物欲と願いのバトルロイヤル

    作者:旅望かなた

     人が一生かかっても使い切れないような、膨大な財産の噂。
     そしてそれは、その富豪の屋敷で殺し合い、最後の一人となった者だけが手に入れられるという噂。
     丁寧に撒き散らされたそれによって、毎夜誰かが戦場に加わる。
     ある夜は、会社の経営に失敗した中年男性。
     ある夜は、男に貢ぐ金がなくなった若い女。
     ある夜は、母の病気を直したいと願う少年。
     ある夜は、貧しい生活から遥かな栄達を願う少女。
     ――主の部屋に通された者は、彼から直接にナイフを受け取るのだ。
    「さぁ、全員殺して、私の部屋に戻っておいで」
     全員の死。
     その日が来ることは、ない。
     来たとしても――財産なんて、存在しない。
     
    「ちょっとヤバいレベルで胸糞悪いって言うか……うん、やな事件」
     嵯峨・伊智子(高校生エクスブレイン・dn0063)がぎゅっと眉をひそめて、集まった灼滅者達に語り始める。
    「ソロモンの悪魔の配下が、一般人をそそのかして殺し合いをさせてるんだよね。直接手を下してるのは一般人だし、そそのかしてるのも力を持った一般人だしで、もうムカツクってどころじゃないんだけど……」
     ソロモンの悪魔の配下としてナイフを渡し、一般人に殺し合いを刺せているのは増渕という老紳士。――に、見える外道。
    「で、今の所一般人が、8人。この人達は、別に強化されてるわけじゃない普通の一般人なんだけど」
     広すぎるほど広い屋敷で、殺し合って残った人数が、8人。
     放っておけば、新たな殺人が起きるだろうけれど。
     放っておけば、増渕との戦いに集中することができる。
    「増渕は不利になったら逃げようとするかもしれない。でも、屋敷は広いけど増渕の部屋には窓が一つしかなくて、入り口も一つしかないから工夫すれば大丈夫だと思うんだけど」
     家は三階建てで、かなりの広さを持つ。だが、三階の角部屋である増渕の部屋を訪れるのは簡単だ。
     新たなる挑戦者として、入ればいい。玄関から直通の階段は、増渕の部屋に繋がっている。
     ただし、増渕は一人を戦場に送り出してから、また一人を迎え入れるというルールを崩そうとはしない。屋敷には姿を隠してはいるが十数人の見張りがおり、不審な行動はとがめられるかもしれない。
     さらには、それ以外の場所から入ろうとすれば、見張りがとがめる可能性もある。
    「増渕以外には、力を与えられてる使用人が三人いて、あとは見張りとかも一般人。――この力を与えられた三人は増渕の部屋かその近くに控えてるけど、もう灼滅するっきゃない」
     戦いになれば、彼ら四人を相手取る事になるだろう。
    「全員、魔法使いと同じサイキックで戦いを挑んでくるよ。回復もできるし攻撃できる範囲も広いから、気を付けて」
     そう言って、伊智子はぎゅっと唇を引き締めてから、再び口を開いて。
    「色々考える事も多くて大変だけど、よろしくお願いします。……成功条件は増渕の灼滅、そして無事に帰ってくること、だから」
     どんな結果になったとしても、任せるから。
     そう言って、伊智子は灼滅者達を送り出した。


    参加者
    日月・暦(イベントホライズン・d00399)
    花檻・伊織(蒼瞑の剣・d01455)
    泉・星流(箒好き魔法使い・d03734)
    達川・馨(黒き瞳の見つめる先は・d04012)
    綾峰・セイナ(元箱入りお嬢様・d04572)
    神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)
    シェリー・プラネット(冷たい鬼の仔・d08714)
    猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)

    ■リプレイ

     薄氷色の瞳が、冷たく冴えた。いつもより、幾分。
    (「ま、義憤なら他の皆が充分覚えてくれるだろうから置いといて」)
     俺は増渕さんにゲーム提供する気持ちでいこう、と花檻・伊織(蒼瞑の剣・d01455)はその瞳を冷たく細めた。
     闇をまとったその体が、登った柵を越え、挑戦者であるシェリー・プラネット(冷たい鬼の仔・d08714)と共に玄関から入り、そのまま三階へと向かう。
     残ったシェリーは、使用人に案内されるままに、主の部屋の前へと立った。
    (「余程、切羽詰まってるとはいえ……人を殺してまで得る財に価値はあるのかしら」)
     ふー、と一つ溜息をつく。促され開けた扉の先で、老紳士といった風の男が「ようこそ」と腕を広げた。
    (「……とにかく、早く殺し合いを止めさせないと」)
     ひそめた眉を覚悟の表れと受け取ったのか、男はニィと笑って。
    「詳しいことはわかっているだろう。だが、私は君に動機を聞いてみたいね」
     膨大な財を得て、一体何がしたいのか、と。
    「……得たお金で、世界中の、美味しいものを……食べたいわ」
     若干片言で――日本語を学び始めてからまだ日は短いのだ――そう言った彼女に、男は目を見開いた後大声で笑ってみせた。
    「美食の為に殺人を犯そうというのか、気に入ったよ、君! あぁ、私の名前は増渕だ、冥土の土産には少々足りない情報だろうがな」
     ようやく笑いを抑え、男は一振りのナイフを少女へと手渡した。こくりと頷き、そのナイフをシェリーは受け取って。
     けれど彼女が行うは、殺戮ではなく、救出。
     その思いを気取られないよう、彼女は背を向け歩き出す。
     ――勿論、動機は冗談よ?
     けれど生き延びなければ、美味しい物も食べられるまい。

    (「んむ、趣味が良いとはお世辞にも言えねー話ですね……趣味の悪い奴らと、センスの無い服は嫌いです!」)
     猪坂・仁恵(贖罪の羊・d10512)が大人しやかな様子とは裏腹に、威勢良く舌打ちしてばしんと案内された扉を開ける。
    「ほう、元気のいいお嬢さんですな」
    「けっ、このくらい元気がないと人殺しもできやがりませんからね」
     そう胸を張った仁恵を、増渕はなかなか気に入った様子で。
    「では早速……と言いたい所だが、動機でも聞かせてもらおうかな」
     増渕に促され、仁恵は考えてきた理由を言おうと口を開く。
    「服の買い過ぎで明日の飯にも困ってるんで……あ」
     そして言いながら気が付く。
    「どうしました?」
    「いえ、なんでもねーですー。ま、お金があれば新しい服もご飯も買えますし」
     ぱたぱたと手を振りながら、思わず仁恵は心の中で自分にツッコミを入れた。
     これ、事実じゃねーですか。
     ――ともあれ、渡されたナイフ、後にした部屋。
     仕込みは、行われた。

     何人もの見張りとはいえ、一般人。特別な能力も無ければ、その注意が逸れるときだってある。
    (「こんな人数がこの館に……まあ、何も知らなきゃ割のいいバイトなんだろうな……」)
     事情を知ったら、彼らはどう思うのだろう。悔恨か、開き直りか、それとも。
     闇をまとった日月・暦(イベントホライズン・d00399)は、そんな思考を振り切って息をひそめ忍び足で歩を進めた。確かに一般人からもカメラからも姿を誤魔化せるが、音までは抑えられない。
     通り過ぎた場所で、金属同士が合わさる鋭い音。それに介入できない事に、暦は歯噛みする。
    (「絶対好きになれないな。こんな人の心を弄ぶようなこと、絶対に許せない!」)
     だから、この剣戟に決着がつく前に――!
    (「犠牲者なんて、出してやらねぇよ!」)
     闇の中、暦はきつく拳を握る。
     そして反対側の廊下では、同じ剣戟の音に、達川・馨(黒き瞳の見つめる先は・d04012)も小さく眉をひそめていた。自分から他人に関わる事は少ないけれど、関わった以上何とかしたいと思うのが彼女の性分だ。
     馨も闇に身を包み、潜入したうちの一人。学園に入ってから初めての依頼であり、気負い過ぎてはいないが真剣な面持ちで。
     部屋の近くまで行って、入り口の扉の前に立っている使用人に気付きその前の物陰に身を潜める。
     さらに窓の外には、ちょうど死角になる窓の真横の位置に、二つの箒がその主と共に浮かんでいた。
    「ここにきて、ソロモンの悪魔も一気に何かの儀式を始めようと考えてるみたいだな」
     旅人の外套で断った気配も、強化された一般人達には効かぬ。そっと泉・星流(箒好き魔法使い・d03734)は、部屋を探すのに役に立ってくれた小型の望遠鏡をしまい込んだ。代わりに取りだしたバスターライフルの照準器を、静かに、覗き込む。
     窓を挟んで向こう側では、綾峰・セイナ(元箱入りお嬢様・d04572)がやはり静かに放棄に跨り、時を、待っていた。
    「お金で人をそそのかすなんて、気分の良い話じゃないわね」
     私の家もお金がある家だから、尚更。そう言うセイナには、それを無闇に誇ったりするような嫌味なところは何もない。
     単純な事実として、彼女自身がそれを受け止めているから。
    「あの増渕とかいう人、絶対に許しておけないわ」
     そして富裕であるからこそ、金で人を釣る増渕のやり方が許せない、と。
     それぞれの思いを抱え、灼滅者達は館中に散った。
     最後の一人は――もう、増渕の前に立っている。

    「ちょっと。あたしの後ろに立たないでよ!」
    「お嬢さんの要望を聞いておあげ、君」
     神経質そうに叫んだ神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)の言葉に、増渕は鷹揚に頷いて使用人にそう指示する。摩耶の真後ろから場所をずらし、使用人は一礼してドアを閉めた。
    「貴方が、噂の脚長おじいちゃん?」
    「はは、確かに原作の彼は、おじさんと言うにも若すぎたがね」
     私は確かに脚長おじいちゃんかもしれないな、と増渕は笑って。
    「だが、残念ながら無条件の援助は私は好かなくてね」
    「全員、殺っちゃえばいいのね。簡っ単」
     けろりと摩耶は言い捨てて、「後ろに立たないでよ」と左右に控える使用人を睨み付け、ナイフを受け取ろうと進み出る。
    「それで、君は何故ここに来たんだい?」
    「だって、そのくらいしないとこの世はつまらなすぎるじゃん?」
     唇を歪めて笑う。意識的に。基本的には品行方正な彼女の、精一杯の演技だ。
     ここに来る途中もぶつぶつと呟き声を上げ(それは携帯電話で仲間達に状況を知らせることも兼ねていたが)、言動を工夫し、疑われないよう必死に病んだ様子を演じて。
     そして増渕が窓を背にするよう、意識して歩みを進める。そのナイフに、手を伸ばすために。
     僅かに方向を変えた増渕は、確かに窓を背にした。それを確かめ、摩耶はナイフを受け取って。
     踵を返し、すたすたと扉に向かって、立ち止まったかと思えば言い放つ。
    「最後に一言」
     蹴り飛ばすように扉を開く。同時に封印を解除し、振り向きざまに摩耶は一気に槍を叩き込んだ。不安定な体勢でも相手の死角は、ポテンシャルたる殺人鬼の本能が教えてくれる。
    「何っ!?」
    「ま、増渕様を守れ!」
     混乱した状況の中、「そうだ、私を守れ!」という叫び声と同時に。
    「一発必中……一撃必殺っ!」
     閃光が窓ガラスを割り、そのまま増渕を灼く。光を追うようにセイナが飛び込み、その後ろから星流が舞い込む。
     そして屋敷中にその音が、戦いの始まりの証。
    (「始まった……!」)
     シェリーが一つ頷き、屋敷の入り口に向かって走りながらパニックテレパスを展開する。
    「なっ、一体、何事だ!」
    「ど、どどどうしたんだ!」
     そう叫びながら何もすることのできない見張り達を、シェリーは素早く刀の峰打ちで気絶させた。殺さないだけの、手加減は充分。
    「なっ、一体どうしたの!?」
    「し、知らねぇよ!」
     そしてわらわらと右往左往する一般人達に向かい、左手の中に素早く目を走らせて。
    「もうすぐこの屋敷は爆発するわ! 早く近くの窓から外に逃げなさい!」
     そう叫べば、一気に数人が窓へと殺到しナイフで窓ガラスを割って逃げ出す。同じ言葉を叫び全員を外へと逃がすべく、シェリーが即座に走り出す。
     そして、二階でも。
    「殺し合いは終わりです! もう見張りはいねーです、外へ逃げて下さい! 逃げねーと捕まりますよ!」
    「っ!」
    「ど、どうしよう!」
    「逃げろっつーのです!」
     慌ててうろうろする少年を、仁恵は階段の方へと押しやった。
     それを突き飛ばさんばかりの勢いで降りていく中年女性に、もう殺人をする余裕など感じられない。
     そして大音量故に咄嗟に外したイヤホンを、仁恵は走りながら付け直して。
    「シェリー、そっちはどうっすか!?」
    「……今、全員、避難して……今から、三階に……」
     着信を受けたのは、シェリー。階段を駆け上りながら、書いていない言葉故に若干たどたどしくシェリーは懸命に言葉を告げる。
     そして三階では、既に戦いが始まっていた。
     抗雷撃によって状態異常への耐性を得た伊織が、一気に糸の結界を張る。その向こうから、暦がナイフから呪いを解放し、敵を喰らわせる。
     馨が巨大に広げたシールドに一瞬隙間を開け、そこからマジックミサイルを解き放つ。摩耶が同じく広げたシールドから、さらにエネルギーの盾を分離させ先頭で攻撃を受ける伊織に力を宿す。
     セイナが、吸血鬼の魔力を充満させた霧を、一気に解放すれば。
    「悪いけど、こっちは通行止めだよ」
     同じく窓際に陣取るはっきりと言い放ち、星流が魔力の竜巻を引き起こし守りをずたずたに引き裂く。
    「くそっ、何とか道を切り開け……私の逃げ道を作れ!」
     増渕の命令に従って、使用人達が一気にフリージングゼロを起動し温度を奪っていく。防御やカウンターによって僅かに開いた隙間に、増渕が身を躍らせようとした瞬間。
    「やらせると思いやがりましたか!?」
     戦場に飛び込んだ仁恵が、一気に闇を解き放つ。それはメディックの力によって仲間達の氷を包み込んで溶かし、同時にサイキックの力を高める霧。
    「……遅く、なったけど……させない、わ……!」
     さらに反対側の隙間から、シェリーが一気に突出する。咄嗟に放たれた増渕のマジックミサイルを涼やかな音を立てて抜いた刀で捌き、そのまま袈裟懸けに増渕を斬りつける。
    「お前達、私の遊戯を何故邪魔する!」
    「おかしいな、増渕さんにゲームを提供しに来たつもりだったんだけど」
     けろりと言い放って、伊織が素早く使用人の一人の懐に入った。守りをはぎ取るように、愛刀を振るい斬りつける。
    「別に、正義感を燃やしている訳じゃないけど。人を踊らせといて自分だけ特等席ってのも退屈でしょ」
     主催者も、参加してもらわないと。
     この、狂った殺人遊戯に。
    「馬鹿なっ……私は、選ばれて……」
     なおもそう言い募る増渕に、摩耶が一気に迫る。
    「……私が許しても、世界が貴様を許さない」
     病んだ少女の仮面は力の解放と同時に完全に剥がれた。真っ直ぐな瞳が増渕を射抜き、仲間を守り闇を穿つという信念をシールドに乗せ、一気に突撃する。
     ばん、と壁に背中を打った増渕が、怒りに燃える瞳で摩耶へとマジックミサイルを連射する。けれどそれは、ディフェンダーたる彼女にとっては好機。
    「自分のやったこと、わかってるんだろ?」
     そして暦が、ゆるりと上げた手の中に漆黒の弾丸を形作る。
    「だったら俺達がここにいる理由もわかってるはずだ。喰らえよ、これがあんたらの罪の証だ!」
     そして、解き放つ。絶対に許さぬという思念を、漆黒に込めて。
     斬、と馨のシールドの下から、這い寄った影業が使用人の一人をその守りごと突き刺して。
    「悪く思うなよ。こんな気分の悪くなる事に関わったんだから」
     躊躇する理由などない。ダークネスに深く関わりすぎた彼らはもう戻る事は出来ず、そしてこのような所業を許せる訳もない。
     星流の雷が、虚空から現れ使用人の一人を穿つ。セイナが銃の引き金を引き、弾丸に使用人が怯えた隙に最前方の摩耶を対象に闇の契約を取り付ける。
     さらに仁恵が、伊織へと天使の如く高らかな歌声を贈る。その唇に笑みすら浮かべ、動きを止める事はなく。
     シェリーが間に峰打ちを挟み、敵の防御のタイミングを崩して再び居合の技を放ち、使用人のまた一人を葬って。
     最後の一人は、紅蓮の鈍い輝きを纏わせた暦の刃が、閃いて命を吸い尽くす。
    「どうして、こんなに簡単に命を奪えるんだろうな……」
     呟いた言葉は、苦さにまみれている。
     だって、こんなにも、重いのに。
     闇に堕ちた者を、屠る時でさえ。 
     最後に何とか血路を開こうとした増渕を、馨がくるりくるりと絡め捕った。足元から伸びる、その影業で。
    「お金を弄ぶ奴は、お金に溺れて死になさい!」
     セイナの解き放ったマジックミサイルは、確実に敵の喉元を穿った。仁恵の神薙の風の刃が、それに重なり傷を開く。
    「お前達みたいな趣味悪いのは嫌いです! ぶん殴られやがってください!」
     仁恵の叫びと同時に、摩耶が一気に飛び込んで。
    「闇は闇に、塵は塵に帰れ……灼滅!」
     素早くその腱を狙って、槍を閃かせる。
     その体をすらりと薙ぐ刃。「この、俺が……」と断末魔を零して消えゆくその心臓に向けて、伊織はひょいと増渕自身が授けていた、ナイフを投げて。
    「――おめでとう、あなたが最後の一人だ」
     ……それにしても、ソロモンの悪魔の手下たちってナイフ好きだね。
     その言葉に増渕が応える事は、なく。
     完全にその姿と声が消えたのを確かめ、シェリーがふっと息を吐いて「お疲れ、様」と頷く。一般人は皆逃がしたと、告げて。
    「お説教の一つも、してあげたかったのだけれど」
     セイナが少し残念そうに呟く。もしかしたら、金を与えその大切さを説く言葉は、却って反発を招いたかもしれないけれど――彼女が簡単に与えようとするそれが手に入らなかったからこそ、ここに集まった人間達は凶行に手を染めたのだから。
     そして投げたまま転がっていたナイフは、星流が拾いあげていた。
    「あいつら、これで何を企んでいるんだ?」
     サイキックアブソーバーを介さずには情報は出ないだろうけれど、星流は持ち帰ったナイフを伊智子に見せてみようと丁寧に布で包む。
    「……にしても残念、今回は余り楽しくなかったよ」
     呟きながら、伊織は丁寧に愛刀を拭う。増渕を貫いた刃を、念入りに念入りに磨いて。
    「……、生きる為と言っても、彼らは殺人者になっちまったんですよね……」
     それが彼らの人生に及ぼす影響は大きすぎて、仁恵には想像もつかなくて。己も、罪を犯したことがあるからこそ。
     ふ、とため息が零れる。
    「それはそうと今日生きるために腹が減りましたよ」
     くぅ、とお腹が鳴った。
     殺戮に手を染めてしまった一般人も、そして闇を灼滅する灼滅者達にも――等しく、生き抜かなければいけない日々は訪れ、腹は減る。
     それが救いであるか苦しみであるかは誰も知らぬまま、一同は血塗られた館を後にした。

    作者:旅望かなた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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