宿題ウォーズ!

    作者:海あゆめ

     今年の冬休みも残り僅か。溜め込んでいた宿題を見て、そろそろやらないと、と焦っている人も少なくないだろう。
     そんなわけで、今日は休み中の学園の空き教室を借りて、みんなで宿題をしよう! と、武蔵坂学園の生徒達が集まってきている。
     中には、宿題なんてしないと決め込んでいる仕方のない知人、友人を引っ張ってくる者達の姿もちらほら。
    「や~ん! 助けて~! コロ夫が嫌がるあたしを無理やり空き教室に連れ込もうとするぅ~!」
    「変な言い方すんな! まったく……おっ、お前も宿題か?」
     斑目・スイ子(高校生エクスブレイン・dn0062)の首根っこを捕まえた、緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)が空き教室に入ってきて、宿題に励む君を見つけて、よっと軽く手を上げた。
    「俺はもう終わってるから、何か分からないとことかあったら聞いてくれな。ほれ、お前も早いとこ用意しろよ」
    「む~、黙ってれば逃げ切れると思ったのにぃ~……あっ、あたしはまだな~んにも手つけてないから、一緒に頑張ろうねっ♪」
     香蕗に促されて、しぶしぶ席につきながら宿題のプリントの山を机に並べるスイ子。
     彼らのように、宿題が終わった人は終わってない人の宿題を見てあげるのも良いだろう。
     そして、なるべくなら、丸々書き写しや代わりにやってもらうなどの技は使わず、教えられながらでも自分の力で宿題をやっつけたいところ。
    「頑張れよ! 終わったらバター飴をやろう!」
    「え~、あたし甘いのヤダ。あったかい梅昆布茶とか飲みたい……!」
     無事に宿題が終わったら、ほっと一息、みんなでおやつの時間も楽しめるかもしれない。
     とりあえず、今日は、『打倒! 冬休みの宿題!』 な一日である。


    ■リプレイ

    ●みんなでワイワイやっつけろ!
     焦りと緊張で充満している教室の空気の中に、お茶のいい香りが広がった。
    「宿題大変だねぇぃ。お茶でもどう? あったまるよぅ」
    「あ、ありがとう。椎乃さんは、宿題大丈夫だった?」
     転入したての由希子の発言で、その事態は発覚する。
    「習ってないところが宿題に出てしまいました……何とか頑張ったんですけど、苦手な化学と英語が残っちゃって……」
    「えっ! 転入生は免除じゃないの? やんなきゃ駄目なの? 聞いてないよぅ……」
     椎乃も同じく転入生。すっかり安心しきって見物を決め込み、余裕な表情で淹れていたお茶も、衝撃のあまりだばだばと零れてしまった。
     さすが冬休みの宿題。転入生相手でも容赦はない。そんな宿題に苦戦するクラスメイト達を前に、桃弥は宿題のプリントと教科書をおもむろに取り出し、眼鏡をスチャっと構える。
    「さぁて……スパルタで行くから覚悟しとけよ?」
     そしてこのイイ笑顔。
    「アタシたちは超人じゃないのよー!」
     思わず、伊澄は震え上がった。
     ダークネスとの戦いと並行して普段の勉強。その上宿題まで出るなんて。んもう、ヤんなっちゃうわ、と毒づきながらも、伊澄もいよいよ宿題のプリントを机に広げた。
     得意教科と苦手教科をみんなで分け合い、教え合う。世界史が得意なロイも、苦手で残ってしまった数学の問題をヴェリテージュに教わりながら解いていく。
    「……みんなとワイワイしながら勉強というのも……わ、悪くはないな」
    「ふふ、そうだね。私は勉強より料理とか裁縫とか苦手だから、授業の時は助けてもらおうかな」
     少し照れくさそうにして言うロイに、ヴェリテージュはふわりと笑みを返す。

     クラスの仲間達で宿題に取り掛かる者達がいる中、今日この教室に集まった同士で教え合う者達の姿もちらほら。
    「誰か苦手教科トレードしなーい?」
     効率化を狙ってそう叫んだ雛は、くだくだとプリントを広げながら唇を尖らせてみせる。
    「こう、夏休みの自由研究とかそんなんは得意なんだけどなー、英語や古典やらはめんどいんだぜ」
    「僕達、あちこちにいって灼滅してるんだし、チョコっとぐらい、宿題を軽くしてくれてもいいのにねっ」
     同じく唇を尖らせて、猪子も抗議した。
     だが、学生たるもの勉強も大事と言わんばかりに、宿題のプリントは山のようになって灼滅者達の前に立ちはだかっている。
    「わー……算数の宿題終わりません……」
     大量の算数のプリントを抱え、フラフラと教室に入ってくる朝夜。
    「このままじゃ、終わらねぇーっ!?」
    「と、とにかく! 千里の道も一歩から! 突き進むのみよっ!」
     先輩が多いし楽できるかなぁ、と余裕でお菓子なんかを頬張りながら宿題をしていたものの、どう考えても無理な量のプリントの山に空斗が悲痛な叫びを上げ、剣は強気に握った拳を突き出し気合を入れる。
    「よーし、これで出てきた宿題からやっつけるよっ」
     そんな中、猪子は何とか楽しく宿題をしようと、宿題内容が書かれたお手製のカードを取り出してシャッフルし始める。
     皆それぞれ、頑張って宿題に手をつける。が、やっぱり苦手な教科は残ってしまいがち。
    「あのー……先輩方? この問題わかりますか?」
     不安そうにプリントを差し出す唯。
    「だ、誰か……算数教えてくださいっ……絶対終わらないです」
     朝夜は力尽きて机に突っ伏し、プリントと睨めっこ。そんな後輩達の助けの声に、先輩方の鶴の一声。
    「はい、いいですよ。どこが解りませんか?」
    「よし、中学や小学の範囲は任せてもらおう」
     宿題の復習というとっても真面目な事をしていた流希と、すでに宿題は終えているというヴィランが快く頷いて、困っている後輩達に助け舟を出す。
     わからないところがあっても大丈夫。ここには宿題はもう終えているけど、後輩や友人知人の勉強を見にきてくれている人もいる。
    「あのね、宿題でわからない所があるんです。良かったら教えてもらえますか?」
     一人で教室に入ってきて、そわそわと辺りを見回していた羽千子が、香蕗の姿を見つけて控えめに切り出した。
    「数学と英語、ちょっぴり苦手なんです」
    「おっ、そうか。どれ、見してみ?」
     実は視力があまり良くないらしい、眼鏡を取り出しかけながら、香蕗は受け取ったプリントに目を通す。
    「ああ、この数式は一回分解してだな……」
     わりと的確に勉強を教えている香蕗の姿に、近くにいた蘭花は、ぱちくりと瞬きをした。
    「む、香蕗さんが教えてくれるのですか」
    「おー、大体なら教えれると思うぜ」
    「コロ夫って意外と勉強できるよね~」
     何でも聞いてくれ、と胸を張る香蕗の横で、スイ子が皺一つ無いプリントに向かいながら面白くなさそうに呟く。
    「安心して下さいスイ子さん、私もぜんぜんやってませんので」
     そして蘭花のこのドヤ顔である。
     多少不安は残るが、皆の力を合わせれば、宿題も倒せるはず。
    「ええと……此処教えてもらってもいいかしら」
    「おねいさんにそれ聞いちゃう? にひっ♪ どうなっても知らないよ~?」
     自分の宿題に飽きたのか、それとも剣のうるうるした必死の訴えに負けたのか、教える側に回るスイ子。まあ、これはこれで勉強の復習になっていかもしれない。
    「勉強とは、覚えるよりも理解することが一番よろしいかと思いますねぇ」
     うんうん、と流希も感慨深く頷いた。
     宿題とて、できればじっくりと理解しながら取り組みたいところ。
    「うーん……やっぱり、よく、分からない、な……」
     年末年始は伯父の手伝いで忙しく、読書感想文が残ってしまったという想希。授業で意味がよくわからなかったのを理由に読み始めたこの本が、なんともやっぱり重苦しい話しで、ますますわからなくなってしまったようだった。
    「香蕗さん、この作品って、どの辺を書いておいたらいいって思います?」
    「あー、それなー。俺もあんまよくわかんねーけど、せっかく全部読んだんなら、教科書に載ってないとこ書いてみたらどうだ?」
     難しい顔をしつつも、香蕗も何とかアドバイス。
     こうして、宿題の一角が、少しずつ削られていく……。

    ●二人で仲良くやっつけろ!
     宿題は見事に真っ白という柚衣は、最後の期待をかけて穂波を振り返る。
    「いざとなったら穂波ちゃん写さ……」
    「……? どうかしました?」
     手にしていた大量の教科書や参考書を机にドサッと置いて、穂波は笑顔を浮かべる。ああ、教える気満々だ。この厚意を無駄にするなんて、できっこない。
    「何でもないです……」
     観念して、大人しく席に着く柚衣。
    「大丈夫ですよ、時間は充分にありますし。分からないところがあったら教えますから」
     励ますようにそう言って聞かせて、穂波も隣の席に腰を下ろした。
    「……穂波ちゃん、ここはどうなるの?」
    「そこは方程式の応用ですから……」
     穂波に教えられながら、柚衣は頑張って問題を解いていく。
    「ね、これが終わったら帰りに甘味食べに行こうよ。教えて貰ったお礼に、私奢るよー!」
    「え、甘味は賛成ですが、奢りというのは申し訳なく……」
     柚衣の提案に穂波は言い淀んで首を傾げた。
    「でしたら御崎さんの分は私が奢ります」
    「ホント!? よーし頑張るー!」
    「では、少しペースを上げていきましょうか」
     やる気になる柚衣の姿に、穂波は思わず微笑んだ。

    「はっはっは、俺が大人しく宿題をすると思ったか、大浜・一徳27歳数学担当っ!」
    「弐之瀬、声、大きい。うるさ、い。みな、迷惑、する」
     大声で担任の先生に宣戦布告する秋夜を、リンがピシャリと制した。ちょっぴりしゅんとしつつ、秋夜はちらりとリンを見やる。
    「リンちゃん……その、宿題教えてくんない?」
    「……わたし、が、解る、わけ、ない……。でも、古典、なら、わかる」
    「……あんたすげえな。よし、じゃあ古典だけ教えてもらうぜ。それ以外は必死こいてやる! スイーツの為に!」
     気合を入れて、秋夜はとりあえず古典以外の教科に取り掛かる。
    「すいぃつ? 何、それ」
     リンが無表情のまま、ぱちくりと。
     一瞬間を置いて、ふと顔を上げた秋夜はおもむろにリンの頬に手を伸ばし、むにっと伸ばした。
    「……痛い、なに、する……」
    「いや、笑った方が可愛いと思って」
     リンの抗議に、そう明るく笑って返し、秋夜は上機嫌に宿題の続きに取り掛かる。

     宿題なんて灼滅されれば良いのに、と唸っていた狭霧。でも今日は先輩という頼れる存在がいる。
    「二人で手を合わせれば宿題だって直ぐに……」
    「そもそも俺教科書とか一切持って帰らなかったし宿題出てたとか知らないんですけどおおおお!!」
    「……って、センパイもしや教科書置いてきた?」
     頼れる……はずだった先輩、清純の叫びに狭霧の顔が青くなる。
    「漢は過去を振り返らない生きもの……」
    「……な、ならば仕方がない。此処はセンパイに犠牲になってもらって俺の宿題をね!」
     やたらカッコつけて遠い目をしてみせる清純。狭霧はそそくさと席について自分の宿題のプリントを広げた。
    「清純センパーイ、この問題がわからないんですけど……どうやって解くんでしたっけ?」
    「ええと、それはだな……」
     説明している風に言う清純の口から紡がれるのは、カッコイイ数式っぽく誤魔化したリア充灼滅の呪いの言葉。
    「……ん? そんな数式だったっけ」
    「ウサ、無問題だぜ☆ だってコレ俺の宿題じゃない」
     そしてこの、無駄にキリッとした笑顔。
     先輩に教えてもらうつもりがこんな羽目に。狭霧の本当の戦いはこれからだ!

     答えの桁がとんでもないことになっていて、宗佑の目玉は飛び出た。
    「……ち、違います、よね。うう、一問目から躓くなんて面目ないです……」
     そんな様子に気がついてか、日和は机に突っ伏してしまう。
    「そんな日和さんのために作ってまいりました……柏葉印の参考資料!」
    「! わざわざ作ってくださったんですか……! あああありがとうございます!」
     基礎のまとめをイラストつきで分かりやすく。日和は感涙した。

    ●勝利のお祝いおやつの時間!
     ついに、ついにその瞬間はやってきた。
    「おわッ……たぁー!」
    「拍手! すばらしい!」
     いえー、いえー、とハイタッチと握手を交わす日和と宗佑。そう、ついに冬休みの宿題を倒したのだ!
    「ひゃーできましたよ柏葉くん! ほんっとうにありがとうございますー!」
    「やー日和さんおつかれさま、たいへんよくできました!」
    「おやつにクッキーを焼いてきたので食べませんか? 豆助君と知和々ちゃんもおいでおいでー!」
    「すごい、わんこ型かわいい、食べるの勿体無……まめの食い意地すごい。誰に似たの。俺か」
     今までお留守番だった二人の霊犬達も、わんこクッキーにありつけて大喜び。
    「今日はありがとうございました。斑目さんも、頑張って下さいね」
    「私はガトーショコラ持って来ましたので、宜しければどうぞ」
    「辛口チョコレート引き、誰か挑戦しないっ?」
     羽千子から、野菜クッキーとおかき。蘭花からはガトーショコラ。そして猪子からはチョコレートの差し入れが!
    「うわん! ありがとー!!」
    「ありがとな、そういや、羽千子のクリスマスん時の菓子も美味かったぞ」
     まだ微妙に空欄のある宿題と戦っているスイ子と、それを厳しく監視していた香蕗もお菓子に手を伸ばして笑顔になる。
     二人がお菓子を食べるのを待ってから、羽千子はおずおずと香蕗を見やった。
    「あの、頑張ったので、私もバター飴いただいていいですか?」
    「おっ、そだな。お前も今日は頑張ったもんな!」
     ガサゴソとポケットの中からバター飴の袋を出す香蕗。その音に釣られて蘭花も顔を上げる。
    「バター飴……甘いのですか……?」
    「ああ、甘くて美味いぞ! ほれ、お前も食え!」
     バター飴をバラバラと配り始める香蕗。教室はすでにお菓子の祝勝会ムード満天だ。
    「良く噛んで食べると、でんぷんがブドウ糖になって頭の疲労回復になるんですねぇ」
     言いながら、手作りのスイートポテトを、流希は皆に配って回る。
    「頭を使うと、甘いもの、欲しくなりますよね」
     ひとつ貰って、読書感想文を何とか終わらせた想希もほっと一息ついた。
    「お疲れ様だったな。よかったらどうだ?」
    「ありがとな! 何か、今日は菓子食いにきたみたいになっちまったなー」
     ヴィランが勧めてくれるクッキーと紅茶を受け取って、香蕗はそう笑って返す。
     今日一日、皆本当によく頑張った!
    「はい、お疲れ。よく頑張ったな」
    「お疲れ様」
     無事に宿題を倒したクラスの仲間達を、桃弥とヴェリテージュが労う。
    「今日は、ありがとうございました……へへ、はりきって作りすぎちゃいました」
     一緒に頑張ってくれた仲間達に、由希子からクッキーとカップケーキの差し入れが!
    「やだぁ、由希子、有り難うっ!」
    「このお菓子見た目が可愛くておいしそう!」
    「ウフフッ、頭使った時は糖分が欲しくなるのよねぇ」
     可愛らしくデコレーションされたお菓子に、ついついいつもの男装スタイルを忘れて女の子に戻るロイ。そんな彼女を見やって伊澄もほのぼのと表情を和ませた。
    「サンキューな。美味いし十分な礼になったよ」
    「可愛い子の手作りなんて、より一層美味しさが増すよね」
     桃弥とヴェリテージュの男子組にも、今日の甘いお菓子の差し入れはとってもありがたい。
    「みんなお疲れ様! ね、この後どっか遊びに行こうよ♪」
     そんな中、椎乃はこっそりと、残党という名の未回答問題があるプリントを隠して誤魔化すように笑った。

     宿題との戦いに、見事、勝利を納めた灼滅者達。これでひとまず、平穏な日常が戻ってくるだろう。
     第二、第三の宿題という名の宿敵が現れるその時までは……。

    作者:海あゆめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月21日
    難度:簡単
    参加:26人
    結果:成功!
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