冬休みは短い。
それでも学校に行かないで良かったり、お正月にはお年玉がもらえたりとイベント的には満足感のある数日だったりする。
しかし特別なお正月気分も長くは続かない。
1月3日あたりになれば……。
そう、そろそろ『冬休みの宿題』が頭をよぎるからだ。
もちろん、すでに宿題が終わっている者もいるだろう。
そのような者にとってはあと数日の休みを満喫すれば良いだけの話だ。
しかし宿題を済ませていない者は「なんでこんな短い休みに宿題があるんだよ」と不平不満を言うに違いない。
「冬休みの宿題? 毎日やってるに決まってるじゃない」
休みも残り少なくなった頃、学園の図書室にやって来ていた鈴懸・珠希(小学生エクスブレイン・dn0064)が冬休みの宿題について聞かれてメガネを光らせ即答する。
冬休みの宿題と言えば、皆はどんな課題を出されているだろう?
『新年に向けての抱負を決める事』は良くあるお題だ。
お正月らしい『凧作り』のような工作は小学校の先生によっては存在する。
まぁオーソドックスなのは『書き初め』だろうか。
もちろん『漢字の書き取り』や『ドリル』なんかもあるだろう。
中学生や高校生になれば英語関係の課題なども増えてきて難易度も上がる。
「え? あなたまだ終わって無いの? だったら図書館で宿題やったら?」
武蔵坂学園の図書館は冬休みも解放されており、学生が自由に勉強可能である。
「誰かに教えて貰いたいなら自習室の方をお薦めするわ」
キャンパスも多いこの学園は、いくつか自習室があり、
クラブや友達と勉強会を開く事も可能だ。
「どうしても気晴らししたくなったら? それなら外のテーブルで勉強すれば?」
図書館外のテーブルとベンチで、青空の下勉強するのも悪くない。
もちろん、完全に外なのでめちゃくちゃ寒いのはお忘れなきよう。
「さてと、みんな学校で勉強するなら私もやろうかな。『顔』と『親』っていう漢字がまだ覚えられて無いのよね……」
冬休みは短く、気が付けば新学期が目の前へと迫っている。
宿題に手が回っていない者がいてもおかしくはないわけで……。
●自習室
花廼屋・光流(レプリカ・d10910)の横には課題が山とあった。
1人で静かに勉強していると、ふと外の喧騒が恋しくなる。
クラブに行く者、依頼に行く者、なぜかギターを弾き鳴らしている者……。
やがて雪が降りだし窓の外を白く染め始めた。
美しく全てを染める雪は課題など小さな事のように……。
……気が付けば、少しうとうとしていたようだ。
窓の外は雪など降っておらず、課題だけが白かった。
自習室だからこそ取り組める課題もある。
双子の姉妹、エリノア・フレイ(退魔の黒・d11129)とイヴマリー・フレイ(浄化の白・d11134)の自由研究はまさにそうだ。
ネリーが犬のデータをまとめ、イヴが色鉛筆でイラスト化し、ファンシーで独創的な図鑑を手作り。
特にグレートピレニーズの頁は実家にいるティナの子犬の頃からの写真が並び2人の愛情のほどが伺える。
「こんな宿題ならいつでも大歓迎♪」
イヴが完成した図鑑を見て喜ぶ中、ネリーは何か描かれた用紙をくしゃっと丸める。
ふとイヴ見られている事に気づくと、すっと資料に使わなかった1枚の写真を取り出す。
それはコーギーの頁の為に撮った2匹の霊犬の写真だった。
「そうだね、ブランシュ達にも見せてあげよう♪」
「ああ」
クールに返すネリーだったが、その手はもはや犬ではない何かの描かれた用紙を丸めたものを、さっとゴミ箱へ捨て去るのだった。
自習室の利点は多少大きな声を出しても怒られない点だ。
「何ですか! この無計画さは!」
怒り、ため息をつくのは紅羽・流希(挑戦者・d10975)だ。
宿題を教えて欲しいという相方、備傘・鎗輔(ギミックブックス・d12663)の宿題はまったくの手つかずだった。
そう言いつつ鎗輔の宿題を手伝う流希、鎗輔も真面目に宿題をこなして行く。
やがて対象科目が流希も苦手な社会となる。こればっかりは2人で悩みながら片づけていくしかなかった。
社会が終わったところで鎗輔が伸びをしつつ。
「一段落したし帰ろおーぜー?」
「全部やってしまった方がいいですよ。帰ってもやらないでしょう?」
これはどうやらなかなか帰れそうにないようだ。
「ところで鞄から見える大量のラムネは何です?」
開始からずっと気になっていたことを聞く流希。
一緒にやってくれる相方に感謝しつつ、笑って誤魔化す鎗輔だった。
冬休みは年越しを挟む。
「ええと、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そう挨拶するのは東堂・イヅル(デッドリーウォーカー・d05675)と有馬・臣(ディスカバリー・d10326)だ。
机に宿題を並べるイヅルの横に座りつつ臣が言う。
「ギリギリになってから焦ってやるのはあまり関心しませんよ」
「た、ため込みたくてため込んだわけじゃないんです。わからない所があって放っておいたら……」
そんな感じで始まった2人の勉強会だったが、臣の教え方は効率が良く、次々に片づいていく宿題にイヅルも楽しくなっていった。
ふと、臣が思い出したようにイヅルに言う。
「どこか遊びに出掛けましょうか?」
「予定が合えば出掛けるのもいいですね」
笑顔で返すイズル。
「では宿題が終わったら遊びの計画を立てましょう」
宿題はあと少し、ラストスパート。
真面目に宿題に取り組む者もいれば、そうでない者もいる。
「桐咲くん、一緒に勉強しない?」
自習室で寝ていた桐咲・兆夢(鮮血急報イモータルクリムゾン・d12733)を起こしたのは骸衞・摩那斗(Ⅵに仇なす復讐者・d04127)だった。
1人では寝落ちでも2人なら、と兆夢は宿題と筆記用具を再度並べ、摩那斗は数学に取り組み出す。
「骸衛君、何を悩んでるッス? そこは自分に任せるッス」
文系脳で数学が苦手な摩那斗に代わり、先輩たる兆夢が問題に挑み――。
ボフッ!
頭から煙をあげて撃沈した。
そして……。
「骸衛君、マッカーサーって何代目の大統領ッスか?」
「いや、確か日本に来た人だったはず」
「日本の大統領ッスか」
「いや、日本は天皇とか総理大臣だよ?」
「つまりマッカーサー総理大臣ッスね」
「いや違うって!」
最終的に高校生の宿題を中学生の摩那斗が手伝うことに……。
もちろん結果は……新学期のお楽しみで。
自習室、それは2人だけの世界。
「テストが悪かったから、内申点で補うしか無いと思うの!」
「点数が望めねぇのに内申上がる訳ねぇだろ」
まったく甘くないやり取りの2人は、風巻・涼花(ガーベラの花言葉・d01935)と東雲・軍(まっさらな空・d01182)だった。
「いっくん社会教えてよ」
涼花に言われて軍は考える、丸暗記しろと言いたくなったが、できれば好きになってもらいたい。
「すずはアニメやゲーム好きだからハマったらイケんじゃね?」
そう言い歴史雑学を交えて軍は教える。
「織田信長は本能寺で死ぬ時、傍に森欄丸って男がいて……」
「つまり、ホモ……?」
明らかにすずのやる気が上がった。
「どこでやる気出してんだよ……」
なんだかんだで社会は終わり、残るは理科と英語。
「あ、すずもいっくんの宿題教えてあげるね! ヲホホ、理科と英語はすずの方が良かったし」
思わず負けず嫌いの軍が怒ったように机に向かう。
「とっとと終わらせて何か食いに行こうぜ」
教室にいるのはたった2人、一人は勉強しており、もう一人はその少女を見守っていた。
「あ、あまり見つめられますと……」
時に助言をしつつも、それ以外は微笑みながら見つめてくる夜月・深玖(孤剣・d00901)に対し、北大路・桜子(桜餡・d00952)が言う。
「悪い悪い、照れてるのを見て楽しんでいる場合じゃなかったね」
桜子は何か言い返そうとするが、深玖の次の言葉に顔が赤くなる。
「それじゃあ、ご褒美、あげるって言ったらどうする?」
もちろん勉強が終わったらね、と。
「……えと、では、頭を撫でて貰いたい……です」
その程度で?
「それが良いのです」
と幸せそうに言われれば、深玖も同じく幸せな気持ちになる。
やがて全ての宿題が終わる。
桜子を撫でてあげながら、桜子嬢は本当に可愛いとその頬をくすぐる。
「これじゃあ俺のご褒美だね?」
笑う深玖に桜子は、夜月さまだから、と心の中で返すのだった。
自習室に百人一首を詠む涼やかな声が響く。
これは摘んだ七草を贈った時に添えた歌でね……と楽しそうに話すのは風音・瑠璃羽(散華・d01204)だ。
瑠璃羽の話を聞いていた湶・渓志(凪の薬師・d06210)は。
「昔の人ってロマンチストなんだね。こういう健気な人って可愛いよね。本当」
「うん……素敵だよね。ちょっと憧れちゃう」
微笑む二人。
その後、今度は渓志が英語や理系教えつつ気がつけば昼の時間。
そのまま自由に飲み食いができるのも自習室ならでは。
2人の前に広げられたご馳走は渓志が用意したハムカツと海老アボカドサンド、そして瑠璃羽が作ったエクレアとプリンだ。
「うわ~い! おっひる~♪」
サンドをぱくりと美味しそうに食べる瑠璃羽を見つつ、渓志もがつがつ……そして前に約束したデザート!
美味しいから何個でも食べれるとペロリと食べる渓志を見て、お腹だけでなく胸までいっぱいになる瑠璃羽だった。
●野外
寒風吹き荒ぶ野外に身を置く者達もいた。
西久保高1ー8の榎本・泰三(憤怒の拳・d11151)とエル・シキル(歪んだ瑠璃色・d11928)もそのクチだ。
「俺はバカだ。おまけに元不良だ」
ばーんとエルの前に白紙の宿題を広げる泰三はどや顔。
対するエルはそれを見て、今日は全科目終わるまで帰らせる気も寝かせる気もないと覚悟を決める。
まずは0点だったリスニングからと泰三が課題に取り組み始める。
一方、宿題の終わっているエルはもちろん教える役、どうせなら泰三からジャパニーズ・ネイティブが得られるなら利もある、とか思いつつ。
「あいあむあぺん」
泰三のあまりの発音にこけそうになる。
「あぽー」
ひどい、本当ひどい。
「完璧だな」
再びどや顔の泰三。
思わず目に涙すら浮かべつつエルがつぶやいた。
「僕も本気出します」
「良い覚悟だ。だが、登校日まで家に帰れるとは思わない事だな」
1月の東京を寒いと感じない者もいる。
「外でもこんなに暖かいんですね~」
恋川・想樹(ねむりねこ・d10384)はそんな一人だった。
学校に通えていなかった過去がある想樹は、宿題だって目新しい。
堅実に終わらせた後はコーヒーを淹れて休憩タイム。
近くを通りかかった少女がくしゃみをし、どうぞと暖かいコーヒーのお裾分け、貰った鈴懸・珠希(小学生エクスブレイン・dn0064)はコクリとお礼。
「青天井の下で勉強しながらのコーヒーもいいものです……」
「フッ……これも我が暗黒修行の一つ……ククク……だから俺は決して、寒くは無いのだ……ッ!」
寒さに震えながら野外で宿題に挑んでいるのは釈迦堂・味昧(黒き流星の剣・d05832)だ。
「暗黒力の使途は勉学を疎かにすると思われている……それは構わん」
「構わないんだ」
コーヒー片手に通りかかった珠希が相づち。
「ああ、だが……この俺まで一緒にされては適わんな! ククク……次回こそ1位を取ってみせる……ッ!」
●図書館
テストの点数が悪く、手を抜く事ができないと一人図書館で勉強しているのは七瀬・仁人(ヘマタイト・d02544)だ。
「やってやるよ畜生……」
だが、疲れているせいだろうか? やがて――。
ああ、息抜きしたい……糖分が足りない……。
はっ!?
気がつけば本棚から資料に混じって面白そうな本を机に持ってきていた。
「終わるまで我慢だ」
仁人は強い意志で本棚に返却すると再び勉強に励むのだった。
ぶつぶつと文句を言いつつ宿題に向かうのは高杉・麻樹(せつないうた・d12978)だ。
必要書籍を集めて宿題の山を片づけていく。
「うがー!」
時に叫んで注意を受けたりしつつだが、頭は悪くない麻樹だ。かなりのスピードで山が減っていく。
ガタッ!
と、思えば唐突に立ち上がり図書室の外へ。
もし麻樹に問題があるとすれば……。
――宿題なんか滅んでまえぇぇぇ!
遠くで叫び声。
飽きっぽいのが問題であった。
黙々と頑張るのは愛原・美織(花の香・d13173)だった。
もっとも、集中して勉強をしていたのは最初だけ、気がつけばこの学園の構造図など関係ない事を始めている。
「建築の宿題ですか?」
偶然それが目に入った珠希が不思議そうに聞いてくる。
「少し集中力が切れてしまって」
「それは……わからなくもないです」
にっこり笑う美織の笑顔につられ、珠希も笑って返す。
「そうだ、これをどうぞ?」
美織は一口サイズのチョコを小声で差し出すのだった。
何故私は宿題を手伝っているのでしょう……。
先輩であるミルミ・エリンブルグ(焔狐の盾・d04227)の宿題を手伝いつつ回想するのは篠崎・結衣(ブックイーター・d01687)だ。
図書館に来たら突っ伏していたミルミに見つかり……。
「あの、私は2年生なのであなたの宿題範囲は、わからないと……」
「大丈夫、結衣ちゃんなら分かりそうな予感がするのですっ」
結衣は小学2年生、対するミルミは6年生。
そんな学年差を気にせずミルミはばばーんと算数の宿題を広げる。
とりあえず教科書を貸して下さいと結衣が問題に関連した箇所を調べ――。
「え、本当に解きました!? お、おかしいです……実は天才なんですか!?」
そう、結衣の答えは正解だった。
「とりあえず今日は、残りを終わらせましょうか」
結衣の言葉にミルミが笑顔で真っ白な宿題を机にどさっと。
どうやら、今日の読書は諦める必要がありそうだった。
隣り合って勉強をするのは火売・命(宵闇の焔・d10908)と大原・実梨(第二世界・d11546)だ。
広げられた宿題は実梨が苦手な歴史。
「時系列とか人の名前が曖昧になってしまって……」
と困り顔の実梨を見れば、思わず可愛らしい、と見守ってしまう命。
命が少しずつ丁寧に教えていくと、教えられている実梨も少しずつだが理解が進み、それと共に宿題も着々と減っていった。
どうしてそんな簡単に覚えられるのだろう? 実梨が聞くと。
「文章を見たら全部そのまま覚えられるから」
とのクールな命。
ああ! さすが命さん! 彼には苦手な勉強などないのだ。それでかっこよくて優しくて強くて本当に私の恋人なのだろうかあああ好き大好きあいしてます!
「あっ、い、今、口に?」
「ん?」
別に口走ったりはしてないが、ついそんな事ばかり考えてしまう実梨だった。
図書館での勉強会、お互いに苦手な教科を教えあう2人。
オリキア・アルムウェン(壊れかけた翡翠の欠片・d12809)が英語を、神楽・紫桜(輝光を護る者・d12837)が国語を教え合う。
まずは英語、図書館なので小声でオリキアがネイティブな発音方法を教えてくれる。
だが、紫桜の視線はその唇へ。
「な、なんか……近いなぁ」
オリキアが視線を外してつつ頬を染める。
「違っ、ほら図書館で声が小さいから、聞こえなくて」
「そう、なら」
どきどきの発音練習は終わり、次は紫桜が国語を教える番。
オリキアは紫桜の教え方に感心しつつ、ぼんやり彼を見つめながら弟がいるとか言ってたっけ……などと考えてしまう。
もっとも、紫桜は紫桜で本格的に教えるなら書き初めの方がいいだろうし、その約束をつけられれば、と。
「あのさ、今度書き初めを……」
勇気を出した紫桜の誘い。
オリキアの返事は――。
向かいに座る親友、天都・千優(月ノ影・d10552)に勉強を教えるのは有馬・由乃(歌詠・d09414)だ。
「由乃ちゃん、ここわかんないー」
「ここはね、こうして考えるとわかりやすいかな?」
由乃の教え方は分かりやすく、千優はどんどん自分ができる女なのでは、とそんな気分になってくる。
もちろん、本当にすごいのは由乃だと千優も分かっている。教えてくれる由乃の為にも頑張って頑張って物理なんて滅びれば良い頑張って頑張って……。
一方、頑張る千優を見守りながら、きちんと理解しよう努力する……そういうところが尊敬できるのですよね、と由乃は思う。
そしてあと残り少しの所で由乃が。
「終わったらケーキ食べに行きますか?」
「ケーキ? 行く!」
思わず大きな声にならなかったかドキドキしつつ千優が頷く。
やる気出てきたー! とテンションの上がる千優を見て、また由乃も微笑むのだった。
武蔵坂学園の忙しくも短い冬休みがもうすぐ終わる。
始業式はもう目の前だ。
作者:相原あきと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年1月12日
難度:簡単
参加:30人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 12
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