楔を喰らう炎獣～不死たる先の命

■リプレイ

●雪中の声
　雪降り積もる、北海道は札幌市。
　札幌市郊外にある、人気の無い街角の公園に現われてしまったアンデッドと、それを倒す為に現われたイフリート……を倒す依頼ではあるのだが。
「イフリート、最初っからやっちゃダメなのかよ……ったく、倒れるのを待つだなんて、めんどくせーなぁ……」
　浜地・明日翔（物理狂騒曲・d10058）がダル気にぼやく通り……アンデッドを倒すイフリートを邪魔してはならないという付加事項。
　彼らイフリートは別府より様々な地域へと飛び、そしてアンデッドやら、はぐれ眷属やらを喰らい、殺すという事件が今、様々な地域で発生していたのだ。
「しかし、何故イフリート達は唐突に、このような行動に出たのでしょうね……？」
「そうだね……でも、不自然な行動には必ず、理由があるはずだ」
「そうそう。なにを企んでるんだかよー解らんけれどさ、とりあえず潰しておこう、そうしよう」
　火売・命（宵闇の焔・d10908）、湶・渓志（凪の薬師・d06210）、そしてマリス・アンダー（シャドウわんこ・d03397）らが次々と言う言葉に、明日翔は。
「なぁー、倒していいんだよなぁ？　イフリートをぶちのめしてもいいんだよなぁ……キヒヒヒ」
　と、少し違う笑い声を上げる。
　それは戦闘に掛ける気持ちが強いからこそ……鈴鳴・梓（修羅の花嫁・d00515）と、比良坂・八津葉（死魂の炉心・d02642）の二人も。
「まぁでも、不謹慎なんだろうけれど……やっぱり強い敵と戦うのって楽しみなのよね……その炎、この身に刻ませて貰いましょうか」
「そうね。私がどれだけ強くなったかは、試金石に使えるかも知れないわね。しかし……まさか、ヴォルフさんとシュヴール君と組むことになるとは思わなかったわね」
「ええ……何の因果かは解りませんが、八津葉様と同じ依頼になれて幸いでございます」
　ニコリと微笑むヴォルフガング・シュナイザー（Ewigkeit・d02890）と、霊犬のシュヴールもガゥと一声。
「ふふ。まぁ同じクラブの同士だし、悪しからずの中だからこそ、カッコ悪い真似は出来ないわね」
　ニコリと笑う笑みは、ヴォルフガングへと言うよりはシュヴールへ向けられている。
　でも、それにヴォルフガングは、八津葉に聞こえないように小声で。
（「……必ず、彼女だけは私が護ります。絶対に」）
　と、心に定める。
　そして……。
「まぁさておき、雪の中で少しでも動ける工夫を施しておかないとな。みんなもこれどうだ？　意外に動きやすいぞ」
　と七罪・樒（魂還りの常闇・d08723）が提案すると。
「そうだなぁ……って、イフリートがゾンビを倒す迄待ってなきゃいけないんだろ？　他にどうするよ」
「そうですね……せっかく、雪が深く降り積もっているのですから、それを使わない手はありません。例えば……コレとかどうでしょう」
　明日翔に梓が魅せるは白い迷彩服。
　そしてそれに加え八津葉も、白く大きな布を取り出して。
「雪の中だからこそ、白でカモフラージュ……という事です。恐らくイフリートはゾンビを倒す事に夢中になっていると思いますが、用心に用心を重ねて悪い事はありませんしね
「そうだね。後はゾンビ達の居場所を探さなきゃー……っと、あ、いたいた」
　と渓志が指差した先、大きな公園の一角で潜んでいるゾンビ達。
　彼らはうーうーと呻きながら、その場辺りを徘徊するばかり。
「……それじゃ、この辺りに身を潜めることとしようか。同じ人型の相手だし、きっとイフリートの戦闘方法は、参考になるでしょうし」
「そうですね。それじゃさっさと隠れておきましょうか……ボヤボヤしてて、ゾンビにも、イフリートにも見つかるなんて最悪な事態は避けるべきですしね」
「そうだな。雪の上に身を潜めることになるから寒いかもしれないが……皆、耐えてくれな」
　命、マリス、樒がそんな会話を繰り広げつつ……そして灼滅者達は、ゾンビが見える所に人が潜める程度の穴を掘り、そしてその上に寝そべり上から白い布を被してカモフラージュ。
　……息を潜めながら、イフリートがゾンビへと襲いかかる時を、静かに待ち構えるのであった。

●不死より先に
　そして暫し……ゾンビ達が呻き声を上げる夜半過ぎ。
　周りに降り積もる雪が……街の音を全て覆い隠すかの様に音を吸収した……その瞬間。
『……グルゥゥウ……！！』
　突如現われたイフリートが、ゾンビ達に襲いかかる。
　力の儘にその腕を引きちぎり、喰らう。
　その身体を雪上に叩き付け、圧倒的な力差で以て雪に押しつけ……力を見せつけるような動きをする。
　そんなイフリートの攻撃は、ゾンビ達を滅殺するのを楽しんでいる様にも見えてしまう。
「これが……イフリート……」
「ああ……すげえ力だ」
　梓の一言に、何処か嬉々とした視線で見つめる明日翔。
　……そしてゾンビが次々と滅殺され、消え失せると、イフリートは。
『……グルルゥゥゥゥアアア……！！』
　再度、その咆哮をその場にしらしめんが如く立ち上がらせる。
「よし……戦闘開始、だ」
「ああ。さぁさぁ、始めようぜぇ！！」
　樒と明日翔が、威勢良く声を上げると、灼滅者達は一斉に、被っていた白い布を翻して出現。
『……ゥ？』
　と、イフリートがこちらに気づき、戦闘態勢を取るよりも早く彼の間近へと立ち塞がる。
　そして。
「鶴見岳山頂に、火売神社の上宮があり、そこが実家なんですよ。だから火之迦具土神を祀る者として、あなたを灼滅させて頂きますよ」
「さぁ、いざ来ませ、異邦の救い手よ」
　と、命とヴォルフガングは流れるような動きでスレイヤーカードを解放、霊犬を呼び出し、ディフェンダーポジション。
　ヴォルフガングは攻撃を嗾ける……様に見せかけて、まずソーサルガーダーを自己展開する。
　又、明日翔はソニックビートで自己強化。
　クラッシャーの明日翔、ディフェンダーの梓もイフリートの目前に構える。そんな仲間らに八津葉が。
「マリスさん、サポートするわ」
「諸々の禍事罪穢有らむをば、祓へ給ひ清め給へと白す事を聞食せと恐み恐みも白す」
　と癒しの矢をマリスと樒に飛ばして命中率をアップさせる。
　そして対峙する者達……ジリジリと、イフリートから発せられる熱量が肌を焦がす……そしてジャマーについたマリスと樒が。
「樒さん、まずは何からいく？」
「私は、回避低下を先ずは狙う……マリスはその身を縛り付けてくれ」
「了解。いくぜ、どんどん絡まって動けなくさしてやるぜ！！」
　マリスが影縛りで捕縛すると、樒が黒死斬の足留め。
　バッドステータスを次々と付加し、更にキャスターについた渓志もその手に加わり。
「行儀の悪い子だね。親の顔がみてみたいよ、本当！」
　と、レーヴァテインで服破りを狙う。
　その様に中衛陣の三人がバッドステータスを次々付加していく。
　そして、イフリート側からの攻撃。
　無論そのターゲットになるのは、目前に立ちはだかる前衛陣、明日翔、梓、ヴォルフガングとその霊犬に集中。
『ウガルゥゥ！！』
　そんな高らかな咆哮を挙げながら、喰らい掛かかり、炎の拳で殴りかかる。
　流石に強力なイフリート……その攻撃力も強力で、一撃で体力が大幅に削られる。
「っ……熱くて、早くて力強い……いいわね」
　しかしそれに怯む事なく、梓は何処か嬉しげな笑みを浮かべる。
　勿論その攻撃に対し、次のターン。
「順番は狂いますが……仕方在りません」
　と、集気法による回復を飛ばして、梓を回復。
　そして八津葉は続けてマリスにシールドリングを展開しておく。
「サンキュー。さぁこっちだぞわんこ！！」
　マリスも何処か嬉し気にナイフを繋いだチェーンを鳴らして挑発してみたり。
　樒もヴェノムゲイルのバッドステータスを増やし、バッドステータス漬けに陥らせる。
　そしてイフリートへの直接的な攻撃は、明日翔、梓、ヴォルフガング。
「おらおらおら、いっくぜぇええ！！」
　明日翔が嬉々としながら螺旋槍を振り回してイフリートに攻撃すると、梓、ヴォルフガングとシュヴールが抗雷撃とシールドバッシュ、そして斬魔刀攻撃。
　三者の連携攻撃で、着実にイフリートの体力を削り去って行く。
　……そして、そんなイフリートに対し。
「しかし、イフリートって群れたりするもんなの？　『ガイオウガ』ってさ、君達の王様なの？　他のダークネスを差し置いて、この世界を動物園にでもするつもりなのかな？」
　と、渓志が問いかけてみる。
　……だが、それに対する答えはない。
「そっか、解ってないのかなぁ？　まぁいいや……それじゃ、全力で行かせて貰うよ」
　そう渓志は言いつつフェニックスドライブ。
　拳と拳で語り合うが如く、熾烈な炎の衝突。
「……負けません。私はヒーラー、強敵相手にこそ、生きて皆を無事に返す存在。どんな時も冷静に、戦況を必ず見つめるわ」
　そして……体力が危険になれば、八津葉と命、メディック二人が交互に回復を施し、ダメージの総量を減らして行く。
　……そうして数ターンが経過すると、戦いの戦果に足下も踏み固まり、いくらかは戦い易くなっていく。
「さて、これからが本番でございますよ」
　とヴォルフガングは言うと、霊犬シュヴールに視線を配す。
　扇形に左右に分かれると、彗星撃ちと斬魔刀による連携攻撃。
　そして梓と明日翔もその連携に続いて。
「もっともっと、力比べしましょうよ！」
「キヒヒ……もっと歯応えがあると思ったんだが、見かけ倒しかぁ？　もっと満足させてくれよ！！」
　と、鋼鉄拳、デッドブラスターで殴りかかる。
　……戦闘を楽しむが如くの灼滅者の動き。
　しかしイフリートも、戦闘を楽しむが如く暴れ回る。
　一進一退の攻防が続き……そして14ターン目。
「はっは！！　デカブツは狙いが甘くても当たってくれるねぇ！」
　とマリスが影喰らいでイフリートを穿ったその時……イフリートの身体から、血が迸る。
「……目に見えて効き目が解るようになってきたか。後少し……」
　樒はそう呟くと共に、きっとイフリートを睨み付け。
「……何度でも斬り裂く。たとえ、浅くとも……」
　とジグザグスラッシュで、バッドステータスの効果を一層強化。
　目に見えて、身を蝕む苦しみを表に出し始めたイフリート。
「ふふ……中々強かった様だけど、でも一人だけじゃ、私達に勝つことなんて難しいわよ？　ほら……後は一思いに、一気にやらせてもらうわ！」
　と梓が笑う。
　後もう一息……それを察知した灼滅者は、かなりの疲労に包まれた身体を奮い立たせながら、武器を揮う。
『グ……ゥゥ……』
　推されつつあるという事を認識したかどうかは解らないが、苦しげな表情を浮かべるイフリート。
　……そして、20ターンを過ぎ。
「キヒヒ……どうだ、俺達の実力に恐れ入ったかぁ？」
　すでに動くのも厳しそうなイフリートに明日翔がそう言い放つ。
　イフリートは……うめきごえを挙げつつも……決して攻撃の手を止めはしない。
「流石、戦闘意思だけは素晴らしいですね……では、こちらも一切の容赦はしません！」
　梓もそれに笑みを浮かべ……そして、前衛陣だけでなく、中衛、後衛も含めての猛攻を一挙に叩き込む。
『グ……ウゥアアア……』
　それら攻撃に、イフリートの身体が雪上に吹き飛び……動けない身体に。
「さぁ、これでトドメだぜぇえ！！」
　明日翔が渾身の妖冷弾を叩き込むと……イフリートは断末魔の声を上げて消え失せて行った。

●雪を血に
「……戦闘終了」
　静かに一言を告げる樒。
　そしてナイフを鞘に収め、倒したイフリートを静かに見下ろす。
「……イフリート。貴方様も……元は人なのですよね？　……悲しい存在ですね、ダークネスは……」
「そうだね……ダークネス、イフリートか……」
「しかし……何が原因で奴らは戦いだしたのだろうな？　何か理由があるのだろうが……全て燃やされ尽くして居る、か……」
　ヴォルフガング、渓志、樒が次々にイフリートに向けての言葉を紡ぐ。
　そして……すっかりイフリートの姿が消えた跡には……雪肌を焦がし、窪んでいる状態。
「おお、雪も結構溶けちまったなー……むしろ雪のある地域だったからよかったのかな？」
「そうですね……確かに良かったのかも知れません」
　マリスにくすりと笑う命。
　その後、潜むために掘った穴を、改めて再度埋め戻し、後片付け。
　全ての後片付けを終えてから、イフリートに対する冥福を軽く祈りを捧げる。
　そして、全て片付け終わると共に。
「これで良し……と。皆、お疲れだぜ」
「ええ、お疲れ様でした」
　明日翔、梓がそんな言葉を紡ぎつつ……樒は空を見上げつつ。
「……あちらも無事だといいが……な」
　と、恋人の無事を、静かに祈り紡ぐのであった。

作者：幾夜緋琉	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年1月16日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 9／感動した 0／素敵だった 4／キャラが大事にされていた 1
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