小正月を過ぎた時

    作者:柿茸

    ●それはただの噂話
    「あー、もう1月も半ばかぁ」
     いい加減正月気分も切り替えなくちゃなぁ。
     こたつでごろごろしていた大学生と思しき青年が、部屋に入ってきた母親の顔を見て身体を起こした。口から出るは疑問。
    「そういえば家の前に門松飾ってあったけど。あれ、いつ、どうやって処分すればいいんだ?」
    「15日の小正月よ。近くに神社あるでしょう?そこで焼いてもらうの」
    「えー、結構立派な奴なのに焼くのかよ。もったいないなぁ」
     思い浮かべるは玄関に飾ってある立派な門松。あれを片付けるのはまだしも、焼くとなると確かにもったいないという気分になる。
    「まぁ確かにそうなんだけどね。門松ってのは神様を迎えるための道しるべなの。めでたい期間を過ぎても飾っていたら、変なものや悪霊まで呼び寄せてしまうかもしれないじゃない? だからしっかり、神社で焼いてもらうのよ」
     どんど焼きっていうのよ。と付け加えて説明をする母親。
    「へぇー。母さん物知りなんだなぁ」
     用事があるからと再び部屋を出て行く母親の背中に向けて青年は声をかける。
     そして青年以外いなくなった部屋。再び寝転がった青年は誰ともなしに呟いた。
     悪霊、ねぇ……。
     
    ●教室
     「明けましておめでとうございます。というには流石に時期がもう過ぎてしまいましたか?」
     園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)は一礼をして、そして教室に集まった灼滅者達を、今一度、若干申し訳なさそうに見渡した。
    「ええと、皆さんに集まってもらったのは、お願いがあるんです……。都市伝説の実体化が予見できましたので、それを皆さんに灼滅してもらいたく」
     槙奈が知りえた情報によると、都市伝説が出現するのはとある長閑な住宅地。その住宅地の、ずっと飾りっぱなしの門松がある場所。
    「出現が予測された地方では、門松は粗大ゴミとして出すよりも近くの神社で焼いてもらう風習があるようですね」
     所謂どんど焼きと呼ばれるものだと言う。
     もちろん、粗大ゴミとして路上におかれる場合もあるのだが、その場合は塩でお清めしてから出すようにしている。たとえ路上に放置されていたとしても、お清めをしっかりしていたら都市伝説は現れないようだ。
     つまり、灼滅者達が取れる都市伝説への会い方は大きく分けて2つ。
     1つは、門松が飾ってある家に都市伝説が出るまで張り込むこと。都市伝説が現れる家は槙奈が察知してくれているのでどの家に都市伝説が出るか、捜索するのはそれほど難しくない。
     もう1つは、あえてお清めをしていない門松を持ち込んで路上や空き地に放置する方法。都市伝説は、家よりも路上に放置された門松の方に引き寄せられる。
     こちらの場合だと灼滅者達で、どこで戦闘するかを選ぶことが出来る。しかし門松を路上に放置する姿を一般人に見られたら、不審に思われるかもしれない。
    「えっと、都市伝説は、出現したら付近にいる人を無差別に攻撃します」
     その姿は、いわゆる幽霊に近いものらしい。ただし頭には三角頭巾ではなく代わりに門松が、そして首には注連飾りが巻かれている。
     そして都市伝説は配下として……有体に言えばカビてひび割れた鏡餅を連れている。ただし大きさは高さ1m程度。横幅もそれにあわせて大きくなっている。
    「幽霊のほうはつららを打ち出してきたり、注連飾りの縄を伸ばして辺りに張り巡らせて攻撃してきます。それと、門松から味方を癒す光を出すようです」
     それぞれ、妖冷弾、結界糸、祭霊光に近い性質の技という。
    「鏡餅のほうですが、こちらは餅の1つを射出してぶつけてきたり、餅全部がばらばらに分かれて周囲の敵を薙ぎ払ったり、……どういう原理か分かりませんけれども、蜜柑を乗せて回復したりします」
     鏡餅それ自体がリングスラッシャーのようなものなのか。リングスラッシャーのサイキックに近い性質を使ってくる。
     また、戦闘になると幽霊は鏡餅の後ろに隠れてしまう。幽霊に攻撃を当てるには先に鏡餅をどうにかするか、遠距離攻撃を使うしかない。
     そこで槙奈は一度言葉を区切り、深呼吸をした。どうやら説明は以上のようだ。
    「油断しなければ大丈夫だと思いますが……どうか、お気を付けてくださいね……」
     深々と一礼して、槙奈は灼滅者達を送り出すのであった。


    参加者
    野村・さやか(天奏音楽・d00162)
    桂・新一郎(ズラな上に桂だ・d00166)
    篁・凜(紅き煉獄の刃・d00970)
    王華・道家(フェイタルジェスター・d02342)
    垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)
    鷹峰・京護(中学生ファイアブラッド・d03729)
    不破・咬壱朗(高校生殺人鬼・d05441)
    アーナイン・ミレットフィールド(目に見えているものしかない・d09123)

    ■リプレイ

    ●夜明け前
     日が昇る前、長閑な住宅街の空き地にて、ヘッドライトをつけた数人の若い少年少女が作業にいそしんでいた。
     空き地に粗大ゴミを置いていく。傍から見たら不法投棄の集団にしか見えないことだろう。
    「……神社の息子としては、門松放置とかしたくないんだが……」
     複雑な表情をしながら鷹峰・京護(中学生ファイアブラッド・d03729)が譲ってもらった門松を設置する。
     この門松は清められていないため、都市伝説を呼び寄せるのに有効なはずだ。
    「まぁ、一般人の方に出ても困るし、後できっちり清めればいいか。それはそうとして、バベルの鎖があるとは言え、出来れば人が来る前に現れて欲しいな。関係のない人を巻き込みたくはないし」
    「ああ。年も明けたばかりなのに、都市伝説で人死が出るのは避けたいからな」
     力づくで消えてもらおう。と、粗大ゴミをさらに運ぶのは不破・咬壱朗(高校生殺人鬼・d05441)。
    「アーナインめとしては、灼滅対象を灼滅できればそれでいい話でございますけれども」
     ランプを腰に括りつけているアーナイン・ミレットフィールド(目に見えているものしかない・d09123)の台詞に、王華・道家(フェイタルジェスター・d02342)が道化のペイントを施した顔を向けた。
    「そーんなツマラナイこと言わないNO! それとも正月ボケなのカナ?」
     ウフフ♪ 正月気分は好きだけどホドホドにしておかないとNE☆ と決めポーズを作り、そして目線が集められていく粗大ゴミと門松に向かう。
    「けど、めでたい気分にさせてくれる、それに悪霊までも呼び寄せちゃうなんて門松って実はスゴイ!?」
     うっとうしいとまでいえるテンションでそんな未確定情報な話を振る傍ら、粗大ゴミはさらに持ち込まれる。
    「もうこんな時期なのに、門松の話とか聞くなんて思ってなかったんだよ。都市伝説が小正月を過ぎて人を傷つける前に、早く終わらせないと」
    「全くだね、鏡開きも過ぎたというのに。しかしこのご時世、お炊き上げに持っていかない家は多そうだ」
     垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)の言葉と、篁・凜(紅き煉獄の刃・d00970)のため息。
    「そういえば門松を飾る家も少なくなったみたいだね。でも門松があるとぴりっと引き締まる気がするよ」
     そしてそれに応じて、野村・さやか(天奏音楽・d00162)が配置し終わった門松と粗大ゴミの山を見て呟いた。これはゴミだけど、でも玄関先に設置された門松を見ると確かに新年を迎えたという気が引き締まる感じはする。
    「よし、と……。これで最後だな」
     そして、ここまでの道中、万が一、一般人に見られた場合に朝練と言い訳するためにジャージ姿になっていた桂・新一郎(ズラな上に桂だ・d00166)が額の汗を拭い、被っているソフト帽の位置を直した。

    ●空の端が光る
    「しかし、門松運んで放置、それを見張るとか滅多にない経験だな」
     空き地傍の物陰に隠れた新一郎がぼやく。もっとも、灼滅者として一般人を支配し、仇なす存在と戦っていれば滅多にない経験尽くめなのかもしれないが。
     隣では凛が旅人の外套を展開して待機している。ベルトにつけたライトのほか、毬衣から全員に配られたヘッドライトの調子も確かめていた。
    「ハイ! しんみり黙っちゃってつまらないよNE☆」
     こっちミテ~♪ とヘッドライトの明かりをつけて道家がどこからかジャグリングボールを取り出していた。
    「ちょ、道家さん」
    「ミッチー」
     いきなりのことに慌てた毬衣が慌てて呼ぶが。
    「はい?」
    「ボクのことはミッチーってよんで?」
     毬衣にニコリと道化の笑みを向けつつ道家が言う。その間も手元を見られていないまま、ジャグリングは続けられる。咬壱朗がほぉ、と横目でよくやるもんだと見て、直ぐに門松のほうへ意識を移す。
     辺りに人の気配はない、そして近づいてくる様子もない。だから放置しても構わないと思うものと。
    「……み、ミッチーさん。声とか出して人が来たらまずいよ」
     毬衣のように、それでも万が一を考えて抑えようとするものと。
    「ミッチー様。うっとおうしいでございます」
     アーナインのようにただうっとうしがるものがいた。
     アーナインの言葉を受けてチェー、としぶしぶジャグリングボールをしまう道家。丁度その時、門松付近で何かが動いた、いや、現れた。京護が素早く手に持ったライトのスイッチを入れる。
    「でたぞ」
     ライトに照らされ映し出された姿は頭部に門松を付け、首に注連飾りをつけた幽霊。その後ろからはカビた鏡餅も。まさしく予見された都市伝説の姿そのもの。
     それを認識すると同時に、灼滅者達は空き地の中に再び足を踏み入れた。
    「……しかし幽霊と言うよりも、正月飾りの九十九神って感じの姿だよなぁ」
     京護のそんな呟きを後に残して。

    ●夜明け空
     新一郎がソフト帽を投げ捨て、代わりに頭にワカメ、ではなくドレッドヘアのカツラを被せた。その行動の一瞬、誰かのライトに照らされて新一郎の頭がてかった。
    「キャッ☆ 眩しいNE!」
     わざとらしく道家が目を覆い、直ぐに傍らのライドキャリバー、MT5へと視線を移す。自分にはヘッドライトがあるがライドキャリバーは……。
     安心しろといわんばかりに響くエンジン音。大丈夫カナ~?
    「おいで、アタシの獣!」
     毬衣がスレイヤーカードを握り締め、解除コードを呟いた。内なる獣の力が呼び覚まされ、イフリートを模した着ぐるみの中、覗く目に獣が宿る。
     駆けてくる灼滅者達に幽霊が気がついたのか、振り向いた。合わせて凛が『斬魔・緋焔』と銘打たれた野太刀を抜き放つ。
    「我は刃!闇を払い魔を滅ぼす、一振りの剣なり!!」
     中段の構え、前に出てきた鏡餅に狙いを定め。
    「鏡開きされよ!」
     縦に重い一閃。干からびた餅の表面に大きくヒビが出来る。だが鏡餅も負けていない。衝撃に重ねた餅が崩れたかと思ったら、そのまま餅が高速で回転し、前衛陣を薙ぎ払った。
     回転が収まり、元通りに納まる鏡餅に向かい一歩踏み出したのは道家。手にオーラが収束し。
    「餅は調理しないとNE!」
     幾千もの拳の連打が叩き込まれる。フィニッシュのアッパーを放ち。
    (「さすがにこんだけ古いと美味しく無さそうだNE……」)
     そして拳に伝わってきた、氷かと言わんばかりの固い感触にそっと思った。
     浮いた鏡餅に、道家の後ろから飛ぶ獣の影。響き渡り鏡餅を震わせるさやかのデヴァーズメロディーに後押しされるように、巨大な狼の爪の如き無敵斬艦刀に炎を纏わせ、空中から地上に一気に切り落とす。
    「餅は焼かれるのがお似合いだよ!」
     素早くその場から離脱すると共にアーナインの制約の弾丸が餅を穿ち、MT5が容赦なく轢いた。
     新一郎の背中から炎の翼が顕現している間に、幽霊が注連飾りに手をかける。瞬間、一気に張り巡らされる縄。縄自体に何か力があるのか、それに触れた者達に焼けるような痛みが走る。
     だが、その縄を掻い潜り咬壱朗が鏡餅の後ろに回りこんでいた。鞘から、明け方の空気より黒い漆黒の刀身と蓮華が一瞬、現れ、次の瞬間納刀される。鏡餅の接地面を狙って繰り出された一撃が削り、鏡餅のバランスが崩れたところに、京護のレーヴァテインがその身を焼いた。
     これは辛いと言わんばかりに鏡餅の真上に腐った蜜柑が出現し、そのまま、既に乗っている蜜柑の上に乗る。何事かと新一郎が『GG -ヴォルペッカー』を構えるが、どうやらこれが回復らしい。なんだか硬くなった気がする鏡餅に凛と毬衣が黒死斬を放つのを見やり、遠慮なく引き金を引く。
     大量の弾丸を、一番下の餅を前に出し、盾として防いでいるかどうかも分からないが防いでいるのであろう鏡餅の後ろ、飛び退く凛に向けて幽霊からつららが射出される。避けれない、とせめて衝撃を少しでも減らそうと武器を構えたその前に、道化の後姿が飛び込んできた。
     盾となった道家の身体につららが突き刺さる。赤く染まる氷。それでも道家は笑いながら振り向いて。
    「凛くんにはこれがあうカナ?」
     肩越しに見せられた握り拳を作った右手には赤い布が乗せられている。それを左手で拳の中に押し込み、くるりと手を回す。
     流れるような動作の後、道家の右手には赤い薔薇が握られていた。戦闘中に、それも自分を庇った直後に行われた手品に一瞬呆れるが、直ぐに凛は不敵に笑う。
    「そうだね。だが、残念だけど」
     手持ちはたくさんあるからね。言いながら懐から出された凛の左手には、薔薇が3本。
    「大丈夫!? ヒールするよっ」
    「ダイジョ~ブ♪ でもサンキューNE!」
     それでも凛に薔薇を投げ渡し、道家はリバイブメロディを歌うさやかにウインクを送って大きく踏み込む。MT5の弾丸を避けた鏡餅に燃える斧が叩きつけられた。
     アーナインの生み出す赤きオーラの逆十字から逃れるように跳ねた鏡餅の下、京護が拳に雷を宿し潜り込んでいた。
    「砕くっ」
     下からの雷の拳にバランスを崩し、横向きに地面へと落ちてもなおばらばらにならず形を保つ鏡餅に、咬壱朗がガンナイフ片手に走り寄る。
    「エンチャントの元は……それか」
     狙い違わず先程乗せられた蜜柑をナイフが貫き、零距離からの発砲。汁を撒き散らし蜜柑が消滅する。
     己を焼く炎に身を焦がされる鏡餅。内側からの膨らみに表面のヒビが広がったところに、爆炎の魔力を込めた大量の弾丸がその身を穿つ。
    「見た目は鏡餅だが、中身まで餅なのか?」
     煙ではなく炎をあげる銃口を、素朴な疑問とともに振って炎を消す新一郎の眼前で、鏡餅はいよいよ耐え切れなくなったのか、穿たれた銃創やヒビから破裂しながら消滅した。
    (「中身まで餅だった」)
    「ぜぇぇぇあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
    「かわいそうだけど、今は鎮まって!」
     疑問の答えを目にした新一郎の隣を、壁となる鏡餅がいなくなったことでさやかの援護を受けながら凛が踏み込む。マジックミサイルをその身に受けつつも、薙がれる炎の刃を後ろに下がって幽霊は避けた。注連飾りが再び伸びる。
     だがその前に、京護が朱の華が刀身に飾られた日本刀を構え踏み込んでいた。
    「堕ちたる魂、その悪しき縁…絶ち祓うっ」
     悪しき縁を断ち切らんとする雲耀剣。重い一撃を受けながらも注連飾りは伸び続け、京護を、迫る灼滅者達を押し返さんと縄の結界が出来上がる。縄の向こうでニタリと幽霊が笑ったような気がした。
     だがそれを確認するよりも早く。
    「楽しゅう御座いますか。アーナインめは、楽しゅう御座いますよ」
     アーナインの指輪から放たれる弾丸が身を抉り、身体の動きを鈍くする。そこへ放たれたオーラが2つ。
    「楽しイ? そりゃイイネ!」
    「小正月も、もう終わりなんだよ」
     両手を突き出した体勢の毬衣と道家。その後ろではアーナインが無表情に口の端を吊り上げていた。彼なりに楽しいのか、笑っているらしい。
    「む」
     幽霊の視線に咬壱朗が気がつく。駆け出しながらガンナイフを構え、撃つ。MT5の機銃掃射音が響き、同時に幽霊がつららを撃ち出していた。
     毬衣の前に躍り出た咬壱朗につららが突き刺さり、曲がった銃弾が、機銃掃射と共に避けたはずの幽霊の身体を穿つ。互いに痛い一撃となったらしく、咬壱朗は表情を変えぬまま口の端から血を一筋。そして幽霊は声なき絶叫を発した。
    「ありがとう、大丈夫なんだよ」
     即座に毬衣が祭霊光で回復させる。アーナインもちらりと咬壱朗の様子を見やって闇の契約を施し、さらにさやかのリバイブメロディが響き渡った。
     その間に京護が再び雲耀剣を放ち、道家がシールドを展開して殴りかかるが、これは避けられる。だが、その後ろに回りこむ2つの影。
     凛と、そしていつの間にか咬壱朗が幽霊の後ろに回りこんでいた。振り向く幽霊に向け放たれる2つの黒死斬。
     辛うじて野太刀の一撃は避けるが、漆黒の一撃を避けきれない。身を切り裂く斬撃によろめいた幽霊を、新一郎の放った大量の弾丸が穿った。
     MT5がエンジンを吹かし、遠慮なく全力で幽霊を撥ねる。
    「魔法の矢よ……当たれ!!」
     念をこめて放たれたさやかのマジックミサイル。それに貫かれさらに吹き飛ぶ幽霊の落下地点。凛が、走りこんでいた。
    「煉獄の炎よ……」
     振り向き、大太刀を構える。緋焔と銘打たれた刀が炎に包まれ、ロングコートをより赤く照らしながらはためかせる。
    「その妄執を、焼き砕けッ!!」
     炎が翼を形作る。一歩踏み込み、その炎の翼を背負いながら、凛は幽霊を焼ききった。
     炎に包まれながら、幽霊がもがき、消えていく。

    ●日が昇る
    「お疲れさん。冬は頭が寒くて困る」
     戦闘が終わって直ぐに、新一郎がカツラを外しソフト帽を被りなおしていた。隣では凛が幽霊が消えた場所に向かって薔薇を放り投げていた。
    「来年も、なんていうのは願い下げだね。今年限りにしてくれたまえ」
     それはおそらく、この場にいる一同が思っていること。
     餅の代わりだ、と放り投げた薔薇へ言う凛の言葉を受けて、咬壱朗がそういえば、と呟いた。
    「今年は餅を食っていなかったな。帰ったら焼くか」
    「あ、餅を焼くと言えば」
     毬衣が地図を広げた。指し示すのは今いる場所から程近い位置にある神社のマーク。
    「この近くの神社でどんど焼きやるんだって。折角だし行ってみない?」
    「どんと焼きするんだね。いいアイデアだと思うよ♪ そだ、お餅を用意しようか♪」
     毬衣の提案にさやかが喜んで乗る。後で門松を清めるつもりだった京護も、それはありがたいなと同意した。
     さらに、深く頭を下げてそのまま退散しようとしたアーナインの襟を掴んだ道家が。
    「イイネ! どんと焼きで綺麗サッパリ!」
     明らかに鬱陶しがる目で振り向いてくるアーナインに、道家は有無を言わさず引き摺って歩き出した皆についていく。枯木の如き痩躯は力なく、引き摺られるがままにされるしかない。
     空き地を出たところで、京護が振り向いた。
    「……お疲れ様」
     誰ともなしにそう呟いて、京護は急いで皆の背中を追っていった。

    作者:柿茸 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年1月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 7
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