちろんだけど、爪にとっても大敵なのよ!?」
     火炎の奔流を受けた灼滅者たちは、しかし持ちこたえていた。
    「みんなすごいね! ここまで熱風が届いて目が開けていられなかったのに」
    「しかし消耗は激しいはずです」
     目を丸くするりんねの横に並んだ梓が契約の指輪を嵌めた指をイフリートへ……いや、その周囲の仲間たちへと向ける。
    「中々キュートなギターですね。一緒に支援たのみます」
    「ありがと、梓さん! ようし、頑張ってみんなを元気にしてあげなくちゃね!」
     ギターを褒められたりんねは上機嫌で弦をかき鳴らした。
     同時に梓はそれでは補え切れなかった仲間に対し、闇の契約と霊犬を用いて支援を行なっていく。
    「全体を活かして戦術を組む。それが俺のやり方だ」
     言いながらイフリートの攻撃、そして味方の動きを基に頭の中で次の、更にその次のシミュレートする。更に。
    「手伝います」
    「補助しよう」
     初心と友衛が清めの風を重ねての使用により短い時間でかなりの体力を取り戻させる事ができそうだ。
    「エクシー、梓はんやりんねはんたちの回復を援護するで!」
     前衛を立て直す間、啓介はエクシーに突撃を指示し、自らも相手にとって不利になるサイキックを行使してイフリートを撹乱する。
     イフリートは足の間をスライドしながら抜けていくエクシーを蹴り飛ばそうとする。
    「エクシー!」
    「そうはさせないよー」
     しかしアリスエンドが間に割って入りイフリートの脚を何とかいなし、返す刃で胴体に潜り込みながら腹部を斬り裂く。
    「ありがとさん、アリスエンドはん!」
    「壁役として当然だよー」
    「よーし、ここがチャンスだよねっ」
     治癒も滞りなく行われている様子。ならばと茶羅はリングスラッシャーをきらめかせ飛翔させた。
     一見するとあらぬ方向に飛んでいったリングスラッシャーだが、それはイフリートの視覚外に逃れたに過ぎない。
     直上から流星のように飛来したそれをイフリートが回避する術はない。
    「これだけ攻撃を叩き込めば……」
     月人は、しかし槍を持つ手に力を込めた。
    「まだやるつもり……か」
     既に幾度とない打撃や斬撃を受けている。だが、イフリートは咆哮と共に駆け出す。
     もはや火炎と同化したような剛爪が夜桜に向け振り下ろされる。
    「こ、この……!」
     一撃、ニ撃。両腕をクロスさせて耐える夜桜だが、やがて弾き飛ばされるようにして後退した。
     そこを目掛け、イフリートは突進する。
     が、それは月人が許さない。
    「この先は通行止めだ。姫乃木、怪我は?」
    「You bastard……! いつでもアレを潰せるくらいには元気よ!」
     何度も腕を殴られ、爪は……無事のようだが詳しく見てみないとわからない。そんな危機に晒した者を許してはおけないのだろう。
     夜桜はバトルオーラを滾らせ、一歩前へと出た。
    「右腕は横薙ぎで振るう確率8割、遠距離攻撃にくるタイミングは……」
     その時、後方の梓が警鐘を鳴らした。
    「バニシングフレアに似た攻撃、来ます」
    「Okey!」
     一歩出した脚に力を込め、後方に跳ぶ夜桜とそれに続く月人。
    「狙いは外さない、砕け散れ……」
     アルヴァレスのバスターライフルが再び火を吹き、彼の視界を閃光に染める。
     その際りんねの身に危険が迫っていると判断した摩那斗がホーミングバレットを。そして黒い影がさり気なく盾を当て去っていった。
    「大丈夫だよみんな。私が音楽の力で助けるから!」
    「サポートしますね、りんねさん」
    「やったーかっこいい!」
     紗和のヒーリングライトにより効果を向上させたりんね、そして悠花が傷ついた者を癒していく。
     蛍がやんやと応援しているのがどこか微笑ましい。
    「俺の炎も負けてないだろ!?」
     炎には炎を。武流はレーヴァティンの炎を纏わせた剣でイフリートに躰に衝撃を与える。
     イフリートに綻びを見つけたのだ。
    「あたしの気持ち……全部受け取ってもらうわ!」
     距離を詰めた夜桜が目にも留まらぬ拳の乱打を顔面中心に炸裂させていく。
    「な、なんかエグ……」
    「ン!?」
    「いや、何も言ってへんで? とにかくガンガンいくで!」
     身を震わせた啓介は、とにかくエクシーと共に刻んでいく事に。啓介の動きに合わせ、静佳もジャッジメントレイを。
     だがイフリートは猛々しく爪を振るう。
     それを月人が、或いはアリスエンドが積極的に前に出てそれらを受け止める。
    「俺たちに全滅はない。この計算に狂いはありません」
    「もっと熱くなれよー!!」
     その傷は梓が、そして津比呂も協力して癒していく。
    「その計算信じるよー。べ、別に計算できないとか、そういうわけじゃないからなっ!」
     茶羅もリングスラッシャーを巧みに操り、対処が難しい攻撃を繰り出していく。
     追従し駆ける黒虎が、「りんね、これが終わったらどっか遊び行こうぜ!」とか叫びながらイフリートの射程圏に飛び出した。
    「援護をさせていただきます」
    「絶対にここでやっつけちゃいましょうー!」
     リオンと一葉の防御支援を受け、防御体制をとる慧樹と共に前進する月人。
    「そろそろ……終わらせようぜ」
     小さく呟いた月人はティアーズリッパーで攻め立て、それでも地を蹴り跳躍しようとするイフリートをアルヴァレスの巨砲が阻止する。
    「これからの貴方に助言を。黄泉路には御気を付けて」
     数瞬後。
    「これで真っ二つだー!」
     「ようやく紅白ルービックキューブが解けたぞ!」と嬉々とした香の支援を背に、アリスエンドの刃が頭部から胴体にかけてを力任せに斬り裂いた。
     それがトドメになったのか。イフリートは天井を見上げ、ついに崩れ落ちた。

    ●残された正月気分
    「さあ、新年から暴れまわる迷惑な獣にはお仕置きしましたし、新年会でもしますか?」
    「新年会! 遊んだり食べたりするのかなー。その後は無難に初詣とか?」
    「ンー、遊ぶとなると羽子板で顔に落書きとかお約束よねー」
     アルヴァレスの提案に茶羅と夜桜はしばし思案顔。
    「買い出しや送迎ならオレにお任せやで。まあ、お代はいただくんやけどな」
    「さすが関西弁使い……そこはしっかりしてるなー」
     商売人っぽい所を見せる啓介に茶羅が関心する。しかし啓介は生まれも育ちも東京なのだが……。
     そんな中ふと梓は思い出す。
    「そういえば……教室で相談中にテストの話題が出たけれど……」
    「げっ、テスト? テストナンデ!?」
     突然の話題転換に武流は激しく動揺する。
    「って、そっか……確かりんねって……」
    「なになに? どうかしたの武流 さん」
     武流 の憐れみ深い表情の意味をりんねは理解していなかった。
     莉子が「ごめん、わたしまだ下がいるってちょっと安心してた!」と頭を下げるも、本人は特に気にしていない様子。
    「りんねー、頑張らないと『胸に栄養がいって頭に回ってない』とか言われるんだよ!」
    「やだなぁアリスエンドちゃん。私そんなんじゃないよ?」
    「え?」
     なんと。
    「それはそれとして普段何食べてるの? 好物はー?」
    「突然だね? そうだなぁ、甘いものは大好きだよ♪ チョコとか」
    「糖分で大きくなると……」
     アリスエンドは小声でぶつぶつと呟きながらりんねの一点に対して注視を続けた。
    「ところでりんねさん、自分も次の出題予想を頼みたいのだけど。文系科目の」
    「おい一之瀬、やめとけ……」
     命知らずな梓を制止しようとする月人だったが、
    「いいよ! 教科書は?」
    「ここに」
    「持ってるのかよ!」
    「それじゃいくよー。ぱらぱらぱら~っと……えいやっ!」
     無造作に教科書をめくり、指で止める。
    「ここが出るよ!」
     これが出題予想だ!
    「あの、これ章タイトルの何も書いていないページじゃ……」
    「あれ?」
     梓は震えた。戦慄したのだ。
    「そんなやり方はやめろって。俺も教えてやれるだろうし……」
    「じゃあそのお礼に月人さんの学年の出題予想もしてあげるね!」
    「頼む、黙っててくれ……色んな大事なもんが無くなるから……」
     こうして彼らは強力なイフリートを灼滅し、その後はささやかながらも賑やかな新年会を楽しんだという。

    作者:黒柴好人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月16日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 10
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ