楔を喰らう炎獣～はぐれしけものの声惑いて

■リプレイ

●炎と共に歩む
　ヤマトの話を聞いた灼滅者達。
　彼らが向かうは、とある森の中……バスターピッグが歩き回る森。
　そこに現われてしまったイフリートを、灼滅者は倒すが為に集まっていた。
「イフリートか……」
「ええ、イフリート……やはり別府での事件は、前触れだったんですね」
「そうだな。まだ前回のイフリートの討伐からそんなに日も経っていないのに、よくここまで大規模な動きに出られたものだ」
　九条・龍也（梟雄・d01065）と、花藤・焔（魔斬刃姫・d01510）、草壁・悠斗（蒼雷の牙・d03622）がぽつりと呟いた一言。
　今まで別府で頻発していたイフリート事件……鶴見岳に集ったイフリート達が、今……全国各地に散らばり、様々な事件を引き起こしてしまっている。
　そして灼滅者らが対するイフリート達は、バスターピッグを殺そうとしている。
　如何なる理由なのかは良くは解らないが……一つ言える事は、イフリート達が、一斉に一つの目的に向かい、動きはじめたという事は間違い無い。
「……イフリートがこう組織だって動き出すなんてね。何かおおきな事が起きる前に、何とかしないとね」
「そうだな。楔とやらを破壊して、親玉らしき物を復活させようとしているのは解ったんだが、アブソーバーがある限り活動停止は免れないのは相手も経験済みの筈なんだがな……しかし、こいつをここで止めないとヤバイ気がするぜ」
「しかしなぁ、ガイセイオウだったか？　あれに喰われる位なら、僕が灼滅する。これであの人型イフリートを、誰にも取られる心配無いものね……くくくっ……」
　と、九条・茜（夢幻泡影・d01834）と悠斗、そして七鞘・虎鉄（為虎添翼・d00703）の言葉に、誰しもが頷く。
　だが……このまま放置しておく訳にはいかない。
　柏木・蘭花（黒の豪火・d03232）龍也、そして白石・静（中学生ダンピール・d11964）、焔らが。
「まぁあちらが強いのは承知の上、ですが……こちらとて、そう簡単には焼かれはしません」
「そうだな。ヤツとやり合うのは初めてだが、普通の個体よりも強いと聞く。だからこそ普通より楽しい戦いが出来そうだ。まぁ、どんなヤツであれ、俺は俺より弱いヤツに負けてやるつもりは無いがな」
「そうだね。かって、ぶじにかえらないとね」
「そう……だからこそ、何としてでもイフリートの所業は阻止します」
　と意思を込めた。

　そして灼滅者達は、山中を歩いて行く。
　深い森の奥へと進んでいくと……ピィピィという鳴き声が遠くから聞こえてくる。
「……皆、待つのじゃ」
　和泉・風香（ノーブルブラッド・d00975）が言うと共に足を止める灼滅者達。
　森の先……そこをとてとてと歩き回るバスターピッグ達。
　幸いこちらの方の事には、一切気づいていない様である。
「余り彼らに近づきすぎると、気づかれてしまうかもしれんからの。戦闘音である程度は解るじゃろうし、少し離れて戦闘が終わるのを待つのじゃ」
「そうですね……充分距離を獲って、気づかれないように離れた所から見守りましょう。バスターピッグを生け贄に捧げているようで、余り心地よくはありませんが……」
　風香と茜の提案に皆も頷き、灼滅者達は一旦その場から離れる。
　そして風向きと方向を確かめ……風下に位置しながら、イフリートが来るタイミングを待ち構えるのであった。

●炎に焼かれし獣
　そしてそれから暫しの時が経過。
　ピィ、ピィと言うバスターピッグの鳴き声が暫し響き渡り、その鳴き声を聞き及んでいた灼滅者達。
　……その場を離れて、半刻程度経過した時、その鳴き声が。
『ピ、ピィィィィ……！！』
『ピィ……ピィィィ……』
　今までとは明らかに違う、その鳴き声。
「……どうやら、現われた模様じゃな」
「うん……みんな、いこう」
　風香と静の言葉にみな　頷いて、灼滅者達は再び森の中へと侵入……その鳴き声の主の方へと駆けつける。
　そして駆けつけると、目の前でバスターピッグらが、獣の姿をしたイフリートに強力な力差の儘に滅殺されている光景を目にする事になる。
「……これが、イフリートの力……」
「ええ……流石……強力な力を持っていますね……」
「だからこそ、必ず此処で倒さないといけないね……みんな、準備はいい？」
「ああ、いいぜ」
　蘭花、悠斗、茜、龍也らが、小さくそんな言葉を交し合うと共に……バスターピッグが全て倒れたタイミングを見計らい。
「……では仕掛けます！　開陣！！」
　と蘭花のかけ声と共に、灼滅者達は一斉にイフリートの背後から接近。
　イフリートは、唐突にやってきた灼滅者達に向けて一瞥……そして。
『グル……ゥ……』
　真っ赤な焔に包まれた身体で以て、にらみ返してくる。
　でも、それに決して負ける事無く。
「イフリート！　そいつら程度じゃ物足りないんじゃないか？　本番はこれからだぜ！！」
　ニヤリと笑みを浮かべながら宣言を返す龍也、悠斗も眼鏡を外して気持ちを切り替える。
　そしてすぐに蘭花、虎鉄の二人がディフェンダーポジションの前衛に立つ。
　蘭花は自分自身へ戦神降臨を使い破壊力強化、対し虎鉄は。
「これでも喰らって」
　と、縛霊撃で、イフリートに捕縛効果を与える。
『ウグルゥゥ……！！』
　そんな呻き声で、捕縛効果をふりほどこうと動くが、捕縛効果はほどけない。
　そしてその隙間を突いて。
「どんな相手だろうと、斬って捨てるのみ！」
　と、龍也が雲櫂剣で斬りかかり、ダメージを叩き込む。
　そして、焔、静のジャマーポジションの二人は、視線を交しつつ。
「その守りをやぶりますよ！！」
「……狙うよ」
　ズタズタスラッシュによる服破りと、黒死斬による足留めの付加。
　重ね重なり三つのバッドステータスがイフリートを蝕む。そしてそのシメとばかりに風香が。
「しっかり隙を突いて狙い撃ちにするのがスナイパーの仕事じゃ。クラッシャー、キャスターの攻撃で怯んだ隙を逃さぬように撃ち抜く！　じゃの」
　とディーヴァズメロティで催眠へと誘う。
　イフリートはその一撃に多少朦朧となりつつも、すぐに牙を剥きだしにして、ディフェンダーポジションに立つ蘭花へと炎と共に一閃。
「……っ！？」
　素早い動きは、的確に狙いを捕らえ、深い傷と大ダメージを遺す。
「大丈夫？　今、回復するね」
　と茜が即座に闇の契約で、蘭花をヒール。
　そして悠斗は。
「この槍の舞を、叩き込むよ」
　と螺旋槍で壊アップ。
　そして次のターン。
　虎鉄、蘭花は再度隊列を整え、後衛に対する防護壁を整えつつ、蘭花がレーヴァテインでの炎を付加し、虎鉄がトラウナックル。
　無論、確実に敵の動きを見張り、後衛に行かない様に動き回り隙を誘い、その隙を。
「撃ち抜くっ！」
「これでも喰らうのじゃ！」
　龍也が抗雷撃で鋭く狙い攻撃を叩き込み、風香が身長よりおおきなライフルをぶっ放して攻撃。
　クラッシャーによる大ダメージと、スナイパーの命中力強化攻撃でダメージを蓄積。
　そして焔、静はそれぞれバッドステータスの掛かり具合から判断し、ズタズタスラッシュ、黒死斬、ティアーズリッパー、戦艦斬りの四つを次々と繰り出してバッドステータスを重ね、決して途切れさせない。
　無論、イフリートはその炎の身体から次々と破壊力の高い攻撃を連発してくる。
「やはり強いね。闇よ、癒したまえ、闇の契約……！」
　虎鉄、蘭花がそれら攻撃を手分けして引き受けるのに対し、茜が闇の契約で回復するのだが……ターンが経過すると共に、そのダメージをまかないきれなくなる。
「……流石にちょっと厳しいかな……俺に任せて」
　と、悠斗はそう言いながらポジションシフトし、ディフェンダーに入る。
　そして集気法による回復を行いながら、ディフェンダーに配置。
　ディフェンダーポジションで、イフリートの攻撃を三人で的確に回して行く事で、ダメージを受けても回復出来る時間を稼ぐ様にしていった。

　……そして、イフリートと灼滅者達の激しい戦いは軽く10ターンを超えていく。
　灼滅者達に大いなる疲弊が見える一方、イフリートにも、明らかなダメージの傷痕が見えてくる。
「はぁ……ったく、ほんっとしぶてえなぁ」
「うん、そうだね……こっちもきびしいけど、あっちもかなり傷を負ってる。あともう少し……がんばろう」
　龍也に静が皆を元気づけるように言う。
　……ここで負ける訳にはいかない。負ければ、楔を喰らわれる……そして、ガイオウガなるものが君臨するのかもしれないのだ。
「ガイオウガがどんなのかはよく分からないけど……させるわけにはいかないの……さぁ、斬り潰す！！」
　焔が真っ直ぐにイフリートを見定めると……鋭く狙い澄ました戦艦斬りの一撃をその頭上から叩き落とす。
　その一撃を、横にステップで躱そうとするイフリートだが。
「させませんよ……」
　と悠斗がマジックミサイルを連発で叩き込む。
『グ……ァゥ……』
　その一撃が、イフリートの身体を貫き風穴をこじ開け、イフリートは……悲鳴とも、苦しみともつかない鳴き声を上げる。
「……今じゃ！！　一気に叩き込むのじゃ！！」
　生じた大きなスキを風香は見逃す事は無く、仲間達に合図を飛ばす。
「了解。伊達や酔狂で、こんな物を持ってる訳じゃねえのを知らしめてやるぜ！！」
　と龍也が紅蓮斬。
　紅蓮に包まれた一撃で、イフリートの身体をど真ん中で斬り裂いていく。
　そして。
「……トドメ、一気に刺してあげる」
　虎鉄が一気にその間近に近づいてのトラウナックルを、その顎元に叩き付けると……イフリートの身体は大きく宙を舞い、そして……灼滅するのであった。

●鳴声
「終わった……？」
「そうだね……うん、みんな、傷は大丈夫？　あんまりむりしちゃダメだよ？」
　虎鉄に静が、優しく声を掛ける。
　流石に強力なイフリートが相手……重傷にはギリギリ至っていないものの、皆の身体の疲弊はかなり激しい状態。
　ぺたりとその場に座り込んだり、大きくその場に身体を横たえたりする灼滅者達。
　勿論その間も、更なる敵が現われないとも限らない訳で……風香、龍也の二人が周囲に警戒心を研ぎ澄まし、警戒を続ける。
　数分後、はぁはぁ、と荒い息を整えて……そして再度立ち上がると共に。
「しかし……一体何が起ころうとしてるのだろうね……確信はないけど、不吉な予感がするよ……」
　ぼんやりと呟いた茜の言葉に、焔も。
「ええ……そうね。剱岳に眠っているものは、一体何なんでしょうね。嫌な予感がします……」
　と呟く。
　その問いに、虎鉄と悠斗が。
「まぁ確かに……イフリートは何も喋らず、情報を聞き出す事すらも出来なかったしね」
「そうですね……あくまでも予想でしかないですが、楔を破壊した後のこいつらの役目はガイオウガとか言うヤツの餌だと思うんだがな……だが、アブソーバーがどの位で活動停止まで掛かるか解らない。だからこそ、サイキックエナジーを供給させる訳にはいきません」
「そうですね。何はともあれ、他のイフリートと戦う仲間達が上手く戦況を勧められたかを祈るしかありませんね……」
　蘭花の言葉。
　……全国各地で乱発しているイフリート事件。
　願わくば、それら全てが勝利を収められる様願いながら……役目を終えた灼滅者達は、バスターピッグとイフリートが灼滅されし森の中から去るのであった。

作者：幾夜緋琉	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年1月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 9／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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